薬学教育
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特集:COVID-19パンデミック下での薬学教育~レジリエントな教育システム構築に向けて~
2020年度薬学部新入学生へのオンライン教育
―学部への信頼と帰属意識をどう育てるか?
安原 智久串畑 太郎上田 昌宏栗尾 和佐子曽根 知道
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2021 年 5 巻 論文ID: 2020-058

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抄録

新入生は,単に学力的な教育をうけるだけではない.高校生から大学生への転換を自覚し,自律的な学習活動姿勢を身に着けていく過程である.ディスカッションやプレゼンテーションなどの能動型学習へ挑戦し,成功体験を得ることで積極的な学習習慣を育んでいく期間である.この期間の教育は,新入生の大学への印象を大きく左右する.自らの大学への帰属意識や満足感を持つかどうかは,この時期に提供される教育の質に大きな影響を受けると考えられる.入学直後に学生が持つ学部への印象は,学習への取り組みを高次学年に及ぶまで左右する要因になり得る.以上,新入生へ入学後に提供する教育は,単なる基礎学力の養成だけではなく,薬剤師を目指す学習意欲を育むうえで極めて重要となる.COVID-19の影響により,新入生が経験するはずであった学習面以外での大学からの支援が,基本的にすべてオンラインとなった環境でどのように展開していったかを記していく.

Abstract

Upon entering university, first-year students do not merely receive academic education. Rather, they experience a process of becoming aware of the shift from being high school students to university students and acquiring an autonomous learning attitude. Further, this process enables them to develop active learning habits through challenging discussions, presentations, and so on, thus gaining successful experience. During this period, education greatly affects the impressions of first-year university students. Their sense of satisfaction and belonging to their own university can be significantly influenced by the quality of their education. Students’ impressions of the faculty after enrollment can affect their learning motivation, which lasts until the upper grades. The education provided to first-year students after enrollment is critical in training for basic academic abilities as well as developing the motivation to learn to become a pharmacist. We will describe how the support that first-year students should have received from the university, in addition to academic learning, was developed in an exclusively online environment due to the COVID-19 pandemic.

緒論

2020年度の大学教育は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によりこれまで我々が経験しなかった対応が求められた.COVID-19の病態や感染学上の特徴,社会学的な影響に関しては,専門の著書等に委ねることとして,本論文では,摂南大学薬学部の新入生への大学側の対応とそれに対する学生の反応,教員の反応を記録として残すこと,薬学教育に携わる方々と共有することを主たる目的として執筆したい.COVID-19の影響によるオンラインを主体とした教育1) は,本論文を執筆している2020年9月現在も継続しており,前期に実施した教育に関する十分な検証も行えていない.また,学生の学習成果に関する測定も,同様に試行錯誤の途中であり,今後,詳細な検証が必要である.そのような状況ではあるが,各大学での取り組みを飾ることなく記録し事実を残していくことは,薬学教育における貴重な資料として,次の教育の転換を支えることは間違いない.そのような観点から,科学的な解析と考察は改めて検討することとし,ありのままの教育の試行錯誤を書き残したい.

大学入学後の新入生への対応は,単に学力的な教育を行うだけではない.高校生から大学生への転換を新入生に自覚させ,能動的な学習の必要性を実感させるとともに,課題や授業に関する高校と大学の考え方の違いにも慣れさせていき,自律的な学習活動姿勢を身に着けていく過程でもある.加えて,大学に入学した期待やモチベーションやこれまでと違う学びが待っているという本人が持つ気持ちをうまく活用して,ディスカッションやプロダクト作成,プレゼンテーションなどの能動型学習への挑戦を促し,成功体験を得させることで今後の学習習慣や姿勢を育んでいく期間でもある.また同時に早期臨床体験での施設の訪問や薬剤師の講演を聞くことで,臨床現場で活躍する薬剤師に初めて接し,医療従事者となる途に立ったことを自覚し,プロフェッショナリズムを獲得する第一歩となる貴重な時期である.近年の本学では,筆者らの研究室が中心となり,物理・化学・生物などの基礎科目と連携しながら,薬剤師としての入門教育,早期臨床体験2),small group discussion3) などの能動型学習,各種演習科目4) などをデザインしてきた.一方,この期間の教育は,新入生の入学した大学への印象を大きく左右する.自らの大学,学部への帰属意識や満足感などを育めるかどうかは,この時期に提供される教育の質に大きな影響を受けると考えらえる.入学直後に学生が持つ学部への印象は,今後提供される教育への取り組み方を,高次学年に及ぶまで左右する要因になり得ると考えられる.以上のように,新入生へ前期に提供する教育は,単なる基礎学力の養成だけではなく,薬剤師を目指す学習へのモチベーションを育むうえで極めて重要となる.COVID-19の影響による学力的な観点での教育成果も懸念されるが,本来,新入生が経験するはずであった学習面以外での大学からの支援が,基本的にすべてオンラインとなった環境でどのように展開していったかを記していく.

なお,本報告中に,個人を特定する情報を排除した統計学的データを薬学教育に携わる場で公開共有することの同意を得た範囲で,学生から収集したアンケート結果の一部を掲載している.

背景

2020年の2月~3月中旬頃は緊急事態宣言も出る前であり,社会全体的な楽観も合わさって,対面での授業が行える状況が戻ってくると期待していた.本学における対応を抜粋して公表日時を基準に時系列的に,大阪府における緊急事態宣言の推移とともに記す.

2月27日:不要不急の外出および海外渡航の自粛要請

3月17日:感染および感染が疑われる場合の行動指示

3月21日:留学中の学生への帰国指示

3月23日:前期授業の開始を4月20日に延期

4月3日:学生のサークル・課外活動の禁止

4月7日:政府による緊急事態宣言

4月8日:前期授業の開始を5月25日に延期

4月15日:実習等の一部を除いた授業のオンライン化を発表

5月1日:遠隔授業の受講案内を学生向けに公表

5月4日:緊急事態宣言の5月末までの延長

5月25日:緊急事態宣言解除

早期から授業のオンライン化を決定した大学もあり,報道や個人的なつながりから得る情報に比べると,オンライン授業への対応が遅れているのではないかという不安が末端の教員には感じられ,早く決めてほしいという焦りを感じることはあった.実際には,大学本部では様々な検討が重ねられており,遠隔授業ワーキンググループが組織され,各学部のニーズをくみ取りながらも,総合大学としてのルール作りと体制整備の難しさと奮闘していた.学生向けには,各学部が工夫を凝らした特設サイトを作成し,情報発信を行い学生の不安解消や修学支援に尽力した.

授業を基本的にオンラインで実施することが発表されたが,薬学部では新入生ガイダンスを少人数に分散した上で対面にて行うことを計画していた.これは,前述の通り,新入生に会うということが教育上非常に重要な意味を持つと考えていたからである.結果的には,COVID-19の拡大は収まりを見せず,新入生ガイダンスもオンラインでの実施への変更になったが,この方針自体は間違っていなかったと筆者らは今でも考えている.

新入生事前調査

例年,新入生への連絡や事務手続き,キャンパスや大学が提供するICTシステムの利用の案内は,履修案内も含めて入学式前にキャンパスで行う新入生ガイダンスで実施していた.しかしながら今年度は入学式も含めて4月はキャンパスを封鎖し,学生の登校を原則禁止としたため,従来対面で説明をしていた内容を記載した資料を郵送し,学生の自主性に委ねる形となった.すでに大学とのICTツールによる連絡手段が確立している上級学年の学生に対しては「大学からの公式の案内を見てください」という手段が取れるが,すべてが初めてとなる新入生に対しては同様の方法は通じない.まずは,大学からの連絡を受け取れているかを個別に確認し,新入生個人に紐づいたオンライン環境の把握が必要である.そこで,我々は新入生個人に紐づいたICT環境に関する調査もかねて,大学から書面で案内済みの公式連絡ツールを用いて,ICT環境に対する学部一斉調査を行うことと,そのためのGoogleフォーム®のURLを通知した.加えて,公式連絡ツールによるICT通知から数日あけて,郵送による同内容の通知を行った.加えて通知した入力締め切りまでに複数回の公式連絡ツールからのリマインドを繰り返した.締め切り後にGoogleフォームへの回答がなかった新入生は235名中6名であり,この学生には,担当教員から自宅に電話を行い,公式連絡ツールや大学からの郵送物の確認の有無等をチェックした.若干名ではあるが,大学からの郵送の連絡も確認していない学生が存在した.

事前調査結果の一部抜粋を図1に示す.自宅にパソコンがない学生は3.7%であり,またスマートホンを所有してない学生はいなかったため,本学の新入生対応は,パソコンを基本としつつスマートホンでの代替性を確保すること,連絡はすべてスマートホンで可能なICTツールにより可能であることが担保された.現時点でMicrosoft Word®,Excel®,PowerPoint®が使用可能な学生はそれぞれ67%,67%,59%であったが,本学では学生全員にOffice365のライセンスが付与されるため授業で用いる基本的なソフトウェアについては問題がないと考えられる.

図1

新入生事前調査結果

コミュニケーション手段の確立

平時であれば,大学から学生へのICTを介した連絡は,公式連絡ツールを用いることが原則となっており,学生は公式連絡ツールの確認を毎日することが求められ,ツールの転送機能を用いて個人のメールアドレスに内容を転送して大学からの連絡を逃さないように努めている.しかし,今年度の新入生に関しては,公式連絡ツールに不慣れな状態であるにもかかわらず,登校時に直接コミュニケーションをとって伝達をしつつ,公式連絡ツールの確認を厳にするよう指導することもかなわない.その様な状況のため,大学からの情報発信は学生の生活に根差したツールを選択する必要があると考えた.前述の事前調査の中で,大学から提供される公式のメールアドレス以外の自分が汎用するメールアドレスも尋ねたが,近年の若者世代の通信手段としてメールは中心的な方法ではない.また,1対多数の情報発信にメールは向かない部分がある.そこで,今年度は,若者世代が用いるSNSを活用した情報伝達を検討した.コミュニケーションの中心的なツールはLINE®であるが,LINE®は原則として一人につき1アカウントでありプライベート性も高く,大学側に知られたくないという意識も強いと予想できる.そのような観点から,匿名性が高く大学との連絡用の専用アカウントを容易に作成できるTwitter®を活用することとした.新入生向けの情報発信用のTwitter®アカウントの周知は,上記の新入生事前調査に併記して行った.2020年9月末の時点でフォロワー数は221アカウントに達している.これらすべてが本学の新入生とは限らないが,相当な数の学生がTwitter®を介した情報発信が利用可能な状態になっている.

本学のオンライン授業はMicrosoft Teams®を基本として行うことになっている.Microsoft Teams®には登録ユーザー間でメッセージを取り交わすチャット機能があり,授業情報の確認と同時に教員からの連絡や教員への質問に活用でき,スマートホンアプリには授業更新情報とは独立した通知が出るため,薬学部新入生の間ではオンライン授業における連絡手段の中核として機能していた.しかし,このチャット機能による学生間でのトラブルや,教員と学生間のミスコミュニケーションが発生し,これらの問題を防ぐため,大学本部で検討を重ねた結果,このMicrosoft Teams®のチャット機能が,オンライン授業開始の2週間後である6月8日に停止され,学生の連絡・質問は公式メールを基本とすることとなった.筆者の個人的な印象では,効果的なコミュニケーションツールであり活用しながら授業を運営していたため,停止に反対であったが,チャットツールに対する学部間での意見の差が大きく,総合大学という大きな組織での非常事態における意思決定の難しさを感じた場面であった.

やむを得ない決定ではあったが,事前調査からもメールを問題なく使用できる新入生は20%程度であり学生との連絡に大きな影響を与えることとなった.チャット機能の停止にともない薬学部新入生に対して行った緊急アンケート(匿名・回答数142名)では,65%の学生がチャット機能を「かなり使っていた」,「それなりに使っていた」と回答し,チャット機能制限は教員との連絡という観点で68%の学生が「かなり困る」と回答し,機能停止に対して86%の学生が「納得できない」と回答した.代替手段としては50%の学生がLINE®を希望したため,この時点で我々はLINE®公式アカウントを取得し,学生に教員への連絡手段の一つとして周知した.2020年9月末の時点でLINE®公式アカウントには116名の友達が登録されている.

オンライン授業の開始前後から,Twitter®へのダイレクトメッセージやリプライ,LINE®により様々な質問等が1日20件ほど寄せられた.担当する授業への質問もあったが,オンライン授業開始当初は,大学の手続きや制度,授業参加方法,各種ICTツールの使用方法に関する質問が圧倒的に多く,新入生にとって相談できる窓口が不足していたと考えられる.これら,Twitter®,LINE®,メールへの質問は,授業が進むにつれて授業内容への質問の割合が増えていった.

新入生ガイダンス

当初予定していた対面型新入生ガイダンスは,新入生235人をまず,5月20日,22日の2日に分散し,両日に集合する学生を3グループに分け,「ガイダンス(学部長挨拶,事務室からの連絡と各種手続き)」,「教科書等の販売」,「オンライン授業で使用するICTツールのトレーニング」の3つのプログラムをローテーションさせる計画であった.1プログラムあたりの学生数は40人以下,学生収容教室定員の3分の1~10分の1にし,マスクやアルコール消毒,換気といった感染対策にも留意した準備を行ってきた.開始・終了時間も各グループでずらし,登下校時のバスも混雑しないよう十分なシミュレーションを行った.現在の知見から振り返っても,決して無理のある計画ではなく,後期から再開した部分的な対面授業の実施内容よりも慎重なものであった.しかしながら,当時は,どこまでの感染対策でどれだけの感染予防が達成できるのかという科学的な解析も少なく,社会的に大きな慎重論や学生,保護者の不安と対面でガイダンスをすることの教育的効果のバランスを客観的に評価することもできず,対面型ガイダンスは中止とし,同一日程でのオンラインガイダンスへと変更した.

オンラインガイダンスでは,通信の混乱を防ぎ,学生からの質問等に対応するため2日に分散して参加人数を減らしたうえで,1. 学部長の挨拶,2. 事務室からの連絡,3. ICTツールのトレーニングをリアルタイム配信で行った.1. および2. のライブ配信内容はオンデマンド形式の動画として公開をし,ガイダンス欠席学生への対応とする一方で,我々のライブ配信,動画作成と公開のシミュレーションとした.3. では,今後の授業での利用を予定しているMicrosoft Teams®での情報共有や教材提供,Microsoft Stream®による動画視聴,Microsoft Forms®およびMoodle®での小テスト,課題演習,ファイルの提出などを模擬的に設定し,学生に取り組ませて操作の確認やトラブルの抽出を行った.

ガイダンス後,1年次の科目を主として担当する複数の教員と学部事務職員が学生からの質問等に応じる時間を設けた.学生はチャット機能を用いて入学前の疑問を質問し,ライブ配信により教員もしくは学部事務職員が回答を行った.この質問対応は自由退室制として質問のない学生はライブ配信を任意に切断してよいこととし,回答も新入生の緊張や不安を取り除くために努めてフランクに答えるようにした.

オンライン自習室の開設

定期試験が近付くと,一部の新入生のなかにオンラインで相談をしながら勉強をするグループが現れた.当初,新入生グループは様々な無料のオンライン会議ツールを用いていたが無料ゆえの制限が多く,教員に対して「授業で用いたオンラインディスカッションのような仕組みで自由にグループが使える自習室がほしい」との申し出があった.申し出を受けて,大学から提供されているアカウントを用いて最大同時に10グループが自由に使用可能なオンライン自習室を開設した.授業内で実施したオンラインディスカッションのために設定した場所で学生が深夜に及ぶまでディスカッションを行い,授業時間を逸脱した学生の活動に対して保護者から指摘を受けた経験から,このオンライン自習室の利用時間を大学の施設使用時間に準じて8時~22時とした.従来であれば,大学の自習室や空き教室で同級生と勉強をし,教えあう相互教育が成立していた.また,グループの中で積極性の高い学生が,担当教員に質問をし,理解を得てグループ学習に戻り,グループで教える側に回るという理解の拡散が期待できた.オンライン化により大学施設を利用した試験勉強がなくなったため,これらの学生同士の自発的な相互教育が消失した.オンライン自習室はこれらを部分的に実現可能であると思われる.

オンライン自習室は,開設日から新入生235名のうち105名が登録し,最終的には144名の登録に至った.開設日から,いくつかのグループが活用し,定期試験終了の前々日である18日目までで,累計58グループ207人が,193時間,グループ平均で1回あたり約4時間のグループ学習を行った(表1).期末試験前まで活発に利用されていたオンライン自習室は,本試験終了後からは使用がほぼなくなり,再試験対象者が利用している様子はなかった.若干の使用実績があるが,これらは特定のグループが後期授業に向けた予習会を行ったものである.

表1 オンライン自習室の活用状況
登録者 グループ数 延べ人数 人/Gr 時間 時間/Gr 備考
1日目 105 4 14 3.5 8:32 2:08 開設日
2日目 114 4 13 3.3 17:28 4:22
3日目 118 4 14 3.5 17:26 4:21
4日目 122 3 9 3.0 13:50 4:36
5日目 128 5 16 3.2 11:16 2:15
6日目 130 1 5 5.0 3:39 3:39
7日目 136 4 15 3.8 13:41 3:25
8日目 137 1 4 4.0 3:15 3:15
9日目 139 3 12 4.0 19:07 6:22
10日目 141 4 14 3.5 15:01 3:45
11日目 141 2 10 5.0 10:18 5:09 期末試験初日
12日目 142 2 9 4.5 10:37 5:18
13日目 142 6 24 4.0 3:59 4:39
14日目 142 4 13 3.3 12:34 3:08
15日目 142 4 11 2.8 14:17 3:34
16日目 142 4 10 2.5 16:22 4:05
17日目 142 1 3 3.0 2:51 2:51
18日目 143 2 11 5.5 10:29 5:14
19日目 143 0 0
20日目 143 0 0 期末試験最終日
21日目 144 0 0
22日目 144 0 0
23日目 144 0 0
24日目 144 0 0
25日目 144 1 2 2.0 2:05 2:05
26日目 144 1 2 2.0 0:48 0:48
27日目 144 0 0
28日目 144 0 0
29日目 144 0 0
30日目 144 1 2 2.0 2:31 2:31
31日目 144 1 2 2.0 1:52 1:52
18日目までの累計 58 207 3.6 193:06 3:56
31日目までの累計 62 215 3.5 200:16 3:14

まとめ

以上,COVID-19流行下での本学の新入生に対する授業以外のオンライン支援を紹介した.授業のオンライン化により,学力の向上に対する懸念はもちろんある.しかしそれ以上に,新入生固有の問題としての,自らの大学,学部への帰属意識や満足感をいかに高めるか,そしてそこから繋がる学習へのモチベーションや薬剤師への憧れ,薬学部で学ぶことへの誇りをどのように育むかに大きな懸念があった.学生たちが自分の入学した大学は,厳しくはあるが,自分たちを真に薬剤師として勉強以外のことまで含めて育てようとしてくれているという実感を,新入生に持たせることができたかどうかその結果はまだわからない.一方で,後期の授業が始まり,一部の授業で十分な感染対策を行ったうえで,対面型授業を再開した.前期授業でオンライン教育を経験した学生からは,単純な知識教育に対して対面型授業の必要性を疑問視する声も聞こえてくる.そして,その疑問はオンライン教育を経験した者の声として理に適っていると感じる部分も多い.これらの声と学習成果を合わせた検証が必要である.社会が図らずとも新しい環境と価値観を強いられ,その元で行われたオンライン教育ではあるが,だからこそこの機会を生かし,オンライン教育の利点や欠点,オンライン教育で実現可能なこと,対面での教育が理をもって必要だといえる教育領域を明確にしていく必要がある.我々は,これらの命題に対して,薬学教育研究の使命として積極的に取り組んでいかなくてはならない.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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