薬学教育
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特集:COVID-19パンデミック下での薬学教育~レジリエントな教育システム構築に向けて~
Small group discussionはオンラインで代替可能か?
上田 昌宏安原 智久串畑 太郎栗尾 和佐子曽根 知道
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2021 年 5 巻 論文ID: 2020-059

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抄録

COVID-19の影響により対面授業が大きく制限され,すべての科目において学習方略の変更を余儀なくされた.本学は,コミュニケーションを育む上で特に重要な時期である1年次,4年次に,small group discussion(SGD)を伴う科目を多く設定している.そのためSGDを実施しない選択は,コミュニケーション能力を醸成する機会を失い,教育効果に大きな影響を与えると考えられる.そこで,複数の科目において,オンラインSGDを試みたので,その運用方法や方略を記す.さらに,ピア評価から得られた結果から,評価基準が発言頻度に大きく依存し,非言語コミュニケーションは評価の対象になる程には発揮されなかったものと推測される.SGDの本質的な役割は,非言語を含んだコミュニケーションを通じての問題解決能力を養うものである.詳細な検証を行えていないことに留意しつつも,本質的な意味でのオンラインSGDがもたらす教育効果は,対面でのSGDと同等なものになりえないものと考えられる.

Abstract

The impact of COVID-19 has greatly restricted the implementation of face-to-face classes and forced changes in learning strategies in all subjects. Our university has a large number of courses that involve discussion in the first and fourth years, which are important periods for fostering communication. Therefore, we felt that if we chose not to have discussions, students would lose the opportunity to develop their communication skills, which would have a significant impact on educational effectiveness. Therefore, we tried to use online discussions as much as possible, and the methods and strategies for using them are described. Based on the results of peer evaluation, it can be assumed that the evaluation criteria depended heavily on the frequency of utterance and that non-verbal communication was not observed to the extent that it could not be evaluated. The essential role of SGD is to develop problem-solving skills through communication, including non-verbal communication. Although a comparison of the educational effects of face-to-face and online discussions could not be comprehensively performed, the educational effects of both discussion types essentially suggest that online discussions do not provide a better educational effect than face-to-face discussions.

緒言

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は,教育へ大きな影響を及ぼし対面授業の実施を困難にさせ,対面での教育からICTを活用した遠隔での教育へと大きく転換させた1,2).知識の獲得を目指す講義科目は,リアルタイム配信やオンデマンド配信となった一方で,small group discussion(SGD)を伴う知識の応用を目指す演習科目はレポートあるいはオンラインでのSGDへの変更を余儀なくされた.本学の背景として,SGDを用いた演習は1年生と4年生の科目が多く設定されている.また,ICTを活用したオンライン教育は進んでいない.知識の伝達については,従来の講義をインターネットによる配信で受講することが可能である.その一方で,演習科目は大きな制限を受けるため,実施に工夫が必要とされた.レポート課題による代替案を導入する科目もあったが,知識の再生や応用は,講義といった伝統的な教授法よりもSGDを中心としたPBLが有効であることが報告されており3),オンライン教育に移行したとしてもSGDを行う必要があると考えられた.さらに,薬剤師となって必須であるコミュニケーション能力を6年かけて育む必要があり,この足止めは成長を著しく阻害し,質の高い薬剤師輩出の大きな負の因子になりうるだろうと考え,オンラインSGDの導入を試みた.

本稿では,今回オンラインSGDを導入した科目の実例やトラブル例を交えながら紹介する.また,2019年度と2020年度のピア評価を比較し,対面でのSGDとオンラインSGDでの学生が行う評価の傾向の違いについても述べる.なお,現在,医学教育で行われたオンライン演習の取り組みが報告されている46) が,我々が実施した時に報告はなく,手探りの状態で進めた.なお,本報告は,摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会の承認(承認番号2013-019)に基づいて,統計学的なデータの利用・公開について同意した学生を対象として行う研究活動のデータの一部を含んでいる.

オンラインSGDの実施

本学はチームコラボレーションツールのMicrosoft Teams®を契約しており,1学年約220人の6学年全員が利用可能である.COVID-19によりすべての科目がオンライン教育に移行し,本ツールを主として教育を行っている.1科目に1チームが割り当てられ,学生は自身で履修している科目のチームに登録する.チーム内の部屋(チャネル)は科目担当者が自由に設定でき,チャネル内にSGDの会議の設定や,課題提出先のリンクを載せるなどの運用が可能である.オンライングループワークは,各科目のチームとは別に共通のSGD専用チームを学年ごとに作成し,学生が登録できるように誘導している.科目のチーム内(例.薬剤師になるために)に全体講義で使うチャネル(例.授業実施)を作成し,全体講義用のビデオ会議を全体会場として設定した.SGDチーム(例.1年生用SGDルーム)には,グループ数と同じ数のチャネル(例.Gr_XX)を作成し,各チャネルにSGD用のビデオ会議を設定する運用とした(図1-1).実際の学生のチャネル間の移動を図1-2に示す.それぞれの科目チーム内にSGD用チャネルを設けなかった理由は,科目に多くのチャネルが乱立することによる情報の見落としや,学生がどのチャネルに入ればよいのかわかりづらくなり混乱することを回避するためである.またSGDチームにチャネルを集約することで,教員による管理が円滑に行える点である.各科目において,当日の内容の意識付けや出席確認を目的とし,授業開始時に全体会場に学生を集めて説明を行った後に各SGD部屋に移動し,演習を進め,必要に応じて各SGD部屋から全体会場に移動する.SGDを行っている間は,マイクとカメラをオンにするように指示し,カメラオフでの参加は,SGD時の様子が確認できずパフォーマンスの評価が困難になる場合があることを周知した.なお,自宅の通信環境やカメラ機能のないデバイスが原因でカメラをオンにできない学生は,大学の情報処理演習室での受講を認め,カメラを使用するように促した.各SGDの部屋に教員が五月雨式に入り,パフォーマンス評価を行った科目もあるが,グループ学習中の様子を常に教員が観察することが難しい場合は,録画することでパフォーマンス評価を担保した.本学は1コマ90分であるため,全体会場での説明は10分程度で終える内容とした.

図1-1

Microsoft Teams®の仕様

図1-2

演習内の学生の移動

1.1年次通年科目「薬剤師になるために」

従来,薬剤師の基本的な事項,必要な資質の第一歩をパフォーマンスから評価する科目である.SGDを含む参加型学習を主とし,本学の看護学部1年生100人との合同学習(IPE)も含まれている.グループ編成は4–5名を1グループとし,全体での説明を含めた3コマ×4回のオンラインSGDを行った.1回目は全員を対象に,2回目は学年を2分割し,IPEである3,4回目は看護学部を含めて学年を2分割して実施した.1回目の演習は,本学のオンライン教育ツール・システムの使用や,オンラインSGDの実施が初めてであることを想定し,システムに慣れ,会議に円滑に入ることでSGDを成立させられるような練習会を設けた(表1-1).学生は全体会場で教員から概要の説明を受けた後,割り当てられた各SGDの部屋に移動,会議に参加し,自己紹介を交えたアイスブレイクを行った.全員の参加を教員が確認し,参加できないトラブルもなく終えられた.2回目の演習は,予習をした問題をグループで取り組み,合意形成しながら問題解決方法を立案するSGD1を実施し,解決方法についてグループプロダクトの提出を課した.従来の対面型演習であれば,SGD後にグループプロダクトを提出し演習終了としていたが,今回,演習日から1週間後までにプロダクトを提出するよう期限を設け,演習後のSGDを認めた(表1-2).これはオンラインSGDとなったことで施設の使用制限がなくなったことから,演習後に自発的にSGDを行える環境にあったためである.その結果,約半数のグループが追加でSGDを行い,自身らの納得いくまでプロダクトを作成した.しかし,実施時刻に制限を設けなかったことから,夜間にSGDを行おうとしたグループが現れ,生活習慣の乱れに繋がる懸念が生じた.3,4回目の演習は,IPEとしてSGD中にMicrosoft Excel®シートを共有しながらプロダクトを作成して提出する方法(表1-3)や,Microsoft Streaming®上で動画を視聴した後に各SGD部屋に移動,会議に参加しSGDを行う方法(表1-4)などを試みた.看護学部1年生は,今回が初めてのオンラインSGDにも関わらず,トラブルなく参加し円滑にグループワークをすすめられた.シートの共有が難しいグループも見られたが,進行に支障はなかった.シート提出後に,全体会場に戻って振り返りとして解説講義を受ける方法をとったが,時間調整がうまくいかずに遅れるグループや,解説講義を忘れて通信を終える学生が見受けられた.

表1-1 「薬剤師になるために」練習会のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 90
休憩,SGD部屋へ移動 10
グループ演習 90

 

表1-2 「薬剤師になるために」SGD1のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 50
休憩,SGD部屋へ移動 10
グループ演習 90
休憩 10
グループ演習 90 + α

 

表1-3 「薬剤師になるために」IPE1のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 15
SGD部屋へ移動 5
グループ演習 45
全体会場へ移動 5
フィードバック 20
休憩 10
SGD内容の説明 5
SGD部屋へ移動 5
グループ演習 60
解説,まとめ 20

※演習後,自由にSGD可能

 

表1-4 「薬剤師になるために」IPE2のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 5
動画視聴 75
休憩 10
SGD内容の説明 5
SGD部屋へ移動 5
グループ演習 80

2.1年次前期科目「基盤演習I」

従来,1学年を2分割し,講義型科目の「化学1」で学習した内容をチーム基盤型学習の方法に則り演習に取り組むものである.今年はオンライン演習となったため,1学年を分割せず全員を対象とした実施となり,学習方略を変更した(表2).グループ編成は1グループ5–6人とし,最初の演習日に行った化学の学力測定試験の結果から,グループ内の平均点にばらつきがないように割り振った.全体会場で連絡事項や今日の演習内容の説明を行い,その後個人,グループ演習とした.個人演習として5–10問,15分1セットを2セット行った後,各SGDの部屋に移動,会議に参加しグループで応用問題を30分で取り組み,白紙に回答を記述したグループプロダクトを作成し,提出したグループから授業を終えるよう指示した.回答提出は,Microsoft Forms®にプロダクトを撮影し画像ファイルをアップロードすることで回答完了とした.不正防止策として学生証とともに撮影するよう指示した.時間の都合上,各問題の解説を当日には行わず,チーム内で解答を公開し,正答率が低い問題は解説を記載した.科目の最終日にグループ内でピア評価を5つの項目(雰囲気,貢献度,積極性,配慮,教育性),それぞれ10点満点で実施し(図2),2019年度の結果と比較した(図3).5項目の平均値(標準偏差)は,2019年が7.82(0.78)であり,2020年度が7.46(1.41)であった.次に,他者への指摘コメントを年度ごとに抜粋する.2019年度において,グループに貢献した点は,「相槌をうってくれた」,「スクラッチを削ってくれる」,さらに貢献する為の改善点は,「声が小さい」,「自信を持つべき」などが挙げられ,2020年度において,グループに貢献した点は,「積極的に発言してくれた.」,「発言することで雰囲気が良くなった」,さらに貢献する為の改善点は「無言でした」,「もっと積極的に発言してほしい」などが挙げられた.

表2 「基盤演習I」のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 15
個人演習 15
予備時間 5
個人演習 15
SGD部屋へ移動 10
グループ演習 30

 

図2

ピア評価の項目

図3

2019年度(A)と2020年度(B)のピア評価の得点分布

3.1年次前期科目「基盤演習II」

従来,1学年を2分割し,講義型科目の「生物1」で学習した内容を,問題演習形式で取り組むものである.今年はオンライン演習となったため,1学年を分割せず全員を対象とした実施となった.グループ編成は1グループ5–6人とし,「生物1」の確認試験の結果から,グループ内の平均点にばらつきがないように割り振った.演習の流れを表3に示す.全体会場で,当日の説明を行った後に,個人演習として5–10問を20分で回答後,各SGDの部屋に移動,会議に参加しグループで応用問題である選択肢選択問題と白紙への記述問題を40分取り組む.グループとしての回答をMicrosoft Forms®に選択肢を入力し,記述問題のプロダクトを撮影し画像ファイルをアップロードすることで回答完了とした.不正防止策として学生証とともに撮影するよう指示した.その後,全体会場に戻り,解説・質問対応する時間を設けた.時間内にグループワークが終わらず,全体会場での解説講義を受けない学生が見受けられた.

表3 「基盤演習II」のタイムスケジュール
内容 時間(分)
概要説明 10
個人演習 15
SGD部屋へ移動 10
グループ演習,終了後全体会場へ移動 40
解説,質問対応 15

4.4年次後期科目「セルフメディケーション演習」,「実践薬学V」

4年次前期までに学習した内容を統合し,症例に取り組む科目である.従来と同様に1学年を3分割し,グループ編成は1グループ4–5人とした.1年次科目は,教員がSGDに入らず内容の介入は行わなかったが,両科目は,SGD中に教員が巡回し,進捗状況の確認,質疑応答やフィードバックを実施した.

5.従来SGDを行っていたが,今回実施しなかった科目

今年度の4年次前期開講の科目は,学生のオンラインSGDに耐え得る環境がない,オンラインSGDを設定しても学生が集合して対面でのSGDを行う懸念があるなどの理由を考慮し行わなかった.その代替として,レポート提出等の課題提供型学習に切り替えた.4年次科目の参加型学習ができず演習形式が減ることで,学習意欲の高い学生の意欲低下の抑制や学習目標に到達できない学生の学習効果の向上のために,希望者へ双方向性を高めたリアルタイムの解説講義,質問対応を開催した.

6.代表的なトラブル事例

iOS®端末を使用している学生が会議に参加できない事例がいくつか発生した.アプリ版Microsoft Teams®およびiOS®のアップデートが原因と推測される.使用デバイス側での対応はできないため,会議への招待機能を用いて対応した.参加が遅れた学生に対し,本事例の遅刻参加による不利益は被らないことを説明している.他には,極少ない事例であるが,学生が他のグループ会議に参加する場合があった.他の学生が指摘することで適切なグループ会議へ参加できていた.トラブルの発生によって,授業実施が困難となることはなかった.

所感

オンラインSGDの良かった点として,グループ設定数や構成人数が教室数などの環境や設備の制限を受けないため,グループ設定の自由度が上がることが挙げられる.さらに対面では大学の設備の都合や遠方から通っているなどの学生の都合上難しかった演習外のSGDも,自宅からの参加により時間の都合さえつけばSGD可能となり障壁は低かったものと考えられる.また,設定した課題に対し調べながらSGDすることを許容した場合,プロダクトに反映された情報の正確性があがったように感じられた.一方で不十分な点として,ピア評価のコメントに象徴されるように,オンラインSGDでは,SGDの中で培う非言語コミュニケーションは全く育たないものといえる.ピア評価の得点分布の比較から,2020年度は2019年度に比べ標準偏差が大きく,低得点側に分布が伸びていることがわかる.また,コメント例のように,2019年度は非言語コミュニケーションに関する記述が見られ,発言だけでなく様々な観点から他者を評価していることが伺える.その一方で2020年度は,発言に関する記述がほとんどであり,発言に大きく依存したものと考えられる.これらより,2020年度におけるピア評価の得点分布の傾向は,頻繁に発言した学生の得点率が高くなり,頻度が少ない学生は著しく低くなったものと推測される.また,SGDに大きく貢献する学生に触発され,消極的な学生が課題に前向きに取り組む,あるいは学習意欲が向上するような良い影響を及ぼすことも少ないように感じた.これは中位層の学生が下位層へ抜け落ちるきっかけになりかねない.他にも,SGDへの参加が消極的な学生が埋没し,教員の介入が遅れてしまうことや,対面では可能であったプロダクトには反映しないが,隣の席同士の学生が些細な話をするような対話から構築される関係性が育たなかった.さらに,教員が,前向きな学生や上位層の学生に対して直接話をする環境や場面がないことや,フィードバックする機会もないことから,学生の学習意欲が削がれる懸念もあると考えられる.オンラインSGDは,1対1での会話を非常に難しくしている.その対策として,Microsoft Teams®には,学生個人にチャットが送れる機能を有しているため,その活用によって補完できる可能はあると考えられる.

最後に

本学のオンラインSGDの実施例と所感を述べたが,工夫を凝らすことでオンラインでの実施が可能であった.対面でのSGDの実施に制限がある場合は,大学の回線の都合等で困難な場合を除き,代替として導入しても良いものと思われる.ただし,代替としてのオンラインSGDは,対面でのSGDと同等の教育効果をもたらさないと考えられる.インターネットへの迅速で容易なアクセスが可能となり,確かな情報をすぐさまプロダクトに反映し知識の定着を可能とするかもしれない.しかしながら,SGDを行う本来の目的は知識の定着を図ることや,発言の多さを競うものではない.他者との非言語を含んだコミュニケーションを通じて,問題解決能力を養い,将来,医療チームとして医療に貢献するために必須となるSGDの中で意思決定するプロセスと手段を学ぶことである.教育効果の具体的な検証は行っておらず,これらの論旨を裏付けるデータは提示できないため詳細な検証が必要となるが,対面でのSGDが可能にも関わらず,安易にオンラインSGDに置き換えることに警鐘を鳴らしたい.Withコロナの今後を見据えて,事前や事後SGDなどの知識の正確性が求められる,あるいは意見を整理するような場面ではオンラインSGDを,本質の課題に取り組む場面では対面でのSGDを行うような,ハイブリッド型の学習方略が適しているのかもしれない.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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