薬学教育
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誌上シンポジウム:薬学教育への「栄養薬学」の導入とその意義
学部教育及び卒後教育への「栄養薬学」の導入
―より良い薬物治療と健康サポートに貢献するために―
鎌尾 まや
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2021 年 5 巻 論文ID: 2021-010

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抄録

かかりつけ薬局・薬剤師及び健康サポート薬局制度の創設により,薬学生,薬剤師を対象とした栄養あるいは健康食品・サプリメントに関する教育の必要性が高まっている.一方,今までの薬学において,薬理学,薬物動態学を中心に製剤学などの他教科と関連付けた栄養や健康食品・サプリメントに関する教育は不十分であり,特に,薬学旧4年制課程を修めた薬剤師に対する卒後教育の充実が急務である.そこで神戸薬科大学では,薬剤師による健康サポート活動の質的向上に貢献することを目的として,2018年度より「健康食品領域研修認定薬剤師制度」に基づく薬剤師研修を実施している.受講者を対象としたアンケート調査では,座学よりグループワーク等のより能動的な研修に対する満足度が高い傾向が認められた.また,栄養学の最新知識や症例・実例紹介,論文の読み方といった研修内容が求められており,臨床現場と大学が連携して「栄養薬学」領域の教育・研修を構築する必要性が示唆された.

Abstract

Following the establishment of family pharmacies/pharmacists and health support pharmacies, there has been an increasing need for educating pharmacy students and pharmacists on nutrition, health foods and supplements. At present, education on nutrition, health foods and supplements related to pharmacology, pharmacokinetics and pharmaceutics is insufficient; in particular, there is an urgent need to enhance continuing education for pharmacists who already completed the four-year pharmacy course. Therefore, a “Special Training Program on Foods with Health Claims and Dietary Supplements for Pharmacists” has been provided by Kobe Pharmaceutical University since 2018 to improve the quality of health support activities performed by pharmacists. A questionnaire survey of the program’s participants showed that they favored more active training, such as group work, over classroom lectures. Additionally, participants asked for the training to include the latest information on nutrition, an introduction of cases/examples, and a critical overview of the literature. The survey results suggest that it is important to build a “nutritional pharmacy” education program for pharmacy students and pharmacists in collaboration with clinical sites and universities.

はじめに

近年,薬剤師を対象とした栄養あるいは健康食品・サプリメントに関する卒後教育の必要性が高まっている.そのきっかけの一つとして,かかりつけ薬局・薬剤師及び健康サポート薬局制度の創設が挙げられる.これらは,厚生労働省により2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』へ,そして『地域』へ~」1) において提唱されたものである.かかりつけ薬局・薬剤師は,服薬情報の一元的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導,24時間対応や在宅医療への対応を担うと共に,かかりつけ医をはじめとした医療機関等との連携を強化することが求められており,2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にすることが目標とされた.一方,健康サポート薬局は,かかりつけ薬局の付加的な機能として位置づけられており,要指導医薬品等の供給や助言,市販薬に加えて健康食品に関する相談応需,介護や食事・栄養摂取に関する相談応需,受診勧奨や関係機関の紹介を行い,疾病予防や健康サポートに貢献することとされている.この健康サポート薬局における健康サポート活動において,薬剤師は健康食品や食事・栄養摂取に関する相談に応じることが求められているのである.

しかし,健康サポート薬局制度は一般の人々に対する認知度がまだ低いのが現状である.2018年に日本薬剤師会が実施した「健康サポートと薬剤師に関する意識調査」2) によると,健康サポート薬局を知っていると回答したのは全体のわずか8.4%であった.2020年に内閣府政府広報室が実施した「薬局の利用に関する世論調査」3) においても,健康サポート薬局をよく知っていた(1.5%),言葉だけは知っていた(6.5%)の合計がわずか8.0%であり,この二年間で健康サポート薬局の認知度が向上していないことがよくわかる結果となっている.一方で,サプリメント・健康食品についてどのような専門家にサポートやアドバイスをしてもらえたらうれしいですか,という質問については,薬剤師との回答が26.6%と他の職種を抑えて第一位であった2).このことから,薬のみならず,食事や栄養摂取を含む健康に関する相談先として,薬剤師に対する国民の期待の高さが伺える.また,消費者委員会が2012年に実施した「消費者の『健康食品』の利用に関する実態調査」4) では,健康食品を摂取している70代高齢者の約3分の2が処方薬と併用しており,薬の副作用発現や薬物治療効果の低下が懸念される結果となっている.

健康食品の問題点として,個人輸入やインターネット購入における健康食品による健康被害が報告されていること,国が定める特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品といった保健機能食品が有効に活用されているとはいえないことが挙げられる(図1).これらの問題を解消するために,薬剤師をはじめとした専門家が健康食品利用者に適切なアドバイスを行うことが必要であると考えられる.

図1

健康食品の問題点

本稿では,栄養あるいは健康食品・サプリメントに関する学部教育の現状を概説すると共に,関連する卒後教育と認定・専門資格について,本学で2018年度より実施している「健康食品領域研修認定薬剤師制度」を中心に紹介する.なお,「健康食品」,「サプリメント」は共に法律上の定義はないが,本稿では「健康食品」は保健機能食品やいわゆる健康食品を含む,広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を,「サプリメント」はビタミンやミネラルといった健康の保持増進に役立つ特定の成分を濃縮し,錠剤やカプセル状にしたものを指すものとする.

薬学教育における栄養及び健康食品・サプリメントの取り扱い

薬学教育モデル・コアカリキュラム5) では,D衛生薬学の領域で栄養・健康食品の基礎的な内容を学習することになっている.具体的には,「日本人の食事摂取基準について説明できる」,「栄養素の過不足による主な疾病を列挙し,説明できる」,「疾病治療における栄養の重要性を説明できる」,「特別用途食品と保健機能食品について説明できる」といったSBOが設定されている.さらに,健康食品・サプリメントに関するより臨床的・実践的な内容については,E医療薬学やF薬学臨床で学ぶこととなっている.E医療薬学では,「主な養生法(運動・食事療法,サプリメント,保健機能食品等)とその健康の保持・促進における意義を説明できる」,「要指導医薬品・一般用医薬品と医療用医薬品,サプリメント,保健機能食品等との代表的な相互作用を説明できる」,F薬学臨床では「薬局製剤(漢方製剤含む),要指導医薬品・一般用医薬品,健康食品,サプリメント,医療機器等をリスクに応じ適切に取り扱い,管理できる(技能・態度)」,「選択した薬局製剤(漢方製剤含む),要指導医薬品・一般用医薬品,健康食品,サプリメント,医療機器等の使用方法や注意点などを来局者に適切に判りやすく説明できる(知識・態度)」といったSBOが設定されている.なお,E医療薬学及びF薬学臨床における栄養に関する学習内容については,本誌上シンポジウムの「病院薬剤師から見た栄養薬学の必要性」に紹介されているので,そちらを参照されたい.

以上のように,6年制薬学教育では栄養や健康食品・サプリメントに関する項目が盛り込まれているが,薬理学,薬物動態学や製剤学等の他教科と関連付けた教育は不十分であると思われる.さらに,薬学旧4年制課程の一般的なカリキュラムにおいては,栄養に関する講義は設定されているものの,健康食品・サプリメントについての学習機会は乏しかったものと考えられる.また,食事摂取基準や栄養,健康食品に関連する法・制度については随時改訂されるため,知識のアップデートが不可欠である.従って,薬剤師が薬学的立場から栄養,健康食品・サプリメントの相談に応じるには,卒後教育の充実が急務であるといえる.

栄養及び健康食品・サプリメントに関連する卒後教育と認定・専門資格

1.神戸薬科大学における「健康食品領域研修認定薬剤師制度」

神戸薬科大学は公益社団法人薬剤師認定制度認証機構(CPC)から特定領域認定制度として「健康食品領域研修認定薬剤師制度」の認証を受け,2018年度より本制度に基づく研修プログラムを実施している.本制度は,健康食品やサプリメントに関する専門知識を有し,消費者に科学的根拠に基づく適正な情報を提供できる「健康食品領域研修認定薬剤師」を養成・認定することを目的としており,薬剤師による健康サポート活動の質的向上に貢献し,国民の健康増進に寄与することを最終目標としている.また,本制度は特定領域認定制度であり,認定要件としてより高い資質を求められるため,CPC認証プロバイダーに認定された「研修認定薬剤師」を対象としている.

健康食品領域の研修項目は,I.健康食品と薬剤師(関連する法・制度,保健機能食品分類),II.健康食品と食生活・健康管理(保健機能食品・健康食品の機能,食生活と健康),III.健康食品購入・利用時の助言・指導(健康食品の情報収集や助言・指導)の3つの大項目から構成されている(図2).「健康食品領域研修認定薬剤師」の認定には,新規の場合は40単位以上,更新時は30単位以上の取得が必要であり,単位取得後の論文提出,発表会での発表・質疑応答,審査を経て,認定証を発行する流れとなっている.

図2

健康食品領域研修項目と認定の流れ

健康食品領域の研修は主に,上記の大項目に相当する内容を含む「健康食品講座」として実施している.「健康食品講座」は従来,集合研修として実施してきたが,2020年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりe-learning講座に変更して実施している.また,大項目IIIの一部の研修は健康食品領域に関連する実習,実践・実技等の内容を含む「薬剤師健康食品実践塾」として実施しており,健康食品に関連する論文のエビデンス評価や症例・事例に基づくProblem-based Learning(PBL)やSmall Group Discussion(SGD)を行っている.これらの研修は学生も受講可能であり,薬剤師と学生が共に学ぶ場となっている.

2.他の栄養療法及び栄養,健康食品・サプリメントに関連する認定・専門資格

栄養療法に関する認定・専門資格として,一般社団法人日本臨床栄養代謝学会が認定する栄養サポートチーム専門療法士(NST専門療法士)がある.本認定制度は静脈栄養・経腸栄養を用いた臨床栄養学を主な領域としており,管理栄養士,看護師,薬剤師,臨床検査技師,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,歯科衛生士,診療放射線技師といった国家資格所有者が取得対象となる.認定取得には,医療・福祉施設に勤務し,栄養サポートに関する業務に従事した経験が必要であることから,薬剤師ではNSTに関わる病院薬剤師が取得する場合が多い.なお,NST専門療法士の認定基準については,本誌上シンポジウムの「病院薬剤師から見た栄養薬学の必要性」に詳細に述べられている.

一方,栄養や健康食品・サプリメントに関する情報提供者の認定・専門資格として,一般社団法人日本臨床栄養協会が認定するNR・サプリメントアドバイザーがある.保健機能食品,サプリメントの国民への啓発を目的としたものであり,医師,管理栄養士,栄養士,薬剤師,医療・公衆衛生に関わる免許取得者,医療業務や健康に関わる業務に従事する者が取得対象となる.本認定制度は,日本臨床栄養協会によるサプリメントアドバイザー認定事業と国立健康・栄養研究所による栄養情報担当者(NR)事業が2012年に統合し,日本臨床栄養協会に移管する形で成立したものである.統合資格である現在のNR・サプリメントアドバイザーの認定者のうち,約12%は薬剤師となっている.また,同様の資格として,公益財団法人日本健康・栄養食品協会が認定する食品保健指導士や一般社団法人日本食品安全協会が認定する健康食品管理士がある.

神戸薬科大学の健康食品領域研修受講者に対するアンケート調査

1.受講者の年代,性別及び勤務先

2018年度及び2019年度における,神戸薬科大学の健康食品領域研修の一般受講者を対象としたアンケート調査を実施した.本アンケートは個人の同定が不可能な形式で実施し,研究の目的で公表する可能性について書面で同意を得た.また,本アンケート調査は神戸薬科大学における人を対象とする研究倫理審査委員会に「人を対象とする医学系研究」の対象外であることを確認した上で実施した.

受講者数は,一般受講者は各回50名程度であったが,学生受講者は大学行事の関係で数名から40名程度とばらつきがみられた.一般受講者のアンケート回収率は各回平均98.0 ± 1.7%であった.一般参加者の年代については,50代が最も多く,60代以上,40代,30代,20代の順となり,様々な年代の薬剤師が受講していることが明らかとなった(図3A).受講者の性別は80%以上が女性であった(図3B).また,受講者の勤務先は保険薬局・ドラッグストアが最も多く66.7%を占めていたが,病院・診療所勤務者(17.2%)や製薬メーカー勤務者(2.8%)も受講していることが明らかとなった(図3C).

図3

受講者の年代,性別及び勤務先.A.年代,B.性別,C.勤務先

2.受講者の資格取得状況及び活動状況

受講者の73.6%は研修認定薬剤師証を取得していた(図4A).また受講者の18.7%は前述のNR・サプリメントアドバイザー,健康食品管理士や健康食品領域研修認定薬剤師の前身の独自認定制度である健康食品指導薬剤師,日本抗加齢医学会指導士,食育アドバイザー等,他の健康食品・栄養関連の資格取得者であった(図4B).一方で,実際に健康食品やサプリメントの利用に関する助言や販売を行っている者は35.0%(図4C),健康サポート活動を行っている者は28.8%であった(図4D).このことから,薬剤師の食事・栄養摂取に関する相談応需や健康サポート活動への取り組みは,十分に浸透していない現状であると判断された.

図4

受講者の資格取得状況と活動状況.A.認定薬剤師証取得状況,B.他の栄養・健康食品に関連する資格取得状況,C.健康食品やサプリメントの販売・指導状況,D.健康サポート活動実施状況

3.研修内容への評価

各講義・演習に対する「健康サポート活動等業務に役立つか」の4段階評価において,最も評価が高い「満足」と回答した者は,2018年度では60.4%,2019年度では71.5%であった(図5A,C).このことから,研修内容に対する受講者の満足度が向上したと判断された.特に,演習形式で実施している「薬剤師健康食品実践塾」については,「満足」と回答した者は両年度とも約90%に達し,受講者は症例・実例の検討会や科学論文・データベースの活用法の演習といったPBLやSGDを含む,より能動的な研修を評価する傾向が認められた(図5B,D).

図5

研修内容への評価(健康サポート活動等業務に役立つか).A.2018年度(全体),B.2018年度(薬剤師健康食品実践塾のみ),C.2019年度(全体),D.2019年度(薬剤師健康食品実践塾のみ)

自由記述欄では,「4年制大卒の私は栄養に関する知識不足を痛感しているので,このような内容の講座をもっと受講したい」,「食事摂取基準,栄養ケアは薬剤師として必要な知識であると感じた」,「サプリメントについて相談を受けることが多く,本講義は参考になった」,「法令,機能性表示食品に関して,最新情報を得ることができた」といった薬剤師が栄養学の最新知識を学ぶ場の重要性に関する記述が多くみられた.また,「症例が具体的でとてもわかりやすかった」,「ディスカッションすることで色々な考え方がわかって良かった」,「文献を読む訓練ができ,参考になった」といった症例・実例紹介,科学的根拠の判断材料となる論文の読み方に関する演習の有用性についての記述も多く認められた.以上より,大学と臨床現場が連携して学術的内容と臨床症例とを融合し,「栄養薬学」領域の研修を構築する必要性が示唆された.

おわりに

薬学に「栄養薬学」の考え方を導入することにより,どのようなメリットが考えられるだろうか? 病院薬剤師では,栄養療法における積極的な処方支援,薬物動態や薬効改善への栄養管理の活用が考えられる(図6).在宅医療にかかわる薬剤師では,薬物療法と栄養ケアの統合的アプローチや薬剤の副作用による低栄養の防止が考えられる.また,薬局・ドラッグストアの薬剤師では,健康食品・サプリメントの適正普及,疾病予防・健康サポートへのさらなる貢献が挙げられるだろう.このように,「栄養薬学」の導入により薬剤師職能を拡大・高度化し,より良い患者へのサポートを提供するためには,大学にも教育・研究領域の拡大・高度化が求められる.

図6

「栄養薬学」の導入によるメリット

薬学において「栄養薬学」という分野を構築するためには,大学における栄養学,健康食品・サプリメントに関する知識と薬理学,薬物動態学,臨床薬学や必要に応じて製剤学を融合した教育・研究を推進する必要がある.また,卒後教育・生涯研修では,旧4年制卒業者向けの栄養学,健康食品に関する知識の提供に加え,食事摂取基準や法・制度,知識のアップデート,臨床現場での取り組みや健康サポートの実例紹介,症例・事例検討といった内容が求められている.これらの実現には,大学と臨床現場及び大学と管理栄養士をはじめとした他職種あるいはその養成校との連携が不可欠であり,今後の課題であると考えられた.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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