薬学教育
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実践報告
面接受講と遠隔受講を組み合わせた早期体験学習ワークショップの実施と検証
二瓶 裕之浜上 尚也木村 治小田 雅子
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2021 年 5 巻 論文ID: 2021-014

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抄録

新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環として,面接受講と遠隔受講を組み合わせて実施した早期体験学習ワークショップの実践方法と教育効果の検証結果を報告する.例年実施していた施設訪問は中止とし,その代替として,ワークショップの実施時間を拡充した.デジタルを活用して学びあいの機会を提供するなどして,学生の集中力を持続させたり,遠隔受講の学生も含めてディスカッションができるようにした.デジタルを活用することにより,「ワークショップに参加してよかった」,「ワークショップが役立った」などの事後アンケートの結果を得たが,一方で,フィジカルによる学びあいの重要性も再認識できた.

Abstract

This paper reports the methodology and verified results of an “Early Exposure to the Pharmacy Profession” workshop conducted by combining face-to-face and remote learning to prevent the spread of COVID-19. The workshop hours were expanded as an alternative to the students visiting the hospital and pharmacy. By utilizing digital technology to provide opportunities for collaborative learning, the students maintained their concentration and participated in discussions with students taking remote courses. While reaffirming the importance of physically present, face-to-face learning, the results of the post-workshop questionnaire also revealed an improvement in the provided education with students making comments such as “It was good to be part of the workshop” and “The workshop was useful for subsequent learning.”

目的

早期体験学習は,医療の高度化や多様化に対応できる薬剤師を育成するための初年次教育科目として,多くの大学の薬学部で導入され,教育効果の検証も進んでいる1).北海道医療大学(以下,本学)でも,薬学部1年生を対象とした必須の演習科目として開講されている.授業概要は,「将来活躍する場となる医療現場を訪問し,実際に体験学習したことを通して,社会における薬剤師の役割や職務の重要性について討論し,最後に,それらをまとめて発表する.」としている.学修方略には,ワークショップ,施設訪問,発表会の3つがある.

ワークショップは,施設訪問の前に実施し,訪問する施設についての事前講義を受けたり,グループワークを実施したりする.グループワークの重要な点の1つが,学生どうしが相互に学びあうことである.これにより,自分一人では気づかなかったような考え方や知見から刺激を受け,知識をより深めることを目指している.

さらに,ワークショップに対して,本学では,かねてよりICTを活用した教育改善の取り組みを実施している.例えば,ワークショップの後に学生が提出したレポートに対してテキストマイニングを実施して教育効果を検証したり2),1年次必須科目「情報科学」で修得したICTの知識や技能を活用した早期体験学習との連携教育プログラムを設計したりした3).さらに,最近では,1年次必須科目「文章指導」のグループワークでも,オンラインアプリケーションの共同編集機能を利用してディスカッションの活性化を図るなど4,5),Society 5.06) での学びに向けてフィジカル(現実空間)とデジタル(仮想空間)を融合した教育改善の取り組みを実践している.

このような中,2020年度は,新型コロナウイルス感染症が拡大している状況で,政府,北海道及び札幌市等の対応を踏まえ,本学でも感染拡大の防止対応を行うこととなった.感染防止対応の1つが学生の登校禁止であったが,その一方で,学生の学びの機会を最大限に提供することを鑑み7),早期体験学習は,他の演習や実習科目が中止及び延期になる中,面接受講と遠隔受講を組み合わせた受講形態での実施となった.これにより,例年実施していた施設訪問は中止とし,その代替として,デジタルを活用しながら,施設訪問の前に実施していたワークショップを拡充させることとした.

本論文では,面接受講と遠隔受講を組み合わせて実施した早期体験学習ワークショップの実践方法と教育効果の検証結果を報告する.ワークショップは,実施時間を例年よりも拡充した.時間を拡充したことにより,例えば,学生の集中力を持続させたり,遠隔受講の学生も含めてディスカッションさせたりするために,デジタルを活用して学びあいの機会を提供するなどした.ワークショップを実施するために行ったこれらの工夫について報告するとともに,その中で,効果が認められた点,課題として挙がった点,また,デジタルではなくフィジカルであることの重要性を再認識した点などについて報告する.

なお,「面接受講」と「遠隔受講」とは,本学のシラバスに「授業実施形態」として記載されている用語であり,前者はキャンパスに登校して教室で受講する形態,後者はオンラインで受講する形態を意味する.

早期体験学習の概要

2020年度の早期体験学習を実施したのは9月から12月であり,例年と比較して,3か月程度延期しての開講となった.履修者は薬学部1年生の148名である.受講形態は,面接受講と遠隔受講を組み合わせた形式とした.履修者を半数ずつのA,Bグループに分けて,片方のグループを面接受講,もう片方を遠隔受講とし,原則として,受講形態を毎回入れ替えた.

授業は,収容人数が200名以上の大教室で実施した.この教室は薬学CBTにも利用しており,各机には情報コンセント(LANと電源)が設置され,教室の棚にはCBT用のラップトップ型PCが約200台収納されている.遠隔受講の学生は,自宅で自身のPCなどにより,教室に設置されたWebカメラの映像とマイクの音声をZoom8) で受信する.一方,面接受講の学生も,教室でCBT用のPCを一人一台使用し,遠隔受講の学生と同じデジタル情報を利用できるようにした.

なお,感染対策の観点から,面接受講の学生に対しては,毎回同じPCを利用すること,授業終了時にはマスク着用のうえ,各自のPCを消毒すること,一定の間隔をあけて指定された場所に着席すること,グループワークも含めて会話は避けることなどを指示した.

学生へ提示した授業概要は,施設訪問を中止したため,「将来活躍する場となる医療現場で勤務している薬剤師からの講義を通して,社会における薬剤師の役割や職務の重要性について討論し,それらをまとめて発表する.」であり,例年,「医療現場を訪問し,実際に体験学習したことを通して」と記載していた箇所を「関連施設で勤務している薬剤師からの講義を通して」に変更した.

図1は,2020年度と2019年度の授業計画である.ワークショップは,例年通り,5回実施することとした.この中で,施設訪問を中止する代替として拡充を図ったワークショップが,薬剤師関連施設,保険薬局,病院薬局の3回である.

図1

授業計画

3回のワークショップについては,2019年度は1つの講義時間(80分間)で実施した.80分間のワークショップでは,事前講義に約20分間,グループワークに約40分間,机の移動などのグループワーク準備に約20分間を充てた.また,グループワークの時間の中では,討議のまとめに関するレポートも課していた.ワークショップを終えた翌週の2つの講義時間(160分間)で施設訪問を行っていた(図1中の①,②,③).

一方,2020年度は,連続した午後の3講義(3時限目から5時限目)で実施するように拡充した.また,3回のワークショップで,面接での受講となったグループは,順に,A,B,Aである.

ワークショップの方法

ワークショップでは,3つの講義時間において,順に,事前講義,グループワーク,レポート作成を実施した.例えば,保険薬局のワークショップの最初の3時限目には,保険薬局に勤務している薬剤師の講師が事前講義を実施し,4時限目にはグループワーク,5時限目にはレポート作成を実施した.

事前講義は,グループワークの学修準備として欠かせないことから,今までにも,ワークショップの冒頭20分間程度で事前講義を実施していた.2020年度には,事前講義を拡充して,60分間程度で実施することとした.時間が拡充された事前講義では,担当の講師が事前講義用として専用のビデオを作成したり,豊富な画像を利用して詳しく業務を説明した.一方で,時間を拡充したことから,遠隔で受講している学生の集中力を持続させるための工夫が必要と考えた.

工夫の1つが,事前講義終了後の20分間程度で,ノートを提出することを課した点である.事前講義が始まる前に,遠隔受講の学生も含めて,学生にはノートと筆記用具を用意することを伝え,必ず,メモ書きをしながら事前講義を聴くことを指示した.メモ書きをノートにまとめる工程は,1年次前期の必須科目「文章指導」で演習している4).作成したノートは,面接受講の学生も含めて,全員,Googleフォームから提出させた.

Googleフォームでは,ノートを入力するテキストエリアを「段落」で設定してテキストエリア内で改行できるようにして,学生には,Googleフォームのテキストエリアを改行により広げて,入力しやすくするように伝えた.

もう1つの工夫が,デジタルを活用して学びあいの機会を提供したことである.遠隔で受講している学生は,ひとりの学びになってしまい,フィジカルの刺激,例えば,周りの学生がメモをとっている様子を見ながら受講する,といった他の学生からの刺激がなくなってしまう.そこで,フィジカルの刺激の代わりとして,デジタルな学びあいの刺激を提供することを試みた.

具体的には,学生全員が提出したノートを機械学習させ,その解析結果を,図2のワードクラウドとして可視化した.ワードクラウドには,Pythonの形態素解析エンジンであるJanomeにより分かち書きされた単語のうち名詞と判断された単語をすべて利用した.ワードクラウドの中には「たち」などの単語も出現しているが,ワードクラウドの作成プロセスも説明しながら,出現の要因なども考えさせるようにしている.

図2

クラス全員のノートに対する機械学習(ワードクラウド)の結果

ワードクラウドにより,「クラスの人がどのような用語でノートをまとめているのか」を伝え,他の学生との学びあいの感覚を提供できるようにした.さらに,学生には,ワードクラウドにより「どのような用語が自身のノートに不足していたのか」を確認するように伝え,次回のノートの作成に役立てられるようにした.

グループワークは,事前講義に引き続いて実施した.グループワークのテーマは,講演者と授業担当教員で設定し,事前講義の内容に沿ったものとした.グループワークも,今まで40分間程度で実施していたものを,2020年度には,4時限目に80分間で実施することとした.また,面接で受講している学生だけではなく,同時に,遠隔で受講している学生も参加することから,グループワークで特に重要となる学びあいを実現するための工夫が必要と考えた.

工夫の1つがグループの構成方法である.グループのサイズは約10名,グループの数は全体で16となった.グループ分けをするにあたり,同じグループに,面接で受講している学生と遠隔で受講している学生が混在していると,面接で受講している学生どうしのみが意思疎通してしまう可能性を考え,同一グループ内は,面接で受講している学生のみ,もしくは,遠隔で受講している学生のみとなるようにした.

もう1つの工夫が,事前講義と同様に,デジタルを活用して学びあいの機会を提供したことである.グループワークの学びあいでは,学生が自分の考えや意見を発するとともに,他の学生の考え方や知見に触れられることが重要となる.そこで,共同編集機能を持つオンラインアプリケーションであるGoogleドキュメントを利用して,情報共有や意見交換といったディスカッションをできるようにした5)

図3はグループワークで利用したGoogleドキュメントである.Googleドキュメントは,各グループに対して,設問ごとに1つのファイルを用意した.また,メンバーの学生ごとにセルを用意して,指定されたセルに自分の考えや意見を記入するように指示した.このように発言者の特定ができるようにして,不用意な発言がされないようにした.

図3

グループワークで使用したGoogleドキュメント

Googleドキュメントの特徴の1つが共同編集機能である.共同編集機能により,複数の学生が,同時に,1つのGoogleドキュメントにテキストを入力できる.グループワーク中には,Googleドキュメントを利用して,グループのメンバー全員の意見を見ながら,同時にお互いが自分の意見を書き込むように,学生へ促した.講演者や教員も,全グループのGoogleドキュメントを閲覧可能であることから,書き込みを確認しながらリアルタイムに議論をファシリテートするようにした.

ワークショップの最後には,レポート作成を課した.レポートも,ワークショップで学んだ知識を確実に定着させることを目的として,今までにも,授業後の自宅学修の課題として課していた.2020年度には,ワークショップの5時限目に作成するようにした.レポートは,早期体験学習の評価の対象になっており,面接で受講している学生だけではなく,遠隔で受講している学生も確実にレポートを提出できるようにする工夫も必要と考えた.

この工夫として,すべての学生用に,レポートのテンプレートファイルを用意することとした.遠隔で受講している学生の場合,レポートの送信を誤ってしまったり,忘れてしまったりすることも少なくない.そこで,GAS(Google Apps Script)により共有フォルダに全員分のレポートテンプレートを用意した.レポート提出時刻とした17時に,共有フォルダからすべてのレポートを移動して,学生に閲覧や編集ができないようにした.

なお,早期体験学習の初回授業時に,授業改善や教育改善のための取り組みとして,授業中に収集した各種の学修情報やアンケート結果については,匿名化加工をしたうえで成果報告する旨の同意を求め,学生が自由意志により拒絶した場合には,そのデータを利用しないことを伝えた.また,アンケートへ回答しないことによる不利益が一切ないことを伝えた.

ワードクラウドを作成するために使用したテキストマイニングのプログラムは,独自に作成したものであり,本学DX推進計画サイト9) にオープンソースとして公開している.

結果と考察

まず,事前講義で提出することを課したノートに対して,定量的な検証をする.ノートに記載されている内容は,事前講義に関わるものであることから,学生全員の間で,ノートどうしの一致度は高いことが予想される.ノートの分量についても,2020年度は,事前講義の時間が拡張され内容も豊富になっていることから,一定の量になっていることが期待される.そこで,これらの検証のために,Googleフォームで回収したノートをcsvファイルとしてダウンロードし,各学生(i)に対し,他の学生(ki)のノートとの一致度を測る指標としてcos類似度xi

  

x i = 1 n1 k=1 n u i v k u i v k (1)

nは学生数,総和ではk = iを除く)

と,自身のノートの分量を量る指標として文字数yiを計算した.ここで,uiviは,ノートに使用されている単語の個数を要素とした文書ベクトル10) である.

図4は,xy座標平面上の等高線グラフに,各学生のノートの分布(xi, yi)を示した.図中では,等高線で表された分布の高い箇所に,多くの学生が含まれていることとなる.また,図4(a)~(c)は,各々,1回目~3回目のワークショップで提出されたノートに対する結果である.

図4

学生のノートの分布.(a)1回目のワークショップで提出されたノートに対する結果,(b)2回目のワークショップで提出されたノートに対する結果,(c)3回目のワークショップで提出されたノートに対する結果:横軸(x軸)がcos類似度,縦軸(y軸)が文字数

図4(a)の1回目と比較すると,図4(b)の2回目の分布の頂点の座標は,x軸で0.025程度,y軸で50程度大きな値となった.学生全員の分布全体もx > 0,y > 0へ移動している.しかし,分布の広がりは2回目のほうが1回目よりも大きくなっている.このことから,学生全体で考えると,1回目と比較して2回目には,ノートの一致度や分量は増加しているが,講義ノートに取り組む態度にばらつきが出てきたなどと考えられる要因から,学生全体の(xi, yi)のばらつきも大きくなったと考えられる.

図4(c)の3回目では,分布の頂点の座標は(0.45, 450)程度となり,学生全体の分布もx > 0,y > 0へ大きく移動している.さらに,2回目と比較すると等高線の本数も増え,分布のばらつきも小さくなっている.この要因の1つが,図2に示したワードクラウドの提示であると考える.ワードクラウドを提示したのは,3回目のワークショップの冒頭であり,デジタルな刺激により,学生は,自身のノートに不足していた用語の傾向などを理解し,3回目のノートの作成に役立てたものと考えられる.このように,デジタルを活用した学びあいの機会を提供したことで,ノートの一致度や分量が増加したと考えられる.

次に,3つの学修項目,事前講義,グループワーク,レポート作成についての到達目標に対する自己評価に,面接と遠隔の2つの受講形態の間で相違があるのかを検証する.なお,各学修項目についての到達目標は,3回のワークショップで共通としている.自己評価は,4択(高いほうから順に◎,〇,△,×)で回答させた.

図5には,3回のワークショップごと(各グラフの横軸で1,2,3と記載)に,3つの各学修項目((a),(b),(c))に対する自己評価の結果を示した.学修項目の下には,到達目標を記載した.すべての回答で×となった回答は一件もなく,結果的に3者択一の設問となったことから,最も高い自己評価◎を選択した学生数の比率Rを示すこととした.また,面接と遠隔の2つの受講形態で回答を分けて比率Rを示した.

図5

3つの学修項目(a):事前講義,(b):グループワーク,(c):レポート作成に対して最も高い自己評価を回答した学生の比率R

図5の結果,まず,1回目のワークショップでは,すべての学修項目で遠隔受講の学生のほうが,比率Rの値(図中の破線)が高かった.2回目のワークショップでは,面接と遠隔の2つの受講形態の間で比率Rの差が小さくなり,3回目のワークショップでは,逆に,すべての学修項目で遠隔受講の学生のほうが,比率Rの値が低くなった.なお,遠隔受講となったのは,3回のグループワークで,順に,B,A,Bのグループである.

以上の結果から考察できることとして,まず,1回目のワークショップでは,今回の早期体験学習で実施したいくつかの工夫,特に,デジタルを活用した工夫が与える新鮮さが,遠隔で受講した学生へ効果を発揮した可能性があると考えられる.しかし,ワークショップを重ねるにつれて,むしろ,現実空間での学修の良さを学生が再認識したと考えることができる.

特に,3回目のワークショップの結果における学修項目ごとの傾向の違いが興味深い.図5(c)に示したレポート作成の結果では,遠隔受講による比率Rの低下が最も小さい.これは,レポートは一人の作業で作成することが要因と考えられる.図5(b)のグループワークでは,遠隔受講による比率Rの低下があるものの,図5(a)の事前講義と比較すると低下が小さい.これは,Googleドキュメントの共同編集機能により,情報共有や意見交換といったディスカッションができていたことが要因の1つと考えられる.一方で,図5(a)の事前講義に対しては,遠隔受講による比率Rの低下が大きい.情報通信の技術的面から講義形式の授業には遠隔授業を導入しやすいと考えられているが,今回の結果からすると,講義形式であればこそ,周りに学生がいるようなフィジカルな学びあいの感覚が重要ではないかとの知見を示唆するものと考えられる.

最後に,例年,早期体験学習の終了時に実施している事後アンケートの結果について検討する.表1は,事後アンケートの質問項目であるが,事後アンケートの中からワークショップに関する21個の質問項目のみを抽出した.回答は,各質問について,5択(「強くそう思う」と感じたら「5」,「そう思わない」と感じたら「1」,「どちらともいえない」は「3」,「2」と「4」はその中間)とした.

表1 事後アンケートの質問項目
番号 設問
「保険薬局」ワークショップについて 1 参加してよかったですか?
2 薬剤師の仕事は予想よりも厳しそうでしたか?
3 保険薬局勤務薬剤師という仕事にやりがいを感じましたか?
4 保険薬局で働いてみたいと思いましたか?
5 実際に薬局も見学してみたいと思いますか?
6 体験したいと思っていたことができましたか?
7 ワークショップは役に立ちましたか?
8 今後の学習に役立つと思いましたか?
「病院薬局」ワークショップについて 9 参加してよかったですか?
10 薬剤師の仕事は予想よりも厳しそうでしたか?
11 病院勤務薬剤師という仕事にやりがいを感じましたか?
12 病院で働いてみたいと思いましたか?
13 実際に病院も見学してみたいと思いましたか?
14 体験したいと思っていたことができましたか?
15 ワークショップは役に立ちましたか?
16 今後の学習に役立つと思いましたか?
「薬剤師関連施設」ワークショップについて 17 参加してよかったですか?
18 他の医療機関も見学してみたいと思いましたか?
19 体験したいと思っていたことができましたか?
20 ワークショップは役に立ちましたか?
21 今後の学習に役立つと思いましたか?

質問項目は,2020年度も2019年度と同じにしたが,施設見学に関する3つ(表1中のQ5,Q13,Q18)については,2019年度は,「Q5:他の薬局も見学してみたいと思いましたか?」,「Q13:他の病院も見学してみたいと思いましたか?」,「Q18:他の医療機関も見学してみたいと思いましたか?」としていた.

図6は事後アンケートの結果であり,各質問(i = 1~21)に対する全学生の回答の平均値Qiをレーダーチャートで示した.図6には,比較のために2019年度の結果も示した.この結果,予想外であったのが,2つの質問項目(Q6, Q14)を除いて,2020年度の結果が2019年度を上回ったことである.

図6

事後アンケートの結果

まず,「参加してよかったですか(Q1, Q9, Q17)」に対しては,2020年度の結果は,すべてのワークショップで2019年度を上回った.特に,最初のワークショップであった薬剤師関連施設Q17は,0.7程度と大きく2019年度を上回った.これは,2020年度は,事前講義の時間が拡充されたことで,担当講師による説明が詳しくなったことが要因の1つと考えられる.また,図2のワードクラウドや図3のグループワーク用Googleドキュメントのようなデジタルを活用した学びあいの工夫による効果もあったものと考える.

次に,保険薬局と病院薬局のワークショップについて「仕事は予想よりも厳しそうでしたか(Q2, Q10),やりがいを感じましたか(Q3, Q11),働いてみたいと思いましたか(Q4, Q12)」に対しても,全体的に,2020年度の結果が2019年度を上回った.特徴的なのが,Q2とQ12が,2019年度よりも0.65程度上回っている点である.これらの結果は,施設訪問がなかったことによる結果と捉えることもできる.

フィジカルな体験に関する質問事項である「見学をしてみたい(Q5, Q13, Q18)」については,2019年度と設問の文言が一部異なるものの,2020年度の結果が2019年度を大きく上回った.また,「体験したいと思っていたことができましたか(Q6, Q14, Q19)」について,薬局Q6と病院Q14に関しては,2019年度を下回った.

一方で,「ワークショップは役に立ちましたか(Q7, Q15, Q20),今後の学習に役立つと思いましたか(Q8, Q16, Q21)」については,すべてのワークショップで2019年度を上回った.特に,最初のワークショップとなった薬剤師関連施設のQ20は0.88程度上回り,すべての質問項目の中で最も大きく向上した.

これらの結果,面接受講と遠隔受講を組み合わせるといった従来にない受講形態の制限の中でも,今回の授業実践方法については,ワークショップに対する改善効果があったと考えられる.しかし,フィジカルな見学や体験への期待には十分には応えられなかった可能性はあり,施設訪問の重要性を再認識するとともに,デジタルの活用方法のさらなる改善も必要と考える.

むすび

面接受講と遠隔受講を組み合わせて実施した早期体験学習のワークショップについて報告した.ワークショップでは,事前講義,グループワーク,レポート作成の3つの学修項目を例年よりも時間を拡充して実施し,そのうえで,各学修項目に対して,デジタルを活用した工夫などを図った.

事前講義では,講義時間を拡充したことに対して学生の集中力を維持させる工夫として,ノートを提出させたり,クラス全体のノートに含まれる用語をワードクラウドで学生へ提示したりした.また,グループワークでは,Googleドキュメントを利用して,遠隔受講の学生も含めて,情報共有や意見交換といったデジタルを活用した学びあいを提供した.レポート作成でも,提出し忘れなどを避けるために,GASによりレポートテンプレートを用意するなどした.

このようなデジタルな刺激や学びあいの機会を提供したことで,例えば,学生全体として事前講義についてのノートの一致度や分量が増加する傾向を示した.また,デジタルを活用した工夫が与える新鮮さが遠隔で受講した学生へ効果を発揮し,授業後に実施した事後アンケートでも,ワークショップに参加してよかった,ワークショップが役立った,今後の学習に役立つなど,2019年度の結果を上回る高い評価を得た.

一方で,いくつかの課題も見つかった.まず,デジタルな刺激による効果が,ワークショップを重ねるにつれて低下する傾向を示したことである.事後アンケートでも,フィジカルな体験として,見学をしてみたいという意見が多かった.また,「体験したいと思っていたことができましたか」という質問に対しては,唯一,2019年度を下回る結果となった.

これらの課題に対しては,例えば,仮想現実や拡張現実などの技術を取り入れて,学びに対するデジタルな刺激を拡充することも考えられる.しかし,例えば,講義形式の授業でも,周りに学生がいるようなフィジカルな学びあいの感覚が重要ではないかとの知見も得た.また,学生から,病院や薬局への施設訪問をしてみたいとの意見は多くある.2020年度の早期体験学習を振り返って,デジタルを活用することにより,遠隔受講であっても,学びあいの機会を提供できるなどの教育改善効果もあったが,一方で,フィジカルによる学びの重要性も再認識できた.

今後は,ワークショップの後に実施した早期体験学習のオンライン発表会についても,実践方法と教育効果の検証を報告したい.また,今回の論文では,主に,2020年度と2019年度の取り組みを比較したが,薬学教育6年制化を始めた2006年度からの時系列に沿った比較も検討したい.

謝辞

本論文で報告したグループワークの取り組みはJSPS科研費19K03089の助成を受けた.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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