「薬学実務実習に関するガイドライン」では,大学への指針として,「実習施設に対し,大学における学習内容と到達度に関する情報を実習開始前に提供することが重要である」と述べられている.近畿地区では,毎年,近畿全域の実習施設に近畿14大学の約2,400名の学生が割り振られ,実習施設は各大学から多様な学生を受け入れることになる.各大学独自の評価基準で学生の到達度を提示すると,実習施設では混乱が生じることが懸念される.そこで,近畿地区調整機構では,学生の到達度を統一の基準で評価し実習施設に提示することで,実習施設が受入れ学生の到達度に合わせ実務実習を円滑に最適化できるのではないかと考えた.また,評価基準の作成を通して,大学における臨床準備教育の内容について改めて見直すきっかけにつながるものと期待した.本稿では,「臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉」の作成の経緯と運用状況について紹介する.
The “Guideline for Practical Training for Pharmacy and Hospital” states to universities that “it is essential to forward relevant information regarding the contents and progress of the learning at universities in advance to the training facilities prior to the initiation of the practical training.” Approximately 2,400 medical students from 14 universities in the Kinki region are allocated to training facilities in the entire Kinki region every year. These training facilities accept students from different universities. Providing achievements assessed according to each university’s criteria would cause confusion at the training facilities. Therefore, the Kinki Regional Allocation Office promulgated that the training practice would be optimized smoothly according to students’ accomplishment level by evaluating and presenting their learning progress using the unified assessment standards at the training facilities. The Office also expected that formulating the unified assessment standards would contribute to the review of the pedagogy and learning materials of preparatory clinical education at the universities. Here, the circumstances of the formulation and application of “the Kinki region’s summarized assessment chart for preparatory clinical education” are discussed.
2006年度から導入された薬学教育6年制課程も,早いもので2022年度は17年目を迎える.この間,2009年度には,初めての薬学共用試験が実施され,2010年度から薬局・病院合わせて22週間の長期実務実習が開始された.そして,2013年12月には,薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂され(以下,改訂コアカリ),それまで,実務実習事前学習,病院実習,薬局実習と3領域に分かれていた実習関連項目が「F.薬学臨床」として1つにまとめられ,その目標も統一された1).また,2015年2月には,この改訂コアカリに基づく実務実習が円滑に実施できるよう,大学における臨床準備教育や実務実習のあり方,実施体制について「薬学実務実習に関するガイドライン(以下,ガイドライン)2)」が示された.
ガイドラインでは,「大学-病院実習-薬局実習の学習の連携を図り,一貫性を確保することで,学習効果の高い実習を行う」ことが求められており,また,大学への指針として,「実習施設に対し,大学における学習内容と到達度に関する情報を実習開始前に提供することが重要である」と述べられている2).これらを受け,近畿地区では,近畿地区調整機構の承認のもと,薬学実務実習に関する連絡会議より出された「薬学実務実習の概略評価の例示(以下,実務実習評価表)3)」を踏まえ,近畿地区全14大学の統一概略評価基準の作成に取り組んだ.
本稿では,この統一概略評価基準「臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉」の作成の経緯と運用状況について紹介する.
医療現場で行われる実務実習は,薬学生が実際の調剤を行い,直接患者さんに接する参加型実習であり4),参加・体験型の臨床実習を実施する上で,実習施設に送り出す学生の質を保証することは,社会に対する大学の責任である.このため,学生が実務実習に出るためには,薬学共用試験(CBT及びOSCE)に合格していることを必須条件とし,これにより学生の知識・技能・態度が一定のレベルに到達していることを保証している.
一方で,改訂コアカリに基づく実務実習に向けて,ガイドラインでは「薬学実務実習の在り方・目標」において,大学に対し,「大学の臨床準備教育では,「前)」のSBOで示された内容について,学生が臨床現場でスムーズに参加・体験型の実習を行うことができる水準まで修得させる必要がある」ことを求めている.また,大学における学習内容と到達度に関する情報を,実習開始前に実習施設に提供することが重要と述べられている.これを踏まえると,CBT及びOCSEは合否のみの評価となるため,実際のところ学生の臨床準備教育の到達度がどの程度の水準に達しているのか,実習施設と共有できるツールが必要である.
近畿地区には,14の薬系大学(京都府3校,大阪府5校,兵庫県5校,滋賀県1校)(統一概略評価基準策定当時)があり(図1),毎年,約2,300名の学生の実習施設を調整している.近畿地区の実習施設調整の特徴として,近畿地区調整機構では,近畿地区内に帰省先がある場合,原則,帰省先を拠点として実習を行うこととしており,大学の所在地周辺にとどまらず近畿全域(2府4県:大阪,京都,兵庫,奈良,滋賀,和歌山)の実習施設に学生が割り振られることが挙げられる.例えば,2018年度の大阪市内の実習施設調整では,図1に示したA病院のように,毎期異なる4大学の学生を受け入れ,年間では6大学の学生を受け入れている等,1つの実習施設とその実習施設を利用する患者は,多様な大学の学生を同時期に評価しているという状況がある.
近畿地区の薬系大学と実習施設調整状況
近畿地区の実習施設調整状況から,複数の大学が関与している実習施設が多数あり,各大学からそれぞれ独自の観点と評価基準を用いて学生の到達度を提示すると,実習施設には混乱が生じることが懸念された.そこで,近畿地区調整機構では,改訂コアカリに基づく実務実習において,各大学からどの実習施設に対しても,個別の学生の臨床準備教育の到達度を同じ基準で説明するために,近畿地区で統一した評価基準が必要であり,大学における学生の到達度を共通の基準で実習施設に示すことにより,実習施設における学生ごとの実務実習の円滑な最適化を支援できるのではないかと考えた.また,統一の評価基準の作成を通して,学生が臨床現場でスムーズに参加・体験型の実習を行うことができるような臨床準備教育とはどのような教育なのか,大学-薬局-病院と連携して一貫した学習とするためにどのような臨床準備教育が必要なのか,各大学の臨床準備教育の内容について改めて見直すきっかけにつながるものと期待した.
「1」に満たない場合は「0」と評価してください. | ||||||
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被評価者 | 評価者 | |||||
(1)薬学臨床の基礎 | ||||||
観点 | アウトカム | 第4段階 | 第3段階 | 第2段階 | 第1段階 | ×0 |
①薬剤師の重要性と地域保健医療を学ぶ shows how |
病院,福祉施設などでの体験,一次救命の体験を通して,医療現場や地域における医療従事者の存在意義や責任,多職種の存在の重要性を自覚する. | 薬剤師および多職種の果たすべき役割と医療の課題に関して,患者・生活者の視点に基づいて討議する.これまでの体験を,早期臨床体験および社会貢献活動等のファシリテーションに活かす. | 薬剤師および多職種の活動を見聞した内容に関して,患者・生活者の視点にたって討議する.討議結果と早期臨床体験および社会貢献活動等の内容を他者に伝える. | 薬剤師および多職種の活動を見聞した内容に関して,患者・生活者の背景を踏まえて討議する.更に自身にできる社会貢献活動等に参加する. | 薬剤師及び多職種の役割に関して,患者・生活者への関心に基づいて討議する. 更に自身にできる社会貢献活動等を自ら調査し,その調査結果を紹介する. |
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一次救命処置(一般市民用,医療者従事者用)を他者に指導する. | バイタルサイン(脈など)の測定をし,一次救命処置(医療者従事者用)の必要性を判断し,シミュレートする. | 模擬症例に基づいて一次救命処置(一般市民用)の必要性を適切に判断し,シミュレートする. | 一次救命処置をシミュレーターを用いて実施する. | |||
②生命の尊厳と薬剤師の社会的使命及び社会的責任 shows how |
生命の尊厳と薬剤師の社会的使命を自覚し,倫理的行動をする.医療関係法規を遵守して,薬剤師としての責任を自覚する. | 患者・生活者に寄り添い,患者・生活者の利益と安全を最優先して,患者・生活者の自己決定をサポートする姿勢を模擬的な環境で示す.医療の中で薬剤師に求められる責任を自覚し,自らを律して行動する. | 患者・生活者に寄り添い,患者・生活者の利益と安全を配慮する姿勢を模擬的な環境で示す.日常の学びを振り返り記録し,省察する. | 薬剤師としての義務及び法令の遵守を踏まえて,生命の尊厳,他者の人権,プライバシーについて,真摯に討議する. | 薬剤師としての責任,守るべき倫理規範や法令を意識して生命の尊厳について討議する.共同体メンバーの個人情報や権利に配慮する.医療に従事する者として,自らの食生活や生活のリズムに気を配り,体調を良好な状態に維持するように努める. | |
③薬剤師の位置づけと社会保障制度 shows how |
社会保障制度における薬剤師の役割および他職種との関係を理解する. | 薬剤師の役割と他職種の役割および社会保障制度を相互に関連させ,より進んだ薬剤師業務や他職種との連携を提案する. | 薬剤師の役割と他職種の役割を理解し,多職種のなかでの薬剤師の貢献について討議する. | 薬剤師と他職種の業務や役割を理解し,医療における薬剤師の位置づけ,薬剤師の役割と他職種との役割の関連を説明する. | 薬剤師や他職種の業務,役割および関連する社会保障制度を列挙し,それぞれの概要を説明する. |
(3)薬物療法の実践 | ||||||
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観点 | アウトカム | 第4段階 | 第3段階 | 第2段階 | 第1段階 | ×0 |
①患者情報の把握 shows how |
薬物療法に活かすために患者情報を適切に収集・評価・共有し,患者状態を正確に把握する. | 模擬カンファレンスにおいて,積極的に参加し,情報の発信と共有により,患者情報の精度を高め,より多面的かつ正確に患者状態を把握する. | 模擬患者情報から,必要性を的確に判断して,自ら模擬患者との医療面談や身体所見を得るための観察・測定等を実施し,判断に必要な患者情報を収集・評価し,患者の状態を推測する. | 模擬患者の情報の各種媒体(診療録,薬歴,指導記録,看護記録,検査記録,お薬手帳など)から薬物治療に必要な情報を収集し,評価する. | 模擬の患者情報源から薬物療法の評価に必要な情報を試行錯誤しながら収集する. | |
②医薬品情報の収集と評価・活用 shows how |
薬物療法の評価等に必要な情報について,最も適切な情報源を効果的に利用し,情報を収集すると共に,得た情報及び情報源を批判的に評価し,効果的に活用する. | 模擬的な症例に関する調査の目的に合わせて,一次資料(原著論文)も含めた適切な情報源を利用し,調査を実践する.得た情報を量的,質的に評価し,提供する.患者啓発や医療の質向上に寄与する情報を主体的に作成・提案する. | 模擬的な症例に関する調査の目的を明確にし,基本的な情報源に加え,複数の情報源を利用して調査を実践する. 得た情報の評価を常に行い,患者や医療スタッフのニーズを踏まえた資料を作成する. |
模擬的な症例に関して薬物療法の評価等に必要な基本的な情報源である医薬品添付文書,インタビューフォーム,診療ガイドラインなどを確認し,情報の収集・評価を行う. | 薬物療法に関連する医薬品情報を試行錯誤しながら,収集・整理できる. | |
③薬物療法の問題点の識別と処方設計及び問題解決 shows how |
薬物療法の問題点の評価に基づき,問題解決策を提案し,薬物療法の個別最適化をシミュレートする. | 模擬的な症例に対して,薬物療法の問題点を主体的に識別する.問題点の現状評価を明確に行い,処方設計や他の解決策について検討し,論理的で実行可能な解決策を明示し,薬物療法の個別最適化を実施する. | 模擬的な症例に対して,有効性,安全性,経済性の観点から問題点の識別を行う努力をする.処方設計を含めた解決策について,主体的に検討し,当該ケースの薬物療法の個別最適化に努める. | 模擬的な症例に対して,薬物療法の有効性,アドヒアランス不良や腎機能低下時の投与量などの基本的な安全性の問題点を識別し,現状評価を行い,必要な処方設計を行う. | 模擬的な症例に対して,薬物療法の有効性,基本的な安全性を考慮し,必要な処方設計を行う. | |
④薬物療法の効果と副作用モニタリング shows how |
代表的な疾患を題材として,薬物療法の効果と副作用をモニタリングし,患者状態を適切に評価し,適切な薬物療法を立案する. | 代表的な疾患の薬物療法の有効性・安全性を確認するために必要な臨床検査項目や症候を,模擬的な環境で適切に収集・評価し,予後の予測に基づいた継続的な観察計画を立て,必要に応じてよりよい薬物療法を立案する. | 代表的な疾患の薬物療法の有効性・安全性を確認するために必要な臨床検査項目や症候を,模擬的な環境で適切に収集・評価し,それらをSOAP形式等で記録する. | 代表的な疾患の薬物療法の有効性・安全性を確認するために必要な臨床検査項目や症候を,模擬的な環境で適切に収集し,問題点を指摘する. | 代表的な疾患の薬物療法の有効性・安全性を確認するために必要な臨床検査項目や症候を,模擬的な環境で適切に収集する. |
(4)チーム医療への参画 | ||||||
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観点 | アウトカム | 第4段階 | 第3段階 | 第2段階 | 第1段階 | ×0 |
①医療におけるチーム医療 ②地域におけるチーム医療 shows how |
患者・生活者中心の保健医療福祉において,チームの構成員の役割を把握し,多職種協働でのマネジメントを修得する. | 薬剤師が主導的に薬物治療・健康維持増進上の問題点を解決するために,患者・生活者のニーズや地域の医療資源を把握した上で多様なチームメンバーと協働し,患者・生活者に応じた具体的なケア計画を提案し,必要に応じて改善をする. | 薬物治療・健康維持増進上の問題点を把握し,多様なチームメンバーと協働し,患者・生活者に応じた具体的なケア計画を提案する. | 薬物治療・健康維持増進上の問題点を理解し,多様なチームの構成員と連携し,患者・生活者の保健医療福祉に関するケア計画を説明する. | 地域の保健医療福祉にかかわる職種とその連携体制(地域包括ケア)及びその意義について説明する. |
* ①と②は同一の基準で合わせて評価する.臨床準備教育では場を分けるのではなく,shows howレベルの振る舞いを評価する.
(2)処方せんに基づく調剤 | ||||||
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観点 | アウトカム | 第4段階 | 第3段階 | 第2段階 | 第1段階 | ×0 |
①法令・規則等の理解 | 法令に基づいた調剤・医薬品の調製を模擬的に実施する. | (2)-②,③の実践を理解に基づいて行うことで評価を行う. | ||||
②処方監査と疑義照会 shows how |
処方監査と疑義照会を模擬的な環境で実施する. 処方監査:患者情報と医薬品情報に基づき,処方の妥当性,適切性を判断する.疑義照会:必要に応じて,疑義照会の必要性を判断し,適切なコミュニケーションのもと実施し記録する. |
模擬の患者情報と薬学的知見を統合し,患者の薬物療法のアウトカムに照らし,処方の妥当性,適切性を判断する.必要に応じて,関連する法令・規則の理解に基づき,疑義照会を適切に行うと共に,チーム内で情報の共有を模擬的に行う. | 模擬の患者情報と処方されている医薬品の基本的な医薬品情報に基づき,処方の妥当性を判断する関連する法令・規則の理解に基づき,疑義照会の必要性に自ら気づき,模擬的な環境で自発的に実施する. | 模擬の患者情報に基づく処方箋の不備・不適切な点を指摘する.指摘した内容について関連する法令・規則の定めに基づき疑義照会を模擬的な環境で実施し,その内容を適切に記録する. | 模擬の患者情報と処方を照らし合わせて適切性を確認し,関連する法令・規則等の定めに基づき処方箋の不備に関する形式的疑義照会を模擬的な環境で実施する. | |
③処方せんに基づく医薬品の調製 shows how |
監査結果に基づき適正な医薬品調製を模擬的な環境で実施する. | 模擬的な環境で,患者ニーズやアドヒアランスの向上に配慮して適切な医薬品の調製や監査を行い,その内容について最適な服用方法を提案する.抗がん剤など特別な注意を要する製剤の調製では,ケミカルハザードの回避操作を適切に実施する. | 模擬的な環境において,監査・調剤で用法に特別な注意を要する医薬品(休薬期間や漸減のある薬等)を確認し,その適切な取り扱いを行う.調製された医薬品にある誤りを指摘する. | 一包化,錠剤等の粉砕,適切な賦形等,工夫を必要とする調剤について,模擬的な環境において適切に実施すると共に,その理由を他者に説明する. | 患者情報に基づき後発品の選択を行い,医薬品の規制区分(毒・劇・向精神薬等を含む)に配慮して,計数・計量調剤を正確に行う.模擬注射処方箋に従って,無菌的混合操作を実施する. | |
④患者・来局者応対,情報提供・教育 shows how |
患者役から情報を収集し,患者教育に繋がる情報提供および服薬指導を実施する. | 患者役の薬物療法のアウトカムを達成するために必要な情報を的確に判断し,患者役から情報収集する. 患者役のニーズを的確に判断し,それを盛り込んだ情報提供及び教育を行う.患者役のニーズを判断して,それに対応した患者教育をする. |
患者役の病態や状況,高齢者,妊婦・授乳婦,小児,障害を持った方などに自然に配慮し,情報を収集する.患者役の理解度を確認しながら,情報の提供と必要に応じて患者教育を行う. | 医薬品を安全かつ有効に使用するための情報を種々のツールを用いて患者役に提供する.患者役への指導,教育内容を主体的に適切に記録する. | 患者役から薬物治療に係る基本的な情報(症状,既往歴,アレルギー歴,薬歴,副作用歴,生活状況等)を収集する.医薬品を安全かつ有効に使用するための情報を指示に従い,種々のツールを用いて患者役に提供する.患者役への指導,教育内容を指示に従って適切に記録する. | |
⑤医薬品の供給と管理 knows how |
適切な医薬品の供給と管理の意義と必要性を理解する. (知識として評価するが,調剤や災害時医療領域で活用することが望ましい.) |
法的に取扱い上の規制を受けている医薬品(劇薬・毒薬・麻薬・向精神薬および覚醒剤原料,特定生物由来製品,放射性医薬品,院内製剤,薬局製剤,漢方製剤など)の適切な管理(発注,供給,補充,保管など)に関する理解に基づいて解決案を提示する. | 法的に取扱い上の規制を受けている医薬品(劇薬・毒薬・麻薬・向精神薬および覚醒剤原料,特定生物由来製品,放射性医薬品,院内製剤,薬局製剤,漢方製剤など)の適切な管理(発注,供給,補充,保管など)に関して説明する. | 一般的な医薬品の種類と取扱い上の注意点の理解と,発注や補充の仕組み,棚卸等の業務の中で適切な在庫管理の基本を説明する. | 適切な医薬品の供給と管理の意義と必要性を説明する. | |
⑥安全管理 shows how |
医療機関における安全管理をシミュレートする. | 模擬的に医薬品及び医薬品以外に関連した安全管理体制の不備を指摘し,改善案を提案する.模擬的な場で,臨床検体・感染性廃棄物を適切に取り扱う. | 模擬処方箋で実施した調剤実習において,経験した調剤ミスあるいは過去にあった調剤ミスに対する安全対策案を立案する. | 模擬処方箋で実施した調剤実習において,経験した調剤ミスあるいは過去にあった調剤ミスに基づいて医療安全に関する報告書を模擬的に作成する. | 代表的な医療事故事例を知り,患者へ与える影響を討議する.医療現場における感染対策の重要性に留意し,スタンダードプリコーションを模擬的に実施する. |
* knows how:SBOsが知識のみのため,標準評価基準は知識領域のみとなりますが,各大学が態度やパフォーマンスの評価を行うことを妨げるものではありません.
(5)地域の保健・医療・福祉への参画 | ||||||
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観点 | アウトカム | 第4段階 | 第3段階 | 第2段階 | 第1段階 | ×0 |
①在宅(訪問)医療・介護への参画 knows how |
患者および介護者の支援に関与するために,在宅医療にかかわる地域の仕組みと他職種連携を理解し,問題点を把握する. | 患者の問題点への気づきや,他職種との情報の共有による解決案の提案方法について論じる. | 患者の病態・状態に基づく必要情報を整理・選択した記録内容を把握し,その内容に基づいた他職種との情報共有について論じる. | 地域包括ケアのしくみの理解に基づいた,在宅医療・介護の現状を論じ,基本的な記録を模倣する. | 在宅医療・介護の目的,仕組み,支援の内容や,それを受ける患者の特色と背景の理解に基づいて,薬剤師の役割と記録による情報伝達の重要性を論じる. | |
②薬物乱用防止・自殺防止・感染予防・アンチドーピング活動 shows how |
地域の保健・衛生について関わりをもつために,地域保健(公衆衛生,学校薬剤師,啓発活動)について把握する. | 地域の保健・衛生に関して薬剤師に求められるニーズを調査,評価し,実現可能な対策について討議する. | 学校や地域,地域住民からの相談事例を基に,地域の保健・衛生の向上について討議する. | 地域の啓発活動などの実施例を把握し,薬剤師の役割の重要性について討議する. | 薬物乱用防止,自殺防止,感染予防,アンチドーピング活動等について理解し,地域の啓発活動などとの関連性を調べ,その結果について説明する. | |
③プライマリケア,セルフメディケーションの実践 shows how |
プライマリケアとセルフメディケーションをシミュレートできる. | 代表的な症候を示す模擬来局者に対し,情報収集・分析を行うだけでなく,模擬来局者の生活環境や個人的心情を反映したアドバイス(受診勧奨,一般用医薬品の選定,生活習慣に関する指導等)を行う. | 薬剤師によるプライマリケア,セルフメディケーションの重要性の認識に基づいて,代表的な症候を示す模擬来局者に対し適切な情報収集を行い,その分析を活かした対応をする. | 薬剤師によるプライマリケア,セルフメディケーションの重要性の認識に基づいて,代表的な症候を示す模擬来局者に対し,一般的なアドバイス(受診勧奨,一般用医薬品の選定,生活習慣に関する指導等)を行う. | 薬剤師によるプライマリケアとセルフメディケーション,およびそれらの重要性に関して討議する. | |
④災害時における薬剤師の役割 shows how |
災害時における薬剤師の役割を理解する. | 災害時に必要な物品,備蓄や供給体制等について,倫理的側面(適応外使用,処方権,トリアージなど)も含めて薬剤師の役割をシミュレートする. | 災害時における薬剤師の役割について,倫理的側面(適応外使用,処方権,トリアージなど)も含めて討議する. | 災害時における薬剤師の役割を列挙し,要点を説明する. | 災害時における薬剤師の活動事例を収集する. |
* knows how:SBOsが知識のみのため,標準評価基準は知識領域のみとなりますが,各大学が態度やパフォーマンスの評価を行うことを妨げるものではありません.
*「調剤」や「医薬品の供給と管理」の項目中に災害時の文脈を取り入れ,通常時と災害時を合わせて準備教育を行うことが望ましい.
このような目的のもと作成する統一概略評価基準は,近畿地区全14大学が共通して用いることを前提とし,その作成にあたっては,各大学からそれぞれ推薦された教員で構成する「薬学教育協議会 病院・薬局実務実習近畿地区調整機構 臨床準備教育の評価策定に関する協議会」を立ち上げ,ワークショップ形式で議論して作成することとなった.なお,統一概略評価基準の策定にあたり,各大学の「臨床準備教育(事前学習)」の合格基準を統一するわけではないこと,到達度の測定用の基準マトリクスを作成するものであり,価値判断は各大学の裁量に任されていることを共通認識として確認した.
統一概略評価基準の作成にあたり,臨床準備教育から実務実習まで学習の一貫性を保てること,学生の成長度合の経時的な観察が可能であることが望ましいとの理由から,薬学実務実習に関する連絡会議より提示された実務実習評価表3) を参考に作成した.まず,実務実習評価表に示された評価の観点は,学習の一貫性からそのまま踏襲し,そのパフォーマンスレベルをshows howとする共通認識を形成した.また,実務実習評価表3) では,改訂コアカリ「F.薬学臨床」の(1)~(5)の中項目のうち,(1)薬学臨床の基礎,(2)処方せんに基づく調剤,(3)薬物療法の実践の3つの中項目に関しては,評価の観点と評価の基準がルーブリック表で示されているが,(4)チーム医療への参画及び(5)地域の保健・医療・福祉への参画の中項目は,実務実習記録(日誌・レポート)による評価となっており,ルーブリック表は示されていない.統一概略評価基準では,この(4)チーム医療への参画,(5)地域の保健・医療・福祉への参画の中項目に関しても,評価の観点及び評価の基準を新たに策定し,ルーブリック表として提示した.
次に,評価の基準の原則について,共通認識の形成を図った.実務実習評価表と同じく4段階とすることは異論なかったが,その段階をどのようなレベルとするか,4つの案(図2),すなわち,1)実務実習評価表と同じレベルとする,2)OSCEで求められるパフォーマンスを最高レベルの第4段階とする,3)実務実習評価表の第1段階を統一概略評価基準の第2段階とし,実務実習評価表より少し弱いレベルの4段階とする,4)実務実習評価表の第4段階を統一概略評価基準の第3段階とし,実務実習評価表より少し強いレベルの4段階とする,の案をもとに検討した.実務実習評価表の第1段階は,大学での学習を確認し,医療現場で指導薬剤師の指導の下,実際に患者・来局者に対応ができる段階(実習開始から2~4週間程度かけて到達するライン)とされている5).また,日本私立薬科大学協会により開催された改訂モデル・コアカリキュラムに基づく実務実習の構築に向けた確認会議(2017年8月29日,東京)では,大学での臨床準備教育において,シミュレーションでは実務実習評価表の第1段階まではできることを保証しておく必要があると言及されている.したがって,統一概略評価基準では,少なくとも実務実習評価表の第1段階に相当するshows howを4段階のいずれかに設定することが必要と判断した.また,実務実習評価表の第2段階から第4段階に相当するshows howのシミュレーションを大学で実施しない場合,それらの習得を全て実習施設にお願いすることになるが,「学生が臨床現場でスムーズに参加・体験型の実習を行うことができる水準まで修得させる必要がある」大学の臨床準備教育としてそれでよいのか,との問題提起もなされた.各大学の現状からできるできないの観点で評価の基準を考えるのではなく,実務実習に臨む学生としてshows howのパフォーマンスを評価できる環境を整えていく必要があるのではないか,という方針のもと,統一概略評価基準の原則は,3)実務実習評価表の第1段階を統一概略評価基準の第2段階とし,実務実習評価表より少し弱いレベルの4段階とすることで合意を得た.
臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉作成の原則
続いて,「F.薬学臨床」の(1)~(5)の中項目ごとにグループに分かれ,グループワークにより,実務実習評価表に示されたdoesのパフォーマンスを,大学で実施可能なshows howとなるように,ロールプレイやシミュレーション,模擬患者の活用等を考慮して評価の基準を記述し,ルーブリック表を作成した.なお,統一概略評価基準の第1段階は,「実務実習開始までに身に付けておくべき」という観点から,新たに作成した.
作成した統一概略評価基準の案は,各大学に持ち帰りパブリックコメントを求め,寄せられた意見を踏まえて加筆修正し最終版とした.病院・薬局実務実習近畿地区調整機構から各大学に最終版を公開するにあたり,その序文において,統一概略評価基準により測定された学生の到達度を実務実習受け入れ施設に開示すること,測定は,学生の自己評価,教員による測定(観察記録を含む)などが想定されるが,具体的には各大学の判断で運用すること,統一概略評価基準の到達度は,実務実習開始までのすべての学習を対象とすること,統一概略評価基準による測定は,OSCEとは独立して行うことの4点を遵守して運用すること各大学に求めた.また,統一概略評価基準の結果によって,実務実習の受入れの可否を定めるものではないこと,統一概略評価基準による測定は,いわゆる事前学習・事前実習の中に限るものではないこと,統一概略評価基準による測定結果を,いかなる科目の成績判定に用いる必要はないこと,統一概略評価基準の3~4段階の内容は「経験をする機会がなかった」という結果でも構わないことを共通認識として留意するよう促している.これらの通知の後,2019年から開始された改訂コアカリに基づく実務実習において,統一概略評価基準の使用が開始され,各学生の臨床準備教育の到達度を近畿全薬系大学共通の基準で実習施設と共有することが可能となった.
統一概略評価基準の策定の意義は,実務実習に協力いただく患者さんや生活者の方々,将来実務実習を受ける未来の薬学生,そして,実務実習受け入れ先の指導薬剤師をはじめとした全ての関係者に対して,この学生には十分な能力があり,しっかりとしたパフォーマンスを示すと思われることを,大学の責任において保証することである.統一概略評価基準は,大学で行う臨床準備教育には,どのような内容が求められているのか,各大学が真剣に考え策定した.この統一概略評価基準を活用することで,各大学の臨床準備教育の内容がより充実したものとなり,薬学生の実務実習に安心して協力していただきたいと,社会に対して胸を張って言えるようになるものと期待する.
近畿地区統一概略評価基準「臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉」の作成にご尽力いただいた「臨床準備教育の評価策定に関する協議会」のメンバー,今西孝至先生:京都薬科大学,浦嶋庸子先生:大阪大谷大学,角本幹夫先生:立命館大学,桂木聡子先生:兵庫医療大学,加藤隆児先生:大阪薬科大学,河内正二先生:神戸薬科大学,河野奨先生:姫路獨協大学,上町亜希子先生:神戸学院大学,桒原晶子先生:武庫川女子大学,首藤誠先生・菊田真穂先生:摂南大学,津田真弘先生:京都大学,細見光一先生:近畿大学,仁木一順先生:大阪大学,松元加奈先生:同志社女子大学(敬称略,順不同)及びタスクフォース佐藤卓史先生:大阪医科薬科大学,長井紀章先生:近畿大学,辻琢己先生:摂南大学,清水忠先生:兵庫医療大学,川崎郁勇先生:武庫川女子大学,木下淳先生:姫路獨協大学(敬称略,順不同)に深く感謝いたします(所属は統一概略評価基準策定当時).
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.