薬学教育
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6 巻
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連載:日本の薬学教育のニーズを踏まえた国際的視点の浸透に向けて
  • 武田 香陽子, 荒川 直子, 入江 徹美, 小澤 光一郎, Epp Denise, 西口 工司, 平田 收正
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-039
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/28
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    日本薬学教育学会は2016年に発足以降,「薬学教育・薬剤師教育」に関する様々な研究活動を行っており,2018年9月より一般社団法人として社会的責任を負っている.活動内容は年々充実してきているが,海外事例をもとに日本の薬学教育に関する評価・検証を行うことおよび国際的な視点での薬学教育に対する取り組み等は十分とは言えず,我が国における「薬学教育・薬剤師教育」のさらなる充実・発展を図るためには,国際的視点を取り入れた取り組みを推進することが非常に重要と言える.そのため,2021年10月に国際化委員会を設置し,海外の薬剤師教育や薬剤師の活動に関する情報の収集と学術集会や薬学教育学会誌等を通じた国内での国際的な情報の発信・共有を行い,日本の薬学教育と他国の薬学教育の比較解析や人材育成効果の検証,これらに基づいた我が国の教育に反映すべき事項の具体化と提言,さらにはその実質化等の活動等を通じて,我が国における「薬学教育・薬剤師教育」のさらなる充実・発展を図ることとした.

  • 桐野 豊
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-040
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/28
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    欧米の薬学教育に関する情報を収集した.中でも,医療薬学先進国といわれているイギリス,アメリカ,及びカナダについて,最近の詳しい情報を,主としてWeb(当該大学のHome Pageなど)から,一部は当該大学教員との交信により,収集した.薬学教育制度は,その国の高等教育制度の一つであり,また薬学教育は当然ながら,当該国の薬剤師の職務と深く関連しているので,高等教育制度一般や薬剤師の職務権限についても背景・周辺情報として重要であると考え,収集に努めた.特に重点的に取り上げた項目は,教育制度と入学者選抜,カリキュラム,教員組織(教員の経歴),及び大学院(制度と現況)である.これらの実情を詳細に調べて,比較・分析し,日本の薬学教育の改善に有用と思われるところを考察した.

総説
  • 蓮元 憲祐
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-002
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/11
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    高度化が進む現代の医療では,医師や薬剤師,看護師をはじめとする医療専門職種が各々の専門性を活かして「チーム医療を実践」することが求められている.そのような背景で,薬剤師が専門性を発揮できる分野の一つである治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring; TDM)に関する事前学習に注目した.一般にTDMが実施されることが多い病院内でのケースだけでなく,薬局においてもTDMの考え方を取り入れた服薬指導を可能とするような学習プログラムを開発・実践した.その教育効果として,8割以上の学生で実践的ケーススタディの有用性が得られており,講義形式の実習に比べて学習効率が高い可能性が示された.また立命館大学では,上述に加え,近年注目が集まっているファーマコゲノミクス(Pharmacogenomics; PGx)に基づく個別化投与設計にも注力している.その結果,PGxの処方提案への応用に関する認識が顕著に向上し,高い学習効果が得られることを見いだした.

  • 土井 信幸, 富澤 崇
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-005
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
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    日本ではデジタル社会に向けて教育改革が行われているが,薬剤師に必要なICTリテラシー教育についても議論を深める必要がある.薬剤師・薬局の医療ICT化(薬局に特化したものをPharma Techと呼ぶ)の導入や活用は,薬剤師業務の中心がモノからヒトへと変化する中で,医療アウトカムの増大,医療サービスの向上,患者の利便性を高める上で不可欠となっている.医療者である薬剤師にとって単にPharma Techを使いこなすだけではなく,患者のUX(user experience)デザインを意識したPharma Techの活用が求められる.しかし,現状の薬剤師のICTリテラシー教育の中ではUXデザインを意識したものは皆無である.そのため,治療アプリは薬理学や病態生理学と,情報セキュリティーは関連法規と,SNSの活用はコミュニケーション学と,Pharma Techは調剤学と,というように既存科目の中にICTリテラシー教育を組み込み,その中でUXデザインを意識した教育を産学連携で行うことが重要と考える.

  • ―新たな繋がり構築を目標として―
    永田 実沙, 青江 麻衣
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-016
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/25
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    大学教員は個々の裁量が大きく負担度も自律性も高い職業であり,やりがいがある.一方で,ワークとライフの分別が困難な業務が多くもあり,結婚・出産・育児・介護などのライフイベントが発生した場合に困難を抱える場合がある.本来ライフイベントの発生に男女差はないはずだが,現状,女性研究者の離職が比較的多い状況となっている.我々は,どのような原因や葛藤が就労継続を困難にしているかを明らかにすることが第一歩になると考え本シンポジウムを企画した.本シンポジウムでは,ライフイベントと就労継続の困難さについて,特に育児に焦点を合わせて情報共有するとともに議論を促すことを目的とした.本総説では,シンポジウムの実施内容と共にシンポジウム実施後に実施したアンケート結果,また現在進行中の「就業継続」に関する質的研究の概要について報告する.

  • 青江 麻衣
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-019
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/21
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    近年,薬学部の定員数増加及び少子化傾向を背景に,一部の薬科系大学では,退学率及び留年率が増加傾向にある.そこで,最適な補習・補完教育の構築を目的とし,学生の特性により適する学習方略を検討するため,1)問題演習型補講,2)事前学習動画を用いた講義型補講の2つの方略を企画・実践し,その学習効果を検証した.その結果,前者では,成績中位群(第2群)において,非受講者の方が受講者より成績が高いこと,後者では成績中下位群(第3群)において,補講受講者の方が非受講者より成績が高いことを明らかとした.さらに,ゲーミフィケーションの概念を取り入れ,独自に作成した構造式かるたを用いた学習方略の立案・実践し,その評価を行った.その結果,学生間での事前共同学習が促されることで学習効果につながることを見出した.これらの研究より,学生の特性に合わせた学習方略を選択することで,効果的な補習・補完教育を提供し得ることを示した.

  • 池村 舞, 橋田 亨
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-022
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/21
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    薬学部が6年制となり,より高い資質や能力を持つ薬剤師の養成が望まれている.研究活動は,医療の発展に寄与するためのエビデンスを創出する上で有用であるだけでなく,薬剤師としての業務を行う上で必要な幅広い能力を養成することができる.我々の調査から,研究室在籍期間が長いほど,研究経験を積んでいる傾向にあったものの,6年制薬学部卒業者の経験値は,4年制薬学部卒業後に2年の修士課程を修了した者の経験値と比較すると,低い傾向にあった.この結果も踏まえ,主として臨床研究の経験の少ない薬剤師を対象に,効率的で有意義な研究活動の一助となるよう,研究の意義や方向性を定期的に見直すための「研究テーマ進捗状況報告書」を独自に作成し,運用している.臨床能力の高い薬剤師を養成するために,ひいては,薬物治療の発展のために,基礎研究・臨床研究を問わず,薬学生や薬剤師が積極的に研究に取り組む機会を設けることが重要である.

  • 浦嶋 庸子, 石見 拓, 木下 淳, 赤塚 敬司, 小畑 友紀雄
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-013
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
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    薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,「一次救命処置(心肺蘇生,外傷対応等(BLS: Basic Life Support)を説明し,シミュレータを用いて実施できる」ことが求められている.BLS講習として,近年では簡便かつ短時間で,実践的なトレーニングが可能であるPUSHコースが知られており,薬学教育での導入に適していると考えられる.本総説では,「すべての薬剤師がBLSを身に付けたニューノーマル時代に」と題してシンポジウムを行い,心臓突然死やBLSに関する基本的な知識および技能について共有した上で,大学における薬学生へのPUSHコースの実践例と受講者の意識変化,地域の薬局が関与したBLSの症例,および薬剤師に今後求められる役割について議論した.本総説では,その内容について紹介する.

  • ―大学・臨床における学びの循環―
    浦野 公彦, 波多野 紀行, 尾関 佳代子, 小茂田 昌代, 河原 昌美, 小崎 彩
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-035
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
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    日本の薬学教育においてevidence-based medicine(EBM)の重要性は認識され,薬学教育モデル・コアカリキュラムにも明記されている.しかし,現状では臨床で活用できるEBMスキルを身につけるトレーニングが十分とはいえない.効果的なEBM教育を実践するには大学と臨床との間で教育の循環を行うことが必要であると考える.そのためには臨床現場である薬局や病院からのエビデンスの創出を薬剤師から発信し,大学ではアカデミック・ディテーリングの理念に基づき,基礎と臨床の橋渡し教育を通した処方の最適化への貢献を目指し,また,フォーミュラリーの作成など臨床に直結した実習の実施が望まれる.さらに米国では基礎教育から実務実習までの薬学教育全般を通したEBM教育が実施され,これは今後日本でも取り入れるべき教育体系である.

  • 頭金 正博, 合田 幸広, 猪川 和朗, 益山 光一
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-051
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
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    レギュラトリーサイエンスとは,最新の科学成果を真に社会に役立てることを目的として調整するための科学とされ,社会活動と密接な関連性をもった学問である.このレギュラトリーサイエンスの概念を社会での実務経験のない学生に理解させるためには,医薬品等に関連する知識を教えるのみでは難しい.また,薬学分野におけるレギュラトリーサイエンスは医薬品化学から薬理・毒性学,衛生化学,医薬品情報学,薬事関係法規等までの幅広い科目と関連しており,レギュラトリーサイエンス科目のみで十分な学習効果を期待することも困難である.そこで本総説では,レギュラトリーサイエンス分野での経験が豊富な3名の薬学研究者に薬学教育をレギュラトリーサイエンスの視点から見た場合の問題点や,レギュラトリーサイエンスと実務実習との関連性に着目した教育方法,また,レギュラトリーサイエンスを薬剤師や薬学研究者の強みとして活かす方策について執筆いただいた.

誌上シンポジウム:臨床準備教育の方略を考える~近畿地区統一評価基準の活用を踏まえて~
  • ⻆山 香織, 安原 智久
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-007
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/14
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    「薬学実務実習に関するガイドライン」では,大学への指針として,「実習施設に対し,大学における学習内容と到達度に関する情報を実習開始前に提供することが重要である」と述べられている.近畿地区では,毎年,近畿全域の実習施設に近畿14大学の約2,400名の学生が割り振られ,実習施設は各大学から多様な学生を受け入れることになる.各大学独自の評価基準で学生の到達度を提示すると,実習施設では混乱が生じることが懸念される.そこで,近畿地区調整機構では,学生の到達度を統一の基準で評価し実習施設に提示することで,実習施設が受入れ学生の到達度に合わせ実務実習を円滑に最適化できるのではないかと考えた.また,評価基準の作成を通して,大学における臨床準備教育の内容について改めて見直すきっかけにつながるものと期待した.本稿では,「臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉」の作成の経緯と運用状況について紹介する.

  • 清水 忠
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-016
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/14
    [早期公開] 公開日: 2022/02/02
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    我々は,2016年度より薬学教育モデル・コアカリキュラムで明示された「薬剤師として求められる基本的な資質」のうち,基礎的な科学力と薬物療法における実践的能力を橋渡しできるような分野横断型の実習として,4年次の実務実習事前学習において,医薬品化学担当教員と実務家教員が連携した橋渡し教育を行っている.本シンポジウムレビューでは,基礎系教員と実務家教員が連携し医薬品の配合変化を題材として,臨床現場で生じうる問題を基礎薬学系科目の知識を踏まえて理解・予測する体験型教育の概要と受講生の評価について紹介する.さらに,2021年度以降に実施を予定している臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉を用いた評価の計画について述べる.

  • 上田 昌宏, 恩田 光子
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-028
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/14
    [早期公開] 公開日: 2022/01/26
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    1次資料を含めた医薬品情報の評価と,患者情報を踏まえて最適な医療を提供し,EBMを実践できる薬剤師の養成が求められている.大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学薬学部)では,実務実習でEBMを実践できるように4年次にチーム基盤型学習を用いたEBM演習を行っており,演習の中で患者問題を抽出し,医学論文の評価,適用へとつなげている.2020年度は,新型コロナウイルスの影響による制限で,2019年度に比べ演習内容を縮小しての実施となった.本シンポジウムレビューでは,演習前後で行った理解度確認試験を年度毎に検証することで,本演習の教育効果を報告する.また,EBM演習での学習内容を評価するために,臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉を用いた評価について述べる.

誌上シンポジウム:みんなで考えよう!でら困った学生~多様性をみとめあう実務実習~
  • ―多様性をみとめあう実務実習―
    日比 陽子
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-023
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
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    社会は,思考方法や行動様式が異なる様々な人が混在して成り立っている.環境を認識する方法や思考の癖が異なる人同士が関わりを持った場合,それぞれが持つ「常識」の違いから摩擦が生じることも往々にしてある.長期実務実習では年間何人もの実習生が11週の長期間「職場という共同体」に滞在する.彼らの興味も行動様式も様々で,指導薬剤師の「こうあるはず・こうあるべき」の範囲を外れた個性を持つ実習生に出会ったとき,「でら(※名古屋弁で「非常に」の意)困った!」ことになる.病院では,病棟実習など実習生が特定の薬剤師に長期間指導を受ける場合に問題が発生しやすい.担当する薬剤師によって仕事の進め方や大切にしていることも様々なので,実習生と指導薬剤師の組み合わせは重要である.本総説では多様な人間同士が認め合い協働する方策を考える題材として,多くの指導薬剤師が「でら困った」経験をしている実務実習をとりあげる.

  • ―Myers-Briggs Type Indicatorを用いて認知の仕方の違いを理解する―
    大里 洋一
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-014
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
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    薬学生の病院・薬局実習において,しばしば指導者が実習生の言動が理解できず思考停止になることがある.なぜ実習生の言動が理解できないのかを紐解いていくと,知識・技能に関する問題,態度や行動特性に関する問題,そして性格や価値観に関する問題に大別できる.さらに,指導側の薬剤師と実習生との間でコミュニケーション・ギャップが生じるのは知識・技能以外の問題が多いことに気づく.なぜなら,これらの学問は現役の指導薬剤師でも体系的な学習をしてこなかったからだ.しかし,態度や行動特性に関する学問の多くは体系化されているため,新たに学ぶことは可能である.また性格や価値観の捉え方もMBTI®など適切なツールを使えば理解することはできる.薬剤師は独自の専門性を維持しながらも,必要とされているスキルを身につけることが実習生とのコミュニケーションのみならず様々な関係者に貢献する上で重要であると思われる.

誌上シンポジウム:改訂モデル・コアカリキュラムに求められる臨床教育における課題と展望
  • 平田 收正, 高橋 一栄
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-021
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
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  • 段林 正明
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-028
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    [早期公開] 公開日: 2022/06/21
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    昨今,他職種と連携し最適な処方設計と薬物療法を実践できる薬剤師の育成が求められている.本稿では,中規模病院における臨床教育として大阪府済生会野江病院(以下,当院)における実務実習の取り組みと課題について報告する.当院では,(1)代表的な8疾患の対応として,心不全カンファレンスなど,専門領域の医師との情報共有やAST,RCT,NSTなどの各チーム医療において薬剤師の職能にふれること,(2)救急外来や心不全外来といった外来診療において医師や看護師との意見交換などの参加・体験型実習において,他職種と交流し臨床現場で活躍できる薬剤師の育成が可能と考える.次に課題として,指導薬剤師も,上記教育の実践を学ぶ機会が少ないため,(3)当院では京都薬科大学と連携したフィジカルアセスメント講習にて,患者の身体所見を薬学的管理に活かし,薬物治療に積極的に介入できる薬剤師の育成への貢献を目指している.

  • ―“ヒトを診る力” を兼ね備えた薬剤師教育について―
    今西 孝至
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-004
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    [早期公開] 公開日: 2022/04/29
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    近年,薬剤師の役割が『対物業務から対人業務へ』と移行するにおいて,薬剤師には患者状態を把握するための能力,“ヒトを診る力” が必要となる.本稿では,京都薬科大学での “ヒトを診る力” を兼ね備えた薬剤師教育の取り組みの概要と今後の薬剤師に求められるフィジカルアセスメントに関する私見を述べる.本学では,学部教育として2年次の「解剖学・生理学実習」で正常な生理学的状態を理解するためのフィジカルアセスメント教育を,4年次の「実務事前実習」では患者の病状把握とその薬物療法について理解するためのフィジカルアセスメント教育を行っている.さらに,旧4年制薬学教育を受けた薬剤師に対しては生涯教育として「フィジカルアセスメント講座」を開講しフィジカルアセスメント教育を行っている.最後に,フィジカルアセスメント教育に携わる者として大切なことは,薬剤師のフィジカルアセスメントの目的を常に見失わないことであると考える.

  • 西田 祥啓, 多賀 允俊, 高橋 喜統, 政氏 藤玄
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-015
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    [早期公開] 公開日: 2022/05/25
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    薬学生教育において集中治療領域を学ぶ重要性は認識されているが,実際に集中治療領域の学生実習を実施している施設は多くはない.集中治療領域の実習内容は,集中治療を要する患者の薬学的管理に加えて集中治療室退室後の患者に対する薬学的管理も含むため,全ての薬学生が学ぶべきである.当院では集中治療領域の実習を講義とSGDを交えて2日間実施している.当院での実習は特に敗血症に対する薬物治療と臓器系統別評価を学ぶことに寄与し,実習生に集中治療領域の薬剤師業務への興味を与える可能性がある.また,集中治療領域における薬剤師業務の必要性は実習経験の有無に関わらず薬学生から認識されており,学習ニーズも高いため,学習機会の提供が望まれる.今後は学生実習内容の更なる充実と集中治療に関する卒後教育プログラムの継続により,重症患者に向き合える薬剤師育成を図っていく.

  • ―アクティブラーニングを意識した実習を通して医療人としての自覚を醸成する―
    辻井 聡容
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-012
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    [早期公開] 公開日: 2022/05/25
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    学習者が自ら答えを求める学習を “アクティブラーニング” という.アクティブラーニングを意識した臨床実習を行うには,学生のモチベーションを高めるような導きが必要である.「どんな薬剤師になりたい?」「一人の医療人として生涯勉強する覚悟は?」「地域を支えるとは?」「今自分に出来る事は?」といった実習生の主体性に働きかけることが重要である.公立豊岡病院組合立病院における薬学実務実習では,多くのがん患者さんと話をする機会を設定し,アクティブラーニングを取り入れた臨床実習を行っている.がんと診断されて間もない方や抗がん剤治療中の方,在宅療養に移行した方,看取りが近い方から実際にお話を聞く場面をなるべく多く設定し,患者さんの生の声を聞きます.薬の効果や副作用,不安に感じていること,薬剤師への期待などについて伝えていただく.実習期間中には,今医療の現場で起きていることと,自分が薬学部で学んでいることとの “連続性” を常に感じるように実習生に問いかけている.大学で学んだ内容を基軸におき,臨床で遭遇する新しい知識や技術を能動的に吸収し,次々に現れる問題を解決する能力とその習慣を早くから身につけることは,医療人としての自覚を養うことにも繋がる.大学・病院・薬局・薬学生が,目指す教育指標を共有し協働して進めていくことで,高い資質をもった次世代薬剤師を育成することができると私は考えている.

  • 加藤 隆寛, 大西 正文
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-025
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
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    救急・集中治療は,臨床実習の中で専門領域に位置付けられている.救急・集中治療では,薬剤師の積極的な介入が安全な薬物治療の提供につながること,患者の状態の変化が激しいため薬物動態変化の予測が立てづらく,数時間単位から毎日のアセスメントを繰り返し,薬物治療を適宜修正する必要がある.当院では実習期間中に身につける資質として「常に考え続け,臆さず積極的に行動できる」ことを意識して臨床実習を行っている.実習生は救急薬剤師をテーマとしたディベートを通じて,薬剤師が参画する意義を常に考えることの重要性を学ぶ.また,Intensive care unit(ICU)実習では指導薬剤師が実習生の自ら考えた薬物治療に責任を持たせるよう接することで,自分の知識を総動員し,薬物治療について考えることを経験する.第一線で活躍できる薬剤師を育てるために,常に考え続け積極的に介入していく資質を,臨床実習を通して実習生が身につけることが望ましい.

  • 鈴木 匡
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-011
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    [早期公開] 公開日: 2022/04/29
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    平成25年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムは,6年制薬学部教育の本格的な薬剤師育成を目標にしたカリキュラムとして提示された.そこに示された重要な改訂の観点が効果的に実施されているかについて考察した.学習成果基盤型教育の実践については,一般目標,到達目標という形式の記載の中で,薬剤師が身に付けるべき能力の目標が明確でなく,それが薬学臨床教育の効果的な評価を困難にしている.参加・体験型の実務実習,代表的な疾患については,理解され広がっているが,学生が本当に臨床の実践的能力を向上させたかについて,未だ課題が多い.臨床薬学教育の卒業時までの一貫した評価を提示することは,これらの課題解決のためにも必要であると考えている.上記の考察等から,これから改訂されるモデル・コアカリキュラムの方向性について論じてみた.

誌上シンポジウム:薬学における『災害時の医療』教育のニューノーマル~全医療者のセカンドスペシャリティとして~
  • ~全医療者のセカンドスペシャリティとして~
    和泉 邦彦
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-024
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    [早期公開] 公開日: 2022/08/23
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    災害に遭えば,誰もが当事者になり,緊急対応を求められる.遭遇してから学んだのでは遅い.全医療者が,災害に対する対応力を「第2の専門」として身につけねばならない.さらに,新型コロナウイルス感染症の拡大は,「災害時の医療」の位置づけや教育環境の様相を変化させた.我々は,自然災害と感染症の拡大という異なった対象への総合的な対応力や,自然災害と感染症拡大が同時に生じる「複合災害」に対する対応力を求められている.「災害時の医療」は,対象ごとに,各領域のサブスペシャリティとして習得するのではなく,「第2の専門」として統合的に習得することが求められる.このことにより,あらゆる緊急事態から生じる健康危機に対し,適切に対応することが可能となると考える.まずは教育者自身が,第2の専門として災害に対する対応力を習得することが求められる.もしくは,学習者をしかるべき教育者へとつなぐ努力が求められる.

  • 小林 靖奈
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-030
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    [早期公開] 公開日: 2022/08/23
    ジャーナル フリー HTML

    我が国の自然災害は,台風,地震,津波,土砂崩れ,豪雪,噴火,猛暑,寒冷など,ほとんど全種類を網羅している.特に近年の自然災害は一度発生すると広域になり,かつ避難所生活は長期に亘ることが特徴である.かつて我が国は化学兵器サリンによる人為災害も経験している.このように,多様な災害を経験する国はあまりないであろう.現行の薬学教育モデル・コアカリキュラムに含まれる災害時医療に関するSBOsは少なく,さらに方略は大学に委ねられている.大学に任されているということは,各大学で独自教育ができるが,現実には薬学部での災害医療教育は進んでいないと思われる.その原因は様々な理由が考えられるが,大きな理由の一つに,災害医療に精通した薬学部の教員が現状では少ないことが原因と筆者は考えている.一方,近い将来,必ず来ると予測される大規模災害発災時に活躍し,被災者の健康維持の貢献に資する薬剤師を排出するために,「今から」どのような教育をすべきか.今回,筆者が前職で新潟大学医学部災害医療教育センターとの共同研究として行った「薬学生の災害時医療に対する学修ニーズに関する調査研究」の結果について,薬学生が求める学習ニーズと薬剤師が求める教育ニーズを報告する.

  • 名倉 弘哲
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-038
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー HTML

    近年多発する大規模災害における医療支援のなかで重要な役割を果たしてきた薬剤師の活動実績を可能な限り薬学教育のなかで取り上げていくべきである.古くから災害現場では,医師,看護師,救命士,警察,消防,自衛隊の活動や実績がクローズアップされてきたが,東日本大震災以降は被災地での医薬品需要とともに薬剤師の災害対応にも期待が大きい.さらに,近年の薬学教育制度の変革期において薬学教育モデル・コアカリキュラムのなかにも災害時の薬剤師の役割を教育するSBOsが追加され,全国の薬学部では災害対応経験のある実務薬剤師に頼る場面も増えつつある.今後は災害医療が体系的な学問として薬学教育で発展が必須となると考えられる.これまでに被災地で医療支援に参画した多くの薬剤師のなかには,日常の薬剤師活動とは程遠い災害時の対応に数多くの課題・難題を持ち帰った事例があり,その教訓として問題解決方法を導く災害教育が重要となるであろう.

  • ~災害医療に関する学生のニーズをいかに大学教育へ反映させるか~
    平田 尚人
    原稿種別: 総説
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-034
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    [早期公開] 公開日: 2022/08/23
    ジャーナル フリー HTML

    近年,災害医療への関心の高まりや社会のニーズから,薬学教育においても災害医療分野の充実が望まれている.そこで,東京薬科大学では,学年横断的な取り組みとして,関連科目を紐付けた災害医療薬学コースの構築を試みたためご紹介する.演習での主な教育内容は災害医療に関連した学会や団体の災害医療関連研修をモデルに,トリアージの実践やシミュレーション,トランシーバを使ったミッションゲームなど,グループワークやロールプレイといったアクティブ・ラーニングを積極的に取り入れた.さらに2021年度は,「新興感染症のパンデミックにおける薬剤師の役割」をテーマに演習を計画した.附属病院を持たない本学では,必修科目と選択科目を組み合わせることで災害医療の修学ニーズに対応している.今後は教育内容の充実を図るとともに,学会等が主催する研修コースを組み合わせることにより,災害時にも率先して活躍できる薬剤師の育成を目指していきたい.

原著
  • ―薬学部1~4年生によるオンライン授業への評価―
    安原 智久, 坂 優香, 串畑 太郎, 上田 昌宏, 永田 実沙, 曽根 知道
    原稿種別: 原著
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-038
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/17
    ジャーナル フリー HTML

    COVID-19の感染拡大により始めたオンライン教育は我々に新たな教育上の選択肢を与えた.しかし,オンライン教育の学生からの評価については丁寧な調査と分析を行う必要がある.本研究では,2020年度を通して,様々なオンライン授業及びCOVID-19流行下での対面型の授業を経験した摂南大学薬学部の1~4年生にアンケート調査を行い,特定の科目や学年に限らない総論的な薬学部生のオンライン授業への評価を調査した.アンケートは2021年3月に無記名方式でGoogleフォームを用いて行い,1~4年生それぞれ,123人(53%),128人(62%),90人(41%),62人(29%)から回答を得た.薬学生のオンライン授業への総論的な評価は,学習領域によって捉え方が大きく異なっていることが明らかとなった.特に,知識領域の学習では対面型よりも高い支持と自己効力感があることも示唆された.今後は領域や目標,学習者の属性に最適化された,オンライン授業も含めた授業デザインを検討する必要がある.

  • 安原 智久, 永田 実沙, 平田 加奈, 串畑 太郎, 上田 昌宏, 曽根 知道
    原稿種別: 原著
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-032
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    ジャーナル フリー HTML

    我々は,適切な測定と統計解析による社会調査研究ができる薬剤師の養成を目指し,チーム基盤型学習(TBL)と問題解決型学習(PBL)による演習プログラムを構築し,量的研究によりその有用性を既に報告している.今回,本演習内で学生が経験した学習過程を詳細に検証するため,質的研究を加えた混合研究として解析を進めた.既報の量的解析で学生を分類した5つの群ごとに,演習の感想文をSteps for Coding and Theorization(SCAT)により解析し,ストーリーラインと理論記述を生成した.その結果,学生は自らの立ち位置や既有の知識,能力に合わせてアクティブラーニングの中で多様な学びに取り組んだことが明らかとなった.同じ量的な傾向を示す群でも学生の学習の過程,取り組みや学びの違いが示唆され,量的研究のみでは明らかにならなかった満足を得ていることが示された.本成果は教育成果の検証において,課題に対して量的な研究では見いだせない解決を混合的手法がもたらす可能性も示している.

短報
  • ―新規学修プログラムの開発に向けて―
    刀根 菜七子, 三島 健一, 藤岡 稔大
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-017
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー HTML

    福岡大学薬学部では入学後にリメディアル教育を実施している.2014年度入学者が卒業に至るまで追跡した成績データと,アンケート調査の結果を解析することで,これまで明らかになっていなかった本学における生物リメディアル教育の長期的な効果を検証した.成績解析の結果,リメディアル教育の受講により,入学時に実施したプレイスメントテストIで見られた学力差は早期に解消し,その効果は卒業時まで維持された.またアンケート調査結果から,リメディアル教育開始時には回答者の65%が抱えていた生物に対する苦手意識の改善につながったことが分かった.さらに第105回薬剤師国家試験の合格率は非受講者と比較し,受講者の方が高かった.これらの結果から,リメディアル教育の受講により早期に生物への苦手意識を取り除くことは,学生が薬学を学ぶ上で,卒業に至るまでの長期にわたる学修意欲の維持・成績向上に寄与することが示唆された.

  • 福野 修平, 長井 克仁, 下川 隆臣, 小西 廣己
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-024
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー HTML

    改訂薬学教育モデルコアカリキュラムでは,卒業時に薬剤師として求められる10項目の基本的な資質(10の資質)が提示されているが,卒業後も10の資質が向上されるか否かは不明である.本調査では,大阪大谷大学薬学部同窓会に連絡先を登録している517名を対象として質問紙調査を実施し,医療機関で働く中で10の資質が偏りなく習得されているか検討した.質問紙は無記名式とし,メールで送付し,Googleフォームで回収した.設問は10の資質に関する15項目とし複数選択式とした.質問紙の回収率は22.2%で,男女比や薬剤師歴はほぼ均等であった.病院薬剤師と比較して薬局薬剤師の薬剤師としての心構えと地域の保健・医療における実践的能力の習得度は高く,チーム医療への参画と研究能力は低かった.結論として,10の資質間で習得度には大きな偏りがあり,研究能力は医療機関で薬剤師として働く中で最も習得困難な資質と示唆された.

  • 土井 信幸, 小見 暁子, 中島 瑞貴, 富澤 崇
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-035
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/02
    ジャーナル フリー HTML

    今後,薬剤師による医療ICT(薬局に特化したものをPharma Techと呼ぶ)の活用は医療アウトカムの増大,医療サービスの向上,患者の利便性の向上などを目指す上で不可欠となる.しかし,Pharma Techの活用には薬剤師・薬学生のICTリテラシーが重要と考える.そこで本調査では,2021年3月時点で公開されている薬学部を有する大学(77大学,79学部)のシラバスを調査した.調査項目は,科目名,担当教員の所属・専門分野,開講学年,授業形式,GIO・SBOs,学習評価などとした.薬学部のICT系科目の設置率は1年次が最も高く,その内容は入学時オリエンテーションに近い内容であった.一方,ICTの医療アウトカム・サービスの向上などの臨床応用を目的とした授業の設置率は5.9%であった.このことは4年次以降の高学年でのICT系科目の設置率が低く,授業に臨床経験のある実務家教員の関わっている割合が11.8%と低いことが一因と考えられた.

  • 弓削田 祥子, 西丸 宏, 加瀬 義夫
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-026
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    武蔵野大学薬学部6年生に対して実施した薬剤師国家試験と同形式の試験(9月~2月に計6回実施)における総合計および各科目の成績推移をグループ化できるかについて,3年間(2017–2019年度)のデータを用いたクラスター分析を行って検討した.その結果,総合計およびすべての科目について上位・中位・下位の3グループに分類することができたが,その構成人数は科目によって異なる傾向を示した.また,すべての科目について総合計との相関が見られた.ある時点の試験成績から薬剤師国家試験の合否に関して有意に影響がある科目を見いだせるかについて多重ロジスティック回帰分析で検討したところ,薬理など複数の科目で合否に影響がある可能性が示唆された.本研究は,各学生の早い時期の試験成績から,学習到達度の把握や今後の成績推移の見通しを予測し,国家試験対策における学生指導や学習方略の構築を検討する際に有用な知見となる可能性を示している.

  • ―自己効力感,達成関連感情,学習方略の関連―
    児玉 典子, 藤波 綾, 湯 立
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-003
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー HTML

    本研究では,薬学生の薬学英語学習について,自己効力感,達成関連感情,学習方略の関連性をControl-Value Theoryを用いて検討した.質問紙は,池田の試験場面における達成関連感情尺度日本語版と森の英語に対する自己効力感尺度の項目の表現を一部変更して用いた.学習方略使用尺度については,森の英語学習使用方略尺度の項目を参考に作成した項目を因子分析した結果,「推測方略」,「理解方略」,「作業方略」,「熟考方略」に分類された.相関分析の結果,positiveな達成関連感情の「楽しさ・希望・誇り」は,自己効力感,学習方略との間に先行研究と同様に正の相関が見られた.一方,新しい知見としてnegativeな達成関連感情である「怒り」は「希望・誇り」,「熟考方略」との間に正の関連が認められた.

  • 池田 徳典, 堀尾 福子, 中山 泰宗, 内田 友二
    原稿種別: 短報
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-018
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/05
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    COVID-19流行下では対面講義からオンライン教育への移行が見られた.本研究では2020年にオンデマンド講義として開講した薬物治療学IIを対象に,学生の課題取り組み時刻と当該科目の試験成績との関係性について検討し,学生の時間管理についての評価を行った.対象は139名の薬学3年生で,Google Formsを介して出された課題に対し,学生の課題送信履歴からその課題に取り組んだ期日と時刻を抽出した.その上で試験成績と課題に取り組んだ期日や時刻との関係性を検討した.その結果,締め切り日に課題を提出した学生の課題提出時刻は遅く,試験成績も低かった.また課題を初日に提出した学生の中で,科目開講時刻から近い時間帯に課題を提出した学生の試験成績は高かったが,開講時刻から離れた遅い時刻に課題を提出した学生の試験成績は低かった.これらの結果から,一部の学生はオンデマンド講義に対する時間管理に問題があり,学習理解度に影響を与えている可能性が考えられた.

実践報告
  • 相良 英憲, 恵谷 誠司, 黒川 陽介, 小野 浩重
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-023
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/02
    ジャーナル フリー HTML

    災害医療において,大学における教育は充実しているとは言い難い.教育内容についての理解度を熟知することも難しい.そこで,災害医療に対して学生がどのように理解し,認識しているかを視覚的に把握することを目的に,質的データ分析の一つであるテキストマイニングを用いて検討した.学生の自由記述をテキストデータに変換して,重要キーワードリストとキーワードコンセプトマップを作成し,学生の理解度を視覚した.キーワードコンセプトマップを詳細に読み解くことにより,学生の理解,ならびに知識と認識の繋がりの概略を把握することが可能と考えられた.学生の考えの全体像を,各キーワードの関連性と共に理解できることは,学生教育において発展性を期待できるツールの一つになると考えられる.テキストマイニングを用いた質的データの可視化は,薬学教育において学生の理解度を把握するための有益な方法になると考えられた.

  • 堀尾 福子, 池田 徳典, 石黒 貴子, 瀬尾 量, 内田 友二
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-041
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/02
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    感染症によるパンデミックを収束または制御する手段として期待されるワクチン及びその接種では,ワクチン接種希望者へ安定的かつ速やかに供給と接種を提供できる体制を構築することが重要である.その課題の一つとして接種の打ち手の確保がある.欧米では薬剤師もワクチン接種の打ち手となっているように,今後日本でも薬剤師が貢献できる可能性が期待される.このような背景により,学部4年生を対象とした上腕筋肉注射シミュレータを用いた実習を実施し,その効果を検証した.実習前と比較し実習後では,筋肉注射の知識・技術のどちらも向上しており,かつ高い満足度が得られた.さらに,学生の自信獲得にも繋がっており,自己効力感が育まれたと考えられた.また,「今後役に立つ」「学んでおくべき」と考える学生が実習後では増加し,学生の意識にも変化をもたらした.これらの結果より,学部教育における筋肉注射実習は有用な実習であると考えられる.

  • 林 輝明, 上田 昌宏, 中澤 公揮, 橋本 佳奈, 桂木 聡子, 天野 学, 清水 忠
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-039
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー HTML

    基礎実習や臨床事前実習の学習効果を向上させるためには,受講生が既に学習済の内容が実習内容と繋がっているかを予習し,関連する部分の知識を整理した上で実習に取り組むことが望ましい.我々は,臨床事前実習コースの化学的な知識を踏まえた配合変化の学習において,チーム基盤型学習(TBL)を導入し,応用演習の部分に実習を位置づけた方略を構築した.授業終了後に行ったアンケートの因子分析およびクラスター分析の結果から,臨床に関連する化学的な知識に自信がなくてもTBLを経験することによって,実習内容が理解できたと実感している可能性が示された.TBLと実習を組み合わせた本授業方略が,化学的な知識と臨床を繋ぐ実習内容の理解度を高める可能性のあるプログラムであることが示唆された.

  • 青江 麻衣, 上田 昌宏, 江﨑 誠治, 清水 忠
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-040
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    本研究では,臨床事前実習を終えた4年生と臨床実習を終えた5年生を主な対象としたTBL法を用いたEBMワークショップの効果を測定した.学習成果は,ワークショップ開催時および2ヶ月後に実施した知識習得テストと,ワークショップ後のアンケートで評価した.参加者の文献評価能力は,ワークショップの2ヶ月後にも変化がなかった.臨床実習後の5年生は,臨床実習前の4年生に比べて,ワークショップ開催時および2ヶ月後のいずれにおいてもテストの平均点が高かった.アンケートの結果,5年生は4年生に比べてグループワークへの参加やEBMの必要性の認識を高く評価していた.この結果は,EBMに関するスキルの向上と,臨床実習中のEBMの必要性に対する意識の向上によるものと考えられる.臨床実習後にEBM講習会を実施することで,より強固なEBMスキルを身につけることができ,EBMの必要性に対する意識もさらに向上すると考えられた.

  • 山本 大介, 伊藤 智夫, 鈴木 順子
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-034
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/23
    ジャーナル フリー HTML

    薬事関係法規に対する薬学生の学習意欲と興味のある職種との関係性を明らかにすることを目的として,北里大学薬学部の6年制課程と4年制課程の4年次生を対象にアンケート調査を行った.246名の有効回答を用いて因子分析を行い,さらに回答者ごとに算出した因子得点を用いてクラスター分析を行った.また,現時点で興味のある職種に関する自由記載データを用いて計量テキスト分析を行い,学科別に興味のある職種と学習意欲との関係性について対応分析を行った.その結果,4年制課程の学生は6年制課程の学生に比べて学習意欲が低く,薬事関係法規の知識習得の必要性を感じていないことが示唆された.また,6年制課程の学生では,病院や薬局の薬剤師に興味のある学生の学習意欲が高く,4年制課程の学生では,研究職や開発職に興味のある学生は,薬事関係法規の知識習得の必要性を感じていないことが示唆された.

  • 長谷川 仁美, 髙塚 人志, 田中 暉大, 奥秋 美香, 岩澤 晴代, 村上 勲, 栗原 順一, 井上 圭三, 岸本 成史
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2021-042
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル フリー HTML

    帝京大学薬学部の1年次科目「ヒューマンコミュニケーション」において,薬学生のコミュニケーション能力を醸成するために「気づきの体験学習」プログラムを導入した.受講後に実施した受講生によるコミュニケーションに関する自己評価について因子分析を行なった結果,「相手への関心」「社交性」「伝達」の3つの因子が抽出された.クラスター分析により学生を3つのクラスターに分け,自己評価や振り返りシートの記述を分析したところ,クラスター1では,相手を思いやることの大切さに気づき将来に活かそうとしていること,クラスター2ではコミュニケーションの難しさと聴く態度の重要性に気づいたこと,クラスター3では授業を受けることで他者と関わり合うことの大切さに気づいた学生がそれぞれ多いことが示唆された.本研究を通して,多くの学生が本授業を受講することにより相手に関心を持って話を聴くことの大切さに気づいたことが示された.

  • 櫻井 浩子, 藤崎 玲子
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-031
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー HTML

    薬剤師としての倫理観は日々の学びや経験のなかで醸成され,薬学6年間及び卒後の実践を通して培われていくものである.東京薬科大学薬学部2年生の履修科目「ゼミナール」において,独自に製作した倫理ビデオ教材「残薬調整を嫌がる患者」「若年性認知症の家族への対応」「問診表とお薬手帳を活用しきれていないケース」を用い,薬剤師が日常業務のなかで直面する倫理的問題を題材にし,気づきを促すための講義を行った.臨床の場面を可視化したビデオ教材の活用により,学生は患者一人ひとりの状況や背景をより具体的に捉え,患者の価値観を受容するとともに,患者の自己決定を促すよう解決策を考えることができた.また,グループワークからは他者の意見を聞くことにより自分とは異なる多様な考えや視点があることに気づきを得た.本講義の試行は実践的な臨床倫理教育におけるアクティブ・ラーニングの導入モデルとしての有効性が示唆された.

  • ―実態の把握と学生の意識のテキストマイニング分析―
    近藤 雪絵, 布目 真梨, 天ヶ瀬 紀久子, 細木 るみこ
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-026
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー HTML

    好奇心から大麻を使用する若者が増えている.大麻や乱用薬物に関する大学生の意識調査はこれまでに実施されているが,大麻の形態が多様化する一方で,CBD(カンナビジオール)製品に関する意識調査は十分ではない.本稿では,薬学生を対象に,大麻・CBD製品に対する意識調査を実施した.その結果,大麻の違法性の認識は高かったが,CBD製品は認知が低く,漠然と大麻の類似物だと捉えられていることがわかった.また,薬学生の取るべき行動の意識を分析した結果,「正しい知識の取得と伝達」「違法薬物の乱用と勧めの拒絶」「薬学分野における積極的な学び」「薬学専門家としての薬の扱い」「大麻の危険性と医療利用の理解の深化」が抽出された.これにより,薬学部では,社会的・法的規範の観点に加え,薬物乱用防止の指導を専門性の高い授業に関連付け,学生が抱く現在から将来へのビジョンの中に指導を取り入れることが肝要であると考えられる.

  • 今西 孝至, 五十嵐 惠美子, 淵田 真一, 門田 典子, 佐古 守人, 西村 豊, 細木 誠之, 楠本 正明
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-042
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/05
    ジャーナル フリー HTML

    「フィジカルアセスメント講座〈実践コース〉」の受講者に対して研修会前後でアンケート調査を実施し,フィジカルアセスメント(PA)に対する受講者の変容について検証した.さらに,受講後のPAの実施状況を明らかにするための追跡調査も実施した.その結果,受講生15人のバイタルサイン測定手技の理解度は全項目で有意に向上した.また,受講後の追跡調査では15人中13人から回答が得られ,患者にPAを実践した受講者は4人(31%)で,実施内容は「全身観察」,「血圧の確認」が多かった.医薬品適正使用への関与については4人中3人が「薬の副作用防止」に関与できたと回答していた.一方,実践できていない受講者9名(69%)の主な理由として「実践できる環境下にない」や「実践する患者がいない」であった.以上より,本コースは薬剤師のPA実施において一定の教育効果が示唆され,受講後には受講生の約3割が実際にPAを実施していることが明らかになった.

  • 蓮元 憲祐, 平 大樹, 北川 智也, 横井 正之, 上島 智, 岡野 友信, 角本 幹夫
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 6 巻 論文ID: 2022-043
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/22
    ジャーナル フリー HTML

    ファーマコゲノミクス(PGx)は,個別化薬物療法を行う上で有用な手段であり,改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムにおいても重要視されている.しかし,その教育は主に座学のみであり,臨床準備教育としての取り組みは全国的にも少ないのが現状である.そのためPGx演習の教育効果については十分検討されていない.本報告では,立命館大学で実施した4年次生対象の臨床準備教育におけるPGx演習実践例を報告することに加え,PGx演習に対するアンケート調査結果を報告する.その結果,PGxという用語への理解度は,PGx演習を通して深まった(P < 0.01).更に遺伝子多型に基づく処方設計が必要な薬剤の正答数はPGx演習前後で増加した(P < 0.01).また,遺伝子多型を基にした処方提案の重要性の認識度についても実習後で有意に増加し(P < 0.01),本学のPGx演習の有用性が強く示唆された.

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