薬学教育
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誌上シンポジウム:みんなで考えよう!でら困った学生~多様性をみとめあう実務実習~
性格の違いをとらえた教育活動
―Myers-Briggs Type Indicatorを用いて認知の仕方の違いを理解する―
大里 洋一
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2022 年 6 巻 論文ID: 2022-014

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抄録

薬学生の病院・薬局実習において,しばしば指導者が実習生の言動が理解できず思考停止になることがある.なぜ実習生の言動が理解できないのかを紐解いていくと,知識・技能に関する問題,態度や行動特性に関する問題,そして性格や価値観に関する問題に大別できる.さらに,指導側の薬剤師と実習生との間でコミュニケーション・ギャップが生じるのは知識・技能以外の問題が多いことに気づく.なぜなら,これらの学問は現役の指導薬剤師でも体系的な学習をしてこなかったからだ.しかし,態度や行動特性に関する学問の多くは体系化されているため,新たに学ぶことは可能である.また性格や価値観の捉え方もMBTI®など適切なツールを使えば理解することはできる.薬剤師は独自の専門性を維持しながらも,必要とされているスキルを身につけることが実習生とのコミュニケーションのみならず様々な関係者に貢献する上で重要であると思われる.

Abstract

Pharmacist instructors sometimes have difficulty understanding what pharmaceutical trainees say and their behavior during clinical training in hospitals or pharmacies. Why it is difficult for instructors to understand TRAINEEs? The author consider that the problems can be divided into three main categories: related to knowledge and skills, attitudes and behavioral characteristics, and personality and way of thinking. I also notice that communication gaps are not often caused by knowledge and skills. It is strongly related to management skills and considerations for personality or ways of thinking. However, for some reasons it is difficult for instructor pharmacist to study management skills systematically, although much of the scholarship on human management and attitude has been systematized. And they also have not experienced the appropriate tool to understand personality and way of thinking, such as MBTI®, FFM, and Strength Finder, etc. Of course, it is important for pharmacists to maintain their unique specialty but developing other skills are also more important because it will be relevant not only to communicating with trainees but also various stakeholders such as medical staffs and patients.

緒言

薬学生の病院・薬局実務実習において,しばしば指導側の薬剤師(以後,指導者)が学生の予想外の言動に困ることがあります.困るとはこの場合,指導者が「その言動の意図が理解できず思考停止になる状態」を指します.例えば,調剤機器の扱い方が指導側の想定を大きく外れていたとか,院内での行動が指導者側の考える当たり前の行動と異なっていたとか,皆様の御施設でも学生実習の担当をされた方がいれば, 多かれ少なかれそのような経験はお持ちではないでしょうか.

本稿では,こうした困ったことは決して「悪いこと」ではないというスタンスは明確にしておきたいと思います.しかしながら,多様性を押し進める現代の教育において,今後益々型にはまらない発言や行動が増えることが予想されます.そのとき,我々はどのように対応したら良いのでしょうか.

2021年度の薬学教育学会学術集会で取り上げていただいたシンポジウムでは,こうした多様性を重視する時代の薬剤師が持っておくべき,スキルや考え方についてディスカッションさせていただきました.今回は私が担当した部分の論旨を文章に落とし込み,皆様と共有したいと思います.

問題点の整理

学生の予想外の言動に困るという問題の解決策を検討する前に,そもそもこの問題の本質はどこにあるのかを考察する必要があると思います.

1. 指導者は実務実習生の何に困っているのか?

さて,筆者は冒頭に学生の予想外の言動に困ることがあると記載しました.では予想外の行動とは何なのでしょうか.この考察には「能力構造の氷山モデル」を用います(図1).

図1

能力構造の氷山モデル(出典:リクルートマネジメントソリューションズのモデルを参考に作成)

我々が人について観察できるのは顕在化している発言や行動で,それは氷山モデルの最上部に位置します.そして,この言動の背景には潜在的な幾つかの要素が単一または複合的に関係しているという概念が表されています.ではこのモデルにおいて,予想外の行動とは何なのでしょうか?

①知識・技能に関する問題

まず考えられるのは知識と技能の欠如によるものです.今回対象となる学生はCBTとOSCEに合格した薬学生です.したがって,指導者は学生が一定の専門知識や技能は持っている前提でコミュニケーションを取ります.しかしながら,それらの試験はあくまで一つの指標であり,完全ではありません.したがって,時に知識や技能の不足に対し指導者が驚かされることがあります.

②態度や行動特性に関する問題

例えば業務開始間際に出勤する,職場のPCで私的な調べ物をする,居眠りをするなど,シンポジウムでは知識や技能とは別次元の「予想外の言動」を取り上げました.これらは明確な指標が作りにくく,職場,学校,または家庭環境などの文化に由来するもの(暗黙知)も多く含まれます.社会背景や時代によってその善悪も影響され,環境だけでなく世代間のギャップによっても指導者が驚かされることがあります.

③性格(認知スタイル)や価値観に関する問題

持って生まれた性格や価値観の差異により指導者が驚かされることがあります.例えば海外の方に対応するとき,文化や価値観などの違いはよく見られます.しかし,日本人同士のコミュニケーションでも性格や価値観が異なることは多くあり,相手にとっては当たり前の行動が予想外に感じられることがあります.

このように予想外の言動を能力構造の氷山モデルで分解し整理すると,いくつかに分類できることが分かります.①の知識や技能に関する問題に対して,指導者はそれを教えるスキルがあり,かつ学生もその指導を求めています.したがって,これが原因で困ることはほとんど無いと思われます.

②の態度や行動特性に関する問題は指導者に教えたいという希望はあるにも関わらず,それらを教えるだけの十分な知識や技能が不足していることに加え,学生からもそれらを指導してほしいというニーズが少ないため対処しにくい場合があります.しかし,その職場や集団の方針・ルール,またそれを推奨するだけの学術的な根拠は存在することがほとんどです.したがって,指導者には新たなスキルの獲得が求められますが,教育することは可能です.

最も困難な問題は③の性格や価値観に関する問題です.なぜなら,これらは指導者,学生ともに,その違いにすら気付いていない場合が多いからです.これらは一般的に教育が不可能な項目に分類され,指導者は相手を矯正することよりも,理解し受け入れることが重要になります.そのため,筆者は後述する心理学的ツールなどを用いた教育が有益だと考えます.

このように,冒頭の「困ったこと」を深化させると,知識や技能に関することではなく,「学生の態度や行動特性または性格や価値観が理解できず思考停止の状態になること」であることに至りました.

2. これらは誰の問題なのか?

ではこの問題は,学生の問題なのでしょうか,それとも指導者の問題なのでしょうか.

それを考える前に,皆様はすでにこの問題はコミュニケーションの問題であるとお気づきだと思います.つまり,言動を通して学生側から発せられたメッセージを,受信側の指導者が受け取りそれを評価・考察して再び学生側に返すというプロセスです(図2).

図2

情報の受信と発信のプロセス(概念図)

ただし,このプロセスで示す指導者と学生は対等な立場ではありません.知識・技能的には指導者が優位な立場にいます(だから教育が成り立つという意味で当然です).また,求められる態度や行動特性を知っているのも指導者ですし,一般的に人生経験は学生よりも指導者の方が多く持っているため,自分と異なる性格や価値観についても指導者の方が受容できるでしょう.何より,実務実習実施にあたり病院側に実習費を納めていることからも,その構造は明らかです.

筆者はこの構造において,テーマに掲げている問題は指導者の問題であると考えます.

3. コミュニケーションのどの段階の問題なのか?

さらに,この問題はコミュニケーションのどの段階で起きているのでしょうか.再度図2を用います.仮にコミュニケーションの起点を実習生側と考えると,まず実習生が何らかの情報を受け取り,それを自身の中で解釈(判断)します.そして,その中から指導者へ届けたい情報を発信します.次に指導者はその情報を受信します.このとき,その情報は言語情報に加え非言語情報も含まれます.さらに,指導者も実習生と同様に自分自身でそれらの情報を解釈しようとします.しかし,ここで理解ができず思考停止になることが今回の問題になっていると解釈できます.

上記3点の考察より,学生の予想外の言動で指導者が困る問題とは,つまり「実習生と指導者とのコミュニケーションにおいて,指導者が実習生の発する態度や行動特性に関する情報,および性格や価値観に関する情報の受け取りとその解釈ができず,コミュニケーションのプロセスの途中で思考停止の状態になる」問題であると理解できるのです.

原因は何か?

冒頭に記した通り,筆者はこうした「困ったこと」は悪いことではないというスタンスです.しかし,なぜこのような問題が起きるのでしょうか.

その理由として,筆者は薬剤師に対する専門領域以外の教育が不足しているからだと考えます.

上述したように,知識や技能の欠如が原因である場合,指導者による専門的な指導は可能です.したがって今回の議論からは除外します.

一方,態度や行動特性が原因の場合,その対応に必要な知識やスキルは組織行動学や人材マネジメント学のように,薬剤師がこれまで学んで来なかった分野の可能性があります.これらは既に体系的に整った理論が存在するため教育が可能であり,指導者の努力によっては対応が可能になると思われます.一方で,それらを指導者が持っていない場合,知識のアップデートが必要になり指導者の負担が増えます.

さらに,同じ薬学の専門外の領域でも,その問題の原因が性格や価値観にある場合,これらは一般に教育できない領域であるといわれています.したがって,この類のコンフリクトは指導者がそれらを理解し受け入れるしかないのです.ただし,これらを受容する学びは単に知識を詰め込むだけでは達成できません.なぜなら,性格や価値観の理解は自身の認知の枠組みを超えた範囲の学びをする必要があるからです.言い換えれば,自分の当たり前とは異なる情報の受け取り方と,解釈の仕方を学ぶことが必要になります.しかし,そうした機会が極めて少ない現状にあり,指導者はこれらの学習がままならないのです.

この情報の受け取り方と解釈のモデルを理解するために「認知システム」の概念図(補足図1)が有用です1).これは本稿において重要な概念であるため,補足1にその詳細を後述します.

補足図1

認知システムの概念図

問題解決への打ち手

これまで論じてきたように,「学生と指導者とのコミュニケーションにおいて,指導者が学生の発する態度や行動特性に関する情報,および性格や価値観に関する情報の受け取りとその解釈ができず,コミュニケーションのプロセスの途中で思考停止の状態になる」原因の一つとして,指導薬剤師に対するそれらを補完する教育が不足していることが考えられました.

では,この仮説が妥当だとした場合,どのような対策が打てるでしょうか.

1. 組織マネジメントを体系的に学ぶ

一つ目の課題である態度や行動特性に関する教育の問題は,組織マネジメントに強く紐づく問題であると考えます.現在,態度や行動特性に関する研究や調査は非常に充実しており,それらを体系的に学ぶことは可能です.特に社会人教育においては,日本でも広く浸透してきた経営学修士(Master of Business Administration: MBA)で学ぶリーダーシップ論,組織行動学,および人材マネジメント学などは医療の現場においても有益であると考えます.こうした新しい領域の学びを学生教育や社会人の生涯教育に生かしていくことは,実務実習の改善のみならず各医療機関で薬剤師のプレゼンスを確立していくために重要です.

特に強調したいことは,薬剤師はそうした教育を体系的に受けていないことを自覚することです.その結果,今多くの職場では個人のセンスに頼った我流のマネジメントをせざるを得ない状態にあります.たしかに,それでもうまくやっている職場はあります.しかしそれは,医療機関が非常に変化の少ない環境にあったからかもしれません.外部環境の変化により医療現場でも大きな影響が出てきたとき,我流のマネジメントでは難しい局面が増えてくると思われます.故に,現場の薬剤師はそのような学びの機会があれば謙虚な姿勢で積極的に学習すべきであり,管理者もこの分野への投資を惜しむべきではないと強く思います.

2. 心理学的ツールやパーソナリティチェックを有効活用する

二つ目の課題である認知スタイルや価値観に関する問題も,学びの場を用意することは有益であると考えます.しかし,この分野には学術的な根拠が希薄な理論やそれをベースにしたツールが無数に存在し,玉石混淆の状態にあると言われています.加えて,心理ゲームや占いと混同されている人も目にするため,導入を勧める側も勧められる側も正しい知識を持つことが必要です.

その中で,2017年にハーバード・ビジネスレビューで紹介された3つの心理学的ツールは信頼することができるでしょう2).参考文献にあるように,MBTI®,Five Factor Model(FFM),ストレングスファインダーは国内でも多くの企業や団体が使用しているツールです(特に今回は日本の監督機関である「日本MBTI協会」3) があるMBTI®を補足2として紹介します).

以上のように,学生の予想外の言動を適切に対処し双方の学びに繋げていくために,指導者は新たな分野の学びにチャレンジしていくことが求められていると思料いたします.

態度や行動特性に関する学問を体系的に学ぶこと,また自己理解に関する体験学習を積むことにより,学生のニーズに確実に応えられる指導者が創出されることを願います.

考察

指導側の薬剤師と学生のコミュニケーションに関わる問題は全く新しいものでしょうか.決してそうではありません.筆者の学生時代から現在に至るまで,双方の立場においてこの問題は存在してきました.

では,なぜ今改めて指導者と学生のコミュニケーション・ギャップを考える必要があるのでしょうか.それは薬剤師の担う役割が大きく変わっているからだと考えます.すなわち患者と患者家族,他の医療職種,そして未来の薬剤師から求められている薬剤師の提供価値が変化してきているのではないでしょうか.

一つ目に患者や患者家族からの要望があります.薬剤師業務の力点が対物から対人へ変わったことに伴い,薬剤師の課題解決のスタイルが変化しました.端的に言えば,従来は処方箋の内容を早く正確に処理するスキルが求められていたのに対し,対人業務になると多様な人に合わせた無数の個別解で対応するスキルが求められることになります.つまり,患者から求められるスキルと,これまで磨いてきたスキルの間にギャップが生じているのではないでしょうか.

二つ目に医療従事者間における求められる仕事の変化があります.薬学6年制や対人業務へのシフトチェンジによって,薬剤師はこれまで以上に臨床現場での貢献を求められるようになりました.それは,薬剤の専門家として検索した情報を提供する,といった次元の貢献ではないと考えます.なぜなら,このAI時代においてインターネット上でアクセスできる情報など,ほぼ誰でも取得することができるからです.では何が求められているのか.私見ですが,患者に接した薬剤師にしか受け取れない高い鮮度の情報や,薬剤師的な治療戦略の構築,またそれに至る思考法,そしてそれらを提言して多職種で一つの治療を形成するチームマネジメントのスキルなどが考えられるのではないでしょうか.この多職種からの要請に必要なスキルと,これまで学んできたスキルの間にもギャップが存在すると思われます.

そして三つ目に,未来の薬剤師からの要請があります.あるべき薬剤師像は,現場の薬剤師よりも学生が持っている可能性があります.大学には新たな時代を担う薬剤師を創出する使命があるため,先進的な医療機関の取り組みを学生に紹介するでしょう.例えば近年では,オンライン化への対応など社会の変化に即座に対応できた組織とそうではない組織の差が顕著に見られるようになりました.実務実習を行う施設において,学生が思い描いている薬剤師像と異なる現実を見せられた時,双方の思い描く薬剤師像のギャップを感じるのかもしれません.

実習生の言動により思考停止に陥る現象は,現役薬剤師とその他の関係者の間に生じる様々なギャップの一つかもしれません.その根底には薬剤師を取り巻く外部環境の変化が垣間見えるのではないでしょうか.薬剤師は現状に甘んじることなく,患者,多職種,そして未来の薬剤師からの要請に応えられるようスキルアップしていかなければならないと感じます.

補足1:認知システムの理解

1. 認知システムとは何か?

例えば,病棟回診で医療チームの複数のメンバーが1人の同じ患者さんを見ていると想像してください.各メンバーは,ほぼ同じものを見て,同じものを聞いています.しかし,取り込まれた情報は全く同じということはありません.ある人はその患者が発した言葉,書いた文字に注目するかもしれませんし,ある人は表情や仕草が記憶に残るかもしれません.このように人は無数にある情報からその人が受け取りやすい情報を取り込みます.その後,その情報を「必要だ,不要だ」とその人の解釈の仕方で取捨選択したり,今まで持っていた別の情報と統合したりして判断します.そのプロセスは全て個々人に備わったシステムの中で行われており,結果として回診直後のカンファレンスでは各々が異なる意見を持つことがあるのです.

つまり,我々は勝手目,勝手耳をもとに情報を集め,さらにそれを自分の解釈の仕方で判断しているのです.この一連の情報の取捨選択の流れを「認知システム」といいます(補足図1).

2. 認知システムの違いが及ぼす影響とは何か?

上述した認知システムは,個々人で固有のものを持っています.しかしながら,生まれてから現在まで,このシステムが非常に自然に行われているので,あたかも自分と同じ認知システムを他人も持っていると思い込んでしまうのです.

この誤認がコミュニケーション・プロセスの,情報の受け取りと解釈の段階で発生すると混乱が生じます.つまり,指導者が受け取りにくい類の情報を学生から受け取らざるを得なかったり,従来は不要と判断していた情報が学生にとっては有要と判断されたりすることで,指導者が思考停止状態になってしまうのです.

3. どうしたら他者の認知システムが理解できるのか?

他者との認知システムの差異は経験的に理解されることが多く,指導経験の多い人ほど暗黙の内に柔軟に対応していることが多いと思います.では,これを形式知として理論的に理解するにはどうしたら良いでしょうか.

個々人で異なる認知システムを解釈するために,まず必要なことがあります.それは,自身の認知スタイルを理解することです.なぜなら,比較対象である自身の認知スタイルを理解することなく他者のそれを理解することは不可能だからです.そして,自己理解をした後,第三者の客観的な目を借りながら対話によって他者を理解していくプロセスが必要になります.

実は,我々がよく使う「性格」という言葉は「認知システム」に他ならないというのが,ユングの心理学をベースにしたMyers-Briggs Type Indicator(MBTI®)で提唱されている概念です.本著では以後,MBTI®の概念も交えて論じていきます.

補足2:MBTI®とは何か?

1. MBTI®の成り立ちと日本への導入の歴史

MBTI®は1900年代前半にスイスの心理学者ユングが提唱した心理学的類型論がベースとなり,その後,第二次世界大戦後にキャサリン・ブリッグスとイザベル・マイヤーズ親子が20年を費やして開発した性格検査になります.MBTI®は人の多様性や自分自身の理解をするためのメソッドとして現在世界で最も用いられている性格検査で,日本へは2000年に園田により導入されました.

特に重要であると強調されているのは,MBTI®は性格の良し悪しや能力,スキルの有無を見るものではないということです.MBTI®に回答した本人が自分のMBTI®結果を参考にしながら,MBTI®認定ユーザーの支援のもと,自分で自分の理解を深めながら検証していく過程を重視するメソッドになります.

2. MBTI®の構造

MBTI®では人の性格を「認知の仕方(認知システム)」として捉えます.そして,個々人の認知の仕方について4つの指標を用いて分析していきます.

4つの指標とは,すなわちエネルギーの方向,もののみかた,判断のしかた,外界への接し方のことで,それぞれの指標において2つのタイプが二律背反の構造で成り立っています.さらに,人は各指標において2つのうちのどちらかの機能や態度を好み,それが合わさって性格を形成しているという概念になります(補足図2-1).

補足図2-1

MBTI®の4つの指標(引用:「MBTI®における心のカテゴリー」研修では教えてくれない!医師のためのノンテク仕事術,P12,羊土社)MBTI is registered trademarks of the Myers&Briggs Foundation in the United States and other countries.

3. 各機能と態度の概説およびタイプ分類

具体的にはエネルギーの方向において自分の外側にエネルギーを向ける「外向:Extraversion」と,内側にエネルギーを向ける「内向:Introversion」に分類されます.

また,もののみかたは知覚機能と呼ばれ,五感を通じて観察されたり得られた具体的な情報や事実に焦点を置いたりする「感覚機能:Sensing」と,関連性や可能性,イメージなどによって得られた情報やそのパターンに焦点を置く「直観機能:iNtuition」に分類されます.

さらに判断の仕方は判断機能と呼ばれ,対象から距離を置いて因果関係を分析したり,論理性に基づいて結論を導いたりする「思考機能:Thinking」と,対象の中に自分を位置付けて自分の気持ちや価値観と照らし合わせて結論を導く「感情機能:Feeling」に分類されます.

最後に外界への接し方は,情報を集めながら臨機応変に対応することを好む「知覚的態度:Perceiving」と,あらかじめ枠組みを決めてから対応することを好む「判断的態度:Judging」に分類されます.

各個人はそれぞれの指標でどちらか片方の機能や態度を好んで使う(指向する)ことから,それぞれの指向するタイプの頭文字(直観機能のみ2文字目のN)を用い4文字のアルファベットで性格を表します.例えば,外向する態度を好み(E),感覚機能で情報を集め(S),感情機能で判断することを指向し(F),外界とはあらかじめ枠組みを決めて接することを好む(J)人のタイプは「ESFJ」と表現されます.こうすることで,2 × 2 × 2 × 2 = 16通りの性格に全ての人が漏れなく重複なく分類できることがMBTI®の特徴です(補足図2-2).

補足図2-2

MBTI®タイプテーブル(引用:日本版MBTI®マニュアル,P7,Japan Psychologists Press Inc.)MBTI is registered trademarks of the Myers&Briggs Foundation in the United States and other countries.

そして,各個人の自己申告によるMBTI®タイプを参考に,認定ユーザーとの対話やグループワークにおいて他のタイプの方との対話を通じ自己理解,ひいては他者理解を深めていくのです4)

4. MBTI®はどこで使用されているのか?

MBTI®は原則として受検者の母国語でのフィードバックが必要なため,近年日本の医療業界ではようやく普及してきた感があります.筆者がMBTI®と出会ったのはテキサス大学MD Anderson Cancer Centerに短期留学をした2008年で,米国ではその頃すでに標準的な心理学的ツールとして組織マネジメントに使用されていました.

MBTI®はスポーツの分野では比較的有名で,2015年に南アフリカ代表を破る快挙を成し遂げたラグビー日本代表の当時のヘッドコーチであったエディー・ジョーンズの著書には,「MBTI®は有効だ.(中略)選手は一人ひとり違った個性を持つ.全ての選手のことをより深く知ることは,チーム作りをする上で欠かせない.選手それぞれの性格を知ることで,叱った方がいいのか,対話を重視した方がいいのかなど,そのアプローチの仕方を変えているのだ.」とあります5)

MBTI®は元々医学生のデータをもとに研究された背景もあるため,医療分野には親和性の高いツールであると言われています.現在では日本プライマリ・ケア連合学会主催(筑波大学附属病院運営)の総合医育成プログラムにおいて,日本MBTI協会の講師から医師を対象にMBTIフィードバックセッションを行っております6)

5. MBTI®はどのように行われるのか?

MBTI®フィードバックセッションの具体的な実施概要を示します.

まず,受講者には93問の質問紙に回答していただきます.これは当日,筆記式の質問紙を使用する場合と,事前にオンラインで実施する場合の2通りがあります.その後,理論学習としてMBTI®の成り立ちから構造に関するレクチャーを30分から40分ほど行います(e-learningで代替も可能).質問紙に回答すると各個人の自己申告によるMBTI®タイプ結果が提示されることになります.これをレポーテッドタイプと呼びます.ただし,このレポーテッドタイプはあくまで質問紙に回答した瞬間の受講者の切り抜きの姿でしかありません.したがって,その後認定ユーザーとタイプを検証するディスカッション形式の演習を行っていき,最終的にご自身にもっともシックリくるタイプとして,ベストフィット・タイプ(BFT)を選んでいただくのです.

この演習を通して,受講者の中には自己申告によるレポーテッドタイプと異なるタイプであったという気づきを得ることがあります.それは,本来の自分自身の理解に近づいたことを意味することもあり,深い学びの時間となります.また,グループワークを取り入れることで自分と対極のコミュニケーションスタイルを持つ方の考え方を知ることができ,自己理解と共に他者理解も深まると言われています.

6. MBTI®は日本の医療現場でも有益なのか?

MBTI®を用いた研修を行うことで日本の医療従事者も自己理解が進むのでしょうか.近年,こうした疑問に応えるべく検証作業の報告がなされるようになりました.2017年の日本臨床腫瘍学会では豊田よりMBTI®を研修医のコミュニケーションスキル向上のための研修に用いた報告がなされています7).また,翌年に筆者からMBTI®実施の前後で被験者自身の「認知の癖の認識度」がどの程度変化するかを,リッカート尺度を用いたセルフチェックで調査した結果を発表しています8).(翌年の2019年に,日本癌治療学会のシンポジウム内で追加調査を含めた結果を発表しています:補足図2-3).さらに,2022年5月,河添らにより薬学生の自己理解を支援するツールとしてMBTI®が紹介されそのアウトカムを評価している9).以上より,未だ報告数は限定的ですが,医療現場においてMBTI®を実施することで自己理解が深まる可能性が示され,他者理解の素地が築かれることが示唆されています.

補足図2-3

MBTI®実施前,実施後における「認知の癖」の認識度の変化

発表内容に関連し,開示すべき利益相反を以下に示す.

株保有状態:あり(大里洋一,メディカルスタッフ・サポーターズ株式会社)

文献
  • 1)  園田 由紀.研修では教えてくれない!医師のためのノンテク仕事術.前野 哲博編,東京:羊土社;2016.第1章.
  • 2)  Eben Harrell. A Brief of Personality Tests(有賀裕子:訳).ハーバード・ビジネス・レビュー,東京:ダイヤモンド社;2017. p. 138–139.
  • 3)  園田 由紀.MBTIとは[Internet].Tokyo JPN:一般社団法人日本MBTI協会;2020年1月(参照2022年1月14日)http://www.mbti.or.jp/what/
  • 4)  園田 由紀.MBTIタイプ入門(第6版).東京:JPP株式会社;2011.
  • 5)  生島 淳.ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」.東京:文藝春秋;2015.
  • 6)  前野 哲博.医療者のためのつくばノンテク道場 自己理解(MBTI®)[Internet].茨城,日本:筑波大学附属病院総合臨床教育センター;2018年(参照2022年1月14日)https://www.hosp.tsukuba.ac.jp/nontech/voice/index.html#voice_mbti
  • 7)   豊田  昌徳.チーム医療実践にむけたMyers-Briggs Type Indicator(MBTI)実習の取り組み.医学教育.2017; 48(suppl): 141.
  • 8)  大里 洋一.Myers-Briggs Type Indicator(MBTI)を用いた研修による職場コミュニケーション向上への取り組み.日本医療薬学会年会.2018; suppl.1: 1635.
  • 9)  河添 仁,大里 洋一.薬学生の自己理解を支援する性格検査MBTI®研修会とそのアウトカム.医療薬学.2022; 48(5): 218–227.
 
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