薬学教育
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実践報告
がん患者とがん化学療法に関わる薬剤師に対する薬学生のイメージ
畦地 拓哉齊藤 有希小柴 聖史鈴木 賢一
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2023 年 7 巻 論文ID: 2022-049

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抄録

本研究では,実務実習中の薬学生が抱くがん化学療法に関わる患者・薬剤師のイメージとその変化を調査した.外来化学療法実習の参加前後にアンケート調査を実施したところ,薬剤師の役割として,副作用モニタリングの重要度は実習後に最も高くなった.一方,抗がん剤の臨床薬理やpharmacokinetics/pharmacodynamics,医療費負担への理解の重要度は実習後で低く,これらの関わりや活用が不足していると考えられた.自由記述回答からは,薬学生は「がん患者」に対して不安や痛みなどの弱い面だけでなく,がんを受け入れて前向きに治療に取り組む姿勢を併せ持つイメージ,「がん患者指導に関わる薬剤師」に対して「がん患者」が抱える想いに寄り添い,患者一人ひとりに適した薬学的管理を行うイメージをそれぞれ形成していると考えられた.薬学生が抱くイメージを踏まえて,治療効果や副作用のみならず経済面や臨床薬理の面からも実習生を様々な患者と向き合わせることが重要であると考える.

Abstract

This study investigated pharmacy students’ perceptions of patients and pharmacists involved in cancer chemotherapy during their clinical practice. A questionnaire was conducted before and after the outpatient chemotherapy practice to measure the changes in comprehension. Students gave the highest importance to side effect monitoring after their practical training. In contrast, minor importance was placed on understanding clinical pharmacology, the pharmacokinetics/pharmacodynamics of chemotherapy, and the burden of medical costs. Berelson’s content analysis revealed that pharmacy students view cancer patients as vulnerable to pain and anxiety and willing to accept cancer and receive chemotherapy. In addition, pharmacy students viewed pharmacists as relating to cancer patients and providing pharmaceutical care suitable to each patient. Based on the student responses, the clinical-based educational programs should pay more attention to therapeutic effects and side effects, pharmacoeconomics, and pharmacology in chemotherapy.

緒言

がんの薬物療法(化学療法)は,新規抗がん剤の開発や支持療法の進歩などを背景として,入院治療から外来通院治療へと移行している1).外来化学療法では,医療者は患者の状態に適した抗がん剤治療や支持療法を提供し,患者自身が副作用マネジメントなど治療に関するセルフケアを実践できるようにサポートする必要がある.がん化学療法に関わる薬剤師は,処方監査や抗がん剤の調製に加えて,ガイドラインの理解,レジメン設計と管理,モニタリング,服薬指導など多岐に渡る役割が期待される2,3).しかしながら,こうした薬剤師の役割の重要性について,実務実習中の薬学生がどのように考えているかは不明である.

看護領域では,看護者ががんやがん患者に否定的なイメージを抱くことが,看護者の不安を招きケア行動に悪影響を及ぼすことが報告されており,看護学生にがんやがん患者に対するイメージを考慮した看護教育を行う必要性が示唆されている4,5).また,人の行動はイメージに依存し,イメージの変化に応じた行動をするようになる6).薬学教育においても,薬学生ががん化学療法に持つイメージとその変化を明らかにすることは重要と考えるが,薬学生が抱くイメージを明らかにした報告はほとんどなく,また,がん化学療法に関する講義・演習・実習の前後2時点のイメージ変化を質的に明らかにした調査は見当たらない.

そこで本研究では,薬学生が持つがん化学療法に関わる患者・薬剤師のイメージとその変化を明らかにすることを目的として,順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下,順天堂医院)にて実務実習を行う薬学生を対象としたアンケート調査を行ったので報告する.

方法

1. 対象

2020~2021年に順天堂医院にて実務実習を行った薬学部5年生を対象とした.外来化学療法に関わる実習(以下,外来化学療法実習)の開始前に調査の目的と回答方法を説明し,アンケート調査への回答を依頼した.調査への参加を希望する学生は,実習開始前(事前調査)と終了後(事後調査)にインターネット上でアンケート調査に回答した.

2. 実習スケジュール

外来化学療法実習は5日間実施した.実習初日にがん化学療法の講義を行い,実習3~4日目に薬剤調製および外来化学療法指導の見学をそれぞれ半日ずつ行った.なお,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止の観点から,薬学生による患者指導は行わず,見学のみの対応とした.最終日は,指導薬剤師と化学療法に関する服薬指導のロールプレイを実施した.また,全5日間を通して,レジメン管理および薬剤の取り揃え・監査業務,がん化学療法に関する演習課題を実施した.

3. アンケート調査票

個人情報が特定されないよう調査項目を調整した無記名式アンケート調査票を用いた.調査項目の詳細を,表1に明記する.なお,各調査項目は,がん化学療法に精通した専門・認定薬剤師である研究者と共同で作成した.

表1 アンケート調査項目
設問 項目 回答形式 選択肢
以下の項目について,外来化学療法室におけるがん患者指導に際して必要な資質・能力としての重要度に関して,あなたの考えに最も近い選択肢をそれぞれ回答してください. がん標準治療とガイドラインへの理解 単一回答 非常に重要である
抗がん剤の臨床薬理やPK/PDへの理解 どちらかと言えば重要である
レジメンの監査 どちらとも言えない
抗がん剤治療による副作用のモニタリング どちらかと言えば重要でない
副作用対策としての処方提案 全く重要でない
治療方針(IC内容・予後)への理解  
がん治療に伴う医療費負担への理解
患者本位の視点
緩和ケア
患者との信頼関係の構築
他職種との協力関係の構築
上記設問で「非常に重要である」または「どちらかと言えば重要である」と回答した項目の中で,重要度が高いと思う順に上位3つまでを選んでください.※「非常に重要である」または「どちらかと言えば重要である」と回答した選択肢が2つ以下の場合,該当する選択肢内での順位のみをお答えください(選択肢が2つ⇒1位・2位のみ回答). 1位 単一回答 がん標準治療とガイドラインへの理解
2位 抗がん剤の臨床薬理やPK/PDへの理解
3位 レジメンの監査
  抗がん剤治療による副作用のモニタリング
副作用対策としての処方提案
治療方針(IC内容・予後)への理解
がん治療に伴う医療費負担への理解
患者本位の視点
緩和ケア
患者との信頼関係の構築
他職種との協力関係の構築
以下の項目に対して,あなたが現時点で抱いているイメージを自由に記載してください. がん患者 自由記述
がん患者指導に関わる薬剤師

4. 解析方法

アンケート調査終了後,SPSS ver26.0 for Windowsを用い,単純集計を行った.事前・事後調査における各資質・能力の回答状況の比較には,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした.また,各項目の重要度の高さは,1位を「3」,2位を「2」,3位を「1」に数値化し,項目別の合計点を算出したのち,項目ごとに合計回答者数で除すことで算出した.

5. 内容分析

自由記述回答の分析手続きは,NVivo(QSR International, Melbourne)を使用し,Berelsonの内容分析7) を参考に分析を行った.研究のための問いを「薬学生は,がん患者またはがん患者指導に関わる薬剤師に対して,どのようなイメージを抱いているのか」,問いに対する回答文を「薬学生は,がん患者またはがん患者指導に関わる薬剤師に対して,( )というイメージを抱いている」と設定した.1名の回答全体を文脈単位とし,文脈単位から研究の問いに対する回答1つを含む文章を記録単位とした.記録単位からサブカテゴリーに集約し,コアカテゴリーを形成した.各カテゴリーに含まれる記録単位の出現頻度を数量化し,集計を行った.研究者1名で記録単位からサブカテゴリーに集約,コアカテゴリーの形成を行った.外来がん化学療法に精通した他の研究者2名による再分析を実施し,コアカテゴリーへの分類の一致率をScott, W.A.の計算式に基づき算出し,信頼性確保の基準を70%以上とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施し,順天堂大学医学部研究等倫理委員会(承認番号:順大医倫第2020043号)および星薬科大学研究倫理委員会(承認番号:2020-03)の承認を得て実施した.なお,本研究への協力は,調査への回答をもって同意を得るものとした.

結果

調査対象者44名のうち,事前調査37名(84.1%),事後調査30名(68.2%)より回答が得られた.

外来化学療法室におけるがん患者指導に際して必要な資質・能力に対する薬学生の認識を表2に示す.事前・事後調査ともに,すべての資質・能力について,回答者の90%以上が「非常に重要である」または「どちらかと言えば重要である」と回答した.「抗がん剤の臨床薬理やpharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)への理解」および「副作用対策としての処方提案」の回答状況は,事前・事後調査間で有意に異なっていた.また,「がん治療に伴う医療費負担への理解」は,「どちらかと言えば重要でない」の回答が得られた.さらに,各資質・能力の重要度の高さを順位付けした結果,事前調査では「患者本位の視点」,事後調査では「抗がん剤治療による副作用のモニタリング」が,それぞれ最も重要度が高かった.

表2 外来化学療法におけるがん患者指導に際して必要な役割・資質の重要度
資質・能力 回答時期 回答状況 重要度の高さ
非常に重要である どちらかと言えば重要である どちらとも言えない どちらかと言えば重要でない 全く重要でない 未回答 Pa 1位 2位 3位 加重平均b
がん標準治療とガイドラインへの理解 事前 29 8 0 0 0 0 0.205 9 3 3 0.973
事後 27 3 0 0 0 0 7 0 3 0.923
抗がん剤の臨床薬理やPK/PDへの理解 事前 27 9 1 0 0 0 0.002 1 0 1 0.108
事後 10 19 1 0 0 0 0 0 0 0.000
レジメンの監査 事前 26 11 0 0 0 0 0.630 2 0 1 0.189
事後 27 2 1 0 0 0 2 4 3 0.654
抗がん剤治療による副作用のモニタリング 事前 34 3 0 0 0 0 0.416 6 9 3 1.054
事後 29 1 0 0 0 0 8 10 6 1.923
副作用対策としての処方提案 事前 35 2 0 0 0 0 0.032 0 2 6 0.270
事後 23 6 1 0 0 0 2 3 5 0.654
治療方針(IC内容・予後)への理解 事前 29 8 0 0 0 0 0.274 2 2 2 0.324
事後 18 11 0 0 0 1 1 2 1 0.308
がん治療に伴う医療費負担への理解 事前 21 13 2 1 0 0 0.101 0 0 2 0.054
事後 10 18 1 1 0 0 0 0 0 0.000
患者本位の視点 事前 32 5 0 0 0 0 0.662 10 9 3 1.378
事後 27 3 0 0 0 0 4 6 4 1.077
緩和ケア 事前 33 4 0 0 0 0 0.095 2 2 5 0.405
事後 22 8 0 0 0 0 0 1 3 0.192
患者との信頼関係の構築 事前 34 3 0 0 0 0 0.789 4 9 5 0.946
事後 27 3 0 0 0 0 6 4 4 1.154
他職種との協力関係の構築 事前 32 5 0 0 0 0 0.983 1 1 6 0.297
事後 26 4 0 0 0 0 0 0 1 0.038

表内の数字は回答数を示す.

a:Mann-WhitneyのU検定を用いて,事前・事後調査における各項目の回答状況を比較した.

b:1位を「3」,2位を「2」,3位を「1」に数値化し,項目別の合計点を算出したのち,項目ごとに合計回答者数で除すことで算出した値を示している.

自由記述回答の分析結果を表3および表4に示す.文中ではコアカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,原文を『 』で示した.「がん患者」に対するイメージについて,自由記述回答は102記録単位に分割でき,27個のサブカテゴリーが作成された.さらに,サブカテゴリーの内容を意味のまとまり毎に分類し,9個のコアカテゴリーが作成された.調査全体で回答者数が多かったコアカテゴリーは【ネガティブな感情(36)】,であった.また,事後調査で新たに回答が得られたサブカテゴリーを含むコアカテゴリーは,【治療への取り組み方】,【患者の見た目】,【日常生活と治療の両立】,【がんの多様性】,【コミュニケーション】であった.一方,「がん患者指導に関わる薬剤師」に対するイメージについて,自由記述回答は110記録単位に分割でき,16個のサブカテゴリーと4個のコアカテゴリーが作成された.調査全体で回答者数が多かったコアカテゴリーは【がん治療における薬学的管理の実践(37)】であった.事後調査で新たに得られたサブカテゴリーを含むコアカテゴリーはなかった.また,事後調査において,〈患者一人ひとりに合わせた服薬指導を行う〉,〈患者に適したコミュニケーションを取る〉の回答者数は,それぞれ増加傾向を示した.がん患者に対するイメージについて,コアカテゴリーへの分類の一致率は,81.8%,76.1%であった.また,がん患者指導に関わる薬剤師に対するイメージについて,コアカテゴリーへの分類の一致率は,83.9%,72.5%であった.

表3 がん化学療法を受ける患者に対する薬学生のイメージ
コアカテゴリー サブカテゴリー 事前調査(n = 37) 事後調査(n = 30)
ネガティブな感情(36) 抱える不安 18 9
精神的な不安定さ 9 0
治療への取り組み方(21) 治療に積極的である 3 3
治療に対する理解がある 0 4
がんを受け入れている 0 3
病気への理解度は個人差がある 0 2
がん治療について理解する必要がある 1 1
治療に消極的である 2 0
治療に取り組む意思が必要である 1 0
治療に対する理解が十分でない 0 1
身体的な苦しみ(17) 副作用に苦しむ 12 2
痛みに苦しむ 3 0
患者の見た目(15) 健常者と変わらない 1 9
ネガティブな感情を示さない 0 4
患者個々の性格が色濃く出る 0 1
日常生活と治療の両立(6) 治療と日常生活を両立している 0 3
日常生活との両立が難しい 0 1
終末期は在宅療養を行う 1 0
治療期間が長期にわたる 1 0
死への意識(3) 死と隣り合わせ 2 0
残りの人生の過ごし方を考える 1 0
がんの多様性(2) 年齢層が幅広い 0 2
患者数が多い 1 0
治療方針が多様である 1 0
重症度は多岐に渡る 1 0
コミュニケーション(1) コミュニケーションに注意が必要である 0 1
経済的な苦しみ(1) 医療費負担が大きい 1 0
表4 がん化学療法を受ける患者指導に関わる薬剤師に対する薬学生のイメージ
コアカテゴリー サブカテゴリー 事前調査(n = 37) 事後調査(n = 30)
がん治療における薬学的管理の実践(37) 抗がん剤治療の治療効果と副作用をモニタリングする 8 3
患者一人ひとりに合わせた服薬指導を行う 5 9
医師への提案を行う 5 1
レジメンチェックを行う 1 1
がん患者との関わり(34) 患者に適したコミュニケーションを取る 7 9
患者の想いに寄り添う 4 4
患者との関わりが難しい 3 0
患者との信頼関係がある 3 0
患者の不安を取り除く 2 0
患者から必要とされている 1 1
がん治療の専門性(30) がん治療に精通している 13 11
がん治療について学習する必要がある 4 2
がん治療における薬剤師の働き方(9) 幅広い視野を持つ 3 1
他職種と情報共有・連携する 2 0
やりがいがある 1 1
責任が重い 1 0

考察

実務実習中にがん患者を担当した薬学生は,副作用の確認を薬学的管理目標に設定することが報告されている8).副作用の重篤化は治療中断・変更に直結することから,薬剤師による副作用モニタリングや処方提案は重要となる.本研究では,外来化学療法実習において,外来化学療法室における薬学的管理を見聞し,副作用モニタリングや副作用対策について指導薬剤師と討議を行うとともに,模擬症例・課題を用いた演習を行う.そのため,事後調査では副作用モニタリングの重要度が最も高くなり,薬学生はその重要性を体感できたと考える.一方,医師へ処方提案する機会が無い場合もあることから,副作用対策としての処方提案に対して「非常に重要である」と回答した割合は低くなったと考える.また,がん化学療法の個別化・適正化には,抗がん剤の臨床薬理やPK/PDを踏まえた薬物療法の実践が必要となる2,3).しかしながら,外来化学療法実習では,レジメン審査や小児などの特殊集団における抗がん剤の投与設計などの体験は指導薬剤師に依存し,実施できない場合が殆どであることから,抗がん剤の臨床薬理やPK/PDへの理解の重要性は事後調査で低下したと考える.さらに,患者はがん化学療法に係る医療費に対して懸念を抱いており,経済面は無視できない要素である9).本実習では,がん化学療法に係る医療費について議論・検討するようなプログラムは含まれていない.患者や医療者からの質疑応答を除き,実習生が経済面から患者と関わる機会は乏しいことから,事前・事後調査ともにがん治療に伴う医療費負担への理解に対する重要性は最も低かったと考える.これを支持するように,事前調査で「がん患者」に対するイメージとして抽出された〈医療費負担が大きい〉は事後調査では抽出されず,また,「がん治療に関わる薬剤師」に対するイメージとして医療費に関連した記述はなかった.限られた実習期間内で,薬学生が臨床薬理やPK/PD,経済面での関わりに参加できるよう症例検討会や文献抄読会などを含めた実習内容の見直しが必要と考える.また,全国薬学部・薬科大学を対象とした調査では,薬物療法の経済評価手法に関連する項目ごとに,各大学の教育内容が異なり,講義しているかわからない回答を含む項目が複数あることを報告している10).大学の事前学習や実務実習において,がん化学療法の有効性や安全性に加えて費用対効果を総合的に評価するような実習・演習・分析事例の紹介を行うなど,意思決定における経済面の考え方を薬学生がイメージできるようにすることも重要と考える.

これまでに,看護学生はがんやがん患者にネガティブなイメージを持つことが報告されている5).本研究の事前調査では,がんの悪化や再発に関連した【ネガティブな感情】や,抗がん剤の副作用やがんの進行に伴う痛みなどの【身体的な苦しみ】,【死への意識】に関する記述が抽出され,薬学生は心理的・身体的苦痛や置かれた状況に関するネガティブなイメージを「がん患者」に抱いていることが示唆された.これらの回答は実習終了時において減少傾向を認めた一方で,〈健常者と変わらない〉などの【患者の見た目】に関する記述が新たに抽出された.薬学生は,患者の抱える不安・苦痛に対して患者の外見上の振る舞いに乖離があることに着目し,「がん患者」はネガティブな感情を表に出すことなく健常者と変わらない姿勢でがん治療に取り組むイメージを形成したと考える.また,【治療への取り組み方】について,事前調査では「がん患者」に対して〈治療に消極的である〉に関連した記述を認めたが,事後調査では抽出されていない.これに代わり,〈治療に対する理解がある〉や〈がんを受け入れている〉が実習終了後のイメージとして新たに抽出されている.さらに,事前・事後調査に共通して〈治療に積極的である〉というイメージが抽出され,「がん患者」に対して不安や痛みなどの弱い面と,がんを受け入れて前向きに治療に取り組む姿勢(強い面)を併せ持つことを薬学生はイメージしていたと考える.また,事後調査で認めた〈健常者と変わらない〉に関連して,がん化学療法はperformance statusが良好で主要臓器機能が保たれている患者に適応されることを薬学生が理解していない可能性も考えられる.実務実習に加えて大学の事前学習等においても,模擬症例を用いたがん化学療法の適応に関する討議や,がん患者に対して抱くイメージを学生間で討議する,また,がん患者やがん経験者との交流の場を設けるなどの学習内容の拡充が必要と考える.

がん患者は薬剤師に対して多くの期待感を寄せており,薬剤師は患者の心に寄り添うことで患者との信頼関係を構築していく必要がある9).本調査では,事前・事後調査に共通して,「がん患者指導に関わる薬剤師」に対するイメージとして,〈患者の想いに寄り添う〉などの【がん患者との関わり】に関する記述が抽出されている.同様に,薬学生は「がん患者指導に関わる薬剤師」に対して【がん治療における薬学的管理の実践】として〈患者一人ひとりに合わせた服薬指導を行う〉イメージを抱いていた.大学教育や薬局実習を通じて薬学生は既に「がん患者指導に関わる薬剤師」に対して,「がん患者」が抱える様々な想いに寄り添い,患者一人ひとりに適した服薬指導等の薬学的管理を行うイメージを形成しており,外来化学療法実習に伴うイメージ変化はなかったと考える.

本調査では,【がん治療における薬剤師の働き方】に関するイメージが抽出され,〈幅広い視野を持つ〉では『視野を広く持たないと務まらない』,〈やりがいがある〉では『かなり大変であると思うが,その分やりがいはある』のような回答がそれぞれ見られた.これらの回答は事前・事後調査に共通して抽出され,大学教育や薬局実習で得たイメージに大きな変化はないと考える.一方,事前調査で抽出された〈他職種と情報共有・連携する〉は,事後調査では抽出されていない.外来化学療法実習では薬学生が他職種と直接連携する機会が乏しく,イメージの変化に影響したと考える.カルテを用いた情報共有の実践やカンファレンスへの参加など,実習中の関わり方について工夫が必要と考える.

本研究は単一施設における調査であり,調査結果は実習施設の教育プログラムや実際に指導に当たった薬剤師の影響を大きく受けており,外来化学療法実習の影響のみで説明できないと考える.また,調査期間内では,COVID-19流行下で薬学生が患者と直接関わることはできず,参加・体験が与える影響を充分に評価はできていない.さらに,回答者個人の学習内容の詳細は不明であり,個人単位での回答結果と学習内容の関連性については検討できていない.また,がん患者指導に際して必要な資質・能力に関する回答結果と自由記載回答の関連性は交絡因子が大きく,本研究では十分な調査を行うことはできなかった.

本研究より,がん化学療法における薬剤師の役割の重要性を実務実習中の薬学生は理解していること,また,薬学生ががん患者やがん治療に関わる薬剤師に抱くイメージとその変化を明らかにすることができた.一方で,外来化学療法実習では抗がん剤の臨床薬理やPK/PD,経済面の観点からの関わりが十分でない可能性が示唆された.外来化学療法実習において,薬学生が抱くイメージを踏まえて,治療効果や副作用のみならず経済面や臨床薬理の面からも実習生を様々な患者と向き合わせることの重要性を再認識するとともに,COVID-19流行等で直接的な関わりが難しい中でもオンラインツールの活用などにより患者との関わりを設ける工夫が必要と考える.

謝辞

星薬科大学実務教育研究部門の白水俊介氏,佐藤あかね氏,順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部の佐藤邦義氏,荒川隆太郎氏に深謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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