薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
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ISSN-L : 2433-4774
実践報告
薬学部新入学生に対するオンラインによるスモールグループディスカッションの試みと授業評価から見えた有用性
辻本 貴江安原 智久江原 里佳中川 左理橋本 保彦辰見 明俊池村 舞前田 光子
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2023 年 7 巻 論文ID: 2022-054

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抄録

COVID-19の拡大は大学教育の形態を変化させ,オンライン授業が多くの大学で導入された.本学では,2019年度より1 年次生に対しSGDを取り入れた「多職種連携と社会貢献」のプログラムを実施したが2020年度以降のオンライン化の中で,本プログラムもSGDを取り入れた学習方略を継続するため,オンラインでのSGDを選択した.しかし受講生がオンラインSGDにおいて対面SGDと同様の満足度,理解度が得られるかについての報告はなかった.そこで我々は,2021年度1年次生に対するオンラインSGDと2019年度の対面SGDの授業評価を比較し,オンラインSGDの効果を検証した.授業に対する満足度は両群で大きな差は見られなかった(p = 0.131).理解度は対面SGD受講生よりもオンラインSGD受講生が高いスコアをつけた(p = 0.004).知識習得を目的とするSGDについては,オンラインSGDが対面SGDよりも効果的であった.学習方略を検討する上でオンラインSGDは1つの選択肢となりうることが示唆された.

Abstract

The spread of COVID-19 changed university education from in-class to online classes. From FY2020 onward, some universities chose to include online Small Group Discussions (SGDs) in their teaching strategies. A “Multidisciplinary Collaboration and Social Contribution” program was launched to encourage interactive discussions using online SGDs as a problem-based learning technique for first-year students. This program was conducted as a trial because no empirical reports were found on whether online SGDs could achieve the same level of student satisfaction and understanding as face-to-face discussions. Therefore, this study investigated class evaluations conducted with first-year online students in FY2021 and compared them with those from face-to-face SGDs of FY2019. The results showed no significant difference in satisfaction between the online SGDs and the face-to-face SGDs (p = 0.131), but the online students better understood the topics than the face-to-face students (p = 0.002). The online approach was more effective in knowledge acquisition through SGDs than in-class, suggesting they are an effective learning option when designing a course.

緒言

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は,大学教育に大きな影響を与え,ほとんどの授業がオンライン化された.2020年度に引き続き2021年度も,オンライン授業と対面式授業を織り交ぜながらの薬学部教育が実施された.3年目を迎えた今,オンラインも新たな学習方略のツールとなりえることや,同時に従来の対面式授業の見直しも行われ,両者の長所,短所を念頭に,それぞれの効果及び学生に与えた影響,学生からの要望について,丁寧な調査と分析を行う必要がある.

Small group discussion(SGD)を中心としたProblem based learning(PBL)においては,双方向対話的なディスカッションを取り入れるため座学では得られない学習効果がある.その学習効果を継続するためには,対面SGDからオンラインでのSGDへ移行することが不可欠であった.上田らは,薬学部1年次生並びに4年次生にオンラインSGDを実施し,2019年度と2020年度のピア評価を比較し,オンラインSGDは対面でのSGDと同等の教育効果をもたらさないと報告している1).安原らは,合意形成を目的とする学習においては,オンラインでのディスカッションと対面によるディスカッションで差が認められず,知識の活用や応用を目的とする学習においては,オンラインの方が学習時間を確保しやすいという結果が得られていることを示した2).一方,オンラインによるSGDでは,対面でのSGDとは異なり,他の学生の反応や理解度の見えにくさやフィードバックの少なさから,学生自身がうまく学習が進められているかと不安を抱える場合があること,他の学生の個人の努力や取り組み姿勢への気づきが少なくなるなど学生同士の相互作用が不十分であることを指摘する報告3,4) や発言のしにくさを指摘するもの5),議論の成熟度やプロダクトの完成度は,対面でのSGDが高かったとの報告もある6).他方,オンラインによるディスカッションではコミュニケ―ションに依存する部分が大きいが臨床領域の学修目標の1つである基礎的知識の習得にはオンラインで十分であること7) やコミュニケーション演習において,学生同士が対面で行うロールプレイの代替として,教員がロールプレイをしている動画をオンラインで視聴した場合,学習成果や授業の満足度に大きな影響はないとの報告もある8).このように,各分野で実施されたオンライン授業の分析が進んでいるが,対面式のディスカッションで自由に振る舞うことで得られる学習効果とオンラインによるコミュニケーション形態によって得られる学習効果を区別した上で授業をデザインする必要があることが指摘されている9).特に,キャンパスのコミュニティーから離れ,同級生と顔を合わせたこともない新入生のオンライン授業の学修成果の検証が,今後のオンラインによるアクティブラーニング授業の継続を考える上で重要である.しかし,1年次生を対象として,SGDに特化したオンライン授業に対する授業評価を,かつての対面式SGDに対する授業評価と比較検討した研究は国内では見られない.

本研究では,2021年度に1年次生に対して実施したオンラインSGDの授業評価と,2019年度の対面式SGDの授業評価を比較し,オンラインSGDによる教育効果が対面式SGDと同じように得られるかどうかについて検証することを目的とした.

方法

1. 対象および調査期間

今回の調査研究は,1年次生前期必修科目「多職種連携と社会貢献」の受講生を対象に,症例検討をSGDで実施し問題解決方法を立案するプログラムの終了後に授業評価を質問票形式で行った.対象は2019年6月14日時点で本学薬学部に在籍し対面式SGDを実施した1年次生255名と,2021年7月21日時点で1年次生に在籍しオンラインSGDを実施した224名であった.2019年はマークシート,2021年はMicrosoft Forms®にて,授業直後に記名式アンケートを行った.アンケート調査から得られたデータを,対面式SGDを実施した2019年1年次生とオンラインSGDを実施した2021年1年次生の2群間で比較した.検定にはFisher’s exact testを用いた.統計処理にはXLSTAT 2022(マインドウエア総研株式会社)を用いた.

2. アンケート内容

アンケート作成は,本学の授業評価アンケートと,薬学部ディプロマポリシー10) を参考にし,さらに,2018年度から,著者が独自で作成し活用している授業評価アンケートを加えた.アンケート内容は,症例検討の経験,症例検討の内容,薬剤師に対する意識の変化,学習意欲について盛り込んだ.さらに,授業に対する感想や意見について自由記載を求めた(図1).

図1

アンケート調査票

2019年度の授業評価は,授業終了直後に,学生に紙媒体の質問票を配布し,マークシートにて回答させ,2021年度の授業評価は,授業終了直後に,予めMicrosoft Forms®にて作成したアンケートのURLをチャット機能により学生に提示し,回答させた.

3. 授業内容

1年次生に配当されている「多職種連携と社会貢献」の科目は,医療現場や地域における医療従事者の存在意義や責任,多職種による連携の重要性を自覚することが目的である.入学後6月~7月上旬に行われる.1年次生が薬学部学生として多職種連携による医療に関する症例シナリオに触れる初めての機会である.そのため,2019年度より,座学では得られない教育効果を得るためPBLの手法を用いてSGDによる症例検討を採用した.この授業は9月に実施される医療機関等を訪問する早期体験学習につながっていく.「多職種連携と社会貢献」では,症例(図2)を提示し,学生はSGDにて問題点を抽出し解決方法を決定する.タイムスケジュールとしては,表1に示した通り,まず,実習の3週間前に実習書を配布するとともに,教員が授業の概要を説明する.学生は,課題1として薬剤師をはじめとする各医療従事者の役割について,また,課題2として症例に対する問題点と解決方法について自己学習をする.学生は,この事前の自己学習をした上で当日のSGDに臨む.自己学習は60分程度の時間を要する内容としている.課題1と課題2は2019年度と2021年度は同一内容のものを用いて実施している.授業当日は,約250名の学生を,40数名の6グループに分け,6名の教員をグループごとに1名配置する.各グループはさらに6~7名のスモールグループに分かれて,表1に示したタイムスケジュールに従い議論をし,最後に議論で得られた結果をプロダクトとして作成し発表する.各グループに配置された教員はいずれも薬剤師としての経験を持つ臨床系教員であり,ファシリテータとしての経験も豊かである.2019年度と2021年度は,同じ教員がファシリテータを担当し,また,導入部分のスライドや配布資料も同じものを使用した.2019年度は各スモールグループに,iPadを1台ずつ配布した.このiPadには,あらかじめ学生が議論の中で必要とすると思われる資料を保存しておき,学生はiPadを使用することで保存された資料を閲覧できるようにした.また,同iPadを用いて,必要な情報を学内Wi-fi環境下で自ら自由に検索できる環境を準備した.尚,2019年度は学生自身が所有するスマートフォンやパソコンの持ち込みは許可していない.2019年度は対面式SGDを実施したが,2020年度と2021年度は,COVID-19感染拡大に伴い,オンラインSGDを実施した.2019年度の対面式SGDと同様に学生をスモールグループに分け,オンライン会議システムであるZoomのブレイクアウトルーム(グループに分かれて話ができる機能)を用い,オンラインSGDを実施した.2019年度にiPadに保存した同じ資料を,学生が自由に閲覧できる学内クラウドストーレージにアップロードした.また,通常1年次生は「多職種連携と社会貢献」を受講した後に早期体験学習を経験する.2019年度の1年次生は早期体験学習を9月に体験しているが,2020年度と2021年度の1年次生はCOVID-19感染拡大に伴い早期体験学習が中止となり経験をしていない.しかし,2019年度「多職種連携と社会貢献」は,早期体験学習前の6月に実施されているため,早期体験学習の有無は本研究に影響しなかった.尚,2020年度もオンラインSGDを実施しているが,システムを利用した初年度であり,より円滑なPBL進行が可能となった2021年度のデータを対象とし,方略上の違いによる学修成果の比較を実施した.

図2

症例

表1

「多職種連携と社会貢献」タイムスケジュール(2021年度)

内容 時間(分)
授業前 実習概要説明 15
事前課題(個人学習) 60
授業当日180分 全体説明(導入スライド) 15
・多職種連携・チーム医療について
・各医療従事者の役割
・地域包括ケアについて
・評価(ルーブリック)について
症例紹介 15
OneDriveの資料,ブレークアウトセッション説明 10
ブレークアウトルームへ移動,司会・書記・発表者決定 10
#1決定
#2 SGD 30
休憩 15
#3,4,5,6 SGD 30
全体会場へ移動,発表準備 5
発表と質疑応答 35
まとめ 15

#1~6:図2症例より

4. 用語について

本論文では,「学習」と「学修」の2通りの表記を用いた.平成24年度文部科学省中央教育審議会の答申では,“大学での学びは「学修」としている.” 11) と記載がある.一方で,同省の用語解説によると,アクティブラーニングの解説において,“発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループディスカッション,ディベート,グループワーク等も有効なアクティブラーニングの方法である.” 12) との記載もある.この文科省の表記にならい,本論文では「学習」と「学修」をその文脈から判断して使い分けた.「学習方略」については,教育学上の専門用語として領域に認知された言葉のため「学習」を用いた.また,引用文献からの記載については原文のままとした.

5. 倫理的配慮

本アンケートは,学生本人の自由な意思での参加が可能であること,回答内容が成績に影響することがないことを周知して行った.また,同意後であっても,いつでも同意を撤回できることを説明し,その内容を本学ホームページに掲載しオプトアウトの機会を設けた.本研究は,神戸学院大学の人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:SEB21-20).

結果

1. 回答者の内訳

2019年度1年次生は,対象者255名のうち,アンケートを提出しなかった1名,研究協力への拒否を申し出た21名を除いた233名(91.4%)から回答を得た.2021年度1年次生は,対象者224名のうち,研究協力への拒否を申し出た13名を除いた211名(94.2%)から回答を得た.

2. 症例検討の経験

症例検討の経験回数は,2019年度受講生の93%,2021年度受講生の90%が全くないと回答し,2群間に大きな差は見られなかった(p = 0.183,表2).どこで症例検討をしたかの問いには,全くないと回答した学生以外では,2019年度,2021年度ともに大学,その他,ワークショップの順に多かった.

表2

症例検討の経験に関するアンケート結果

  全くない 1~2回 3~4回 5~6回 7回以上 n数 p
設問1 今までに症例検討をしたことがありますか? 2019年度受講生 218(93%) 10(4%) 2(1%) 1(1%) 2(1%) 233 p = 0.183
2021年度受講生 191(90%) 16(8%) 4(2%) 0(0%) 0(0%) 211
  全くない 大学 ワークショップ その他
設問2 どこで症例検討をしましたか?(複数回答) 2019年度受講生 208(90%) 9(4%) 2(1%) 11(5%) 230 N/A
2021年度受講生 188(87%) 16(7%) 2(1%) 10(5%) 204

Fisher’s exact test,N/A:not applicable該当なし

3. 症例検討について

症例検討の内容に対する理解度については,対面によるSGDを実施した2019年度の受講生よりも,オンラインSGDを実施した2021年度の受講生の方が高いスコアをつけた(p = 0.004,表3).症例検討に対する興味や満足度については両群で大きな差は見られなかった(それぞれp = 0.103,p = 0.131).また,症例検討の難易度,薬剤師になった時に役に立つかどうかの質問に対しては,対面式SGDの受講生よりも,オンラインSGDの受講生の方が高いスコアをつけた(それぞれp = 0.002,p = 0.001,表3).

表3

SGD後のアンケート結果

1 2 3 4 5 n数 p
症例検討の内容について 全く思わない「1」 → とても思う「5」
設問3 理解できた 対面による実施 1(1%) 14(6%) 9(4%) 133(57%) 75(32%) 232 p = 0.004
オンラインによる実施 0(0%) 2(1%) 3(2%) 119(56%) 87(41%) 211
とても思う「1」 → 全く思わない「5」
設問4 難しかった 対面による実施 40(17%) 132(57%) 50(21%) 11(5%) 0(0%) 233 p = 0.002
オンラインによる実施 14(6%) 119(57%) 65(31%) 12(6%) 0(0%) 210
全く思わない「1」 → とても思う「5」(以下設問すべて)
設問5 興味がある 対面による実施 3(2%) 8(3%) 26(11%) 139(60%) 57(24%) 233 p = 0.103
オンラインによる実施 0(0%) 3(1%) 19(9%) 120(57%) 69(33%) 211
設問6 満足である 対面による実施 1(1%) 9(4%) 35(15%) 141(60%) 47(20%) 233 p = 0.131
オンラインによる実施 0(0%) 9(4%) 20(10%) 123(58%) 59(28%) 211
設問7 役に立つ 対面による実施 0(0%) 3(1%) 11(5%) 85(36%) 134(58%) 233 p = 0.001
オンラインによる実施 0(0%) 0(0%) 2(1%) 57(27%) 152(72%) 211
薬剤師に対する意識の変化
設問8 患者を治したい 対面による実施 1(1%) 0(0%) 8(3%) 83(36%) 136(60%) 228 p = 0.217
オンラインによる実施 0(0%) 2(1%) 6(3%) 63(30%) 140(66%) 211
設問9 責任が重い 対面による実施 0(0%) 3(1%) 8(3%) 76(33%) 146(63%) 233 p = 0.437
オンラインによる実施 0(0%) 1(1%) 5(2%) 59(28%) 146(69%) 211
設問10 やりがいある 対面による実施 1(1%) 6(3%) 19(8%) 101(43%) 106(45%) 233 p = 0.011
オンラインによる実施 0(0%) 1(1%) 16(7%) 68(32%) 126(60%) 211
設問11 患者診る必要性 対面による実施 1(1%) 6(3%) 15(6%) 99(42%) 112(48%) 233 p = 0.014
オンラインによる実施 0(0%) 0(0%) 10(5%) 75(35%) 126(60%) 211
設問12 医療人の自覚 対面による実施 0(0%) 1(1%) 6(2%) 88(38%) 138(59%) 233 p = 0.592
オンラインによる実施 0(0%) 1(1%) 2(2%) 74(35%) 132(62%) 209
設問13 薬物治療必要 対面による実施 0(0%) 2(1%) 14(6%) 99(42%) 118(51%) 233 p = 0.376
オンラインによる実施 0(0%) 1(1%) 6(3%) 86(41%) 116(55%) 209
学習意欲
設問14 学習意欲高まった 対面による実施 3(1%) 6(3%) 24(10%) 98(42%) 101(44%) 232 p = 0.303
オンラインによる実施 0(0%) 3(2%) 15(7%) 97(46%) 96(45%) 211

Fisher’s exact test,対面による実施:2019,オンラインによる実施:2021

4. 薬剤師に対する意識の変化

薬剤師に対する意識の変化に関する質問については,薬剤師の仕事にやりがいを感じた,患者を診ることは薬剤師が行う行為として必要であると感じたという質問に対して,対面式SGDの受講生よりも,オンラインSGDの受講生の方が高いスコアをつけた(それぞれp = 0.011,p = 0.014,表3).また,患者を治したい気持ちになった,薬剤師の仕事は責任が重い,医療人としての自覚を培う必要性の理解,薬物治療の必要性の理解についてのスコアは両群で大きな差は見られなかった(それぞれp = 0.217,p = 0.437,p = 0.592,p = 0.376,表3).

5. 学習意欲

学習へのモチベーションが高まったかという質問については,両群のスコアに大きな差は見られなかった(p = 0.303,表3).

考察

1年次生に配当されている「多職種連携と社会貢献」は,2020年度,2021年度はCOVID-19の影響により,学生が密になる対面でのSGDを実施することができなくなったが,PBLによる双方向対話を取り入れた学修成果を低下させないために同じ教材を用い,オンラインによるSGDを試みた.しかし,オンラインSGDが果たして対面SGDと同様の教育効果が得られるかどうかについての懸念があった.学生に質問票を用いて授業評価を実施したところ,オンラインSGDと対面SGDにおいて,満足度,興味に対するスコアに大きな差は見られなかったが,理解度に対するスコア,ならびに,薬剤師になった時に役に立つ,薬剤師の仕事にやりがいを感じる,患者を診る必要性があると答えた学生数が対面SGD受講生よりもオンラインSGD受講生で高値を示した.一方,症例検討を難しいと感じた学生数は,オンラインSGDで高かった.その他の質問に対するスコアは同等であった.今回の研究では,オンラインにて実施したSGDの授業評価が理解度を含む複数の項目で対面よりも高かったことが判明した.新入生に特化したオンラインSGDに対する論文は,著者の知る限りないが,岸本らはオンラインでのPBLの実施において,学生自身が演習によって得られたと感じた学修成果や授業の満足度には大きな影響はないと報告しており7),我々の研究結果と一致する.一方で,安原らは薬学部1年次生から4年次生を対象にアンケート調査を行い,特定の科目や学年に限らず総論的なオンライン授業への評価を調査している.アンケート対象者のうち,対面SGDとオンラインSGDの両方を経験しているのは1年次生のみであるが,結果は学年別の評価ではなく,薬学部生全体を対象とした総論的なオンライン授業への評価であること,SGDのテーマが臨床薬学であるのが4年次生のみであることなど,我々の研究とは一概に比較はできないが,ディスカッションを伴う授業に関しては,対面によるSGDの支持率が高い2).また,上田らは1年次生に実施された「基盤演習」におけるSGDについて参加学生によるピア評価を示している.雰囲気,貢献度,積極性,配慮,教育性の合計得点は,2019年度の対面SGDの方が2020年度のオンラインSGDより高値を示した.我々の研究は学生本人の主観であること,SGDのテーマが基礎科目ではなく臨床薬学科目であるため,これも一概には比較できないが,オンラインSGDは対面SGDと同等の教育効果をもたらさないと報告しており1),今回の研究結果と異なる.しかし,我々が本科目で設定した学修目標は,1年次生が各職種を理解することに焦点を定めたものである.用いた症例も多職種が1人の患者の問題を解決するために,それぞれの専門性を活かして問題解決を図ることを意図してデザインしたものである.これは4年次生以上で実施されるような,病歴や検査所見や処方内容から掘り下げて患者の問題点を解決する方法を導き出す症例とは異なっている.むしろ,グループメンバーと相談をしながら自ら資料を調べ,知識を獲得する学修に近いものである.学修目標と学習方略がSGDを経て知識の獲得を目指したものであることを踏まえて考えるならば,オンラインの方が,画面の共有機能により,ホワイトボード機能,Microsoft Word,PowerPointを共有し同時に閲覧,編集することで参加者の意見を整理しやすいことが考えられる.また,対面SGDではグループに1台のiPadに制限されていた.しかし,オンラインSGDでは,知識を得るためインターネットへの迅速で容易なアクセスが学生自身のパソコンや携帯端末で可能であることも満足度に差がなく,むしろ理解度が高かった要因となっていると思われる.実際に,アンケート結果より,利便性を活かした内容はスコアが高いことがわかる.一方で,オンラインSGDと対面SGDに大きな差は見られなかった項目は,薬剤師は責任が重い,患者を治したい気持ちになった,医療人としての自覚の必要性,薬物治療の必要性,学習へのモチベーションなど,知識の獲得だけでは成長が困難であり,深いディスカッションによる相互の十分な意見交換が必要と考えられる項目であった.オンラインSGDにおけるフリーコメントを表4にまとめた.自由記述に記載されたコメントは少なく,研究対象とするデータとしては不十分であったので,その一部を紹介するにとどめる.記載された自由記述の一部には,Zoomで話し合うのはぎこちなくて大変だった,意見交換が難しかった,進行役をしていたがうまく班全員に話を振ることができなかったなど症例検討以前にコミュニケーション自体が難しかったというコメントが見られた.一方,対面式SGDでの自由記述には,役になり切ることが難しかった,理学療法士の役が難しかったなど,役になり切ることに難しさを感じてはいるが,オンラインのようにコミュニケーション自体の難しさを示すコメントはなかった.また,オンラインでは,ノンバーバルコミュニケーションの欠如によるチームワーク形成の難しさが報告されており1),本研究においてもコミュニケーションの取りにくさをコメントしている学生と一致している.しかし,対面SGDとオンラインSGDでディスカッションによる相互意見交換に差がなかったことは,オンラインSGDにおいて十分なディスカッションができたと解釈できる.

表4

フリーコメント

対面式SGD(2019年度) オンラインSGD(2021年度)
実習内容について
・多職種との協力がとても大事だと理解できた.協力があるからこそ患者さん及びその家族をサポートできるのだと理解できた.また,多職種の役割も理解できた.(27名)
・とても有意義だった.(12名)
・1人の患者さんにこれだけの職種の人が関わっていることに驚いた.(2名)
・また症例検討する機会がほしい.(2名)
・症例検討をすることが初めてで戸惑った.
・実習では文章で書かれた症例を何度も読み返すことが出来たけれど,現場ではできないので,大変だと思った.
・患者の家庭での事情と自身の病気の優先順位を考えることが難しかった.
・治療法は何通りもあることに驚いた.
・多職種連携の中で薬剤師も1人の医療人として重要な役割を果たしていると思った.
・考えれば考えるほど問題点が見えてきて,簡単な症例でも安易に考えてはいけないと思った.
・少しの異常でも症状の判断になると改めて感じた.
・病気を治すだけでなく,患者が置かれている環境にも注意することが大切だと感じた.
・同じ症例でも一人一人に合った治療が必要だということを改めて感じた.
実習内容について
・チーム医療の大切さがわかった.(17名)
・症例検討を初めてして,とてもいい機会になった.とても有意義な時間だった.(14名)
・薬剤師だけではなく他の職種についても知っていることは大切なことだと感じた.(11名)
・患者さんの状況だけでなくその患者さんの背景まで理解することが必要で,そして理解した上でのチーム医療の動きが大切だと分かった.(7名)
・今後もこのような内容の討論をしていきたい.(3名)
・6年後に薬剤師になったときに,チーム医療の一員として適切な意見が言える薬剤師になりたい.(2名)
・様々な視点から治療法や環境改善に向けて考えることがとても難しかった.(2名)
・実際に書かれている情報以外にも考える必要があることが自分の意識の中になかった.
・事前の学習をもっと深く追求すればよかった.
・患者さんへの支援だけでなく,患者さんのお母さんの支援にまで目を向けて考えることができた.
・薬剤師の仕事を体験したみたいで楽しかったが,その分難しかった.
・2025年以降,超高齢化社会になる日本にとって在宅医療や地域包括ケアが重要になることがよく分かった.
・問題提示のところで,自分の想像がたくさんでできてしまい,事実をもとに判断することは難しいと思った.
・症状だけでなく,患者さんの体質などに合わせた治療ができるという点や,自分ではわからない体質や病気のことを知ることができるという点でも医療機関は利用した方が良いと思った.
SGDについて
・問題点がたくさんあったため,どれが大切か絞ることが難しかった.(2名)
・積極的に発表できるようになりたいと思った.
・自分の意見がはっきり言えてよかった.
・みんなの意見をまとめることが難しかった.
・初対面の人と話すことが怖かったが,医療人になったときのための良い機会になった.
・7人チームだったが,話しているのは3人だけだった.
SGDについて
・班のみんなと意見を出し合うことで自分にはなかった意見を知ることができ,視野が広がった.(23名)
・情報を鵜呑みにすることも問題点だと指摘している人もいて,自分も気を付けたいと思った.
・事前学習時にも深いところまで調べ,グループ内で積極的に発言できたと思う.
その他
・もっと意見を言いやすい内容にしてほしい.
・課題のおかげで実習のイメージがしやすかった.
・理学療法士の役が難しかった.薬の名前を間違えて発言してしまったのが悔しい.
・役になりきることが大変だった.
・高校で行った内容と似ていたのでやりやすかった.
・iPadの台数を増やしてほしい.
オンラインについて
・久々に担任のクラスのメンバーで実習ができて楽しかった.(4名)
・zoomで話あうのはぎこちなく大変だった.次は対面でできたら良いなと思った.(2名)
・zoomでの意見交換は難しかった.
・班の進行役をしていてzoomということもあり上手く班員全員に話を振ることができなかった.また,顔を見ての話し合いではなかったため非常に進めにくかった.

以上の結果より,1年次生に実施したオンラインSGDは知識の理解や習得に関しては,対面SGDよりも効果的であることが示唆され,その要因はInformation and Communication Technology(ICT)を駆使した情報収集や,情報共有の自由度の高さによるものと考えられる.一方で,一般的にPBLやSGDがもたらすと言われている態度醸成に関しては,本研究では評価を行っていない.2022年度は感染対策をしながら対面SGDを実施するが,オンラインSGDのメリットである利便性を取り入れた方法を実践する.対面SGDにおいても,学生が迅速に,かつ,容易に情報を収集し,その収集した情報を共有しながらディスカッションを進めることができるように,パソコンや携帯端末の利用を許可する.また,2019年度と同様に議論に必要な資料を予め保存したiPadをグループに配布する.オンラインSGDで得たメリットを対面SGDに上乗せすることにより,より効果的な授業を実施していく予定である.

本研究による考察は神戸学院大学薬学部における調査のみに基づいているため普遍化には限界がある.また,学生自身の記名式による授業評価アンケートに基づくものであり,知識の定着度やグループの成果物等の客観的指標により測定したものではない.

オンラインSGDは,知識獲得領域の学修では対面式よりも高い支持と自己効力感があることが示唆された.COVID-19流行終息後の薬学教育においては,全て旧来の教育方法に戻るのではなく,我々の成果を,新たな学習方略を考える上での1つの選択肢として活用すべきである.

謝辞

本調査の実施にあたり,授業実施にご協力いただいた神戸学院大学薬学部臨床薬学教育研究部門,同薬学教育研究部門の先生方ならびにアンケート調査にご協力いただいた同1年次生の皆様に感謝申し上げます.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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