薬学教育
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実践報告
オンデマンド形式の授業による分野横断統合演習の実施と学習効果の検討
岩澤 晴代岸本 成史長谷川 仁美安原 眞人厚味 厳一北 加代子安藤 崇仁渡邊 真知子横山 和明板垣 文雄長田 洋一奥 直人
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2023 年 7 巻 論文ID: 2023-020

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抄録

薬剤師に求められている職能の変化を受け,薬学生は様々な知識を関連づけて学び,活用する能力を養う必要がある.帝京大学薬学部では,薬学基礎から薬学臨床の内容を関連づけ統合的に理解することを目的として,2020年度6年生前期にオンデマンド形式による分野横断統合演習を実施した.受講生の到達目標自己評価(48項目)は,全ての項目で授業後に有意に上昇した.授業後アンケートの「理解の深まり」と「満足度」の評価が高い学生のグループは,定期試験平均得点率も有意に高かった.授業を受けた感想から,本科目は個人学習による理解を深める効果や自主的な共同学習を促す効果もあったと考えられた.今回実施したオンデマンド形式の授業による分野横断統合演習は,教員側が段階を踏んだ課題提示を行うことで,学生に自主的な学習を促すことができ,「理解の深まり」と「満足度」および定期試験の結果から効果的なプログラムである可能性が示された.

Abstract

Pharmacy students need to learn and utilize the learned knowledge in relevant situations to acquire the professional skills of pharmacists in the future. In 2020, the first-term sixth-grade students at the Faculty of Pharmaceutical Sciences at Teikyo University participated in on-demand interdisciplinary exercises to connect fundamental pharmacy concepts with clinical practice. Students scored higher in the self-assessment questionnaire on the 48 achievement goals of the class after completing the exercises. The students who rated themselves higher on the goals “deepened understanding” and “learning satisfaction” also had significantly higher average grades on the final exam than students who did not. The students’ impressions suggested that these exercises also increased individual and collaborative learning through the prepared step-by-step assignments. The program was effective in terms of improving understanding, learning satisfaction, and final exam scores.

目的

薬剤師を取り巻く環境は変化し,地域社会で薬剤師に求められる役割,責務は大きくなっている.厚生労働省が平成27年に策定した「患者のための薬局ビジョン」では,保険薬局の薬剤師が専門性を発揮し,患者の服薬情報を一元管理し,継続的な把握と薬学的管理および指導の実施により,地域包括ケアシステムを担う一員として患者・住民を支えていくことが求められている1).また,病院ではチーム医療の一員として,多職種と連携してこれまで以上に積極的に患者の薬物療法に関わることが求められており,薬剤師が薬物療法における有効性の担保や安全性の確保に貢献することが期待されている2).したがって薬剤師が上記の職能を発揮するためには,医薬品の化学的・物理的特性の情報をもとに体内動態や治療効果を予測する,病態や薬物治療の知識をもとに患者の状況に応じて個々に必要な薬学的管理指導を行う等,多様な情報を関連づけて思考する能力が必要である.この職能の変化に伴い,近年の薬剤師国家試験(以下,国試)の出題傾向も大きく変化し,学生は実務実習での経験も含めた実務の知識と大学で学ぶ基礎薬学や医療薬学等の知識との関連性を意識して深く学習を行うことが求められている.

「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」(以下,コアカリ)には薬学生が卒業時までに「薬剤師として求められる基本的な資質」を身につけるための到達目標が提示されており3),これに基づいて各6年制薬学部のカリキュラムが策定されている.6年制薬学部の教育において,コアカリに提示されている項目全てを限られた一方向型の講義で時間内に伝授することは不可能である.そのため,「薬剤師として求められる基本的な資質」を身につけるためには,学生は主体性をもって計画的に学び,自身で科目を超えた関連性を把握し,得た学びを活用する能力を養う必要がある.この能力は,大学卒業時に身につけるべき「学士力」として挙げられている,「自己管理力」や「生涯学習力」,「統合的な学習経験と創造的思考力」に該当する4,5)

帝京大学薬学部では,薬学基礎から衛生薬学,医療薬学,薬学臨床の内容を関連づけて統合的に理解することを目的として,2019年度に一部のユニットのトライアルを経て,2020年度から6年次前期に分野横断統合演習の科目である「薬学統合演習2」を開講している.この「薬学統合演習2」は,これまでに報告されている低学年を対象としたものや症例をベースに科目と関連させたものとは異なり613),6年次に実務実習を終えた時点で改めてこれまでに学んだ知識と実務実習での経験を結び付ける分野横断型演習である.報告がある演習のほとんどは対面型授業で行われているが,2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大があったことから学校教育全体の教育システムの転換が必要となり,これまで行われてきた大学での対面講義自体が実施できない状況となった.そこで,配信された資料をもとに課題に取り組み,課題内容に関する確認テストに臨み,復習を行う流れの自己学習を主体としたオンデマンド形式による分野横断統合演習を実施した.COVID-19感染拡大の影響により,オンライン授業(ライブ形式の授業)の実施に関して多くの報告はあるが9,1417),オンデマンド形式の授業による分野横断統合演習の学習効果に関する報告はない.そこで,「薬学統合演習2」を受講した学生に実施した到達目標自己評価および授業後アンケート,確認テスト等の結果を指標として,今回実施したオンデマンド形式の授業による分野横断統合演習の学習効果について検討した.

方法

1. 「薬学統合演習2」の実施概要

帝京大学薬学部2020年度6年生259名(男性:96名,女性:163名)を対象に行った.本科目は6年生前期必修科目(6単位)であり,1日90分×2コマの時間枠で2020年3月に3ユニットを8日間,4月に3ユニットを14日間実施した(表1).各ユニットのテーマは,実務実習において関わるべき代表的な疾患と関連すること,国試頻出範囲であること,受講対象学生の苦手分野だと考えられる範囲であることを条件に「感染制御・抗菌薬の選択」「がん」「有機化学と薬物代謝」「セントラルドグマ・ウイルス感染症とその治療薬」「免疫反応」「薬物動態」の6テーマを設定した(表1).また,学生が本科目で習得すべき内容を理解して学習に臨むことを目的に,コアカリや国試出題基準を参考に到達目標(計48項目)を設定した(表2).

表1 「薬学統合演習2」の概要
ユニット 実施時期 日数 確認テスト実施回数 テーマ 内容 コアワード 課題例
1 2020年3月 3 1 感染制御・抗菌薬の選択 感染制御に関して実務実習で学んだことを活かし,キーワードを用いて感染制御における薬剤師の業務について理解を深める. 「院内・施設内感染」
「耐性菌」
「消毒」
「感染予防」
・感染制御に関する全体像を把握するため,「院内・施設内感染」「耐性菌」「消毒」「感染予防」のキーワードを必ず入れて,イメージマップを作成しよう.
・5つの症例について,病原微生物や発症機序,発生場所,薬物治療を整理しよう.
2 2 1 がん 抗悪性腫瘍薬の作用機序と代表的なレジメンの薬学的管理における注意事項について理解を深める. 「レジメン」
「作用機序」
「適応症」
・代表的なレジメンに関する「過去の薬剤師国家試験問題を解いた上で,そのレジメンについて,適応や構成する医薬品の作用機序,薬学的管理上の注意点を整理しよう.
3 3 3 有機化学と薬物代謝 有機化学の基礎を踏まえ,医薬品の代謝反応や毒性発現機序を化学的に理解し,知識を整理する. 「基本的な反応」
「プロドラッグ」
「薬物代謝酵素」
・芳香族求電子置換反応において,活性化基として働く置換基と不活性化基として働く置換基の相違点を説明し,それぞれについて具体例を挙げよう.
・酢酸エチルを酸性条件下で加水分解すると,酢酸とエタノールが得られる.この反応の機構の詳細を,電子の移動を矢印で示すことにより説明しよう.
・提示したプロドラッグの構造式のうち,プロドラッグ化の目的に対応する「導入部分」が区別できるように赤線で囲み,その目的を説明しよう.
4前半 2020年4月 4 1 セントラルドグマ・ウイルス感染症とその治療薬 セントラルドグマについて全体像を把握したうえで,キーワードを用いて流れを説明できるように理解し,知識を整理する. 「転写」
「翻訳」
「複製」
・「セントラルドグマ」を中心において,これまでに学習したことを振り返りながら,イメージマップを作成しよう.
・真核生物では,DNAは核の中にありますが,タンパク質は核の外で作られます.どのようにDNAの情報が核の外に伝わるのでしょうか.提示キーワードの中で関連すると考えるキーワードを必ず入れて,4場面の図を用いて説明してみよう.
・mRNAに写し取られた遺伝情報はポリペプチドへと変換され,修飾を受け,機能的なタンパク質となります.どこで,どのように起こるのでしょうか.提示キーワードの中で関連すると考えるキーワードを必ず入れて,4場面の図を用いて説明してみよう.
4後半 3 1 ウイルスの感染成立の流れと治療薬の作用機序を関連づけて理解し,薬学的管理における注意事項について知識を整理する. 「感染の成立」
「抗ウイルス薬」
「薬学的管理上の注意事項」
・HIVウイルス感染症やB型肝炎には逆転写酵素阻害薬が有効であるのに対して,インフルエンザ感染症には効果が無いのはなぜか?3つのウイルスに関する感染から放出までの図をそれぞれ描き,これらを用いて説明してみよう.また,この図に提示した医薬品の作用点を記入してみよう.
5 4 3 免疫反応 免疫機構の全体像を把握した上で,免疫抑制薬の作用機序を理解し,知識を整理する. 「自然免疫と獲得免疫」
「体液性免疫と細胞性免疫」
・資料集を基に,免疫反応の流れに関するイメージ図を完成させよう.また,流れの説明文の空欄に適切な語句を入れて,穴埋めプリントを完成させよう.
6 3 0 薬物動態 免疫抑制薬の薬物動態を考慮して,個別化医療を目的とした投与設計について理解を深める. 「免疫抑制薬の性質と体内動態」
「TDM」
・病院薬剤師になって3年目のAさんはTDM室の担当になりました.腎移植を予定している医師から「免疫抑制剤を投与するにあたり,どのような事が必要か」との問い合わせがありました.この病院では10年前からTDMが行われていますが,移植治療は初めてです.
Q1)シクロスポリンとタクロリムスは何故TDMが必要なのか.その理由を説明しよう.
Q5)術後,タクロリムスの投与を静脈内点滴投与に切り替えた.この場合,投与量はどのように設定すればよいか.バイオアベイラビリティから考えよう.

各ユニットの実施時期,授業日数,確認テスト実施回数,テーマ,内容,コアワード,課題例を記載した.

 

表2 「薬学統合演習2」の到達目標
ユニット 問番号 到達目標
1 問1 保健,医療,福祉,介護における多職種連携協働及びチーム医療の意義について説明できる.
問2 多職種連携協働に関わる薬剤師,各職種及び行政の役割について説明できる.
問3 チーム医療に関わる薬剤師,各職種,患者・家族の役割について説明できる.
問4 主な滅菌法および消毒法について説明できる.
問5 感染の成立(感染源,感染経路,侵入門戸など)と共生(腸内細菌など)について説明できる.
問6 日和見感染と院内感染について説明できる.
問7 現代における感染症(日和見感染,院内感染,新興感染症,再興感染症など)の特徴について説明できる.
問8 抗菌薬の薬理(薬理作用,機序,抗菌スペクトル,主な副作用,相互作用,組織移行性)および臨床適用を説明できる.
問9 主要な抗菌薬の耐性獲得機構および耐性菌出現への対応を説明できる.
2 問10 抗悪性腫瘍薬の薬理および臨床適応を説明できる.
問11 代表的な化学療法レジメンについて,構成薬物およびその役割,副作用,対象疾患を概説できる.
問12 抗悪性腫瘍薬の主な副作用軽減のための対処法を説明できる.
問13 遺伝的素因を考慮した薬物療法について,例を挙げて説明できる
3 問14 代表的な化合物をIUPAC規則や慣用名を用いて命名することができる.
問15 化学結合の様式や混成軌道について説明できる.
問16 異性体に関して(キラリティ,エナンチオマー,ジアステレオマー,ラセミ体,メソ体,絶対配置)について説明できる.
問17 基本的な有機反応(置換,付加,脱離)の特徴を理解し,分類できる.
問18 芳香族性の概念を説明できる.
問19 芳香族炭化水素化合物の求電子置換反応の反応性,配向性,置換基の効果について説明できる.
問20 代表的な芳香族複素環の芳香族性,求電子置換反応の反応性,配向性,置換基の効果について説明できる.
問21 求核置換反応の特徴について説明できる.
問22 カルボン酸誘導体(酸ハロゲン化物,酸無水物,エステル,アミド)の基本的性質と反応を列挙し,説明できる.
問23 化合物・医薬品の構造からその物理化学的性質(酸性,塩基性,疎水性,親水性など)を説明できる.
問24 医薬品の標的となる生体高分子(タンパク質,核酸など)の立体構造とそれを規定する化学結合,相互作用について説明できる.
問25 プロドラッグなどの薬物動態を考慮した医薬品の化学構造について説明できる.
問26 医薬品(ヌクレオシドおよび核酸塩基アナログ,β-ラクタム構造をもつ医薬品,DNA と結合する医薬品)の化学構造に基づく性質について説明できる.
4前半 問27 DNAや遺伝子とは何かを説明できる.
問28 DNAの複製の過程について説明できる.
問29 DNAからRNAへの転写の過程について説明できる.
問30 RNAからタンパク質への翻訳の過程について説明できる.
4後半 問31 ウイルスの構造,分類,および増殖機構について説明できる.
問32 様々なウイルスの感染の成立(感染源,感染経路)について,ウイルスの違いを考慮した上で説明できる.
問33 ウイルス感染症治療薬の薬理作用を,ウイルスの違いを考慮した上で説明できる.
問34 患者・来局者に,主な医薬品の効能・効果,用法・用量,警告・禁忌,副作用,相互作用,保管方法等について,適切に説明できる.
問35 HIV感染症の薬物療法上の問題点を解決するために,必要な薬学的管理の注意事項を説明できる.
5 問36 免疫に関わる主要な用語を説明できる.
問37 病原性細菌に対する応答が説明できる.
問38 自然免疫と獲得免疫の関係を説明できる.
問39 体液性免疫と細胞性免疫が説明できる.
問40 異物に対する免疫反応の多様性を説明できる.
問41 ウイルス感染に対する応答が説明できる.
問42 免疫系での異物の認識について説明できる.
問43 臓器移植時の拒絶反応について説明できる.
問44 免疫抑制薬の作用機序について説明できる.
問45 体を守る仕組みである免疫反応の全貌が概説できる.
6 問46 シクロスポリンとタクロリムスの構造式,物性,ADMEの特徴,薬物動態パラメータ,至適血中濃度(投与量)範囲,相互作用,剤形について,両者の違いが説明できる.
問47 症例に基づき,免疫抑制薬の選択と個別投与計画が行える.
問48 術後安定期における投与法の変更,外来治療,服薬コンプライアンス,食事の影響を考慮した個別投与計画が行える.

ユニット毎に到達目標を設定し,受講前後に各項目(計48項目)について「5:できる」「4:ややできる」「3:どちらともいえない」「2:ややできない」「1:できない」の5段階尺度で自己評価を行った.

課題や解説等の資料配信,確認テスト,アンケートは,帝京大学薬学部独自の学習支援システムであるTYLAS(Teikyo yakugaku Learning Assist System)を利用して実施した.授業の流れは,まず,授業の目的や今回の課題内容と科目の関連性,課題の取り組み方に関してガイダンス資料に詳細に記載して配布し,授業開始前に到達目標の自己評価を回答させた.次に,各ユニット開始時にスケジュールを記載した概要説明資料を配信し,全てのユニットで①順次配信される課題シートを自己学習してプロダクトを作成し,②指定した時間内で確認テストを解答して提出,③確認テスト提出締め切り後に配信される解説資料を活用して復習することで知識を確認・修正する,という①~③のサイクルを行うように設定した(図1).①で提示する課題は,「全体の把握」「個人の理解」「他者への説明」を意識して設定した.例えば,ユニット4「セントラルドグマ・ウイルス感染症とその治療薬」では「HIVウイルス感染症やB型肝炎には逆転写酵素阻害薬が有効であるのに対して,インフルエンザ感染症には効果がないのはなぜか?感染から放出までの図をそれぞれ描き,説明してみよう」「さらに,作成した図に抗ウイルス薬の作用点を加えてみよう」のように,教科書等に記載されている文章を書き写すのではなく図に描いて他者に説明できるように理解し,複数の科目を関連させるような課題とした(表1).また,①で課題に取り組む時間配分を含めた学習計画を学生に提示して実施させ,②と③および到達目標の自己評価を行い自分の学習結果を振り返る機会を設けることで,学生に「科目を超えて関連づけて統合的に学習し,学習状況を確認する」流れを意識させることができると考えた.ただし,ユニット6は課題に問題演習を組み込んでいるため,確認テストは実施しなかった.

図1

分野横断統合演習の流れ.今回構築したオンデマンド形式による授業の流れを示した.授業前に,授業の目的や課題の取り組み方に関するガイダンス資料を配布し,受講前の到達目標自己評価実施した.各ユニット開始時にスケジュールを記載した概要説明資料を配信し,全てのユニットで①順次配信される課題シートを自己学習してプロダクトを作成し,②指定した時間内で確認テストを解答して提出,③確認テスト提出締め切り後に配信される解説資料を活用して復習する.この①~③のサイクルを各ユニットで行った.全てのユニット終了後に振り返りとして到達目標自己評価を行い,最終確認テスト(定期試験)を実施した.

授業後の到達目標自己評価は,授業が終了した4月末にTYLASで実施した.定期試験は,大学への登校が可能となり試験実施の環境整備が整った7月に実施した.定期試験の問題は各ユニット5問ずつ計35問を作成し,正答率70%を目安とした難易度とし,課題や確認テストに関連する内容を出題した.本科目の評価は,学生が提出した課題プロダクトの取組状況や確認テストおよび定期試験を総合して認定した.

2. 到達目標自己評価およびアンケートの解析

本科目を受講した学生に対し,授業前後に到達目標自己評価(5段階尺度形式:5.できる~1.できない),授業後にユニットに関するアンケート(理解の深まり:5.とても思う~1.全く思わない;確認テスト難易度:5.難しい~1.易しい;満足度:5.満足~1.不満足の5段階尺度形式および授業を受けた感想について自由記述形式)を実施した.到達目標自己評価および授業後アンケートの5段階尺度形式の回答データは,「できる」5点,「ややできる」4点,「どちらともいえない」3点,「ややできない」2点,「できない」1点のように点数化して単純集計と統計処理を行い,授業前後の比較検定はWilcoxon符号付順位和検定を行った.授業後アンケートの全ユニットの「理解の深まり」に関する回答データ(5段階尺度)を用いて,Ward法による階層的クラスター分析でクラスタリングを行った.クラスター毎に「理解の深まり」および「満足度」のクロス集計表を作成し,クラスター間の定期試験平均得点率についてTukeyのHSD検定を行って比較した.全ての統計処理は,JMP Pro 16(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用し,検定結果はすべてp < 0.05を有意差ありとした.回答データに欠損値がある場合は無効とし,到達目標自己評価は授業前後のデータが揃っている回答を有効データとしたところ,到達目標自己評価の有効回答数は3月期がn = 175,4月期がn = 193であった.また,授業後アンケート(5段階尺度)の有効回答数はn = 212であった.

授業後アンケートの自由記述(n = 43)の解析は,KH Coder3(https://khcoder.net)を用いてテキストマイニングを行った18,19).形態素解析には茶筅を使用し,自由記述の集計単位を文,最少出現数を5としてJaccard係数上位60の語を用い,共起ネットワーク(サブグラフ検出)を作成した.共起ネットワーク図は,出現回数が多い語句ほど大きい円で描画するバブルプロットで描画し,関連性が強い語句は実線で表記した.テキストマイニングを行うにあたり,自由記述の記載を「グループディスカッション」は「SGD」に,学生への伝達時に用いていた「IRAT」の表現は「確認テスト」に,「国家試験」と「国試」のように同一であると判断できる語句は統一した.元の文脈を確認する際はKWICコンコーダンスを用い,文中に引用する際は共起ネットワーク図に出現した語句を下線で示した.

3. 倫理的配慮

対象学生に対して,本調査の目的および回答内容で不利益は生じないこと,解析において匿名化処理を行うことを口頭と文書で提示し,データの利用に関して同意を得た.本研究は,帝京大学倫理委員会の承認を得て行った(帝倫19-132-3号).

結果

薬学統合演習2では,分野横断知識の理解を深めるために,図1に示した学習サイクルに沿って実施した.学習サイクルの①で多くの学生は関連性を意識して人に説明が可能なように個人プロダクトを作成していたが記載内容に個人差が見られたため,一部のユニットでは教員が学生の個人プロダクトで良く描画されている点や不足している点を抽出し,フィードバック資料や動画を作成して学生に提示した.②の確認テストは,課題プロダクトを想起しなければ解答が困難な内容を盛り込んで出題し,全体の難易度は正答率70%を目安として作成した.

薬学統合演習2の到達目標自己評価をみると,授業前に「できる」「ややできる」と答えた学生の割合は5~75%とばらつきが大きく平均値は41%であったが(図2A),授業後は55~85%になり平均値は66%であり,授業後に全ての項目で有意に上昇した(図2B).

図2

「薬学統合演習2」到達目標自己評価の授業前後の分布変化.表2に示した到達目標(48項目)の自己評価について,5段階の各尺度を選択した学生の割合を100%積み上げ方式で表示した.また,「できる」5点,「ややできる」4点,「どちらともいえない」3点,「ややできない」2点,「できない」1点に点数化して,Wilcoxon符号付順位和検定を行った.

*:p < 0.05;**:p < 0.01;***:p < 0.001.

ユニット毎に実施した確認テストの平均得点率は49~87%であり,ユニット1,2,4後半,5-3は80%以上の高い正答率であった(図3A).授業後アンケートの確認テストの難易度に関しては,ユニット1,2,5-3は60~70%が「ちょうど良い」と回答しており,ユニット3,4では50~70%の学生が「難しい」「やや難しい」と回答していた(図3B).

図3

(A)各ユニットの確認テスト平均得点率.各ユニットで実施した確認テストの平均得点率±標準偏差を示した.ユニットによって複数回確認テストを実施している場合は,例えばユニット3の1回目の確認テストを「U3-1」のように表示した.(B)授業後アンケートによる各ユニットの確認テストの難易度.授業後に「確認テストの難易度」について「5:難しい」「4:やや難しい」「3:ちょうど良い」「2:やや易しい」「1:易しい」の5段階尺度でアンケートを行った,5段階の各尺度を選択した学生の割合を,100%積み上げ方式で表示した.

授業後アンケートの「理解が深まったと思うか(以下,理解の深まり)」という質問に対して,全体(n = 212)の回答分布を見るとユニット1~6の全てで「4思う」と回答した学生が最も多く,全てのユニットで中央値が “4” であった(表3).「満足度」については,中央値がユニット1,3は “3” であり,ユニット2,4~6は “4” であった.「理解の深まり」の回答データを用いた階層的クラスタリングにより,3つのグループに分けた.グループI(n = 24)の学生は「理解の深まり」に対してほぼ全てのユニットで「5とても思う」「4思う」と回答しており,ユニット1~3,6の中央値は “4”,ユニット4,5の中央値は “5” であり,「満足度」の中央値も同様であった.グループII(n = 154)の学生は「理解の深まり」に対して「4思う」と回答した学生が最も多く,全てのユニットの中央値が “4” であり,「満足度」の中央値はユニット1が “3”,ユニット2~6が “4” であった.グループIII(n = 34)の学生は「理解の深まり」「満足度」ともに「3どちらとも言えない」と回答した学生が最も多く,それぞれ全てのユニットの中央値が “3” であった.

表3

「理解の深まり」と「満足度」および定期試験得点率の比較

授業後に実施したアンケートで,「理解が深まったと思うか(理解の深まり)」について「5:とても思う」「4:思う」「3:どちらともいえない」「2:思わない」「1:全く思わない」の5段階尺度でアンケートを行った.「満足度」については,「5:満足」「4:やや満足」「3:どちらともいえない」「2:やや不満足」「1:不満足」の5段階尺度でアンケートを行った.授業後アンケートの全ユニットの「理解の深まり」に関する各学生の回答データ(5段階尺度)を用いて,Ward法による階層的クラスター分析でクラスタリングを行い,3つのグループに分けた.各グループの「理解の深まり」と「満足度」の回答データのクロス集計表を作成し,ユニット毎の中央値を記した.また,グループ間の「定期試験平均得点率」を比較した.定期試験平均得点率の比較は,TukeyのHSD検定を行った.***:p < 0.001.

全体(n = 212)の定期試験平均得点率は70.2%であり,「理解の深まり」の回答データを用いた階層的クラスタリングにより分類した各グループの平均得点率を比較すると,グループIは78.2%,グループIIは70.7%,グループIIIは64.5%であり,グループIとグループIIIとの間で有意な差が認められた(表3).

「薬学統合演習2」を受講した学生のオンデマンド形式の授業に対する意見を抽出するため,授業後アンケートの「授業を受けた感想」についてテキストマイニングを行い,文章の出現頻度が高い語句を抽出し,語句同士の関連性を示す共起ネットワーク(サブグラフ検出)図を作成した.その結果作成された4つのグループを,「(a)課題の難易度」「(b)資料配信方法」「(c)解説方法」「(d)個人学習とグループ学習の利点」とした(図4).それぞれの文脈を確認すると,(a)「課題が多くて大変だった」「課題の内容が難しく,終わらせるのに時間がかかってしまったり,全部は終わらせることができなかった」,(b)「全課題をまとめて一度に配信してもらった方が時間を有効に使えたと思います」「事前課題課題時間がかかり,自習する時間があまりとれなかった」,(c)「ユニット6の計算問題について解説動画がほしいです」「ユニット6みたいに確認テスト解説資料にも問題をつけて欲しかった」,(d)「研究室のとやることで気軽に質問でき,課題の範囲以外もにつけることができた」「SGDをしないことにより,自分のペースで進めることができたためとても勉強になった」「WEBだとが引き締まらない」のような文章であった.

図4

「受講した感想」(自由記述)の共起ネットワーク.授業後アンケートの「受講した感想」の自由記述を用いて,共起ネットワーク(サブグラフ検出)を作成した.共起ネットワーク図は,出現回数が多い語句ほど大きい円で描画するバブルプロットで描画し,関連性が強い語句は実線で表記した.サブグラフ毎に囲い,(a)~(d)の表記をつけた.

考察

今回の「薬学統合演習2」は,学生が1~4年次で薬学基礎分野から医療薬学分野に関して学習し,5年次で実務実習を通して薬学臨床分野に関して学びを得た後,6年次で統合的に学習し,複数分野を関連付けて理解することを目的とした分野横断統合演習であり,COVID-19感染拡大の状況下において対面授業に代わる授業形式としてオンデマンド形式で実施した.本科目では,方法に示している「ウイルスの感染の成立の流れを把握してから治療薬の作用点を理解し,治療上の留意点を意識する」のように,1つの課題に関して全体の流れを把握した上でさらに複数科目で学ぶ内容を統合して整理し,課題に取り組んだ後に問題演習で理解度の確認を行うという流れを通して,今回のテーマを深く理解することを狙いとしている(図1).また,学生が自学自習の習慣をつけることも期待している.

本科目を受講することにより,学生の到達目標自己評価は全ての項目で授業前と比べて授業後で有意に上昇しており,多くの学生が各ユニットで学んだ内容を説明できると思うようになったことが示された(図2).これは,上記の狙いが有効に働いた結果であると考えられる.

授業後アンケートで「確認テストの難易度」について質問したところ,ユニット3やユニット5で「難しい」「やや難しい」と回答している学生が多かったものの多くのユニットで「ちょうど良い」と回答していた.また,確認テストの正答率は49~87%であった(図3).ユニットで実施する確認テストの問題は,改訂版タキソノミーにおける認知過程次元の「理解する」または「応用する」レベルを想定して作成しており20),アンケートの結果から確認テストの難易度は適切であったと考えられた.

授業後アンケートの「理解の深まり」に対して全体(n = 212)では「4思う」と回答した学生が最も多く,中央値が “4” であり,「満足度」もユニット1および3以外は「4やや満足」と回答した学生が最も多く中央値も “4” であった(表3).このことから,受講した学生は本科目が有意義なものととらえていると考えられた.また,「理解の深まり」の回答データを用いたクラスタリングによって分かれたグループの結果を比較すると,グループI(n = 24)の「理解の深まり」と「満足度」の中央値は “4” および “5” と評価が高く,グループIII(n = 34)の「理解の深まり」と「満足度」の中央値は全てのユニットで “3” であった.また,グループI~IIIで「理解の深まり」と「満足度」の中央値が高いと定期試験平均得点率も高く,特にグループIIIと比べてグループIは有意に高かった(表3).このことから,「薬学統合演習2」を受講した後の「理解の深まり」と「満足度」の評価が高い学生は,各ユニットのテーマに関する内容がより理解できていると思われた(表3).多くの大学では学生による授業評価アンケートが実施されており,「理解度」や「満足度」に関する報告もされている2123).これらの報告では,授業の「満足度」と「理解度」は相関があることや,「授業の満足度」には「授業への興味・関心」と「授業の理解度」が影響すること,「授業の満足度」と「成績」もしくは「理解度」と「成績」に相関が見られること等が述べられている.データには示さなかったが,今回の「薬学統合演習2」でも各ユニットの「理解の深まり」と「満足度」には正の相関が見られており,「理解の深まり」と「満足度」が定期試験の成績に関連する可能性が示された.

さらに,「薬学統合演習2」のユニット4「セントラルドグマ・ウイルス感染症とその治療薬」の確認テストで出題した「翻訳」に関する問題を,6年生後期科目「薬学総合講義4」で実施している総合的な学力を確認する試験(10月)に軽微変更を行い出題した.なお過去3年間においても,この類似問題を出題している.そこでこれら類似問題の4年間の正答率を比較すると,2017~2020年度の正答率はそれぞれ39.2%,51.4%,71.2%,68.2%であった(図表なし).正答率が2018年度から2019年度にかけて約20%上昇したのは,2019年度に「薬学統合演習2」のトライアルとしてユニット4を実施していたためと思われる.このことからも,「薬学統合演習2」を受講することで短期ではない知識の習得ができていると考えられる.以上の結果から,「薬学統合演習2」は,効果的なプログラムであると考えられた.

「授業を受けた感想」のテキストマイニングの結果からは,「(a)課題の難易度」「(b)資料配信方法」「(c)解説方法」「(d)個人学習とグループ学習の利点」という語のつながりが抽出された(図4).(a)~(c)の文脈から,オンデマンド形式で実施する際は,資料の配信方法,課題の量や難易度,時間配分,解説の配信方法について,改善が必要であることが示された.(d)の文脈には「自分のペースで進めることができたためとても勉強になった」「自分で調べて学ぶことができた」「SGDをやらないことで勉強時間が増加し,理解をより深めることができた」という個人学習での理解の深まりに関する記述が複数あり,オンデマンド形式で実施するメリットであると考えられた.学生が作成した個人プロダクトは,人に説明が可能なように作成した図にコメントを加える,キーワードの文字色を変える等の工夫が見られたことからも,理解が深まるように取り組んでいたと思われる.更に,(d)には「個人で勉強後,研究室のと教え合いながら復習を行ないました.気心の知れた仲間同士なので遠慮せずに発言がしやすく,議論が活発に行えました.今まで他の講義で行ってきたSGDよりもはるかに得られるものが大きかったと感じました」「研究室の勉強を行ったので捗った」のような記述もあり,学生同士が自主的に仲間と教え合いを行っていたことがわかり,自主的に共同学習を促す効果もあったと考えられた.課題について自らが文献調査を行う “自己学習授業” と,教員が知識を伝達する “通常講義” を実施し,講義形式による学習意欲への影響に関する報告がある24).この報告では,“自己学習授業” は自ら授業に取り組む姿勢に結びつくとともに,友人との情報交換の促進と学業成績向上を促すと述べられており,今回のオンデマンド形式で実施した授業でも同様の効果があると考えられた.COVID-19感染拡大によってオンライン授業を行う大学が増え,オンデマンド形式による授業で高い理解度や満足度が得られたことやオンライン授業のメリットとデメリットについての報告がされている2527).これらの報告によると,学生が考えるオンデマンド形式授業のメリットは「通学時間の有効活用」「自分のペースで授業を受講できる」「見返すことが出来るため,理解を深めることが出来る」であり,デメリットは「授業に集中しにくい」「オンラインの環境への不安」「授業への意欲の低下」「課題が多い」ことであった.これらのメリットおよびデメリットは,今回の授業後アンケートの自由記述にも記載されている内容であった.

今回実施したオンデマンド形式の授業による分野横断統合演習は,教員側が段階を踏んだ課題提示を行うことで,学生に自主的な学習を促すことができ,「理解の深まり」と「満足度」および定期試験の結果から効果的なプログラムである可能性が示された.このプログラムは,人的資源や施設資源の制限を受けず実施することが可能であり,教員同士が密に連携して課題を作成することで,学年を問わず複数の科目で学ぶ内容を関連づけて理解を促す自己学習システムへと発展させることも可能であると考える.一方で,「薬学統合演習2」の定期試験得点率が60%未満の学生が2割程度おり,知識の習得が不十分であると思われる学生も存在した.このような低学力の学生は前述したオンデマンド形式授業のデメリットが影響した可能性も考えられ,課題の取り組み状況や確認テストの結果等から介入が必要な学生の早期抽出に繋がる可能性もある.今後も改善を行い,より多くの学生が深い学びを得ることが可能なプログラムにしていきたいと考える.

謝辞

「薬学統合演習2」の振り返りにご協力いただいた学生の皆様,問題作成および解説講義や授業進行にご協力いただきました先生方に深謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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