薬学教育
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実践報告
薬学部1年次生の化学への学修意欲を涵養するグループワークの実践と効果
刀根 菜七子石川 さと子三島 健一冨田 陵子松末 公彦
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2023 年 7 巻 論文ID: 2023-025

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抄録

学生の能動的な学修意欲の涵養につなげるために,1年次前期開講科目「薬学化学入門」に濃度・単位をテーマとしたグループワークを取り入れた.入学直後から学生が疑問を他者と気軽に共有し,楽しみながら学修できる契機にするとともに,その効果を検証した.参加者の感想を分析した結果,「違う-考え方-知れる」,「いろいろ-意見-聞ける」,「濃度-計算-理解」などの語句が共起していた.プレ・ポストテストの結果では,グループワークにより回答者の43%で得点が上昇し,有意差が認められた.さらに,プレ・ポストアンケートの結果を解析したところ,濃度および単位それぞれについて,回答者の29%と40%が苦手意識を改善していた.実施したグループワークの効果が明らかになったため,今後テーマの選定を工夫し,グループワーク後に個別の学修支援を組み合わせることで,化学に対する学修意欲のさらなる向上につながることが示唆された.

Abstract

This study sought to improve first-year pharmacy students motivation to learn. Group work on the theme of “concentration and unit” was introduced with the course to create an opportunity for students to share their questions with others and enjoy the learning process. Text mining analysis of participants’ impressions revealed a relationship with the keywords “different-idea-be known”, “various-opinion-can hear”, and “concentration-calculation-understanding”. The results of the pre- and post-tests revealed that group work increased the scores of 43% of the students. Furthermore, with the aim of applying group work to fields that are challenging for students to understand, we verified the pre- and post-questionnaire surveys. These results showed that 29% of the participants reported an improved understanding of “concentration”. In “units”, 40% of the participants displayed improved understanding. Since the effect of this group work became clear, further effects can be expected by devising the selection of themes and combining individual study support after group work.

目的

6年制薬学教育の開始から16年が経過する中で,薬学教育モデル・コア・カリキュラムが二度目の改訂を迎えるなど,薬学教育にも変化が生じている.2024年度入学者からは「多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の育成」がキャッチフレーズとなり,大学初年次から基礎と臨床をつなぐことを意識した教育が求められている1).この変革の中,6年間という年限で,学生が修得しなければならない知識・技能は幅広く,学生が興味関心を維持でき,積極的かつ効果的に学ぶ環境を提供することが重要となる.そのためにも,アクティブラーニングをコミュニケーション教育2,3) や倫理教育4) に取り入れた報告は多く,福岡大学薬学部(以下,本学)においては1年次通年開講科目である早期臨床体験で授業形態にSGDを用いている.一方で,専門教育科目では他大学薬学部での実践例57) はあるものの,本学ではこれまでにグループワークを用いた実践例がない.その背景として,本学の入学定員230名に対する専門教育科目は全て大規模教室での講義形式であり,限られた時間の中で学生に必ず修得させなければならない項目を加味すると1科目全てのコマでグループワークを行うのは困難であったことが挙げられる.

本学薬学教育支援センター(以下,支援センター)では,学生の苦手意識を低学年次のうちに改善することが,卒業までの学修をスムーズにすることを,生物リメディアル教育の実践を通してすでに明らかにした8).現在は苦手意識の早期解消に加えて,低学年次から疑問を溜めこまずに気軽に質問できる環境を構築することにより,学修に対する苦手意識を植え付けない新たな支援方法の開発をめざしている.そこで今回,1年次前期開講の専門教育科目である「薬学化学入門」の1コマ(90分)にグループワークを取り入れ,入学直後から学生同士が気軽に学修に関する疑問を共有し,話し合い,楽しみながら解決する手法を体験する契機とした.

本研究は,このグループワークの効果を検証することで,専門教育科目でのグループワークが学生の知識修得,能動的な学修意欲やコミュニケーション能力の涵養,学習内容に対する苦手意識の軽減につながる可能性があるかを確認することを目的とする.これにより,今後も継続して専門教育科目でのグループワークを実施する方法を確立させ,学修に対する苦手意識を植え付けない新たな学修支援の実践をめざす.

方法

1. グループワークを取り入れた授業の概要

2022年度1年次前期開講科目「薬学化学入門」(全15回)の7回目(1コマ90分)にグループワークを実施した.シラバスに記載した到達目標のうち,「物質量の基本単位の定義を説明できる」,「溶液の濃度計算ができる」に該当する部分にグループワークを取り入れた.5,6回目の講義内容は,濃度・単位以外の内容を取り扱ったが,授業内の一部でグループワークに向けての準備を行った.

1) グループワーク実施回まで

薬学化学入門の2回目は,昨年までと同様の内容で,テキストに準じて濃度・単位に関する講義を行った.5回目の講義時に,グループワーク実施前の時点では,濃度計算・単位換算がどの程度理解できているかを確認するためのプレテストを実施した.内容は「0.2 M HCl 30 mLを6 M HClから調製するには,どのようにすればよいですか?」,「1 μmは何cmでしょうか?」の2問の記述問題である.6回目の講義時には,プレアンケートの実施と,グループワークまでの1週間で学生に日常生活の中にある濃度・単位を意識してもらえるよう,「身の回りにはどんな濃度・単位があるでしょうか?」の課題を配布した.課題の内容は,グループワーク当日のアイスブレイク時に使用した.

2) グループワーク実施当日

履修登録者235名は,117名と118名に分け,同一内容のグループワークを2回実施した.進行役の教員は1名,補助スタッフは2名とした.机と椅子が固定式である大規模教室を利用したため,各グループでコの字型になるよう着座の場所を指定し,机と机の間にイーゼルパッドを平らに置いてテーブルの代わりとした.

グループワークのテーマ設定では,前年までの講義後に複数の受講者から質問があったこと,学生実習や,高学年次での研究活動時にも苦手とする学生がいることを考慮して,濃度計算・単位換算を選定した.具体的には,入学して間もない学生が,入門科目で学ぶ基礎知識が将来どのように生かせるのかイメージでき,薬学部での学修により興味を持てるような内容にした.また,入学後の5月末に実施したため,まだ交流のない学生同士がなるべく多く話せるよう,1グループ4~6名の22グループで,ワールドカフェ方式とした.各ラウンドのテーマは,①身の回りにある濃度・単位(アイスブレイク),②濃度計算,③単位換算,④濃度・単位に関連した医療事故,の4つである.最初に着座するグループ分けは,プレテストの正答率が各グループでおおよそ均等になるように,かつ,本学薬学部1年次生が受講している早期臨床体験でのSGDのグループとの重複がないように事前に決定し,第4ラウンドでは再び最初の座席に戻るように指定した.全てのテーマ終了後,グループワークの効果を確認するためのポストテストを実施した.ポストテストの内容は,プレテストの数字や単位を軽微に変更する程度に留めた.解答回収後に教員がプレ・ポストテストの問題を解説し,ポストテストで不正解の場合でも,理解できるようにした.グループワーク終了後に,任意回答のポストアンケート調査を実施した(表1).

表1

グループワークの概要.グループワーク実施前後に行ったプレ・ポストテスト,プレ・ポストアンケート,課題,グループワーク当日の内容.

講義回(日付) 実施内容
第2回(4/13) 濃度・単位に関する講義
第5回(5/11) プレテスト
(1)0.2 M HCl 30 mLを6 M HClから調製するには,どのようにすればよいですか?(濃度計算)
(2)1 μmは何cmでしょうか?(単位換算)
第6回(5/18) プレアンケート(5件法)
(1)濃度計算(%やモル濃度などの計算)についてどのように感じますか?
(2)単位の換算(μL ⇄ mL,ng ⇄ mgなど)についてどのように感じますか?
課題配布
身の回りにはどんな濃度・単位があるでしょうか?
第7回(5/26) グループワーク
(1)身の回りにはどんな濃度・単位があるでしょうか?(課題内容)
(2)そうめんを食べようと思い,めんつゆを取り出しました.パッケージには「四倍濃縮」との記載があります.めんつゆ1の量に対して,どれだけの水を加えると,めんつゆは正しく希釈され,美味しくそうめんが食べれるでしょうか?(濃度計算)
(3)新型コロナウイルス感染症の原因となっているウイルスは直径約100 nmです.このウイルスのサイズと身近なもののサイズを比較してみましょう.(単位換算)
(4)2つの医療ミス・事故についてのニュースを読んで,これからの学部生活でみなさんが実験をする際や,将来薬剤師として医療に携わる際に,単位や濃度に関してどのようなことに気を付ける必要があるか,話し合ってみましょう.
ポストテスト
(1)0.5 M HCl 40 mLを2 M HClから調製するには,どのようにすればよいですか?(濃度計算)
(2)3 μgは何ngでしょうか?(単位換算)
ポストアンケート
(1),(2)はプレアンケートと同じ
(3)今日のグループ学習で,あなたがグループに貢献できたことは何ですか?(自由記述)
(4)今日のグループ学習の感想を自由に記載してください(自由記述)

2. グループワークによる効果の検証

ポストアンケート調査の自由記述回答をKH Coder 3で解析し,グループワークによる参加者の主観的効果を検証した.ポストアンケートへの回答が得られた172名(回収率77%)のデータを解析対象とした.KH Coder 3での解析対象語は,出現回数5回以上の名詞,サ変名詞,形容動詞,ナイ形容,副詞可能,タグ,感動詞,動詞,形容詞,副詞とし,強制抽出する語として “グループ学習” を設定した.「今日のグループ学習の感想を自由に記載してください」への自由記述回答を用い,階層クラスター分析を行った.各クラスターの命名にはKWIC concordanceを用いた.また,「今日のグループ学習で,あなたがグループに貢献できたことは何ですか?」への自由記述回答と,「濃度計算(%やモル濃度などの計算)についてどのように感じますか?」への5件法を用いた回答結果について,テキストマイニングでの対応分析を行った.出現回数4回以上で,差異が顕著な上位30語を分析に使用した.

続いて,プレ・ポストテスト結果を解析し,グループワークの客観的効果を検証した.プレ・ポストテストは,濃度計算・単位換算に関して1問ずつの計2問出題した.回答様式は記述式であるが,導き方や計算の途中経過等の部分点は加味せず,最終的な解が正答か否かで正誤を判定した.プレ・ポストテストにおいて,回答者全体の正答数に変化が見られるかを,Wilcoxonの順位和検定(統計解析ソフトIBM SPSS Statistics)で統計解析した.個人の正答数変化は,Microsoft Excelを用いて単純集計した.プレ・ポストテスト両方への解答が得られた224名(回収率95%)のデータを解析対象とした.

3. グループワークが参加者の苦手意識に及ぼす効果の検証

プレ・ポストアンケート調査で共通の設問内容である「濃度計算(%やモル濃度などの計算)についてどのように感じますか?」,「単位の換算(μL⇄mL,ng⇄mgなど)についてどのように感じますか?」に対し,とても得意,やや得意,どちらでもない,やや苦手,とても苦手,の中から該当するものを選択する5件法を用いた調査を行い,回答結果をMicrosoft Excelを用いて単純集計した.グループワークにより,回答が何段階改善または悪化するのかを確認した.プレ・ポストアンケート両方への回答が得られた163名(回収率69%)のデータを解析対象とした.

4. 倫理的配慮

履修者全員に対して行ったグループワークの趣旨説明時に,グループワークに関する資料(テスト・アンケート調査・課題)や当日の取り組み内容を将来研究に使用する可能性がある旨と,同意しなかった場合でも,成績等に不利益は生じないことを,文書を用い口頭にて説明した.本研究は福岡大学研究推進課倫理審査委員会の承認を得ている(許可番号:23-02-01).本研究開始前に本学研究推進部ホームページにて本研究に関する情報公開を行い,対象者が協力を拒否できる機会を設けた.

結果

1. グループワークによる効果の検証

ポストアンケートでのグループワークの感想を,テキストマイニングで分析した結果「話す(74回)」,「楽しい(55回)」,「話せる(44回)」,「意見(41回)」が頻出上位の抽出語であった.また,階層クラスター分析を行った結果,7つのクラスターとして,普段と異なる経験,グループワーク中の様子,話し合いからの学び,濃度の理解,意見交換,新たな発見,交流の機会,の話題に分類された(図1).また,「違う-考え方-知れる」,「いろいろ-意見-聞ける」,「楽しい-話せる-交流」,「濃度-計算-理解」などの語句が共起していた.

図1

ポストアンケート調査項目「今日のグループ学習の感想を自由に記載してください」のクラスター分析の解析結果.クラスター数は7に設定した.

グループワーク中に貢献できた内容と,濃度計算への意識について,対応分析を行った.その結果,濃度計算を「とても得意」と回答した学生と,「司会」,「説明」,「薬剤師」の語句,「やや得意」と回答した学生と,「進行」,「書く」,「出せる」などの語句に対応が見られた.「とても苦手」と回答した学生では,「チェックリスト」,「振る」,「考える」などの語句に対応が見られた(図2).

図2

ポストアンケートの自由記述と濃度計算への意識に関する対応分析の結果.

グループワーク前後で行った,濃度計算・単位換算への理解度を確認する2問のテストでは,2問とも正解した学生はプレテストで40名(18%)であったのに対し,ポストテストでは90名(40%)となり,グループワーク後に正答者が増加した.また,プレテストとポストテストの得点には有意差が認められた(p < 0.01).2問とも不正解であった学生は,プレテストでは79名(35%)であったが,ポストテストでは46名(21%)に減少した(図3a).

図3

プレテストとポストテストの結果の比較.(a)正答数による人数比率.(b)プレテストと比べてポストテストで正解に転じた学生数と不正解に転じた学生数.

ポストテストにおける個人の正答数を,プレテストと比較したところ,96名(43%)の学生で増加していた.これらの学生のうち,グループワークにより濃度計算の問題が不正解から正解に変化した学生が68名,単位換算の問題では51名であり,単位換算に比べ,濃度計算ができるようになった学生が多かった.一方で,35名(16%)の学生において,ポストテストで正答数が低下しており,グループワークにより単位換算の問題が正解から不正解に変化した学生が28名,濃度計算の問題では8名であり,濃度計算に比べ,単位換算が不正解になった学生が多かった(図3b).

2. グループワークが参加者の苦手意識に及ぼす効果の検証

プレ・ポストアンケート両方への回答が得られた163名について,濃度と単位に関してたずねた5件法を用いた回答を解析した結果,グループワークにより,濃度計算は46名(29%),単位換算では65名(40%)に苦手意識の改善が見られた.苦手意識が改善した学生では,濃度・単位ともに1段階改善が最も多く,濃度計算では40名(25%),単位換算では50名(31%)であった.一方で,濃度計算では26名(16%),単位換算では25名(15%)に苦手意識の増悪が見られ,濃度・単位ともに,1段階悪化が最も多かった(図4).

図4

プレ・ポストアンケート調査(5件法)の解析結果.(a)各選択肢の回答人数.(b)濃度計算・単位換算への苦手意識がグループワークにより何段階変化したかを,–3~3段階に分類して割合で示した.

考察

今回,入学直後から学生同士が気軽に話し合いながら学修に関する疑問を解決できる環境づくりをめざして,本学1年次生の専門教育科目に初めてグループワークを導入した.グループワークにより,プレテストとポストテストの得点には有意差が認められ(p < 0.01),今回のグループワークにより,学生は楽しみながら知識の修得ができたことが明らかになった.

グループワーク実施後の感想を階層クラスター分析すると,図1に示した結果となり,「みんなで考えることでいろいろな考えを知ることができたので視野が広がった」,「自分にはなかった考えをグループ学習を通して知ることができ,とても楽しかった」といった感想があった.さらに,「自分ではなかなか分からなかった濃度の計算問題も,話し合いの中で理解することができ,達成感を感じた」,「今日のグループ学習で他の人の意見や考えを聞くことにより,濃度計算や単位について理解をより深めることができたと思う」などの意見があり,「濃度-計算-理解」の語句も共起していた.7つのクラスターの内容から,今回のグループワークで,他者と疑問を共有し,話し合い,楽しみながら問題を解決する手法を体験してもらえたことが確認できた.

対応分析の結果(図2)では,テーマへの得意意識がある学生は,グループワークで司会進行やグループメンバーへの説明を行い,積極的に参加していたことが示された.また「薬剤師」の語句にも対応が見られ,将来薬剤師になったときにどのようなことに気を付けるかを,具体的に考えることができていたことが分かった.一方で,テーマへの苦手意識がある学生は,グループワーク中にチェックリストを作った,周りに話を振った,前のグループで考えたことを伝えた,など主体性が少ない様子が伺えたが,「次回このような機会があれば,積極的に発言したい」との意見も多く,今回できなかったことを次回に生かそうとしていた.今後も入学直後に同様のグループワークを継続し,学部教育の早い段階で,人前で自分の意見を発言したり,教え合ったりすることに少しずつ慣れる機会を増やしていくことで,学生の主体性を涵養することが重要であると考える.他者と積極的にコミュニケーションを取ろうとし,入門科目で学んでいる基礎知識が将来どのように生かせるのかイメージしながら参加できた学生が見られたため,テーマの設定は概ね適切であったことが示唆された.

プレ・ポストテストの正答数を解析した結果(図3a),ポストテストで2問とも正解した学生(90名)はプレテスト(40名)の約2倍に増加し,得点に有意差も認められたことから,グループワークが知識修得にもたらす効果を確認できた.すなわち参加者の主観だけに留まることなく,実際に問題を解決する能力の取得にもつなげることができたと考える.

ポストテストの正答数がプレテストより増加した学生では,図3bに示したように,グループワークにより濃度計算ができるようになった学生が多く,正答率が低下した学生では,単位換算が不正解になった学生が多かった.このことより,今回のグループワークは濃度計算の理解に,より効果的であったが,単位換算の理解では混乱を招いてしまった学生が存在することが分かった.濃度計算に関するテーマは,“めんつゆの正しい希釈方法” について,1つの正解を導く内容であったため,学生にとってディスカッションの最終目標が明確であった.一方で,単位換算に関するテーマでは,“ウイルスと身近なものの大きさをたくさん比較する”,といった内容であったため,学生が身近なものを思い浮かべながら,本来のテーマから話が逸れてしまう場面が多く見られたことが一因であると考える.テーマの提示方法により,理解度や効果に差が生じることが確認できたため,2023年度以降は,単位換算に関しても,1つの正解を導く内容に変更する予定である.

続いて,学生にすでに生じた苦手意識の改善にも,グループワークは効果をもたらすかを検証したところ,グループワークにより,濃度計算は29%,単位換算では40%の学生が苦手意識を改善していた(図4).今回は1コマのみの実施であったため,意識変化に大幅な効果をもたらすまでには至らなかったが,苦手意識が悪化してしまった学生は約16%と少なかった.グループワークで苦手意識が悪化した学生に対し,個別の学修支援を組み合わせることで,苦手意識の蓄積による学修意欲や成績不振の未然防止にも,今回のグループワークを活用することができることが示唆された.

グループワーク後にも,学生同士でディスカッションできる場を設けることで,低学年次から他者と問題解決する機会を増やし,学修に対する苦手意識を植え付けない環境づくりも開始した.2022年度は,21名の学生が自主的にテーマを決めて,話し合いながら疑問点を解決する学生主体の学習会を定期的に開催している.学習会では,教員の介入なしに学生同士で活発に意見交換が行われており,参加している学生には,グループワークを用いて疑問を解決する習慣が身に付いた様子である.

本研究では,グループワークのテーマが限定されているため,今後,他のテーマで実施した場合にも,同様の効果が得られるのかを検証する必要がある.また,グループワーク時に得られた,学修に対する「楽しい」という感情が,どの程度その後の学修意欲の向上につながっているかを確認することが困難である,という問題点がある.今後,参加者の進級後にもアンケート調査を実施したり,学習会への参加者数などを調査したりすることで,確認していく予定である.

アクティブラーニングを用いて,楽しんで学び,学修習慣を定着させる取り組みは青江らによっても報告されており9),より多くの学生にその効果をもたらすために,本学では異なる手法を用いて,対象者を1年次生全員とした.今回実施した専門教育科目でのグループワークは,1コマのみの限定されたテーマでの実施ではあったものの,学生の感想によって主観的効果を,ポストテストでの点数によって客観的効果を確認することができた.

1年次生の専門教育科目の1科目全ての授業回にグループワークを用いることは困難であっても,1コマ導入することで,6年間にわたる学部生活での学生の積極性や学習意欲に効果をもたらすことができれば,薬学部での効率的な授業の実施方法の1つとなり得る.そのため,次年度も改善を加えたうえで,さらなる効果が得られるような実施をめざしており,引き続き効果を検証する.加えて正課外での希望者を対象とした学習会も継続して実施することで,低学年次から学生が苦手意識を持たずに,楽しく能動的に学修できるような環境を構築し,多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人を育成していきたい.

謝辞

本研究はJSPS科研費20K14106の助成を受けたものである.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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