2024 年 8 巻 論文ID: 2024-006
感染症拡大時の接触回避や業務効率化による生産性の向上などを目的として,遠隔医療の普及が進められている.薬剤師においても,オンライン服薬指導が改正薬機法により2020年9月より可能になっており,従来の対面での服薬指導に加えて,オンライン服薬指導をうまく活用して効率的かつ効果的な服薬指導を行うことが求められている.そこで,オンライン服薬指導を行う環境・機器の準備状況と実施状況,教育ニーズについて明らかにするために薬局薬剤師に調査を行った.その結果,勤務する薬局にオンライン服薬指導の機器や環境が整備されているとした者は2割程度であり,そのうち実施している者は3割程度と低い状況であった.8割程度の回答者がオンライン服薬指導に関する研修を希望しており,普及が進まない要因として薬剤師のオンライン服薬指導に関わる機器や制度の知識不足や活用法の理解不足が影響していることがあることが考えられた.
Telemedicine was advocated to minimize contact during the spread of infectious diseases and enhance productivity by boosting operational efficiency. The revised Pharmaceutical Affairs Law made online medication instructions accessible to pharmacists from September 2020. In addition to conventional face-to-face counseling, there was a pressing need to provide online medical instructions to patients. Community pharmacists responded to a survey that evaluated the status of implementing this online system. The results revealed that 20% of the respondents affirmed the presence of both equipment and a conducive environment for online medication instruction in their pharmacies, and of those, 30% actively implemented it. Notably, 80% of respondents desired training in such online medication instruction. These findings suggest that an impediment to the widespread adoption of the system is the need for more knowledge among pharmacists concerning the equipment and processes integral to online medication instruction.
業務効率化による生産性の向上などを目的として,デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されている1,2).医療分野におけるDXは,医療機関や介護事業者の医療情報ネットワークの構築3) や人工知能を用いた画像診断支援システムの開発4,5) などがあるが,その1つとして遠隔医療があり,医師のオンライン診療や薬剤師のオンライン服薬指導が実施されている6).
先行して進められたのは,医師によるオンライン診療である.1997年に医療機関へのアクセシビリティが問題となる離島やへき地医療,一部の対象疾患でその活用が認められていたが7),スマートフォンや通信技術の普及に伴い2015年にその規制が大きく緩和され,全国で実施が可能となった8).さらに2018年に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が発出され9),保険診療として実施が可能となった.一方,当時,処方箋に基づいたオンライン服薬指導は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)により,対面での実施が義務付けられており,オンライン診療を受けた患者も薬局で処方薬を受け取る必要があった.そのため,国家戦略特区での実証実験10) と並行した議論が進められ,2019年12月に薬機法の改正法案が成立,2020年9月に施行され,オンライン服薬指導が解禁されることになった.しかし,実際には2019年12月に新型コロナウイルス感染症が出現し,感染拡大を防止するために人同士の接触を回避するという観点から,2020年4月10日に時限的・特例的な対応として,厚生労働省から出された通知11) (以下,「0410対応」)により希望する患者に電話や情報通信機器を用いたすべての診療や服薬指導が認められ,前倒しで開始された.「0410対応」は,2023年7月をもって終了しているが12),内閣府規制改革推進会議などでの議論を経て恒久化され,2022年度調剤診療報酬改定により,オンライン服薬指導を初回から行うことが可能になった13).
薬剤師は,対物から対人へと業務転換を行い,在宅医療やフォローアップ業務に注力していくことが求められており14),その時間を捻出するための業務効率化を進める行う上で,オンライン服薬指導の活用は不可欠と考えるが,その活用状況は十分でないとされる15,16).
オンライン服薬指導は来局または訪問に要する時間の削減などメリットがある反面,デメリットが存在し,対面での服薬指導と比べて得る情報が少ないことが挙げられるが,例えば,フィジカルアセスメントのように直接的な接触が必要な患者の状態の確認を実施する際に問題となる.薬剤師によるフィジカルアセスメントは,平成25年改訂の薬学教育モデル・コア・カリキュラムから記載され17),卒後教育としても研修会が開催されており18,19),フィジカルアセスメントを実施する薬剤師は増えつつあると考えられるが,オンライン環境では触診や聴診が困難であることから,オンライン服薬指導の積極的な導入に至っていない可能性がある.令和4年度に改訂された薬学教育モデル・コア・カリキュラムの「B-5 情報・科学技術の活用」の中でデジタル技術の法規制や活用法の教育が要請されており,環境や状況に応じ,適切な判断に基づいて利活用する重要性を認識し,質の高い医療につなげる能力を持つ人材の養成が求められている20).また,在宅医療におけるDoctor to Patient with Nurse(D to P with N)型のオンライン診療を円滑に運用するために,患者側で診療支援を行うオンライン診療支援者という役割がある21).職種の指定はなく,患者が情報通信機器の使用に慣れていない場合などに,その方法の説明など円滑なコミュニケーションを支援する.チーム医療において,薬剤師もこの役割を担っていくことが期待される9).
本研究は,オンライン服薬指導の現状および研修ニーズの把握を目的とし,オンライン服薬指導の環境整備状況や実施状況および教育ニーズの調査を行った.
調査は,株式会社インテージが保有する全国の薬剤師1,872名のモニターを対象とし,2022年2月4日から同年2月8日に,株式会社インテージを介したWeb形式のアンケート調査(図1)を実施した.属性に関する問を設け(図1;3,4),「薬局薬剤師もしくは調剤併設型ドラッグストア勤務に勤務」かつ「実務を行っている薬剤師」のみが回答可能となるように依頼した.株式会社インテージから得られたデータを受領し,集計・解析を行った.自由記載の問(図1;17)は,筆者と共同著者の3名でKJ法による分類22) を行った後に,分類毎に集計した.なお,本研究は,長崎国際大学研究倫理委員会の承認を得ている(第66号).
アンケート概要
有効回答者数は527名であった.回答者のうち,男性は182名(34.5%),女性は345名(65.5%)であった.年齢層については,20代が10名(1.9%),30代が95名(18.0%),40代が147名(27.9%),50代が176名(33.4%),60代が99名(18.8%)であった.薬局形態は,調剤薬局勤務が486名(92.2%),調剤併設型ドラッグストア勤務が 41名(7.8%)であった.実務経験年数は,1–4年が29人(5.5%),5–9年が75人(14.2%),10–14年が77人(14.6%),15年以上が346人(65.7%)であった.従事している業務は,調剤業務が523人(99.2%),一般用医薬品販売が239人(45.4%),在宅医療が153人(29.0%),その他が6人(1.1%)であった(表1).
回答者の背景
項目 | 総数(N = 527) | 調剤薬局(N = 486) | 調剤併設型ドラッグストア(N = 41) | |
---|---|---|---|---|
性別 | 女性 | 345(65.5%) | 325(66.9%) | 20(48.8%) |
男性 | 182(34.5%) | 161(33.1%) | 21(51.2%) | |
年齢(歳) | 20–29 | 10(1.9%) | 7(1.4%) | 3(7.3%) |
30–39 | 95(18.0%) | 88(18.1%) | 7(17.1%) | |
40–49 | 147(27.9%) | 140(28.8%) | 7(17.1%) | |
50–59 | 176(33.4%) | 163(33.5%) | 13(31.7%) | |
60–69 | 99(18.8%) | 88(18.1%) | 11(26.8%) | |
実務経験年数 | 1–4年 | 29(5.5%) | 24(4.9%) | 5(12.2%) |
5–9年 | 75(14.2%) | 65(13.4%) | 10(24.4%) | |
10–14年 | 77(14.6%) | 74(15.2%) | 3(7.3%) | |
15年以上 | 346(65.7%) | 323(66.5%) | 23(56.1%) | |
月当り処方箋枚数 | 199枚以下 | 42(8.0%) | 31(6.4%) | 11(26.8%) |
200–999枚 | 156(29.6%) | 142(29.2%) | 14(34.1%) | |
1,000–1,999枚 | 182(34.5%) | 171(35.2%) | 11(26.8%) | |
2,000–3,999枚 | 119(22.6%) | 114(23.5%) | 5(12.2%) | |
4,000枚以上 | 28(5.3%) | 28(5.8%) | 0(0.0%) | |
従事している業務 | 調剤 | 523(99.2%) | 485(99.8%) | 38(92.7%) |
一般用医薬品販売 | 239(45.4%) | 205(42.2%) | 34(82.9%) | |
在宅医療 | 153(29.0%) | 141(29.0%) | 12(29.3%) | |
その他 | 6(1.1%) | 6(1.2%) | 0(0%) |
オンライン服薬指導の機器および環境の整備状況について,96名(18.2%)が「整備されている」,119名(22.6%)が「準備中」,167名(31.7%)が「整備する予定なし」,145名(27.5%)が「わからない」と回答した.薬局形態別では,調剤薬局は86名(17.7%),調剤併設型ドラッグは10名(24.4%)が「整備されている」と回答した(表2).先の質問で「整備されている」と回答した96名に半年以内のオンライン服薬指導実施状況について回答を求めたところ,69名(71.9%)が「実施していない」,27名(28.1%)が「実施している」と回答した.薬局形態別では,調剤薬局は62名(72.1%),調剤併設型ドラッグは7名(70.0%)が「整備していない」と回答した(表3).さらに,「実施していない」と回答した69名にオンライン服薬指導を実施していない理由について回答(複数回答可)を求めたところ,5名(7.2%)が「薬の配達や料金の回収など運用が難しいから」,59名(85.5%)が「対象となる患者がいないから」,1名(1.4%)が「その他」,6名(8.7%)が「わからない」と回答した.「スタッフが機器の操作を理解できないから」を選択した回答者はいなかった(表4).
機器や環境の整備状況
機器や環境の整備状況 | 人数(N = 527) | 調剤薬局(N = 486) | 調剤併設型ドラッグストア(N = 41) |
---|---|---|---|
整備されている | 96(18.2%) | 86(17.7%) | 10(24.4%) |
準備中 | 119(22.6%) | 105(21.6%) | 14(34.1%) |
準備する予定なし | 167(31.7%) | 160(32.9%) | 7(17.1%) |
わからない | 145(27.5%) | 135(27.8%) | 10(24.4%) |
オンライン服薬指導実施状況
実施の有無 | 頻度 | 人数(N = 96) | 調剤薬局(N = 86) | 調剤併設型ドラッグストア(N = 10) |
---|---|---|---|---|
実施していない | 69(71.9%) | 62(72.1%) | 7(70.0%) | |
実施している | 月に数回未満 | 15(15.6%) | 13(15.1%) | 2(20.0%) |
月に数回 | 5(5.2%) | 4(4.7%) | 1(10.0%) | |
週に数回 | 6(6.3%) | 6(7.0%) | 0(0.0%) | |
日に数回 | 1(1.0%) | 1(1.2%) | 0(0.0%) |
オンライン服薬指導を実施していない理由(複数回答可)
オンライン服薬指導を実施していない理由 | 人数(N = 69) | 調剤薬局(N = 62) | 調剤併設型ドラッグストア(N = 7) |
---|---|---|---|
対象となる患者がいないから | 59(85.5%) | 52(83.9%) | 7(100%) |
わからない | 6(8.7%) | 6(9.7%) | 0(0.0%) |
薬の配達や料金の回収など運用が難しいから | 5(7.2%) | 5(8.1%) | 0(0.0%) |
その他 | 1(1.4%) | 1(1.6%) | 0(0.0%) |
スタッフが機器の操作を理解できないから | 0(0.0%) | 0(0.0%) | 0(0.0%) |
有効回答者数のうち,2名(0.4%)が「かならず実施している」,60名(11.4%)が「必要に応じて実施している」,465名(88.2%)が「ほとんど実施していない/実施していない」と回答した.「かならず実施している」,「必要に応じて実施している」と回答した62名にフィジカルアセスメントの実施項目について回答(複数回答可)を求めたところ,39名(62.9%)が「視診(眼・皮膚など)」,21名(33.9%)が「触診(腹部・手・足など)」,41名(66.1%)が「血圧測定」,8名(12.9%)が「聴診(肺音)」,9名(14.5%)が「聴診(心音)」,4名(6.5%)が「聴診(腸音)」,2名(3.2%)が「その他」と回答した.
4. オンライン診療支援者としての支援状況及び支援項目オンライン診療支援者としての支援を25名(4.7%)が「実施している」,502名(95.3%)が「実施していない」と回答した.「実施している」と回答した25名にオンライン診療支援者として実施している支援内容に関して回答(複数回答可)を求めたところ,20名(80.0%)が「PC,タブレット,スマートフォンの操作説明」,8名(32.0%)が「通信機能を持つ医療機器(電子聴診器)の操作説明」と回答し,「その他」と回答した回答者はいなかった.
5. 大学/大学院の卒後教育(地域の勉強会・社員研修など)でのオンライン服薬指導の研修の必要性及び希望する研修項目および研修方法や内容の希望や提案大学/大学院の卒後教育(地域の勉強会・社員研修など)での研修の必要性について,439名(83.3%)が「必要」,88名(16.7%)が「不要」と回答した.「必要」と回答した439名(83.3%)に対して必要な研修内容に関して回答(複数回答可)を求めたところ,257名(58.5%)が「オンライン服薬指導についての座学」,326名(74.3%)が「PC,タブレット,スマートフォンを使用したオンライン服薬指導実習」,200名(45.6%)が「通信機能を持つ医療機器(電子聴診器)の操作実習」,2名(0.5%)が「その他」と回答した(表5).研修方法や内容の希望・提案について自由記述での回答内容は,「準備に関する希望・提案」,「実践に関する希望・提案」,「患者教育に関する希望・提案」,「研修頻度に関する希望・提案」に分類され,特に「実践に関する希望・提案」についてが多く,72名(16.4.%)が記載し,「オンデマンド動画での研修」,「エキスパートの講演,実例の見学」,「オンライン環境下での服薬指導実習(患者対応,吸入指導,高齢者への対応など)」の希望・提案がなされた(表6).
希望する研修項目(複数回答可)
研修項目 | 人数(N = 439) | 調剤薬局(N = 405) | 調剤併設型ドラッグストア(N = 34) |
---|---|---|---|
PC,タブレット,スマートホンを使用したオンライン服薬指導実習 | 326(74.3%) | 297(73.3%) | 29(85.3%) |
オンライン服薬指導についての座学 | 257(58.5%) | 239(59.0%) | 18(52.9%) |
通信機能を持つ医療機器(電子聴診器)の操作実習 | 200(45.6%) | 182(44.9%) | 18(52.9%) |
その他 | 2(0.5%) | 2(0.5%) | 0(0.0%) |
研修方法や内容の希望・提案(自由記載)
研修方法や内容 | 人数(N = 439) |
---|---|
準備に関する希望・提案 | 23(5.2%) |
機器の整備と使用方法の理解 | 19(4.3%) |
オンライン服薬指導に関する概念・法令・注意点の理解 | 4(0.9%) |
実践に関する希望・提案 | 72(16.4%) |
オンライン環境下での服薬指導実習(患者対応,吸入指導,高齢者への対応など) | 37(8.4%) |
エキスパートの講演,実例の見学 | 23(5.2%) |
オンデマンド動画での研修 | 12(2.7%) |
患者教育に関する希望・提案 | 2(0.4%) |
機器の使用法の教育 | 2(0.4%) |
研修頻度に関する希望・提案 | 2(0.4%) |
定期的な研修 | 2(0.4%) |
コロナ禍におけるオンライン服薬指導の活用状況について,尾関らは2020年の調査において,オンライン診療を受けた後に発行された処方箋に対し,オンライン服薬指導を行った薬局は4分の1程度であることを報告しており16),また,石村らは2021年の調査において,オンライン服薬指導は80%以上の患者に認知されておらず,コロナ禍においてもオンライン服薬指導よりも対面の服薬指導の希望が多かったことを報告している23).本研究では,2022年2月において,全国の薬剤師を対象にオンライン服薬指導の現状として環境整備および活用状況を調査したが,勤務先に環境整備がされている回答者は2割程度であり,そのうち7割が活用していないことが明らかになった.また,薬局形態別において,調剤薬局と比べ,調剤併設ドラッグストアは環境整備がされていると回答した者の割合が高かったが,活用していると回答した者の割合は高くなかった.その理由として,多くの回答者が「対象患者がいない」ことを挙げており,オンライン服薬指導を希望する患者が現状において少ないことが明らかになった.COVID-19は,2023年5月8日より感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上の位置づけが2類感染症から5類感染症へと変更となったが24),強い感染力は維持している.今後のパンデミックに備えるためにも,オンライン服薬指導の環境整備を行い,常時から活用することで普及を進めることが望まれる.
薬学的管理の際に,フィジカルアセスメントを行う場合があるが19),回答者のフィジカルアセスメント実施率は1割程度であり,そのうち1割が聴診を実施していた.また,回答者の5%がオンライン診療支援者としての支援を実施しており,支援内容は3割が「通信機能を持つ医療機器(電子聴診器)の操作説明」を挙げた.オンライン環境で聴診を実施するためには,通信機能を持つ医療機器の使用やオンライン診療支援者と連携することで実施するなどが必要であり,円滑に実施するためには大学での実習などでのシミュレーションが必要と考えられる.本研究において,オンライン服薬指導の研修や卒後研修を8割が希望していた.オンライン服薬指導の研修に関する希望や提案のうち「オンライン服薬指導に関する概念・法令・注意点の理解」に関しては,日本薬剤師会の日本薬剤師会研修プラットフォームの「ICT研修プログラム」にてオンデマンド研修が受講可能になっているが25),「PC,タブレット,スマートフォンを使用したオンライン服薬指導実習」や「通信機能を持つ医療機器(電子聴診器)の操作実習」などについては,研修会や大学でのリカレント教育の機会を創出していくことが必要と考えられる.また,適正使用のためには,看護師にテレナーシングガイドラインが整備されているように26),オンライン服薬指導のガイドラインの整備および実践事例の収集によりオンライン服薬指導の適切な運用や活用方法が示されることが望まれる.
本研究の限界として,回答者の年齢分布が日本の全勤務薬剤師の年齢分布とやや異なっていること27),回答者はインターネットを利用しやすい集団である可能性が考えられること,同一店舗からの回答者が複数いる可能性を否定できないことがある.より一般化された結果を得るには全国の薬局から1店舗につき1名になるように無作為化サンプリングした上で,調査を実施することが必要である.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.