薬学教育
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誌上シンポジウム:「情報・科学技術を活かす能力」の修得に向けて
日本薬学教育学会ICT教育委員会設置の経緯とICT利活用に関する予備的調査報告
木下 淳上田 昌宏栗原 竜也酒井 隆全村岡 千種
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2024 年 8 巻 論文ID: 2024-021

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抄録

サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会としてSociety 5.0が提唱されている.新型コロナウイルス感染症は,薬学教育・薬剤師教育に多大な影響を及ぼしたが,薬学教育・薬剤師教育へのICTの導入・推進のきっかけとなったことも事実である.このような背景を受け,日本薬学教育学会にICT教育委員会を設置することを提案し,理事会の承認を経て,活動を開始した.本稿では,日本薬学教育学会ICT教育委員会設置の経緯を紹介し,同委員会で実施したICTの利活用に関する予備的調査の結果を報告する.

Abstract

Society 5.0 is a proposed human-centered society that balances economic development with resolving social problems through a system that integrates cyberspace and physical space. The new coronavirus infection greatly impacted pharmacy and pharmacist education, and it triggered the introduction and promotion of ICT into them. Based on this background, the ICT Education Committee was created within the Japan Society of Pharmaceutical Education and began its activities after approval by the Board of Directors. This manuscript provides the background to establishing the ICT Education Committee and the preliminary survey results based on ICT utilization and application.

情報科学の近年の発展

平成28年1月に閣議決定された第5期科学技術基本計画において,サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会(Society),すなわち,Society 5.0が提唱された1).これまでの情報社会(Society 4.0)では,知識や情報の共有が困難であり,分野横断型の情報共有と連携が不十分という問題点が提示されていたが,Society 5.0では,IoT(Internet of Things)でヒトとモノとのつながりが強化され,様々な知識や情報の共有,新たな価値の創出が期待されている1).また,フィジカル空間で得られた情報がサイバー空間に蓄積され,様々なビッグデータが生まれることが見込まれるが,これを人工知能(Artificial Intelligence: AI)を用いて解析することで,フィジカル空間にフィードバックされることも期待されている1).医療・介護分野では,様々なセンシング技術を用いて計測された個人ごとのリアルタイム生理計測データや医療・介護現場で得られる診療・サービスに関する情報,感染症や気候変動を含む公衆衛生に関する情報などがビッグデータとして蓄積され,AIによる解析,患者・利用者および医療・介護従事者へのフィードバック,ロボットによる支援軽減などが期待されている2).2020年からは,治療用アプリが医療機器として承認されるなど,医療分野におけるデジタル化が急速に進んでいる3).また,mHealthアプリによる健康増進に関する研究成果も報告されるなど,医療のみならず,介護・福祉・公衆衛生分野におけるデジタル化もますます進んでいくことが予想される4)

これらの社会的変化に加えて,2019年12月に出現した新型コロナウイルス感染症は世界的なパンデミックへと発展し,多くの社会活動の制限が余儀なくされた5).教育においても同様であり,活動制限への対応策により,初等教育から高等教育に至るまで,オンライン教育が急速に導入・発展した.薬学教育においてもオンライン教育が急速に導入され,その成果が報告されている69).加えて,医療や介護の広範な分野における情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)の急速な導入の契機にもなった.また,2022年には,生成系AIとしてOpenAI社のChatGPTやPerplexity,Bing AIが公開されるなど,コロナ禍により,社会の様々な場面でICTを利用する機会が飛躍的に増加し,Society 5.0で提唱された未来社会の姿に近づきつつあるといえる.

日本薬学教育学会ICT教育委員会の設置

このような社会背景の変化に伴い,初等教育から中等教育において情報科学に関する教育が展開されている.平成30年告示の高等学校学習指導要領では,2022年以降の入学生から情報Iが必修,情報IIが選択の科目として適用されていることから10),2025年度以降の大学入学者は,中等教育で情報Iを修得していることとなる.すなわち,高等教育においても,情報科学をはじめとする未来社会のニーズに対応できる人材の養成が求められているといえる.このような背景を踏まえて,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では,薬剤師として求められる基本的な資質・能力として,「6. 情報・科学技術を活かす能力」が新設された11).この資質・能力の説明文は,「社会における高度先端技術に関心を持ち,薬剤師としての専門性を活かし,情報・科学技術に関する倫理・法律・制度・規範を遵守して疫学,人工知能やビッグデータ等に係る技術を積極的に利活用する.」となっているほか,同カリキュラムの「A 薬剤師として求められる基本的な資質・能力」を身に付けるための大学での学びには,「日々進歩する高度先端技術に関心を持ち,情報・科学技術に関する倫理,法律,制度,規範等を遵守し,情報・科学技術とその専門知識を医療に活用することを常に考える姿勢を,全ての大項目で意識しながら学ぶ必要がある.」と示されており,薬学教育において,情報・科学技術に関する幅広い教育の実施が求められているといえる11)

前述の「情報・科学技術を活かす能力」は,同時改訂された医学および歯学のモデル・コア・カリキュラムでも設定されている.日本医学教育学会では,2020年にICT教育部会が設置され,同学会会員を対象としたICT教育スキルの伝達をはじめとした様々な活動が展開されている.日本薬学教育学会においても情報・科学技術に関する教育の充実に向けて同様の活動が必要と考え,筆者らが発起人となり「日本薬学教育学会 ICT教育委員会設立に関する趣意書」を日本薬学教育学会理事会に提出し,理事会での審議を経て,2022年12月に設置が承認された.日本薬学教育学会ICT教育委員会の主な活動は,①「薬学教育・薬剤師教育」におけるICTの利活用に関する情報の収集・発信・共有,②日本薬学教育学会大会における講演の企画,③「薬学教育・薬剤師教育」におけるICTの利活用に関する評価検証,④定期的な委員会の開催による問題点の共有と解決のための活動,⑤関連する学会等との連携によるICT教育の普及活動,⑥ ①~⑤を通じて,日本の「薬学教育・薬剤師教育」に貢献すること,とした.

ICT利活用に関する予備的調査

1. 目的

上述のように,新型コロナウイルス感染症の流行により,薬学教育にも急速にICTが取り入れられたが,これらに関する実態を調査した例は少ない12).そこで,日本薬学教育学会ICT教育委員会の目的① “「薬学教育・薬剤師教育」におけるICTの利活用に関する情報の収集・発信・共有” に対する取り組みの一つとして,ICT利活用に関する予備的調査を実施した.

2. 方法

対象は日本薬学教育学会会員とし,Googleフォームを用いたオンラインアンケートフォームで実施した.質問項目は,web会議システムの利用状況および習熟度,オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況,オンデマンド教材の作成方法と作成支援ソフト,学習管理システム(Learning Management System: LMS)の利用状況および習熟度,学生への媒体(デバイス)指定の有無等,電子教科書の導入有無,学生のPCやタブレットなどのデバイスの使用割合,ICTの利活用の先進的な取り組み事例,ICTの利活用に関してよかったこと,困ったこととした(図1).なお,本調査は委員会活動の一環であるため,倫理審査は受けていないが,アンケート冒頭に,匿名化されている情報(特定の個人を識別できない)として日本薬学教育学会大会をはじめとする学会や「薬学教育」を含む学術雑誌に論文として報告することを予定していることを示し,回答結果の公表に関する同意の諾否の回答を求め,諾の回答があったものを解析対象とした.実施期間は2023年6月28日から7月28日とした.

図1

アンケート内容

3. 結果

回答数は80件であった.回答者の主たる勤務先区分は,大学(教育・研究)が65名(81.3%),薬局・病院(大学附属施設を含む)が11名(13.8%),企業・予備校・その他が4名(5.0%)であった.

web会議システムの利用状況に関する質問のうち,現時点で最も利用しているweb会議システムは,大学所属では,Zoomが52名(80.0%),Microsoft Teamsが9名(13.8%),Google Meetが4名(6.2%)であり,薬局・病院所属では,Zoomが8名(72.7%),Microsoft Teamsが3名(27.3%)であり,企業・予備校・その他所属では,Zoomが4名(100.0%)であった(表1).いずれの所属においても,その他のシステムや「利用していない」の回答は無かった.前問で回答したweb会議システム以外に利用しているweb会議システム(複数選択可)を合わせると,大学所属では,Zoomを64名(98.5%),Microsoft Teamsを46名(70.8%),Google Meetを20名(30.8%),Cisco WebExを16名(24.6%)が利用していた.同様に,薬局・病院所属では,ZoomとMicrosoft Teamsは11名(100.0%),Google Meetを2名(18.2%),Cisco WebExを5名(45.5%)が利用しており,その他,企業・予備校・その他所属では,Zoomを4名(100.0%),Microsoft Teamsは3名(75.0%),Google Meetを2名(50.0%),Cisco WebExを1名(25.0%)が利用していた(表1).

表1

web会議システムの利用状況および習熟度に関する回答(n = 80)

全 体 大 学 薬局・病院 企業・予備校・その他
n = 80 n = 65 n = 11 n = 4
n(%) n(%) n(%) n(%)
Q1.現時点で最も利用しているweb会議システム
 Zoom 64(80.0) 52(80.0) 8(72.7) 4(100.0)
 Microsoft Teams 12(15.0) 9(13.8) 3(27.3) 0(0.0)
 Google Meet 4(5.0) 4(6.2) 0(0.0) 0(0.0)
 Cisco WebEx 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
 利用していない 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
Q2.Q1以外で利用しているweb会議システム(複数選択可)
 Zoom 15(18.8) 12(18.5) 3(27.3) 0(0.0)
 Microsoft Teams 48(60.0) 37(56.9) 8(72.7) 3(75.0)
 Google Meet 20(25.0) 16(24.6) 2(18.2) 2(50.0)
 Cisco WebEx 22(27.5) 16(24.6) 5(45.5) 1(25.0)
 その他 5(6.3) 3(4.6) 1(9.1) 1(25.0)
web会議システムの利用状況 ※Q1 + Q2の合計
 Zoom 79(98.8) 64(98.5) 11(100.0) 4(100.0)
 Microsoft Teams 60(75.0) 46(70.8) 11(100.0) 3(75.0)
 Google Meet 24(30.0) 20(30.8) 2(18.2) 2(50.0)
 Cisco WebEx 22(27.5) 16(24.6) 5(45.5) 1(25.0)
 その他 5(6.3) 3(4.6) 1(9.1) 1(25.0)
Q3.Q1に対するご自身の習熟度
 学内や学外でツールの使用の仕方を他者に教えることもある 32(40.0) 25(38.5) 4(36.4) 3(75.0)
 アプリに搭載されている基本的な機能はある程度使える 36(45.0) 31(47.7) 4(36.4) 1(25.0)
 一人で,あるいはサポートを受ければホストができる 9(11.3) 7(10.8) 2(18.2) 0(0.0)
 参加はできるがホストはできない 3(3.8) 2(3.1) 1(9.1) 0(0.0)

web会議システムの習熟度に関する質問に対しては,大学所属の25名(38.5%),薬局・病院所属の4名(36.4%),企業・予備校・その他所属の3名(75.0%)が,「学内や学外でツールの使用の仕方を他者に教えることもある」,大学所属の31名(47.7%),薬局・病院所属の4名(36.4%),企業・予備校・その他所属の1名(25.0%)が,「学内や学外でツールの使用の仕方を他者に教えることもある」,大学所属の7名(10.8%),薬局・病院所属の2名(18.2%)が,「一人で,あるいはサポートを受ければホストができる」,大学所属の2名(3.1%),薬局・病院所属の1名(9.1%)が,「参加はできるがホストはできない」と回答した(表1).各属性とも「使用したことがない」の回答は無かった.

オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況に関する質問のうち,現時点で最も利用しているオンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームは,大学所属の上位3位は,Microsoft Teamsが23名(35.4%),Slackが18名(27.7%),Google Chatが6名(9.2%)であり,13名(20.0%)が「利用していない」と回答し,薬局・病院所属の上位2位は,Microsoft Teamsが4名(36.4%),LINE WORKSが2名(18.2%)であり,2名が「利用していない」と回答し,企業・予備校・その他所属では,1名がMicrosoft Teams,1名がSlack,1名がGoogle Chat,1名がその他と回答した(表2).前問で回答した以外に利用しているオンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォーム(複数選択可)を合わせると,大学所属の上位3位は,Microsoft Teamsが39名(60.0%),Slackが33名(50.8%),Google Chatが15名(23.1%)であり,薬局・病院所属の上位3位は,Microsoft Teamsが7名(63.6%),Slackが3名(27.3%),LINE WORKSが2名(18.2%)であり,企業・予備校・その他所属では,Microsoft Teamsが4名(100.0%),Slackが2名(50.0%),Google Chatが2名(50.0%),Chatworkが1名(25.0%)であった(表2).

表2

オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況およびオンデマンド教材の作成方法に関する回答(n = 80)

全 体 大 学 薬局・病院 企業・予備校・その他
n = 80 n = 65 n = 11 n = 4
n(%) n(%) n(%) n(%)
オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況
Q4.現時点で最も利用しているオンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォーム
 Microsoft Teams 28(35.0) 23(35.4) 4(36.4) 1(25.0)
 Slack 20(25.0) 18(27.7) 1(9.1) 1(25.0)
 Google Chat 8(10.0) 6(9.2) 1(9.1) 1(25.0)
 LINE WORKS 4(5.0) 2(3.1) 2(18.2) 0(0.0)
 Chatwork 1(1.3) 0(0.0) 1(9.1) 0(0.0)
 Discord 1(1.3) 1(1.5) 0(0.0) 0(0.0)
 その他 3(7.5) 2(3.1) 0(0.0) 1(25.0)
 利用していない 15(18.8) 13(20.0) 2(18.2) 0(0.0)
Q5.Q4以外で利用しているオンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォーム(複数選択可)
 Microsoft Teams 22(27.5) 16(24.6) 3(27.3) 3(75.0)
 Slack 18(22.5) 15(23.1) 2(18.2) 1(25.0)
 Google Chat 10(12.5) 9(13.8) 0(0.0) 1(25.0)
 LINE WORKS 3(3.8) 3(4.6) 0(0.0) 0(0.0)
 Chatwork 7(8.8) 6(9.2) 0(0.0) 1(25.0)
 Discord 11(13.8) 10(15.4) 1(9.1) 0(0.0)
 その他 5(6.3) 4(6.2) 1(9.1) 0(0.0)
 なし 13(16.3) 9(13.8) 3(27.3) 1(25.0)
 利用していない 15(18.8) 13(20.0) 2(18.2) 0(0.0)
オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況 ※Q4 + Q5の合計
 Microsoft Teams 50(62.5) 39(60.0) 7(63.6) 4(100.0)
 Slack 38(47.5) 33(50.8) 3(27.3) 2(50.0)
 Google Chat 18(22.5) 15(23.1) 1(9.1) 2(50.0)
 LINE WORKS 7(8.8) 5(7.7) 2(18.2) 0(0.0)
 Chatwork 8(10.0) 6(9.2) 1(9.1) 1(25.0)
 Discord 12(15.0) 11(16.9) 1(9.1) 0(0.0)
 その他 8(13.8) 6(13.8) 1(9.1) 1(25.0)
オンデマンド教材の作成方法に関する回答
Q6.オンデマンド教材の作成方法
 Microsoft PowerPointへのレコーディング 33(41.3) 28(43.1) 4(36.4) 1(25.0)
 オンライン会議システムの画面共有機能を用いたレコーディング 32(40.0) 25(38.5) 5(45.5) 2(50.0)
 画面キャプチャソフトを用いたレコーディング 4(5.0) 4(6.2) 0(0.0) 0(0.0)
 その他 3(3.8) 3(4.6) 0(0.0) 0(0.0)
 作成したことがない 8(10.0) 5(7.7) 2(18.2) 1(25.0)

オンデマンド教材の作成方法に関する質問には,大学所属では,Microsoft PowerPointへのレコーディングが28名(43.1%),オンライン会議システムの画面共有機能を用いたレコーディングが25名(38.5%),画面キャプチャソフトを用いたレコーディングが4名(6.2%),その他が3名(4.6%),「作成したことがない」が5名(7.7%)であり,薬局・病院所属では,Microsoft PowerPointへのレコーディングが4名(36.4%),オンライン会議システムの画面共有機能を用いたレコーディングが5名(45.5%),「作成したことがない」が2名(18.2%)であり,企業・予備校・その他所属では,Microsoft PowerPointへのレコーディングが1名(25.0%),オンライン会議システムの画面共有機能を用いたレコーディングが2名(50.0%),「作成したことがない」が1名(25.0%)であった(表2).オンデマンド教材の作成支援ソフトに関する質問には,大学所属では,32名(49.2%)が何らかのソフトウェアを使用していたが,「使用していない」が25名(38.5%)であった.また,薬局・病院所属の3名(27.2%)と企業・予備校・その他所属の2名(50.0%)が何らかのソフトウェアを使用していたが,薬局・病院所属の2名(18.2%)企業・予備校・その他所属の2名(50.0%)が「使用していない」であった.

大学所属のみを対象としたLMS,電子教科書,学生のデバイス使用状況に関する質問のうち,現時点において主に利用しているLMSは,Moodleが10名(15.4%),Microsoft Teamsが7名(10.8%),Google Classroomが7名(10.8%),Webclassが10名(15.4%),Manabaが15名(23.1%),その他が13名(20.0%),「利用していない」が3名(4.6%)であった(表3).前問で回答した以外に利用しているLMS(複数選択可)を合わせると,Moodleが23名(35.4%),Microsoft Teamsが22名(33.8%),Google Classroomが13名(20.0%),Webclassが15名(23.1%),Manabaが17名(26.2%),その他が16名(24.6%)であった(表3).現時点において最も使用しているLMSの習熟度は,「学生の登録やコースの構築などの作業ができる」が13名(20.0%),「オンライン上での小テストや問題演習など,自分が普段使用する機能は自分で調べながら使うことができる」が43名(66.2%),「資料のアップロードや課題の設定はできるが,他の機能を使うことはあまりない」が6名(9.2%),「有識者(熟達者)のサポートを受けながら,問題演習を作成したり,運用することができる」が0名(0.0%),その他が1名(1.5%),「利用していない」が2名(3.1%)であった(表3).

表3

学習管理システム,学生のデバイス使用状況,電子教科書の導入に関する回答(大学所属のみ対象)(n = 65)

大 学
n = 65
n(%)
学習管理システム(LMS#)に関する回答
Q8.現時点で主に利用しているLMS#
 Moodle 10(15.4)
 Microsoft Teams 7(10.8)
 Google Classroom 7(10.8)
 Webclass 10(15.4)
 Manaba 15(23.1)
 その他 13(20.0)
 利用していない 3(4.6)
Q9.Q8以外で利用しているLMS#(複数選択可)
 Moodle 13(20.0)
 Microsoft Teams 15(23.1)
 Google Classroom 6(9.2)
 Webclass 5(7.7)
 Manaba 2(3.1)
 その他 3(4.6)
 なし 1(1.5)
 利用していない 3(4.6)
LMS#の利用状況に関する回答 ※Q8 + Q9の合計
 Moodle 23(35.4)
 Microsoft Teams 22(33.8)
 Google Classroom 13(20.0)
 Webclass 15(23.1)
 Manaba 17(26.2)
 その他 16(24.6)
Q10.Q8のLMS#の習熟度
 学生の登録やコースの構築などの作業ができる 13(20.0)
 オンライン上での小テストや問題演習など,自分が普段使用する機能は自分で調べながら使うことができる 43(66.2)
 資料のアップロードや課題の設定はできるが,他の機能を使うことはあまりない 6(9.2)
 有識者(熟達者)のサポートを受けながら,問題演習を作成したり,運用することができる 0(0.0)
 その他 1(1.5)
 利用していない 2(3.1)
学生のデバイス使用状況に関する回答
Q11.ICT教育を実施するに必要な媒体(デバイス)について,学生への指定の有無(複数選択可)
 全学生に授業で使用するPCやタブレットなどの購入を指定している 12(18.5)
 大学で推奨するPCやタブレットなどの購入を促している 27(41.5)
 電子媒体を利用する授業では学内の情報処理施設を利用している 16(24.6)
 大学として指定・推奨している媒体(デバイス)は無い 14(21.5)
 学生が所有するスマートフォンの利用を促している 10(15.4)
 その他 2(3.1)
 わからない 4(6.2)
電子教科書の導入に関する回答
Q12.電子教科書の導入
 電子教科書を導入している 3(4.6)
 電子教科書を導入していない 50(76.9)
 わからない 11(16.9)
 その他 1(1.5)

# LMS: Learning Management System

PCやタブレットなどの電子機器

ICT教育に必要な媒体(デバイス)に関する学生への指定の有無(複数選択可)は,「全学生に授業で使用するPCやタブレットなどの購入を指定している」が12名(18.5%),「大学で推奨するPCやタブレットなどの購入を促している」が27名(41.5%),「電子媒体を利用する授業では学内の情報処理施設を利用している」が16名(24.6%),「大学として指定・推奨している媒体(デバイス)は無い」が14名(21.5%),「学生が所有するスマートフォンの利用を促している」が10名(15.4%),その他が2名(3.1%),「わからない」が4名(6.2%)であった(表3).

電子教科書の導入有無は,「電子教科書を導入している」が3名(4.6%),「電子教科書を導入していない」が50名(76.9%),「わからない」が11名(16.9%),その他が1名(1.5%)であった(表3).

実際の講義・演習時に,学生がPCやタブレットなどのデバイスを使用している割合は,「10%未満」が8名(12.3%),「10~30%」が16名(24.6%),「30~50%」が10名(15.4%),「50~70%」が6名(9.2%),「70~90%」が4名(6.2%),「90~100%」が18名(27.7%),「わからない」が3名(4.6%)であった(図2).

図2

講義・演習時に学生がデバイスを使用している割合に関する回答(大学所属のみ対象)

ICTの利活用の先進的な取り組み事例,ICTの利活用に関するよかったこと,困ったことへの回答は,その回答の性質上,回答者が特定される恐れがあるため,本稿では省略する.

4. 考察

本調査は,日本薬学教育学会会員を対象としており,回答者数が80名であったことから,回答者が教育に関するICT利活用への関心が高い,ICTを使った教育への意欲が高い者に偏っており,ICTの利活用にある程度慣れている会員からの回答が主に収集された可能性がある.このため,予備的調査の結果は一般化可能性に限界があることに留意して考察する必要がある.

今回の予備的調査の結果,本調査に回答した日本薬学教育学会会員は,その属性に関わらず全員がなんらかのweb会議システムを利用していた.また,その内訳は,Zoomが最も多く利用されていたものの,多様なシステムが利用されていることが明らかとなった.この理由として,コロナ禍によるオンライン授業の導入,テレワークの増加などが考えられるが,一方でweb会議システムの習熟度には個人間で差があるものの,どの属性でも約80%の回答者が基本的な機能を使用することができると回答したことから,web会議システムの習熟度は全体的に高いことが示唆された.また,オンラインチャットツール・コミュニケーションプラットフォームの利用状況は,属性に関わらず多様であり,様々なシステムが利用されていた.しかしながら,大学および薬局・病院所属の約20%が利用していないことが明らかとなった.この理由として,所属先で契約しているシステムが多様であり,使用しているシステムに所属内外に関わらず招待できる機能があることなどが考えられる.また,本調査の結果から,オンデマンド教材の作成方法やソフトウェアの使用状況も多様であることが明らかとなったが,どの属性でもオンデマンド教材を作成した経験が無いという回答もあった.

また,大学所属会員を対象とした調査の結果,LMSについても様々なシステムが利用されており,その利用度や習熟度は大きく異なっていた.近年,高等教育のオープンコースウェア化が進められつつあるが,今後薬学領域で作成した教材をオープンコースウェアとして提供する場合,その教材のプラットフォームに関して十分な検討が必要であると考えられた13).さらに,学生へのデバイスの指定状況も多様であったが,「大学として指定・推奨している媒体(デバイス)は無い」と回答した割合が2割程度であった.また,講義・演習時に,学生がPCやタブレットなどのデバイスを使用している割合も所属および担当授業によって大きく異なっていたが,今後多くの大学でBYOD(bring your own device)が推進されていくことが予想されるため,今後の推移を確認する必要性があると考えられる.一方,電子教科書の導入は今後の検討課題であることが示唆された.

まとめ

コロナ禍により教育を含む様々な社会活動の場面において,ICTの利活用が急速に進んだのは明らかである.しかしながら,総務省令和4年度情報通信白書では,デジタル活用における課題として,年齢によるデジタルディバイドやデジタル活用への不安感・抵抗感が挙げられており,これらに配慮したICTの利活用も求められると考えられる14).薬学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂により新たに設定された資質・能力の一つである「情報・科学技術を活かす能力」の修得は,学生のみならず指導者にも求められていると考えられるが,情報・科学技術は,我が国におけるこれまでの薬学教育で取り扱うことが少なかった領域であり,大学横断的な取り組みも必要だと考えられる.今回の予備的調査の結果,本格的な調査において収集および調査すべき項目を探索することができたと考えられる.日本薬学教育学会ICT教育委員会では,今回の予備的調査の結果を踏まえ,「薬学教育・薬剤師教育」におけるICTの利活用に関する情報収集,日本薬学教育学会大会や「薬学教育」誌を介した情報発信,ICTを積極的に利活用する人材の育成などの活動を進めていく予定であり,「薬学教育・薬剤師教育」におけるICTの利活用に関する発展に寄与していきたいと考えている.

謝辞

今回のICT利活用に関する予備的調査にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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