2024 年 8 巻 論文ID: 2024-024
本稿は,2023年8月に行われた文部科学省特別経費「高度先導的薬剤師の養成とそのグローカルな活躍を推進するアドバンスト教育研究プログラムの共同開発」(「高度先導的薬剤師養成プログラム」)事業,日本薬学教育学会国際化委員会,熊本大学大学院 生命科学研究部・薬学教育部・薬学部,医薬品包装学寄附講座の共同主催で行われた「薬学教育および薬剤師職能の動向に関する国際シンポジウム」で発表した「韓国の薬剤師職能と専門薬剤師制度法制化」という講演の内容をまとめたものである.内容は,主題に先立ち韓国の医療体制に関して,薬剤師の職能として,医療法における薬剤師の位置づけ・薬剤師と漢方薬剤師・医薬分業・薬科大学(薬学部)・薬剤師の現況・就業別薬剤師の主な業務内容,専門薬剤師制度の法制化への道の順である.
This paper summarizes the lecture “The Professional Pharmacist and Specialty Pharmacy Legislation in Korea” presented at the “International Symposium on Trends in Pharmacy Education and the Pharmacist Profession,” held August, 2023, in Kumamoto, Japan. The lecture included topics on Korea’s healthcare system, the pharmacist’s professional duties (under the Medical Services Act), herbal pharmacists, the separation of medical and dispensary practice, the college of pharmacy, the current status of pharmacists, and specialty pharmacy legislation in Korea.
大韓民国(以下,韓国)は人口,5,144万人(2022年12月基準,前年比約0.4%減),平均寿命は82.7歳(男性79.9歳,女性85.6歳)と日本と同様に少子高齢化が進んでいる1).
韓国で医療を管轄する中央行政機関は保健福祉部である.保健衛生と防疫,医政と薬政等の国民保健に関する事務と医療保険及び国民年金,生活保護階級層に対する支援等の社会福祉増進に関する実務を遂行している.韓国の「部」は日本の「省」に相当するものであり,保健福祉部は日本の厚生労働省に相当する行政機関である.また,その配下に食品・健康機能食品・医薬品・麻薬類・化粧品・医薬部外品・医療機器及び衛生用品等の安全管理機能を強化するために設立された独立機関として「食品医薬品安全処」を置いている.以前はKFDA(Korea Food & Drug Administration),現在はMFDA(Ministry of Food and Drug Safety)といい,いわゆるアメリカのFDAの役割を果たす機関である.
医療保険制度は,全国民に加入が義務付けられている国民皆保険制度が1989年に発足された.韓国の「国民健康保険」の保険者は「国民健康保険公団」の一ヵ所だけであり,加入者は「職場加入者」又は「地域加入者」として加入する.保険料は職場加入者の場合,日本と同様に会社と従業員が50%ずつ負担,地域加入者は所得などに応じた保険料を毎月納付する体系である.
医療保険制度における自己負担割合は入院の場合,基本20%(難病10%,ガン等の重病5%),外来の場合,診療を受ける医療機関の規模によって30~60%(上級総合病院60%,総合病院50%,病院40%,診療所・薬局30%)である.保険診療については,日本の高額療養費制度と同様に,一定の金額以上の負担が生じないよう「自己負担額上限制」が設けられている.2008年7月からは65歳以上を対象とした「老人長期療養保険制度」という名称で介護保険制度が施行されている.この介護保険の中では現在,訪問看護中心の報酬体制がとられており,薬剤師が関わる訪問薬療(訪問薬剤管理など)の報酬化については,段階的に検討中である2).
国民健康保険の管理,運営は「保健福祉部」「国民健康保険公団」医療機関から請求された療養給与費用を審査し,療養給与の適正性について評価を行う「健康保険審査評価院」の3つの機関により行われている3).
韓国での医療機関は大きく分けると,医院級(30病床未満),病院級(30~99病床),総合病院(100病床以上)の3つに分類される.総合病院の中でも,病床数500床以上,診療科を9科以上持ち3年毎に保健福祉部の審査を通過した施設は,高度医療を提供する上級総合病院として認められる.現在,韓国内には,45の上級総合病院が存在する.医院級(医院,歯科医院,漢方医院),病院級(病院,歯科病院,漢方病院,療養病院),総合病院を合わせた韓国内の医療機関は,2022年基準38,374施設である3).
また,医療機関に配置する薬剤師及び漢方薬剤師の定員に関する基準は,表1のように規定されている.療養病院では,より少ない人員で業務をカバーしなければならず,患者安全を確保するためには病院薬剤師の人員配置の見直しが必須であり,この規定改善を進めるよう検討中である.
医療機関における薬剤師配置基準4)
医療機関の種類 | 薬剤師 定員 | |
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上級総合病院 | 年平均1日入院患者を30人で割った数と外来患者の院内調剤処方箋を75枚で割った数を合わせた数以上の薬剤師 | |
総合病院 | 500病床以上 | 年平均1日入院患者を50人で割った数と外来患者の院内調剤処方箋を75枚で割った数を合わせた数以上の薬剤師 |
300病床以上~500病床未満 | 年平均1日入院患者を80人で割った数と外来患者の院内調剤処方箋を75枚で割った数を合わせた数以上の薬剤師 | |
300病床未満 | 1人以上の薬剤師 | |
病院 | 1人以上の薬剤師.但し,100病床以下の場合には週16時間以上の時間制勤務薬剤師を置くことができる | |
歯科病院(30床以上に限る) | 1人以上の薬剤師.但し,100病床以下の場合には週16時間以上の時間制勤務薬剤師を置くことができる | |
漢方病院 | 1人以上の漢方薬剤師.但し,100病床以下の場合には週16時間以上の時間制勤務漢方薬剤師を置くことができる | |
療養病院 | 1人以上の薬剤師または漢方薬剤師.ただし,200病床以下の場合には週16時間以上の時間制勤務薬剤師または漢方薬剤師を置くことができる |
韓国の医療法によると,「医療人」とは,保健福祉部長官の免許を受けた医師,歯科医師,漢方医,看護師,助産師であり薬剤師は含まれていない(医療法第2条医療人).薬剤師は「保健医療人」として分類されている.この「保健医療人」とは,「保健医療関係法令の定めるところにより,保健福祉部長官の免許・資格等を取得し,又は保健医療サービスに従事することが許された者」となっており医療人,医療技師,薬剤師など多くの医療関連職業が含まれる.薬剤師と漢方薬剤師については,「薬事法」に免許と業務範囲などに対する法的根拠が明示されており,医療法の規定が “人の疾病を診断し,治療すること” であるだけに,薬を調剤・調製する役割を果たす薬剤師は,医療法上の「医療人」には該当していない.
薬剤師は,教育部の承認を受けた薬科大学(薬学部)を卒業し,韓国保健医療人国家試験院で実施する薬剤師国家試験(年1回)を受けなければならない.この試験に合格すれば,保健福祉部長官から薬剤師免許が交付される.また,海外の薬科大学を卒業し,その国の薬剤師免許保持者が韓国の薬剤師資格を希望する場合,国家試験院で認定した薬科大学(薬学部)卒業者であり,「薬学基礎」+「韓国語」からなる薬剤師予備試験(年1回)に合格すれば,薬剤師の国家試験を受ける資格が与えられる.その後,薬剤師国家試験に合格すれば韓国の薬剤師免許を取得することができる.
韓国には日本で見られない「漢方薬剤師」という資格が「薬剤師」とは別に存在する.韓国は現在まで,西洋医学と漢方医学に区分される医療二元的体系を維持していている.かなりの期間,西洋医学は医師が,漢方医学は漢方医師が,薬に関しては薬剤師が単独で担当し,このような体制が1980年代まで維持された.この中で漢方薬に関する主導権をめぐる葛藤の結果,漢方医薬分業を前提に1994年薬事法が改正された.1996年には総合大学の薬学部内に漢方薬学科を設置し(現在3校,4年制),2000年から漢方薬剤師が誕生した.薬剤師と漢方薬剤師の人数構成は,新たに免許を取得する人数で比較すると薬剤師約1,900人,漢方薬剤師約120人である.
薬剤師と漢方薬剤師の業務内容を比較した場合,「薬剤師」とは “漢方薬に関するもの以外の薬事に関する業務(漢方薬製剤に関する事項を含む)を担当する者” ,「漢方薬剤師」とは “漢方薬及び漢方薬製剤に関する薬事業務を担当する者” と薬事法に明記されており,漢方薬製剤に関しては両薬剤師が取り扱うことのできる範囲となっている.また,同法により,漢方薬剤師は薬剤師と同様に薬局開設権を持ち,“薬局開設者は一般用医薬品を販売することができる” と規定されている.この漢方薬剤師の一般用医薬品の販売に関しては職域争いで議論中ではあるが,現時点では,漢方薬剤師は薬剤師と同様に薬局開設者の権限として一般用医薬品の販売が可能である.
医薬分業は “診療は医師に,薬は薬剤師に” というスローガンのもと,医薬分業施行のための準備過程を経て薬事法を改定,医薬分業が2000年7月1日から実施された.日本の任意分業に対し韓国は強制分業で,分業率は100%であるが例外事項を設けている.この例外事項の対象としては,実距離1 km以内に薬局がない一部地域,希少疾患,入院患者の退院処方,救急患者,精神疾患患者,パーキンソン病患者,ハンセン病患者,後天性免疫不全患者,臓器移植患者,第1種伝染病患者等が挙げられ,病院で調剤・投薬しなければならない.医薬分業成果の核心は,医薬品の誤用・乱用などの事故予防と消費者の知る権利保障を通じた国民の健康保護・増進である.医薬分業施行以後,医薬品の安全で合理的な使用を通してこの目標を達成できるようになった.また,医薬分業を支えるシステムとして2008年から「医薬品安全使用情報システム(Drug Utilization Review: DUR)」を構築し,併用禁忌薬剤,特定年齢層禁忌薬剤,妊婦授乳婦禁忌薬剤,薬と食品との相互作用などの情報を,処方・調剤時にリアルタイムで提供し,医師・薬剤師の専門業務を支援している.一方,製薬産業界においては,価格競争体制から品質競争体制に転換し,研究開発投資が着実に増加した.また,リベート双罰制の施行,医薬品管理総合情報センターの設立の結果,医薬品の流通全般が透明化される成果が得られている.医薬分業の準備過程と施行初期には医薬団体の激しい対立がみられたが,今では国民の関心と積極的な参加により,国民の健康を守る制度として定着している.
日本より3年遅れて2009年から2年(学部)+4年(薬学)の6年制に変換,2010年には薬科大学入門資格試験(Pharmacy Education Eligibility Test: PEET)開始,2011年には薬科大学が既存の20校から35校に増設された.2013年,2014年の卒業生がない2年間を経て,2015年から6年制の薬剤師が誕生した.その後2019年には2校の薬科大学が新設され,2024年現在37校の薬科大学(薬学部)が存在している.昨年2023年からは,この37校全てが統合6年制に転換された.37大学の募集定員は1,423人(男女共学)+322人(女子大)=合計1,745人(2023年基準)であり,過去5年間の薬剤師国家試験合格率は全て90%以上,2024年の合格率は90.7%であった.2年+4年の6年制における実務実習教育の構成及び運営方法は,各大学ごとで多少の違いはあるが,基本的に Basic education(800時間),Advanced education(600時間)の合計1400時間程度を行うようになっている.Basic educationは,校内で行われる基礎実習の他に医療機関,地域薬局,製薬産業,薬務行政など,多方面に渡り実習を経験する.Advanced educationは,学校での研究,医療機関,地域薬局,製薬産業分野の中から一つの領域を選択し,より専門的な実習を行う.統合6年制に転換後の実務実習教育内容に関しては,現在再検討中である.
韓国での主な薬剤師職能団体として,保健福祉部の傘下に大韓薬剤師会(Korea Pharmaceutical Association),韓国病院薬剤師会(Korean Society of Health-System Pharmacists),韓国産業薬剤師会(Korean Society of Industrial Pharmacists)などが存在する.各団体はお互いに協力,共助,支援,役員兼職を通して薬剤師の権益保護のために,さらに薬剤師の専門性向上を通じた国民健康増進のために様々な活動を行っている.
2022年の統計によると,全体の薬剤師数は74,055人,このうち免許証申告者(現在免許を活用している薬剤師数)は59,532人である.この中で主な薬剤師会の会員数は,大韓薬剤師会39,789人5),韓国病院薬剤師会4,686人6) である.また,2020年のOECD加盟国のデータによると,人口1,000人当たりの薬剤師数は,日本2人,韓国0.8人で日本に比べ薬剤師数は少ない7).
薬剤師の就業別分布状況は,2022年大韓薬剤師会申告会員基準データによると,地域薬局に勤務する薬剤師の割合が全体の70%を超えている.この地域薬局薬剤師の中でも開設者の割合が最も多く56.1%(22,310名),地域薬局に勤務薬剤師として勤務している薬剤師は15%(5,959名)である.病院等医療機関に勤務する薬剤師は16.2%(6,426名),製薬業界に従事する薬剤師は4%(1,590名),その他,流通・卸,貿易,教育機関の順である(図1).
就業別分布現況(2022年現在):2022年大韓薬剤師会申告会員基準5)
現在,保健福祉部への薬剤師免許の申告(政府が人員把握,管理するため2021年4月からスタート)が義務付けられており,研修教育履修などの資格条件を備え3年周期で申告するようになっている.この免許申告を行わなければ,保健福祉部長官令で申告期限が終了する時点から申告するまで免許効力が停止される.各薬剤師会団体(大韓薬剤師会,韓国病院薬剤師会等)への会員申告(会員管理,研修教育の評価及び点数管理を目的とする)も同時に行われ,これは1年毎に行っている.免許取得後の研修教育は生涯教育の目的で,各所属団体の主管のもと,オンライン又は対面形式で年間8時間(点数で8点)以上の教育を受けることが義務付けられている.大韓薬剤師会ではこの一連の免許申告の便宜を図り,2021年から「薬剤師免許管理院」を運営し,モバイルを通して簡便に免許の申請から各個人毎に教育管理ができるシステムを構築し管理を開始している.
就業別薬剤師の主な業務内容を項目別に挙げる.
◆地域薬局薬剤師の業務内容
・調剤業務と比較的単純な服薬指導
・一般用医薬品販売,健康相談
・自治体別に「訪問薬剤師事業」「薬剤師ケアプロジェクト」「在宅高齢者訪問事業」など,訪問薬療(在宅医療における訪問薬剤師薬物管理)形態事業を運営中
◆病院薬剤師の業務内容
・入院患者の調剤(UDS(Unit Dose System)調剤),投薬,服薬指導
・医薬分業の例外に該当する外来患者の調剤,投薬,服薬指導
・特殊服薬指導(吸入薬,抗凝固薬,結核,HIVなど)
・抗がん剤処方管理,抗がん剤プロトコール管理
・無菌調剤,抗がん剤調剤(調剤ロボット併用)
・TPN調剤/NST(Nutritional Support Team)
・TDM consultation,DI業務
・AST(Antimicrobial Stewardship Team)業務
・抗凝固薬管理(Anticoagulation Service, ACS)
・病棟担当薬剤師制度運営(回診参加及び退院時服薬指導など)
・臨床試験薬管理,ADRモニタリング
・院内のDUR(Drug Utilization Review)モニタリング
・CDSS(Clinical decision support system)管理
・院内製剤,医薬品管理,麻薬・向精神薬管理
・学生教育,医療スタッフ教育
◆中小病院,療養型病院の薬剤師の業務内容
・調剤,麻薬・向精神薬の管理中心の業務
・服薬指導業務など他の医療サービス業務不足
各薬剤師の業務内容に違いはあるが,超高齢化に移行している社会に対応し,各薬剤師の業務拡大が試みられている.地域薬局薬剤師においては “他の保健医療機関より高いアクセス性を持ち,住民とコミュニケーションを図り,継続的に関係を維持するのに良い環境” という長所を生かし,地域社会統合ケア(訪問薬剤師サービス),多剤薬物管理事業(地域薬局モデル型2018年から),生活密着型薬物教育などが行われている.病院薬剤師においては,専門薬剤師制度運営・定着,チーム医療活動拡大・支援,病院型多剤薬物管理事業(病院モデル型2020年から),療養型病院の薬剤師配置基準改善などを計画,施行中である.また,現在は十分でない薬剤師の医療サービスに対する報酬改善にも積極的に取り組んでいる.
疾病の様相が複雑になり,治療方法が高度化するにあたり,国内の保健医療人材は医師・漢方医師・歯科医師・看護師・栄養士など,様々な職種で資格細分化及び専門化が行われてきたが,薬剤師はその流れから外れていた.薬剤師職能でも分野別に高い水準の専門性確保が必要という認識の下,韓国病院薬剤師会では2007年に「専門薬剤師制度タスクフォース(TF)」を新設,2008年6月に専門薬剤師運営規定を設けるなどの様々な整備過程を経て,民間主導(韓国病院薬剤師会主導)で「専門薬剤師資格試験」を2010年10月に初めて実施した.この初回の資格試験では「内分泌薬療」「心血管薬療」「栄養薬療」「臓器移植薬療」「腫瘍薬療」「重症患者薬療」の6分野において実施され,2014年第5回専門薬剤師資格試験から「小児薬療」が追加された.さらに,2016年第7回専門薬剤師資格試験から「感染症薬療」「医薬品情報」を追加,翌2017年第8回専門薬剤師資格試験から「老人薬療」を追加し合計10分野に拡大した.2022年までの計13回の試験を通じて民間次元(韓国病院薬剤師会主導)での専門薬剤師資格取得者は,計1,646人(重複取得者を含む)であった6).これらの専門薬剤師は,多職種連携チーム医療の一員として活動しており,高いレベルの専門的な薬療サービスを提供してきた.
このように民間資格で専門薬剤師制度を運営・施行してきたが,国が認める専門薬剤師制度を法制化するために,韓国病院薬剤師会と大韓薬剤師会は,何年にも渡り専門薬剤師制度法制化のために努力を続けてきた.その結果,2020年4月7日に専門薬剤師制度導入のための内容が含まれた「薬事法改正法律」が公布された.また,昨年2023年4月8日には「専門薬剤師資格認定等に関する規定」が大統領令で制定され,専門薬剤師資格が国家資格に転換された.
保健福祉部は,韓国病院薬剤師会を専門薬剤師資格試験を実施・管理する専門機関に指定し,専門科目を計10科目に定めた.専門科目は病院薬剤師部門で,▲内分泌▲老人▲小児▲心血管▲感染▲静脈栄養▲臓器移植▲腫瘍▲重症患者の9科目(医薬品情報は各分野共通領域との認識),地域薬剤師部門で▲統合薬物管理の1科目とした.(病院薬剤師会主導の専門薬剤師の専門科目では,内分泌薬療,老人薬療,,,など “薬療:Pharmaceutical Care” という名称が含まれていたが,薬療という名称が “診療権を侵害する可能性がある” という医師会などの意見を踏まえ,議論の結果 “薬療” という単語が抜け,現在の名称に至っている.また,栄養薬療は静脈栄養に名称が変更された.)
立法法案当初,保健福祉部は専門薬剤師科目として,病院薬剤師部門の9科目だけを規定しようとした.しかし,大韓薬剤師会側で地域薬剤師部門の科目がないのは地域薬剤師が専門薬剤師となる機会を失う “中途半端な制度” であるとし,数回に渡る論議の末,地域薬剤師部門を含むことに合意した.保健福祉部は再立法予告を通じて地域薬剤師部門として「統合薬物管理」科目を追加し,修練教育機関と実務経歴認定機関に地域薬局を含めた現在の専門薬剤師制度が完成した.但し,2023年に試験を実施し,2024年から誕生する病院薬剤師部門の専門薬剤師とは異なり,地域薬剤師部門は約3年間の猶予期間を経て,2027年から統合薬物管理専門薬剤師が誕生する予定である.
2023年12月23日に初めて国家公認資格試験として施行された第1回専門薬剤師資格試験は,▲内分泌▲老人▲小児▲心血管▲感染▲静脈栄養▲臓器移植▲腫瘍▲重症患者の9科目に対して実施された.初回試験には,これまで韓国病院薬剤師会から専門薬剤師資格を取得した薬剤師のうち,専門薬剤師の受験日を基準として直前5年以内に「該当専門科目分野に1年以上従事した者」に該当する条件を備えた特例適用者に限って受験を可能とした.この特例適用者1,411人のうち525人が受験し,第1回専門薬剤師資格試験管理本部の審査を経て,最終的に481人が合格し合格率は91.6%であった.この専門薬剤師の資格証は保健福祉部から先日2024年3月18日に交付された.
今後は,この法制化以後,国家専門薬剤師制度の施行・定着・活性化及び薬療サービスに対する適切な診療報酬確保が非常に重要な課題である.この課題を解決するためには,多職種連携によるチーム医療などの専門分野の業務を共に遂行する医療スタッフ,及び薬療サービスの提供を受ける国民に認められることが必要である.医療スタッフと国民の信頼を得てこそ,国家専門薬剤師制度が定着し,患者中心のケアと国民保健の向上に寄与できると思われる.さらに,これらの業績を蓄積することにより,薬療サービスに対する適切な診療報酬が伴うことを期待している.
薬科大学の教育が2019年に2年+4年の6年制に改定後,統合6年制となったこと,2010年から韓国病院薬剤師会が主体となって運営してきた民間次元での専門薬剤師制度が国家資格となったことなど,2023年は韓国の薬剤師にとって大きな節目の年となった.今回,この節目の年に,海外の薬剤師との交流の一環として,韓国における薬剤師の職能と専門薬剤師制度の法制化に関して紹介する機会を与えて頂き大変光栄に思う.海外の薬剤師の現況,その国での薬剤師の活動を知ることにより,より幅広い視野を身に着け,相互に患者中心の医療人としての力量を身に着けていきたいと考える.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.