2025 年 9 巻 論文ID: e09033
有機化学は多くの薬学部生にとって難しい科目であると認識されている.そこで我々は,モバイル端末対応「構造式かるた」アプリケーション(以下,かるたアプリ)を開発した.本研究では,かるたアプリを活用した有機化学学習に対する有用性及び改善点,活用に適正のある学生の特性を明らかにすることを目的とし,薬学部生を対象にアンケート,知識習得度試験を実施した.プレアンケートを用いたクラスター解析により学生を4群に分類した結果,化学が嫌いであっても,本アプリに興味を示し,普段からゲームを行っており高得点を取ることに熱中できる群が,かるたアプリの利用率が高かった.一方,知識習得度試験結果の前後比較では統計的な有意差は示さなかった.かるたアプリは学習意欲促進に一定の有用性を示したが,学修成果の向上には,正課授業との関連付けや教員から定期的に働きかけるような学習の継続を促す仕組みの設計が必要と考えられた.
Organic chemistry is a challenging subject for many pharmacy students. To address this issue, a mobile app called Chemical Structural Formula Karuta (hereafter referred to as the Karuta Application) incorporated gamification elements to assist learning. This study aimed to clarify the educational usefulness and areas for improvement of the Karuta Application and identify the characteristics of students well-suited to its use. First- to fourth-year pharmacy students answered questionnaires and knowledge acquisition tests and were then classified by cluster analysis based on their responses to the pre-questionnaire. The results found that the group exhibiting a high affinity for gaming, even among students who disliked organic chemistry, demonstrated high app utilization. However, student engagement did not translate into a statistically significant improvement in examination performance. These findings suggested that while the Karuta Application had the potential to enhance learning motivation, sustained learning with regular classes and periodic encouragement from educators was necessary to improve learning outcomes.
薬学教育は,今日に至るまで幾度かの見直しと改革が行われてきた.戦後から2005年度までの4年制薬学教育において,有機化学は,創薬研究に携わる研究を担う人材育成のための中核となる科目に位置付けられてきた1).6年制薬学教育が導入され,薬剤師の臨床能力向上を志向した教育の中でも,医薬品の化学構造と薬理作用や薬物動態との関連性を理解する上で有機化学は不可欠な科目であり,その教育の重要性は変わっていない2).その一方で,薬剤師が臨床上の問題解決に有機化学を活用していないことが明らかにされている3,4).その要因の一つには,化学構造式に対する苦手意識があると報告されている5).
このような薬学教育の現状で,学生に有機化学に興味を持たせるため,一方向型の講義だけでなく多彩な学習方略が実施されている6,7).また,近年,学習に対する学生のモチベーションや興味を高める手法の1つとしてゲーミフィケーションが知られている8).ゲーミフィケーションとは,ゲーム以外の物事に,それに適したゲームデザインの要素を導入することで,学習者の動機づけを高める手法であり9),海外の薬学教育および化学教育においても複数の導入例が報告されている10–12).
既に我々は,ゲーミフィケーションを活用した有機化学教育を実践するための教材として,オリジナルの「化学構造式かるた」(以降,「かるた」)を開発してきた.「かるた」の札は,薬学部で必要と考えた基本的な化学構造やその性質をモチーフとしている.さらに,「かるた」を活用した授業を立案・実践し,その学修成果を明らかにしてきた13,14).しかし,実物の「かるた」を活用した教育の実施には,一定の広さのスペースが必要であるため学習環境が制限されていた.
そこで今回,学習環境の制限なく「かるた」を教材として活用した学習ができるように,モバイル端末対応のゲームアプリケーションとして「かるた」(以降,かるたアプリ)を開発した15,16).
本研究では,かるたアプリを活用した有機化学学習に対する有用性及び改善点,かるたアプリを活用した学習に適正のある学生の特性を明らかにすることを目的としている.本研究成果を踏まえて,従来の一方向型教育に,かるたアプリを組み入れた新しい教育方法の立案・実践につなげていきたい.
かるたアプリは,筆頭著者とBeta Computing社が協働して開発したものであり,AndroidまたはiOSプラットフォームを有するスマートフォンやタブレット端末上で動作する.
かるたアプリの画面の例を図1に示す.かるたアプリのプレイ方法は,3つのヒントの読み上げと表記がなされ,化学構造式が明示された取り札を選択する.単独で練習ができる「練習モード」に加えて,「易しい」「普通」「難しい」の3つのレベルからなるコンピュータとの「対戦モード」が選択できる.また,化学構造式の学習のために,YouTube®上に解説動画をアップロードしてアプリと連携させた17).さらに,確認試験をGoogle Forms18) を用いて実施し,学修成果がフィードバックされるように設計した.かるたアプリについて,ゲーミフィケーションの各要素19,20) との対応関係を表1に示す.

かるたアプリ例.[A]:「かるた」は25枚のカードが並び,3つの読み上げ及び表示より,化学構造式が明示された取り札を選択する.[B]:「CPU対戦」では「易しい」「普通」「難しい」の3つのレベルから選択できる.また,一人で行える「練習」機能をもつ.[C]:かるたカードを選択した後には,かるたカードが明示され,構造式の説明が表示される.[D]:かるたアプリ内からYouTube®内の解説動画へリンクされる.
かるたアプリとゲーミフィケーション要素対応表
| デザイン原則 | ゴールと挑戦 | 〇 |
| 個別化 | △ | |
| 即時フィードバック | 〇 | |
| 可視化されたステータス | 〇 | |
| 随時追加されるコンテンツ | × | |
| 選択の自由 | 〇 | |
| 失敗の自由 | 〇 | |
| ストーリーライン | × | |
| 時間制限 | × | |
| チュートリアル | 〇 | |
| 社会的参加 | × | |
| ゲームメカニズム | ポイント | 〇 |
| バッジ | × | |
| レベル | 〇 | |
| リーダーボード | × | |
| 仮想的なグッズ | × | |
| アバター | × |
2024年度後期に兵庫医科大学薬学部の1,2,4年生を対象とした.1,2年生は有機化学の正課必修科目,4年生は化学系演習科目の開始時に参加を募り,10月~12月の期間の中で学年ごとに異なる1か月間において,かるたアプリの使用を推奨した.この期間に実施のリマインドは行わなかった.実施期間において,1,2年生は有機化学の正課必修科目を受講しており,4年生は薬学共用試験CBTに向けて有機化学の学習を行っている可能性があった.研究への協力要請にあたり,かるたアプリの内容は,基本的な有機化合物の化学構造式と特徴を取り上げているが,定期試験やCBTで出題される内容と直接的な関連があるとは限らない旨を学生に伝えた.その上で「基本的な有機化合物の化学構造式の修得は有機化学の基礎として必須であるため,かるたアプリを使って学習してほしい」と説明することで,本研究への協力を依頼した.
3. 期待していた学修成果かるたアプリ単体でも,化学構造式の基礎知識習得目的の学習の「呼び水」としての効果を期待した.具体的には,かるたアプリによって,学生の学習意欲を促し,短期間の集中的な学習により,学生に基本的な有機化合物の化学構造式と名称を定着させることをめざした.
4. 評価かるたアプリを活用した有機化学学習に対する学生の評価は,アンケートおよび知識習得度確認試験で行った.
1) アンケート項目かるたアプリに対する印象及び学生の特性を評価するため,プレアンケートとポストアンケートを実施した.プレアンケートは,かるたアプリに対する印象(問1),学生の特性を評価するために有機化学や学習に対する印象(問2~5),ゲーム全般に対する印象(問6,7)に関する7つの質問で構成された.評価段階は,5段階のリッカート形式(1. まったくそう思わない,2. あまりそう思わない,3. どちらでもない,4. まあまあそう思う,5. とてもそう思う)とした.ポストアンケートはリッカート形式と自由記述から構成された.ポストアンケートは,かるたアプリの印象(問1,3),かるたアプリの利用状況(問2),かるたアプリ利用後の印象(問4~9,12),ゲーミフィケーションに対する評価(問10,11)の質問からなる5段階のリッカート形式と自由記述式(問13,14)で構成された.また,問2で実施回数が0回と回答した対象者に対し,実施しなかった理由を選択式で問うた(問15).ポストアンケート問3~14はかるたアプリの利用者にのみ回答を求めている.なお,アンケートは,教育評価及び有機化学教育の経験を有する4名の研究者(青江,清水,松野,大内)によって作成され,予備調査により妥当性を確認した.
2) アンケート解析かるたアプリに適正のある学生層を抽出するため,プレアンケート(問1~7)結果よりクラスター解析を行い,学生の特性による学修成果の違いを評価した.
クラスター解析には,距離の計算にEuclid距離を,クラスタリングにはWard法を適用した.また,ポストアンケート問2のかるたアプリの使用状況より0回と回答した者をかるたアプリ利用なし(–)群,1回以上と回答した者をかるたアプリ利用(+)群として分類した.さらに,各クラスターの特徴を把握するため,アンケート及び知識習得度試験結果により検討した.
自由記述については,記述内容を2名の研究者(青江,清水)によって記述内容の内容分析を行い,意味的に類似する記述をもとにカテゴリーを設定した.
3) 知識習得度確認試験かるたアプリの活用による知識習得度に与える影響を評価するため,プレテストとポストテストを実施した.プレテストとポストテストは各10問とし,かるたアプリの活用により学習できる内容を出題した.プレテストとポストテストは類似の問題であるが同じではない.また,プレテストとポストテストは実施後回収したが,ポストテストの解答・解説は教育効果を期待して,事後に公開した.プレテストとポストテストの例をSupplement material 1に示す.
4) 統計解析本研究の統計解析ソフトにはJMP®14.121) を使用した.群間の平均値の差の検定には,Steel-Dwass検定を適用し,統計的有意水準は5%(両側検定)とした.
5. 倫理的配慮本研究の実施にあたり,対象となる学生には研究目的,調査内容,調査方法,調査参加の自由,参加同意の撤回,参加又は中断によって不利益は生じることはないこと,途中で参加を中止することが可能であること,研究参加の有無により成績への影響はないことを説明し,同意を得た.本研究は,兵庫医科大学学長の研究実施許可(管理番号:202502-058)を得て実施した.
研究に同意した上で,アンケート及び知識習得度確認試験に回答した研究参加者は,153名(1年生56名,2年生55名,4年生42名)であった.各学年の全体に占める割合は1年生125名中44.8%,2年生137名中40.1%,4年生90名中46.7%であった.本研究の解析の流れを図2に示す.

本研究の解析の流れ
プレアンケートの単純集計結果を表2-Totalに示す.プレアンケート全体(n = 153)の平均値として,アプリへの関心(問1)は平均4.00であり,肯定寄りの傾向が確認された.また有機化学に対する苦手意識(問2)は4.18と,やや苦手寄りの傾向が確認された(表2-Total).
プレアンケート項目及び結果
| 質問項目 | 群 | 1 まったくそう思わない |
2 あまりそう思わない |
3 どちらでもない |
4 まあまあそう思う |
5 とてもそう思う |
平均 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 問1 | かるたアプリについて興味をもてると思いますか. | Group A | 0 | 0 | 3 | 29 | 13 | 4.22 |
| Group B | 1 | 4 | 18 | 12 | 0 | 3.17 | ||
| Group C | 0 | 0 | 2 | 17 | 8 | 4.22 | ||
| Group D | 0 | 1 | 1 | 28 | 16 | 4.28 | ||
| Total | 1 | 5 | 24 | 86 | 37 | 4.00 | ||
| 問2 | 化学構造式に対して苦手意識があると思いますか. | Group A | 0 | 0 | 0 | 19 | 26 | 4.58 |
| Group B | 0 | 0 | 4 | 15 | 16 | 4.34 | ||
| Group C | 0 | 0 | 0 | 2 | 25 | 4.93 | ||
| Group D | 1 | 10 | 15 | 17 | 3 | 3.24 | ||
| Total | 1 | 10 | 19 | 53 | 70 | 4.18 | ||
| 問3 | あなたは有機化学が好きな方だと思いますか. | Group A | 3 | 16 | 13 | 12 | 1 | 2.82 |
| Group B | 13 | 12 | 9 | 1 | 0 | 1.94 | ||
| Group C | 6 | 8 | 6 | 6 | 1 | 2.56 | ||
| Group D | 0 | 1 | 8 | 24 | 13 | 4.07 | ||
| Total | 22 | 37 | 36 | 43 | 15 | 2.95 | ||
| 問4 | 暗記系科目が好きな方だと思いますか. | Group A | 2 | 14 | 11 | 15 | 3 | 3.07 |
| Group B | 16 | 10 | 8 | 1 | 0 | 1.83 | ||
| Group C | 10 | 10 | 4 | 3 | 0 | 2.00 | ||
| Group D | 4 | 8 | 7 | 19 | 8 | 3.41 | ||
| Total | 32 | 42 | 30 | 38 | 11 | 2.70 | ||
| 問5 | 理解系科目は好きな方だと思いますか. | Group A | 0 | 9 | 14 | 19 | 3 | 3.36 |
| Group B | 3 | 8 | 17 | 6 | 1 | 2.83 | ||
| Group C | 1 | 0 | 6 | 17 | 3 | 3.78 | ||
| Group D | 1 | 1 | 5 | 25 | 14 | 4.09 | ||
| Total | 5 | 18 | 42 | 67 | 21 | 3.53 | ||
| 問6 | 普段からゲームをしている方ですか. | Group A | 19 | 10 | 4 | 11 | 1 | 2.22 |
| Group B | 8 | 10 | 7 | 8 | 2 | 2.60 | ||
| Group C | 0 | 0 | 0 | 10 | 17 | 4.63 | ||
| Group D | 4 | 1 | 5 | 16 | 20 | 4.02 | ||
| Total | 31 | 21 | 16 | 45 | 40 | 3.27 | ||
| 問7 | ゲームで高得点をとることに熱中できる方ですか. | Group A | 1 | 11 | 15 | 17 | 1 | 3.13 |
| Group B | 5 | 5 | 5 | 18 | 2 | 3.20 | ||
| Group C | 0 | 0 | 2 | 10 | 15 | 4.48 | ||
| Group D | 0 | 2 | 0 | 25 | 19 | 4.33 | ||
| Total | 6 | 18 | 22 | 70 | 37 | 3.75 | ||
プレアンケートの問1~7の回答結果に基づいた階層的クラスター解析の結果,参加者はGroup A~Dの4群に分類された(図3).各Groupの特徴は以下の通りである(表2).

プレアンケートの問1~7の結果に基づくクラスター解析結果(n = 153).距離の計算にはEuclid距離を,クラスタリングにはWard法を使用した.得られたクラスターを基に,学生を4つのグループ(Group A~D)に分類した。
Group A(45名):かるたアプリへの関心は高い(問1:4.22)が,有機化学に対する苦手意識がやや強く(問3:2.82),普段からゲームをしない傾向にある(問6:2.22).
Group B(35名):かるたアプリ,有機化学,ゲームいずれにも比較的関心が低い(問1:3.17,問3:1.94,問6:2.60).
Group C(27名):有機化学に対して苦手意識があり(問3:2.56),普段からゲームを行っており(問6:4.63)高得点を取ることに熱中できる(問7:4.48).かるたアプリへの関心も高い(問1:4.22).
Group D(46名):有機化学に対して肯定的な態度を持ち(問3:4.07),普段からゲームを行っており(問6:4.02)高得点を取ることに熱中できる(問7:4.33).
2. ポストアンケート結果無回答を除いたポストアンケート問1,2の有効回答者は130名であった.そのうち,問2のかるたアプリを利用しましたか?に対し,「0回」と回答したのは76名(約58.4%)であり,かるたアプリ利用なしとみなした.かるたアプリ利用者(n = 54)のうち,「1回」が23名,「2~5回程度」が25名であった.問3~14はかるたアプリ利用者が回答しており,回答者は54名であった.問2の結果を表3,問4~12のかるたアプリ利用者の結果を表4に示す.また,問1及び3の結果をSupplement material 2,3に示す.
ポストアンケート結果(問2)
| 1回 | 2~5回程度 | 6~9回程度 | 10回以上 | 合計 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 問2 | かるたアプリを利用しましたか? | Group A(+) | 4 | 9 | 0 | 0 | 13 |
| Group B(+) | 3 | 4 | 2 | 0 | 9 | ||
| Group C(+) | 8 | 6 | 1 | 0 | 15 | ||
| Group D(+) | 7 | 6 | 3 | 0 | 16 | ||
| Total | 23 | 25 | 6 | 0 | 54 |
ポストアンケート項目及び結果(問4~12)
| 1 当てはまらない |
2 あまり当てはまらない |
3 どちらでもない |
4 まあまあ当てはまる |
5 よく当てはまる |
無回答 | 平均 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 問4 | 化学構造式を学ぶ方法として適していたと思いますか? | Group A(+) | 0 | 1 | 1 | 9 | 2 | 0 | 3.92 |
| Group B(+) | 0 | 3 | 2 | 2 | 2 | 0 | 3.33 | ||
| Group C(+) | 0 | 1 | 2 | 8 | 3 | 1 | 3.67 | ||
| Group D(+) | 0 | 0 | 1 | 7 | 8 | 1 | 4.18 | ||
| Total | 0 | 5 | 6 | 26 | 15 | 2 | 3.83 | ||
| 問5 | 有機化学の学習の印象が良い方向にかわりましたか? | Group A(+) | 0 | 0 | 7 | 6 | 0 | 0 | 3.46 |
| Group B(+) | 0 | 1 | 3 | 5 | 0 | 0 | 3.44 | ||
| Group C(+) | 0 | 0 | 7 | 5 | 2 | 1 | 3.40 | ||
| Group D(+) | 0 | 3 | 2 | 7 | 4 | 1 | 3.53 | ||
| Total | 0 | 4 | 19 | 23 | 6 | 2 | 3.46 | ||
| 問6 | 有機化学の内容を理解するのに役立ちましたか? | Group A(+) | 0 | 0 | 3 | 8 | 2 | 0 | 3.92 |
| Group B(+) | 0 | 1 | 1 | 6 | 1 | 0 | 3.78 | ||
| Group C(+) | 0 | 1 | 5 | 5 | 3 | 1 | 3.47 | ||
| Group D(+) | 0 | 2 | 2 | 7 | 5 | 1 | 3.71 | ||
| Total | 0 | 4 | 11 | 26 | 11 | 2 | 3.70 | ||
| 問7 | 有機化学の内容を暗記するのに役立ちましたか? | Group A(+) | 0 | 1 | 1 | 9 | 2 | 0 | 3.92 |
| Group B(+) | 1 | 1 | 1 | 5 | 1 | 0 | 3.44 | ||
| Group C(+) | 0 | 1 | 4 | 7 | 2 | 1 | 3.47 | ||
| Group D(+) | 0 | 1 | 0 | 9 | 6 | 1 | 4.00 | ||
| Total | 1 | 4 | 6 | 30 | 11 | 2 | 3.74 | ||
| 問8 | 楽しく取り組めましたか? | Group A(+) | 0 | 1 | 1 | 9 | 2 | 0 | 3.92 |
| Group B(+) | 0 | 3 | 1 | 3 | 2 | 0 | 3.44 | ||
| Group C(+) | 0 | 0 | 2 | 6 | 5 | 2 | 3.67 | ||
| Group D(+) | 0 | 0 | 2 | 7 | 7 | 1 | 4.06 | ||
| Total | 0 | 4 | 6 | 25 | 16 | 3 | 3.81 | ||
| 問9 | あなたに向いていましたか? | Group A(+) | 0 | 2 | 4 | 7 | 0 | 0 | 3.38 |
| Group B(+) | 1 | 4 | 1 | 3 | 0 | 0 | 2.67 | ||
| Group C(+) | 0 | 3 | 3 | 6 | 1 | 2 | 2.93 | ||
| Group D(+) | 1 | 3 | 2 | 7 | 2 | 2 | 3.00 | ||
| Total | 2 | 12 | 10 | 23 | 3 | 4 | 3.02 | ||
| 問10 | 今後の有機化学教育にゲームを取り入れることは良いことであると思いますか? | Group A(+) | 0 | 1 | 0 | 7 | 4 | 1 | 3.85 |
| Group B(+) | 0 | 0 | 3 | 4 | 2 | 0 | 3.89 | ||
| Group C(+) | 0 | 0 | 0 | 6 | 6 | 3 | 3.60 | ||
| Group D(+) | 0 | 0 | 2 | 5 | 8 | 2 | 3.88 | ||
| Total | 0 | 1 | 5 | 22 | 20 | 6 | 3.80 | ||
| 問11 | 他の薬学教育にゲームを取り入れることは良いことであると思いますか? | Group A(+) | 0 | 1 | 0 | 6 | 5 | 1 | 3.92 |
| Group B(+) | 0 | 0 | 2 | 4 | 3 | 0 | 4.11 | ||
| Group C(+) | 0 | 0 | 1 | 3 | 6 | 3 | 3.67 | ||
| Group D(+) | 0 | 0 | 5 | 3 | 6 | 3 | 3.35 | ||
| Total | 0 | 1 | 8 | 16 | 20 | 7 | 3.70 | ||
| 問12 | コンピュータに勝つこと(「かるた」の枚数を多くとること)に夢中になれましたか? | Group A(+) | 0 | 2 | 4 | 6 | 0 | 1 | 3.08 |
| Group B(+) | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 0 | 3.22 | ||
| Group C(+) | 1 | 1 | 3 | 4 | 3 | 3 | 2.87 | ||
| Group D(+) | 0 | 3 | 3 | 5 | 3 | 3 | 2.94 | ||
| Total | 2 | 8 | 12 | 17 | 8 | 7 | 3.00 | ||
「今後の有機化学教育にゲームを取り入れることは良いことであると思いますか(問10)」に対し,かるたアプリ利用者全体平均値が3.80,「他の薬学教育にゲームを取り入れることは良いことであると思いますか(問11)」の問いに対し,かるたアプリ利用者全体平均値が3.70であった.
各Groupの内訳(学年及び人数,グループ内での割合)を,表6に示す.各Groupのうち,ポストアンケート「かるたアプリを利用しましたか(問2)」に対し,各グループ内で最もかるたアプリを利用した学生の割合が多かったグループはGroup Cであり,15名(62.5%)であった.
かるたアプリを利用しなかった理由(問15:複数回答可)には,実施しようと思っていたが忘れていたから(51名)が最も多く,次に他のことで忙しかったから(47名),授業成績と関連しないから(3名),授業内容と関連しなさそうだから(1名)と続いた(データ未掲載).
3. 自由記述結果ポストアンケートの自由記述結果を表5に示す.「本アプリについて良かった点を教えて下さい(問13)」に対し,「学習意欲・感情的反応」「学習効果・知識定着」「対戦・協働性」「利便性」「ゲームデザイン・機能性」に関することに大別できた.また,「本アプリについて改善点があれば教えて下さい(問14)」に対し,「対戦機能の拡充」「学習内容の拡充」「学習支援機能の改善」「かるたアプリの操作性」「ゲーム性の向上」に大別できた.
自由記述結果(問13:かるたアプリについて良かった点を教えて下さい,問14:かるたアプリについて改善点があれば教えて下さい)
| カテゴリー | 具体例 |
|---|---|
| 問13:かるたアプリについて良かった点を教えて下さい | |
| 学習意欲・感情反応 | 有機が身近になった かるたを取るときの音が爽快で気持ちよく取り組めた カードを取る時に音が鳴ったり工夫されていたのでテンションがあがった コンピュータより遅かったとき,次は早く選べるようにがんばろうと思えた |
| 学習効果・知識定着 | だんだん覚えていった 面白かった.特長を憶えやすくて良かった 一番間違えていた問題が今回の小テストにも出てきて出来たので嬉しかった 構造の名前を何回も見ることになるので覚えやすい 性質なども書かれているので勉強になった 一つ一つ覚えることが苦になる暗記がゲームを通じて楽しむことができた お手付きが多かったが,徐々に理解しAIにも勝つことができて理解が深まった. |
| 対戦・協働性 | 練習モードで友達と一緒に遊ぶことができて楽しかった 対戦の難易度を定めることで早く分かるようになれそうな点 CPUと対戦できること(1人で出来ること) |
| 利便性 | 気軽に遊べる 気軽にできた スマホでできること 初めはまったく覚えていなかったので,対戦以外に覚える用のページがあって助かった |
| ゲームデザイン・機能性 | 制限回数があること カードを取るときに音が鳴ったり工夫がされていたのでテンションがあがった |
| 問14:かるたアプリについて改善点があれば教えて下さい | |
| 対戦機能の拡充 | 友達と対戦できるようにしてほしい 対戦させるべきである 対戦モードを作ってほしい 友達と対戦できれば楽しかった 友達同士の対戦ができたらより良いと感じた 友達と対戦できるようになるとみんなで楽しく勉強するキッカケになると思う. オンラインで対人戦がしたい オンライン対戦があればもう少ししたかもしれないです. 友達との対戦機能がほしいです. 通信対戦機能 |
| 学習内容の拡充 | 他の単元(脂質やアミノ酸など)も利用できるようにしてほしい 他の科目もほしいです 薬学部生向けに薬の構造式やステロイド骨格の問題なども増えたらいいと思った 化合物の数を増やしてほしい 医薬品バージョン(生薬成分含む)を作ってほしい |
| 学習支援機能の改善 | 構造式を理解するよりも構造式から名前の暗記をする方がアプリに向いていると思った. かるたを取った後の説明の表示がすぐ変わってしまって読めない.タップで次に進む等にしてほしい 配られるカードの枚数が多くスマホでやると目が疲れる.構造式も似ているのが多いのでもう少し枚数を減らしてもよいと思った それぞれの構造とその特徴を見られる表等あればより暗記できるなと思った |
| かるたアプリの操作性 | 画面がガサガサしたり止まったりした |
| ゲーム性の向上 | ゲームのキャラクターがいればなお良いです |
各グループの内訳(学年及び人数)
| 1年 | 2年 | 4年 | 合計 | Group内割合 | |
|---|---|---|---|---|---|
| Group A | 11 | 12 | 13 | 36 | — |
| (–) | 5 | 10 | 8 | 23 | 62.9% |
| (+) | 6 | 2 | 5 | 13 | 37.1% |
| Group B | 9 | 8 | 12 | 29 | — |
| (–) | 5 | 8 | 7 | 20 | 69.0% |
| (+) | 4 | 0 | 5 | 9 | 31.0% |
| Group C | 8 | 7 | 9 | 24 | — |
| (–) | 2 | 4 | 3 | 9 | 37.5% |
| (+) | 6 | 3 | 6 | 15 | 62.5% |
| Group D | 13 | 23 | 5 | 41 | — |
| (–) | 7 | 16 | 1 | 24 | 59.5% |
| (+) | 6 | 7 | 4 | 17 | 40.5% |
| Total | 41 | 50 | 39 | 130 | — |
| (–) | 19 | 38 | 19 | 76 | 58.5% |
| (+) | 22 | 12 | 20 | 54 | 41.5% |
知識習得度確認試験結果を表7に示す.プレテストの全体平均点は6.03 ± 2.02点,ポストテストの全体平均点は5.91 ± 2.19点であり,有意差は認められなかった.各Groupのプレテストの平均点は,Group A:6.16 ± 2.06点,Group B:5.03 ± 2.08点,Group C:5.42 ± 1.95点,Group D:6.88 ± 1.58点であった.ポストテストでは,Group A:5.89 ± 1.95点,Group B:5.65 ± 1.88点,Group C:5.67 ± 2.24点,Group D:6.75 ± 1.80点であり,A~D群のすべてのプレ・ポストテスト間で統計的に有意な差はなかった.
知識習得度確認試験結果
| n | プレテスト | ポストテスト | |
|---|---|---|---|
| Total | 130 | 6.03 ± 2.02 | 5.91 ± 2.19 |
| Group A | 36 | 6.16 ± 2.06 | 5.89 ± 1.95 |
| (–) | 23 | 5.82 ± 2.21 | 5.91 ± 1.88 |
| (+) | 13 | 6.77 ± 1.69 | 5.85 ± 2.15 |
| Group B | 29 | 5.03 ± 2.08 | 5.65 ± 1.88 |
| (–) | 20 | 5.25 ± 2.31 | 5.90 ± 1.92 |
| (+) | 9 | 4.56 ± 1.42 | 5.11 ± 1.76 |
| Group C | 24 | 5.42 ± 1.95 | 5.67 ± 2.24 |
| (–) | 9 | 6.22 ± 2.54 | 5.89 ± 3.06 |
| (+) | 15 | 4.93 ± 1.39 | 5.53 ± 1.68 |
| Group D | 41 | 6.88 ± 1.58 | 6.75 ± 1.80 |
| (–) | 24 | 6.92 ± 1.74 | 6.88 ± 1.98 |
| (+) | 17 | 6.82 ± 1.38 | 6.59 ± 1.54 |
本研究では,かるたアプリを活用した有機化学学習に対する有用性及び改善点,かるたアプリを活用した学習に適正のある学生の特性を明らかにするため,アンケート調査および知識習得度確認試験を用いて評価した.プレアンケート結果に基づくクラスター解析より,学生は4群(Group A~D)に分類された.かるたアプリの利用率が最も高かったGroup Cは,有機化学に苦手意識を有しているにも関わらず,普段からゲームを行っており,高得点を取ることに熱中できる群であった(表6).これより,普段からゲームを行っており,高得点を取ることに熱中できる群に対し,かるたアプリを活用した教育に適性を持つ可能性があることが示唆された.また,我々の先行研究13) でも,競争心の高い学生がゲーミフィケーションを活用した教育に適正がある傾向を示し,今回の結果を支持するものである.さらに,ポストアンケートでは,薬学教育にゲームを取り入れることに対し,かるたアプリ実施者全体の平均が3.70以上であり(表4-問10,11),肯定的な傾向が確認された.また,自由記述(表5)からも,かるたアプリに対し身近さ・気軽さ,暗記・勉強になるといった肯定的な意見が確認された.これは,従来型の授業形態では学習意欲が得られにくい層が,ゲーミフィケーションを活用した教材によって学習意欲を向上する可能性を示した.
一方,かるたアプリを利用した各群のプレテストとポストテスト間の知識習得度確認試験では,統計的に有意な差は示されなかった.その要因には,かるたアプリの使用回数が学生ごとに異なっていたことが考えられる(表3).このことから,かるたアプリの一時的な利用に留まっており,学修継続ができていなかったため学習成果につながらなかったことが考えられた.
かるたアプリの利用率は全体で41.5%に留まり(表6),活用しなかった理由として「忘れていた」「忙しかった」との声があった(問15).かるたアプリの導入により我々が期待した学修成果を学習者にもたらすには,物理的スペースや時間的な制限を取り除くだけでは不十分であることが示唆された.先行研究でもゲーミフィケーションを活用した学習を継続させる仕組みの設計が困難であることが指摘されており22),その一因としてインストラクショナルデザインの観点よりコースデザインの不十分さが指摘されている23).かるたアプリを用いた有機化学学習において,知識習得度確認試験で有意差がなかったこと,利用率が低かったことは,インストラクショナルデザインのADDIEモデル24) の観点より考察すると,設計(Design)段階における不十分さが考えられた.つまり,本研究では,単に,かるたアプリの活用のみを提示したことが,不十分であったと考えられた.先行研究では,ゲームだけでは学修成果の向上は見込めないが,別の学習方略と組み合わせたことで学修成果が得られやすい事例が報告されている25).今後は,改善策として正課授業と関連させて学修成果につなげること,教員から学生に定期的にリマインドを行うような学習の継続を促す仕組みをいかに構築するかが重要と考えられた.
また,「対戦機能の拡充」を求める声が確認され(表5),かるたアプリの「呼び水」の効果が十分でなかったことが考えられた.対戦機能は,ゲーミフィケーション要素(表1)の一つに該当するため,人との対戦機能を拡充することで友人を通じた「呼び水」効果が増強され,かるたアプリ利用者やゲームの実施回数と学修成果の向上につながることが期待できる.その一方で,勝敗そのものが目的となり学習内容が疎かになる可能性も報告されている26).したがって,単純な対戦機能の拡充ではなく,対戦後に復習を促すフィードバック機能の追加のような学修成果を得られる工夫が必要と考えられる.それと共に,有機化学学習が将来,薬剤師としてどのように活かすことができるかを示すことで,有機化学学習への学習意欲の継続に有効であることも考えられる.
本研究は私立大学薬学部1校の成果であり,すべての薬学部において同様の傾向を示さない可能性がある.また,かるたアプリを活用した際の短期的な学修成果は評価したが,中長期的な学修成果は測定できていない.
本研究では,有機化学に苦手意識を有していても,普段からゲームを行っており,高得点を取ることに熱中できる群はかるたゲームを活用した教育に適正がある可能性が明らかとなった.また,自由記述より,かるたアプリに対し身近さ・気軽さ,暗記・勉強になるといった肯定的な意見が確認された.その一方,知識習得度確認試験において,かるたアプリによる学修成果は確認されなかった.今後は,かるたアプリと正課授業を組み合わせた教育を設計することで学習継続を促す仕組みを導入し,学習意欲の継続や学修成果の向上を図っていく.また,中長期的な学修成果の評価を行うことにより,かるたアプリを活用した,より効果的な有機化学学習の立案・実践を検討していく.また,かるたアプリは,誰でも無償でダウンロードして活用することが可能である.そのため,薬学部生だけでなく,有機化学を学ぶ高校生にも,かるたアプリが化学に興味を持たせる契機となるのではないかと考えている.
本研究を進めるにあたり,「化学構造式かるた」アプリケーションに関して,大阪大谷大学薬学部の江﨑誠治先生及び摂南大学薬学部の上田昌宏先生に貴重なご助言を賜りました.ここに深く感謝申し上げます.
本研究は,2023年度JSPS科研費23K02725の助成を受けて実施したものである.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.