薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
誌上シンポジウム:薬学教育は生成AIをどのように活用していくべきか
薬学教育は生成AIをどのように活用していくべきか
村岡 千種木下 淳
著者情報
キーワード: 生成AI, GPT, リテラシー
ジャーナル フリー HTML

2025 年 9 巻 論文ID: e09042

詳細
抄録

GPT(Generative Pre-trained Transformer)は,人工知能(AI: artificial intelligence)の中心的技術である機械学習を使った生成系AIの一種である言語モデルの一つであり,自然言語をコンピュータで処理する一連の技術である自然言語処理(Natural Language Processing)の代表的な深層学習モデルである.このようなGPTが搭載された生成AIは急速な発展を遂げている.一方,文部科学省から大学・高専における生成AIの教学面の取扱いに関する指針も発出されており,生成AIが事実と異なる情報を出力するハルシネーションへの対応など,生成AIを適切なリテラシーのもとで利活用することが求められている.このような背景から,今後,薬学教育においても生成AIを利活用していく場面が増えていくことが予想される.本稿では,薬学部を有する大学でのAIへの対応に関する調査報告および薬学教育が生成AIをどのように活用していくべきか議論した結果をまとめる.

Abstract

GPT (Generative Pre-trained Transformer) is a type of generative AI that uses machine learning, a core technology of artificial intelligence (AI), and is one of the language models that represent deep learning models in natural language processing (NLP), a series of technologies for processing natural language on computers. Generative AI powered by GPT is developing rapidly. Meanwhile, the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology has also issued guidelines on the educational use of generative AI at universities and technical colleges, calling for the use of generative AI with appropriate literacy, such as responding to hallucinations where generative AI outputs information that differs from the facts. With this background, it is expected that the use of generative AI will increase in pharmaceutical education in the future. This paper summarizes the results of a survey on how universities with pharmaceutical schools are responding to AI and discusses how pharmaceutical education should utilize generative AI.

 はじめに

2022年11月,アメリカの人工知能研究所「OpenAI」が,ChatGPTを公開した.GPT(Generative Pre-trained Transformer)は,人工知能(AI: artificial intelligence)の中心的技術である機械学習を使った生成系AIの一種である言語モデルの一つであり,自然言語をコンピュータで処理する一連の技術である自然言語処理(Natural Language Processing)の代表的な深層学習モデルである.自然言語処理は1980年代から開発が進められていたが,2017年に開発されたTransformerの発展形として,2018年にGPT-1,2019年にGPT-2,2020年にGPT-3が開発され,本稿執筆時点でChatGPT-4o miniが無料で,ChatGPT-4.5が有償で公開されている.また,Microsoft社がGPT-4o miniを搭載したGPT-4o Copilotを,Google社がGoogle DeepMindGPT-4を搭載するGeminiを開発するなど,生成AIは急速な発展を遂げている.

一方,高等教育機関での教育活動における活用可能性やリスクなど正負両面の影響も指摘されたことなどを踏まえ,文部科学省から大学・高専における生成AIの教学面の取扱いに関する指針も発出されている.また,生成AIが事実と異なる情報を出力するハルシネーションが起きることもあり,生成AIを含むデータサイエンス技術を適切なリテラシーのもとで利活用することが求められている.

一方,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)1) において,薬剤師として求められる基本的な資質・能力として「情報・科学技術を活かす能力」が新設されたことから,薬学教育においても生成AIを利活用していく場面が増えていくことが予想される.

本シンポジウムでは,薬学教育において先進的にデータサイエンス教育を取り入れておられる先生による基調講演,薬学部を有する大学でのAIへの対応に関する調査報告,生成AIを使った授業実践例の紹介ののち,参加者とともに生成AIを実際に駆動させながら,薬学教育が生成AIをどのように活用していくべきか議論した.

 生成AIの利用に関する大学での対応の調査報告2)

生成AIが急速に普及しつつあるなか,薬学部を有する大学では生成AIの活用について,どのような指針を出しているか,また,その指針は学生や社会にどのように周知されているかを明らかにするために,各大学のWebサイトに公開されている情報を調査した.

調査対象としたのは,薬学部を有する大学(77大学79学部)である.調査対象大学のWebサイトで公開されている「生成AIに関する通知」に対し,2024年1月25日~2024年2月29日に調査を実施した.一部医学部を有する大学も含めて調査を実施した.各大学のWebサイトを検索し,生成AIの利活用に関する指針の有無やその内容,通知の範囲に関して調査を実施した.また,各大学の数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(Mathematics, Data science and AI Smart Higher education: MDASH)の認定状況を文科省Webサイトより取得して整理した.

生成AIの利活用に関する通知のウェブサイトでの公開は,医学部または薬学部を有する大学では63.4%(131校中83校),薬学部を有する大学では64.5%(79校中51校)とほぼ同様の結果を示した.

通知の初公開時期は最も早く公開された通知で2023年3月,最も多く通知が公開されたのは,2023年5月であった.

文部科学省が「生成AI(ChatGPT)の学校現場での利用に関する今後の対応について(2023年5月19日)」を発出した2023年5月に発出件数が急増し,ついで文化庁が「AIと著作権」に関するセミナーを実施した6月と文部科学省が「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表した7月に通知が発出されており,この3ヶ月で通知の約半数が発出されていた.

学生への通知形式としては,注意喚起型,使用を前提とした通知型,制限・禁止事項通達型に大きく分けられた2)

AIが生成した情報をそのままレポートや論文に使用してはいけないこと,信憑性や正確性が不確かであること,情報漏洩の可能性や著作権侵害の可能性については,概ね共通して通知されている内容であった.一方で,担当教員の指示のもとで使用すること,AIを使用した場合はその旨を記載すること,学修の意味とAIに依存することの危険性,通知の情報更新を行うこと,オプトアウトや設定をきちんとすることについては,一部の大学で通知されているに止まっていた.共通して通知されている内容については,倫理的・法的・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal, and Social Issues)への対応ともつながる内容であり,生成AIを利活用するにあたり,共通して理解しておかなければならない内容であることが推察された.

医学教育におけるAI活用のScoping Reviewにおいて教育に関するAIの倫理的な側面から活用を考える上では透明性やインフォームドコンセント(医療現場での活用に関する話題),AIを信頼し切ってしまう問題,セキュリティ・守秘義務,安全性,質の担保(ハルシネーションへの対策等),リソースの配分(AIが利用できるか否か),バイアス・公平性(AIのベースとなる情報の偏り)とともに,人間とのやりとり,思いやり(人が教えることの意味)が必要であることが述べられている.

一方,教員に向けては,使用可否も含め利用方針・ルールを明確に示すことや学生が生成AIを利用している可能性を考慮すること,積極的に情報を収集すること,評価方法を工夫することなどが求められていた2)

また,本シンポジウムでは現在,文部科学省が進めている数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(Approved Program for Mathematics, Data science and AI Smart Higher Education)に関する紹介をした.数理・データサイエンス・AIに関する,大学・高専の正規課程の教育プログラムに対する認定/選定であり,一定の要件を満たした優れた教育プログラムに対し,文部科学大臣が認定/選定する制度である.リテラシー→応用基礎→エキスパートの順に専門性が上がっていき,リテラシーレベルについては,年間50万人の受講を目指している.また,リテラシーレベル,応用基礎レベルの中で特に優れたプログラムには「プラスレベル」を選定している.薬学部における調査時点のMDASHの取得状況は,未取得が34,リテラシーが32,リテラシープラスが4,応用基礎が6,応用基礎プラスが3であった.また,MDASH未取得かつ生成AIに関する通知がない大学が16校あった.これらの大学では,学生がAI利活用に関するリテラシーを学ぶ機会を逸する可能性がある.

生成AIの利用にあたっては,教員・学生の双方が生成AIの使い方そのものを学ぶと同時に,倫理的,法的,社会的課題(ELSI)の観点から生成AIをどのように使うかというリテラシーも共に学ぶ必要がある.すなわち,教育におけるAI利活用時の倫理的,法的,社会的課題を学生に伝えると共に,学修や研究への利活用に関して指針を示し,学生のリテラシー育成を促す働きかけが重要となってくるといえる.

 生成AIを用いた授業事例の実践報告

著者(木下)は,6年制薬学部にて医薬品情報学の教育を担当しているが,2022年11月にChatGPTが公開されたことをきっかけとして,2023年度から医薬品情報学の授業の一部に生成AIを取り入れている.平成25年度改訂版薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,「E3薬物治療に役立つ情報(1)医薬品情報」として,①情報,②情報源,③収集・評価・加工・提供・管理,④EBM(Evidence-based Medicine),⑤生物統計,⑥臨床研究デザインと解析および⑦医薬品の比較・評価に関する到達目標が提示されている.このうち,③収集・評価・加工・提供・管理に関する授業では,webおよび書籍から必要な情報を収集し,評価,加工,提供,管理する演習を実施している.著者が所属する兵庫医科大学は,LMSとしてMoodleを導入しており,学生にGoogleおよびMicrosoft Officeアカウントを提供しているほか,学生のBYOD(bring your own device)環境を推進しているため,この演習では,学生が個々に持参した個人端末で,情報を収集,評価することを体験する時間を設けている.具体的には,医師から「ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)の消化管出血リスクはどちらが高いか」という質問を受けた場面を想定し,医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページから各種情報源へのアクセス,PubMedおよび医中誌webを用いた一次資料の検索,Cochrane libraryを用いたランダム化比較試験,メタアナリシス・システマティックレビューを検索する演習を実施している.なお,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)のB-5-2デジタル技術・データサイエンスのねらいが,「デジタル技術やビッグデータの活用方法と留意事項について理解し,情報・科学技術を利活用して,質の高い医療につなげる能力を身に付ける.」となっていることを鑑み,同演習で,医療ビッグデータの一つである医薬品副作用データベース(JADER)を利用した不均衡分析のデモンストレーションも取り入れている.なお,B-5-2デジタル技術・データサイエンスの学修目標を考慮して,はじめにJADERの利用規約を確認し,リレーショナルデータベースの構成,統計解析ソフトを用いたデータセットの作成,シグナル検出の指標である報告オッズ比(ROR)および信頼区間の算出方法,得られたRORを解釈する上での注意点などを解説している.

医薬品情報の収集過程では,適切なwebサイトにアクセスして信頼性の高い情報を入手するための知識とスキルが必要となるため,学生はPMDAのホームページにアクセスして3次資料を入手したり,各種二次資料を用いて検索しながら,該当する一次資料にアクセスのうえ入手することを経験するが,この演習のなかで複数の生成AIを用いたデモンストレーションを実施している.2024年度からは,授業中に自由かつ匿名で回答可能なGoogleフォームを用意し,生成AIに入力してみたいテキスト(プロンプト)を回答するよう促し,プロンプトおよび生成AIによって出力結果が異なることなどをリアルタイムでデモンストレーションすることで,薬学において生成AIを利用するにあたっては,適切なリテラシーのもとで利用しなければならないことを説いている.

 シンポジウム参加者を対象とした生成AIの利用状況調査

第9回大会では,開催校のご厚意により会場内にインターネット接続環境をご用意いただいたため,シンポジウム後半では,参加者が各自持参した端末を用いた生成AI体験ワークショップを開催した.当日,参加者に対してGoogle Formを用いて,生成AIの利用経験と薬学教育への生成AIの利用経験,入力してみたいプロンプトに対して,の質問を実施した.回答は25件あり,その内容に関連した質問やご意見を取り上げながら,プロンプト入力の実演を実施した.

回答者の多くは生成AIの利用経験があったが,回答しなかった参加者,生成AIの利用経験がない参加者に向けて,ChatGPT(4o mini)の無料版を使用し,プロンプト入力の実演を行った.

実演では「生成AIを使うときの注意点について教えてください」という指示をしても入力者によって,回答が少し異なること,一方で回答の内容には大きな違いがないことを確認していただいた上で,その時点でハルシネーションを起こすことを確認していたある薬剤の「(薬剤の商品名)について教えてください」という指示を入力し,周囲の人と回答を比較してもらいハルシネーションを体験してもらった.「ある薬剤」は日本で発売されている降圧剤であったが,抗生物質や未知の物質,日本では未発売の薬剤など多様な回答が出力された.

 プロンプトエンジニアリングの説明

プロンプトエンジニアリングとは,生成AIに対するプロンプト(入力文)を設計・改良し,望ましい出力を得るための手法である.ChatGPTをはじめとする生成AIに搭載されているGPTは,ある単語列が与えられたときに,複数の候補のなかから最も確からしい単語を確率で選ぶことを連続して文章を作成する.すなわち,適切な入力文(プロンプト)を入力することで,回答の精度を上げることができる.プロンプトエンジニアリングとは,生成AIに対するプロンプト(入力文)を設計・改良し,望ましい出力を得るための手法であり,これを的確に利用することで,生成AIによる出力結果の質を向上させることができる3)

図1は,「空が青い」というプロンプトに対するChatGPTの出力結果である.この出力結果が入力者のニーズにマッチした回答かというと,その可能性は低いと考えられる.この原因として,「空が青い」というプロンプト自体に「指示」がないため,生成AIが学習した幅広い知識から最も確からしい単語を選んだものと推察される.

図1

ChatGPTへ入力したプロンプトと出力結果①(20250619参照)

図2は,「空が青いを英訳してください」というプロンプトに対するChatGPTの出力結果である.このプロンプトには「英訳してください」という「指示」が含まれるため,生成AIが学習した幅広い知識から英訳関係の知識に絞り込み,もっとも確からしい単語を選ぶ.すなわち,プロンプトに指示を含めることで,求めている出力が得られる確率が高くなるといえる.

図2

ChatGPTへ入力したプロンプトと出力結果②(20250619参照)

しかしながら,より大きなテキスト量のプロンプトを入力する場合,生成AIが「指示」を確実に判断できない可能性がある.このときに有効な手法がマークダウン記法である.マークダウン記法とは,記号を使って見出しや段落を表現する記法であり,生成AIへのプロンプトとして,指示,命令は最初に,入力文は最後に書くことで,回答結果の精度を向上させることができる3).プロンプトの要素として,「命令」,「文脈」,「入力データ」および「出力指示子」があげられる.「命令」は,モデルにやってほしいことであり,「教えて」,「作って」,「要約して」,「校正して」,「誤字脱字を見つけて」といった言語を用い,主語述語を記載することが重要とされている.「文脈」は,前後関係や予備知識で追加情報を与え,出力を改善するものである.「入力データ」は,翻訳や説明,要約の対象となる入力文の本体であり,プロンプトの最後に書くと見やすく,「出力指示子」は,出力条件や出力形式を指定する場合に記述するものである.

図3は,図2のプロンプトをマークダウン記法に置き換えたものである.図2と比較して英訳に特化した回答が得られているといえる.また,図4は,マークダウン記法を用いたプロンプトの例である.「指示」,「条件」,「入力文」を区別してプロンプトを作成すると,精度の高い出力結果が得られる可能性が高くなるといえる.

図3

ChatGPTへ入力したプロンプトと出力結果③(20250619参照)

図4

ChatGPTへ入力したプロンプトと出力結果④(20250619参照)

 シンポジウム終了後の参加者からの意見や感想

シンポジウム終了時に参加者に対して募ったアンケートからは,ガイドラインの整備に関する議論への要望や,シンポジウムの内容が有用であったことなどの意見とともに,今後の学生の指導方法や,AIを教育に取り入れる際の仕組みや費用などへの関心が高いことが明らかとなった.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2025 日本薬学教育学会
feedback
Top