薬学教育
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誌上シンポジウム:医療系大学低学年学生における多職種連携教育の実践と評価
医療系多職種連携教育の実際
―医学部医学科の立場から―
内田 康太郎
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2025 年 9 巻 論文ID: e09045

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抄録

多職種連携教育(Interprofessional education: IPE)は,東京薬科大学薬学部と姉妹校である東京医科大学医学科および看護学科と合同で実施されている.本授業では,専門性の異なる学生と共に協同・協働学習を行うことにより多職種で学ぶ重要性に気づくことを目的としている.今回は,医学部医学科で実施している内容について概説する.医学科は早期臨床体験実習の単元として第1学年が参加させて頂いている.病棟などの臨床実習の経験はほぼ無い状態であるため,第2学年の看護学科,薬学部の学生と協同して情報収集を進める必要があり,助けられながら実習を経験している.認知症という疾病についてもまだ未習の学年であり,疾病の詳細な病態や治療ではなく,患者さんの疾病以外の問題点にも目を向け,必要なサポートを多職種で考えることは,低学年であることが有利な点もあると考えられた.

Abstract

Interprofessional education (IPE) is conducted jointly by the Faculty of Pharmacy at Tokyo University of Pharmacy and the School of Medicine and Nursing at Tokyo Medical University. The aim of this course is to raise awareness of the importance of interprofessional learning by engaging in collaborative and cooperative learning with students from different majors. This article provides an overview of the content of the course offered by the Faculty of Medicine. First-year medical students participate in the early clinical experience program as part of the curriculum. Medical students have little to no prior clinical internship experience, they collaborate with second-year Nursing Department and Pharmacy Department students to gather information, relying on their support to learn practical experience. Students have not yet studied dementia, the focus is not on the detailed pathophysiology or treatment of the disease, but rather on identifying issues beyond the disease itself and considering necessary support through multidisciplinary collaboration. It is believed that being in the lower grades has its advantages in this regard.

 モデル・コア・カリキュラムにおける多職種連携の位置づけ

令和4年度に医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂された1).今回医学・歯学・薬学教育のモデル・コア・カリキュラムは同時に改訂された.新型コロナウィルス感染症の流行や,人工知能等の情報・科学技術の活用等による医療技術の高度化,超高齢社会での多疾患併存患者の増加などによる医療の在り方の変化等を踏まえ対応したものである.今回の改訂では,変化し続ける未来の社会や地域を見据え,多様な場や人を繋ぎ,活躍できる医療人の養成を目指し,医学・歯学・薬学教育で統一したキャッチフレーズ「未来の社会や地域を見据え,多様な場や人を繋ぎ活躍できる医療人の養成」も採用された.求められる基本的な資質・能力も共通化された(図1).医師/歯科医師に求められる基本的な的な資質・能力は10項目挙げられているが,薬剤師に求められる基本的な資質・能力と9項目は同一である.

図1

医師として求められる10の基本的な資質・能力(文献1)より転載)

項目の一つである「IP.多職種連携能力」は医学・薬学の両者に挙げられている.多職種連携能力とは医療・保健・福祉・介護など患者・家族に関わる全ての人々の役割を理解し,お互いに良好な関係を築きながら,患者・家族・地域の課題を共有し,関わる人々と協働することができる,とある.

 目的

本学医学科も建学の精神(自主自学),校是(正義・友愛・奉仕)に基づき,「患者とともに歩む医療人を育てること」を目指している.多職種連携力についても重要と考えており,ディプロマポリシー(教育到達目標)のひとつとして「多職種と協調したチーム医療の意義を理解し,実践に応用できる」を掲げている.その能力を育成するための教育プログラムとして導入している実践内容と,その効果について考察する.

 多職種連携教育の実際

医学部医学科では早期臨床体験実習Iという科目をカリキュラム内に組み込み,多職種連携教育(IPE)実習として東京薬科大学と本学医学部医学科・看護学科の3学科合同で実施している.実習の中でチーム医療を学ぶことも目的としており,本実習の到達目標として①協同して情報収集できる,②情報から問題点を考えられる,③問題点に対する必要な社会資源を挙げられる,以上の3点を設定した.

 1)オリエンテーション

実習開始前にはガイダンス授業を各学科で行っている.医学部医学科の実習は「在宅訪問/ケア」をテーマとしており,当日の活動がスムーズに移行できるよう,授業の目的,当日の流れや評価方法等について説明している.事前課題も課しているが,各学科の専門性を活かしつつ,多職種連携の基礎となる知識を修得することを目的として以下のように設定した.医学科へは「認知症の症状と観察項目についてまとめましょう」という課題を出し,医学的視点から認知症の全体像の把握を求めた.看護学科へは「地域包括ケアシステムについて簡単にまとめましょう.また,関わる職種を挙げてみましょう」という地域連携に関する課題に加え,「認知症の際に見られる症状について挙げて下さい」および「認知症患者での観察項目をまとめましょう」と,患者観察の視点からの課題も課した.薬学科へは「服薬アドヒアランスとは何ですか.服薬アドヒアランスが低下する因子を挙げましょう」「服薬アドヒアランスの低下を把握する方法について挙げましょう」「認知症患者さんで服薬アドヒアランスが低下した場合どうしますか.対応について考えましょう」と,服薬の管理や患者指導に関する課題を提示した.

 2)実習内容

実習は対面で行っており,医学科,看護学科,薬学科の学生でグループを構成した.患者は認知症のためかかりつけへの通院や日常生活や服薬管理が困難になりつつある設定とし,患者役は模擬患者を準備した.学生はかかりつけの医療者となり,模擬患者の居宅を訪問するシミュレーションを2回とグループワーク(GW)で4つの課題を議論する実習とした.各グループはアイスブレイクののち,1つ目のGWとして模擬訪問の前にどのように協働して情報を収集するかをグループごとで議論する時間を設けた.その後模擬訪問のシミュレーションを行い,学生は医療者として体調や生活状況などの観察・聴取を実践した.2つ目のGWで観察・聴取した情報を整理し(図2:GWシート①),3つ目のGWでは整理した情報から現状の問題点を抽出し,可視化した.4つ目の課題は問題点に対する対応策を考え,まとめを発表する形をとった(図3:GWシート②).対応策は診断・治療に偏らないよう患者さんに必要な社会的支援を具体的に考える課題を設定した.

図2

グループワークシート①.訪問前後の情報を各グループで記入する.

図3

グループワークシート②.訪問の結果による問題点の整理およびそれに対する生活を考え記入する.

 3)多職種連携教育の評価

このIPEプログラムの評価は,各施設で実施される実習ごとの合計点によって行われる.実習評価合計100%のうち30%ずつを各学科の割合とした.医学科(30%)の評価は,学生の実習態度や課題提出物などを総合的に評価した.残りの10%は学生の相互評価(ピア評価)で評価を実施した.ピア評価は,第3回目の演習終了時にグループの他のメンバーについて相互に評価する形式で行われた.評価項目としては,「事前学習を十分に行っていると感じたか」,「積極的に発言していたか」,「他のメンバーに意見を出すように促していたか」,「チームに協力する姿勢が見られたか」,「一緒に活動しやすかったか」といった,協調性や積極性,リーダーシップを評価する項目が設けられた.評価の尺度は4段階(4:そう思う,3:ややそう思う,2:あまりそう思わない,1:思わない)とした.

 4)学生からの反応と教育的意義

本IPEプログラムに参加した学生からは,授業評価として多岐にわたる肯定的なフィードバックが寄せられており,多職種連携の重要性に対する理解促進に大きく貢献していることが示唆された.

 1.多職種の視点の獲得と理解

学生アンケートからは,多職種との交流を通じて得られた「視点の多様性」が特に多く評価されている.具体的には「他学部の人とディスカッションすることで様々な視点からの物の見方や考え方を学ぶことができた」という声が多く聞かれた.これは,医学科の学生が触れることのない看護学生や薬学生の専門的視点に触れることで,医療問題に対するアプローチの幅が広がったことを示している.また「自分とは違った学科の意見を聞く良い機会となった」という意見は,単なる知識の共有に留まらず,異なる思考プロセスや優先順位付けの方法を理解する機会であったことを示唆している.「他学部と授業を受けることでチーム医療のイメージができた」というコメントは,抽象的な概念であった「チーム医療」が,具体的な体験を通じて学生の中で明確な形として認識されたことを表している.さらに,「看護学科,薬学科の人と一緒に議論できたことがとても貴重な経験で,いろいろな気づきを得ることができた」という感想は,実践的な議論を通じて,自身の専門分野だけでは得られない深い洞察があったことを示唆している.多くの学生が,「実際に医療現場に立つときの勉強にもとても役立つと感じた」と述べており,今回の経験が将来の臨床現場で直面する多職種連携の課題に直結すると認識していることが伺える.「他の学部の学生と意見を交わすことで,自分にはなかった考えを知ることができ,視野が広がったから」という言葉からは,固定観念にとらわれず,柔軟な思考を養う上でIPEが有効であったことが読み取れる.そして,「ほかの学科の方と共同で課題に向き合う中で専門性や目の付け所の違いを感じ,多職種連携の重要さを感じられました」という意見は,各職種の専門性を肌で感じ,それが連携を通じていかに患者支援に貢献するかを実感したことを示している.

 2.今後の学習への動機づけ

本IPEプログラムは,学生の学習意欲や将来のキャリア形成に対する強い動機づけにも繋がっている.学生からは,「三学部の人たちが集まるといった経験自体全くなかったためかなり新鮮だったと同時にモチベーションも上がった」という意見が寄せられており,異分野の学生との交流自体が刺激となり,学習への意欲を向上させたことがわかる.また,「医学科だけの授業とは雰囲気が違って,新鮮だった」という感想は,普段の専門科目に限定された学習とは異なる視点やアプローチが,学生にとって新鮮な体験であったことを示している.「他の学部の人と関わり良い刺激になった」という声も多く,ポジティブな相互作用が生まれていたことが伺える.特に,「薬学部や看護学部の人達に触発され,自分の医師になるモチベーションがあがる,とてもいい経験だった」というコメントは,他職種の専門性や熱意に触れることで,自身の将来の目標がより明確になり,医師としてのキャリアへの意欲が高まったことを示している.さらに,「患者について他の人と話し合うのはこれからも大切になると思い,とてもためになった」という意見は,多職種連携の重要性を単なる知識としてではなく,実践的なスキルとして捉え,今後の学習においてもこの視点を持ち続けることの意義を理解していることを示している.「他学部の生徒と話し合うことで知識の専門性や,洞察力に驚き,非常に今後の勉強に参考になった」という感想は,他職種の持つ専門知識の深さや,問題解決へのアプローチ方法に感銘を受け,それが自身の学習内容や方法論を見直すきっかけになったことを表している.医学科は第1学年,看護学科と薬学科は第2学年が本実習に参加しており,医学科学生からは「看護学科や薬学科の方は自分よりも上級生であり,専門性の高い学びを既に受けていらっしゃったため,話し合いの途中で知らない専門用語などがいくつか出てきて,同様に医療者を志す者として身が引き締まった」というコメントは,他職種の学生のレベルの高さに刺激を受け,自身の専門性を高めることへの意識が芽生えたことを示しており,非常に教育的な効果が高かったと言える.

 考察

本稿では,東京医科大学医学部医学科において実践されている多職種連携教育の具体的な内容とその教育的成果について概説した.学生からのアンケート結果は総じて好評であり,このプログラムが学生の多職種連携の重要性に対する理解を深める上で有効に機能していることが示唆された.医療系学生でのデータでは,IPEに対するreadinessは第1学年で高く2) 低学年でIPEのプログラムを実施することは意義があると考えられる.特に,他職種の視点の獲得,多角的な問題解決能力の育成,そして将来の医療者としてのモチベーション向上に大きく貢献していると考えられた.

また,Solomon3) はIPEにおけるシミュレーション形式や模擬患者を用いることは,学習者のIPEへのreadinessに有益な影響を与えたと報告している.本実習でも模擬患者を用いたシミュレーションを実施しており,意義があると考えられた.しかしながら,現状の課題も存在する.本実習では模擬患者対応が中心であり,実際の医療現場における多職種間の直接的な協働場面を完全に再現し,その能力を十分に評価するには至っていない点が挙げられる.Nadolskiら4) は,臨床実習における医学生と医療者の関係について,レジデントとの交流は良好であるが,看護師との交流の質は不良であったことを示し,それぞれが心理的苦痛を経験していることが悪影響を及ぼしている可能性があると述べている.医学生は臨床実習において医師・看護師の最適な連携を促進するような教育経験を得られていないとしており,病棟実習に繋げるためにも低学年での臨床体験は重要性を増している.

コアカリキュラムにおける「IP.多職種連携能力」は,「医療・保健・福祉・介護など患者・家族に関わる全ての人々の役割を理解し,お互いに良好な関係を築きながら,患者・家族・地域の課題を共有し,関わる人々と協働することができる」と明確に定義されている.この定義を踏まえると,今後はより実践的な協働の機会をカリキュラム内に組み込むことで,学生が多様な医療・保健・福祉・介護職種と具体的に連携し,複雑な患者・家族・地域の課題解決に主体的に貢献できる能力を一層育成していく必要がある.例えば,病院実習や地域実習の中に,実際の多職種カンファレンスへの参加や,多職種チームの一員として患者支援計画を立案・実行する機会を増やすことなどが考えられる.真に協働できる医療専門職の育成に向け,知識・技能・態度という実践的な診療能力のすべての側面をより深く評価するためのプログラム開発が必要と考えられた.

学生はそれぞれの専門性を持ち寄って多角的に実習課題に取り組んだ.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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