論文ID: e09019
数理データサイエンスAI教育プログラムリテラシーレベルの授業科目において実践している「学生自身が検証しながら進める生成AIと共生した学び」について報告する.生成AIを取り入れている目的は,学生のコミュニケーションスキル(討論する力・論述する力・発表する力)の向上である.特徴は,プロンプトによりロールプレイをさせた生成AI,つまり,学生,教員,画匠役などの役割を演じる生成AIと学生が共生する学びの場を提供し,さらに,学生自身が生成AIの創造力や表現力を検証するプロセスを組み込んでいる点である.学生へのアンケート調査の結果から,生成AI活用の有効性が評価されつつも,一方で,生成AIからの回答に誤りが含まれていたり,十分な内容では無かったりするなどの指摘もあった.しかしながら,学生からも,AI技術の進展に対する期待は大きく,今後の更なる技術革新と活用の促進が望まれる.
We report on “learning in collaboration with generative AI,” which is practiced in the literacy-level courses of the Mathematics, Data science and AI Smart Higher education (MDASH) program, and which is advanced through verification by the students themselves. The purpose of incorporating generative AI is to improve students’ communication skills (ability to discuss, argue, and present). The feature of this system is that it provides a learning environment in which students can coexist with a generative AI that prompts them to role-play, i.e., the generative AI plays the roles of a student, a teacher, and a master painter, and the students themselves verify the generative AI’s creativity and expressive power. The results of a questionnaire survey of students showed that while the use of AI was highly evaluated as beneficial, some students pointed out that the feedback from the AI contained errors and was not sufficient. However, students also have high expectations for the advancement of AI technology, and further technological innovation and promotion of its use are expected in the future.
生成AIの技術的な発展には目覚ましいものがある.生成AIが注目を集め始めた2023年には,文章を生成する会話生成サービスが中心となっていたが,2024年には画像生成,そして,2025年には動画生成のサービスも広がりつつある.
生成AIの利活用も多岐にわたり始めている.高等教育の分野においても,2023年に,文部科学省から,「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」が周知された.また,国のAI戦略に伴って制定された数理データサイエンスAI教育プログラム(MDASH)認定制度においても,2024年の改定で,生成AIの基本的な理解が新たな観点として追加された1).
生成AIを高等教育に取り入れた実践報告も続いている.例えば,MDASHに生成AIの学修項目を取り入れた医療系大学の報告2),生成AIのもとでAIについての学びを取り入れた文系大学の報告3),また,生成AIにより学修課題を生成するシステムの開発4) などの取り組みが報告されている.
このような中,北海道医療大学(以下,本学)は,薬学部を含めた医療系の6学部を有する医療系総合大学として,かねてよりデータサイエンス教育に力を入れてきた.2021年3月には,大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)へ申請した「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」が採択された5).2021年8月には,「医療系大学での学びあいと内製AIによる学修者本位の教育」をテーマとした本学の教育プログラムが,MDASHリテラシーレベルプラスに選定された6).2024年8月には,医療技術学部がMDASH応用基礎レベルプラス(学部別)にも選定されている7).
これらのMDASHを構成する授業科目の中では,生成AIの利活用も早くから進めており8),最近では,生成AIを学内のサーバで独自に運用する(オンプレミス)の取り組みなども始めている.
本学において,生成AIをMDASHに取り入れている目的は,学生のコミュニケーションスキル(討論する力・論述する力・発表する力)の向上であり,「文章指導」や「情報科学」などの初年次科目において,主に実践を重ねている.特徴は,プロンプトによりロールプレイをさせた生成AI,つまり,学生,教員,画匠役などの役割を演じる生成AIと学生が共生する学びの場を提供し,さらに,学生自身が生成AIの創造力や表現力を検証するプロセスを組み込んでいる点である.
本報告では,薬学部1年生を対象として開講している本学MDASHリテラシーレベルの授業科目である「文章指導」や「情報科学」において実践している「学生自身が検証しながら進める生成AIと共生した学び」について報告する.生成AIとの共生においては,生成AIの役割とその利活用の目的を明確にすることを重視し,学生が生成AIの創造力や表現力を検証しながら,生成AIと共生できる学びの場を提供できるようにしている.また,学生に対するアンケート結果についても報告し,本実践の成果や今後の方針などについても言及する.
「文章指導」と「情報科学」は薬学部1年生を対象とした必須科目であり,各々,前期と後期で開講している.履修者概数は160名であり,全ての履修者に対して対面形式の一斉授業を実施している.また,BYOD(Bring Your Devices)のポリシーに基づき,学生はそれぞれ自身のラップトップパソコンを持参している.
大学側としても,授業中,全員の学生がインターネットに接続できる環境を提供している.さらに,本学は,Google for Educationのサービスを全学的に導入している.学生全員にGoogleメールのアカウントを付与し,GooleフォームやGoogleドキュメントなどのアプリケーションも授業中に活用している.
生成AIと共生した学びの目的はコミュニケーションスキルの向上である.特徴は,学生自身が生成AIの回答を検証するプロセスを導入していることである.
まず,「文章指導」の授業序盤では,生成AIを検証することの必要性について講義をしている.講義で焦点を当てているのが,エキスパートシステムと生成AIとの違いを伝えることである.エキスパートシステムは入力された情報に基づき正確な情報を出力する.一方,生成AIは入力された情報に対して,最も相関の高い学習データを出力する.相関の高い学習データは,必ずしも正しい回答であるとは限らないこと,そして,これがハルシネーションとして知られる現象に結び付くことを学生に理解してもらうようにしている.
生成AIの検証についての講義を終えた後に,学生と生成AIが共生した学びを取り入れている.具体的には,3つのステップで段階的に取り入れており,それぞれに,生成AIと共生するための目的を定めている.3つのステップでの目的は,討論する力,論述する力,発表する力の向上であり,全体を通して,コミュニケーションスキルの向上を図っている.特徴は,各ステップにおいて,プロンプトによりロールプレイをさせた生成AIをそれぞれ設定することである.つまり,順に,学生,教員,画匠役の役割を演じる生成AIを設定し,これらの生成AIと学生が共生する学びの場を提供する.さらに,学生自身が生成AIの創造力や表現力を検証するプロセスを各ステップに組み込んでいる.
学生役を演じる生成AIの目的は討論力の向上であり,グループワークで利活用している.学生どうしがディスカッションをしているときに,教員が自身のWeb版GPT-4にプロンプトを送信して,その回答をプロジェクターに投影することで学生へ共有する.
図1は,学生役を演じさせるGPT-4に送信するプロンプトと回答例(一部抽出)である.プロンプトは,「コロナ禍における大学生活」をテーマとした例である.このプロンプトにより,4名の学生がディベートを繰り広げる回答が得られる.ポイントは,本学には居ない医学部や栄養学部の学生も設定することで,新しい観点からの意見に触れられるようにしている.また,同じ薬学部の学生としての意見にも触れることで,その意見に違和感を感じるかどうかも考えてもらう.

学生を演じさせるGPT-4に送信するプロンプトと回答例(一部抽出)
これにより,かねてからの蓄積データを学習した生成AIの発想が,個人の経験に基づく自分の発想に反することがないかなど,学生自身にAIの回答に対する信頼性を疑うきっかけとなるようにしている.同時に,このプロセスを通じて,今までにない発想に対応できる討論力も身に付けることを目指している.
教員役を演じる生成AIの目的は論述力の向上であり,レポート添削に利活用している.図2は,教員役を演じるGPT-4に送信するプロンプトの一部である.プロンプトでは,学生全体への添削方針であるルーブリック評価表に基づいて,学生にとって個別最適な添削結果を提示するようにしている.学生には,自身のレポートであるからこそ湧き上がる反論や意見をもとに,生成AIの創造力や表現力を検証させている.

教員役を演じるGPT-4に送信するプロンプトの一部
図3は,GPT-4のフィードバックに対するアンケート結果(4肢択一式)である.4肢のなかで,「強くそう思う」に着目すると,GPT-4のフィードバックが「有益であった」とした選択肢の回答比率が最も多く,順に,「今後もあると良い」,「正確であった」,「公平であった」が続いた.

GPT-4のフィードバックに対するアンケート結果(4肢択一式)
表1は,自由記載アンケートの結果であり,上段の設問が「ChatGPTのフィードバックの良かった点を自由に書いてください」,下段が「ChatGPTのフィードバックの改善すべき点を自由に書いてください」である.各々,自由記載アンケートの結果を,API(Application Programming Interface)によりオプトアウトしたうえで,GPT-4モデルよりクラスタリング(重複無し)した結果である.
GPT-4のフィードバックに対するアンケート結果(自由記載アンケート)
| ChatGPTのフィードバックの良かった点を自由に書いてください | 人数 |
|---|---|
| 改善すべき点や具体的なアドバイスがあった | 40 |
| 良かった点が褒められてモチベーションが上がった | 30 |
| 客観的な意見であり,精度も高かった | 15 |
| 自分では気づかなかった視点や新しい発見を提供してくれた | 10 |
| 回答がすぐに得られる | 2 |
| ChatGPTのフィードバックの改善すべき点を自由に書いてください | 人数 |
| 改善すべき点はない(特になし,無回答) | 77 |
| 書いていない内容を指摘されたり,誤った指摘があった | 14 |
| もっと詳細な改善点や具体的なアドバイスが欲しい | 12 |
| 褒めかたが大げさであったり,内容が過大評価されている | 4 |
| 指摘が少ない,または,文法的な間違いや言葉の表現が不適切であった | 3 |
| より多角的な視点からのフィードバックが欲しい | 1 |
良かった点としては,「改善すべき点や具体的なアドバイスがあった」や「良かった点が褒められてモチベーションが上がった」が全体の6割以上となった.改善すべき点も,同じく,6割以上が「改善すべき点はない(特になし,無回答)」となったが,「書いていない内容を指摘されたり,誤った指摘があった」や「もっと詳細な改善点や具体的なアドバイスが欲しい」も合わせて26件(23%)あった.
この結果から,学生がGPT-4のフィードバックを有益であり今後も続けてほしいと感じていることがわかる.一方,GPT-4の回答に対する誤りなどを指摘する意見などもあり,AIの回答に対する適度な信頼と健全な懐疑心を培えたのではないかと考える.
発表力の向上を狙ったのが画匠役を演じる生成AIである.学生には,プレゼンテーションで聴衆に伝達したい情報を画匠役の生成AIに画像として具象化させた.生成画像によりプレゼンテーションを効果的にできたのかといった観点から,生成AIの創造力や表現力の検証もさせている.
プレゼンテーションのテーマは「医療分野におけるAI活用」としているが,本学6学部ですべて共通したテーマとなっている.また,プレゼンテーションの前には,同じテーマで,学生役を演じる生成AIとのグループワークを実施しており,さらに,その結果をまとめたレポートについても,教員役を演じる生成AIにより添削をしている.
まず,画匠役の生成AIを利用するにあたり,学生には,画像の生成プロセスを解説した.解説では,敵対的生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Networks)の概要や,どのようなプロンプトにより,どのような画像が生成されるのかといった例を示した.さらに,プロンプトを作るコツとして,プロンプトに,明確性や単純性も必要であることも伝えている.
その後,学生は,プレゼンテーションにおいて,伝達したい情報を表す画像を文章で表現した.次に,翻訳ツールにより英文化してプロンプトに変換し,最後に,プロンプトをGoogleフォームから送信した.
教員は,Googleスプレッドシートで受信したプロンプトのデータセットを,API経由でOpenAI(Dall-Eモデル)に送信して画像を受信した.さらに,学生全員が閲覧できる共有フォルダに画像が保存されるようにした.なお,画像のファイル名には,学籍番号を付与して,誰がどのような画像を生成したのかを相互確認できるようにもした.
図4は,薬学部と歯学部の学生が生成した画像の一部である.テーマ「医療分野におけるAI活用」が同一であるにも関わらず,学生が生成した画像は,学部ごとに大きく異なっており,特に,薬学部と歯学部は,薬剤師業務や歯科医師業務にかかわる画像が多く生成されていた.

薬学部と歯学部の学生が生成した画像
表2は,生成画像に対するアンケート結果である.本学6学部の履修者全員に対して,自由記載アンケート形式で実施した結果である(重複無し).半数近い学生が,満足していたり,AI技術に対する興味や驚きを回答していた.一方,利用する上での難しさや画質に対する不満を回答していた学生も,同じく,半数近くいた.さらに,AIの活用に対する懸念や不安を示した学生も40名程度いた.
生成画像に対するアンケート結果(自由記載アンケート)
| 全体的な感想などを書いてください | 人数 |
|---|---|
| 満足しているが,想像と異なる場合がある | 105 |
| AIの技術に対する興味や驚き | 90 |
| 指示の難しさを感じた | 115 |
| 画像の品質や精度に対する不満 | 60 |
| AIの活用に対する懸念や不安 | 40 |
図5は,5肢択一式の設問によるアンケート結果である.図5(a)の設問は「スライドで使うのに有効な画像でしたか」であり,「とても有効」から「まったく効果なし」まで,正規分布に近い分布で回答が得られた.一方,図5(b)の設問は「今後もAIで生成した画像を使いたいか」であり,この結果については,「そう思う」と回答した学生が最も多かった.

生成画像に対するアンケート結果(5肢択一式)
以上の結果より,画像生成AIについては,現状では,まだ,使いこなすことに対する難しさや不安などを感じているようであるが,これからの技術の発展には大きな期待を寄せているものと考える.
本報告では,薬学部1年生を対象とした「文章指導」と「情報科学」において実践した「学生自身が検証しながら進める生成AIと共生した学び」について述べた.
今回の取り組みの特徴は,生成AIを単にツールとして活用するのではなく,学生自身が生成AIの回答や表現力を検証するプロセスを組み込んでいる点である.具体的には,学生役,教員役,画匠役という3つの役割を生成AIに演じさせることにより,討論力,論述力,発表力といったコミュニケーションスキルの段階的な向上を目指した.特に,生成AIが提供する情報の信頼性を学生自身が批判的に検証することを通じて,AIへの適切な信頼感と懐疑心を培えるようにした.
アンケート調査の結果からも,学生が生成AIのフィードバックを有益であると感じ,今後に生成AIの活用を希望していることが明らかになった.一方で,生成AIの誤回答や不十分なフィードバックについても指摘がされており,生成AI活用の現状における課題も示されている.また,画像生成AIを活用したプレゼンテーションに関しても,一定の成果を上げつつも,技術的な制約や活用の難しさを指摘する意見もあった.しかしながら,AI技術の進展に対する期待も大きく,今後の更なる技術革新と活用の促進が望まれる.
今後,本学ではこれらの実践を踏まえ,生成AIを活用した教育方法の改善・発展に取り組み,学生が主体的にAI技術を理解し,活用する力を養える教育環境の整備を一層推進していきたいと考える.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.