日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
研究
介護予防を目的とした高齢者自主グループの集団凝集性の実態
入江 柚希平野 美千代
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2021 年 10 巻 2 号 p. 53-61

詳細
Abstract

目的:集団凝集性の構造及び集団凝集性に関連する要因をもとに,介護予防を目的とした高齢者自主グループにおける集団凝集性の実態を明らかにすることを目的とする.

方法:自主グループに参加する65歳以上の者270名に質問紙調査を実施した.項目は属性,グループの特性,集団凝集性,グループ活動への参加意欲で構成した.

結果:調査票は回収数227部,有効回答数194部(有効回答率71.9%)であった.因子分析の結果,集団凝集性は4因子11項目で構成され,因子はグループ活動に対する魅力,強固な連帯感,メンバー同士のつながりの強さ,目標への協力体制と命名した.また,集団凝集性の各因子は性別,年齢,主観的健康感に有意な関連が認められた.

考察:自主グループの参加者は,活動自体や参加者同士の交流をもとに凝集していることが示された.また,年齢や健康状態に合わせた活動を展開していく必要性が示された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to clarify the actual condition of group cohesion in a voluntary group based on the structure of group cohesion and the factors related to group cohesion.

Method: A total of 270 people aged 65 and above participated in voluntary group activities. The questionnaire asked questions about basic attributes, group characteristics, group cohesion, and willingness to participate in group activities.

Results: Questionnaire responses were obtained from 227 participants, and the number of valid responses was 194 (valid response rate: 71.8%). Factor analysis revealed that group cohesion consisted of 11 items with four factors: Factor 1 was “attraction to group activities,” Factor 2 was “strong solidarity,” Factor 3 was “strength of connection between group members,” and Factor 4 was “cooperation to achieve goals.” There were statistically significant associations in the case of group cohesion based on gender, age, and subjective health.

Discussion: It was shown that the participants in the voluntary group were cohered based on the activities and the interactions among the participants. Thus, it is necessary to organize group activities according to the age and health status of the people.

I. 緒言

厚生労働省では2015年に地域づくりによる介護予防推進支援事業を策定した.この事業は介護予防の取り組みを推進するために,「週に1回以上,体操等の活動を行う住民運営の通いの場」を全国に展開し,通いの場が継続的に拡大していくような地域づくりを推進している(厚生労働省,2015).近年,各地域で高齢者の介護予防グループが設立されており,メンバーが主体となり活動を企画・運営し自主グループとして活動を継続していくことが期待される.また,介護予防を目的とした自主グループの活動がメンバーにとって有意義なものとなるよう,メンバーが自主グループの課題や目標を明確にし,活動を作り上げていくことが重要と考えられる.

介護予防を目的とした自主グループ活動への参加継続の理由として,自身の健康管理につながることや,活動が人との新たな交流の広がりに発展する(安孫子ら,2017)ことが報告されている.自主グループで活動する者は,これらの特徴に魅力を感じ参加し,活動を作り上げていくと考えられる.

また,自主グループの運営には,各自が役割を持ち共通の目標に向かい行動するという自主グループのまとまりが必要になると考えられる.このような,活動や交流に対する人々を引きつける力やグループ全体のまとまりは,集団凝集性という概念で示され(Carron et al., 1985),自主グループ活動において重要であると考えられる.なお,集団凝集性は,メンバーが集団を統一体として捉えることであり,メンバーが集団にとどまるよう働きかける力の総体(Stephen, 1997)として定義されている.

集団凝集性に関してStephen(1997)は,集団凝集性が高いほどメンバーは集団の目標に向かって努力すると述べている.自主グループでは介護予防を行うことを集団の目標の1つとしていることから,集団凝集性が高まることで,自主グループの目標である介護予防に向けて自主グループが努力することが可能になると考えられる.これはメンバー自身の介護予防に対する意識や行動の変化を起こす一助になるといえる.また,集団凝集性が高いグループは,メンバーに安心感をもたらしコミュニケーションが活発化し相互の影響力が強くなる(武井,2002)ことから,集団凝集性を高めることは仲間づくりや関係性の強化につながると推察される.

集団凝集性の先行研究では,Carron et al.がスポーツ集団を対象に調査を行っている.Carron et al.(1985)は集団凝集性を「個人レベル(Individual Level)」と「集団レベル(Group Level)」,「課題的側面(Task Aspect)」と「社会的側面(Social Aspect)」の2次元からなるモデルをつくり,集団凝集性を測定する尺度を開発した.本モデルでは,「課題的側面」は集団の目標や目的を達成することに対する凝集を示し,「社会的側面」はメンバー同士の交流を維持,発展することに対する凝集を示している.また,「個人レベル」は,「課題的側面」や「社会的側面」に対する個人にとっての魅力を示す一方,「集団レベル」は,「課題的側面」や「社会的側面」に対する集団全体の統合を示す(Carron et al., 1985).これら2次元から抽出された4つの因子は,「課題的側面に対する個人レベルで感じるグループへの魅力;Individual Attractions to the Group-Task(ATG-T)」,「社会的側面に対する個人レベルで感じるグループへの魅力;Individual Attractions to the Group-Social(ATG-S)」,「課題的側面に対する集団の統合;Group Integration-Task(GI-T)」,「社会的側面に対する集団の統合;Group Integration-Social(GI-S)」として示されている(Estabrooks et al., 2000).

集団凝集性の関連要因については,様々なグループを対象に研究がなされている.例えば,高齢者の運動を行うグループを対象にアドヒアランスとの関連をみたもの(Estabrooks et al., 1999),男性高齢者の運動を行うグループを対象に継続参加との関連をみたもの(Daniels et al., 2016),女性高齢者の運動を行うグループを対象に集団凝集性の効果をみたもの(Spink et al., 1994)等がある.また,集団凝集性の関連要因として,性別(榊原,2002),グループのサイズ(Remers et al., 1995),リーダーの行動(Caperchione et al., 2011),メンバー同士の共有時間(榊原,2002)等が報告されている.

また,介護予防を目的とした自主グループにおいては,主観的健康感も集団凝集性に関連すると予測される.介護予防自主グループを対象にした調査では,自主グループの参加理由に「足腰を鍛え,転ばないように」を選択した者は回答総数100人中53人であり,そのうち体調に不安がある者は20人であった.加えて,参加理由に「足腰を鍛え,転ばないように」を選択した者は,グループ活動への満足度が有意に高かった(植木ら,2017).上記の結果から,転倒など参加者が自覚する健康面の課題を自主グループで取り組めたことが,参加者のグループ活動への満足度につながったと予測される.参加者が自覚する健康状態,つまり,主観的健康感に合わせた活動により,参加者の集団凝集性は高まると推察される.

以上より,集団凝集性にはメンバーとグループの特性が影響していることが予測される.しかし,先行研究において,自主グループで活動している者を対象に,集団凝集性の実態として集団凝集性の構造に着目したものや,その関連要因は明らかにされていない.そこで本研究は,集団凝集性の構造及び集団凝集性に関連する要因をもとに,介護予防を目的とした高齢者自主グループにおける集団凝集性の実態を明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

介護予防を目的とした自主グループは,福嶋ら(2014)の定義を参考に「メンバーである高齢者が主体となって活動し,体操やレクリエーション,交流を通し介護予防の取り組みを展開している集団」とした.また,集団凝集性はCarron et al.(1985)の定義をもとに「対人,対課題・活動に対する個人的魅力や集団の一体感,帰属意識より成り立つもので,メンバーが集団にとどまるよう働きかける力の総体」とした.

2. 対象地域

対象地域はA市B区とし,A市は人口約200万人,高齢化率27.0%であり,B区は人口約13万人,高齢化率31.0%の地域である.B区はA市の中でも高齢化率が高く介護予防のニーズが高まっている地区である.2017年度,B区ではグループ等の育成に関するA市のモデル事業を展開しており,様々な専門機関と連携を行い住民主体の介護予防事業に対するサポートネットワークを構築し介護予防活動に精力的に取り組んでいる.B区のグループは,社会福祉士から新しい体操の提供や,運営をメンバーでできるよう支援を受けている.

3. 対象

対象はB区内で実施しているグループに参加する65歳以上の者270名とした.対象の選定は介護予防事業を実施しているA市の委託機関にB区のグループの代表者とメンバーの紹介を依頼した.全26グループの内,紹介を受けた13グループの代表者に研究協力を依頼し全てのグループより協力が得られた.

4. データ収集

無記名自記式質問紙を用い,2019年3月~5月に各活動場所にて集合調査を実施した.調査項目は,属性,メンバーとグループの特性,集団凝集性とし,属性は,年齢,性別,主観的健康感で構成した.主観的健康感は「非常に健康」「まあ健康」「あまり健康ではない」「健康ではない」とした.メンバーとグループの特性は,メンバーのグループへの参加年数(以下,参加年数),メンバーのグループへの参加頻度(以下,参加頻度),グループのメンバー実数(以下,メンバー実数),グループの設立年数(以下,設立年数),グループの運営形態(以下,運営形態)で構成した.参加頻度は「週に1回以上」「月に2~3回」「月に1回」「2~3か月に1回」とし,運営形態は「代表者はおらず,全てメンバーが協力して行っている」「代表者はいるがメンバーが運営と活動は役割分担して行っている」「代表者中心となっているが運営や活動はメンバーで分担している」「代表者が中心となって運営も活動もしている」とした.

集団凝集性の質問項目は,先行研究の集団凝集性の構造(Carron et al., 1985Estabrooks et al., 2000)をもとに作成した.本研究の集団凝集性の項目は,ATG-Tが4項目,ATG-Sが4項目,GI-Tが3項目,GI-Sが4項目の計15項目で構成され,各設問に対して「1.全く思わない」から「6.とても思う」で尋ねた.

集団凝集性の項目は,グループに携わる社会福祉士,公衆衛生看護の実践経験をもつ研究者,作業療法の実践経験をもつ研究者の計3名から確認を得た.また,表面妥当性の確認はグループに通う高齢者39名へ予備調査を実施した.予備調査の結果に伴い,全てのグループが回答できるよう一部表現を修正した.

5. 分析方法

本研究では,集団凝集性の構造及び集団凝集性に関連する要因をもとに,集団凝集性の実態を明らかにするため,まず,集団凝集性の構造の確認は,最尤法プロマックス回転による探索的因子分析を実施した.探索的因子分析の実施前に項目分析を行った結果,回答の平均±標準偏差よりフロア効果である1以下や天井効果である6以上の項目は見られなかった.また,項目間相関で0.9以上の相関が見られた1項目「私はこのグループのメンバーに親愛の情を感じる」を除外し,13項目を因子分析の対象とした.先述したCarron et al.の集団凝集性の4つの因子であるATG-T,ATG-S,GI-T,GI-Sをもとに質問項目を作成し,因子数は4に設定した.項目の選定に際し,因子負荷量は0.4以上を条件とした.

集団凝集性の関連を検討するために,各項目を群分けした.属性は,年齢を「74歳以下」「75歳以上」,主観的健康感を「健康ではない・あまり健康ではない」群と「まあ健康」群・「非常に健康」群に分類した.メンバーとグループの特性は,参加年数を「0~1年未満」「1~2年未満」「2~3年未満」「3年以上」,メンバーの参加頻度は,「週に1回以上」「月に2~3回」「月に1回以下」,メンバー人数は,「10~20人以下」「21人以上」,設立年数は,「1年未満」「1~3年未満」「3年以上」に分類した.

各因子と基本属性,メンバーとグループの特性の関連はKruskal-Wallis検定,Mann-Whitney U検定を実施した.群間の比較にはDunn-Bonferroniの方法を実施した.データ解析にはIBM SPSS Statistics Version 22を使用し,有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

調査票は無記名とし,匿名化をはかった.調査票配布時に説明文を添付し,研究目的・意義,研究内容,研究協力は自由意思に基づくこと,研究協力機関や対象者の匿名性を確保すること等を文書と口頭で説明を行い,質問紙への回答,回収を持って同意とみなした.本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認日:2019年3月11日,承認番号:18-89).

III. 研究結果

回収数は227名(回収率84.1%)であり,そのうち,集団凝集性について未記入の項目があった者,65歳未満の者,計33名を無効回答とし,194名を分析対象とした(有効回答率71.9%).

1. 対象者とグループの特性(表1
表1  対象者とグループの特性 (N=194)
n %
性別 27 13.9
167 86.1
年齢(平均年齢:76.4±5.9歳) 前期高齢者(65–74歳) 71 36.6
後期高齢者(75歳以上) 117 60.3
未記入 6 3.1
主観的健康感 非常に健康 18 9.3
まあ健康 135 69.6
あまり健康でない 29 14.9
健康でない 2 1.0
未記入 10 5.2
参加年数 1年未満 52 26.8
1~2年 44 22.7
2~3年 50 25.8
3年以上 43 22.2
未記入 5 2.5
参加頻度 週に1回以上 80 41.2
月に2~3回 96 49.6
月に1回 9 4.6
2~3か月に1回以下 2 1.0
未記入 7 3.6
設立年数 1年未満 22 11.3
3年未満 38 19.6
3年以上 134 69.1
運営形態 代表者おらず全てメンバーが協力1) 8 4.1
代表者いるがメンバーが役割分担2) 99 51.0
代表者中心だがメンバーが分担3) 55 28.4
代表者中心4) 22 11.3
未記入 10 5.2

1)「代表者はおらず,全てメンバーが協力して行っている」を代表者おらず全てメンバーが協力と記載

2)「代表者はいるがメンバーが運営と活動は役割分担して行っている」を代表者いるがメンバーが役割分担と記載

3)「代表者が中心となっているが運営や活動はメンバーで分担して行っている」を代表者中心だがメンバーが分担と記載

4)「代表者が中心となって運営も活動もしている」を代表者中心と記載

性別は「男性」27名(13.9%),「女性」167名(86.1%)であった.前期高齢者(65–74歳)71名(36.6%),後期高齢者(75歳以上)117名(60.3%)であり,平均年齢は76.4±5.9歳であった.主観的健康感は「非常に健康」18名(9.3%),「まあ健康」135名(69.6%),「あまり健康でない」29名(14.9%),「健康でない」2名(1.0%)であった.

また,参加年数は「1年未満」52名(26.8%),「1~2年」44名(22.7%),「2~3年」50名(25.8%),「3年以上」43名(22.2%)であった.参加頻度は「週に1回以上」80名(41.2%),「月に2~3回」96名(49.6%),「月に1回」9名(4.6%),「2~3か月に1回以下」2名(1.0%)であった.設立年数は「1年未満」2グループ,「3年未満」3グループ,「3年以上」8グループであった.運営形態は「代表者はおらず,全てメンバーが協力して行っている」8名(4.1%),「代表者はいるがメンバーが運営と活動は役割分担して行っている」99名(51.0%),「代表者が中心となっているが運営や活動はメンバーで分担して行っている」55名(28.4%),「代表者が中心となって運営も活動もしている」22名(11.3%)であった.

2. 自主グループの集団凝集性(表2
表2  介護予防を目的とした高齢者自主グループの集団凝集性の因子分析 (N=194)
項目 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 回転後の負荷量平方和 クロンバックα係数
第1因子 
グループ活動に対する魅力
活動は健康状態をさらに改善する機会である .989 −.021 .033 −.089 5.772 0.928
活動は自身の目標を達成する強力な助けである .885 .015 −.034 .060
私は体操を楽しんでいる .602 .088 .191 .083
第2因子 
強固な連帯感
グループのメンバーは活動内外でも親密である .031 1.020 −.042 −.049 4.697 0.887
グループのメンバーは活動時以外にも一緒に過ごす .017 .819 −.057 .009
グループのメンバーは関心がある事柄が似ている −.064 .582 .282 .102
第3因子 
メンバー同士のつながりの強さ
私はメンバーとの交流に深い価値を見出している .087 −.036 .901 −.019 6.170 0.917
私はメンバーと過ごせる時間が大切である .054 .024 .881 −.010
私はメンバーとの交流が特に重要である .003 .022 .777 .008
第4因子 
目標への協力体制
グループのメンバーは共通の目標を持って取り組む −.005 .025 −.024 1.006 5.354 0.895
グループのメンバーは協力して活動に取り組む .260 −.049 .167 .525
因子間相関 第1因子 1.000 .578 .770 .771
第2因子 1.000 .629 .581
第3因子 1.000 .760
第4因子 1.000
削除された項目 私はメンバーへの親愛の情を感じる
活動が自己の成長につながる
グループのメンバーはより良い活動を考えている

探索的因子分析の結果,集団凝集性は 4因子11項目となった.第1因子(3項目)は【グループ活動に対する魅力】と命名した.第2因子(3項目)は【強固な連帯感】と命名した.第3因子(3項目)は【メンバー同士のつながりの強さ】,第4因子(2項目)は【目標への協力体制】と命名した.クロンバックα係数は全項目0.944,第1因子0.928,第2因子0.887,第3因子0.917,第4因子0.895であった.

3. 自主グループの集団凝集性と関連要因(表3

第1因子【グループ活動に対する魅力】と有意に関連したのは主観的健康感(P=0.001)であり,第2因子【強固な連帯感】と有意に関連したのは性別(P=0.017)と年齢(P=0.039)であった.第3因子【メンバー同士のつながりの強さ】と有意に関連したのは年齢(P=0.029)と主観的健康感(P=0.021)であり,第4因子【目標への協力体制】と有意に関連したのは年齢(P=0.045)と主観的健康感(P=0.017)であった.

表3  自主グループ参加者の集団凝集性と関連要因 (N=194)

IV. 考察

1. 介護予防を目的とした高齢者自主グループの集団凝集性

本研究での介護予防を目的とした高齢者自主グループの集団凝集性の項目に関する信頼性,妥当性について以下に述べる.内的整合性を示すクロンバックα係数は4つの全ての因子において0.8を上回る結果となった.また,集団凝集性全体としてもα係数は0.944であり内的整合性は確保できたと考える.妥当性については項目作成段階において自主グループに携わる社会福祉士,公衆衛生看護の実践経験をもつ研究者,作業療法の実践経験をもつ研究者で確認をし,探索的因子分析にて因子的妥当性の検討を行った.以上より本研究で扱った集団凝集性は構成概念妥当性を有すると考えられる.

集団凝集性の構造はCarron et al.の概念と同様4因子構造に収束した.集団凝集性の因子構造を特定した先行研究(Carron et al., 1985泉井ら,2014)は,スポーツ集団を対象としていたが,高齢者を対象にした自主グループにおいても同様の構造となった.この構造は,個人やグループという単位において,グループで行っている活動内容を示す「課題」とグループの交流関係を示す「社会」に対して凝集していることを示している.以下,集団凝集性を構成する各因子についてCarron et al.,泉井らの文献をもとに考察する.

第1因子【グループ活動に対する魅力】は,Carron et al.(1985)の「グループの課題・活動への関わりについての個々のメンバーの知覚」という概念を想定し作成した.第1因子は,グループ活動の中核を担う介護予防活動への魅力を感じメンバーが引きつけられ結束していることを示し,Carron et al.が定義した概念と同様の内容を示すと考えられる.泉井ら(2014)は集団凝集性の課題的側面について,集団の目標や当面する課題そのものが成員の目標や課題と合致し,それが集団の行為により適切に処理される場合,集団の魅力は増大し集団として結合すると述べている.対象者は介護予防を目的とする参加者が多く,グループの目的と一致しているため,集団としてのまとまりを有していたと推察される.

第2因子【強固な連帯感】は,Carron et al.(1985)の「社会的関心についてのグループ全体に存在する類似性,親密性,情緒的な絆についての個々のメンバーの知覚」という概念を想定し作成した.第2因子は,グループ全体で共通の価値観や考え方が類似している程度や,グループ活動以外でも交流を持つようメンバー間の情緒的な絆の程度についての捉えを示し,Carron et al.(1985)が定義した概念と同様の内容を示していると考えられる.グループのメンバーはグループのみに共感や親密なつながりを求めるのではなく,社会活動を行う中で他のコミュニティにも個人のネットワークが形成されていることが予測される.よって,第2因子は,グループのメンバーの価値観の類似などグループ外での連帯感を示す因子であると考えられる.

第3因子【メンバー同士のつながりの強さ】は,Carron et al.(1985)の「個人の受け止めやグループでの社会的交流についての個々のメンバーの知覚」を想定し作成した.第3因子は個人がグループのメンバーとの交流に魅力を感じ価値を見出して結束することを示し,Carron et al.が定義した概念と同様の内容を示していると考えられる.また,泉井ら(2014)は集団凝集性の社会的側面について「集団の成員自身が魅力的であって,個々の成員は互いに関係を持つこと自体に喜びを見出し,社会的な交換関係を持つことを望んでいる場合にその集団の魅力を支持する」と述べている.つまり,第3因子はグループの目的でもある他者との交流への満足感を示す因子であるといえる.

第4因子【目標への協力体制】は,Carron et al.(1985)の「集団の課題・活動全体を通していえるグループ内の類似性・親密性・情緒的な絆についての個々のメンバーの知覚」を想定し作成した.第4因子は,グループ内に共通する目標や課題を達成する過程や成し遂げることで得られる凝集を示し,Carron et al.が定義した概念と同様の内容を示していると考えられる.グループ活動をする上での目標や利益がグループ全体での目標と一致すると,グループが協力して活動を行うと考えられる.つまり,グループの目標や活動の方向性との一致の有無がこの因子に影響を与えることが示唆される.

なお,本研究の対象集団の集団凝集性は,グループによる取り組みにより高まったと推察される.Harden et al.(2014)の研究では,集団凝集性を高めるための介入を6回行った後,集団凝集性は有意に高くなったが,介入から6か月後は有意に低くなった.加えて,Harden et al.(2014)は,集団凝集性に影響を及ぼす要因として協力,コミュニケーション,競争を挙げ,「課題」に対する凝集の場合は活動に関するコミュニケーション,「社会」に対する凝集の場合は仲間との社会的なコミュニケーションが影響すると報告している.また,第4因子【目標への協力体制】に類似する概念である課題的側面に対する集団の統合においても,活動に関するコミュニケーションが影響することから(Harden et al., 2014),グループとして機能していくためのコミュニケーションを図ることが第4因子の高さに影響すると考えられる.つまり,課題や活動への凝集を示す第1因子と第4因子,メンバーとの社会的交流を表している第3因子を維持・向上するには,各因子に合わせたコミュニケーションが重要と考えられる.

2. 高齢者自主グループの集団凝集性に関連する要因

第2因子【強固な連帯感】,第3因子【メンバー同士のつながりの強さ】,第4因子【目標への協力体制】は年齢と有意に関連し,各因子ともに後期高齢者が前期高齢者より高い得点であった.個人差はあるが身体機能は加齢とともに低下する.また,後期高齢者は加齢に伴い重要な社会的役割から疎遠となる(松岡,2004)なかで,自宅の近くに目的をもって外出できる場所があることは重要(佐藤ら,2000)である.このことから加齢に伴い活動範囲が徐々に縮小すると,地域という身近な場でのつながりが得られることに魅力を感じる高齢者は多くなると予測される.そのため,第2因子,第3因子と年齢に有意な関連が示されたといえる.また,後期高齢者は第4因子が関連したことから,高齢者の中でもグループ全体への認識やグループの団結の満足度に違いがあることが示された.

第1因子【グループ活動に対する魅力】,第3因子【メンバー同士のつながりの強さ】,第4因子【目標への協力体制】は主観的健康感と関連した.ヘルスビリーフモデルでは,人が健康に良いとされる行動を取る要因とは,現在の自身の状況を脅威として認識した場合と考える(神馬ら,2020).高齢者が自主グループ活動へ参加したきっかけとして,日常生活の中で身体機能の低下により痛みを感じ「加齢に伴う今後の健康への警鐘」となっていたことが明らかにされている(安孫子ら,2016).主観的健康感が低いメンバーは,日常生活で感じる体調の不調がきっかけとなりグループ活動への意欲が高まり,第1因子の得点が高くなったと考えられる.また,主観的健康感が低いほど,第3因子,第4因子の得点が高かった.高齢者の良好な健康状態には親族や非親族とのネットワークを保つことが重要(金ら,2000)といわれている.加えて,高齢者が常に誰かに支えられていると感じられること,心理的に安定していることが主観的健康感に関連している(緒方ら,2018).主観的健康感が低い者は,行動範囲が縮小され,ネットワークが縮小していることが予測される.そのため,グループの参加により地域の身近な場でのつながりが得られることに魅力を感じると推察される.また,メンバーとの交流を通じた健康に関する情報のやりとりは,自身の健康に向き合う機会となり,さらにグループの魅力を感じる機会にもなり得ると考えられる.

第2因子【強固な連帯感】は性別と有意に関連していた.女性は男性より集団凝集性が高い(Eys et al., 2015)ことが報告されているが,本研究は男性が有意に高かった.男性は就労や趣味などの特定の目的を達成するための活動を好む(斎藤ら,2015)一方,女性は社会活動を行う際,交流など親和性が高い活動を重要視する傾向(内閣府,2012)にある.第2因子はメンバー個々人がグループの連帯感をどのように捉えているかを示している.男性がグループ全体を俯瞰した際,グループには女性が多く,そこで繰り広げられるメンバー間の様子から,グループ内のつながりが密で親和性が高いと認識したと推察される.

3. 実践への示唆

自主グループにおいて第1因子,第3因子,第4因子を高めることは,メンバーの介護予防に対する意識の変化や,グループ活動を円滑に進めるための一助となる.グループの活動内容に関してメンバー間でコミュニケーションを図ることは,活動に参加することの意義や価値を振り返り,強めることにつながると考えられる.そして,これらのコミュニケーションは,グループの活動の統一性を高めることにも寄与するといえる.

また,第2因子【強固な連帯感】が高まるとメンバーの価値観や生活に強く影響を与えると考えられる.各因子間において中程度以上の正の相関が見られたことから,他の因子を高めることで第2因子も高まると推察される.なお,支援者は排他性が生じるほどの強固な連帯性をもつグループを発見した際は,グループの風通しを良くするための話し合いの場を設けるなどの間接的なサポートが必要と考えられる.

4. 研究の限界

本研究は横断研究のため集団凝集性と関連要因の因果関係を示すことはできない.また,対象グループが一部の地区に限定されていること,調査時にグループに参加していない者の回答が含まれていないことから,回答に偏りがある可能性は否めない.さらに集団凝集性に関連する要因を明らかにしたが,交絡因子は調整できていない.

以上の限界はあるが,本研究は介護予防を目的とした高齢者自主グループの集団凝集性の構造を明らかにすることができ,その構造をもとに集団凝集性の実態を示すことができたと考える.

謝辞

本研究にご協力いただいた調査対象者の皆様ならびに関係機関の皆様に深くお礼申し上げます.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
© 2021 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top