日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
研究
高校生の子どもをもつ親の家庭内性教育に影響する要因
市戸 優人喜多 歳子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2021 年 10 巻 2 号 p. 62-71

詳細
Abstract

目的:高校生の親による家庭内性教育に影響を与える要因を明らかにすること.

方法:高校生の親5~6 名のグループを構成し,フォーカスグループインタビューによりデータ収集を行った.データは,質的帰納的に分析を行い,抽出されたカテゴリーをPRECEDE-PROCEEDモデルの各要因に演繹的に分類した.

結果:4グループ(N=22)にインタビューを実施した.25カテゴリー,51サブカテゴリーが生成された.家庭内性教育の影響要因として,[親が子どもに性教育を行う覚悟],[同世代の子どもを持つ親からの支援],[親が性教育の方法を身につけること],[学校の性教育との連携]などが抽出された.

考察:明らかになった影響要因から,家庭内性教育の役割と機能の向上に向け,親の知識や態度に働きかける健康教育や,学校,家庭,地域の連携を目指した環境整備などのヘルスプロモーション活動が公衆衛生看護の支援として示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to investigate the factors influencing sex education at home by parents of adolescents.

Methods: Data were collected through focus group interviews. Each interview was included five to six parents of high school students. All data were qualitatively analyzed, following which the identified categories were classified according to the PRECEDE-PROCEED model.

Results: Four focus group interviews (N=22) were conducted, and 25 categories and 51 subcategories were identified. Some of the influencing factors surrounding sex education at home were: “parental preparedness to provide sexual education,” “support from parents who have children of same age,” “find the appropriate method to provide sexual education,” and “cooperation with school.”

Discussion: It was suggested that to enhance the function and role of parents of adolescents in sex education at home, public health authorities must provide important support through health education to improve knowledge about sexual health and attitudes towards sex education. Additionally, there must be collaborations between school, home, and community to conduct health promotion activities.

I. 緒言

15歳未満の妊娠件数の高止まり傾向や10代の梅毒の感染報告数の急増(厚生労働省,20192020)など,青少年の性に関する様々な問題が公衆衛生上の重要な課題となってきており,青少年を対象とした性教育の重要性が増している.性教育は,幼児期からの発達段階に応じた教育はもちろんであるが,思春期の性の健康を守るためには,中高生の時期の実践的な性教育が重要である.特に高校生は,性行動が最も活発になる時期(林,2013)とされ,より具体性を持った性教育を行う必要がある.しかし,高校生は,性に関する知識が不足しており,それらの問題を自分のこととして考えていない現状が報告されている(宮地ら,2014末田ら,2015).

学校教育では,学習指導要領に沿った内容で性教育が体系的に行われているものの(文部科学省,2018),個人差や成長発達の違いが大きいこの時期に,性の問題を講義で伝えることの限界が指摘されている(齊藤ら,2015).こうした背景から,国と一部自治体は,性教育を効果的に展開するためには,学校教育のみに依存するのではなく家庭や地域社会と連携した取り組みの必要性を述べている(文部科学省,2018東京都教育委員会,2019).家庭内性教育は,子どもの避妊行動や性行動の開始時期に影響し(石川,2013Nagamatsu et al., 2012),子どもの発達に応じた個別性のある教育を行う重要な役割を有している.しかし,国内の幼児から中学生の子を持つ親は,家庭内性教育の必要性を認識しているものの,実施できていない現状にある(市戸ら,2019宍戸ら,2007).

一方,地域では,思春期保健対策として青少年を対象とした性教育や啓発活動は行われているが,親を対象とした取り組みはほとんど実施されていない.家庭内性教育の実現に向けた親への支援は,地域保健活動を担う公衆衛生看護の重要な役割であると考える.そうしたことから,高校生の親を支援するために,性教育の実践に影響を与えている要因を明らかにし,公衆衛生看護の役割や支援を考える資料としたい.

以上より,本研究の目的は,公衆衛生看護の実践に向けて,高校生の親による家庭内性教育に影響を与える要因を明らかにすることである.

II. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究デザインを採用した.

2. 用語の意義

本研究では,“家庭内性教育”を,心身の機能の発達や性行為,性感染症をはじめとする様々な性の健康課題や予防行動などの性に関する話題を家庭内で親子が共有し,課題解決に向けてコミュニケーションを図ること,と定義した.

3. 研究参加者

高等学校に通学する子どもの親とした.親の性別や年齢,家族構成,子どもの性別や人数は,限定しなかった.なお,幅広い年齢層の生徒が在籍する夜間および定時制の学校に通学する生徒の親は,研究参加者から除いた.

4. データ収集方法

2019年2月から9月までの間に,フォーカスグループインタビュー(以下,FGIとする)によりデータを収集した.研究協力者に機縁法で研究参加者を集めてもらい,5~6名のグループを構成した.インタビューは,約90分間とし,研究参加者の許可を得てICレコーダーに録音した.グループ内のダイナミクスや参加者のボディランゲージ,アイコンタクトなどの客観的情報は,研究補助者が筆記で記録した.

インタビューは,インタビューガイドに沿って実施した.家族の性について話をすることは抵抗があると考え,導入は「理想的な家庭内性教育のあり方」や「家庭内性教育の役割」と抽象的な質問から開始し,後半は「家庭内性教育を促進・阻害する要因」と具体的な内容とした.

5. 分析方法

インタビュー終了後,研究者は,グループで話し合われた代表的な意見の要約を参加者に確認し,内容の妥当性を確認した.録音したインタビュー内容を,逐語録に起こしてデータとし,意味内容のまとまりに着目してデータを区切った.区切ったデータが,複数の参加者から共感が得られた考えであるのか,参加者個人の考えであるのか,客観的情報も考慮しながら検討を行い,コード化を行った.意味内容が類似しているコードを集約し,カテゴリー化を行った.分析枠組みとして,PRECEDE-PROCEEDモデル(Green et al., 1991)(以下,PPMとする)を採用し,生成されたカテゴリーをPRECEDE段階の第1段階から第4段階の各要因に演繹的に分類した.

カテゴリーの分類結果は,質的研究に精通した研究者や公衆衛生看護学の研究者と検討を行うことにより妥当性を確認した.

PPMは,健康教育とヘルスプロモーションのプログラムを設計するための計画モデルである.本研究は,影響要因を明らかにすることを目的としているため,第4段階に主眼を置いた分析とした.第4段階は,行動に寄与する影響要因を,異なる戦略を要する3つの要因(準備・強化・実現)に分類することができる.家庭内性教育の促進に向けた具体的な支援の検討に活用できるように,以下の基準に沿って分類した.準備要因は,家庭内性教育を実施するために親自身に事前に準備される要因で,個人の態度や信念,自己効力感などとする.強化要因は,親の家庭内性教育を保持し,継続するための刺激や報酬などとする.実現要因は,親の家庭内性教育に必要な実際的な資源やシステム,新しいスキルとする.

6. 倫理的配慮

本研究は,羞恥心等により公で話すことを躊躇させるテーマを扱う研究である.そのため,インタビュー実施前に,参加者に話すことに抵抗を感じる話題は,無理に話さなくて良いことを伝えた.また,インタビューは,善悪を判断するものではないことを説明した.インタビューガイドは,データ収集で述べたように,参加者が話しやすい内容から始められるように作成した.さらに,FGIの手法上,途中退席した場合のそれまでのデータ削除ができないことを説明した.本研究は,札幌市立大学大学院看護学研究科倫理審査会(2019年2月18日付けNo. 19)の承認を得て実施した.

III. 研究結果

1. 研究参加者の概要

FGIは,計4グループ(N=22)実施した(表1).参加者の属性は,女性が19名,男性が3名であった.年齢は,参加者全員が40代から50代であった.男子生徒の親が15名と多かった.

表1  研究参加者の概要と子どもの属性(グループ別)(N=22)
人数 親の属性   子どもの属性
性別   年齢 性別   学年
40代 50代 男女 1年 2年 3年 1・2年 1・3年
1G 6 0 6   2 4   5 1 0   3 1 0 0 2
2G 5 2 3   2 3   4 1 0   1 1 3 0 0
3G 6 0 6   4 2   3 3 0   1 4 1 0 0
4G 5 1 4   5 0   3 1 1   2 0 1 1 1

グループ別の属性は,1Gと3Gは,全員女性であった.2Gは,参加者5名のうち2名が男性であった.4Gは,参加者5名のうち1名が男性であった.

なお,文中では,カテゴリーを[ ],サブカテゴリーを《 》として記述する.表2には,カテゴリーごとに代表的なデータを示した.

表2  高校生の親による家庭内性教育の実践に影響する要因
要因 カテゴリー サブカテゴリー 代表的なデータ
QOL 子どもが自他共に心身を傷つけないような責任のある行動を考えながらとる 子どもが男女ともに心身を傷つけないこと 親としては,やっぱり相手があってのことなので,心と体を傷つけるようなことが無いようにしなければいけないですよね(Group 1)
家庭の中で子どもを育てるとなった時に,性教育だけで育てるわけではないから,将来普通の人間になってもらうために,そういう豊かな人間になって欲しいなって思っていて,日常生活の自立とか,いろんなことの教育の過程の中に性教育があるんだと思うんですよね(Group 3)
適度な親の見守りの中で子どもが自立すること
子どもが自分自身で選んだ結果に納得できるような行動がとれること
子どもが豊かで自立した人間として育つこと
健康 子どもが発達に応じた健康的な性的関心をもつ 子どもに思春期相応の健康的な性的関心を持っていて欲しい 息子が女の子と遊びだして付き合いだしたら,黙っていられなくて言うと思うけど,それ(付き合っている様子)も全くなくて,彼女もいなくて結婚もできない状態が続くっていうのも大丈夫かなって~中略~遊んでいるのも心配だけども(Group 2)
子どもが性的関心を持っていることへの安心と不安
現代の高校生の男女交際のあり方の変化
子どもが望まない妊娠をしない・させない 子どもが学生時代における避妊の重要性を理解すること 女の子がちゃんと今日は大丈夫な日なのか,ダメな日なのかを,ちゃんとそういう自分の体のリズムを知っておくようにと,母親として意味を知っておくようにと言ってあります(Group 2)
男子が望まない妊娠が女性の心と体を傷つけることを知ること
女子が望まない妊娠をしないために自分自身の体を理解すること
子どもが性被害にあわない 子どもが性犯罪から身を守るための教育が必要である 女子が痴漢に遭うイメージがあったが,男の子も色々される時代になってきた~中略~女の子だけを心配していればいい時代は終わったんだなって,気をつけなさいよっていうことは伝えたかもしれない(Group 4)
男女ともに性被害に遭わないための教育が必要である
性の多様性に伴い子どもが様々な性被害に遭うリスクがある
子どもが性に関する情報を正しく活用する 子どもが情報の良否を正しく理解して活用できる 情報源がネットにあるから~中略~間違った情報を得ないように目を見張らせて,なんかしてそうだなと思ったら声をかける(Group 2)
行動とライフスタイル 親は子どもに関心をもって生活を見守る 子どもは高校生になると家庭外での生活が増えるためよく観察する (子どもは高校生になると)外に出てそういう機会(性に関する事象)がたくさんある~中略~よく観察しておかないと,何か起こった時に大変だなっていうのは感じていますね(Group 4)
子どもの部屋から変化を知る
親が子どもと日常の中で性に関する話をする 子どもからの性に関する質問に素直に答えられる 切り出すのはこっちも恥ずかしい部分もあるので~中略~だけど,そこをこっちが恥ずかしがると相手も恥ずかしがって出てこないから,普通に言えるような間(関係)にしておかないとなとは思うんですけど(Group 4)
親子間で普段から良好なコミュニケーションがとれる
親子間で羞恥心なく性に関する会話ができる
親が大事にしている性に関する考えを子どもに繰り返し伝える 親がタイミングを見て繰り返し伝えること かしこまって伝えることではないけども,事あるごとに少しずつ親は,こういう思いでいるんだよ,相手のことを考えようねって伝えていかなければならない(Group 1)
性に関する親の大事な考えを伝えること
親が繰り返し伝えたことは子どもの心に残る
環境 親が子どもと一緒に過ごす時間や場がある 子どもと一緒に過ごす時間や場を作ること あんまり家に夜いないんですよね.困った時にこいつに話しても無駄だなって思われないようにコミュニケーションとっていかないと.それといざっていう時に家にいないと(Group 2)
親子で過ごす時間が多い幼少期から性教育を行うこと
性に関する情報が簡単に手に入る情報社会 性に関する情報が簡単に手に入る情報社会 悪い情報もいい情報も多いと思うんです~中略~それこそ早く性交渉をしてはいけないということや,好きな人とするのが正しいということが,情報として(子どもに)入ってくれていたらいいと思う(Group 4)
子どもの身近に出産や子育てがある環境 子どもの身近に出産や子育てがある 身近なものとして妊娠,出産,子育てについて実際に見てきており~中略~自分にとっていい時期にしないと大変だよっていうことは,アドバイスしています.~中略~環境的には言いやすかったりします(Group 3)
準備要因 親が子どもに性教育を行う覚悟 親の羞恥心などによる躊躇 自分(親)が照れとかなく,大事なことなんだよ,っていうことを話すことができれば,子どもが反発しようが何をしようが,何回も重ねることで刻んでいく.それができないのが自分なんだなって(Group 1)
教育をするうえで,こっち(親)が恥ずかしがっていたら何も伝わらない(Group 2)
親が覚悟をもって子どもに向き合えること
親と子の信頼関係 親子間の信頼関係が構築されていること いざという時に会話ができる関係でありたいなって~中略~さらっとニュースを見た時だとか,なんとなくタイミングで,さらっと言えるような親子関係が望ましいのかな(Group 1)
性について気兼ねなく話ができる親子関係であること
親の性に対する価値観 夫婦の性教育に対する価値観や役割意識 男性として話せる部分と,私(女性)じゃないと分からない部分があるので,夫婦の(性教育に対する)認識も合わせていかないと(Group 4)
様々な性のあり方を受け入れる親の価値観
親が経験した性に関する体験 親は自分自身が親から受けた性教育を反面教師にしている 母親がすごく厳しくて,それこそ男のそばによるんじゃないって言われてきた~中略~だからこの人には絶対言えないと思った,何があっても理解してくれないって,だから私は逆に理解してあげられる親になろうと思った(Group 1)
親は自分自身が親から性教育を受けていないため実践に悩んでいる
親の性に関する経験による思いや学びを子どもに伝える
強化要因 同世代の子どもをもつ親からの支援 同世代の子どもがいる家庭の性教育事情を聞くこと 親元を離れたりとか,大学生になったらとか,そういうぼんやり構えている自分がまずいのかなって,ちょっと皆さんの話を聞いて思っている(Group 3)
家庭内性教育の重要性を知る機会 親が家庭内性教育を行うことの重要性を知る機会がある やっぱりそういう(性に関する)話は,家庭でしていた方がいいんだね.そういうことも分からない~中略~誰が言うのか分からないけど.自然に耳に入るようにしてもらわないと(Group 2)
学校の性教育との連携 親が学校の性教育内容を知ること 小学校高学年の時に「赤ちゃんってここから産まれてくるんだね」って,言われたことがあって,こういうことを学校で教えてもらっているんだって~中略~こういうこと(学校で受けている教育内容)が分かれば話を膨らませることができますよね(Group 3)
子どもが学校で学んだ性に関する知識を親が確認すること
子どもの交際相手の存在 子どもにデートに出かける交際相手がいる 何が話すきっかけになるかというと,相手がいてのことだから,彼氏ができた時,彼女ができた時に注意しなければいけないことってあるんだよ,という軽いノリから始まるかな.帰りが遅かったら,どこ行っていたのとなるし(Group 1)
やっぱりそういう(異性間のトラブルなど)タイミングがないといちいち言わない.そういう怪しい雰囲気があれば,あんたちょっとってなるけど(Group 2)
子どもの日常生活が落ち着いており教育を行うきっかけがない
子どもが恋愛に悩みを抱えていると性教育を行うきっかけになる
実現要因 親が性教育の方法を身につけること 親は家庭内性教育の方法や内容に悩んでいる 私はそういう話(性に関する話)を息子とはできない,いろんな学校の話とかをなんでも話してくれるけど,彼女とかいるんだろうなっていう時期はあったけど,絶対そのことは話してくれない.~中略~言わないから聞かないし,でも家庭でみんなどうしているのかなって,こういうことをズバッとね,子どもに言えているのか(Group 1)
親は家庭内性教育の方法を知りたい
発達段階に応じた体系的な学校の性教育 学校における体系的な性教育の積み重ね (エイズについて)どこで初めてそういうこと知ったの?って,子どもに聞いたら,小学校の授業でって~中略~やっぱり子どもには,家ではしづらいなって思いましたね(Group 4)
学校が家庭で教育できない内容を教えてくれる
分類できなかったカテゴリー 親子が同性であること 親は異性の子どもに対して性教育を行うことに抵抗がある 女の子同士だと,共通の会話から性のことや彼氏のこと,生理の話とか話が膨らんでいくんじゃないかなと思うんです.やっぱり男の子ってなると共通の話をなかなか見出せないっていうか~中略~きっかけが難しいかなって,同性同士だと(性教育を)しやすいかなって(Group 3)
同性の子どもに対しては親自身の経験を活かして伝えやすい
子どもに同性の兄弟姉妹がいること 親は子どもが同性の兄弟同士で性について話をする様子を見守る 親が子どもにあーだこーだというまでもないかなって,兄弟の中でそういう話がされていたようで,彼女ができただのできないだの,そういう話も含めて兄弟の中でなされていたように思うんです,それを全く知らないふりをしているだけで,親としてはすべて把握していました(Group 2)
子どもが中学生から高校生になること 高校生は性体験を経験する機会が多くなる やっぱり高校になって,付き合うってなった時に,そういうこと(性的体験)が当然あるのかなとか,なってしまう場面も出てくるのかなって考えた時に,やっぱり話しておかなきゃなって思って具体的に話しておきました(Group 4)
子どもがHPVワクチンを接種すること 子どもがHPVワクチンを接種する時に性感染症について伝えた 長女が今高校2年生なんですけど,中学生の時にHPVワクチンを打った.なんでこのワクチンをお母さんが打ってもらいたいのかっていう話をした時に,子宮頸がんとかコンジローマとか性感染症を予防するためのワクチンなので打ってほしいという話をした(Group 3)

2. 調査結果

1) 調査結果の概要

分析の結果,25カテゴリー,51サブカテゴリーが生成された(表2).生成されたカテゴリーは,PPMの枠組みに分類した(図1).第4段階に焦点をあてた調査であったが,第1段階から第3段階に分類可能なカテゴリーが抽出できたため,合わせて表記する.第1段階のQOL(1カテゴリー,4サブカテゴリー),第2段階の健康(4カテゴリー,10サブカテゴリー),第3段階の行動とライフスタイル(3カテゴリー,8サブカテゴリー)と環境(3カテゴリー,4サブカテゴリー),第4段階の準備要因(4カテゴリー,9サブカテゴリー),強化要因(4カテゴリー,7サブカテゴリー),実現要因(2カテゴリー,4サブカテゴリー)に分類した.分類できなかったカテゴリーとして,4カテゴリー,5サブカテゴリーがあった.

図1 

PRECEDE-PROCEEDモデルを活用した高校生の親による家庭内性教育の実践に影響する要因

2) 第1段階 QOL

親が考える高校生の子どものQOLとして,[子どもが自他共に心身を傷つけないような責任のある行動を考えながらとる]が生成された.参加者は,《子どもが男女ともに心身を傷つけないこと》が重要であると考えていた.子どもが傷つかないために,親は全てを監視し,介入するのではなく,《適度な親の見守りの中で子どもが自立すること》を望んでいた.また,《子どもが自分自身で選んだ結果に納得できるような行動がとれること》を求め,責任ある行動をとること,《子どもが豊かで自立した人間として育つこと》を願っていた.

3) 第2段階 健康

[子どもが発達に応じた健康的な性的関心をもつ]は,参加者は,子どもに交際相手がいないことや異性への興味関心が希薄であることに不安を抱き,《子どもに思春期相応の健康的な性的関心を持っていて欲しい》と考えていた.一方で,《子どもが性的関心を持っていることへの安心と不安》という両価的な感情を抱く親もいた.また,現代の若者が,性的関心を含めた様々な事物への興味関心が希薄になりつつあることや,男女間の隔てない交流の増加など,《現代の高校生の男女交際のあり方の変化》が交際に影響していると語られた.

[子どもが望まない妊娠をしない・させない]では,望まない妊娠を避けることの重要性が話し合われた.女子生徒の親は,《女子が望まない妊娠をしないために自分自身の体を理解すること》,男子生徒の親は,《男子が望まない妊娠が女性の心と体を傷つけることを知ること》を望んでいた.参加者は,《子どもが学生時代における避妊の重要性を理解すること》が大事であると考えていた.

[子どもが性被害にあわない]では,《男女ともに性被害に遭わないための教育が必要である》と語られた.さらに,子どもが,性に関する知識や理解を深めるだけでなく,《子どもが性犯罪から身を守るための教育が必要である》と考えていた.参加者の中には,《性の多様性に伴い子どもが様々な性被害に遭うリスクがある》と考え,メディアの報道などを利用し,子どもが性犯罪に遭わないための教育を行っていた.

[子どもが性に関する情報を正しく活用する]では,情報化社会が進展していく中で,子どもが性の情報を手にすることを阻むのではなく,《子どもが情報の良否を正しく理解して活用できる》ことを望んでいた.

4) 第3段階

(1) 行動とライフスタイル

[親は子どもに関心をもって生活を見守る]では,日ごろから,親が子どもに関心を持ち見守ることは,子どもに交際相手ができた時など,大事な時に子どもに関わりやすくなると語られた.特に《子どもは高校生になると家庭外での生活が増えるためよく観察する》ことが重要であり,《子どもの部屋から変化を知る》ことも,重要な関わりであると語られた.

[親が子どもと日常の中で性に関する話をする]では,《親子間で普段から良好なコミュニケーションがとれる》こと,《子どもからの性に関する質問に素直に答えられる》ことが大事であり,日頃からの関係性が重要であることが話し合われた.良好な親子関係が基盤にあることで,《親子間で羞恥心なく性に関する会話ができる》と語られた一方で,参加者の中には,高校生の子どもとの日常のコミュニケーションに悩んでいる参加者もいた.

[親が大事にしている性に関する考えを子どもに繰り返し伝える]では,性教育は,家庭内でかしこまって伝えるのではなく,《親がタイミングを見て繰り返し伝えること》,《性に関する親の大事な考えを伝えること》が重要であると語られた.《親が繰り返し伝えたことは子どもの心に残る》ため,子どもが聞いていないように見えても,繰り返し伝えることが重要であると語られた.参加者の中には,性犯罪などの報道をきっかけに,子どもと性に関する会話を行い,親の思いを伝えていることが語られた.

(2) 環境

[親が子どもと一緒に過ごす時間や場がある]では,家庭で性教育を行うために《子どもと一緒に過ごす時間や場を作ること》が大事であると考えていた.高校生は,親と過ごす時間が短いため,《親子で過ごす時間が多い幼少期から性教育を行うこと》が継続的な性教育の実践に重要であると語る参加者がいた.

[性に関する情報が簡単に手に入る情報社会]では,インターネットで簡単に性の情報を獲得できるため,子どもが誤った情報を得て,誤った理解をしてしまうことを危惧しつつも,多くの参加者は,《性に関する情報が簡単に手に入る情報社会》で,正しい情報を選択,理解し,活用することを期待していた.

[子どもの身近に出産や子育てがある環境]では,《子どもの身近に出産や子育てがある》ことで,親子間で性に関する話題が出やすく,子どもが実際に性に関する様々なライフイベントを見て,産み育てることの大変さなどを学ぶことできると語られた.

5) 第4段階

(1) 準備要因

[親が子どもに性教育を行う覚悟]では,家庭内性教育を実施できていない参加者に,《親の羞恥心などによる躊躇》があった.参加者は,《親が覚悟をもって子どもに向き合えること》が実践に繋がる重要な要因であると考えていた.

[親と子の信頼関係]では,親子が性について話し合うためには,《親子間の信頼関係が構築されていること》に加え,《性について気兼ねなく話ができる親子関係であること》が重要な要因であると考えていた.

[親の性に対する価値観]では,参加者は,《夫婦の性教育に対する価値観や役割意識》を共有することが,夫婦が協力した性教育の実践に繋がると考えていた.また,多くの参加者は,《様々な性のあり方を受け入れる親の価値観》として,性自認に寛容な考えを持っていた.

[親が経験した性に関する体験]では,参加者の多くが,親から性教育を受けておらず,《親は自分自身が親から性教育を受けていないため実践に悩んでいる》状況が語られた.一方で,《親は自分自身が親から受けた性教育を反面教師にしている》参加者もいた.

(2) 強化要因

[同世代の子どもをもつ親からの支援]では,参加者は,《同世代の子どもがいる家庭の性教育事情を聞くこと》で,家庭内性教育の内容や方法に活用できると考えていた.[家庭内性教育の重要性を知る機会]では,家庭内性教育の効果が分からないと話す参加者がいた.一方で,《親が家庭内性教育を行うことの重要性を知る機会がある》親は,意識的に性教育を実施できると考えていた.

[学校の性教育との連携]では,多くの参加者が,学校の性教育内容を把握していなかった.そのため,子どもが何をどこまで学んでいるのか分からず,家庭でどのような内容を話して良いのか迷っていた.《親が学校の性教育内容を知ること》は,家庭内で性教育を行うきっかけになり,《子どもが学校で学んだ性に関する知識を親が確認すること》で,学校で学習した内容に沿って,家庭内で教育内容を発展させられると複数の参加者が考えていた.

[子どもの交際相手の存在]は,《子どもの日常生活が落ち着いており教育を行うきっかけがない》ため,子どもに交際相手ができることや,《子どもが恋愛に悩みを抱えていると性教育を行うきっかけになる》と多くの参加者が考えていた.《子どもにデートに出かける交際相手がいる》参加者は,デートに出かけるタイミングを見計らって,避妊などの教育を行っていた.

(3) 実現要因

[親が性教育の方法を身につけること]では,多くの親が,性教育を行うきっかけを模索し,《親は家庭内性教育の方法や内容に悩んでいる》心情が明らかになった.また,親は高校生の子どもに伝える内容や方法が分からず,《親は家庭内性教育の方法を知りたい》と考えていた.

[発達段階に応じた体系的な学校の性教育]では,参加者は,《学校が家庭で教育できない内容を教えてくれる》と考えており,家庭では難しい性感染症などの教育が行われていることにありがたみを感じていた.また,一部の参加者は,子どもの学童期時代を回顧する中で,《学校における体系的な性教育の積み重ね》の重要性を話していた.

6) 分類できなかったカテゴリー

分類できなかったカテゴリーは,[親子が同性であること],[子どもに同性の兄弟姉妹がいること],[子どもが中学生から高校生になること],[子どもがHPVワクチンを接種すること]の4カテゴリー,5サブカテゴリーがあった.これらは,PPMの各要因に分類できなかったが,親の性教育の実践に影響する重要な要因であり,親の性教育の支援を検討する際に考慮が必要な要因である.

IV. 考察

本研究は,高校生の親による家庭内性教育の影響要因や高校生の親が考える子どものQOLや健康を明らかにすることができた.影響要因では,[同世代の子どもを持つ親からの支援],[家庭内性教育の重要性を知る機会]など,国内の文献レビュー(市戸ら,2019)では確認できなかった要因が明らかになった.以下,PPMの枠組みに沿って考察する.

1. 親が考える子どものQOLと健康

親は,子どもが心身ともに傷つかないために,責任を持って自立して行動できることを子どものQOLと考えている.国内の先行研究では,多くの親が家庭内性教育の必要性を感じていることが報告されているが(市戸ら,2019宍戸ら,2007),これまで,親が望む子どものQOLや健康を明らかにした研究は見当たらない.そのため,本研究で明らかになった親が考える子どものQOLと健康は,親の家庭内性教育を支援する上で目標になりうる知見と考えられる.

2. 家庭内性教育の準備要因

家庭内性教育の実践は,親の動機づけが重要である.夫婦が[親の性に対する価値観]を共有し,家庭内性教育を行う基盤をつくることが,性教育の動機を高めることに繋がると考える.しかし,性教育の主な担い手は母親となっている現状がある(Flores et al., 2017Nogueira et al., 2016永光,2017).平成28年社会生活基本調査(総務省統計局,2017)では,父親の家事時間が極端に短いことと育児が土日に集中していることが指摘されている.家族形態が多様化し,家庭内の性役割も変化する現代において,家庭内性教育における母親と父親の役割のあり方を今後調査していく必要がある.

次に[親が経験した性に関する体験]では,親が家庭で性教育を受けた経験の有無が,実践に影響していることが明らかになった.山口ら(2014)は,小中学生の母親は,自身の親から月経教育を受けた者は,自分の子どもに対する月経教育の自己効力感が,受けなかった者より高かったと報告している.また,学校で性教育を受けた経験がある親は,子どもに性の話をする者が多く(畑中,2017),親が受けた性教育の経験と教育内容は,家庭内性教育を実践する上での影響要因となっている.岡崎(2014)は,性教育を受けていない親は,性教育を性行動とイメージし,気まずさや羞恥心から性教育の実践に困難さを感じていると報告している.過去に十分な性教育を受けなかった親世代が,家庭内性教育の役割を担い,子どもの良いロールモデルとなるためにも,親への教育機会が保証されることが重要であると考える.

3. 家庭内性教育の強化要因

親は,家庭内性教育の必要性を感じているが,実践には繋がっていない(市戸ら,2019宍戸ら,2007).親は,子どもにどう伝えたら良いか分からない(亀石ら,2017),何を話していいのか分からない(松田ら,2010)など,性教育を実施するための知識が不足し,漠然とした不安を抱いている.このような不安を抱いている親にとって,本研究で明らかになった[同世代の子どもをもつ親からの支援]は,具体的な行動を共有するのに重要であると考える.親同士が話し合い,互いにエンパワーメントする機会を作ることが,親の困難さを解決し(戸蒔ら,2018),準備要因に分類された[親が子どもに性教育を行う覚悟]や,実現要因に分類された[親が性教育の方法を身につけること]の強化に繋がると考える.

親は,学校が子どもに性教育を行った後に家庭で個別に教育を行うことを希望している(小倉ら,2010).そのためには,[学校の性教育との連携]により,学校で行われている性教育の内容を把握することが重要である.親に性教育の内容を説明する機会を設けている学校は,性教育で扱う内容の範囲が広い傾向がある(関根ら,2018).多くの学校が性教育の実践に苦慮し,地域や家庭との協力を求めている(岡本ら,2014)現実からも,学校との連携の機会は,家庭内性教育の実施において重要な強化要因になると考えられる.

4. 家庭内性教育の実現要因

親は,日常生活の中で性教育を実施する方法に悩み,きっかけの作り方や方法に関する情報を求めていた.知識の欠如や教育方法が分からないことは,親が性教育を実施できない理由であり(岡崎,2014),[親が性教育の方法を身につけること]は,家庭内性教育の実践や促進に必要不可欠な要因である.現代の高校生の多くが,インターネットを性の情報源としており,親を情報源とする者は1割にも満たない(宮地ら,2014清水ら,2008末田ら,2015).これは,子どもが親を性教育の提供者として認識しておらず,情報源を友人やインターネットに頼らざるを得ない状況にあることを示している.海外の研究(Kajula et al., 2014Liu et al., 2017)から,子どもに恐怖を与える性教育は,子どもが親と性について会話することを避けることに繋がっていることが分かっている.子どもが安心感や信頼感をもって,性の情報源として親に関わることができる環境を作るために,親は十分な知識や教育方法を学習し,準備しておくことが求められる.また,[親が性教育の方法を身につけること]は,準備要因に分類された[親が子どもに性教育を行う覚悟]の向上に繋がる要因でもあると考える.

5. 家庭内性教育の促進に向けた公衆衛生看護の役割

次に,家庭内性教育の役割と機能の向上に向けた,公衆衛生看護の役割について示唆を述べたい.

家庭内性教育を実施できない親の中には,教育内容や方法が分からない親が多かった.そのため,親が性教育の知識を獲得できる機会を提供することが重要である.また,方法や知識を知っていても,覚悟や自信が足りないため,行動化できない親もいた.そのため,セルフヘルプグループなど,親同士が交流できる場を設け,性教育に対する自己効力感の向上を目指した支援が必要であると考える.家族の相互作用を意識した親のエンパワーメントの強化が,公衆衛生看護に求められる重要な役割であると考える.

また,国が求めている,学校,家庭,地域社会の連携に向けて,地域の子どもの性の健康を情報共有できる機会を設けることが必要である.親は,情報共有の場を通して,[発達段階に応じた体系的な学校の性教育]を把握でき,学校教育に応じた家庭内性教育の展開へと繋げられ,各々が果たすべき役割を確認できる.子どもの性の健康を支援するために,学校,家庭,地域社会の連携を促すことが,子どもに対するヘルスプロモーション活動として,公衆衛生看護に求められる重要な役割であると考える.

本研究では,家庭内性教育の影響要因として,保健センターや医療機関などの医療・保健に係る関連施設,保健師や助産師,カウンセラーなどの人的資源については,話題に出なかった.これは,親の性教育をサポートする地域社会の資源が高校生の親に浸透しておらず,その役割が十分に認識されていないことが背景にあると考えられる.今後,本調査で得られた結果から,家庭内性教育の促進を目指した地域社会の取り組みと資源開発を検討する必要がある.

V. 研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,事前にテーマを周知し参加協力を依頼したため,性教育に興味関心がある者が多かったと考えられる.そのため,性教育を実施する意思がある者としての意見が反映されている可能性がある.

また,男子生徒の母親が多く,性差が結果に影響している可能性がある.父親の参加者が少数であったため,グループ内での発言が自制されていたのかもしれない.父親を調査対象とした研究は,国内外でほとんど行われていない.両親が協力した家庭内性教育の実現に向けて,父親を対象とした調査が求められる.

本研究では,高校生の親による家庭内性教育のQOLと影響要因を明らかにすることはできたが,教育を受ける側の子どものQOLと影響要因は明らかになっていない.今後は,子どもの視点から,家庭内性教育の調査が必要である.

謝辞

本研究に参加していただいた高校生の保護者の皆さま,並びに,研究実施において多大なる協力を頂きました研究協力者の皆さまには,心より感謝申し上げます.なお,本研究は札幌市立大学大学院看護学研究科における修士論文の一部に加筆修正を加えたものであり,本論文の一部はEAFONS2020(23rd EAST ASIAN FORUM OF NURSING SCHOLARS)で発表しています.

本研究に開示すべきCOI状態はありません.

文献
 
© 2021 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top