日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
活動報告
大学と自治体による公衆衛生看護の共同研究を推進させる要因
平野 美千代大西 竜太髙島 理沙阿部 弥喜佐伯 和子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 10 巻 3 号 p. 121-129

詳細
Abstract

目的:大学と自治体との共同研究のプロセスを報告し,共同研究を推進させた要因を検討する.

方法:対象は都市部と地方の2つの自治体とした.まず,自治体ごとに共同研究のプロセスを記述したシートを作成し,共同研究の推進要素を研究者の観点から整理した.次に,保健師へインタビューを実施し,インタビュー内容から共同研究の推進要素を保健師の観点から整理した.上記2つの結果をもとに,公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因を検討した.

結果・考察:共同研究を推進させた要因として,保健師と研究者の対等な関係性のなかでの目的共有があった.また,住民を第一義的にとらえる保健師の認識とそれに基づくコーディネートや,日々の活動を通じた保健師と住民との関係構築があった.さらに,共同研究と地域の健康課題解決の方向性を一致させる目的の再共有や,保健師の保健師活動に対する熱意や認識が示された.

I. はじめに

1. まえがき

研究と実践の融合は看護にとって重要なテーマであり,研究者と実践者による公衆衛生看護の共同研究は,住民への健康増進に寄与するEvidence-Based-Nursing(EBN)である.研究を通じエビデンスを活用,創出する研究者と,住民のニーズを的確に把握,分析し,サービスを提供する実践者の協働により,住民へのエビデンスに基づく有効な公衆衛生看護の提供が可能となる.

日本地域看護学会研究活動推進委員会(2006)が実施した実践者と研究者との協働による取り組みの実態調査では,協働経験は「事業の実施」と「共同研究の実施」が7割以上を占め,その内容は実践活動の根拠の明示,方法開発,普遍化等の実践活動の推進に資する内容であった.実践者は共同研究に期待することとして「研究成果が実践に生かせること」,研究者は「現場とのつながりが持てる」等を報告している(池田ら,2009).共同研究は実践者と研究者の協働の機会を提供し,かつEBNにもつながる重要な活動である.

保健師活動領域調査において,調査研究は全体の活動の0.6~0.8%であり(厚生労働省,2018),保健師が研究に主体的に取り組む機会は少ないと推察される.また,保健師の活動基盤に関する調査では,学会や学術集会への参加者は32.0%,うち発表者は全体の8.6%であった(日本看護協会,2018).一方,業務に必要な能力として,情報収集・調査研究能力を挙げている保健師は30.9%おり,13の能力のうち3番目に高い割合であった(日本看護協会,2018).保健師は研究能力の必要性は認識しているが,効果的な実践に向け研究を活用していく困難さが生じていると推察される.

近年,産学官連携による共同研究が推進され,大学は社会的課題を解決に導く知のエキスパートとして,社会的価値を創造することが必要(文部科学省,2016)といわれている.これを公衆衛生看護の共同研究に換言すると,研究者は地域の健康課題を解決するため,エビデンスを活用した知識や技術をもとに方策を生み出し,実践者とともに展開し,新たな実践や効果を創出していくことといえる.実践と研究を融合できる研究の機会をつくり,研究者と実践者が効果のある実践を展開することが,今,求められていると考えられる.

本活動報告は共同研究の推進に向けた1つの手懸りとして,大学が主体に動き,自治体と協働していく研究に着眼した.本稿では,研究機関である大学が先行研究等をもとに研究課題を抽出し,実践現場である自治体の協力を得て取り組んだ共同研究を取り上げ,そのプロセスを報告する.あわせて,公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因を検討することを目的とする.

2. 研究プロジェクトについて

共同研究の契機は,大学が開発を目指す「地域で取り組むフレイル予防のための社会活動プログラムの開発(以下,社会活動プログラムの開発)」の実施であった.研究プロジェクトは2018年度から開始し,地域在住高齢者を対象とした集合型社会活動プログラムの開発・実施および,高齢者の交流やつながりを創出するICTを活用したアプリケーション(以下,交流アプリ)の開発・実施の2本から構成されている.2018年度は高齢者を対象に社会活動に関するインタビュー調査を実施し,抽出した社会活動の特徴やニーズをもとに社会活動プログラムを開発した.また,高齢者を対象に交流アプリに関するニーズ調査を実施し,アプリを開発した.2019年度は高齢者の小集団を対象に,月1回の集合型社会活動プログラムと交流アプリを用いた活動を展開した.本プロジェクトでは,研究対象者への介入は研究者が実施し,実践者である保健師はオブザーバーとして参加した.保健師は研究対象者やグループの状況を研究者と共有し,適宜,研究対象者への関わり方について研究者にアドバイスをしていた.本稿は2018年度に開始した共同研究に向けた研究者と保健師との取り組みを報告する.

II. 方法

1. 用語の定義

アクションリサーチを参考に,大学と自治体の共同研究の種類を検討した.Holter et al.(1993)江本(2010)はアクションリサーチの種類を以下のように述べている.テクニカルアプローチ(TA)は,現場の問題に対し研究者が主体となり活動し,研究者は実践者の興味,関心を得ること,共同で進めることへの同意を得ることが重要となる.ミューチュアルアプローチ(MA)は,研究者と実践者の両者が主体となり,現場の問題,原因,介入方法を特定する.互いの了解による意思決定をしながら研究プロセスを共にする.エンハンスメントアプローチ(EA)は,研究者が実践者の想定や価値観について問いを投げかけ,実践者が自らの実践を振り返り,実践の根底にある価値観,規範,葛藤等を明らかにする.EAは実践者が啓発することに重点がおかれる.

これらをもとに大学と自治体の共同研究の種類を以下のとおり定義する.1つめはTAを参考に,大学が先行研究等をもとに研究課題を抽出し,実践現場の自治体の協力を得て研究として取り組むもの,2つめはMAを参考に,大学と自治体が対等な立場で,共通の課題を研究として取り組むもの,3つめはEAを参考に,自治体が実践現場の課題を整理し,課題分析や課題解決に向け大学の協力を得て研究として取り組むもの,とする.本活動報告では共同研究を1つめの,「大学が先行研究等をもとに研究課題を抽出し,自治体の協力を得て研究として取り組むもの」とする.また,辞書(広辞苑 第七版,三省堂国語辞典 第7版)を参考に,協働を「力をあわせ協力し合い物事(活動)を行うこと」,協力を「目的のために心をあわせて努力すること」と定義する.

2. 対象

対象は大学が実施した社会活動プログラムの開発に協力した2つの自治体とし,インタビューの対象は本プロジェクトに中心となり協働した各自治体の地区担当保健師,計2名とした.

3. 方法

データ収集期間は,社会活動プログラムの開発に向け取り組み始めた,2018年8月~2019年3月の7か月間とした.自治体は都市部と地方の各1ヵ所計2ヵ所とし,大学に所属する研究者と自治体に所属する保健師が中心となり研究を進めた.本報告では,共同研究を推進させた要因を明らかにするため,まず,研究者と保健師の各々の観点から整理したデータ2種類を用いて,研究者が各データを分析した.2種類のデータを用いた理由は,共同研究に対する意図や考えが研究者と実践者で異なるため,各立場から要因をとらえる必要があると考えたためである.次に,上記2つの結果をもとに,公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因を検討した.

1) 研究者の観点から整理した共同研究の推進要素

社会活動プログラムの開発に向けた取り組みについて,日時,方法(手段),その時になされた話し合いや活動の内容を時間軸で記載したシート(以下,シート)を作成した.共同研究の推進要素の抽出には,実態が可視化された本シートを用い,時間軸に沿って記載された内容を研究者が分析し,要素を抽出した.抽出した要素は共同研究者のコンセンサスを得た.

2) 保健師の観点から整理した共同研究の推進要素

保健師がとらえた共同研究の推進要素を明らかにするため,シートをもとに「共同研究が推進されたと思われる場面での保健師の意図,考え」,「共同研究が良い方向にいくよう促進させたものは何か」についてインタビューを行った.インタビュー時間は45~55分間であり,インタビューは許可を得てICレコーダーに録音した.共同研究により研究者と保健師は既に関係が構築されていることから,相互作用によるインタビューが可能であった一方,研究者への配慮から保健師が考えを表出しにくいことが予測された.そのため,上記シートを用いてインタビューを行い,その影響が最小になるよう努めた.

インタビューの録音データから逐語録を作成し,分析テーマを保健師がとらえた共同研究を推進させた要素とし,逐語録から関連する文脈を抽出しコードとし,次に類似したコードを集約しサブカテゴリを抽出し,サブカテゴリの相違性,類似性に留意しカテゴリを抽出した.分析過程は質的研究の経験を有する共同研究者で検討をした.また,インタビュー対象者である保健師2名にメンバーチェッキングを依頼し,カテゴリ,サブカテゴリは保健師がとらえた大学と自治体との共同研究を推進させた要素の特徴を表しているとの確認を得た.

3) 公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因

研究者および保健師の観点から整理した共同研究の推進要素をもとに,共同研究を推進させた要因を検討した.

4. 倫理的配慮

本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認日:2018年7月31日,承認番号:18-39).対象者には匿名性の保証やデータの秘密保持,研究への自由参加の保証,結果の公表等について口頭と書面をもって説明し,同意書にて同意を得た.

III. 活動内容

1. 対象地域および対象者の概要

対象地域は都市部のA市C区と地方のB町であった.C区は市街化,宅地化が進み,近年,住民同士が連携した見守りや支えあい活動を推進している.C区は人口28万人,高齢化率25%,産業別就業者は第一次産業0.5%,第二次産業16%,第三次産業が75%である.B町は自然豊かな町であり,家庭,学校,地域が連携した子どもを育てる環境づくりや子育て支援,また,医療,保健,福祉が連携した健康づくりを展開している.B町は人口6,200人,高齢化率29%,産業別就業者は第一次産業28%,第二次産業18%,第三次産業53%である.

対象者のA市保健師(Y氏)は年齢20代,保健師経験年数2年以上5年未満,教育背景は大学だった.B町保健師(Z氏)は年齢40代,保健師経験年数21年以上25年未満,職位は係長,教育背景は専修学校だった.

2. 公衆衛生看護の共同研究のプロセスと研究者がとらえた共同研究の推進要素(表1,表2

共同研究のプロセスは時間軸で整理すると4つの段階を経ていた.以下,4つの段階および各要素を記述し,抽出した14の要素は《 》で示す.

表1  共同研究に対する自治体の状況
A市 B町
共同研究に対する保健師の意図 ・C区内の各種教室に参加している男性参加者のつながりを作りたい.点から線,線から面へと活動を広げたい.
・今回の共同研究の結果をC区で共有し,区全体に波及していくことも考えている.
・地区の男性高齢者の閉じこもりを解決したい.
・社会活動プログラムは地区のサロンのニーズにあっており,サロン以外の日も参加者がICTでつながることができるプログラムを地区に作りたい.
・町内にある複数のサロンが,サロンを越えたつながりをICTで作りたい.
研究に関わった主要メンバー 大学:研究者4名/A市:地区担当保健師,係長(保健師) 大学:研究者4名/B町(地域包括支援センター):係長(保健師)
研究の協力者 地域包括支援センター:副センター長(保健師)/D介護予防センター:センター長,相談員/E介護予防センター:センター長/C区社会福祉協議会:社会福祉士/企業:研究員2名 サロン役員:4名/企業:研究員1名
表2  公衆衛生看護の共同研究に向けた推進のプロセスと研究者がとらえた共同研究に向けた推進要素
プロセスの段階 A市内容 B町内容 研究者がとらえた共同研究の推進要素
1.共同研究における目的の共有

2.対象の選定と依頼に向けた具体的な検討
・大学の研究目的とA市の共同研究を実施する目的,意図を共有する.
・プログラム開発および対象選定の方法を共有する.
・保健師の地域に関する情報と対象選定に関するアイデアをもとに,地域の実情に合った対象者のリクルート方法について意見を出し合い調整する.
・地域の関係機関への研究の説明と協力依頼の方法について協議する.
・社会活動プログラムで立ち上げる新たなグループへの研究者および地域の関係職種の関わり方について共有する.
・大学の研究目的とB町の共同研究を実施する目的,意図を共有する.
・保健師の地域に関する情報と対象選定に関するアイデアをもとに,地域の実情に合った対象者のリクルート方法について意見を出し合い調整する.
・対象とするサロンや住民へのより良い打診方法を確認する.大学が依頼する前に保健師が対象となるサロンを選定し,打診をするという手順を共有する.
・共同研究の目的や意図に関する研究者と保健師の対面による率直な意見交換
・保健師の共同研究の目的が研究を活用した地域の健康課題の解決
・研究者と保健師共に研究実施に向けた明確な意図の存在
3.一つずつのステップを大事にした段階を踏んだ研究依頼

①関係機関ならびに対象集団のキーパーソンへの対面による研究の相談と依頼
■集合型社会活動プログラム開発に関するインタビュー対象者紹介の依頼とインタビュー実施に向けた検討
・地域の関係機関を保健師,研究者で訪問し,関係機関とともに研究概要および目的を共有する.
・研究実施に向けた可能性をインタビューの対象者の紹介が可能であることを確認し共有する.

■地域の関係者とのICTアプリケーション開発に関する対象者選定の検討
・地域の関係機関を保健師,研究者で訪問し,関係機関とともに研究概要および目的を共有する.
・対象者のリクルートの方法と場を検討する.
・調査実施に向けた大学の具体的な動きをタイムスケジュールとともに確認,共有する.

■地域の関係者および地区の教室を運営する役員とインタビュー対象者の選定に向けた検討
・研究目的,方法を共有し,意見交換をする.
・対象者紹介までのプロセスや依頼方法を検討する.
[地区の教室を運営する役員からの意見]
・教室の場でインタビューはできないのか.自宅での個別インタビューには抵抗感がある.
・インタビューに加えて来年度以降のプログラムへの参加は長期間になるため,参加者に負担が生じる.負担についての説明も検討する必要がある.
■サロンの役員への研究依頼
・研究概要および目的を共有する.
・サロンの役員の大学への要望を共有する.
・サロンで研究の協力が可能であることを大学,保健師,役員で確認する.

〔研究協力にあたりサロン役員からの要望〕
・サロン活動を開始し5年以上が経過する.長く続けていくことを大切にしている.会を長続けることを前提にしているためで,いろいろな活動を手広く行うとサロンのメンバーはついていけない.いくつかのプログラムのパターンを決め,ローテーションできる活動内容を大学に希望する.
・研究者と地域の人たちの関係構築に向けた地区担当保健師のコーディネート
・キーパーソンに対する研究者の対面による研究の説明と依頼
・関係者や対象者の理解が得られるよう,地区担当保健師からの研究の補足説明
・地域の実情に合った対象者の募集,選定に向けた関係者からの具体的なアイデアの提示
・キーパーソンや対象者からの研究に対する否定的な意見も含めた率直な意見
②関係づくりも意図した研究対象者への研究依頼 ■ICTアプリケーション開発に関する対象者募集の周知
・関係機関が主催している教室に参加し,教室参加者の状況を把握する.
・教室参加者に対象者募集の周知をするが,参加者が少なかったため,さらなる方法を検討する.

■研究の進捗状況の共有および,インタビュー対象者のより良い募集方法についての検討
・対象者募集が難航している状況を共有する.
・地区の教室を運営する役員との関係づくり,教室参加者への依頼方法について協議し,アプローチ方法の可能性を探索する.
・地区の教室を運営する役員との打ち合わせの場を再度設定し,大学が関係づくりを兼ねて再度依頼することの必要性を共有する.
・インタビュー対象者数の目標数と調査期間を共有,確認する.

■地区の教室参加者へのインタビュー依頼に向けた具体的な方法についての検討
・参加者募集の方法について,大学から教室を運営する役員に相談し,対象者にあったより良い依頼方法を検討する.
・教室参加者の特徴を共有する.
・対象者募集の具体的な手順を共有,確認する.

■地区の教室参加者への社会活動プログラムのインタビューの依頼
・教室を運営する役員と参加者の募集方法を再検討し,対象者に適した方法,タイミングを協議する.
・研究者,保健師が教室に参加し,参加者とともにプログラムを行い,体験と時間を共有する.
・教室を運営する役員がつくった対象者募集の介入の糸口をもとに,研究者と保健師で共同して対象者の募集を行う.

■介護予防センター主催の教室にてICTアプリケーション開発に関する依頼
・教室のプログラムに参加し,体験と時間を共有する.
・アプリ開発に関する研究依頼のタイミングを介護予防センター相談員と協議する.
■サロンメンバーへの研究依頼
・研究の概要および目的を研究対象者と共有する.
・インタビューの依頼と次年度のプログラムを依頼し,依頼内容を共有する.

〔サロンメンバーの意見〕
・急な依頼であり,この場では決定できない.
・大学の人に話をするのは緊張する.
・長い時間をかけて活動を積み重ねてきた.この会がより良くなるのであればいいが,大学が関わることでどのように良くなっていくのかわからない.
・サロンは皆で気兼ねなくおしゃべりできる楽しい場である.大学が入ることで場が変わってしまう.

■サロンへの参加
・研究者がサロンの例会に参加し,健康教育とレクリエーションの時間をサロンメンバーと研究者が共有する.
・保健師とサロンの役員が研究実施に向け調整する

■社会活動プログラムに活用するICTアプリケーション開発に関する依頼
・サロン役員に研究概要および目的を共有する.
・サロン役員にアプリに関する研究を依頼する.
・キーパーソンや対象者からの研究に対する否定的な意見も含めた率直な意見
・豊富な実践経験を有する保健師の実践に基づく具体的な助言
・保健師と研究者の知恵を出し合う関係者へのアプローチ方法の検討
・保健師と対象者の信頼に基づく安定した関係性
・関係者や対象者の理解が得られるよう,地区担当保健師からの研究の補足説明
・対象者の特徴を理解したキーパーソンからの的確な助言
4.研究結果の報告と結果に基づいた研究のさらなる発展 ■関係機関への社会活動プログラムのインタビュー結果の報告
・インタビュー結果の概要を共有する.
・要支援高齢者の社会活動について意見交換を行う.

■社会活動プログラムのインタビュー結果の報告および,今後のプログラム実施についての相談
・大学がまとめたインタビュー結果の概要を共有する.
・大学,自治体それぞれの立場から結果に示された内容を解釈し,共有する.
・今後実施する社会活動プログラムに向け,対象者への研究依頼方法と手順を確認する.
・本プログラムの最終的な目的を再度確認,共有する.
・研究終了後のプログラムの将来的な運営,サポートについて協議する.
・地域の関係機関の連携の必要性を検討し,共有する.
■社会活動プログラムのインタビュー結果の報告および,今後のプログラム実施についての相談
・大学がまとめた調査結果の概要を共有する.
・大学,自治体それぞれの立場から結果に示された内容を解釈し,共有する.
・今後実施する社会プログラム実施に向けた,対象者への研究依頼方法と手順を確認する.
・対象者やサロンにとって研究を行う目的と意義を確認する.対象者にとっての研究の成果を検討する.
・本プログラムを研究のみで終らせるのではなく,研究終了後もサロンが継続して実践できるよう研究として介入していく必要性を確認する.
・研究対象となるサロンへの大学およびB町の関わり方を協議する.

■サロン役員への社会活動プログラムのインタビュー結果および,今後のプログラム実施についての相談
・大学をまとめた調査結果の概要を共有する.
・ICTアプリケーションに関する意見交換する.
・サロンへの今後の研究依頼について,実施可能性と具体的な依頼方法を検討する.
・次年度以降実施する研究について,内容と方法を検討する.
・大学と自治体にて改めて研究実施の目的や意図を共有
・研究の最終目的が住民の地域活動のサポートや健康維持・増進であることの再確認

1) 共同研究における目的の共有および,2)対象の選定と依頼に向けた具体的な検討

大学と自治体の連携では,まず,共同研究を実施する目的,意図を共有した.研究者は社会活動プログラムを地域の協力を得て開発し,高齢者のフレイル予防につなげていくことを目的とした.共同研究実施に向け,A市保健師は地区の高齢者のつながりを作り地区の健康課題である閉じこもりを解決すること,さらにその取り組みを将来的に地域全体に波及させることを意図し,B町保健師は高齢者サロン以外の日も参加者がつながることができるプログラムを地区に作り,さらに地区を超えたつながりを作ることを意図していた.

対象選定は地域の実情に合ったリクルート方法が必要であり,保健師のアイデアをもとに現実的で実践可能な方法が考案された.研究者と保健師は依頼に向け関係者や対象者へのかかわり方の手順やポイントを共有した.研究者がとらえた共同研究の推進要素は,《共同研究の目的や意図に関する研究者と保健師の対面による率直な意見交換》,《保健師の共同研究の目的が研究を活用した地域の健康課題の解決》等であった.

2) 一つずつのステップを大事にした段階を踏んだ研究依頼

人口規模の大きなA市は,高齢者の各種事業は委託していることから,対象者の紹介は委託機関を介して行う必要があった.Y氏のコーディネートにより研究者は関係者へ対面による研究依頼を行い,依頼の中で関係者より具体的なリクルート方法が提示された.

次に,Y氏,Z氏同席のもと,対象集団のキーパーソンへ対面による研究の相談と依頼が行われた.話し合いで,キーパーソンより研究の依頼方法や内容について否定的な意見を含めた率直な意見が出された.研究者がとらえた共同研究の推進要素は,《研究者と地域の人たちの関係構築に向けた地区担当保健師のコーディネート》,《キーパーソンに対する研究者の対面による研究の説明と依頼》,《関係者や対象者の理解が得られるよう,地区担当保健師からの研究の補足説明》等であった.

キーパーソンからの研究に対する否定的な意見を踏まえ,Y氏の上司である豊富な実践経験を有する保健師より助言を受けた.助言は,否定的な意見をそのままにせず,キーパーソンへ直接会うこと,そして短時間であっても対面にて説明と依頼を再度行うこと,その際には研究者とともにY氏や地域の関係者等,キーパーソンと日ごろから付き合いがあり関係構築ができている者が同席することで物事が良い方向へ進む等の内容であった.助言をもとに,対象者への研究依頼が行われた.

研究者とY氏,Z氏は対象者との関係づくりも意図してグループに参加し,その後,研究依頼が行われた.対象者からは研究内容について否定的な意見を含め,賛否両論の率直な意見が出された.ここで研究者がとらえた共同研究の推進要素は,《キーパーソンや対象者からの研究に対する否定的な意見も含めた率直な意見》,《豊富な実践経験を有する保健師の実践に基づく具体的な助言》,《保健師と研究者の知恵を出し合う関係者へのアプローチ方法の検討》,《保健師と対象者の信頼に基づく安定した関係性》等であった.

キーパーソンや対象者からの研究に対する否定的な意見に対応し,研究への理解を得ていくためにはY氏,Z氏のサポートが必須であった.また,Y氏,Z氏の同席により対象者の研究者に対する緊張感が緩和していた.

3) 研究結果の報告と結果に基づいた研究のさらなる発展

研究者は研究結果の報告をA市,B町の保健福祉課および,研究対象者の紹介を得た関係者やサロン役員に行った.研究報告の場面では,大学,自治体の各立場から結果に示された内容を解釈し,共有がなされた.また,次年度実施する集合型社会活動プログラムと交流アプリを用いた活動について打ち合わせがなされ,先を見据えた内容や方法が検討された.研究者がとらえた共同研究の推進要素は,《大学と自治体にて改めて研究実施の目的や意図を共有》,《研究の最終目的が住民の地域活動のサポートや健康維持・増進であることの再確認》であった.

3. 保健師がとらえた共同研究の推進要素

保健師がとらえた共同研究を推進させた要素は,15サブカテゴリ,7カテゴリであった.以下,【 】はカテゴリ,〈 〉はサブカテゴリ,「斜体」はデータを示す.

大学との共同研究の実施に向け,保健師は住民の理解を得ることを第一義的に考えていた.保健師は〈住民や関係機関と顔の見える関係を築いている〉,〈研究を地域活動に取り入れた意図を保健師自身の言葉で関係機関に伝える〉といった,【日ごろの活動に裏打ちされた関係機関との相互理解】が共同研究を促進させたと考えていた.

「地区活動が盛んなところに私が入らせてもらっていて.会う回数が多かったので,住民の方と関係性が築けてるんですけど.…中略…住民の方が私達の存在を理解してくれているところはあります.A市Y氏」

また,地域で研究を実施していくには,〈住民が自分たちにとって研究がプラスになることを理解するのが大切である〉,〈住民自身の活動に研究が有益であることを住民にも知ってもらいたい〉,〈住民の不信感軽減に向け,研究者が住民に幾度も直に会う〉,〈研究者が住民のもとに歩み寄り直接思いを伝える〉と語り,【研究の有益さに対する住民の理解の促し】が重要と保健師は考えていた.

「(研究を)何のためにやっているかっていうところが,(対象者は)きっと分かってないんじゃないかなっていうところはちょっとありますかね.…中略…それ(目的)が理解できてるかどうかによっても効果が変わってくるのかなっていう気も.B町Z氏」

共同研究の実施に向け,〈保健師が住民の実践の力を信じている〉と語り,【住民の実践力に対する保健師の厚い信頼】が存在していた.また,共同研究を受け入れたからには〈保健師も責任をもちこの研究に取り組む〉ことを決意し,【研究実施に対する自治体の保健師としての責任】を有していた.

「サロン役員の方がやっぱり力をかなり持っており,本当に持っていらっしゃるんで.そこが一番大きいところなんだと思います.B町Z氏」

「(共同研究は)私の地区活動でもあるので,私もこの研究をうまく成功させたいと思っている.…中略…私の考えも関係機関にわかってもらいたい.A市Y氏」

日ごろの保健師活動を通じ,保健師は〈元気に過ごすための取り組みをしている住民を後押ししたい〉,〈いつも保健師に協力をしてくれる住民へ恩返しをしたい〉と考え,【住民に対する感謝と貢献への思い】を有していた.

「会の方たちが元気に過ごすためにという思いで一生懸命頑張ってらっしゃるので,少しでもそこの力になれればっていうところでしょうかね,一番大きいところは.B町Z氏」

また,保健師は地区の健康課題や住民組織の課題をとらえ,〈地区の健康課題に対する有効な保健活動を実施したい〉,〈高齢者が持つ健康課題を何とか解決したい〉,〈大学との連携で地区や組織における住民の悩みを軽減したい〉と考え,【地域の健康課題解決に向けた揺るぎない熱意】を有していた.

「(高齢者の)閉じこもりを解決したい思いがあって.…中略…住民が力を高めて,早期に相談してくれるっていうのが大事かなと思い,住民が閉じこもりの人を作らないようにしようっていう気持ちを作ることの方が,閉じこもりの解決には.A市Y氏」

保健師は地域で展開する研究を,研究で終わらせるのではなく,住民の健康に還元していくことを常に考えていた.〈研究を今回だけで終らせず地域全体で役立てたい〉,〈研究で自主組織の活性化を目指す〉といった,【今後も見据えた研究成果の戦略的な活用】を考えていた.

「大学が研究で入っていただくと,グループを運営している役員さんやメンバーの方が,自分の健康づくりのためにこれを続けていくという意図が,けっこう明確になるのかなという思いもありました.…中略…新しい手法を取り入れながら,会も活性化していくところもあるので,町としても自主グループが継続していく1つの要素として大事.B町Z氏」

4. 公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因(表3

研究者と保健師がとらえた共同研究の推進要素をもとに,表3のとおり公衆衛生看護の共同研究を推進させた5つの要因を抽出した.要因のうち保健師と研究者の対等な関係性のなかでの目的共有は,研究者のみに見られた.

表3  公衆衛生看護の共同研究を推進させた要因
要因 共同研究の推進要素 研究者 保健師
保健師と研究者の対等な関係性のなかでの目的共有 共同研究の目的や意図に関する研究者と保健師の対面による率直な意見交換
保健師の共同研究の目的が研究を活用した地域の健康課題の解決
研究者と保健師共に研究実施に向けた明確な意図の存在
住民を第一義的にとらえる保健師の認識とそれに基づくコーディネート 研究者と地域の人たちの関係構築に向けた地区担当保健師のコーディネート
キーパーソンに対する研究者の対面による研究の説明と依頼
関係者や対象者の理解が得られるよう,地区担当保健師からの研究の補足説明
地域の実情に合った対象者の募集,選定に向けた関係者からの具体的なアイデアの提示
研究の有益さに対する住民の理解の促し
研究実施に対する自治体の保健師としての責任
住民や関係者から率直な意見の表出を可能にする,保健師の日々の活動を通じた住民との関係構築 保健師と対象者の信頼に基づく安定した関係性
キーパーソンや対象者からの研究に対する否定的な意見も含めた率直な意見
豊富な実践経験を有する保健師の実践に基づく具体的な助言
保健師と研究者の知恵を出し合う関係者へのアプローチ方法の検討
対象者の特徴を理解したキーパーソンからの的確な助言
日ごろの活動に裏打ちされた関係機関との相互理解
住民の実践力に対する保健師の厚い信頼
共同研究と地域の健康課題解決の方向性を一致させる目的の再共有 大学と自治体にて改めて研究実施の目的や意図を共有
研究の最終目的が住民の地域活動のサポートや健康維持・増進であることの再確認
今後も見据えた研究成果の戦略的な活用
保健師の保健師活動に対する熱意や認識 住民に対する感謝と貢献への思い
地域の健康課題解決に向けた揺るぎない熱意

IV. 考察

考察では,公衆衛生看護の共同研究を推進させた5つの要因を解釈し,今後,大学と自治体における共同研究を推進するための方策を述べる.

共同研究を推進させた要因の1つめに,保健師と研究者の対等な関係性のなかでの目的共有が挙げられる.連携は情報を共有し,同じ目的を認識することが重要である(斉藤,2014).また,取り組みに対する認識を両者で共通認識することや,互いに利点があることは協働関係形成の要素である(坪内ら,2011).本結果も,研究者,保健師が,共同研究における自身の目的や意図を明確にし,互いに共有することが共同研究を推進させた要因の1つであり,これが円滑な連携にもつながったといえる.また,共同研究の目的や意図の率直な意見交換は,パートナーシップを育むことにつながると考えられる.Community-Based Participatory Researchにおけるパートナーシップ形成には,話しやすい雰囲気や対等に参加できるような配慮,目的,目標,優先順位の決定等がある(安齋,2010).目的や意図に関する忌憚のない意見交換そのものが,パートナーシップ形成の一助になっていたと推察される.

共同研究を推進させた要因の2つめに,住民を第一義的にとらえる保健師の認識とそれに基づくコーディネートが挙げられる.平野ら(2008)は,対人支援における保健師の保健指導に対する認識を調査し,保健師が住民の健康と生活を重視し,住民一人ひとりの存在を大切にしていたことを報告している.保健師の住民を尊重する姿勢が,共同研究における研究者と住民の関係構築のコーディネートにつながっていたと考えられる.また,共同研究の特徴には,対象者が共同研究の意思決定に関与すること,合意された手続を通じて調査がなされること,行動を伴う変革的な探求に重点が置かれること(Heron et al., 2001)等がある.住民を第一義的にとらえる保健師の認識とそれに基づくコーディネートは,住民が意思をもって研究に参加できることを意味し,共同研究の推進で必要不可欠な要因といえる.また,住民に対する保健師の姿勢は,住民の健康づくりに直結する共同研究の推進につながり,その結果,保健師と研究者の協働関係が進展すると考えられる.

共同研究を推進させた要因の3つめに,住民や関係者から率直な意見の表出を可能にする,保健師の日々の活動を通じた住民との関係構築が挙げられる.新生児家庭訪問における保健師と母親の信頼関係構築に関する研究では,母親が保健師を受け入れる段階,感情を共有しあう段階,思いを表出する段階と発展していく(大西ら,2012)ことが報告されている.先述の先行研究は新生児家庭訪問における関係構築の技術を示しているが,新生児家庭訪問に限らず,保健師は公衆衛生看護活動全般において,対象者との信頼関係構築を行っているといえる.したがって,対象者等の信頼を基盤にした関係性や相互理解が,キーパーソンや対象者からの率直な意見の表出を可能にしたと考えられる.また,保健師は対象者等と相互理解がなされていたことで,研究者への具体的で的確な助言が可能であったといえる.

共同研究を推進させた要因の4つめに,共同研究と地域の健康課題解決の方向性を一致させる目的の再共有が挙げられる.看護系大学教員と行政保健師の共同研究の利点には,住民サービスの向上や健康指標の改善等がある(石丸ら,2011).本活動報告の保健師も,共同研究を活用した地域の健康課題解決の取り組みを検討していた.共同研究の目的や利点を研究者と保健師で定期的に再共有し,研究成果を地域の新たな活動へと反映させていくことが,公衆衛生看護の共同研究の推進に重要である.

共同研究を推進させた要因の5つめに,保健師の保健師活動に対する熱意や認識が挙げられる.地域における保健師の保健師活動に関する指針(厚生労働省,2013)にて,保健師は地区活動により住民や地域の健康課題を把握し,支援することが推進されている.本結果においても,保健師は日々の地区活動により地域を理解し,地域の健康課題を明確にしていたと考えられる.また,保健師の地区マネジメントには,地区への責任を基盤とした活動ビジョンの描きがある(石川ら,2018).保健師は地域の健康課題の解決を目指し,住民,関係者,研究者の関係構築を含め,共同研究を地域で展開するためのマネジメントを行い,加えて共同研究を地区活動に活用,反映させる発想を持ち合わせていたといえる.なお,これらの取り組みは保健師の熱意も関与していたと推察される.地区活動展開のプロセスの特徴に関する研究では,中心とする概念に「何とかしたい」があり,これが地区活動を展開する駆動力となっている(小島ら,2016).本結果においても,保健師は共同研究に対し「男性参加者のつながり,男性高齢者の閉じこもり予防にとりくみたい」,「高齢者サロン以外でのつながり,サロンを超えたつながりをつくりたい」という,地区全体への波及を意図していた.共同研究の推進には,保健師の地域や住民に対する思い,健康課題解決への熱意が重要であり,その思いが共同研究の推進につながっていると考えられる.

V. おわりに

大学と自治体との公衆衛生看護の共同研究の推進に向けたポイントを以下に示す.まず,研究者と保健師のパートナーシップの構築が挙げられ,それには研究目的の共有を重ねることが重要である.共同研究の初めの段階において,推進要因は研究者のみに示されていた.このことから,目的の共有では保健師が率直な意見が出せるよう,また研究に対する保健師の潜在的なニーズが表出されるよう,打ち合わせの場面展開で保健師への配慮が必要である.次に,地域の中で共同研究を行うには住民や関係者への説明と同意が必須であり,それには住民を第一義的にとらえる保健師の認識とコーディネートが有効である.このコーディネートは研究推進のカギとなるであろう.さらに,共同研究の推進には,保健師の日々の地区活動における地域の健康課題の把握と住民との関係構築が重要である.地域の健康課題は共同研究のテーマにもなり,保健師の熱意は共同研究を活用した地域での戦略的な取り組みを可能にすると考える.

本活動報告は大学が主体となり動いた共同研究であり,今回の取り組みは「大学と自治体が対等な立場で,共通の課題を研究として取り組む」ための初期の段階といえる.研究プロセスにおける協働を通じ次の段階に進むものと考えられる.

謝辞

本研究にご協力いただいたA市,B町の関係者の皆様に心より感謝申し上げます.

本研究は,科学研究費補助金(基盤研究B)[課題番号18H03103]により実施した研究の一部であり,本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
© 2021 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top