日本公衆衛生看護学会誌
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研究
行政機関に働く保健師の事業評価に対する重視度と実施度
―研修受講状況と経験年数群による比較―
森鍵 祐子赤間 由美小林 淳子
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2022 年 11 巻 1 号 p. 11-26

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Abstract

目的:行政機関に働く保健師の事業評価に対する重視度と実施度を,研修受講状況と保健師経験年数群の比較により明らかにする.

方法:山形県内の保健師全432名に,研修受講状況と事業評価に対する重視度と実施度に関する無記名自記式質問紙調査を行った.研修受講状況と経験年数群による重視度と実施度の差をMann-Whitney U検定で分析した.

結果:有効回答200名で,地域診断研修受講あり61.5%,施策形成研修受講あり44.5%,事業評価研修受講あり53.0%であった.重視度は概ね高かった.新任期は地域診断で,中堅期は地域診断と施策形成で,管理期は地域診断と事業評価で,研修受講ありはなしに比べ実施度が高い項目が複数あった.

考察:地域診断研修は各経験年数群で有意差が認められ,実施度を高めるのに有用と考えた.中堅期では施策形成を,管理期では事業評価の研修の活用が,事業評価の推進につながる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This survey aimed to clarify public health nurses’ (PHNs’) recognition and practice in program evaluation by comparing participation in training and career groups.

Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted with 432 PHNs in Yamagata Prefecture, Japan. The questionnaire included items that evaluated the recognized value of and practice resulting from programs. Recognition and practice differences between career and training groups were analyzed using the Mann-Whitney U test.

Results: Valid responses obtained from 200 participants were analyzed. Overall, 61.5% of PHNs participated in training in community diagnosis, 44.5% in policymaking, and 53.0% in program evaluation. Participants’ recognition of evaluating programs was generally high. Among novice PHNs, multiple items were reported to be significantly more frequent in practice by those who underwent training than by those who did not participate in training in community diagnosis. Among middle-level PHNs, multiple items were reported to be significantly more frequent in practice by those who underwent training than by those who had not participated in training in community diagnosis and policymaking. Among management-level PHNs, multiple items were reported to be significantly more frequent in practice by those who underwent training than by those who had not participated in training in policymaking and program evaluation.

Discussion: Significantly frequent participation in training in community diagnosis was reported in all career groups; the training was useful in increasing the frequency of practice in program evaluation. In terms of training for each career group, suggestions include focusing on policymaking at the middle level and program evaluation at the management level to increase the frequency of practice in program evaluation.

I. 緒言

保健師の活動対象となる地域や住民の変化に合わせて2013年に厚生労働省健康局長が通知した「地域における保健師の保健活動について」では,保健師の保健活動の基本的な方向性として地域診断に基づくPDCAサイクルの実施が示され,活動領域に関わらず保健活動について評価を行い,保健活動の効果を検証し,必要に応じて保健活動・事業等や施策に反映させることが求められている(厚生労働省,2013).行政機関で働く保健師が行う評価は政策体系に沿い,政策評価,施策評価,事業評価の3つの段階からなる(総務省,2015).政策評価は政策レビュー的な政策の評価,施策評価は複数の事業を束ねた,あるいは規模や金額の大きい施策の評価,事業評価はプロジェクトや事業の評価であり(山谷,2012),保健師が行う保健活動の評価の多くが事業評価に位置づく.

かねてから保健活動の評価は「Plan-Do-Check-Action」サイクルに組み込まれていると言われており(中板,2009),事業を展開するにあたって重要な位置づけとされてきた.しかし,先行研究によると実際の保健活動の場面では活発に取り組まれている市町村の健康増進・保健事業においてもPDCAサイクルの観点からは改善の余地があること(大曽ら,2020),評価のプロセスにおいて保健師が困難感を感じやすいこと(松下ら,2014佐伯ら,2006吉岡ら,2013)が明らかになっている.また,事業の実施まではできても評価が曖昧になっており(室岡ら,2017),事業を発展させていくような活用が十分ではないことから(中板,2009),PDCAサイクルの評価Checkと改善Actionを強化し,事業評価に係る専門能力を向上させることが課題である.

保健師の専門能力向上のために,現任教育として新任期・中堅期・管理期の階層別や分野別の各研修があり,保健事業のPDCAや地域診断に基づく事業の実施評価などの研修が開催されている(守田ら,2016).保健師に係る研修のあり方等に関する検討会の報告(厚生労働省,2016)において自治体保健師の標準的なキャリアラダーが示されたことにより,人材育成における各研修の位置づけが明確になり,有効に活用されることが期待されている.事業評価に係る専門能力は,キャリアレベルにより求められるレベルは異なるが,すべてのキャリアレベルで求められている能力であることから,能力向上のために効果的な研修の検討が必要である.

事業評価に係る専門能力を向上させるために,現在の専門能力の実態を把握すること,加えて専門能力を効果的に向上させる研修の検討が必要と考えるが,これまであまり明らかにされていない.一方で,標準的なキャリアラダーを用いた本邦初の調査(堀井ら,2019)では,保健師経験年数などの個人特性と保健師の能力に関連があることが示されている.さらに,地域診断の実施に研修受講や必要性の認識が影響すること(小川ら,2018)から,事業評価の実施状況と認識の度合いについて,事業評価に関連する研修受講状況と保健師経験年数とをあわせて検討していくことが,キャリアレベルを考慮した効果的な事業評価に関する研修と事業評価の推進につながると考えた.

そこで本研究は,行政機関に働く保健師の事業評価に対する重視度と実施度について,研修受講状況と保健師経験年数群の比較により明らかにすることを目的とした.

本研究では,認識の度合いを「重視度」とし,現時点での保健師活動を行ううえで大切と思う程度と定義した.また,実施状況を「実施度」とし,現時点での実施の程度と定義した.

II. 研究方法

1. 調査対象

山形県内の市町村および県に勤務する全保健師を対象とした.2019年4月1日の在籍保健師数に基づき対象者数を把握し,市町村366名,県・保健所66名の計432名を対象とした.対象市町村に保健所を設置する中核市1市を含むが,2019年に保健所を設置して間もないこと,ならびに1市のみであることから市町村に含めた.

2. 調査方法

郵送法による無記名自記式質問紙調査を行った.質問紙の配布は,各自治体の保健師代表者へ調査依頼文とともに対象人数分の調査依頼文,質問紙,返信用封筒を1名分ずつ組んで送付し,保健師代表者による対象者への配布を依頼した.対象者には自由意思による回答後,個別に返信用封筒による返送を求めた.

3. 調査期間

2020年2月から3月に実施した.

4. 調査内容

1) 対象者の属性

年齢,保健師経験年数(以下,経験年数),保健師国家試験受験資格取得機関,最高学歴,所属組織,現在の職位を尋ねた.

2) 研修の受講状況

事業評価を研修内容に含む地域診断,施策形成,事業評価の3つの研修をとりあげた.地域診断,施策形成に関する研修は,これまでの受講有無を尋ねた.事業評価に関する研修は,山形県内において2017年度から2019年度に研究者らが県保健所と協働で研修を行っていたことから,2017年度から2019年度の受講有無を尋ねた.

3) 事業評価に対する重視度と実施度

村山ら(19982000)が作成した保健婦階層別評価表80項目のうち,20項目を使用した.保健婦階層別評価表は,8の事業化プロセスについて17の能力に分類し,さらに80項目の実践内容を示した評価表であり,現在持っていると考えられる能力(現在評価)について到達度を評価するものである.本研究では,保健婦階層別評価表のうち,PDCAの評価Checkと改善Actionに該当する「事業の評価」10項目と「評価結果の活用」10項目の計20項目を用いた.本研究では,各項目について,重視度は「1 まったく大切と思わない」から「5 とても大切と思う」の5段階で,実施度は「1 まったく実施していない」から「5 頻繁に実施している」の5段階で尋ねた.

5. 分析方法

分析対象は,経験年数,事業評価に対する重視度ならびに実施度への回答欠損がないものとした.経験年数が1から5年の者を新任期,6から20年の者を中堅期,21年以上の者を管理期の3群に分類した.

対象者の属性,研修の受講状況,事業評価に対する重視度と実施度について記述統計を算出した.事業評価に対する重視度と実施度は順序尺度であるため,中央値を代表値として用いた.研修受講状況別の事業評価に対する重視度と実施度の差は,Mann-Whitney U検定にて分析し,有意差が認められた項目数を確認した.複数の項目で有意差が認められた場合,重視度と実施度を高める研修と判断した.さらに,検定の効果を表すp値はサンプルサイズによって変わるため(水本ら,2008),効果量rをMann-Whitney U検定の検定統計量からr=Z/N で求めた.効果量について,Cohenは0.10(小),0.30(中),0.50(大)を基準としていることから(水本ら,2008),本研究はこの基準をもとに効果量を判断した.統計解析には,IBM SPSS Statistics 28を用い,有意水準を5%とした.

6. 倫理的配慮

各自治体の保健師代表者および対象者へ,調査の目的,方法,自由意思のもとで無記名の調査を行うこと,協力の可否により不利益が生じることはないこと,データは統計的に処理するため個人が特定されないこと,データは適切に管理されること,調査結果は研究目的外では使用しないことを質問紙送付時に調査依頼文にて説明した.また,調査へ協力する場合のみ質問紙を提出し,質問紙提出後は無記名調査のため協力の撤回ができないことも調査依頼文にて説明した.本研究は,山形大学医学部倫理審査委員会の承認(承認番号2019-347,承認年月日2020年1月8日)を得て実施した.

III. 研究結果

1. 対象者の概要と研修受講状況

229名から回答が得られ(回収率53.0%),200名を分析対象とした(有効回答率46.3%).

対象者の平均年齢は42.5歳,平均経験年数は18.5年で,新任期37名(18.5%),中堅期72名(36.0%),管理期91名(45.5%)であった(表1).所属は県34名(17.0%),市町村166名(83.0%)であり,現在の職位は係員111名(55.5%)が最も多かった.

表1  対象者の属性と研修受講状況
  全体
N=200)
新任期
n=37)
中堅期
n=72)
管理期
n=91)
n (%) n (%) n (%) n (%)
年齢(歳)
平均±標準偏差 42.5±11.5 27.9±3.9 36.2±5.2 53.4±4.6
保健師経験年数(年)
平均±標準偏差 18.5±11.9 2.8±1.4 11.9±4.4 30.1±5.0
保健師国家試験受験資格取得機関
専門学校 105​ (52.5) 3​ (8.1) 16​ (22.2) 86​ (94.5)
短期大学専攻科 8​ (4.0) 0​ (0.0) 5​ (6.9) 3​ (3.3)
四年制大学 87​ (43.5) 34​ (91.9) 51​ (70.8) 2​ (2.2)
最高学歴
専門学校 95​ (47.5) 3​ (8.1) 15​ (20.8) 77​ (84.6)
短期大学専攻科 12​ (6.0) 0​ (0.0) 5​ (6.9) 7​ (7.7)
四年制大学 79​ (39.5) 33​ (89.2) 44​ (61.1) 2​ (2.2)
大学院前期課程 13​ (6.5) 1​ (2.7) 8​ (11.1) 4​ (4.4)
大学院後期課程 1​ (0.5) 0​ (0.0) 0​ (0.0) 1​ (1.1)
所属組織
34​ (17.0) 4​ (10.8) 14​ (19.4) 16​ (17.6)
市町村 166​ (83.0) 33​ (89.2) 58​ (80.6) 75​ (82.4)
現在の職位
係員 111​ (55.5) 37​ (100.0) 56​ (77.8) 18​ (19.8)
係長級 51​ (25.5) 0​ (0.0) 15​ (20.8) 36​ (39.6)
課長補佐級 28​ (14.0) 0​ (0.0) 1​ (1.4) 27​ (29.7)
課長級 9​ (4.5) 0​ (0.0) 0​ (0.0) 9​ (9.9)
無回答 1​ (0.5) 0​ (0.0) 0​ (0.0) 1​ (1.1)
地域診断研修
受講あり 123​ (61.5) 20​ (54.1) 48​ (66.7) 55​ (60.4)
受講なし 72​ (36.0) 16​ (43.2) 23​ (31.9) 33​ (36.3)
無回答 5​ (2.5) 1​ (2.7) 1​ (1.4) 3​ (3.3)
施策形成研修
受講あり 89​ (44.5) 9​ (24.3) 28​ (38.9) 52​ (57.1)
受講なし 106​ (53.0) 28​ (75.7) 43​ (59.7) 35​ (38.5)
無回答 5​ (2.5) 0​ (0.0) 1​ (1.4) 4​ (4.4)
事業評価研修
受講あり 106​ (53.0) 18​ (48.6) 41​ (56.9) 47​ (51.6)
受講なし 92​ (46.0) 19​ (51.4) 30​ (41.7) 43​ (47.3)
無回答 2​ (1.0) 0​ (0.0) 1​ (1.4) 1​ (1.1)

研修受講状況は,地域診断研修の受講あり123名(61.5%),施策形成研修の受講あり89名(44.5%),事業評価研修の受講あり106名(53.0%)であった.

2. 研修受講状況による事業評価に対する重視度と実施度

重視度は,回答者全体で中央値4(まあまあ大切と思う)が13項目,中央値5(とても大切と思う)が7項目であり,全項目で最大値が5であった(表2).「4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する」,「10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する」,「11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する」,「12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する」4項目は,最小値が1であり,まったく大切と思わない者もいた.研修受講状況別では,地域診断研修で「15 保健指導・健康教育に反映させる」1項目,事業評価研修で「7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る」など4項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が高く,効果量は小程度であった.施策形成研修では,いずれの項目も2群間に有意差は認められなかった.

表2  研修受講状況による事業評価に対する重視度
全体
N=200)
  地域診断研修       施策形成研修       事業評価研修    
受講あり
n=123)
受講なし
n=72)
受講あり
n=89)
受講なし
n=106)
受講あり
n=106)
受講なし
n=92)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 5 (3–5)   5 100 5 94 0.351 0.07   5 96 5 99 0.611 0.04   5 103 5 94 0.181 0.10
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 5 (2–5)   5 96 5 99 0.616 0.04   5 98 5 97 0.959 <0.01   5 99 5 99 0.932 0.01
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 5 (3–5)   5 99 5 97 0.787 0.02   5 99 5 97 0.849 0.01   5 97 5 102 0.498 0.05
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 4 (1–5)   4 95 4 101 0.423 0.06   4 95 4 100 0.476 0.05   4 99 4 98 0.896 0.01
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 5 (3–5)   5 101 5 94 0.325 0.07   5 93 5 102 0.165 0.10   5 104 5 95 0.198 0.09
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (3–5)   5 99 4 94 0.472 0.05   4 96 4 99 0.728 0.03   5 105 4 93 0.099 0.12
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 5 (3–5)   5 99 5 97 0.768 0.02   5 95 5 100 0.407 0.06   5 106 5 92 0.035 0.15
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 4 (3–5)   4 102 4 92 0.177 0.10   4 98 4 98 0.932 0.01   4 106 4 91 0.041 0.15
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 4 (2–5)   4 99 4 94 0.487 0.05   4 98 4 97 0.958 <0.01   4 101 4 97 0.608 0.04
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 4 (1–5)   4 100 4 95 0.479 0.05   4 101 4 96 0.520 0.05   4 103 4 95 0.312 0.07
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 4 (1–5)   4 102 4 89 0.071 0.13   4 104 4 92 0.099 0.12   4 104 4 93 0.135 0.11
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 4 (1–5)   4 101 4 94 0.387 0.06   4 98 4 98 0.989 <0.01   4 103 4 95 0.318 0.07
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (2–5)   4 101 4 90 0.153 0.10   4 100 4 94 0.439 0.06   4 106 4 90 0.037 0.15
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (2–5)   4 99 4 95 0.547 0.04   4 101 4 95 0.447 0.05   4 102 4 96 0.401 0.06
15 保健指導・健康教育に反映させる 5 (3–5)   5 104 4 87 0.018 0.17   5 99 5 97 0.825 0.02   5 107 5 91 0.030 0.15
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 4 (2–5)   4 98 4 98 0.923 0.01   4 95 4 100 0.474 0.05   4 101 4 98 0.713 0.03
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (2–5)   4 98 4 98 0.999 <0.01   4 96 4 100 0.619 0.04   4 105 4 93 0.093 0.12
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 5 (3–5)   5 103 5 90 0.070 0.13   5 101 5 96 0.436 0.06   5 106 5 93 0.055 0.14
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 4 (2–5)   4 99 4 97 0.799 0.02   4 94 4 101 0.376 0.06   4 104 4 95 0.247 0.08
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 4 (2–5)   4 97 4 99 0.842 0.01   4 92 4 103 0.120 0.11   4 102 4 97 0.509 0.05

1 まったく大切と思わない,2 あまり大切と思わない,3 どちらともいえない,4 まあまあ大切と思う,5 とても大切と思う

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

実施度は,回答者全体で中央値1(まったく実施していない)が2項目,中央値2(あまり実施していない)が1項目,中央値3(どちらともいえない)が6項目,中央値4(ときどき実施している)が11項目であった(表3).研修受講状況別では,地域診断研修で「1 住民や利用者の反応・満足度を把握する」など11項目,施策形成研修で「8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する」など7項目,事業評価研修で「18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる」など2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,効果量は小から中程度であった.一方,事業評価研修で「4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する」1項目において受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が低く,効果量は小程度であった.

表3  研修受講状況による事業評価に対する実施度
全体
N=200)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=123)
受講なし
n=72)
受講あり
n=89)
受講なし
n=106)
受講あり
n=106)
受講なし
n=92)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 4 (1–5)   4 105 4 87 0.013 0.18   4 99 4 97 0.763 0.02   4 106 4 92 0.037 0.15
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 4 (1–5)   4 107 4 83 0.002 0.22   4 103 4 94 0.271 0.08   4 99 4 100 0.879 0.01
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 4 (1–5)   4 104 3 86 0.026 0.16   4 105 4 91 0.078 0.13   4 97 4 102 0.485 0.05
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 3 (1–5)   3 102 3 89 0.107 0.12   3 101 3 95 0.416 0.06   3 90 3 109 0.016 0.17
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 4 (1–5)   4 102 4 90 0.128 0.11   4 102 4 94 0.299 0.07   4 102 4 96 0.422 0.06
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (1–5)   4 101 4 91 0.164 0.10   4 100 4 96 0.540 0.04   4 102 4 96 0.366 0.06
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 4 (1–5)   4 104 4 86 0.016 0.17   4 101 4 95 0.438 0.06   4 98 4 100 0.885 0.01
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 3 (1–5)   3 104 3 88 0.043 0.15   3 108 3 90 0.024 0.16   3 98 3 101 0.771 0.02
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 2 (1–5)   3 105 2 87 0.027 0.16   3 113 2 86 0.001 0.25   3 102 2 97 0.495 0.05
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 1 (1–4)   2 102 1 92 0.184 0.10   2 106 1 91 0.051 0.14   1 102 1 97 0.536 0.04
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 3 (1–5)   3 103 2 89 0.084 0.12   3 103 2 94 0.259 0.08   3 101 2 98 0.651 0.03
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 1 (1–4)   1 105 1 86 0.014 0.18   2 105 1 92 0.083 0.13   1 103 1 95 0.271 0.08
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (1–5)   4 99 4 97 0.803 0.02   4 107 3 90 0.032 0.15   4 100 4 99 0.818 0.02
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (1–5)   4 101 4 94 0.377 0.06   4 108 4 90 0.020 0.17   4 99 4 100 0.882 0.01
15 保健指導・健康教育に反映させる 4 (1–5)   4 110 4 78 <0.001 0.30   4 110 4 88 0.004 0.21   4 106 4 92 0.069 0.13
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 3 (1–5)   3 105 3 86 0.019 0.17   3 101 3 96 0.505 0.05   3 105 3 93 0.146 0.10
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (1–5)   4 101 4 93 0.315 0.07   4 108 3 89 0.013 0.18   4 101 4 98 0.737 0.02
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 4 (1–5)   4 106 4 85 0.005 0.20   4 106 4 91 0.036 0.15   4 106 4 92 0.048 0.14
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 3 (1–5)   3 104 3 88 0.054 0.14   3 98 3 98 0.959 <0.01   3 96 3 103 0.359 0.07
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 3 (1–5)   3 105 3 85 0.013 0.18   3 99 3 97 0.772 0.02   3 102 3 97 0.580 0.04

1 まったく実施していない,2 あまり実施していない,3 どちらともいえない,4 ときどき実施している,5 頻繁に実施している

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

3. 新任期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度と実施度

重視度は,地域診断研修で「11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する」1項目,事業評価研修で「6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する」,「7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る」2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が高く,効果量は中程度であった(表4).施策形成研修では有意差が認められた項目はなかった.

表4  新任期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度
新任期全体
n=37)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=20)
受講なし
n=16)
受講あり
n=9)
受講なし
n=28)
受講あり
n=18)
受講なし
n=19)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 5 (4–5)   5 20 ​5 17 0.251 0.19   5 21 ​5 18 0.385 0.14   ​5 18 5 20 0.382 0.14
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 5 (2–5)   5 19 ​5 18 0.507 0.11   5 19 ​5 19 0.905 0.02   ​5 20 5 19 0.645 0.08
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 5 (3–5)   5 20 ​5 17 0.226 0.20   5 21 ​5 18 0.373 0.15   ​5 18 5 20 0.350 0.15
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 4 (1–5)   4 20 ​4 17 0.450 0.13   4 20 ​4 19 0.644 0.08   ​4 19 4 19 0.876 0.03
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 5 (3–5)   5 18 ​5 19 0.923 0.02   5 19 ​5 19 1.000 <0.01   ​5 19 5 19 0.823 0.04
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 5 (3–5)   5 18 ​5 19 0.742 0.06   5 20 ​5 19 0.603 0.09   ​5 22 5 16 0.044 0.33
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 5 (4–5)   5 19 ​5 18 0.936 0.01   5 18 ​5 19 0.789 0.04   ​5 22 5 16 0.017 0.39
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 4 (4–5)   4 18 ​4.5 19 0.768 0.05   4 17 ​4.5 20 0.389 0.14   ​5 22 4 16 0.076 0.29
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 4 (3–5)   4 16 ​4 22 0.093 0.28   4 19 ​4 19 1.000 <0.01   ​4 19 4 19 1.000 <0.01
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 3 (1–5)   4 20 ​3 16 0.174 0.23   3 20 ​3.5 19 0.632 0.08   ​3 18 4 20 0.479 0.12
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 4 (1–5)   4 22 ​4 15 0.029 0.37   4 23 ​4 18 0.143 0.24   ​4 22 4 16 0.095 0.27
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 3 (1–5)   3 18 ​4 19 0.864 0.03   3 17 ​4 20 0.392 0.14   ​4 21 3 17 0.319 0.16
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (2–5)   4 20 ​4 17 0.434 0.13   4 21 ​4 18 0.368 0.15   ​4 22 4 17 0.110 0.26
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (3–5)   4 19 ​4 18 0.548 0.10   4 21 ​4 18 0.432 0.13   ​4 20 4 18 0.546 0.10
15 保健指導・健康教育に反映させる 4 (3–5)   5 20 ​4 16 0.185 0.22   5 21 ​4 18 0.537 0.10   ​4.5 19 4 19 0.891 0.02
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 4 (2–5)   4 17 ​4 20 0.345 0.16   4 21 ​4 19 0.556 0.10   ​4 18 4 20 0.448 0.13
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (3–5)   4 19 ​4 17 0.539 0.10   5 23 ​4 18 0.139 0.24   ​4 20 4 18 0.640 0.08
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 5 (3–5)   5 20 ​4 16 0.156 0.24   5 24 ​4 18 0.100 0.27   ​5 20 5 19 0.754 0.05
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 4 (2–5)   4 18 ​4 19 0.858 0.03   4 20 ​4 19 0.644 0.08   ​4 18 4 20 0.418 0.13
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 4 (2–5)   4 18 ​4 19 0.884 0.02   4 17 ​4 20 0.525 0.11   ​4 17 4 21 0.238 0.19

1 まったく大切と思わない,2 あまり大切と思わない,3 どちらともいえない,4 まあまあ大切と思う,5 とても大切と思う

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

実施度は,地域診断研修で「3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する」,「18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる」2項目,施策形成研修で「3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する」1項目において,受講ありは受講なしに比べて有意に実施度が高く,効果量は中程度であった(表5).「3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する」は,地域診断研修と施策形成研修の2つの研修で,受講ありは受講なしに比べて有意に実施度が高い項目であった.事業評価研修では有意差が認められた項目はなかった.

表5  新任期における研修受講状況別の事業評価に対する実施度
新任期全体
n=37)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=20)
受講なし
n=16)
受講あり
n=9)
受講なし
n=28)
受講あり
n=18)
受講なし
n=19)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 4 (2–5)   ​4 19 ​4 18 0.571 0.09   4 20 ​4 19 0.792 0.04   ​4 18 4 20 0.720 0.06
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 4 (2–5)   ​4 21 ​4 16 0.100 0.27   5 23 ​4 18 0.215 0.20   ​4 20 4 18 0.527 0.10
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 4 (2–5)   ​4 22 ​3 14 0.027 0.37   4 26 ​3.5 17 0.030 0.36   ​4 18 4 20 0.588 0.09
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 3 (1–4)   ​3 20 ​3 17 0.459 0.12   3 19 ​3 19 0.955 0.01   ​3 17 3 21 0.209 0.21
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 4 (2–5)   ​4 21 ​3.5 16 0.163 0.23   4 22 ​4 18 0.360 0.15   ​4 18 4 20 0.472 0.12
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (1–5)   ​4 20 ​4 17 0.291 0.18   4 21 ​4 18 0.483 0.12   ​4 18 4 20 0.667 0.07
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 4 (1–5)   ​4 21 ​3 15 0.068 0.30   4 19 ​4 19 0.911 0.02   ​3 17 4 21 0.182 0.22
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 3 (1–5)   ​3 20 ​2 17 0.403 0.14   3 20 ​3 19 0.729 0.06   ​3 17 3 21 0.364 0.15
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 2 (1–5)   ​2.5 19 ​2 17 0.542 0.10   3 22 ​2 18 0.409 0.14   ​2 16 3 21 0.143 0.24
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 1 (1–4)   ​1 20 ​1 16 0.228 0.20   1 20 ​1 19 0.838 0.03   ​1 17 1 20 0.326 0.16
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 2 (1–4)   ​2.5 20 ​2 17 0.449 0.13   3 23 ​2 18 0.182 0.22   ​2.5 19 2 19 0.850 0.03
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 1 (1–4)   ​2 21 ​1 15 0.058 0.32   2 23 ​1 18 0.146 0.24   ​1 17 1 20 0.334 0.16
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 3 (1–5)   ​3 19 ​2.5 17 0.576 0.09   4 22 ​2.5 18 0.341 0.16   ​2.5 18 3 20 0.432 0.13
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 3 (1–5)   ​3.5 19 ​3 18 0.908 0.02   3 15 ​4 20 0.149 0.24   ​3 18 4 20 0.414 0.13
15 保健指導・健康教育に反映させる 4 (1–5)   ​4 20 ​3.5 17 0.419 0.14   4 19 ​4 19 0.985 <0.01   ​3.5 17 4 21 0.208 0.21
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 3 (1–4)   ​3 19 ​3 18 0.676 0.07   2 15 ​3 20 0.207 0.21   ​2.5 17 3 21 0.214 0.20
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 3 (1–5)   ​3 19 ​3 18 0.740 0.06   4 23 ​3 18 0.203 0.21   ​2.5 17 3 21 0.289 0.17
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 4 (1–5)   ​4 22 ​3 14 0.016 0.40   4 21 ​4 18 0.423 0.13   ​4 20 4 18 0.501 0.11
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 3 (1–5)   ​3 19 ​3 18 0.631 0.08   3 17 ​3 20 0.418 0.13   ​3 16 3 21 0.138 0.24
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 3 (1–5)   ​3 20 ​3 17 0.289 0.18   3 18 ​3 19 0.727 0.06   ​3 17 3 21 0.242 0.19

1 まったく実施していない,2 あまり実施していない,3 どちらともいえない,4 ときどき実施している,5 頻繁に実施している

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

4. 中堅期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度と実施度

重視度は,地域診断研修で「4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する」1項目で,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が低く,効果量は小程度であった(表6).一方,事業評価研修で「5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す」1項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が高く,効果量は小程度であった.施策形成研修では有意差が認められた項目はなかった.

表6  中堅期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度
中堅期全体
n=72)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=48)
受講なし
n=23)
受講あり
n=28)
受講なし
n=43)
受講あり
n=41)
受講なし
n=30)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 5 (3–5)   5 35 5 38 0.479 0.08   5 34 5 38 0.292 0.13   5 36 5 36 0.823 0.03
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 5 (3–5)   5 34 5 40 0.133 0.18   5 36 5 36 0.911 0.01   5 35 5 37 0.566 0.07
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 5 (3–5)   5 34 5 40 0.225 0.14   5 36 5 36 0.868 0.02   5 35 5 38 0.412 0.10
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 4 (2–5)   4 33 5 43 0.029 0.26   4 34 4 37 0.553 0.07   4 36 4 36 0.933 0.01
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 5 (3–5)   5 37 5 33 0.296 0.12   5 35 5 37 0.589 0.06   5 39 5 31 0.042 0.24
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (3–5)   4 36 4 36 0.898 0.02   4 35 4 36 0.841 0.02   4 36 4 36 0.908 0.01
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 5 (3–5)   5 36 5 35 0.771 0.04   5 34 5 37 0.427 0.09   5 38 5 33 0.282 0.13
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 4 (3–5)   4 39 4 30 0.089 0.20   4 38 4 35 0.475 0.09   4 39 4 32 0.128 0.18
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 4 (2–5)   4 39 4 30 0.087 0.20   4 35 4 37 0.692 0.05   4 37 4 35 0.674 0.05
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 4 (2–5)   4 36 4 35 0.876 0.02   4 33 4 38 0.304 0.12   4 39 4 32 0.149 0.17
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 4 (2–5)   4 38 4 31 0.165 0.17   4 38 4 35 0.488 0.08   4 37 4 34 0.568 0.07
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 3 (1–5)   3 38 3 33 0.309 0.12   3 35 3 37 0.671 0.05   3 38 3 33 0.219 0.15
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (2–5)   4 35 4 36 0.784 0.03   4 34 4 36 0.695 0.05   4 36 4 36 1.000 <0.01
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (2–5)   4 36 4 35 0.989 <0.01   4 35 4 36 0.886 0.02   4 36 4 35 0.768 0.04
15 保健指導・健康教育に反映させる 5 (3–5)   5 37 5 33 0.387 0.10   5 33 5 38 0.281 0.13   5 39 5 33 0.155 0.17
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 4 (2–5)   4 37 4 34 0.456 0.09   4 35 4 36 0.833 0.03   4 37 4 35 0.755 0.04
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (2–5)   4 36 4 37 0.805 0.03   4 32 5 39 0.140 0.18   5 37 4 34 0.499 0.08
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 5 (3–5)   5 37 5 34 0.504 0.08   5 34 5 37 0.402 0.10   5 38 5 33 0.169 0.16
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 4 (3–5)   4 36 4 36 0.921 0.01   4 32 4 39 0.164 0.17   4 37 4 34 0.500 0.08
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 4 (3–5)   4 36 4 37 0.843 0.02   4 32 4 38 0.208 0.15   4 38 4 33 0.305 0.12

1 まったく大切と思わない,2 あまり大切と思わない,3 どちらともいえない,4 まあまあ大切と思う,5 とても大切と思う

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

実施度では,地域診断研修で「2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する」など5項目,施策形成研修で「13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する」など2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,効果量は小から中程度であった(表7).「15 保健指導・健康教育に反映させる」は,地域診断研修と施策形成研修の2つの研修で,受講ありは受講なしに比べて有意に実施度が高い項目であった.事業評価研修では有意差が認められた項目はなかった.

表7  中堅期における研修受講状況別の事業評価に対する実施度
中堅期全体
n=72)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=48)
受講なし
n=23)
受講あり
n=28)
受講なし
n=43)
受講あり
n=41)
受講なし
n=30)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する ​4 (2–5)   ​4 38 4 32 0.178 0.16   4 36 4 36 0.911 0.01   4 38 ​4 34 0.369 0.11
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する ​4 (1–5)   ​4 40 3 27 0.009 0.31   4 39 4 34 0.252 0.14   4 33 ​4 40 0.170 0.16
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する ​4 (1–5)   ​4 37 4 34 0.578 0.07   4 41 4 33 0.089 0.20   4 33 ​4 41 0.098 0.20
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する ​3 (1–5)   ​3 38 2 32 0.231 0.14   3 39 3 34 0.268 0.13   3 33 ​3 41 0.096 0.20
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す ​4 (1–5)   ​4 38 4 30 0.098 0.20   4 38 4 34 0.362 0.11   4 36 ​4 35 0.756 0.04
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する ​4 (2–5)   ​4 36 4 36 0.965 0.01   4 35 4 37 0.679 0.05   4 37 ​4 35 0.598 0.06
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る ​4 (2–5)   ​4 39 4 30 0.083 0.21   4 38 4 35 0.454 0.09   4 36 ​4 35 0.841 0.02
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する ​3 (1–5)   ​3 39 3 30 0.067 0.22   3 41 3 33 0.072 0.21   3 37 ​3 35 0.629 0.06
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する ​2 (1–5)   ​2.5 38 2 32 0.297 0.12   3 39 2 34 0.318 0.12   2 37 ​2 34 0.483 0.08
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する ​2 (1–4)   ​2 36 2 36 0.895 0.02   2 38 2 35 0.522 0.08   2 36 ​2 36 0.856 0.02
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する ​2.5 (1–5)   ​3 40 2 28 0.017 0.28   3 38 2 34 0.403 0.10   3 37 ​2 34 0.524 0.08
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する ​1 (1–4)   ​1 37 1 34 0.617 0.06   1 37 1 36 0.840 0.02   1 36 ​1 36 0.903 0.01
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する ​3 (1–5)   ​3 35 4 38 0.636 0.06   4 42 3 32 0.049 0.23   3 36 ​3.5 36 0.922 0.01
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する ​4 (1–5)   ​4 37 4 34 0.480 0.08   4 41 4 33 0.075 0.21   4 36 ​4 36 0.915 0.01
15 保健指導・健康教育に反映させる ​4 (1–5)   ​4 41 3 25 0.001 0.41   4 42 4 32 0.022 0.27   4 38 ​4 33 0.306 0.12
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する ​3 (1–5)   ​3 39 2 29 0.046 0.24   3 37 3 35 0.747 0.04   3 38 ​3 34 0.389 0.10
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる ​4 (1–5)   ​4 38 3 32 0.256 0.14   4 40 3 34 0.214 0.15   4 36 ​4 35 0.835 0.03
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる ​4 (1–5)   ​4 40 4 29 0.017 0.28   4 39 4 34 0.264 0.13   4 39 ​4 32 0.155 0.17
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する ​3 (1–5)   ​3 38 3 31 0.179 0.16   3 34 3 37 0.528 0.08   3 34 ​3 38 0.373 0.11
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する ​3 (1–5)   ​3 38 3 32 0.237 0.14   3 35 3 36 0.806 0.03   3 38 ​3 34 0.443 0.09

1 まったく実施していない,2 あまり実施していない,3 どちらともいえない,4 ときどき実施している,5 頻繁に実施している

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

5. 管理期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度と実施度

重視度は,事業評価研修で「1 住民や利用者の反応・満足度を把握する」,「13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する」2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が高く,効果量は小程度であった(表8).地域診断研修ならびに施策形成研修では有意差が認められた項目はなかった.

表8  管理期における研修受講状況別の事業評価に対する重視度
管理期全体
n=91)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=55)
受講なし
n=33)
受講あり
n=52)
受講なし
n=35)
受講あり
n=47)
受講なし
n=43)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 5 (4–5)   ​5 46 5 40 0.192 0.14   5 44 5 42 0.659 0.05   5 50 5 40 0.027 0.23
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 5 (3–5)   ​5 45 5 43 0.737 0.04   5 45 5 41 0.419 0.09   5 45 5 45 0.892 0.01
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 5 (3–5)   ​5 46 5 42 0.407 0.09   5 45 5 43 0.728 0.04   5 46 5 45 0.745 0.03
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 4 (3–5)   ​4 44 4 44 0.879 0.02   4 42 4 45 0.593 0.06   4 45 4 45 1.000 <0.01
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 5 (3–5)   ​5 46 5 43 0.580 0.06   5 42 5 47 0.320 0.11   5 46 5 45 0.802 0.03
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (3–5)   ​4.5 47 4 39 0.125 0.17   4 44 4 43 0.726 0.04   4 48 4 42 0.171 0.15
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 5 (3–5)   ​5 45 5 44 0.804 0.03   5 43 5 45 0.578 0.06   5 47 5 44 0.429 0.08
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 4 (3–5)   ​5 46 4 42 0.377 0.09   4 43 4 45 0.771 0.03   5 48 4 43 0.328 0.10
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 4 (2–5)   ​4 45 4 42 0.558 0.06   4 44 4 42 0.668 0.05   4 46 4 44 0.702 0.04
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 4 (2–5)   ​4 44 4 45 0.927 0.01   4 45 4 43 0.655 0.05   4 46 4 45 0.743 0.04
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 4 (3–5)   ​4 44 4 44 0.921 0.01   4 44 4 42 0.630 0.05   4 46 4 43 0.543 0.06
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 4 (1–5)   ​4 45 4 43 0.618 0.05   4 45 4 43 0.796 0.03   4 45 4 46 0.901 0.01
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (2–5)   ​4 47 4 38 0.066 0.20   4 44 4 42 0.705 0.04   4 50 4 39 0.025 0.24
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (3–5)   ​4 46 4 43 0.535 0.07   4 45 4 42 0.529 0.07   4 47 4 44 0.505 0.07
15 保健指導・健康教育に反映させる 5 (3–5)   ​5 48 4 39 0.072 0.19   5 45 5 42 0.484 0.08   5 49 4 41 0.083 0.18
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 4 (2–5)   ​4 44 4 45 0.959 0.01   4 41 4 49 0.094 0.18   4 47 4 44 0.538 0.07
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (3–5)   ​4 44 4 45 0.776 0.03   4 42 4 46 0.434 0.08   5 49 4 41 0.106 0.17
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 5 (3–5)   ​5 46 5 42 0.349 0.10   5 45 5 42 0.481 0.08   5 48 5 42 0.188 0.14
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 4 (3–5)   ​4 45 4 43 0.663 0.05   4 44 4 44 0.886 0.02   4 49 4 42 0.134 0.16
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 4 (2–5)   ​4 44 4 45 0.917 0.01   4 43 4 46 0.551 0.06   4 47 4 44 0.530 0.07

1 まったく大切と思わない,2 あまり大切と思わない,3 どちらともいえない,4 まあまあ大切と思う,5 とても大切と思う

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

実施度では,地域診断研修で「1 住民や利用者の反応・満足度を把握する」,「15 保健指導・健康教育に反映させる」2項目,施策形成研修で「9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する」1項目,事業評価研修で「16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する」など4項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,効果量は小から中程度であった(表9).「1 住民や利用者の反応・満足度を把握する」と「15 保健指導・健康教育に反映させる」は,地域診断研修と事業評価研修の2つの研修で,受講ありは受講なしに比べて有意に実施度が高い項目であった.

表9  管理期における研修受講状況別の事業評価に対する実施度
管理期全体
n=91)
  地域診断研修   施策形成研修   事業評価研修
受講あり
n=55)
受講なし
n=33)
受講あり
n=52)
受講なし
n=35)
受講あり
n=47)
受講なし
n=43)
Med (Min–Max) Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量 Med 平均ランク Med 平均ランク P 効果量
事業の評価
1 住民や利用者の反応・満足度を把握する 4 (1–5)   4 48 4 38 0.039 0.22   ​4 44 4 43 0.810 0.03   4 51 4 39 0.015 0.26
2 住民や利用者の健康状態の変化を把握する 4 (1–5)   4 47 4 40 0.137 0.16   ​4 45 4 43 0.759 0.03   4 47 4 43 0.418 0.09
3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する 4 (1–5)   4 47 3 39 0.168 0.15   ​4 44 4 43 0.981 <0.01   4 47 4 42 0.338 0.10
4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する 3 (1–5)   3 46 3 40 0.289 0.11   ​3 44 3 42 0.680 0.04   3 43 3 48 0.351 0.10
5 事業目標・プログラム内容・事業運営の是非を見直す 4 (1–5)   4 44 4 45 0.771 0.03   ​4 43 4 45 0.652 0.05   4 48 4 42 0.188 0.14
6 住民・利用者等からの聞き取りやアンケートを実施する 4 (1–5)   4 46 4 40 0.186 0.14   ​4 45 4 41 0.437 0.08   4 47 4 42 0.265 0.12
7 事業報告書をまとめ事業全体を振り返る 4 (1–5)   4 45 4 42 0.492 0.07   ​4 43 4 44 0.951 0.01   4 46 4 44 0.771 0.03
8 評価会議または事例検討会を開催し意見を把握する 3 (1–5)   3 46 3 41 0.336 0.10   ​3.5 46 3 41 0.367 0.10   3 45 3 46 0.867 0.02
9 県・保健所など広域的情報の中での評価を実施する 3 (1–5)   3 48 2 38 0.066 0.20   ​3 51 2 34 0.001 0.36   3 49 2 42 0.185 0.14
10 大学・研究機関等にデータ分析等の協力を依頼する 2 (1–4)   2 46 1 41 0.343 0.10   ​2 47 1 39 0.117 0.17   2 48 1 42 0.231 0.13
評価結果の活用
11 住民・対象者に広報や発表会等で報告する 3 (1–5)   3 44 3 46 0.765 0.03   ​3 43 3 46 0.588 0.06   3 45 3 46 0.875 0.02
12 内外の研究会・学会・専門雑誌等に発表する 2 (1–4)   2 48 1 38 0.051 0.21   ​2 46 1 41 0.360 0.10   2 51 1 40 0.031 0.23
13 地域の関係機関・関係者会議等に報告する 4 (1–5)   4 45 4 43 0.702 0.04   ​4 43 4 45 0.710 0.04   4 48 4 43 0.391 0.09
14 事業報告書等により行政組織の関係部署に報告する 4 (1–5)   4 46 4 42 0.504 0.07   ​4 48 4 39 0.081 0.19   4 47 4 44 0.646 0.05
15 保健指導・健康教育に反映させる 4 (1–5)   4 49 4 37 0.016 0.26   ​4 48 4 38 0.061 0.20   4 52 4 39 0.009 0.28
16 啓発用冊子や教育媒体を作成し配布する 3 (1–5)   3 47 3 40 0.185 0.14   ​3 45 3 42 0.550 0.06   3 51 3 40 0.042 0.21
17 地域の関係者との連携体制強化に役立てる 4 (1–5)   4 44 4 45 0.959 0.01   ​4 46 4 41 0.397 0.09   4 48 4 43 0.402 0.09
18 次年度以降の保健対策や,当該事業計画内容へ反映させる 4 (1–5)   4 45 4 44 0.800 0.03   ​4 46 4 41 0.381 0.09   4 48 4 43 0.261 0.12
19 保健師や職員の意識・行動への影響を検討する 3 (1–5)   3 47 3 40 0.189 0.14   ​3 45 3 43 0.643 0.05   3 46 3 44 0.706 0.04
20 関連の他事業の企画・実施への影響を検討する 3 (1–5)   4 48 3 38 0.057 0.20   ​3 44 3 43 0.827 0.02   3 48 3 43 0.393 0.09

1 まったく実施していない,2 あまり実施していない,3 どちらともいえない,4 ときどき実施している,5 頻繁に実施している

Med:中央値,Min:最小値,Max:最大値

Mann-Whitney U検定

効果量:0.10(小),0.30(中),0.50(大)

IV. 考察

1. 対象者の特徴と研修受講状況

2018年度の保健師の活動基盤に関する調査(日本看護協会,2019a)の平均通算経験年数16.7年,新任期22.2%,中堅期40.1%,管理期37.8%であった結果に比べると,本研究の分析対象者は経験年数が高く,管理期が多い集団であった.新任期の分析対象者が少ないため,結果の解釈に留意が必要である.

研修受講状況では,いずれの研修も回答者の半数程度が受講しており,研修受講ありが中堅期49.5%,管理期23.5%であった結果(日本看護協会,2019a)と比較して,研修受講の割合が高い集団であった.これは,対象とした山形県が,組織診断結果を活かした階層別研修会を開催していることや(日本看護協会,2019b),自治体保健師のキャリア形成支援事業(日本看護協会,2018)に協力している影響と考える.

2. 対象者全体における研修受講状況による事業評価に対する重視度と実施度

事業評価に対する重視度は概ね高く,保健活動における評価の重要性が認識されていると考える.重視度の最小値が1であった4項目は,経済的視点からの検討や大学・研究機関等への協力依頼,内外への報告・発表であり,事業評価において他者や他機関と協働することに対して重視度が低い者がいることが示された.

実施度では,中央値が「ときどき実施している」と「どちらともいえない」が多く,実施度を高める余地があることが示された.「事業の評価」に位置づく住民や利用者の状況のアセスメントや,担当者間の意見交換,事業実績の振り返り,報告書の作成,「評価結果の活用」に位置づく関係機関・部署への報告,保健指導や事業計画内容への反映等は実施度が相対的に高かった.本研究と同項目で市町村保健師の到達度を明らかにした関ら(2007)は,「事業の評価」は到達度が高いが,「評価結果の活用」は到達度が低いと示しており,日頃の保健活動を通しての事業の評価は一定程度実施できているが,評価結果を活用していくためのPDCAサイクルにおけるCheckとActionを今後強化していくことが課題と考える.

大学・研究機関等への協力依頼や内外の研究会・学会等への報告・発表では実施度が低い者がおり,これらの項目は重視度が低い者もいたことから,大学・研究機関等と協働して評価結果を活用するための分析を行い,関係機関・関係者間や研究会・学会等で発表・討議していくことが重要と考える.さらに,学会への参加や発表は,保健師の専門能力向上の視点から基盤として求められる能力とされている(地域保健に従事する人材の計画的育成に関する研究班,2016).2018年度の保健師の活動基盤に関する調査(日本看護協会,2019a)で学会発表している者が8.6%であったと示されていることから,学会発表の経験がある者が少ないと推察される.そのため,学会等で発表できる機会を都道府県内や保健所管内など身近に設けることにより,事業評価の一環として発表し,評価を行うことを重視し,実施につなげることができ,さらに保健師の基盤となる能力の向上にもつなげることができると考える.

さらに,研修受講状況により有意差が認められた項目数から,重視度よりも実施度の方が研修受講により相対的に度合いが高い項目数が多いことが示された.小川ら(2018)は地域診断の実施に影響する要因の一つとして研修受講をあげていることから,研修受講により具体的内容や方法が分かり,事業評価の実践につながっていると考えられる.また,研修受講により具体的内容や方法が分かることや他の受講者と共有することにより,自己効力感を高め,実施につながったことも考えられる.

事業評価研修において,対象者全体では受講ありの者は受講なしの者に比べて「4 事業実施状況等の効果を経済的視点から検討する」で有意に実施度が低かったが,各経験年数群では有意差が認められなかった.全体および各経験数群では,受講ありと受講なしの中央値はいずれも「どちらともいえない」であったため,研修受講の影響については今後の検討課題と考える.

3. 保健師経験年数群における研修受講状況と事業評価に対する重視度と実施度

重視度は,新任期では地域診断研修で1項目,事業評価研修で2項目,中堅期では事業評価研修で1項目,管理期では事業評価研修で2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に重視度が高く,いずれの経験年数群においても施策形成研修では有意差が認められた項目はなかった.いずれの項目も重視度が概ね高かったことから,2013年の「地域における保健師の保健活動について」通知(厚生労働省,2013)以降,基礎教育や現任教育において事業評価への理解が進み,保健活動における重要性が一定程度理解されていると考える.

実施度は,新任期では地域診断研修で2項目,施策形成研修で1項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,「3 住民や利用者の生活状態の変化を把握する」の項目が地域診断研修と施策形成研修に共通していた.中堅期では地域診断研修で5項目,施策形成研修で2項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,「15 保健指導・健康教育に反映させる」の項目が地域診断研修と施策形成研修に共通していた.管理期では,地域診断研修で2項目,施策形成研修で1項目,事業評価研修では4項目において,受講ありの者は受講なしの者に比べて有意に実施度が高く,「15 保健指導・健康教育に反映させる」の項目が地域診断研修と事業評価研修に共通していた.研修受講ありの者が受講なしの者に比べて有意に実施度が高かった項目数から,新任期では地域診断が,中堅期では地域診断もしくは施策形成研修が,管理期では地域診断もしくは事業評価研修が,複数の項目で実施度が高かったことから,より効果的に事業評価の実施度を高める可能性が示唆された.新任期では,地域診断研修の受講により,キャリアレベルA-1に求められる「地域の人々の健康課題を明らかにする」(保健師に係る研修のあり方等に関する検討会,2016)と同等レベルの到達に有用と考える.中堅期では,地域診断研修もしくは施策形成研修の受講により「評価結果の活用」において複数の実施度が高かったことから,PDCAサイクルのActionを促進するのに有用と考える.管理期では,他の経験年数群では有意差が認められなかった事業評価研修で有意差が認められていることから,事業評価研修により具体的な事業の評価や評価結果の活用につながると示唆された.

新任期,中堅期,管理期のいずれでも有意差が認められた地域診断研修は,経験年数群により有意差が認められた項目は異なるが,経験年数やキャリアラダーに関わらず事業評価の実施度を高めることに有用な研修と考える.地域診断は「地域診断・施策・評価のサイクル」として,施策化と評価とあわせて実施し,施策が正しいかどうかの評価を地域診断にフィードバックすることが示されている(水嶋ら,1997).また,鈴木ら(2014)は,施策化能力評価尺度の構成因子に含まれる地域診断サイクルは,健康課題の実態を把握し,地域において取り組むべき健康課題の明確化(地域診断)に基づくPlan-Do-SeeのプロセスやPDCAサイクルによって説明でき,自治体の政策形成能力を反映していると述べている.このことから,事業評価を研修内容に含む地域診断研修の受講は,地域診断の一連のプロセスのなかで事業評価をPDCAサイクルと合わせて理解でき,「事業の評価」と「評価結果の活用」の実施度が高いことにつながったと推測される.

以上より,地域診断研修を充実していくこと,階層別研修では,中堅期では施策形成研修を,管理期では事業評価研修を活用していくことが事業評価の重視度と実施度を高め,保健活動における事業評価を推進する可能性が示唆された.

4. 研究の限界と課題

本研究の回答者は研修参加の割合が高く,また,調査へ回答した者は研修参加や保健活動における事業評価を積極的に実施している可能性があり,データの偏りが考えられる.本調査では研修受講について受講時期や受講回数ならびに研修内容の詳細を尋ねていない.また,事業評価に関する研修のみ過去3年間の受講を尋ねたため,複数回の受講回数や受講時期,研修内容による影響については検証できていない.さらに,重視度と実施度について一時点での回答を分析した結果であるため,研修受講以外の要因の影響については今後の検討課題である.加えて,本研究では複数の項目で有意差が認められた場合に重視度と実施度を高める研修と判断したが,1項目のみで有意差が認められている研修があることや,項目間の関係性が検証されていないこと,項目の内容により研修受講の影響が異なる可能性が考えられることから,判断基準と項目間の関係性を検討していくことも今後の課題と考える.

V. 結語

事業評価に対する重視度は概ね高く,実施度は研修受講状況と保健師経験年数により差が生じることが明らかとなった.保健活動における事業評価を推進していくためには,地域診断研修を充実していくこと,階層別研修では,中堅期では施策形成研修を,管理期では事業評価研修を活用していくことが事業評価の推進につながる可能性が示唆された.

謝辞

本研究を実施するにあたり,ご協力くださいました山形県内保健師の皆様に心より感謝申し上げます.

本研究は第79回日本公衆衛生学会総会にて一部を発表した.

利益相反

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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