日本公衆衛生看護学会誌
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研究
放課後等デイサービス施設における防災行動の実態とその関連要因
日置 彩伽和泉 比佐子中山 貴美子
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2023 年 12 巻 1 号 p. 19-28

詳細
Abstract

目的:放課後等デイサービス施設の平常時における防災行動の実態とその関連要因を明らかにすることである.

方法:10府県888施設に質問紙調査を行い159件(17.9%)の回答を得た.5つの防災行動を従属変数としロジスティック回帰分析を実施した.

結果:防災行動の実施率は,耐震補強の実施(39.0%),施設内の整備(59.7%),被災用備蓄(45.9%),児童参加の防災訓練(84.9%),家族参加の防災訓練(15.1%)であった.防災行動と関連の見られた項目は,被災用備蓄と経済的ゆとり等,耐震補強の実施と施設の所有形態等,施設内の整備と施設の防災対応に関する家族の認識の把握等,児童参加の防災訓練実施と職員の勤続年数等,家族参加の防災訓練実施と常勤職員数等であった.

考察:防災行動促進のためには,防災対策見直しに向けた支援,金銭的支援,家族と連携した体制づくりが重要であることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: To identify disaster prevention behavior and related factors in after-school daycare facilities using information from facility staff.

Methods: A questionnaire survey was conducted in 888 daycare facilities in 10 prefectures in Japan. Logistic regression analysis was performed on 159 (17.9%) facilities with five disaster prevention behaviors as dependent variables.

Results: The implementation rate of disaster prevention behavior included the implementation of seismic reinforcements (39.0%), facility maintenance (59.7%), stockpiling for disasters (45.9%), conducting disaster prevention drills with child participation (84.9%), and conducting disaster prevention drills with family participation (15.1%). A relationship was found between “implemented seismic reinforcements” and facility ownership, ”between “facility maintenance” and establishing families’ awareness of the facilities’ disaster prevention measures,” and between “having stockpiled for disasters” and “economic leeway.” There was a relationship between “having conducted disaster prevention drills with child participation” and the length of staff service, and between “having conducted disaster prevention drills with family participation” and the number of full-time employees.

Consideration: It is important to support disaster prevention measures, provide financial support, and create a cooperative system with families to promote disaster prevention behavior.

I. 緒言

東日本大震災での犠牲者のうち,障害者手帳の所持者の死亡率は住民全体と比べて,約2倍高かった(東日本大震災女性支援ネットワーク,2014).これを受け現在,自治体による避難行動要支援者への対策が推進されており,なかでも災害直後の「避難支援」は多くの命を守るために重要である.松清(2012)は防災行動を災害が招く被害を軽減させるための行動や備えと定義している.岡本(2018)の研究では,避難行動要支援者が利用する施設において,災害発生直後に利用者をどのように安全に守るかの判断は個々の職員に任されていると指摘されており,平時から施設全体で防災行動に取り組むことは災害時,安全に行動するために重要である.支援者側の防災行動と関連しているのは,地域においては被災体験と防災観(黒川ら,2014)であると,また,介護保険施設や障害者自立支援施設職員においては地域コミュニティとの連携と法律による法的な義務付けの有無(竹之下ら,2018田原ら,2012)であると明らかにされている.

避難行動要支援者が利用する入所施設,通所施設それぞれにおいて以下の防災上の課題が明らかになっている.入所施設での課題として,障害者福祉施設では,利用者の障害に配慮した避難対策,継続的な職員指導や訓練と計画の見直し,行政,地域等との連携強化等(柄谷ら,2014)がある.また,障害児入所施設では,避難誘導する優先順位の判断,子供の安全確保,常時医療処置が必要な子供への対応,防災対策知識不足に対する困難(藤田ら,2012木村,2016)等が課題である.通所施設での課題として,高齢者デイサービス施設では,利用者家族との防災連携の強化,地震対応マニュアル活用の促進(塚本,2016)が明らかになっている.さらに,静岡県(2018)では,障害者福祉施設の入所施設,通所施設いずれにおいても,安否確認の手順,家族引き取り方法等について課題とされており,特に通所施設では,利用者が施設にいた場合の引き取り方法が明確でないことが課題であることを指摘している.

このように,通所施設と入所施設それぞれに応じた課題が明らかにされているものの,障害児の通所施設を対象とした研究は見当たらなかった.特に,障害児通所施設における安否確認の手順・家族引き取り方法等の防災対策の実態は明らかにされていない.また,障害児は余震の不安や環境の大きな変化に戸惑い,奇声をあげたり落ち着きなく走り回ったりする(井上ら,2012)こともあり,避難や児の安全の確保がより難しくなることが予想され,事前の防災対策の把握と充実がより重要である.

障害児の通所施設の中でも放課後等デイサービス施設は,生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進その他の便宜を供与することを目的とし,発達障害,知的障害,肢体不自由等様々な障害を持つ小学生から高校生を対象にサービスを提供している.2012年4月に児童福祉法に位置づけられた新たな支援であり,事業者数・利用者数共に最も多く,2015年度(8,352か所)~2017年度(11,302か所)まで大幅に増加している(厚生労働省,2017)施設である.利用児童の年齢や障害は多岐に渡り,災害時の避難や安全の確保が難しいことが予想される.しかし,事業者数も急増中にも関わらず,平常時からの防災対策の実態は明らかにされていない.そのため防災行動の実態や関連要因を明らかにする必要がある.

そこで本研究は,放課後等デイサービス施設において,平常時における防災行動の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

「防災」は内閣府(1961)を参考に,災害を未然に防止し,災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ,及び復旧を図ることとする.

「防災行動」は松清(2012)を参考に災害が招く被害を軽減させるための行動や備えとし,本研究では耐震補強の実施,施設内の震災に備えた整備,被災用備蓄,防災訓練の実施と操作的に定義する.

2. 対象

南海トラフ巨大地震により甚大な被害が想定される四国・近畿地方10府県のホームページに掲載されている2,272件の放課後等デイサービス施設(2018年7月時点)から,多段階抽出法で1,000件を抽出し,宛先不明等を除く888件の防災担当者または施設責任者を対象とした.

3. 調査方法

2018年12月から2019年2月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した.概念枠組みは図1に示したとおり,個人的要因のみならず個人の資源や周囲の環境といった社会的要因にも焦点を当てたモデルであるGreen et al.(2005)のプリシード・プロシードモデルの一部を用いた.このモデルにおいて,準備要因は,行動変容に先立つ要因であり行動に論理的根拠や動機を与えるもの,実現要因は行動や環境の変化に先立つ要因で,動機や環境政策の実現を可能にするもの.強化要因は,行動が起こった後に必要な要因で,行動が継続し,繰り返されるように持続的に報酬やインセンティブを与えるものである.通所施設における防災行動に関連する要因を明らかにするためには個人の資源や周囲の環境も含めて検討する必要があると考え,本モデルを用いた.質問項目は,対象者の属性7項目,利用者の属性2項目,防災行動5項目,準備要因16項目,実現要因4項目,強化要因6項目,環境要因6項目の,計46項目で構成した.

図1 

概念枠組

1) 対象者・利用者の属性

対象者の属性は,性別,年代,被災体験の有無,福祉施設職員としての勤続年数,勤続年数(現施設),防災担当年数,所有資格を,利用者の属性は,医療的ケアが必要な児童の有無,児童の障害種別を尋ねた.児童の障害種別は,厚生労働省(2016)を参考に,「知的障害」,「発達障害」,「肢体不自由」等を選択肢とし複数回答とした.

2) 環境要因

内閣府の防災に関する世論調査(2017a)を参考に施設の所有形態は「自己・法人等の所有」,「賃貸」,建築形態は「一戸建て」,「共同住宅(2階建てまで)」,「共同住宅(3階建て以上)」で尋ねた.想定される震度は「震度7以上」~「震度4以下」,「わからない」で,想定される被害状況は「津波,浸水,堤防の決壊」等から複数回答で尋ねた.また,常勤職員数,非常勤職員数についても尋ねた.

3) 防災行動

前述の世論調査(2017)を参考に,耐震補強の実施は「耐震補強工事済み等すでに耐震性がある」,「1年以内に実施する予定がある」,「1年以内ではないが実施する予定がある」,「予定はないがいずれ実施したい」,「実施するつもりはない」で尋ねた.施設内の震災に備えた整備は塚本(2016)を参考に,家具転倒防止実施状況や高所への物品配置改善とし,「出来ている」,「出来ていない」で尋ねた.被災用備蓄は「出来ている」~「出来ていない」の4件法で,児童参加,家族参加の防災訓練実施については「している」,「していない」の2件法で尋ねた.

4) 準備要因

福祉避難所の認識は,内閣府の避難に関する実態調査報告書(2013)を参考に福祉避難所の知識「どういうものか知っている」,「どういうものか知らない」と,福祉避難所の場所に関する知識「どこにあるのか知っている」,「どこにあるのか知らない」で尋ねた.塚本(2016)を参考に震災リスク要因(施設周辺)に対する認識(ハザードマップによる災害履歴,地震被害想定等),震災リスク要因(施設)に対する認識(施設の耐震性等)を「把握している」~「把握していない」の4件法で尋ねた.被災時に対応した利用者情報の収集と管理,公的連絡先の掲示を「出来ている」~「出来ていない」,防災行動をとることの重要性の認識を「重要だと思う」~「重要だと思わない」の4件法で尋ねた.また,防災意識を測るために島崎ら(2017)の防災意識尺度を用いた.尺度は20項目からなり,「とてもよくあてはまる」~「まったくあてはまらない」の6件法で尋ね,Aスコア(被災状況に対する想像力),Bスコア(災害に対する危機感),Cスコア(他者指向性),Dスコア(災害に対する関心),Eスコア(不安),総合得点(防災意識の全体的な水準)を算出し防災意識を評価する.防災行動のきっかけは,内閣府(2017a)を参考に「テレビ」,「ラジオ」等から複数回答を求めた.

5) 実現要因

減災に向けた協定締結の有無は行政,同種施設,地元自治会それぞれについて塚本(2016)を参考に「している」,「していない」で尋ねた.緊急連絡先の施設内での周知は「出来ている」~「出来ていない」の4件法で,震災対応マニュアルの有無は「有」,「無」で,経済的ゆとり,時間的ゆとりは「ある」~「ない」の4件法で尋ねた.

6) 強化要因

災害時対応や減災への取り組みに関する家族への伝達,施設の地震防災対応,減災の取り組みに関する家族の認識の把握,発災時の職員確保は,塚本(2016)を参考に「出来ている」~「出来ていない」の4件法で尋ねた.

4. 分析方法

4件法で尋ねた項目は,肯定と否定の2群に分け,耐震補強の実施は,「耐震補強工事済み等すでに耐震性がある」を「有」,その他の選択肢を「無」とし,防災行動5項目を従属変数として連続変数に対しMann-WhitneyのU検定を,カテゴリ変数に対しχ2検定,Fisherの正確確率検定を行った.関連の見られた項目について単変量解析を行い,5つの防災行動を従属変数として有意差のあった項目を独立変数として各々ロジスティック回帰分析を実施した.なお,独立変数間で相関係数を算出したところ全て0.8以下であり,多重共線性が認められないことを確認した.解析にはSPSS for Windows 25を用い,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

対象者には,研究目的や個人情報保護について文書にて説明し,質問紙の同意の項目へのチェックと返送をもって同意を得たものとした.文書には,無記名での調査であり質問紙投函後,同意撤回が出来ないこと,研究参加は対象者の自由意思によるものであることを記載した.神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を受け実施した(承認日:2018年11月8日,承認番号784).

III. 研究結果

回収した164件(回収率18.5%)のうち,有効回答は159件(有効回答率17.9%)であった.

1. 対象者・利用者の属性・環境要因・防災行動

対象者・利用者の属性,環境要因・防災行動について表1に示した.女性81名(50.9%),男性76名(47.8%)であり,福祉施設職員としての平均勤続年数15年,医療的ケアが必要な児がいる施設は37施設(23.3%)であった.所有形態は賃貸が117施設(73.6%),建築形態は一戸建てが75施設(47.2%),常勤職員数の平均値±標準偏差は5.0±3.7人であった.

表1  対象者の属性・利用者の属性・環境要因・防災行動(N=159)
項目 内訳 n %
対象者の属性 性別 76​ 47.8
81​ 50.9
無回答 2​ 1.3
年代 20代 7​ 4.4
30代 49​ 30.8
40代 51​ 32.1
50代 36​ 22.6
60代 14​ 8.8
無回答 2​ 1.3
被災体験の有無 59​ 37.1
99​ 62.3
無回答 1​ 0.6
福祉施設職員としての勤続年数 平均値±標準偏差 15.21±9.58
中央値(範囲) 13.50(2–45)
勤続年数(現施設) 平均値±標準偏差 5.61±4.22
中央値(範囲) 5.00(0.5–25)
防災担当年数 平均値±標準偏差 3.79±3.31
中央値(範囲) 3.00(0–25)
所有資格注1) 介護福祉士 39​ 24.5
保育士 32​ 20.1
教員免許 14​ 8.8
児童発達支援管理責任者 9​ 5.7
その他 33​ 20.8
なし 19​ 11.9
無回答 13 8.2
利用者の属性 医療的ケアが必要な児童の有無 いる 37​ 23.3
いない 122​ 76.7
児童の障害種別(n=158)注2) 知的障害 144​ 91.1
発達障害 141​ 89.2
肢体不自由 69​ 43.7
聴覚障害 41​ 25.9
視覚障害 29​ 18.4
その他 102​ 64.6
環境要因 施設の所有形態 自己または法人等の所有 42​ 26.4
賃貸 117​ 73.6
施設の建築形態 一戸建て 75​ 47.2
共同住宅(2階建てまで) 21​ 13.2
共同住宅(3階建て以上) 59​ 37.1
無回答 4​ 2.5
常勤職員数 平均値±標準偏差 5.01±3.74
中央値(範囲) 4.00(2–30)
非常勤職員数 平均値±標準偏差 5.40±4.51
中央値(範囲) 4.00(0–30)
想定される震度 震度7以上 8​ 5.0
震度6強 31​ 19.5
震度6弱 22​ 13.8
震度5強 22​ 13.8
震度5弱 2​ 1.3
震度4以下 5​ 3.1
わからない 66​ 41.5
無回答 3​ 1.9
想定される被害状況(n=156)注3) 津波,浸水,堤防の決壊 72​ 46.2
土砂崩れ,崖崩れ 17​ 10.9
地割れ,陥没,液状化現象 46​ 29.5
火災の発生やガス等の危険物の爆発 77​ 49.4
建物の倒壊 104​ 66.7
家具・家電などの転倒 107​ 68.6
その他 2​ 1.3
防災行動 耐震補強の実施 している 62​ 39.0
していない 97​ 61.0
施設内の震災に備えた整備 出来ている 95​ 59.7
出来ていない 64​ 40.3
被災用備蓄 出来ている 73​ 45.9
出来ていない 86​ 54.1
児童参加の防災訓練の実施 している 135​ 84.9
していない 24​ 15.1
家族参加の防災訓練の実施 している 24​ 15.1
していない 135​ 84.9

注1)所有資格は複数回答のうち「医療」「福祉」「教育」の資格を優先的に1つを選択して集計

注2)児童の障害種別は複数回答

注3)想定される被害状況は複数回答

耐震補強の実施は62施設(39.0%)で実施済みであり,被災用備蓄は,73施設(45.9%)で出来ており,135施設(84.9%)が児童参加の防災訓練を実施,家族参加の防災訓練は,24施設(15.1%)が実施していた.

2. 準備要因・実現要因・強化要因

準備要因・実現要因・強化要因について表2に示した.準備要因では「公的連絡先の掲示が出来ている」は54施設(34.0%)であった.「実現要因では経済的にあまりゆとりがない」が80施設(50.3%),「強化要因では家族の認識の把握があまり出来ていない」が79施設(49.7%)であった.また表には示していないが,防災意識尺度得点の平均値±標準偏差,中央値はAスコア(15.98±3.2, 16),Bスコア(19.33±2.72, 19),Cスコア(16.43±3.83, 16),Dスコア(17.53±2.65, 18),Eスコア(15.34±3.49, 15.5),総合得点(84.6±9.6, 84)であった.

表2  準備要因・実現要因・強化要因(N=159)
項目 内訳 n %
準備要因 避難所までの避難経路の確認 している 142​ 89.3
していない 17​ 10.7
自治体が定めた指定避難場所の確認 している 153​ 96.2
していない 6​ 3.8
福祉避難所の知識 福祉避難所がどういうものか知っている 116​ 73.0
福祉避難所がどういうものか知らない 43​ 27.0
福祉避難所の場所に関する知識 福祉避難所がどこにあるのか知っている 88​ 55.3
福祉避難所がどこにあるのか知らない 71​ 44.7
震災リスク要因(施設周辺)に対する認識 把握している 61​ 38.4
まあ把握している 73​ 45.9
あまり把握していない 19​ 11.9
把握していない 6​ 3.8
震災リスク要因(施設)に対する認識 把握している 38​ 23.9
まあ把握している 77​ 48.4
あまり把握していない 38​ 23.9
把握していない 5​ 3.1
無回答 1​ 0.6
被災時に対応した利用者情報の収集と管理 出来ている 33​ 20.8
まあ出来ている 73​ 45.9
あまり出来ていない 30​ 18.9
出来ていない 9​ 5.7
無回答 14​ 8.8
公的連絡先の掲示 出来ている 54​ 34.0
まあ出来ている 68​ 42.8
あまり出来ていない 31​ 19.5
出来ていない 5​ 3.1
無回答 1​ 0.6
防災行動をとることの重要性の認識 重要だと思う 123​ 77.4
まあ重要だと思う 20​ 12.6
無回答 16​ 10.1
防災行動のきっかけ(n=154)(複数回答) テレビ 82​ 53.2
ラジオ 34​ 22.1
新聞 37​ 24.0
雑誌・書籍 10​ 6.5
国や地方公共団体などのパンフレット 39​ 25.3
防災訓練・避難訓練 106​ 68.8
防災に関する展示会・講演会・セミナー 38​ 24.7
防災情報のホームページ・アプリ等の情報 28​ 18.2
Twitter・Facebookなどの情報 10​ 6.5
地域の会合 17​ 11.0
防災ボランティア 9​ 5.8
勤務先 29​ 18.8
家族・知人 11​ 7.1
その他 15​ 9.7
実現要因 地域協定締結(行政) している 25​ 15.7
していない 130​ 81.8
無回答 4​ 2.5
地域協定締結(同種施設) している 18​ 11.3
していない 137​ 86.2
無回答 4​ 2.5
地域協定締結(地元自治会) している 26​ 16.4
していない 131​ 82.4
無回答 2​ 1.3
緊急連絡先の施設内での周知 出来ている 62​ 39.0
まあ出来ている 80​ 50.3
あまり出来ていない 13​ 8.2
出来ていない 4​ 2.5
経済的ゆとり ゆとりがある 10​ 6.3
ややゆとりがある 23​ 14.5
あまりゆとりがない 80​ 50.3
ゆとりがない 40​ 25.2
無回答 6​ 3.8
時間的ゆとり 十分にある 6​ 3.8
まあ十分にある 52​ 32.7
あまり十分にない 91​ 57.2
十分にない 7​ 4.4
無回答 3​ 1.9
震災対応マニュアルの有無 ある 123​ 77.4
ない 36​ 22.6
強化要因 災害時対応や減災への取り組みに関する家族への伝達 出来ている 28​ 17.6
まあ出来ている 64​ 40.3
あまり出来ていない 56​ 35.2
出来ていない 10​ 6.3
無回答 1​ 0.6
施設の地震防災対応,減災への取り組みに関する家族の認識の把握 出来ている 11​ 6.9
まあ出来ている 54​ 34.0
あまり出来ていない 79​ 49.7
出来ていない 14​ 8.8
無回答 1​ 0.6
発災時の職員確保 出来ている 22​ 13.8
まあ出来ている 78​ 49.1
あまり出来ていない 51​ 32.1
出来ていない 5​ 3.1
無回答 3​ 1.9

3. 防災行動の関連要因

単変量解析では,「耐震補強の実施」は4項目,「施設内の整備」は7項目,「被災用備蓄」は13項目と関連が見られた.「児童参加の防災訓練実施」は2項目,「家族参加の防災訓練実施」は2項目と関連が見られた.各防災行動と関連が見られた項目については表3の脚注に示したとおりである.

表3  従属変数(5項目)と各関連の見られた独立変数とのロジスティック回帰分析結果(変数増加法)
従属変数 独立変数 内訳 オッズ比 95%信頼区間 P
耐震補強の実施 施設の所有形態 賃貸 1.000 3.284–18.026 <0.001
自己・法人の所有 7.649
公的連絡先の掲示 出来ていない 1.000 1.034–8.846 0.043
出来ている 3.024
Aスコア 1.148 1.007–1.308 0.038
施設内の震災に備えた整備 公的連絡先の掲示 出来ていない 1.000 1.941–11.247 0.001
出来ている 4.672
家族の認識の把握 出来ていない 1.000 1.260–6.248 0.012
出来ている 2.806
被災用備蓄 震災リスク要因(施設)に対する認識 把握していない 1.000 1.873–11.674 0.001
把握している 4.676
震災対応マニュアルの有無 1.000 1.533–13.828 0.007
4.604
経済的ゆとり ゆとりがない 1.000 1.235–8.100 0.016
ゆとりがある 3.163
児童参加の防災訓練実施 福祉施設職員としての勤続年数 0.941 0.900–0.983 0.007
緊急連絡先の施設内での周知 出来ていない 1.000 1.059–12.353 0.040
出来ている 3.617
家族参加の防災訓練実施 常勤職員数 1.144 1.027–1.274 0.015
施設の建築形態 一戸建て 1.000 1.051–7.281 0.039
共同住宅 2.766

注1)従属変数について,している=1,していない=0とした

注2)耐震補強の実施では,「医療的ケアが必要な児童の有無」,「施設の所有形態」,「公的連絡先の掲示」,「Aスコア」を投入した

注3)施設内の震災に備えた整備では,「公的連絡先の掲示」,「震災リスク要因(施設)に対する認識」,「発災時の職員確保」,「時間的ゆとり」,「(災害時対応や減災への取り組みに関する)家族への伝達」,「(施設の地震防災対応,減災への取り組みに関する)家族の認識の把握」を投入した

注4)被災用備蓄では,「震災リスク要因(施設周辺)に対する認識」,「震災リスク要因(施設)に対する認識」,「震災対応マニュアルの有無」,「福祉避難所の知識」,「福祉避難場所の知識」,「Aスコア」,「経済的ゆとり」,「発災時の職員確保」,「時間的ゆとり」,「緊急連絡先の周知」,「(災害時対応や減災への取り組みに関する)家族への伝達」,「(施設の地震防災対応,減災への取り組みに関する)家族の認識の把握」を投入した

注5)児童参加の防災訓練実施は,「福祉施設職員としての勤続年数」,「緊急連絡先の施設内での周知」を投入した

注6)家族参加の防災訓練実施は,「常勤職員数」,「施設の建築形態」を投入した

注7)HosmerとLemeshowの検定結果は「耐震補強の実施」でP=0.362,「施設内の震災に備えた整備」でP=0.849,「被災用備蓄」でP=0.861,「児童参加の防災訓練実施」でP=0.956,「家族参加の防災訓練実施」でP=0.757であった

単変量解析後,ロジスティック回帰分析を実施した結果,明らかになった防災行動との関連要因について表3に示した.「耐震補強の実施」と関連が見られたのは,環境要因:自己または法人等の所有であること(OR: 7.649, 95%CI: 3.284–18.026, P=<0.001),準備要因:公的連絡先の掲示が出来ていること(OR: 3.024, 95%CI: 1.034–8.846, P=0.043),準備要因:Aスコアが高いこと(OR: 1.148, 95%CI: 1.007–1.308, P=0.038)であった.「施設内の震災に備えた整備」と関連が見られたのは,準備要因:公的連絡先の掲示が出来ていること(OR: 4.672, 95%CI: 1.941–11.247, P=0.001),強化要因:施設の地震防災対応や減災への取り組みに関する家族の認識の把握が出来ていること(OR: 2.806, 95%CI: 1.260–6.248, P=0.012)であった.「被災用備蓄」と関連が見られたのは,準備要因:震災リスク要因(施設)を把握していること(OR: 4.676, 95%CI: 1.873–11.674, P=0.001),実現要因:震災対応マニュアルがあること(OR: 4.604, 95%CI: 1.533–13.828, P=0.007),実現要因:経済的ゆとりがあること(OR: 3.163, 95%CI: 1.235–8.100, P=0.016)であった.「児童参加の防災訓練実施」と関連が見られたのは,対象の属性:福祉施設職員としての勤続年数の短さ(OR: 0.941, 95%CI: 0.900–0.983, P=0.007)と実現要因:緊急連絡先を周知出来ていること(OR: 3.617, 95%CI: 1.059–12.353, P=0.040)であった.「家族参加の防災訓練実施」と関連が見られたのは,環境要因:常勤職員数が多いこと(OR: 1.144, 95%CI: 1.027–1.274, P=0.015),環境要因:施設の建築形態が共同住宅であること(OR: 2.766, 95%CI: 1.051–7.281, P=0.039)であった.

IV. 考察

1. 対象と防災行動について

児童の障害は知的障害,発達障害,肢体不自由の順で多く,厚生労働省(2016)の障害福祉サービスを対象とした調査結果と同様であった.藤田ら(2012)は,知的障害児には災害発生や避難の必要性が伝わらず,指示に従って動けないため避難が困難であると述べている.施設において,知的障害児の利用が最も多かったことから,発災に備え平常時からの避難訓練の実施は重要であるといえる.本研究では,福祉施設職員としての勤続年数が短い程,児童参加の防災訓練を実施していた.過去1年間における訓練の実施を尋ねたため,訓練経験の少ない新任職員が優先的に訓練に参加していた可能性があるが,なぜこのような結果となったのか本研究では明らかに出来なかった.

高齢者デイサービス施設を対象とした塚本(2016)の調査では,7割半ばの施設が被災用備蓄を出来ていたが,本研究では4割半ばにとどまった.高齢者デイサービス施設には食堂や機能訓練施設の設置基準があるが,放課後等デイサービス施設にはない.本研究では賃貸が多く,被災用備蓄が進んでいない背景には,放課後等デイサービス施設は高齢者デイサービス施設よりも狭く,被災用備蓄を管理するスペースや避難を想定した場所の確保が難しいことがあると考える.

2. 環境要因と防災行動の関連について

施設が自己・法人等の所有であることと耐震補強の実施が関連していた.自己・法人等の所有である場合,耐震補強工事を自身で決定し実施することが出来るため耐震性の確保につながったのではないだろうか.また,常勤職員数が多いこと及び施設の建築形態が共同住宅であることが家族参加の防災訓練の実施と関連していた.常勤職員数が多いほど,避難訓練に多くの人手を確保することができ,発災時を想定した児童の避難訓練を実施しやすく,家族とも連携がとりやすいと考える.

岸本ら(2017)は,住民の避難行動の選択傾向として,戸建住宅の方が避難しない割合が有意に高いことを明らかにしている.本研究でも,共同住宅の方が家族参加の防災訓練を実施していたが,実施率は2割に満たなかった.内閣府の避難行動に関するガイドライン(2017b)には参加者に関する具体的な提示がなく,家族が参加した防災訓練は施設独自の裁量での実施となった可能性がある.今後,ガイドラインに家族参加の防災訓練を具体的に明記し,訓練の実施を推進する必要がある.さらに,Wolf-Fordham et al.(2015)は,重要だと理解しているにも関わらず,発達障害・知的障害の児を持つ家族は,身体的・医学的障害の児を持つ家族よりも緊急避難計画を立てることが出来ていないことを明らかにしている.高齢者デイサービス施設を対象とした塚本(2016)の調査では,災害は予測困難なことから,自宅への送迎や移動の最中等多種多様な状況下での有事に対応する必要があり,施設側に一任する防災対策では利用者の安全確保が困難となる事態が想定されるため家族と連携した日頃の備えが欠かせないと述べている.保護者が就業のため訓練に参加できない場合でも,普段の送迎の際に発災時の児童の引き渡しを想定した働きかけをする等の,可能な対応を実施する必要がある.

3. 準備要因と防災行動の関連について

Aスコアが高いことが耐震補強を実施していることと関連していた.防災意識尺度得点のAスコアは,被災状況に対する想像力の高さを示唆しており,災害時を想像できたことで,施設の耐震性向上に影響を及ぼした可能性がある.しかし,今回関連は見られなかったものの,耐震補強を実施出来るだけの経済的ゆとりがあることが耐震補強の実施に影響する可能性も考えられるため,今後さらに検討する必要がある.公的連絡先の掲示が出来ていることは,耐震補強の実施,施設内を整備していることに関連していたが,なぜ関連していたかについて,本研究では明らかにすることが出来なかった.今後明らかにしていく必要がある.

4. 実現要因と防災行動の関連について

緊急連絡先を周知出来ていることは児童参加の防災訓練の実施と関連していた.緊急連絡体制の整備は災害時の初動体制づくりである(成田ら,2013).体制を明確に定めたことで職員自身の災害時の行動への意識が高まり,防災訓練の実施につながっていたと推察する.

経済的ゆとりがあることと被災用備蓄が関連していた.被災用の備蓄,および定期的な更新には金銭的負担が生じる.経済的なゆとりは備蓄と更新の継続に影響すると推察され,負担軽減のためにも利用者家族に必要物品を提供してもらう等の連携体制が必要である.さらに,経済的ゆとりがないため十分な備蓄が出来ていない現状と体制整備,公的な支援の必要性を自治体に提言していく必要がある.

震災対応マニュアルがあることが被災用備蓄と関連していた.震災リスクを把握していたことが発災時を見据えた被災用備蓄に影響したと推察される.夏目ら(2019)は,マニュアルは具体的な防災行動をとる基盤であり,マニュアル作成は職員の防災意識を高めると明らかにしている.マニュアルを作成することで防災意識が高まり,被災用備蓄に影響したと考える.

防災行動との関連は見られなかったが,行政,同種施設,地元自治会との協定は約8割が締結していなかった.これは,塚本(2016)の調査と同様であり,地域コミュニティとの防災連携が著しく希薄で,発災時の迅速かつ的確な対応が出来ないことが危惧される.清水(2009, 2013)は,地域行事に参加する等近隣とのつきあいや地域的なつながりを持つことが,防災行動の促進に影響すると示唆しており,平常時から地域との交流を深め,防災行動を促進し,発災時に備えた連携体制の基盤を整えることが今後の課題である.

5. 強化要因と防災行動の関連について

施設の地震防災対応・減災への取り組みに関する家族の認識の把握が出来ていることと施設内の整備が関連していた.塚本(2016)は,施設側に一任する地震防災対策では,利用者の安全確保が困難となる事態が想定され,家族と連携した日頃の備えが欠かせないと示唆している.地震防災対応・減災への取り組みに関する家族の認識を把握することの重要性が示唆された.

6. 研究の限界と今後の課題

本研究は,回収率が低く,防災に関心のある施設が回答しているという応答バイアスがあり,一般化には限界がある.今回は,施設の防災担当者又は責任者を対象としたため,施設職員や保護者の防災意識についてやリスクの認識も明らかにしていく必要がある.

V. 結語

1.放課後等デイサービス施設において,耐震補強,被災用備蓄,避難訓練の実施といった防災行動への取り組みが進んでいない現状が明らかとなった.

2.放課後等デイサービス施設の防災行動には,環境要因:建築形態や所有形態,実現要因:マニュアルの存在,緊急連絡先の周知や経済的ゆとり,強化要因:地震防災対応・減災への取り組みに関する家族の認識の把握等が関連していた.具体的な施設内での防災対策見直しに向けた支援,経済的支援,家族と連携した体制づくりの重要性が示唆された.

謝辞

本研究を実施するにあたりご協力頂いた施設の皆様に御礼申し上げます.本研究は神戸大学大学院の修士論文に加筆修正したものであり,第78回日本公衆衛生学会総会にて発表した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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