日本公衆衛生看護学会誌
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研究
女性生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援
藤本 尚子小林 真朝
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2023 年 12 巻 1 号 p. 2-9

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Abstract

目的:女性の生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援について記述する.

方法:4名の福祉事務所の保健師にインタビューを行い,質的記述的に分析した.

結果:『世帯の生活の安定を目指して伴走する』がコアカテゴリーとして,【味方であると認識してもらうような態度で接する】【世帯の貧困が子どもに及ぼすリスクを見越して見守る】【複数の問題への支援をコーディネートする中で,希薄であった社会との接点をつないでいく】【一番響くアプローチを探るために,生まれ育った背景からその人をとらえる】【スモールステップで「健康」に意識を向けるための関わりをする】【認められる経験が少ない対象者に肯定的な関わりをすることで自己肯定感を育む】がカテゴリーとして,抽出された.

考察:福祉事務所の保健師は,信頼関係の構築を図りながら対象者との社会的接点となり,健康という切り口から包括的に生活を支えていると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to describe support provided by public health nurses from welfare offices for female welfare recipients.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with four public health nurses in municipal welfare offices. The data were categorized using a qualitative descriptive method.

Results: The core category was “collaborating with women aiming for a stable household.” Other extracted categories included “engaging in a way that makes the woman identify the public health nurses as supporters,” “anticipating the risks that family poverty poses to children and supervising them,” “connecting the weak points of contact with society while coordinating support for multiple problems,” “accepting the experience of being born and raised in poverty to search for the most appropriate approach,” “providing health awareness and support in small steps,” and “cultivating a sense of self-efficacy that was unattainable while growing up.”

Conclusion: Public health nurses from welfare offices serve as social contacts for women while building trusting relationships and comprehensively supporting their health.

I. 緒言

日本の相対的貧困率は,近年上昇をつづけ,国民生活基礎調査によると,2018年の貧困率は15.4%とOECD加盟国のなかでも高い水準であることを示している(厚生労働省,2019).そして,多くの年齢層において女性の貧困率は男性と比較して高く,その差は高齢者層で拡大する傾向がみられている(男女共同参画局,2012).女性の貧困率が高い要因として,女性の大学進学率が男性に比べ低いことや,非正規雇用に女性が多いこと等が挙げられている(大塩,2017).

次に,生活保護受給者の健康面について焦点を当てると,生活保護受給者の約8割は医療扶助を受けている.そして,生活保護にかかる予算のうち,医療扶助費が約半分を占めており,近年増加傾向にある(厚生労働省,2014).また,生活保護受給者は,半数以上が60歳以上の高齢者層となっており,若年層は,傷病等が原因で保護を開始する者の割合が37%である等,若年層にも医療を必要とする人が多い(厚生労働省,2014).さらに,生活保護受給者は,国民健康保険等と比較して糖尿病や肝炎等,医療機関への受診や健康管理が適切に行われないと重症化するリスクがある傷病を有する患者の割合が高く,医療扶助費が大きいことの要因となっている(厚生労働省,2022).貧困とは,WHO(1998)の提唱した健康の社会的決定要因でもあるように,人々が健康に生きる権利を脅かす恐れのある重大な問題である.特に,生活保護を受給する母子世帯については,健康面を含めた多くの困難が蓄積し,それらが相互に密接に関連していることが,貧困の世代間連鎖につながっていることが指摘されている(駒村ら,2011).また,女性の貧困は可視化されにくいことが特徴として述べられており,その要因として,世帯を単位としていることによる隠れた貧困の把握の限界や福祉政策の実情を挙げている(鈴木,2014丸山,2018).

福祉事務所では,基本的にケースワーカーが,生活保護受給者に対し,就労支援や生活支援のための助言を行っている.ケースワーカーを対象とした,生活保護受給者に対して必要と考える健康支援方策に関する質問紙調査では,「医学的な知識」,「保健医療専門職の配置」への回答が多く,健康支援において専門的知識が必要であることが指摘されている(原ら,2020).また,国は自治体に対し,健康管理支援の体制強化等のための交付税措置や国庫補助金による支援を行っている.「福祉事務所等における保健師の効果的な活動・活用事例に関する研究」班(2013)の調査によると,一部の自治体では,保健師や看護師等を福祉事務所に配置し,健康面におけるニーズに基づいた生活の質の向上や,医療費の削減等の効果が現れている.一方,全国的な状況について,厚生労働省(2014)が調査を行ったところ,生活保護受給者の健康管理支援に従事する保健師等の専門職を配置している福祉事務所は全体の16.9%にとどまっている.また,勤務形態は7割以上が非常勤勤務であり,健康管理支援体制は十分とは言えないものであった.

経済的困窮者への保健師による支援に関連する研究では,支援が必要な母親への妊娠中からの保健師の支援(中原ら,2016)のように経済的課題を合わせもつ対象者への研究はされているが,経済的困窮を切り口とした研究はほとんどされていない.福祉事務所に所属し,生活保護相談を担当する保健師による支援について,対象者との信頼関係形成や自尊感情の育成等の個別援助技術が報告されているが,健康支援を行うために配属された保健師の研究はされていない(丸谷,2012).また,保健センター等の福祉事務所ではない部署に所属する保健師による経済的困窮者への支援についても研究されていない.

今後,福祉事務所への保健師等の配置や,健康支援の取り組みの充実・展開を進めるためには,生活保護受給者の健康支援に保健師の専門性が必要とされる取り組みについて明らかにしていくことが重要である.しかし,保健師による生活保護受給者への支援についての研究はほとんどされておらず,特に女性への支援に焦点を当てた研究はない.また,可視化されにくい女性生活保護受給者への支援の特徴について記述することは対象者への関わりを模索する上で意義のあることであると考える.したがって,本研究は,女性の生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援について記述することを目的とした.

II. 研究方法

研究デザインは質的記述的研究である.

1. 研究対象者

生活保護受給者の健康管理支援に従事する保健師等の専門職を配置している福祉事務所について全国的な調査を行った先行調査(厚生労働省,2014)に基づき,厚生労働省へ問い合わせを行い,その中で福祉事務所に常勤の保健師を配置しており,かつ保健師が健康支援業務を担当する2自治体を選定した.2自治体の保健師に協力依頼を行い,保健師経験年数が満3年以上の保健師で,女性生活保護受給者への支援を経験したことのある者のうち,研究の趣旨に同意が得られた者を研究参加者とした.

2. データ収集方法

インタビューガイドを用いて,半構成的インタビューを行った.インタビューでは,生活保護受給者に対して保健師が行っている具体的な支援について語ってもらうために,支援が順調に進んだと感じる事例または困難に感じた事例の支援の経過について振り返ってもらい,支援の経過,支援を行う上で研究対象者が感じた困難や大切にしていること,心掛けていることについて尋ねた.研究対象者の希望する場所かつプライバシーの確保ができる場所で,60分程度実施した.研究対象者の許可を得て,インタビュー内容をICレコーダーに録音し,メモをとった.データ収集期間は2018年9月~2018年10月であった.

3. 分析方法

インタビューの録音データから作成した逐語録を繰り返し読み,保健師が女性生活保護受給者に対して行う支援について,意味・内容を損なわない範囲で文脈を要約し,コードとして抽出した.生成されたコードとコードの意味内容の類似性や差異性に着目し,比較検討を繰り返しながら,類似性の高いものをサブカテゴリーとした.サブカテゴリー内の関連性を考慮しながら,共通する意味内容に基づいて,抽象度を上げ,カテゴリーを生成した.生成されたサブカテゴリー,カテゴリーの間の関連を検討しながら抽象度を上げ,コアカテゴリーを抽出し,保健師が生活保護受給者に対して行う支援について記述をした.データの解釈および抽出したカテゴリーの妥当性を評価するため,分析過程において,聖路加国際大学大学院地域看護・公衆衛生看護学研究会のメンバーである大学教員,大学院生と分析結果を複数回検討した.

4. 倫理的配慮

研究の協力を依頼するにあたり,研究の目的及び方法,研究への協力,参加の任意性,個人情報の厳重な保護管理,匿名化したデータによる学術雑誌における公表等について文書及び口頭で説明し,文書による同意を得て実施した.なお,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の審査を受けて実施した(2018年8月17日,18-A029).

III. 結果

1. 研究対象者の基本的属性

4名の保健師から協力を得た.研究対象者の所属は,中核市2名,市町村2名であった.保健師経験は平均18.8年であった.インタビューは各1回ずつ行い,時間は平均50.3分であった.

2. 女性生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援(表1
表1  「女性生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援」のカテゴリー表(コアカテゴリー:世帯の生活の安定を目指して伴走する)
カテゴリー サブカテゴリー
味方であると認識してもらうような態度で接する 保健師としての役割を伝えながら関わる
生活に必要以上に踏み込まず適切な距離感をとる
ねばり強く関わりながら心配している存在であることを伝える
好ましい生活に改善しなければならないというプレッシャーを感じさせないよう安心感をもってもらう
対立関係になりやすいお金に関わることはケースワーカーに担当してもらい,保健師は健康面を心配している存在としてアプローチする
世帯の貧困が子どもに及ぼすリスクを見越して見守る 子どもの将来を見据え,世帯がどのような環境であるか考える
その女性が担うべき世帯内での役割について考える
信頼できる大人としての存在を子どもに示すため,子どもが家にいる時間帯に訪問して接する機会をつくる
複数の問題への支援をコーディネートする中で,希薄であった社会との接点をつないでいく 社会的つながりが希薄な人とのつながりを切らない
必要な支援から漏れてしまう可能性を考え,つなぐ機関を選定する
対象者が抱えている複数の問題から,必要な支援に結び付ける
一番響くアプローチを探るために,生まれ育った背景からその人をとらえる 健康面に限らない本人にとっての困りごとを知り,多面的にアセスメントを行う
対象者がどのような家庭でどのような育ち方をしてきたのか知る
保健師の“気になる”というアンテナをはり続け,その背景にあるものを考える
スモールステップで「健康」に意識を向けるための関わりをする 健康に向き合うためにお金のやりくりを含めて助言を行う
その人の生活から,どのように変えていくか一緒に考える
本人のできる範囲を拡げるための接し方について模索する
疾患や障害による理解力の差異を確認しながら関わる
一般的に知られている生活の基本的なところから説明をしていく
認められる経験が少ない対象者に肯定的な関わりをすることで自己肯定感を育む その人の生活歴に影響しているプライドを尊重する
できていること,がんばっていることを肯定することで,認められる経験を増やす

女性生活保護受給者に対して福祉事務所の保健師が行う支援として,6のカテゴリーと21のサブカテゴリーを抽出した.以後,コアカテゴリー『 』,カテゴリー【 】,サブカテゴリー〈 〉として記述し,研究対象者の語りは斜字を用いて記述する.

コアカテゴリーは『世帯の生活の安定を目指して伴走する』であった.本研究で得られた6のカテゴリー【味方であると認識してもらうような態度で接する】【世帯の貧困が子どもに及ぼすリスクを見越して見守る】【複数の問題への支援をコーディネートする中で,希薄であった社会との接点をつないでいく】【一番響くアプローチを探るために,生まれ育った背景からその人をとらえる】【スモールステップで「健康」に意識を向けるための関わりをする】【認められる経験が少ない対象者に肯定的な関わりをすることで自己肯定感を育む】は,生活保護受給者と共に悩み,共に歩む保健師の関わりであった.生活保護受給者の抱える問題は,経済的問題や健康上の問題等の様々な問題が複雑に絡み合っており,一時的な介入で解決する問題ばかりではないが,このコアカテゴリーは,保健師が長期的な視点をもって,「生活の安定」を目指してより良い方向へと共に歩んでいくことを示していた.

1) 味方であると認識してもらうような態度で接する

保健師は,女性生活保護受給者の複雑な生活背景を考慮し関係性が構築されていない段階で生育歴等を不用意に聞き出さず,〈生活に必要以上に踏み込まず適切な距離感をとる〉ことを行っていた.そして,〈ねばり強く関わりながら心配している存在であることを伝える〉ことによって関係性の構築を進め,〈保健師としての役割を伝えながら関わる〉ことでその人の生活の安定に向けて共に考えられるように関わっていた.さらに,抱えている疾患や経済的問題のために行動に移すことが困難な者も多く,〈好ましい生活に改善しなければならないというプレッシャーを感じさせないよう安心感をもってもらう〉関わりをしていた.

また,対象者への支援を行う上で金銭的な内容は関係性においてトラブルの元にもなりやすい.〈対立関係になりやすいお金に関わることはケースワーカーに担当してもらい,保健師は健康面を心配している存在としてアプローチする〉関わりで,対象者の健康を心配している存在として保健師の声に耳を傾けてもらう工夫を行っていた.

女性特有っていうと母子だったりどうしても難しい中で生活をしている人なんかもいて,DVで逃げてる人なんかもいますから,そこの大変さとかは,ご本人が語りたいときには語ってもらったり,支援上必要な時は聞いたりするんだよね.

一番ね,人間の嫌なとこもみえるところなので,ケースワーカーも本当に大変だと思いますし,どうしてもね,怒ったりとか揉めるところはお金に関するところなので.でも保健師はいつでも味方だよっていう感じで,健康に関して一緒になにかできることがあれば助けていきますよっていうスタンスで,敵にはならないように,お金の話はあんまりしないようにしています.

2) 世帯の貧困が子どもに及ぼすリスクを見越して見守る

女性生活保護受給者の世帯に子どもがいる場合,子の疾患や虐待が顕在していなくても,保健師は〈子どもの将来を見据え,世帯がどのような環境であるか考える〉ことをしていた.また,疾患や障害のために,女性生活保護受給者が世帯での役割が果たせないこともあり,保健師は〈その女性が担うべき世帯内での役割について考える〉ことをし,また,〈信頼できる大人としての存在を子どもに示すため,子どもが家にいる時間帯に訪問して接する機会をつくる〉ことをしていた.

お母さんが仕事にいかずにうつ病で家にいる,家事はしてるかもしれんけど.お姉ちゃんは学校に行かない.なんで私だけ学校に行くんだっていう疑問が,普通にその家庭におったら出てくるんじゃないかなと思って.

3) 複数の問題への支援をコーディネートする中で,希薄であった社会との接点をつないでいく

生活保護受給者は,家族関係や友人関係等の社会的つながりの希薄さが特徴として挙げられ,唯一のつながりが福祉事務所というケースも少なくないため,〈社会的つながりが希薄な人とのつながりを切らない〉関わりをしていた.また,生活保護受給者は経済的な問題や,家族関係,健康問題等の複数の問題を抱えている場合が多いが,支援の必要性を認識していないこともあり,保健師は〈対象者が抱えている複数の問題から,必要な支援に結び付ける〉,〈必要な支援から漏れてしまう可能性を考え,つなぐ機関を選定する〉ことをしていた.

一人なんですよ.まるっきり一人なので,なかなか話せる人がいないのもあると思うんですよね.遠くにお兄さんがいたのかな.同性じゃないのと,疎遠だっていうことがあって,婦人科系の話もしづらいのもあるので,本当に対面の相談相手,お友達もあんまりいないので.

4) 一番響くアプローチを探るために,生まれ育った背景からその人をとらえる

医療者のとらえる課題と,対象者にとっての問題は必ずしも一致しているものではないため,〈健康面に限らない本人にとっての困りごとを知り,多面的にアセスメントを行う〉という関わりをしていた.

また,その人の現在の生活には,過去の生活習慣や家庭環境が大きな要因を及ぼしており,〈対象者がどのような家庭でどのような育ち方をしてきたのか知る〉ことや〈保健師の“気になる”というアンテナをはり続け,その背景にあるものを考える〉ことでその人の対象理解を深める関わりをしていた.

血圧が高いことに関して心配はしてないっていう風に保健センターから情報はあったんだけど,よくよく聞くと,まあ,気にはなってるんだよね.ただ,本人の一番の苦しいっていうか困りごととしては,朝起きられないだるさ,そっからきてる.

5) スモールステップで「健康」に意識を向けるための関わりをする

生活保護受給者は,「健康」への優先順位が低くある人が多い.そのため,保健師は,スモールステップで〈その人の生活から,どのように変えていくか一緒に考える〉,〈本人のできる範囲を拡げるための接し方について模索する〉ことをしていた.また,健康的な生活のため必須なものも経済的な理由により揃えることが困難な場合もあり,〈健康に向き合うためにお金のやりくりを含めて助言を行う〉ことをしていた.

保健師は簡単な言葉や,視覚的に理解しやすい媒体等を用いて〈疾患や障害による理解力の差異を確認しながら関わる〉ことや,わずかな知識をもつだけで動機づけにつながることがあることから,〈一般的に知られている生活の基本的なところから説明をしていく〉ことをしていた.

上着がなくて,買ってなくてっていうかあんまりお洋服そんなにたくさんもってなかったんだよね,上着がないから寒いから行けたり行けなかったりっていうことがありました.まあそのへんは,生活のお金のやりくりもあるのでもうちょっとすると,バーゲンだからさ,買っといたらとか,そんな提案をしています.

基本的な知識がないかたが本当に多いので,びっくりするような感じなので,知識がないっていうのは本当に大変なんですよ.なので,そういう普及させていくっていうのと,気づいてもらうっていうところでは保健師として生活支援課のポジションでいるのが絶対ベストだと思います.

6) 認められる経験が少ない対象者に肯定的な関わりをすることで自己肯定感を育む

生活保護受給者は,「周りはできていることが自分はできない」という体験を積み重ねて,自己肯定感の低下につながっていることも多く,〈できていること,がんばっていることを肯定することで,認められる経験を増やす〉関わりをしていた.さらに,保健師は対象者への支援を行うなかで,〈その人の生活歴に影響しているプライドを尊重する〉関わりをしていた.

社会とのつながりが少なかったり,あんまりこう認められている経験が少ない人が多いのよ.育ちのなかでね,だから,がんばってるねっていうところを認める存在とか,取り組んでることを認める,褒める.そこはやっぱりうれしいじゃん,だれでもね.

IV. 考察

1. 世帯の生活の安定を目指して伴走する

インタビュー結果において,コアカテゴリー『世帯の生活の安定を目指して伴走する』が示され,「伴走する」とは,生活保護受給者と共に生きる方向性を模索しながら歩んでいくことであると考えられた.福祉の分野においては「伴走型支援」という言葉が使われている.困窮している人々に対して縦割りの制度を横に連携させながら総合的かつ継続的に支援し,同時に,排除しない地域社会の創出をめざすような支援のかたちを,「伴走型支援」と名づけ,理念や方法を定式化してきた(奥田ら,2014).また,看護の分野においては,終末期における看取りを生活支援の一部として「伴走する」ことであると記述されている(小澤,2015).生活保護受給者は,経済的問題だけではなく,健康面や家族関係等における複数の問題を抱えている.そのため,必要とされる支援も多岐にわたり,どのような支援をどのように利用していけばよいのか,共に考え共に歩む人が必要である.奥田ら(2014)は,「『制度またぎ』の支援によって,制度が縦割りであっても,それらに横串を通すような支援が可能となる」と述べている.福祉事務所の保健師は,数少ない社会との接点として対象者に関わり,保健部門のつながりだけではなく,地域全体の資源を把握し,それらを対象者が上手に活用しながら地域で生活をおくることができるように調整をしていた.

2. 女性生活保護受給者への支援の特徴

結果にて,女性生活保護受給者の世帯に子どもがいる場合,子の疾患や虐待が顕在していなくても,保健師は〈子どもの将来を見据え,世帯がどのような環境であるか考える〉ことをしていた.子どもの相対的貧困率は,増加傾向にあり,貧困が子どもの健康等に与える影響として,朝食の欠食や医療機関への受診抑制,虫歯の保有率の上昇,肥満傾向等の様々な問題がある(五十嵐,2017).しかし,これらの問題は可視化されにくく,適切な支援に結びつき難い現状がある.また,親の収入が高いほど子の大学進学率は高く,中卒・高卒者の約半数が非正規雇用であり,非正規雇用者の平均年収は正規雇用者の約1/3であること等から,親の貧困は次世代に連鎖し,固定化することが指摘されている(五十嵐,2017).蔭山ら(2013)は,精神障がいをもつ母親への支援において,保健師は関係機関の協力を得て,子どもを見守り,育むことが必要であると示している.本研究において抽出された【世帯の貧困が子どもに及ぼすリスクを見越して見守る】支援についても,健やかな子どもの成長を目指したものであり,同様の結果であるといえる.また,ひとり親世帯のうち約9割が,母子世帯であり(厚生労働省,2017),ひとり親世帯の相対的貧困率は48.1%と極めて高い数値を示している(厚生労働省,2019).母子世帯の多い女性生活保護受給者への支援において,保健師が生活保護受給者世帯の子どもの潜在的ニーズを捉え,子どもとの接点をもちながら世帯にアプローチを行っていくことは非常に重要であるといえる.

3. 生活保護受給者の抱える複合的課題と自己効力感への働きかけ

丸谷(2012)は経済的困窮者の支援に用いる技術について,「多様な関わりを通じた信頼関係形成」があることを報告している.本研究結果における【味方であると認識してもらうような態度で接する】は,この結果を支持するものである.対象者との信頼関係の構築は保健指導を行う上で必須であるが,生活困窮者との関係性構築については「生活困窮者と認定されたすべての事例に『支援関係を築き難い』という点が共通している」(榛葉,2016)と指摘されており,特に意識的な関わりが必要とされると考えられる.そのためには,これまでの生活背景や環境を含めて対象者をとらえる保健師の専門性が必要とされ,本研究結果においても,対象者がDVや虐待等の複雑な家族関係を抱えていることを配慮した距離感のとりかたや,本人の自己肯定感を高めるような関わりが示されていた.このような,保健師の複合的な意図を含んだ配慮や関わりによって,関係構築に課題が多い対象者との信頼関係の構築や維持を図ることができると考えられる.

生活保護受給者の抱える問題は,経済的な問題だけではなく,様々な要因が複雑に絡み合って存在しており,【一番響くアプローチを探るために,生まれ育った背景からその人をとらえる】ことによって,それらを理解することが可能となる.社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会委員(2000)により出された報告書では,「従来の社会福祉は主たる対象を『貧困』としてきたが,現代においては,『心身の障害・不安』,『社会的排除や摩擦』,『社会的孤立や孤独』といった問題が重複・複合化しており,こうした新しい座標軸をあわせて検討する必要がある」とされている.この報告のように,生活保護受給者は様々な問題を複合的に抱えており,保健師はそれらの【複数の問題への支援をコーディネートする中で,希薄であった社会との接点をつないでいく】必要がある.2014年度の浜松市における生活困窮者自立促進支援モデル事業の具体的事例から,榛葉(2016)は「生活困窮状態にありながら,“困った”と感じない,“困った”と言えない.人間関係の希薄さこそ生活困窮者の特性」と述べており,生活保護受給者に対する相談支援の難しさが浮き彫りとなっている.

そして,生活の安定を目指した支援のなかで,保健師は【認められる経験が少ない対象者に肯定的な関わりをすることで自己肯定感を育む】ことと,【スモールステップで「健康」に意識を向けるための関わりをする】ことも行っていた.生活困窮者の健康行動についての調査(富田ら,2011)では,生活困窮者の医学的知識や予防的行動の重要性に対する認識の不足や,精神疾患を抱える者の多さから,健康行動を起こすことが困難であることが指摘されている.さらに,郭ら(2018)の調査では,自己肯定感に影響を及ぼす要因として,経済的貧困があることが明らかになっている.自己肯定感の低さは,自己効力感が低くあることでもあり,行動変容を起こす上での障壁となる.そのため,通常の保健指導では通用せず,スモールステップで生活保護受給者と共に目標をたて,支援を行っていく必要がある.この関わりについても,生活保護受給者がどのような課題を抱えているのか理解していなければ行うことはできない支援であるといえる.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究では研究対象者のリクルートに際し,勤務形態を常勤とし,職種を保健師と限定した.また,その保健師が担う業務について,生活保護相談ではなく,健康支援を業務としている保健師であることを条件としており,その結果,研究対象者が2自治体の保健師4名と限られた.今後多様な地域における福祉事務所に所属する保健師の活動を調査し,生活保護受給者への支援についてさらに明らかにしていく必要がある.

V. 結論

女性生活保護受給者の支援において,保健師は信頼関係の構築を図りながら対象者との社会的接点となり,対象者の健康的な生活を支えていた.福祉事務所や生活保護部門に常勤の保健師を配置することにより,包括的・多角的に対象者を捉え,生活保護受給者の健康と安寧を効果的に支えることが可能となると考えられた.

謝辞

本研究を進めるにあたり,研究に協力していただいた参加者の皆様に心より感謝いたします.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

本研究は聖路加国際大学大学院博士前期課程の課題研究として実施した.また,本研究の一部は,第8回日本公衆衛生看護学会学術集会にて発表した.

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