2023 年 12 巻 1 号 p. 29-38
目的:被災高齢者が中長期にわたって生活を再建していく過程におけるレジリエンスを促進する要素を明らかにし,生活再建に向けての一貫した効果的な支援についての示唆を得る.
方法:被災によって住まいを喪失した65歳以上の住民22名に二次元レジリエンス要因尺度を用いた質問紙への回答ののち,半構成的面接を行った.
結果:住まいを喪失した被災高齢者が生活再建を進めていく力の基盤となるレジリエンスの促進要素は,【支え合う人と場がある】,【自分の中にある生きる力の源に気づく】,【自分らしい生活を送る】,【震災を経験した人生に意味を見出す】の4つであった.
考察:被災高齢者の生活再建過程におけるレジリエンスを促進する支援として,被災体験を語り,分かち合える場や機会の提供,日常性の回復,コミュニティの営みの回復のための支援,また,平常時においてはコミュニティへの関心を高めるための多様な機会の提供が求められる.
Objective: This study examined factors facilitating resilience among older adult survivors of natural disasters when reconstructing their lives. The study considers post-disaster effective and consistent support that should be provided to them in the medium and long term.
Methods: Participants included 22 adults aged 65 years or older who had lived through the 2011 Great East Japan Earthquake. These were individuals who had lost their homes in a city in the Tohoku region. First, a questionnaire survey was administered using the Bidimensional Resilience Scale, followed by semi-structured interviews.
Results: Four factors were identified as the basis for the reconstruction of the daily lives of the participants. These factors included interactions and living situations that provide mutual support, recognizing internal power, being true to self, and finding meaning in life as earthquake survivors.
Discussion: It is vital to provide opportunities for older adult disaster survivors to share their experiences, facilitate resilience during the life reconstruction process, and help restore their daily routines. Furthermore, the community must be provided with various opportunities to increase interest in active involvement and a sense of connectedness among members.
我が国は災害が多く,その種類も多様である.中でも2011年に発生した東日本大震災による被害は,2022年3月時点で死者19,759名,行方不明者2,553名,住宅全壊122,006戸であり,災害公営住宅の整備は2020年12月までの長い歳月を要した(復興庁,2023).
住まいを喪失した被災者は先の見通しが立ちにくい状況で住まいの場所を順次移動し,その都度環境への適応を迫られる(池田ら,2002).その過程において,恒久的な住まいの決定等,生活再建を同時に進めなければならず,中長期にわたって再建のための力の発揮を必要とすると考えられる.特に高齢者は加齢に伴う様々な変化に加え,被災による心身への大きなストレスを経験しており(松岡,2012),喪失体験による心理的衝撃も大きいと考えられる.西村ら(2016)は,東日本大震災後の仮設住宅在住高齢者の生活再建の重要な要素として,「住いの再建」,「心身の健康」,「つながりの回復」,「人生の評価」を明らかにしている.しかし,被災高齢者はその後も住まいの変遷を経ていくため,中長期にわたる生活再建に必要な要素を明らかにすることは重要である.
近年,困難や喪失体験への前向きな社会的適応を説明する概念として「レジリエンス」が注目されている.「レジリエンス」は「困難な状況や脅威があるにもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果」(Masten et al., 1990)であり,個人要因だけでなく環境要因の影響も受けながら変化,発達していくものと考えられている(Calhoun et al., 2006).こうした「レジリエンス」の概念に着目すると,被災者が大きな喪失体験を乗り越え,生活を再建していく力の発揮には「レジリエンス」がその基盤として作用していると考えられる.
被災後の生活再建とレジリエンスに関する海外の近年の研究では,個人のみならずグループ,特にコミュニティのレジリエンスを高める必要性が指摘されている(Sandifer et al., 2018;Walsh, 2007).一方国内では,東日本大震災後多数の報告がなされ,被災者のレジリエンスを高める支援要因(作山ら,2021)や家族レジリエンスを高めるための支援(野嶋ら,2018)を明らかにした研究などがある.しかし,高齢者を対象として,当事者の経験から生活再建におけるレジリエンスを促進する要素を明らかにした研究は見当たらない.
そこで本研究は,被災高齢者が中長期にわたって生活を再建していく過程におけるレジリエンスを促進する要素を明らかにし,被災高齢者の生活再建に向けた一貫した効果的な支援についての示唆を得ることを目的とする.
中長期:発災後の仮設住宅入居の時期から恒久住宅での生活再建にあたる時期をさし,災害時の保健活動のフェーズ3から5の時期とする(全国保健師長会,2020).
生活再建過程におけるレジリエンス:被災により住まいを喪失した後,新たな住まいの獲得,役割や生きがい,人とのつながりなどの社会生活の回復を通して,自律した生活を営めるようになることとする.
生活再建過程におけるレジリエンスを促進する要素:生活再建過程においてレジリエンスの発揮を促進した個人要因および環境要因とする.
2. 研究デザイン生活再建過程の個々人の差異やレジリエンスの多様性に対応しうる支援を探究するために,質問紙調査とインタビュー調査を行うトライアンギュレーションデザイン(Creswell et al., 2010)とした.
3. 研究参加者研究参加者(以下,参加者)は,東北地方A市において東日本大震災によって住まいを喪失した65歳以上の住民である.支援機関(震災後に設立されたNPO法人,以下,NPO法人)から紹介を受け,協力依頼を行った.
4. データ収集方法データ収集期間は2016年3月~5月である.
1) 質問紙調査質問紙の内容は,基本属性(性別,年齢,居住年数,住まいの再建の見通しなど)ならびに調査時のレジリエンスの指標として二次元レジリエンス要因尺度(以下,BRS)(平野,2010)を用いた.BRSは多様なレジリエンス要因を資質的レジリエンス要因と獲得的レジリエンス要因に分けて捉えることで,個人のレジリエンスをより多元的に理解すると同時にレジリエンスを後天的に高めていく方法を検討できる尺度であり,大学生を対象に信頼性,妥当性が確認されており(平野,2011),高齢者を対象に信頼性が確認されている(備前ら,2016).下位尺度は資質的要因4因子(楽観性,統御力,社交性,行動力),獲得的要因3因子(問題解決志向,自己理解,他者心理の理解)の7因子21項目で構成されている.回答は5件法で,資質的レジリエンス要因の合計得点は12~60点,獲得的レジリエンス要因の合計得点は9~45点である.本研究で被災高齢者のレジリエンスを促進する要素の分析にBRSを用いることによって,レジリエンスを後天的に高めていくための支援を検討できると判断した.
2) インタビュー調査個別インタビューを基本とし,希望がある場合は夫婦や友人と共に行った.半構成的面接で,震災前後からこれまでの暮らしの経過,住まいなどの決定プロセス,支えになった出来事,今後の生き方に対する希望などを聞き取った.インタビュー内容は参加者の同意が得られた場合は録音し逐語録を作成,録音の同意が得られなかった場合は同意を得て面接記録を作成した.
5. 分析方法質問紙調査の分析には統計解析ソフトSPSS21を使用し,基本属性の各項目の記述統計を算出した.BRS得点については,各因子,資質的レジリエンス要因,獲得的レジリエンス要因の得点の平均および中央値を算出した.
インタビュー調査では逐語録と面接記録をデータとし,「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)」(木下,2003)を基に分析を行った.M-GTAは社会的相互作用に関係する人間行動の説明と予測に優れた理論とされ,研究対象となる現象がプロセス的性格をもっている場合に適した研究方法である.本研究で扱う現象は,住まいを喪失した被災高齢者の生活再建過程のレジリエンスを促進する要素であるため,M-GTAが分析に適していると判断した.分析焦点者を「住まいを喪失した被災高齢者」,分析テーマを「生活再建過程におけるレジリエンスを促進した要素」とした.分析テーマに照らしてデータの関連箇所に着目し,具体例を抽出した.その抽出した具体例について,レジリエンスを促進していると判断できる語りがあることを確認し,次に類似した具体例について説明概念を生成した.その概念の完成度は類似例の確認および対照例についての比較の観点から検討した.生成した概念とほかの概念との関係を個々の概念ごとに検討しつつ,複数の概念の関係からなるカテゴリーを生成した.さらに,カテゴリー相互の関係を検討し,大カテゴリーを生成した.
次に,生成した概念について,構成する具体例の語りをした参加者のBRS得点群を比較した.BRS得点群の分類は,各得点を中央値で二分し,資質的要因高群と低群に分け,さらに資質的要因低群については,生得的にレジリエンス要因が少なくても後天的に身につけやすいレジリエンス要因の作用の特徴を捉えるため,獲得的要因高群と低群に分け,以上3群とし,分析結果の表に示した.さらに,抽出されたレジリエンスを促進する要素が出現した時期と住まいの場所との関連について,その概念を構成する具体例を個々に確認し,語りの内容の時期と住まいの場所との関連を分析結果の表に示した.
分析にあたっては,研究者間で繰り返し逐語録を確認し検討を重ね,分析の信頼性,妥当性の確保に努めた.
6. 倫理的配慮本研究は杏林大学保健学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号27-60,承認日2016年2月24日).なお,面接時に被災体験のフラッシュバックが生じる可能性を想定し,地元支援機関等による継続的な支援を紹介できるように,予めNPO法人へサポートを依頼した.
項目 | 人数 | % | |
---|---|---|---|
mean±SD | |||
性別(n=22) | 男性 | 6 | 27.3 |
女性 | 16 | 72.7 | |
年齢(n=22) | 77.1±6.2 | ||
65歳以上75歳未満 | 6 | 27.3 | |
75歳以上 | 16 | 72.7 | |
居住年数(n=22) | 70.1±16.0 | ||
70年未満 | 7 | 31.8 | |
70年以上 | 15 | 68.2 | |
世帯構成(n=22) | 単身 | 5 | 22.7 |
夫婦のみ | 9 | 40.9 | |
その他 | 8 | 36.4 | |
現在の住まい(n=22) | 仮設住宅・民間住宅(みなし仮設)※ | 11 | 50.0 |
復興住宅(災害公営住宅) | 4 | 18.2 | |
防災集団移転での住宅再建 | 1 | 4.5 | |
防災集団移転以外の住宅再建 | 6 | 27.3 | |
※仮設住宅住民のみ 今後の住まいの予定(n=11) |
復興住宅(災害公営住宅) | 1 | 4.5 |
防災集団移転での住宅再建 | 5 | 22.7 | |
防災集団移転以外の住宅再建 | 2 | 9.1 | |
未定 | 3 | 13.6 | |
※仮設住宅住民のみ 今後の住まいの世帯構成(n=11) |
単身 | 2 | 9.1 |
夫婦のみ | 3 | 13.6 | |
その他 | 6 | 27.3 | |
震災前の世帯構成(n=22) | 単身 | 3 | 13.6 |
夫婦のみ | 5 | 22.7 | |
その他 | 14 | 63.7 | |
震災で亡くなった同居家族(n=22) | なし | 16 | 72.7 |
あり | 6 | 27.3 | |
震災前の就業状況(n=22) | 就業なし | 11 | 50.0 |
就業あり | 11 | 50.0 | |
現在の就業状況(n=22) | 就業なし | 15 | 68.2 |
就業あり | 7 | 31.8 |
参加者は実人数22名であった.うち,個別インタビューが11名,夫婦・友人でのグループインタビューが13名であり,2名は個別インタビューとグループインタビュー両方に参加した.性別は男性6名,女性16名,平均年齢は77.1歳であった.調査時の住まいは,仮設住宅・民間住宅11名(50%),防災集団移転以外の住宅再建6名(27.3%),復興住宅(災害公営住宅)4名(18.2%),防災集団移転での住宅再建1名(4.5%)であった.
2. 二次元レジリエンス要因尺度得点(表2)レジリエンス要因 | 中央値(最小-最大) | 平均 | 標準偏差 | ||
---|---|---|---|---|---|
二次元レジリエンス要因尺度 | 83.0(50–102) | 80.8 | 13.7 | ||
資質的レジリエンス要因 | 51.5(31–58) | 47.7 | 8.8 | ||
楽観性 | 12.5(5–15) | 11.6 | 3.0 | ||
統御力 | 12.0(5–15) | 10.9 | 2.9 | ||
社交性 | 13.0(7–15) | 12.1 | 2.4 | ||
行動力 | 14.0(9–15) | 13.1 | 2.1 | ||
獲得的レジリエンス要因 | 33.0(19–45) | 33.1 | 5.7 | ||
問題解決志向 | 9.5(7–15) | 9.8 | 2.4 | ||
自己理解 | 11.5(8–15) | 11.3 | 2.2 | ||
他者心理の理解 | 12.5(4–15) | 12.0 | 2.7 |
BRS得点の平均点は80.8(SD±13.7),中央値は83.0,資質的レジリエンス要因の平均点は47.7(SD±8.8),中央値は51.5であり,獲得的レジリエンス要因の平均点は33.1(SD±5.7),中央値は33.0であった.
3. 生活再建過程におけるレジリエンスを促進する要素(表3)分析の結果,30概念,11カテゴリー,4大カテゴリーを生成した.大カテゴリーは【 】,カテゴリーは《 》,概念は〈 〉,具体例は「 」,研究者による補足を( )で示す.
1) 支え合う人と場があるこの大カテゴリーは《安心できる生活の場と交流のきっかけがある》と《被災体験を語り,分かち合い,支え合う》で構成された.
(1) 安心できる生活の場と交流のきっかけがある被災後の住まいの場所に〈震災前からの友人・知人が身近に住んでいる〉ことで,新たなコミュニティでの緊張感が緩和され,他者との交流をもたらしていた.また,知り合いがいない状況でも,〈身近に住んでいる人との交流の場がある〉ことで新たな人間関係が形成され,生活の楽しみや孤立感の解消につながり,〈他者と交流できる趣味や仕事がある〉ことが日々の励みにつながっていた.
「編み物は私,娘時代から好きでね,(中略)あんたも編み物にこねぇすかーって声かけられて.(中略)20,30人近く…ぎっしり!座っとこもねぇぐらい.みんな長椅子にこうやってさ,座ってさ.(中略)まぁ二時間ぐらいかなぁ,あれはすごいよかったなぁ,と思ってね.そって,楽しみにして.(60代女性)」
(2) 被災体験を語り,分かち合い,支え合う被災者は今の状況で自分にできることは何かを考え,〈被災直後から同じ被災者のために行動(する)〉し,新たな役割を見出していた.また,家の喪失など,〈同じ体験をした人が身近にいることで自分一人ではないと感じ(る)〉,話せば分かり合えるという安心感を与え,初対面の住民とも積極的に交流をもっていた.また,被災者同士や支援機関など,〈気持ちを吐き出せる場がある〉ことで気持ちの整理がついたり,自信を取り戻していた.
「(避難所で)私一人で留守番してて,電話来れば名前とあいづ書いてて,(中略)こういう人から来てたよ,あんたさぁ,って,聞いて書いて,なんぼか足しになったんだったっぺねぇ.(80代女性)」
2) 自分の中にある生きる力の源に気づくこの大カテゴリーは《なんとしても守りたいものがある》,《自分の自信のよりどころがある》,《子や孫の成長・新たな生命の誕生》で構成された.
(1) なんとしても守りたいものがある被災者は心理的葛藤や無力感を抱きやすい中,〈共に生き残った家族の存在〉を何としても守りたいと強く思うようになっていた.また,子世代の生活再建の苦労を察し,〈子世代に迷惑をかけたくないという強い思い〉が生まれ,前向きに生きる力へとつながっていた.
「万が一,女房まで助からないっていうことになったらねぇ,……どうなったかわかんないねぇ.(中略)へたすりゃ…自殺してるかもしれないしねぇ.んだから,女房が助かったおかげで…まぁ,今がある,自分があるっていうかね.(60代男性)」
(2) 自分の自信のよりどころがある被災者は〈震災以前に大きな苦難を乗り越え,身につけてきた力を自覚する〉ことが大きな力となっていた.また,同時に多くの判断や決断が求められる中,〈子どもの頃から教えられた,前に向かう生活信念を思い起こす〉ことでそれが今を生きる支えとなり,前向きな姿勢で過ごせるようになっていた.子どもをもつ高齢者は子どもたちと相談しながら生活再建に取り組んでいたが,その際に〈親としての気概(をもっている)〉をもつことで親としての自負が得られ,自分を支える力となっていた.
被災後にこれまでの技能を生かした趣味や仕事に取り組むことで〈震災前の生業で培った技術への自負(をもっている)〉を実感し,それが自信となり,楽しみや生きがいを感じていた.また,多くの喪失は自己との対話をもたらし,〈これまでの人生のがんばりのお返しを受けていると解釈する〉ことで心身の安定が図られていた.
「戦争経験したんだから,津波に流されてしまったって,動じないんだ.(中略)特攻せずに生きてこれた.勉強さえできなかった.そんな時代でした.『なにがあったって動じない』(90代男性)」
(3) 子や孫の成長・新たな生命の誕生《子や孫の成長・新たな生命の誕生》はそれぞれの節目を迎えるごとにその成長を味わい,更にその先の節目に立ち会いたいという生きる希望につながっていた.
「8月に,ほら,ひこ孫,出るっていうから,(中略)一番ちゃっこい息子の孫も,来年の春,大学院に行くっていうから,だからそういう,孫たちの成長を楽しみにしてるのね,うん.(70代女性)」
3) 自分らしい生活を送るこの大カテゴリーは《何気ない日常を取り戻す》と《日々の暮らしに対する肯定感》で構成されていた.
(1) 何気ない日常を取り戻す生活再建に向けて課題が山積する中,〈一人で楽しめる趣味がある〉ことは様々な心境から距離を置き,気持ちを落ち着けることにつながっていた.一週間の中に〈決まった日課をもつ〉ことで生活のリズムが作られ,時間を越える力となっていた.また,〈震災により中断していたグループ活動の再開〉が仲間との再会や活動継続の実感となり,大きな力になっていた.一方,仮設住宅や復興住宅などの〈「住まいのスペース」を手に入れる〉ことで,心身に大きな安らぎがもたらされていた.
「教室再開しましょう,ってことになって(中略)これからまた,続けてやっていけるな!っつう!!(中略)助けになったっていうか,希望だべかねぇ…,なんだいねぇ…支えっていうか,あ,いかったなぁ!って.これをまた続けられるっていうかね.(60代女性)」
(2) 日々の暮らしに対する肯定感被災者は子ども達の世話になる面が大きくなる中,今の自分にできることは何かを考え,被災前まで担っていた役割を再開したり新たな役割を見出すことによって,〈誇りをもてる役割(がある)〉を得ていた.また,失ったものだけでなく「今あるもの」に目を向けることで〈今の生活を幸せと感じることができる〉ようになっていた.次第に日々の暮らしに対する肯定感を得て,震災による大きな喪失感や生活再建において遭遇する様々な困難を受け入れたり受け止めることができるようになっていた.
「今ね,自分で,いいっで思ってるね.なにも,おっきな,なにも,あれだから,(中略)ちっちゃい幸せ…(中略)うん.ちっちゃい幸せでいいの.(中略)みんなで楽しく,やってますから…(70代女性)」
4) 震災を経験した人生に意味を見出すこの大カテゴリーは《自分たちに向けられた「支援」の気持ちを感じる》,《地域に対する深い愛着を実感する》,《生き残った意味と生かされた意味を実感する》,《次の世代へ伝承したい思いが沸き上がる》で構成された.
(1) 自分たちに向けられた「支援」の気持ちを感じる被災者は全国からの物資によって助けられたり,外部からの支援者に相談できたりみんなで楽しむ機会を体験するなど,〈被災直後から支援を受ける経験をする〉ことによって,生命だけでなく尊厳も守られていることを実感し,生きる希望につながっていた.避難所,仮設住宅,恒久住宅のそれぞれの住まいの場所においては,〈「私」を訪ね,支援してくれる人の存在〉が安心感につながり,支援者との継続的な交流が大きな力になっていた.
「みんなのおかげで,これねぇ.支所からも来ったし,あと,復興の人たちもときどきねぇ,訪れて,ここでトランプだのなんかしてねぇ,遊んでけていくの.ふふふ.(80代女性)」
(2) 地域に対する深い愛着を実感する暮らしの営みや場の風景は震災後に一変したが,慣れ親しんだ風景や営みを想起できる瞬間に〈自分の暮らしと切っても切り離せられない風景や営みの存在〉を実感し,アイデンティティのように感じていた.また,自分のルーツを想起し,〈先祖代々の家を存続したいという強い思い〉を自覚していた.〈震災前のコミュニティに対する愛着〉はコミュニティの将来への希望,新たな目標の獲得となり,生活再建の過程で継続した力となっていた.
「あのくらい大変だった海も,やだなぁ…恐ろしい…かったんだけんども…,ちょっと落ち着いてくると,あぁ,海もいいなぁーってって,畑の帰り,ちょっと海岸さがってちょっと磯場を見て,(中略)それがー,まぁ,楽しみっていうか,落ち着く,っていうかぁ.和むっていうか,(中略)あのー,結婚しても,農家だからね.切っても切り離せられないっていうか,うーん.(60代女性)」
(3) 生き残った意味と生かされた意味を実感する被災者は今ある命を〈目に見えない力によって生かされたと感じ(る)〉,肯定的に意味づけをしていた.また,悲嘆の感情を語ることや喪失した家族を感じることで〈家族の喪失に対する悲嘆と折り合いをつけてい(く)〉けるようになっていた.また,家や家財,生業や役割の喪失について,他者との会話を機に視野が広がり,〈喪失したものや役割に意味づけ(をする)〉をしていた.それらの経験を積み重ね,積極的に人と交流をもてるようになり,前向きな姿勢で生きることにつながっていた.
「(災害支援の講演会で)私が勝手に出てさ,話したんだわぁ.(中略)私はね,妻に嘘を言って,大丈夫だよって言って,妻を,妻を,津波で流してしまいました.だから,津波が来るって予報あったら,少しでもいいから,高いとこに逃げっこと,これが先決です,って.(中略)あの人たちは専門用語でもって話して,当然のこと,話したけど,私は,私は,当然でねぇんだわ.(80代男性)」
「瓦礫って,こう,虚しさ?悔しさがあるけど,考えてみっと,(中略)どうやっぺな?って思ってた宝物も,一瞬の間にみんな持ってってもらって,あぁ,こんなに安心したことねえけっどって思ったら,それからその瓦礫って言葉を認めるし,吹っ切れたの.(70代女性)」
(4) 次の世代へ伝承したい思いが沸き上がる被災者は〈震災を後世に伝える使命を感じ(る)〉,語り継ぐという,新たな社会的役割を獲得していた.また,これまでの人生を振り返り,自らの信条や思いを〈若い世代の家族に語り伝えたい思い(がある)〉が生まれていた.そしてその思いをこれから語り継いでいくことが自分の役割と考え,生きる力につながっていた.
「一人でもそういう,亡くなる方が出ないようにね,しなくちゃいけない.やっぱこれが…生かされた者の…務めだよね,やはりね.(60代男性)」
4. 生活再建過程におけるレジリエンスを促進する要素と個人のBRS得点との関連(表3)生活再建過程におけるレジリエンスを促進する要素の大カテゴリーのうち,【支え合う人と場がある】は資質的要因高群・低群両群から生成された.資質的要因高群のみから生成された概念は,〈震災以前に大きな苦難を乗り越え,身につけてきた力を自覚する〉,〈子どもの頃から教えられた,前に向かう生活信念を思い起こす〉,〈親としての気概をもっている〉,〈これまでの人生のがんばりのお返しを受けていると解釈する〉,〈震災により中断していたグループ活動の再開〉,〈喪失したものや役割に意味づけをする〉,〈若い世代の家族に語り伝えたい思いがある〉であった.資質的要因低群においては,獲得的要因高群のみから〈気持ちを吐き出せる場がある〉,〈震災前の生業で培った技術への自負をもっている〉,〈誇りをもてる役割がある〉,《地域に対する深い愛着を実感する》,〈震災を後世に伝える使命を感じる〉が,獲得的要因低群のみからは〈同じ体験をした人が身近にいることで自分一人ではないと感じる〉,〈子や孫の成長・新たな生命の誕生〉,〈一人で楽しめる趣味がある〉,〈決まった日課をもつ〉,〈「住まいのスペース」を手に入れる〉,〈今の生活を幸せと感じることができる〉が生成された.
5. 住まいの変遷とレジリエンスを促進する要素の出現時期との関連(表3)《安心できる生活の場と交流のきっかけがある》,《被災体験を語り,分かち合い,支え合う》,《なんとしても守りたいものがある》は被災直後から一貫して存在し,《自分たちに向けられた「支援」の気持ちを感じる》は,恒久住宅転居後を目安に漸減した.一方,《地域に対する深い愛着を実感する》は仮設住宅の入居場所を考える時期を目安に出現し,恒久住宅転居後も継続して存在した.《何気ない日常を取り戻す》は,仮設住宅入居時期から恒久住宅への転居後も継続して存在した.《何気ない日常を取り戻(す)》し,悲嘆や葛藤の感情との折り合いをつけられるようになると,《生き残った意味と生かされた意味を実感する》が出現した.また,《日々の暮らしに対する肯定感》は,《何気ない日常を取り戻す》,《生き残った意味と生かされた意味を実感する》の出現を経て恒久住宅転居後も継続して存在した.《次の世代へ伝承したい思いが沸き上がる》,《自分の自信のよりどころがある》は,《何気ない日常を取り戻す》,《生き残った意味と生かされた意味を実感する》,《日々の暮らしに対する肯定感》を実感できるようになってから出現した.〈子や孫の成長・新たな生命の誕生〉はライフイベントの有無や経験時期に個人差があるが,被災直後から存在した.
資質的要因高群のみから生成されたレジリエンスを促進する要素は,他者や自己との対話を通して肯定的意味づけを行うことや仲間との活動の再開であり,その時々の状況と向き合って対処していく傾向がみられた.資質的要因低群のうち,獲得的要因高群では自己と向き合うだけでなく,他者との能動的なかかわりがみられた.一方,獲得的要因低群では,他者とのかかわりをもちつつも,自分の時間や居住スペースが確保されることから力を得る傾向がみられた.平野(2015)は,獲得的要因が高い人はコーピングの方略を豊かに持つことがレジリエンスにつながる傾向があるのに対し,資質的要因の少ない人は消極的コーピングを用いやすいこと,また他者の存在が重要であり,そのかかわりの中で獲得的にレジリエンスが導かれる可能性を報告しており,本研究結果でも同様であった.これらから,【支え合う人と場(がある)】を通して自己や他者と向き合い,【自分の中にある生きる力の源に気づく】ことが重要であると考える.
被災高齢者は,《安心できる生活の場と交流のきっかけがある》ことで《被災体験を語り,分かち合い,支え合う》ようになり,自分にできる範囲での手助けや声掛けなどの行動を率先して実践していた.Patel et al.(2017)は災害時のコミュニティの回復に共通する主要な要素として,コミュニティ内のつながりや開かれた対話の機会を明らかにしている.よって,生活再建過程において様々な交流の場を保障し,被災者同士の語り合い,支え合いを促進することは,コミュニティとしての生活再建のレジリエンスも促進することに直結するといえる.
これらのことから,本研究結果で抽出された【支え合う人と場がある】ことは,生活再建過程におけるレジリエンスを促進するための中核となる要素であると考える.よって,被災体験を語り,分かち合える場や機会を提供し,様々な交流の場を保証する支援が重要である.
2) 日常性の回復本研究結果では,《何気ない日常を取り戻(す)》し,《日々の暮らしに対する肯定感》を得て【自分らしい生活を送る】ことで,被災後の新たな日常性が回復されていた.レジリエンスを促進する各要素に通ずる他者との交流については,同じ被災者だけではなく近隣者との暮らしの日常性につながる交流も存在した.本研究参加者の男性の多くは震災前からの趣味や日課,生業をとおした人とのつながりから,一方,本研究参加者の女性の多くはグループ活動から力を得ていた.これらの震災前からのかかわりの再開や震災後の新たな近隣者との交流は,「被災者」ではなく「生活者」としての自分を実感できたことから得られた力だと考えられる.大木(2012)は,日常の生活の営みの中で突然発生する災害は「過去と未来を分断する」と述べている.本研究においては,【自分らしい生活を送る】ことで個人の日常性が取り戻され,未来を過去とつなぎ合わせて新たに生活を構築していくためのレジリエンスの発揮が促進されたと考えられる.
このように,自分の営みを見出すうえで《何気ない日常を取り戻す》ための支援は重要であり,震災前の地域活動の再開への支援,既存のコミュニティの人々との日常の関係づくりの支援が求められる.
3) コミュニティの営みの回復本研究において,被災高齢者は《地域に対する深い愛着を実感(する)》し,やがて《次の世代へ伝承したい思いが沸き上がる》ことで他者に語り伝える行動化につながり,【震災を経験した人生に意味を見出(す)】していた.小林ら(2017)は,高齢者のレジリエンスの鍵概念を「人生の目的」であると報告しており,本研究からも同様の結果が得られた.このことから,個々の被災状況の差異に関わらずコミュニティの喪失体験を共有し,コミュニティを共に再建するという意識の共有が,被災高齢者の生活再建を支える重要な要素であると考えられる.
室崎(2013)は,生活再建には地域の再建が欠かせず,その主体となる被災者が積極的に再建のプロセスに関わる必要性を述べており,本研究においても同様の結果であった.よって,その地域で互いに支え合って生きていきたいという主体的な思いを新たなコミュニティの人々と共有するための様々な機会の創出,その土地に根付く文化や風習の再開に向けた支援が重要であるといえる.
2. 生活再建に向けてレジリエンスを促進するための平常時における効果的な支援《安心できる生活の場と交流のきっかけがある》,《地域に対する深い愛着を実感する》の土台となるものは,コミュニティの人々とのかかわりや様々な暮らしの風景,場面への愛着,コミュニティへの思いなどであった.コミュニティでの活動そのものが被災後の他者との交流の媒体となり,分かち合いや支え合いの契機となり,やがては日常性の回復につながることが本研究から明らかになった.換言すれば,平常時においての近隣住民,グループ活動,自治会等の多様なコミュニティづくりが被災後の生活再建のレジリエンスを育むことになるといえる.また,《地域に対する深い愛着を実感する》ことは,生活再建のレジリエンスを促進するための大きな柱の一つであった.Masten(2014)は被災後に遊び場の確保や文化的に意味深い儀式の実施などの活動を行うことが復興の開始を象徴する強い希望のメッセージとなると述べている.よって,高齢者のみならず全ての世代に対して平常時から介入できる支援として,コミュニティへの関心を高めるための多様な機会の提供が効果的であると考える.
本研究は東北地方の一都市において,支援機関とかかわりをもつ力をもった高齢者を対象としているため,被災高齢者全体のレジリエンスを促進する要素を捉えているとはいえず,一般化には限界がある.また,調査時点では高齢者での信頼性・妥当性の両者が担保されたレジリエンス尺度が存在せず,大学生で信頼性・妥当性,高齢者で信頼性が確認されているBRSを用いた.今後は本尺度を用いた高齢者の調査の蓄積が必要である.
被災高齢者の生活再建過程におけるレジリエンスを促進する要素は,資質的要因・獲得的要因の高低に関わらず,【支え合う人と場がある】ことが核となる可能性が示唆された.今後は,個人の多様なレジリエンスの特性を踏まえ,中長期にわたってレジリエンスを発揮できるような具体的な支援方法を検討していく必要がある.
本研究にご協力いただきました住民の皆様,支援機関の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は杏林大学保健学研究科修士論文の一部を加筆・修正したものである.
本研究に開示すべきCOI状態はない.