日本公衆衛生看護学会誌
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研究報告
行政の福祉部門に配置された保健師による自由記述から捉えた業務の特徴と目指す役割機能
田村 須賀子安田 貴恵子山﨑 洋子
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2023 年 12 巻 3 号 p. 191-200

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Abstract

目的:福祉部門に配置された保健師(以下,福祉部門保健師)が重要と思う支援,保健師の業務に対する意見と工夫について把握し,保健師による自由記述から捉えた福祉部門での業務の特徴と,目指す役割機能について検討することを目的とする.

方法:全国市役所791の福祉担当課保健師に質問紙調査した.539名より回答があり,うち福祉部門保健師の業務で1)重要と思う支援,2)意見と工夫の質問に回答した370名の記載内容を分析した.

結果:福祉部門保健師として重要と思う支援に【支援の目的が明確なハイリスクアプローチで関わる】等があった.業務に対する意見に【対象の援助ニーズが複雑で緊急度が高い】等があり,業務遂行のために【対象理解と尊重,関わり方と程度,タイミングを見極める】等の工夫があった.

考察:福祉部門保健師は,多職種連携等で専門性の高い技術・調整能力が求められると自認し,当事者・家族が地域で生活できる支援と地域づくりを志向していることを確認した.

Translated Abstract

Objective: This study explored the opinions and ingenuity of public health nurses (PHNs) assigned to municipalities’ boards of welfare services. In particular, the goal is to capture the actual situation of PHNs and consider the current and future direction of PHNs’ roles and responsibilities.

Methods: Data were collected through surveys from 370 PHNs assigned to the board of welfare services in 791 municipalities across Japan. Respondents provided free-format responses, which were analyzed to assess their opinions regarding their work and the ingenuity displayed by PHNs. The survey items were categorized into two main areas: 1) opinions of their work and 2) ingenuity demonstrated by PHNs.

Results: The PHNs described vital support as the approach for the specific needs of helping individuals, among others. The PHNs’ opinion about their work was that they served individuals with urgent and complex problems. The PHNs planned their work with aims, directions, and priority decisions in mind.

Discussion: The PHNs assigned to the board of welfare services were recognized by the welfare administrative personnel for their high capabilities and skills in specialist team collaborations. Additionally, PHNs were inclined toward community development and creating an integrated community care system.

I. 緒言

20世紀末より少子高齢化が進み,社会保障制度審議会勧告「社会保障体制の再構築~安心して暮らせる21世紀の社会をめざして」に即して,介護保険制度が創設され,さらに地域における障害者等のノーマライゼーション,共生社会に向けた地域福祉政策が講じられてきた.それまで保健部門に配置されていた市町村保健師も,福祉部門にも配置され役割責任が拡大した.行政の福祉部門に配置された保健師(以下,福祉部門保健師)は,障害者及び児童の福祉部門並びに介護保険等の福祉サービス利用者・家族への保健福祉に関連するニーズを把握し,関係機関・職種と連携及び協働して,予防的な視点を持って課題を解決し,そのためのサービスの実施及び評価を行ってきた(厚生労働省,2003).さらに保健師には,住民に対する保健サービス等の総合的な提供や,地域における保健,医療,福祉,介護等の包括的なシステムやネットワークの構築とその具体的な運用において主要な役割を果たすことが期待され,保健,医療,福祉,介護等の関係部門に保健師を適切に配置することとなった(厚生労働省,2013).

しかし多くの場合,各福祉部門の保健師は1~2人配置である.福祉部門への配置の歴史は浅く,ひとりの保健師が試行錯誤・模索し,仕事を開拓し,看護専門職としての責任を果たしてきた経緯がある(前田ら,1996高崎,1996三浦ら,1997山岸ら,2003).ひとりの保健師による成果ある取り組み実績は,保健師の共通の実践知として認識,評価・継承され,その普及に向けた検討も必要である.そのため保健師がとらえた業務実態を共有することは有用と考えられた.

筆者らは,福祉部門保健師が,保健部門で培った家庭訪問等の個別支援の知識・技術を活かし,看護専門職としての責任にどのように取り組んできたかについて言語として表出することに取り組んだ(田村ら,2021).ここでの家庭訪問援助とは,保健師による家庭訪問という手段を主軸とした,電話・メール相談,関係機関・職種への連絡を含めた,当事者・家族に対する看護援助のことである.福祉部門保健師6名(児童福祉2名,障害福祉2名,介護保険・地域包括ケア2名)による家庭訪問等の個別支援過程を記述し,保健師が内面において思慮・選択・決定したことも含めて,20の個別支援の内容項目(表1)にまとめた(田村ら,2021).次にデータの拡がりの可能性をみるために,福祉部門保健師6名からの取りまとめ結果に対する意見を広く情報収集し,さらに福祉部門保健師の業務取り組み実態について把握する必要があった.これにより個別支援の内容が充実できれば,保健師の共通の実践知としてもより有用になりうる.

表1. 

福祉部門保健師による家庭訪問等の個別支援の内容

内容項目
①当事者・家族との人間関係をつくり,支援者として受け入れてもらえるようにする
②訪問目的を明確にし,伝える方法を検討する
③当事者・家族が,安全に安心して生活ができるようにする
④当事者・家族の理解力・読み書き生活能力に併せて,意向・プライドにも配慮する
⑤親・兄弟・親戚が,当事者の支援者になりうるかどうか判断する
⑥相談を持ち込む近隣住民が,当事者・家族の支援者になりうるかどうか検討する
⑦当事者・家族からの緊急性の高い相談事に,迅速に受付・対応できる体制をつくる
⑧住居内の整理整頓などで当事者・家族の方針を把握し,尊重しても良いか検討する
⑨福祉担当者の支援で,親・兄弟・親戚・近隣住民との関係が希薄にならないようにする
⑩当事者・家族の能力を見出し,日常生活の継続や就労できるようにする
⑪一時保護や緊急入院など,支援する側からの強い介入の必要性を想定しながら関わる
⑫過去に介入した経過・家族歴から対象理解する
⑬施設入所等生活支援サービス利用の決定に際し,当事者・家族自身で結論を出せるようにする
⑭当事者・家族になにかあったとき,近隣住民・他職種から連絡してもらえる体制をつくる
⑮当事者・家族の要望と訴え・クレームの傾向に併せて,課題解決に向けた対応を検討する
⑯近隣住民からの苦情に対し,当事者支援が福祉担当課の主たる業務と理解を求める
⑰支援担当者間の検討は,当事者・家族のニーズ・思いに沿いながら進める
⑱福祉サービス提供機関職員の支援姿勢・能力にみあった役割分担で連携する
⑲支援事例を通して,保健部門担当保健師との連携体制を創る
⑳当事者の日常生活の継続や就労支援で,関係職種と合意・役割分担する

本稿は,1)福祉部門保健師として重要と思う支援,2)福祉部門保健師の業務に対する意見と工夫について把握し,保健師による自由記述から捉えた福祉部門での業務の特徴と,福祉部門において目指す役割機能について検討することを目的とする.

II. 研究方法

1. 調査項目

1)福祉部門保健師として重要と思う支援

2)福祉部門保健師の業務に対する意見と工夫

2. 研究対象

全国市役所791の福祉担当課保健師のうち,質問紙の上記調査項目に回答した370名分の記載内容である.

3. 情報収集方法

調査期間は2017年8月10日から10月31日で,質問紙は,全国市役所791の福祉担当課保健師宛に2部ずつ郵送し,封書による返送にて回答を得た.市役所のみに配布した理由は,町村の中には福祉部門に保健師を配置していない可能性が考えられたためである.調査の趣旨を説明する文書を同封し,家庭訪問援助の実践経験のある方に質問紙を配布くださるよう依頼し,配布枚数・方法は保健師代表者の裁量に任せ,返送をもって研究協力に同意したとみなす旨を記載した.家庭訪問援助の実践経験のある方からの回答を求めた理由は,保健師として個別支援ができるという前提を確保するためである.質問紙は,調査項目への自由な回答を促すため,先に福祉部門保健師による家庭訪問等の個別支援の20の内容項目(表1)を読み,それぞれの内容の個別支援を意図しているか(「常に意図している」「意図したことがある」「意図したことが無い」)・重要と思うか(「非常に重要と思う」「重要と思う」「重要とは思わない」)三件法で回答してもらったのちに記載する形式にした.ただし必ず記載を求めることはなかった.

4. 分析方法

調査者に対する労いやお礼などを除外し,残り全てを分析対象とした.記載内容は調査項目に沿った問いの回答欄に書かれていたが,2つの調査項目の回答内容かどうかで,一部移動させる必要があった.質問紙の記述回答は保健師の業務内容として捉えられるレベルの長さに分けて,これを記述データとした.繰り返し記載される表現を中心に取り出し,それを元に再び全体を読み返し,福祉部門保健師の業務の特徴を示す小見出しになる文言を取り出した.その文言を引用して,福祉部門保健師としての支援と意見と工夫で,「業務内容としての記述」の類似性が高い記述データのまとまりが示すものを「テーマ」とした.

つぎに調査項目ごとに記述データを概観し,テーマごとに分類した.記述データの概観とテーマごとの分類を繰り返し,相互の関係性で順に並べ検討する中でテーマ表記を洗練させた.また支援内容は対象の援助ニーズに沿うものであるため,回答者の担当業務(児童福祉,障害福祉,介護保険・地域包括ケア,生活保護,その他の5区分)ごとに整理した.

担当業務ごと,テーマごとに記述データを概観して,改めてテーマの表記が記述データの内容を総括できているか,抽象・具体のレベルに過度な偏りが無いかで見直し,取り出した文節の表記とともにテーマを加筆修正し,表35の最左列に総括テーマとして記した.これを共同研究者間で,合意が得られるまで繰り返し,保健師が捉えた福祉部門での業務の特異性・普遍性が概観できるよう整理した.

5. 倫理的配慮

郵送による質問紙調査であり,倫理的配慮として同封した依頼文書に次の内容を記載した.

具体的依頼事項は,①同封の質問紙への記入,②記入漏れがないか確認し返送用封筒にて無記名で返送,についてである.

研究協力に際して,①調査協力は自由な意思で決めて良いこと,②質問紙の回答と返送をもって研究協力の承諾とみなすこと,③調査協力の辞退で不利益がないこと,④回答内容はまとめて研究成果として公表するが,研究目的以外で使用はしないこと,⑤匿名性を確保することを約束する旨記載した.質問紙調査に際して,研究代表者の所属機関の「人を対象とし医療を目的としない研究倫理審査委員会」の承認を得た(承認番号:人29-03,承認年月日:2017年6月19日).

III. 研究結果

539名より質問紙回答が返送された.うち調査項目に回答があったのは370名(68.6%)で基本属性は表2のとおりである.職位が係長以上の回答者は142名(38.4%)で,特異的な回答は人材育成・職場環境づくりに関することのみだったため,職位を分けずに内容分析した.担当業務ごとの記載件数は,児童福祉50件,障害福祉125件,介護保険・地域包括ケア183件,生活保護18件,その他48件であった.

表2. 

自由記述した回答者の基本属性(N=370)

n(%)
所属機関形態 政令指定都市 6( 1.6)
中核市 40(10.8)
上記以外の市 322(87.0)
NA. 2( 0.5)
人口規模 1万未満 37(10.0)
1万以上3万未満 33( 8.9)
3万以上5万未満 61(16.5)
5万以上10万未満 109(29.5)
10万以上30万未満 91(24.6)
30万以上 29( 7.8)
NA. 10( 2.7)
所在地域 北海道・東北 55(14.9)
関東甲信越 121(32.7)
東海・北陸 68(18.4)
近畿 50(13.5)
中国・四国 29( 7.8)
九州・沖縄 47(12.7)
担当業務(複数回答) 児童福祉 50(13.5)
障害福祉 125(33.8)
介護保険・地域包括ケア 183(49.5)
生活保護 18( 4.9)
その他 48(13.0)
職位 課長・主幹・課長補佐等 62(16.8)
係長 80(21.6)
主査・主任等 150(40.5)
主事・技官等(保健師) 76(20.0)
NA. 2( 0.5)
年齢 50歳以上 121(32.7)
40歳代 153(41.4)
30歳代 77(20.8)
20歳代 17( 4.6)
NA. 2( 0.5)
保健師経験年数 3年未満 6( 1.6)
3年以上5年未満 8( 2.2)
5年以上10年未満 32( 8.6)
10年以上20年未満 127(34.3)
20年以上30年未満 134(36.2)
30年以上 61(16.5)
NA. 2( 0.5)
福祉部門配置年数 3年未満 106(28.6)
3年以上5年未満 69(18.6)
5年以上10年未満 106(28.6)
10年以上20年未満 45(12.2)
20年以上 2( 0.5)
NA. 42(11.4)

なお福祉部門保健師による家庭訪問等の個別支援の20の内容項目(表1)に対して,支援時に「常に意図している」「意図したことがある」の平均回答者数(割合)は522.0名(96.8%)で,「意図したことは無い」の平均回答者数(割合)は11.6名(2.1%)であった.また「非常に重要と思う」「重要と思う」の平均回答者数(割合)は525.6名(97.5%)で,「重要とは思わない」の平均回答者数(割合)は8.4名(1.6%)であった.

調査項目ごとの記述データ内容の分析結果は以下のとおりである.

1. 福祉部門保健師として重要と思う支援(表3

福祉部門保健師として重要と思う支援に関する記載内容をまとめ,質問紙から抜粋した記載例を表3右列に示した.総括テーマに【支援の目的が明確なハイリスクアプローチで関わる】【保健部門での支援と基本的なスタンス・内容は同じである】【当事者・家族の能力を活かし,常に最悪の事態を想定し,望む生活を実現・継続・維持する】【福祉部門の対象特性に合わせて,優先順位をつけ,関わる】【行政責任のもと継続支援に関わる】があった.

表3. 

福祉部門保健師として重要と思う支援(記載例)

総括テーマ テーマ 質問紙から抜粋した記載例
支援の目的が明確なハイリスクアプローチで関わる ハイリスクアプローチのソーシャルワークである 保健部門はポピュレーションアプローチ,福祉部門はハイリスクアプローチである(児童福祉10)
福祉部門のアプローチは,ケースワーク的要素が強い(障害福祉4)
(介護保険・地域包括ケア13)(その他4)
求められることが明確な目的に関わる 手続き(助成)や経済支援など,サービスの具体策がはっきりしている(児童福祉1)
行政の福祉サービスとして提供できる支援の範囲を明確にしている.サービスが当てはまるところへつながっていく(障害福祉2)
訪問や相談の目的がはっきりしていて当事者・家族にも比較的受け入れてもらいやすい(介護保険・地域包括ケア9)(その他1)
保健部門での支援と基本的なスタンス・内容は同じである 保健部門と変わりの無い個別支援をする 支援の視点の違いがあるが,基本的な支援の内容は変わらない(児童福祉3)
保健分野にしても,福祉分野にしても,「誰の,どんなニーズをどのように支援するのか」は同じ(障害福祉3)
保健師としての基本姿勢等は同じで変わらない(介護保険・地域包括ケア5)
福祉部門でも「生活」を見る視点・予防的視点を持つ 予防の視点は,福祉部内でも必要.関わる対象がちがうだけ(児童福祉1)
保健担当は「病気の予防」「保健衛生(ヘルス)」から生活を見るが,福祉は「生活」を主な視点に病気や障害を見る(障害福祉4)
福祉部門でも介護予防等,心身機能の悪化防止のための支援を行っている(介護保険・地域包括ケア1)(その他1)
福祉部門でも集団へのポピュレーションアプローチもする 集団へのポピュレーションアプローチも必要(児童福祉1)
地域包括ケアを進め,生活支援・地域づくり・重症化防止(介護保険・地域包括ケア1)
当事者・家族の能力を活かし,常に最悪の事態を想定し,望む生活を実現・継続・維持する 常に最悪の事態を想定し,地域で安心安全に暮らし続けられるようにする 母子分離が必要な段階か,常に最悪の事態を想定して支援する(児童福祉3)
地域で安心安全に暮らし続けられるようにする(障害福祉1)
生きていく生活ができているかどうかで介入の有無を決定する(介護保険・地域包括ケア1)(その他2)
当事者・家族が望む生活を実現・継続・維持する 当事者が望むことからスタートし,支援者の優先を押しつけない(障害福祉11)
当事者・家族が望む生活を継続・維持するためにどうしたらよいかの視点で対応する(介護保険・地域包括ケア8)(児童福祉3)
当事者・家族の能力を活かし健康生活の自立を支援する 不自由な部分を見て,自身で行える能力を活かした上で必要な支援を行う(障害福祉6)
健康管理支援は個別に生活状況・背景などを加味してスモールステップで目標設定する(生活保護1)(介護保険・地域包括ケア4)
福祉部門の対象特性に合わせて,優先順位をつけ,関わる 対象の特性に合わせる 福祉部門の訪問は対象者側への目的説明に気を使う(児童福祉1)
健康や疾病に関する業務ではなく,生活の困難さに対する支援が主である(障害福祉3)
病状の見立て,今後おこりうるリスクなど,盛り込み対応・助言する(介護保険・地域包括ケア3)
優先順位のつけ方・関わり方に違いはある タイミングなど入り方に,違いはある(児童福祉1)
ニーズの優先順位のつけ方が,保健部門と少し違うことがある(障害福祉3)
優先順位を考える(介護保険・地域包括ケア3)
行政責任のもと継続支援に関わる 行政の担当部署として最後まで引き受け,継続支援できるようにする 対応可能なサービスを所属部署で把握・共有し個々への対応に遅れがないようにする(児童福祉8)
継続支援がとぎれないよう担当者の引き継ぎする(障害福祉17)
当事者に寄り添い,いかに支援を継続していくかを考える(生活保護3)
当事者をそのまま受け入れ,同行支援等も含めた支援を行いながら最後まで引き受ける(その他2)(介護保険・地域包括ケア20)

*( )内の数字は担当業務ごとの類似の記述件数

例えば総括テーマ【保健部門での支援と基本的なスタンス・内容は同じである】は,「保健部門と変わりの無い個別支援をする」「福祉部門でも「生活」を見る視点・予防的視点を持つ」「福祉部門でも集団へのポピュレーションアプローチもする」のテーマから作成した.例えば障害福祉担当から〈保健分野にしても,福祉分野にしても,「誰の,どんなニーズをどのように支援するのか」は同じ〉〈保健担当は「病気の予防」「保健衛生(ヘルス)」から生活を見るが,福祉は「生活」を主な視点に病気や障害を見る〉等の記述があった.

総括テーマ【当事者・家族の能力を活かし,常に最悪の事態を想定し,望む生活を実現・継続・維持する】は,「常に最悪の事態を想定し,地域で安心安全に暮らし続けられるようにする」「当事者・家族が望む生活を実現・継続・維持する」「当事者・家族の能力を活かし健康生活の自立を支援する」のテーマから作成した.例えば介護保険・地域包括ケア担当から〈生きていく生活ができているかどうかで介入の有無を決定する〉〈当事者・家族が望む生活を継続・維持するためどうしたらよいかの視点で対応する〉等の記述があった.

2. 福祉部門保健師の業務に対する意見(表4

福祉部門保健師の業務に対する意見に関する記載内容をまとめ,質問紙から抜粋した記載例を表4右列に示した.総括テーマに【対象の援助ニーズが複雑で緊急度が高い】【保健師の役割が多岐に渡り,資質の向上が求められる】【制度・組織体制・上司の考え方により役割・対応が変わる】【他職種業務の一部も担う】があった.

表4. 

福祉部門の保健師業務に対する意見(記載例)

総括テーマ テーマ 質問紙から抜粋した記載例
対象の援助ニーズが複雑で緊急度が高い 課題の緊急度が高く,経済面も含め複雑で多岐である 緊急度が高く,虐待など状況悪化対応に追われる(児童福祉7)
疾患や障害が複雑に絡み,家族問題等多岐の課題を持つ(障害福祉13)
虐待や認知症状がひどく,入院が必要等,緊急度の高い訪問が多くなった(介護保険・地域包括ケア15)
課題がいくつも重複している場合が多く「重い」(その他2)(生活保護3)
健康より命が優先し,生きていけることが重視される 死亡等のリスクが高いケースに関わる.寄り添いよりも命が優先である(児童福祉5)
精神障害者の緊急対応が多く,命にかかわる事例の強制介入時期,方法を検討する(障害福祉3)
健康より,生きていけるかを見る(介護保険・地域包括ケア8)(生活保護1)
一般常識で計れない当事者・生活特性がある 当事者からの求めがない,一般常識とかけ離れ現実的でない場合が多い(児童福祉2)
世の中一般的な常識をあてはめられない生活をしている方も多い(介護保険・地域包括ケア39)
その人らしい暮らし方として原則どおりにいかないことも多い(その他2)(障害福祉20)(生活保護3)
本人よりも家族の思いが先行する 家族の関わり拒否が多い(障害福祉2)
家族の思いが先行し,当事者と意見がくい違うことも多い(介護保険・地域包括ケア6)
保健師の役割が多岐に渡り,資質の向上が求められる 予防と受容支援と状況解明,調停力が求められる 予防的視点と寄り添う支援が求められる(児童福祉2)
糖尿病で人工透析,脳血管疾患で障害等の申請・相談を受ける度,この状態の前に関われなかったかともどかしく感じる(障害福祉2)
当事者の受容との折り合いをつける働きかけが求められる(生活保護2)
問題がこじれている背景や,重複していること,それらを整理し,解明するのに時間を要し,体力をけずられる(その他2)(介護保険・地域包括ケア8)
専門以外の知識・視点が求められる より幅広い知識・他機関との連携が必要とされている(児童福祉1)
経済困窮や虐待等の対応で,専門以上の視点が必要となる(障害福祉11)
専門の知識以上のものを求められる(介護保険・地域包括ケア)
生活全般を把握して支援を考えることは共通だが,生活状況のより細かい部分,広い部分まで把握する必要がある(介護保険・地域包括ケア21)
柔軟性,規則遵守が求められる(その他3)(生活保護1)
制度・組織体制・上司の考え方により役割・対応が変わる 当事者ニーズよりも,法制度・国の方針に基づく支援になる 法律に基づく支援になる(児童福祉2)
法律に則って業務を遂行する(障害福祉5)
当事者ニーズより,制度にあわせ施策の方向性に重点をおく場合がある(介護保険・地域包括ケア8)(生活保護4)(その他1)
行政組織・管理職の考えにより保健師の役割も変わる マニュアルはあるが細部の動きは上司・課の考えにより決められる(児童福祉3)
所属する行政職トップの考えにより,役割も変わる(障害福祉8)
上司の方針により,ケースワークのやり方が違う(障害福祉)
保健師がやろうとすることと,組織の長が保健師にやって欲しいことが合致しないと意味がない(介護保険・地域包括ケア29)
ケースワーカーが支援内容を最終決定する(生活保護3)(その他3)
予防的視点が薄く対応が後手になる 予防的対応ならず後手になる(児童福祉5)
申請主義的な流れで予防的視点は薄い(障害福祉9)
当事者が困り,弱り,支えが必要になってからの関わりが多い(介護保険・地域包括ケア13)
福祉業務は保健予防業務とは質が異なる(その他1)(生活保護1)
他職種業務の一部も担う 福祉事務が主たる業務で,住民への直接・継続的支援が少ない 専門職だが扱いは一行政職だ(児童福祉2)
事務職優性で一般事務等が多い.複雑な福祉事務の一端を担わされる(障害福祉12)
個別支援,継続的支援に関わることは基本的にない(介護保険・地域包括ケア12)
ケースワークやりながら,他の事務的業務も担う必要がある(その他1)
ケースワーカーとして配置され,社会福祉士業務を担う ケースワーカーとの違いが明確でない(児童福祉1)
精神障害者等へのケースワーカーとして配置される(障害福祉11)
生活支援(ごみ捨て,家庭内喧嘩仲裁,買い物付添etc.)が主な業務になる(介護保険・地域包括ケア12)(その他1)

*( )内の数字は担当業務ごとの類似の記述件数

例えば総括テーマ【対象の援助ニーズが複雑で緊急度が高い】は,「課題の緊急度が高く,経済面も含め複雑で多岐である」「健康より命が優先し,生きていけることが重視される」「一般常識で計れない当事者・生活特性がある」「本人よりも家族の思いが先行する」のテーマから作成した.例えば児童福祉担当から〈緊急度が高く,虐待など状況悪化対応に追われる〉〈死亡等のリスクが高いケースに関わる.寄り添いよりも命が優先である〉等の記述があった.

総括テーマ【制度・組織体制・上司の考え方により役割・対応が変わる】は,「当事者ニーズよりも,法制度・国の方針に基づく支援になる」「行政組織・管理職の考えにより役割が変わる」「予防的視点が薄く対応が後手になる」のテーマから作成した.例えば介護保険・地域包括ケア担当から〈当事者ニーズより,制度にあわせ施策の方向性に重点をおく場合がある〉〈保健師がやろうとすることと,組織の長が保健師にやって欲しいことが合致しないと意味がない〉等の記述があった.

3. 福祉部門保健師の業務遂行のための工夫(表5

福祉部門保健師の業務遂行のための工夫に関する記載内容をまとめ,質問紙から抜粋した記載例を表5右列に示した.総括テーマに【対象理解と尊重,関わり方と程度,タイミングを見極める】【保健師だけで抱え込まないようにする】【多機関・多職種とのケア提供体制をつくる】【保健部門保健師と連携・役割分担する】【保健師の専門性・スキルを駆使して福祉に貢献する】【個別の課題解決に地域全体に働きかける】【役割を実現できる職場をつくる】があった.

表5. 

福祉部門の保健師業務遂行のための工夫(記載例)

総括テーマ テーマ 質問紙から抜粋した記載例
対象理解と尊重,関わり方と程度,タイミングを見極める 生活をありのまま受けとめる 当事者が長年暮らした生活をありのまま受けとめる(障害福祉3)
当事者がどう生きたいか考え,健康に悪いことも肯定的に関わる(介護保険・地域包括ケア11)(児童福祉1)
当事者の存在を肯定し尊重する 支援対象者が生活保護受給者であるかどうか,近隣住民に伏せておく必要がある(生活保護1)
存在を肯定する声をかける(その他3)(児童福祉1)(障害福祉8)(介護保険・地域包括ケア5)
家族・地域を含めて,まるごと見て尊重しあわせて支援する 当事者が現状の生活に至る背景を把握し,今後必要な支援のアセスメントと優先順位を企てる(生活保護1)(児童福祉2)(障害福祉15)(介護保険・地域包括ケア7)(その他3)
見守り続け介入のチャンスをのがさない 必要な支援も拒否する中,訪問等で見守り続け介入の時機を待つ(障害福祉2)
支援拒否やキーパーソンが誰もいないことを想定し,1回の支援のチャンスをのがさない(その他2)
複合した問題に家族も含めて広い視点で把握し生活支援する 当事者・家族,親族の生活状況,習慣,理解力,価値観,経済力,関係性など,広い視点で把握する(児童福祉2)
複合した問題を世帯全体で捉える(介護保険・地域包括ケア7)(障害福祉11)(生活保護4)(その他1)
地域・家族の力を損ねないよう,行政として支援しすぎない 行政がどこまで働きかけるか検討する.やりすぎると頼り自立できなくなる(障害福祉3)
地域・家族の力を損ねないよう,やりすぎない(介護保険・地域包括ケア2)
個別支援で安心して暮らせるようにする 当事者・家族が地域で安心して健康にくらせるように取り組む(介護保険・地域包括ケア25)(児童福祉2)(障害福祉13)(生活保護1)(その他3)
保健師だけで抱え込まないようにする 関係機関・職種と連携をとり支援していく できる限り関わる機関を多く巻き込むことが支援の質を上げていける(児童福祉11)(障害福祉29)(介護保険・地域包括ケア49)(生活保護1)(その他7)
他関係機関・他職種につなぎ協力する 完結できなくとも,他関係機関につなぎ協力して,結果的に総合的支援となるよう相談に乗る(障害福祉15)(児童福祉5)(介護保険・地域包括ケア13)(その他2)
活用できる資源を把握し掘りおこす 当事者や家族が住みなれた地域で生活を継続していくため,活用できる資源を把握し掘りおこす(介護保険・地域包括ケア6)(障害福祉1)
多機関・多職種とのケア提供体制をつくる 日頃から顔のみえる関係をつくる 定期的な連携会議で,顔の見える関係づくりをしている(介護保険・地域包括ケア5)(児童福祉3)(障害福祉5)(その他2)
関係機関・職種で情報共有する 関係機関で情報共有し,方向性の意思統一をする(児童福祉2)(障害福祉8)(介護保険・地域包括ケア13)(その他2)
当事者の都合に合わせた支援策と役割を決める 保健師の方針でなく,当事者の都合に合わせ,行ける人が行ける時に対応する(介護保険・地域包括ケア3)(児童福祉5)(障害福祉4)(生活保護2)(その他1)
他関係機関・他職種の意見を尊重する 他の専門職の意見を尊重しながら,保健師の意見も反映させる(介護保険・地域包括ケア35)(児童福祉2)(障害福祉7)(生活保護4)(その他2)
関係機関・職種のケアチームで支援する 中心となる支援者1人に責任を負わせず,相談のもと各々できることを考え対応する体制をつくる(児童福祉4)(障害福祉20)(介護保険・地域包括ケア19)(生活保護1)(その他1)
保健部門保健師と連携・役割分担する 地区担当保健師と事例を介して連携する 認定調査で気になったケースは,地区の担当につなぐ(介護保険・地域包括ケア12)(児童福祉2)(障害福祉13)(その他2)
分散配置された各部署の保健師で支援を役割分担する 他部署の保健師に繋ぎ,ケースワークがスムーズに進むよう後方支援的役割も大きい(生活保護1)(児童福祉3)(障害福祉9)(介護保険・地域包括ケア5)
保健と福祉のパイプ役になる 保健と福祉で意見が割れたとき,他職種が保健師に言えない時,福祉の判断根拠を伝える(児童福祉3)(障害福祉5)(介護保険・地域包括ケア1)(生活保護1)(その他1)
情報共有会議・研修を実施する 保健部門保健師と月例会議で情報交換し,施策化する(障害福祉1)(児童福祉1)(介護保険・地域包括ケア1)(生活保護1)
保健師の専門性・スキルを駆使して福祉に貢献する 専門職としてのスキルアップを心がける 「表現する力」「聴きとる力」「観察する力」のスキルアップを心がける(障害福祉4)(介護保険・地域包括ケア13)(生活保護1)(その他2)
自身の立ち位置を確認する 保健サイドでは理解されていることも他部間ではどうか?と立ち位置を確認する(児童福祉2)(障害福祉7)(介護保険・地域包括ケア1)(生活保護2)(その他1)
法を熟知し法的な根拠に基づき発言する 他課の制度も知り支援の幅を広げ,他の法律との折りあいをつける(障害福祉19)(児童福祉2)(介護保険・地域包括ケア25)(生活保護4)(その他2)
個別の課題解決に地域全体に働きかける まちづくりなど地域と繋げる ライフステージの視点をもって教育・雇用分野との連携,防災,まちづくりなど地域と繋げる(障害福祉3)(児童福祉1)(介護保険・地域包括ケア29)(生活保護1)(その他1)
地域に必要な支援体制を構築する 地域資源・関係機関を把握し,ネットワークを構築する(児童福祉3)
福祉・保健・教育で連携し,支援体制を構築する(障害福祉13)(介護保険・地域包括ケア10)(生活保護2)(その他1)
役割を実現できる職場をつくる 人材育成・討論・役割確認できる職場をつくる 良好な人間関係,討論できる職場をつくる(児童福祉3)
保健師の本来の役割を確認する場面を学ぶ研修をする(介護保険・地域包括ケア2)(障害福祉7)

*( )内の数字は担当業務ごとの類似の記述件数

例えば総括テーマ【保健師だけで抱え込まないようにする】は,「関係機関・職種と連携をとり支援していく」「他関係機関・他職種につなぎ協力する」「活用できる資源を把握し掘りおこす」のテーマから作成した.例えば児童福祉担当から〈できる限り関わる機関を多く巻き込むことが支援の質を上げていける〉等の記述があった.

総括テーマ【多機関・多職種とのケア提供体制をつくる】は,「日頃から顔のみえる関係をつくる」「関係機関・職種で情報共有する」「当事者の都合に合わせた支援策と役割を決める」等のテーマから作成した.例えば介護保険・地域包括ケア担当から〈定期的な連携会議で,顔の見える関係づくりをしている〉〈保健師の方針でなく,当事者の都合に合わせ,行ける人が行ける時に対応する〉等の記述があった.

総括テーマ【個別の課題解決に地域全体に働きかける】は,「地域に必要な支援体制を構築する」「まちづくりなど地域と繋げる」のテーマから作成した.例えば障害福祉担当から〈ライフステージの視点をもって教育・雇用分野との連携,防災,まちづくりなど地域と繋げる〉等の記述があった.

IV. 考察

福祉担当課保健師による家庭訪問等の個別支援についての意見と,福祉部門保健師の業務取り組み実態について,全国市役所保健師から広く把握するために,20の内容項目を読んで三件法で回答してもらった.これは事前に6人の福祉部門保健師による家庭訪問等の個別支援をまとめたものである.平均96%以上の回答者が各援助内容を支援時に「常に意図している」「意図したことある」および「非常に重要と思う」「重要と思う」ことを確認した.

本稿の結果は,この20の内容項目を読んで回答した後に,調査項目1)福祉部門保健師として重要と思う支援,2)福祉部門保健師の業務に対する意見と工夫,について記述された内容の分析であった.これにより1)保健師による自由記述から捉えた業務の特徴と,2)保健師が福祉部門において目指す役割機能について考察する.

1. 保健師による自由記述から捉えた業務の特徴

1) 福祉部門の業務で保健部門と共通する・異なる業務

福祉部門保健師が重要と思う支援に【支援の目的が明確なハイリスクアプローチで関わる】【福祉部門の対象特性に合わせて,優先順位をつけ関わる】【保健部門での支援と基本的なスタンス・内容は同じである】,福祉部門保健師の業務に対する意見に【対象の援助ニーズが複雑で緊急度が高い】,福祉部門保健師による工夫に【対象理解と尊重,関わり方と程度,タイミングを見極める】【保健師だけで抱え込まないようにする】があった.

このことから福祉部門の業務では,援助ニーズが複雑で緊急度が高く,その対象特性に合わせた緊急対応,慎重・迅速な判断を求められ,支援目的,役割・展開方法が保健部門とは異なってくる.しかし対象特性に合わせるということも含めて,基本的なスタンス・内容は共通していると考えられた.対人支援を担う専門職種は,当事者・家族の家庭・社会での生活状況を捉え,その家庭の実情に合わせた方法で,当事者・家族のニーズに対応するものであり(田村,20112022),めざすところは生活の継続にあることは共通する.

しかし福祉部門での対象課題はさらに困難・複雑・多岐にわたり,近年公衆衛生看護の実践の場では,複雑化した健康問題や生活上の問題を抱える「支援困難事例」への関わりが求められてきた(吉岡,2018).保健師だけで解決できないことが多く,資源を活かし関係機関を巻き込み,多機関・多職種との情報共有・連携・調整・役割分担を重視し,チームの中での保健師の専門性の示し方,保健部門保健師との連携が不可欠となる.

2) 福祉部門保健師の立場と求められる業務

福祉部門保健師が重要と思う支援に【行政責任のもと継続支援に関わる】,福祉部門保健師の業務に対する意見に【制度・組織体制・上司の考え方により役割・対応が変わる】【他職種業務の一部も担う】,福祉部門保健師による工夫に【役割を実現できる職場をつくる】があった.

このことから組織体制・上司が変わると,保健師の役割・対応も変わり,他職種業務の一部も担うものとのことだった.保健師の立場と業務内容は,制度・組織体制・上司の考え方で決まると考えられた.確かに組織の一員としての業務の担い方は,組織体制・上司の意向に沿うことが一般的である.逆に保健部門では,地区担当・業務担当としての保健師個々人の裁量が認められており,そのことが専門性に基づいた判断で業務を担ってきたという認識にもなっていたと考えられる.

保健師は支援の求めに応じるだけでなく,問題が存在・予測されるにも関わらず支援を求めない場合や,支援に至らない場合に,保健師側から積極的に援助の手を差し伸べる(宮﨑,2021).保健師の行う個人・家族への支援は,声にならない支援ニーズを捉え,断られたとしても,生活の場に出向き支援の糸口を見つけ出そうと働きかける(大木,2019),社会正義であり看護職の責務である.このような原則で保健部門の業務を担ってきた保健師にとっては,自身の業務内容を自分で決められないことは,専門職としてのあり様を問うことにもなると考えられた.

また質問紙記載内容から,「予防的視点が薄い」ことがあった.山田(2014)は,看護職が行う予防とは,疾病や障害を防ぐという視点とともに,人々の生活の全体像を捉え,生活の質の向上を目指す方向性をもった支援とし,「先を予測し取り組むべき問題を判断する」等の看護職の予防機能を整理している.

しかし福祉サービスは申請主義であると指導され,予防的観点が低いまたは無く,保健師らしい動きが出来ない.少しの合間で保健師本来の動きをする等,専門性を発揮しつつも保健師として出過ぎないようにするなどと,保健師の機能を控えざるをえない場合があることが分かった.

福祉部門では,多くの場合主事と共に申請事務・窓口対応を分担して担いつつ,本来の保健師としての専門性がどこまで発揮できるか,時間をかけた調整整備が必要な状況にあると考えられた.

3) 福祉部門保健師に求められる保健医療福祉の総合的能力

福祉部門保健師が重要と思う支援に【当事者・家族の能力を活かし,常に最悪の事態を想定し,望む生活を実現・継続・維持する】,福祉部門保健師の業務に対する意見に【保健師の役割が多岐に渡り,資質の向上が求められる】,福祉部門保健師による工夫に【保健師の専門性・スキルを駆使して福祉に貢献する】【個別の課題解決に地域全体に働きかける】【多機関・多職種とのケア提供体制をつくる】【保健部門保健師と連携・役割分担する】があった.

福祉部門保健師は,福祉行政スタッフとしての役割,保健師としての専門性,保健医療福祉の総合的な能力が求められていると認識していた.

川端ら(2020)は行政で働く新任保健師の困難に関する文献検討で保健師には,「保健,医療,福祉,介護等の関係部門に分散配置される中,住民に対する保健サービス等の総合的な提供や,地域における保健,医療,福祉,介護等の包括的なシステムやネットワークの構築とその具体的な運用において主要な役割を担っている」こと,それが実施できるような体制を整備することが求められていると総括している.結果から特に多機関・多職種との連携において,専門性の高い技術・調整能力が求められ,保健部門保健師との連携も含めて専門性を発揮しようとする姿勢があると考えられた.

2. 保健師が福祉部門において目指す役割機能

福祉部門保健師が重要と思う支援に【保健部門での支援と基本的なスタンス・内容は同じである】【当事者・家族の能力を活かし,常に最悪の事態を想定し,望む生活を実現・継続・維持する】があった.保健師は行政の保健部門から福祉部門に配置されても,家庭訪問等の個別支援への担い方に変わりはない.まずは当事者・家族の生活状況を捉え,その実情に合わせた方法で支援ニーズに対応する.福祉部門での立場と求められる業務を認識しつつ,予防的視点に基づく本来の機能を発揮させる必要があると考えられた.

他職種・他機関との連携もどの部門に配置されても重視されることで,まずは保健部門や他部署に所属する保健師同士の連携を図るところから始めるとより良いと考えられた.また保健師が配置された部署での連携先の,他職種・他機関との関係性の積み重ねが,次の配置先で活かされ,さらに新たな他職種・他機関との関係が形成され,支援ネットワークとなり得る.

福祉部門保健師による工夫に【個別の課題解決に地域全体に働きかける】があり,「まちづくりなど地域と繋げる」「地域に必要な支援体制を構築する」と,地域づくりも志向していると考えられた.当事者・課題が複雑困難で日々多岐に渡るため,公的な支援者だけの対応に限界がある.地域の住民の力を見出し,地域の力も投入できるよう整備する必要がある.例えば「高齢者の情報がはいってくるように広く地域住民とつながりをつくる」「近隣住民を巻き込んだ支援体制を構築する」「近隣住民の支える気持ちを引き出し,近隣住民の支援する力を高める」等,川本ら(2012)が生成した「保健師が近隣住民と協力して行う個別支援の内容」のカテゴリが地域づくりの方法として参考になる.

以上,福祉部門保健師による家庭訪問等の個別支援への担い方,予防的視点に基づく本来の機能の発揮,他職種・他機関との連携,近隣住民と協力して行う助け合い・支え合える地域づくりは,保健師が福祉部門においても継承し得る役割機能と認識されていることを確認した.

V. 結語

福祉部門保健師が捉える業務は,福祉行政スタッフとしての役割が求められ,多機関多職種連携においては専門性の高い技術・調整能力が求められると認識されていた.そして福祉の中においても地域づくりを志向しつつ,当事者・家族が地域で生活できるよう医療・介護・予防・生活の視点からの支援が検討されていた.

謝辞

本研究の質問紙にお応えいただき,意見を記載くださった福祉部門保健師の皆様に深く感謝申し上げます.

本研究の一部はJSPS科研費15K11847(H27–29)の助成を受けたものである.また本稿は,日本地域看護学会第22回学術集会示説報告した「行政の福祉部門に配置された保健師が捉える業務の特異性と専門性」に加筆した.

開示すべきCOI関係にある企業などはない.

文献
 
© 2023 日本公衆衛生看護学会
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