日本公衆衛生看護学会誌
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原著
アルコール依存症当事者のPerceived stigma:質的記述的研究
佐伯 実南蔭山 正子
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2024 年 13 巻 3 号 p. 150-157

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Abstract

目的:アルコール依存症当事者のPerceived stigma(当事者が認識するStigma)を明らかにすることを目的とした.

方法:医師からアルコール依存症の診断を受けている20歳以上の者に個別インタビューを行った.14名の逐語録を質的記述的に分析した.

結果:アルコール依存症当事者のPerceived stigmaとして,【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】,【当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている】,【アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない】,【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】,【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】という5つの大カテゴリが生成された.

考察:アルコール依存症当事者は周囲から病気を正しく理解されず,人間性を否定的に評価されたり,拒絶されていると感じており,苦痛を抱えていると考えられる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to describe perceived stigma among individuals with alcoholism.

Methods: Individual interviews were conducted with 14 individuals with alcoholism, and descriptive analysis was performed on the transcripts.

Results: Five categories were identified regarding perceived stigma among individuals with alcoholism; (i) an individual’s own will is the cause behind the inability to control drinking, (ii) an individual deviates from social norms, (iii) lack of understanding about the characteristics of alcoholism, (iv) negative evaluation of humanity just for individuals with alcoholism, and (v) individuals with alcoholism are rejected because they are unsafe and troublesome.

Discussion: Individuals with alcoholism are in distress because they feel that their illness is unclear for those around them and their humanity is rejected.

I. 緒言

我が国の精神障がい者数は年々増加している(内閣府,2021).近年は,アルコール依存症に社会的な関心が高まっており,法整備を含めた対策が進められてきた(厚生労働省,2022).アルコール依存症の患者(以下,当事者)の数は推計57万人だが(Osaki et al., 2016),受診患者数(2017年)は4.6万人と少なく(厚生労働省,2020),アルコール依存症は治療につながりにくい疾患である.

当事者が治療につながりにくい要因の一つに,誤解や偏見,否定的なイメージといったStigmaの存在がある.行政では様々な啓発事業が行われているが,アルコール依存症は他の精神疾患と比べて本人の意志の問題であるといった誤解や否定的なイメージが強く(小山ら,2011岡田ら,2014),Stigmaは根深い.Stigmaの存在は受診や地域生活の妨げとなることから,Stigmaを軽減させ,誤解や否定的なイメージを払拭するための効果的な啓発が必要である.

Stigmaの軽減には,当事者の姿に触れたり,体験談を聞くことが効果的だという報告がある(松田,2001)ことから,当事者の経験や思いを明らかにし,Stigmaの軽減に向けた取組みに役立てることが重要である.しかし,国内外のアルコール依存症のStigmaに関連する先行研究では,一般住民や支援職等の持つStigma(小山ら,2011森,2015岡田ら,2014),Stigmaが当事者に及ぼす影響(Birtel et al, 2017佐野ら,2019),Stigmaを軽減するための介入研究(Luoma et al., 2008Weine et al., 2016)が多く行われているものの,当事者の認識や視点に着目した研究は少ない.当事者の認識するStigmaはPerceived stigma(以下,PSとする)と言われ,当事者が認識する一般住民や地域社会からの偏見や差別等のことを指す(山口ら,2013).海外の先行研究では精神障がい者のPSに関する報告(Freidl et al., 2003)等が見られるもののアルコール依存症に焦点を当てた研究は見当たらない.また,日本においても当事者のPSに関する報告は見られない.

そこで,本研究は,当事者のPSを明らかにすることを目的とする.それにより誤解を正し,Stigmaを軽減するための啓発活動を検討する一助となり,アルコール依存症に対する社会の理解が深まることでより早期の治療や地域生活を送りながらの回復に貢献することが期待できる.

II. 方法

1. 用語の定義

Stigma:本研究では樫原ら(2014)の定義より,「特定の集団に対する否定的な認知・感情・行動」とする.

Perceived stigma:LeBel(2008)の定義を参考とし,本研究では,「当事者自身が実際に差別を経験したかどうかに関わらず,当事者の持つ特徴,あるいはその特徴を持つ当事者に対して,当事者が社会において自分以外の人から押し付けられていると認識しているStigma」とする.

2. 研究デザイン

質的記述的研究(グレッグ,2016)とした.

3. 研究協力者

アルコール依存症と診断された20歳以上の者を対象とした.依存症回復施設一か所の職員から,対象となる,施設の利用者や当事者スタッフの紹介を受けた.インタビューにより不安定になりうると施設職員が判断した方は除外した.研究者は,施設のミーティングに参加し,当事者の経験の理解や信頼関係の構築に努めた.

4. データ収集方法

インタビューガイドを用いた個別の半構造化面接とし,「アルコール依存症についてどのような否定的イメージ(誤解・偏見)を持たれていると思うか」「否定的イメージを持たれていると認識した場面」「本当の姿とはどう異なるのか」について質問した.対面でのインタビューを2022年8月に各1回行った.インタビュー時間は平均43±13(最短22-最長67)分であった.インタビュー内容は研究協力者の許可を得た上で,録音した.

5. 分析方法

質的記述的に分析した.音声データから逐語録を作成した.まず,文章全体を読み,「当事者のPSとはどのようなものか」に着目して文脈のまとまりごとに区切り,コードを作成した.コードを意味内容ごとに分類し,抽象度をあげて小カテゴリ,中カテゴリ,大カテゴリを生成した.結果の真実性を確保するために,分析過程において精神疾患および質的研究に精通している研究者のスーパービジョンを受け,解釈について検討した.分析結果は論文としてまとめた状態で研究協力者全員に渡し,返答のあった14名から納得できる結果だと回答があった.

6. 倫理的配慮

本研究は,大阪大学医学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(2022年6月3日承認,承認番号22043).研究の目的や参加,中断の自由等を口頭および書面で説明し,書面で同意を得た.

III. 結果

1. 分析対象者の概要

PSは,インタビューを実施した研究協力者15名中14名から語られた.1名は他者からのStigmaは認識しておらず,当事者である自分が自分以外の当事者に対してStigmaを持っていると語った.本研究は,当事者のPSを明らかにすることを目的としたため,協力者15名のうち,他者からのStigmaを認識していた14名を分析対象とした.分析対象者は女性7名,男性7名であり,年齢は20–80歳代であった.入院歴あり12名,現在の通院治療あり9名,なし5名であった.施設の利用者は8名,当事者スタッフは6名であり,診断後経過年数は利用者が平均4±2(最短1-最長6)年,当事者スタッフが平均31±14(最短14-最長53)年であった.

2. アルコール依存症当事者のPerceived stigma

592のコードから,31の小カテゴリ,12の中カテゴリ,5の大カテゴリが生成された(表1).

表1. 

アルコール依存症当事者のPerceived stigma

大カテゴリ 中カテゴリ 小カテゴリ
飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている やめようと思っても,意志が弱く,やめられない 意志が弱いからやめられない
自分次第でやめられる
またそのうち飲み始める
飲みたいから飲んでいる 酒が好きで飲んでいる
自分の意志で飲むことを決めている
当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている 夜だけではなくいつも酔っ払っている 昼間なのに酔っ払っている
一日中いつも酔っ払っている
働くべきなのに働いていない 働くべきなのに働いていない
酔っ払ってちゃんと仕事をしない
女性なのにアルコール依存症になるなんてとんでもない 女性なのに大量に飲酒している
女性のアルコール依存症当事者はだらしない,汚い
女性なのにアルコール依存症当事者になるなんてとんでもない
アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない 世間でアルコール依存症当事者の年齢や回復のしやすさに関して理解されていない アルコール依存症当事者でも簡単に飲酒をコントロールでき,回復できる
若い人はアルコール依存症にならない
医療従事者がアルコール依存症の病因や回復の経過について正しく理解していない アルコール依存症は遺伝・体質は関係ない病気である
アルコール依存症は必ず再飲酒して死に至る病気である
アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される アルコール依存症当事者は怠けていてだらしない アルコール依存症当事者はだらしない
アルコール依存症当事者は怠けている
アルコール依存症当事者はかわいそう,気の毒 精神疾患よりアルコール依存症の方がひどい,かわいそう
飲酒してふらふら歩いて気の毒な人
アルコール依存症当事者であるというだけで人格否定される アルコール依存症当事者は頭がいかれている
アルコール依存症当事者はきちがい
アルコール依存症当事者は人間のくず
アルコール依存症当事者はだめ人間
アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている アルコール依存症当事者に迷惑をかけられそう アルコール依存症当事者は大声を出す,怒鳴る
アルコール依存症当事者はそこらへんで吐いている,そこらへんで寝転んでいる
アルコール依存症当事者は家賃を滞納する,部屋を汚くする
アルコール依存症当事者は危険,怖い アルコール依存症当事者は危ない人間
アルコール依存症当事者は怖い
アルコール依存症当事者は飲酒して暴れる
アルコール依存症当事者は事件を起こしそう

以下,14名から語られたPSをカテゴリごとに述べる.大カテゴリを【 】,中カテゴリを〖 〗,小カテゴリを[ ]とし,研究協力者の語りを「斜体」で示した.

1) 【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】

この大カテゴリは,実際にはアルコール依存症という疾患の特性上,飲酒をコントロールできない状態であるが,飲酒をコントロールできないのは意志の問題だと思われてしまうというStigmaである.

(1) 〖やめようと思っても,意志が弱く,やめられない〗

当事者は,「俺も酒は好きやけど,お前ほど意志が弱くはないぞと言われましたよね.」と実際に言われた経験から[意志が弱いからやめられない]と思われていると認識していた.また,家族に「お前次第で(酒を)やめられるやろっていう風に言われ」た経験から,[自分次第でやめられる]と思われていると認識していた.この他にも,当事者は,「一般の人からしたら,例え僕らがお酒をまあ,やめれる力をつけて,飲まないでいける力をつけて,○○(依存症回復施設)を出て帰ったにしても,多分またそのうち飲むやろっていうことは多分みんな思うと思います」と語り,[またそのうち飲み始める]と疑われていると認識していた.

(2) 〖飲みたいから飲んでいる〗

当事者は,飲酒をコントロールできなくなり,飲みたくなくても飲んでしまう状態に陥ることを説明しても,「最終的に自分の意志で決めるん違うの?」と言われた経験から,[自分の意志で飲むことを決めている]と思われていると認識していた.また,「ただのお酒が好きなだらしない人間って思われてんのかな」と語っており,[酒が好きで飲んでいる]と思われていると認識していた.

2) 【当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている】

この大カテゴリは,昼間には素面で働き,夜に節度ある飲酒をすべきであるという社会通念および女性は大量に飲酒するものではないという社会通念から,当事者が逸脱していると思われるというStigmaである.

(1) 〖夜だけではなくいつも酔っ払っている〗

当事者は,酒を買いに行く場面で「いっつもこの人はお酒.こんな時間に何してるんだろう,お昼とか朝とか買いに行くからね,(中略)変な目で見られてるんやろうな」と認識しており,昼間に酒を買いに行き[昼間なのに酔っ払っている]ことを否定的に見られていると思っていた.また,当事者は「一日中飲んだくれてべろべろで(中略)碌な人間じゃない」と思われていると感じており,[一日中いつも酔っ払っている]ことを否定的に思われていると認識していた.

(2) 〖働くべきなのに働いていない〗

当事者は,警察に「アル中が何ふらふら酒でも買いに行きよんか,真面目に働かんかい」と話しかけられた経験から,実際は働きたくても働くことができない状態であるが,[働くべきなのに働いていない]と思われていると認識していた.また,職場で当事者は「また酔っ払ったまま二日酔いで来てる」と陰口を言われて冷たい態度を取られた経験が語られ,[酔っ払ってちゃんと仕事をしない]と思われていると認識していた.

(3) 〖女性なのにアルコール依存症になるなんてとんでもない〗

女性の当事者は,父親から,「女がそんな大量にお酒飲んで」と言われた経験から,[女性なのに大量に飲酒している]ことを否定的に思われていたり,「男性から見ての女性のアルコール依存症者は,汚い,だらしないで,もう一瞬にして離れていく」と,男性は[女性のアルコール依存症当事者はだらしない,汚い]と思っていたりすると認識していた.また,男性の当事者から「女だてらに依存症なりよって」,「あんた子どもも産んでないのにアル中になったんか」と言われた経験から,[女性なのにアルコール依存症当事者になるなんてとんでもない]と思われていると認識していた.

3) 【アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない】

この大カテゴリは,アルコール依存症という病気の特徴について,世間において,あるいは医療従事者にも正しく理解されていないというStigmaである.

(1) 〖世間でアルコール依存症当事者の年齢や回復のしやすさに関して理解されていない〗

当事者は,職場において「本当は飲めるんだろ?みたいな,飲めないって言ってるんだけどちょっとぐらいいいんじゃないのかとか,やっぱそういう,もう何年かやめてるから飲めるんじゃないかとか」周りに言われた経験から,少し飲んで,飲むことをやめるというコントロールが可能である,すなわち[アルコール依存症当事者でも簡単に飲酒をコントロールでき,回復できる]と誤解されていると認識していた.また,当事者は,友人と会話している場面について,「アル中はおっさんがなる病気やとか,だからお前はアル中じゃないって言われたり,なんですかね,逆に,若いのにアル中になったって終わってんなみたいな,歳いったらなるもんやろみたいな」と語っており,[若い人はアルコール依存症にならない]と誤解されていると認識していた.

(2) 〖医療従事者がアルコール依存症の病因や回復の経過について正しく理解していない〗

当事者がアルコール依存症以外の疾患で受診して精神科以外の医師と話した場面で,「体質の病気やから,意志の病気じゃないからって言ったら,そんなわけないやろって医者に言われて,だから遺伝とかそんなわけないやろ,みたいなこと言われた」経験が語られ,[アルコール依存症は遺伝・体質は関係ない病気である]と誤解されていると認識していた.また,健康診断を受けた場面で,精神科以外の医師から「今やめてても,お酒を,必ず飲んで死に至る病気」だと言われた経験から,[アルコール依存症は必ず再飲酒して死に至る病気である]と誤解されていると認識していた.

4) 【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】

この大カテゴリは,当事者について,漠然とした人物像を持たれており,本人がどのような人であるかに関わらず,当事者というだけで人間性を否定的に評価されるというStigmaである.

(1) 〖アルコール依存症当事者は怠けていてだらしない〗

当事者は,世間は「だらしがなくて,どうにもならなくて,怠けもので,飲んだくれで,ってね,思うと思いますよ」と語っており,[アルコール依存症当事者はだらしない]と思われていると認識していた.また,当事者は,アルコール依存症について「やっぱり理解はされてないでしょうね.そういう,怠けぐせとか,ただお酒が好きとか,僕自身もそう思ってましたからね.そういうことを思われてると思いますね」と語っており,[アルコール依存症当事者は怠けている]と思われていると認識していた.

(2) 〖アルコール依存症当事者はかわいそう,気の毒〗

当事者は,入院時に精神疾患の患者と会話した場面で「なんか潜在的に,自分たちより,精神(疾患)の患者さんたちより,アルコール(依存症)の方がひどいみたいな,かわいそうだと思われたこともあった」と語っており,[精神疾患よりアルコール依存症の方がひどい,かわいそう]と思われていると認識していた.また,近所の知り合いに,「知り合いとかには気の毒な人やなっていう目で見られてる」と感じており,[飲酒してふらふら歩いて気の毒な人]と思われていると認識していた.

(3) 〖アルコール依存症当事者であるというだけで人格否定される〗

当事者は,世間ではメディアの影響で「いっぱい飲んで頭までいかれてしまったんやっていう人が多いと思いますよ.」と語っており,[アルコール依存症当事者は頭がいかれている]と思われていると認識していた.また,友人から「きちがいやわとか,なんか,アルコール依存症って人間のくずやなとか」と言われた経験から,[アルコール依存症当事者はきちがい],[アルコール依存症当事者は人間のくず]というStigmaがあると認識していた.この他にも,「世間がそういう偏見で見てるから依存症者はあかんねん,ダメ人間やって決めつけられる」と語っており,当事者であるというだけで[アルコール依存症当事者はだめ人間]だという評価を押し付けられていると認識していた.

5) 【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】

この大カテゴリは,実際に一部の当事者には飲酒して酔っ払い,迷惑をかける,危害を加える人もいるが,そういったことをしない当事者もいるにもかかわらず,同様の印象を持たれているというStigmaである.

(1) 〖アルコール依存症当事者に迷惑をかけられそう〗

アルコールでひどい人たちね.そこらへんで吐いてたりとかね,うん.大声でしゃべったりとか,馬鹿騒ぎしたりとか,そういうんじゃないかな.(中略)だらだら寝転んでる人,そこらへんで倒れてる人,その人たちのイメージが世間の人のアル中の人のイメージはそういうイメージだろうなと思う」と語っており,[アルコール依存症当事者は大声を出す,怒鳴る],[アルコール依存症当事者はそこらへんで吐いている,そこらへんで寝転んでいる]と思われていると認識していた.また,依存症回復施設で使用する部屋を借りようとして断られた場面で,断られた理由を明確には言われなかったが,「お金を滞納するとか,家賃,汚くするとかね.そんなことは全然ないんだけどね.」と語っており,[アルコール依存症当事者は家賃を滞納する,部屋を汚くする]と思われていると認識していた.

(2) 〖アルコール依存症当事者は危険,怖い〗

当事者は,飲酒していた時期を振り返って「やっぱり,危ない人間やって思われてもしょうがないんかな.」と感じており,[アルコール依存症当事者は危ない人間]と思われていると認識していた.また,依存症回復施設に対して住民の反対の声があがった場面では,「自分のところに来たら怖いというね,イメージが持たれてる」ことから拒絶されたと感じており,[アルコール依存症当事者は怖い]と思われていると認識していた.この他にも,「世間一般の,その,だらしがないとか,仕事もせずにぶらぶらしてるとか,暴力的だとか,そういうことは病気の症状で確かにあるのでね.ひどいときは.」という語りから,当事者全体がそうではないにもかかわらず,[アルコール依存症当事者は飲酒して暴れる]と思われていると認識していた.この他にも,当事者は,施設利用開始後に友人と会話した場面において,「少し前にめっちゃイライラして,めっちゃイライラするってことを言った時に,人は殺すなよとか,そういうのを冗談じゃなくてめっちゃ真顔で言ってくるんですよ.」という経験を語っていた.また,飲酒して暴れてしまった場面において,警察に「お前アル中やろ,(中略)こんなに平和なまちでそんなおってもらったら困るから早く出て行けとかね,そういうことは言われましたね,アル中でね.事件とか起こされたら困るって.」という経験を語った当事者もおり,[アルコール依存症当事者は事件を起こしそう]と思われており,近くにいてほしくないと強く拒絶されていると認識していた.

IV. 考察

1. アルコール依存症当事者のPerceived stigma

当事者は,【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】と認識していた.これまでの調査でも,一般住民の44.1%がアルコール依存症を意志の問題だと回答していたという報告(岡田ら,2014)や一般住民の43.7%が「本人の意志が弱いだけであり,性格的な問題である」というイメージを持っている(内閣府政府広報室,2021)という報告があり,当事者の飲酒行動が本人の意志にもとづいているという誤解がある.アルコール依存症は飲酒をコントロールできない疾患であるが,一般住民には理解が難しく,当事者も理解されないことに苦痛を感じていると考えられる.

【当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている】というPSが明らかになった.実際に,一般住民の51.4%は「昼間から仕事にも行かず,酒を飲んでいる」というイメージを持っていると報告されている(内閣府政府広報室,2021).飲酒は通常夜間に行われることが多いが故に,昼間に飲酒する姿への一般住民の視線は厳しく,社会通念から逸脱していると捉えられやすいと考えられる.また,本研究では〖女性なのにアルコール依存症になるなんてとんでもない〗という女性特有のPSが明らかになった.女性当事者は,女性の飲酒に対する偏見と無理解を体験しているという報告(片丸ら,2008)があり,女性がアルコール依存症を罹患した場合,Stigmaがより一層強くなると考えられる.この PSは,一般住民だけでなく,男性当事者から女性に向けられた言葉で生じていることもあった.当事者は,アルコール依存症という疾患に対して一般住民からのStigmaを認識してつらい思いをしている一方,今回のインタビューでは男性当事者から同じ当事者の女性に一般住民と同様にStigmaを向けられた経験が語られた.このことから,当事者間においてもStigmaは生じるということが明らかになった.

【アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない】という大カテゴリのうち,[アルコール依存症当事者でも簡単に飲酒をコントロールでき,回復できる]というPSがあった.先行研究では,一般住民の当事者の生活上の理解として「どんな時にも酒をやめ続けなければならない」と正しく理解していた人が49.4%と約半数いた一方で,「飲むお酒の量をほどほどに保たないといけない」と正しく理解していない人も38.8%いた(岡田ら,2014).断酒を継続しなければ回復できないという理解はまだ十分に得られていない.本研究においても実際に当事者が周囲から飲酒を勧められる場面も語られており,当事者の回復のしやすさへの理解がなく協力が得られにくい状況となっている可能性が考えられる.理解や協力を得られないと当事者が感じると一人で断酒に取り組む孤立感はますます断酒継続を困難にすると考える.

〖医療従事者がアルコール依存症の病因や回復の経過について正しく理解していない〗というPSが明らかになった.精神科看護師を対象とした先行研究(後藤ら,2022)では,アルコール関連問題について24.3%が「社会復帰は無理だと思う」と回答し,誤解していたと報告されている.本研究で,精神科以外の医師から[アルコール依存症は遺伝・体質は関係ない病気である],[アルコール依存症は必ず再飲酒して死に至る病気である]というPSが見い出されたように,医師や看護師等,専門的な教育を受けた者であっても正しく理解していないことがある.当事者は一般住民だけでなく,医療従事者からも理解されない状況にあり,より一層強い苦痛を感じている可能性がある.

【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】という大カテゴリでは,〖アルコール依存症当事者は怠けていてだらしない〗,〖アルコール依存症当事者はかわいそう,気の毒〗というPSがあった.一般住民を対象とした調査(小山ら,2011)では,アルコール依存症は統合失調症やうつ病と比較して「怠惰な」イメージであり,他の精神疾患よりは少ないものの「気の毒だ」というイメージがあることが報告されている.

〖アルコール依存症当事者であるというだけで人格否定される〗というPSについては,日本で一般住民からのStigmaとして存在するという報告はこれまで見当たらなかった.そのため,支援する者は当事者が一般住民から想像以上の差別を受けているかもしれないことを認識して支援にあたることが望まれる.

【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】という大カテゴリのうち,[アルコール依存症当事者は飲酒して暴れる],[アルコール依存症当事者は大声を出す,怒鳴る]というPSがあった.一般住民はアルコール依存症に「酒に酔って暴言を吐き,暴力を振るう」というイメージを持つ(51.7%)という報告(内閣府政府広報室,2021)がある.本研究では,実際に飲酒して酔っ払った状態で暴力を振るった経験も語られた.しかし,全ての当事者が飲酒したら暴力を振るうわけではない.特に飲酒していない状態の当事者は暴力を振るうことはないにもかかわらず,当事者であるというだけで暴力を振るうイメージを押し付けられていた.そのため,当事者の暴力的なイメージを払拭する必要がある.

[アルコール依存症当事者は事件を起こしそう]というPSがあった.日本で一般住民からのStigmaとして存在するという報告は見られなかった.しかし,実際には当事者は事件を起こすのではないかと一般住民に思われて地域の中で排他的な扱いを受けている可能性があるため,支援する者は留意する必要がある.

2. 実践への示唆

アルコール依存症を含む依存症についてはこれまでもアルコール関連問題啓発週間のポスター掲示・フォーラムや相談事業の開催等(アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク,2023),民間団体による書籍出版・講演会等(特定非営利活動法人ASK,2023特定非営利活動法人ジャパンマック,2023)が行われている.これらの啓発活動の実施にもかかわらず,本研究では当事者が一般住民からの様々なStigmaを認識していたため,一般住民への啓発方法には更なる検討の余地がある.

本研究では,当事者は【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】,[アルコール依存症当事者でも簡単に飲酒をコントロールでき,回復できる]と思われていると認識していた.これらのStigmaは,アルコール依存症が当事者の意志と関係なく飲酒をコントロールできない疾患であるということが一般住民には理解が難しいことを示していると考えられる.啓発活動を行う際は,飲酒のコントロールができない疾患であることや,意志だけで回復することはなく専門的な治療が必要であることを積極的に伝える必要がある.

また,当事者は【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】と認識していた.アルコール依存症には飲酒しているイメージが強く,回復できるというイメージが持たれにくいという可能性が考えられる.回復した当事者が体験談を話す等,一般住民が回復のイメージをもちやすいように工夫した啓発活動が必要である.

当事者は【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】と認識していた.当事者は暴力的で事件を起こすイメージを強く持たれやすいと考えられるため,当事者が回復できることを知ってもらうことは有効だと考える.

断酒会員が体験談を語る際は,支援者の関与を受けずに相談せずに発表することが多い(朝比奈,2022).しかしながら,一般住民を対象として当事者が体験談を発表する際は,意志の問題ではなく病気であること,回復する病気であること等が伝わるように保健師等と相談しながらStigmaを効果的に払拭できる内容とすることも重要であると考えられる.

3. 研究の限界

本研究における限界として,まず,研究協力者は,都市部にある単一施設の利用者および勤務する当事者スタッフに限定されているため,都市部以外の状況を十分記述できているとは言えない.協力者の年代が20–80代と幅広く,年代による経験の差があっても記述できていない可能性がある.更に,幅広い年代の協力者が過去の経験を思い出して語ったため,正確性や完全性に差が生じている可能性がある.

これらの限界はあるものの,本研究は日本においてほとんど報告がない,当事者のPSを具体的に明らかにしており,一定の意義があると考える.

V. 結論

本研究は,アルコール依存症当事者のPerceived stigmaを明らかにすることを目的とし,15名に個別インタビューを実施した.PSについて語った14名を分析対象とし,質的記述的に分析した結果,【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】,【当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている】,【アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない】,【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】,【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】というStigmaをアルコール依存症当事者が認識していることが明らかになった.

謝辞

本研究にご協力いただいた皆様にお礼申し上げます.本論文は,2022年度大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻修士論文を修正したものである.本研究で開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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