日本公衆衛生看護学会誌
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原著
都市部に在住する中壮年期男性が認識する近隣とのつきあい
瀬尾 采子平野 美千代
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2024 年 13 巻 3 号 p. 177-185

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Abstract

目的:本研究は,都市部に在住する中壮年期男性が捉える今の近隣とのつきあいの認識を明らかにすることを目的とする.

方法:研究デザインは質的記述的研究とし,区役所に勤務する50~64歳の男性15名を対象に半構造化面接を実施した.

結果:都市部に在住する中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識として,【一線を越えたくない】,【関係性はなかなか発展させづらい】,【互いを認識できる関係性はあった方がよい】,【関係作りにはきっかけがいる】,【現在や将来の生活を守りたい】,【トラブルを起こさず安心して暮らしたい】の6カテゴリー,《今と将来の生活のための潜在的な予防線》の1コアカテゴリーが抽出された.

考察:これからの近隣とのつきあいの促進について,中壮年期のうちから近隣の人と挨拶を行い,互いを認識する程度の緩いつながりが途切れない地域づくりを行っていくことの重要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: The aim of this study was to clarify perceptions of current neighborhood associations by middle-aged men living in urban areas.

Methods: A qualitative descriptive research approach was adopted for this study. Semi-structured interviews were conducted with 15 men aged 50–64 years who were working in ward offices.

Results: The following six categories were identified as perceptions of middle-aged men living in urban areas in terms of their relationships with their neighbors: “Didn’t want to cross the line,” “It’s not easy to develop relationships with neighbors,” “It was better to have a relationship in which [they] could recognize each other,” “Needed a chance to build a relationship with neighbors,” “Protecting their own and their family’s present and future lives,” and “Living without any troubles.” A core category of “Potential preventive line for their present and future lives” was also extracted.

Discussion: The results suggest the importance of greeting neighbors and creating a community in which people can maintain a loose relationship of mutual recognition.

I. 緒言

高齢者の社会的孤立について,男性に孤立状態の割合(斉藤ら,2009)や,孤立の発現率が高い(江尻ら,2018)ことが報告されている.社会的孤立は高齢者の生きがいの低下や孤独死の増加(内閣府,2011),高齢者の障害,疾患からの回復不良,早期死亡のリスク(Berkman et al., 2003)になる.これらのことから,男性高齢者の社会的孤立は特に対策すべき重要な事項であると考えられる.

高齢者の社会的孤立の予防には,近隣とのつきあいが有効であると考えられる.近隣とのつきあいがない人はある人に比べて有意に社会的孤立状態であり(中尾ら,2023),親しい近隣がいない者は孤立を有意に高める(小林ら,2015).また,地域の人々への信頼度の高さは社会的孤立状態の低さに関連し(田中ら,2018),高齢者の地域への関わりを促進することが社会的孤立の予防に効果的である(根来,2021).社会的孤立の予防には地域の人とのつながり,すなわち近隣とのつきあいが重要であると考えられる.さらに,孤立予防対策として,退職前から地域社会での交流を促す対策の必要性が示唆され(伊藤ら,2020),壮年期より地域での活動機会をもち,地域への人々への信頼度を育むことが社会的孤立の予防に重要である(田中ら,2018).これらの先行研究は高齢者を対象に調査しているが,この結果は,中壮年期の近隣とのつきあいを考える上で重要な示唆を提示していると考える.

日本の近隣とのつきあいの現状は,近隣とよくつきあっている者の割合は1994年45.9%,2002年21.1%であったのに対し,2022年は8.6%に減少しており(内閣府,2023),近隣とのつきあいが希薄化している.また,近隣とよくつきあっている者の割合は,大都市において2002年14.7%,2022年4.8%であり,町村部では2002年28.8%,2022年11.8%である(内閣府,20142023).これらのことから,近隣とのつきあい方が時代と共に変化し,それに伴い関係性も希薄化している.特に都市部において近隣とのつきあいの希薄化が顕著であると考えられる.

ここで,中壮年期男性の近隣とのつきあいについて着目すると,中壮年期男性は定年退職前は職場の人間関係が社会そのもので地域との関係が希薄になっている(船山ら,2007).また,55歳~59歳は60歳以上に比べ近隣のネットワークが小さい(Windson et al., 2011)という特徴があることから,中壮年期男性は,近隣とのつきあいの程度が小さいことが推測される.高齢者の社会的孤立予防には,中壮年期から近隣とのつきあいを行うことが有効であると考えられる.しかし,中壮年期男性は,就労により地域にいる物理的な時間が少なく,近隣とのかかわりや地域とのつながりをもつ機会が少ないことが予測される.地域や近隣住民とのつながりがより必要になる高齢期に入る前から,近隣とのつきあいを促進することが重要であると考えられる.しかし,就労している男性が近隣とのつきあいをどのように認識し,近隣とのつきあいに対して何を求めているかは明らかになっておらず,中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識を明らかにすることは重要である.そこで本研究は,都市部に在住する中壮年期男性が捉える今の近隣とのつきあいの認識を明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 用語の定義

認識は広辞苑では物事を見定めその意味を理解すること,物事を知る作用および成果の両者を指す(新村,1998).本研究はこれを参考に,近隣とのつきあいの認識を,「近隣とのつきあいに何を求め,近隣とのつきあいをどのように見定めているのか,見定めるまでに生じた思い」と定義する.また,中壮年期を「50~64歳の退職を約10年後に控え,退職後の生活を視野に入れ始める年代」と定義する.

2. 研究デザイン

本研究は,都市部に在住する中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識に着目しており,この認識は個人の経験や文脈から導き出される現象である.そのため,研究参加者から語られた近隣とのつきあいの認識という現実を抽象化して記述する質的記述的研究を用いて行った.

3. 研究参加者

研究参加者はA市に居住し,B区役所に勤務する50~64歳の男性15名とした.研究参加者を区役所に勤務する者とした理由は,内閣府の調査において,自営業者は,雇用者に比べて近所付き合いの程度が大きいこと(厚生労働省,2006)が示されており,近隣とのつきあいの認識は,職種や生活スタイル等によって異なることが予測された.そのため,比較的規則的な生活スタイルを有すると考えられる公務員に研究参加者の職種を限定し,研究参加者が認識する近隣とのつきあいに関する認識を明らかにすることが研究の第一段階として適切であると考えた.

対象選定は,B区役所の管理職に書面と口頭にて研究協力及び研究参加者の紹介を依頼し,B区役所から15名の紹介を受けた.なお,A市に居住していることを選定条件として,管理職に研究参加者の紹介を依頼した.紹介された研究参加者に文書と口頭にて研究協力を依頼し,研究参加への同意は同意書の署名をもって得た.

4. データ収集

2023年2月~6月,研究参加者一人につき20分~80分(平均57分)の面接を実施した.本研究では半構造化面接を用い,質問内容は,「現在近隣とのつきあいをどのように行っていますか」,「現在の近隣の人,近隣とのつきあいに求めているものや求めている関係性はありますか」,「退職後に求める近隣とのつきあいと現在行っている近隣とのつきあいに違いはありますか」とした.現在行っている近隣とのつきあいや近隣とのつきあいの認識に,退職後の将来の近隣とのつきあいに求めているものが関わっている可能性があると考え,退職後に関する質問を含めた.

本研究では研究参加者のありのままの近隣とのつきあいの認識を語ってもらうために近隣の範囲を定義せずに,それぞれの研究参加者が示した近隣の範囲での近隣とのつきあいの認識についてインタビューを行った.

研究参加者に面接開始前にフェイスシートに記入をしてもらい,年齢,居住年数,居住形態,同居者の有無,自分が思う近隣の範囲,普段から交流がある人を確認した.なお,面接の内容は研究参加者の了承を得てICレコーダーで録音した.

5. 分析方法

分析では,研究参加者から語られた近隣とのつきあいの認識という現実を抽象化して記述する質的記述的研究を用いて行った.録音した面接の全内容の逐語録を作成しデータとし,データから中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識に関連するまとまりを取り出し,コードとした.そして,類似した内容のコードを集約しコード群ごとに内容を表す名前を付け最終コードとし,同様の手順で最終コードを集約しサブカテゴリーとした.さらにサブカテゴリーの共通点,相違点について比較しながら分類し,内容を検討してカテゴリーの名称を付け抽象化した.カテゴリーの抽出は,データ,コード,サブカテゴリーに戻りながら,慎重に抽象度を高めていった.その後,6つのカテゴリーの間の関係性を検討し,中壮年期男性が認識する近隣とのつきあいの全体を説明する中核となるコアカテゴリーを抽出し,さらにコアカテゴリーとカテゴリーを用いて中壮年期男性が認識する近隣とのつきあいを文章化したストーリーラインを作成した.

データの真実性を保証するため,インタビューから分析過程の全過程において濃厚な記述を行い,研究の一貫性や確証性を確保するために研究プロセスを明確に示した.また,コード抽出後に逐語録とコードをもとに研究者間でコードの内容を確認し,研究者間で合意が得られるまで検討を重ねた.さらに,協力が得られた研究参加者14名にコアカテゴリー,カテゴリー,サブカテゴリーの確認を依頼し,一部の人より特定のカテゴリーの表現に対する指摘があったため,指摘があったカテゴリーの表現を修正した.

6. 倫理的配慮

本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会による承認を受け実施した(2023年1月4日承認).調査に当たっては研究参加者の権利を保護するため守秘義務,研究協力を辞退する権利,データの保管と研究終了後の処分等について研究参加者に口頭及び文書で説明した.

III. 研究結果

1. 研究参加者の概要(表1

研究参加者は,50~64歳の区役所に勤務している男性15名であり,平均年齢は52歳であった.現在生活している住居の居住年数は8~32年(平均18.9年)であり,居住形態は一戸建てが8名,マンションが7名で,マンションに居住している者の中には賃貸住宅と分譲住宅のどちらも含まれていた.同居者については,12名の参加者が妻や子供と同居していた.近隣の範囲については,「同じマンション内」,「同じ町内会内」,「町内会の班」,「両隣と向かいの家」と回答していた.

表1. 

研究参加者の属性

居住形態 居住年数 同居の有無 自分の思う近隣の範囲
C氏 マンション 5年以上10年未満 半径500 m
D氏 マンション 5年以上10年未満 有(妻) マンション
E氏 マンション 10年以上20年未満 町内会
F氏 マンション 10年以上20年未満 有(妻,子) マンション
G氏 マンション 10年以上20年未満 有(妻) 町内会
H氏 マンション 20年以上30年未満 有(妻,子) マンション
I氏 マンション 20年以上30年未満 有(妻) 町内会
J氏 一戸建て 5年以上10年未満 有(妻) 両隣,真後ろ
K氏 一戸建て 10年以上20年未満 町内会の班
L氏 一戸建て 10年以上20年未満 有(妻,子) 両隣,向かい
M氏 一戸建て 20年以上30年未満 有(妻,子) 両隣,向かい
N氏 一戸建て 20年以上30年未満 有(妻,子) 町内会
O氏 一戸建て 30年以上 有(妻,母) 町内会の班
P氏 一戸建て 30年以上 有(妻) 町内会
Q氏 一戸建て 30年以上 有(妻,子) 町内会

2. 都市部に在住する中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識(表2

都市部に在住する中壮年期男性の近隣のつきあいの認識として,22サブカテゴリー,6カテゴリー,1コアカテゴリーを抽出した.以下,都市部に在住する中壮年期男性の近隣のつきあいの認識について,コアカテゴリーを《 》,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,語りを「斜体」,研究者の補足は( )で示す.

表2. 

中壮年期男性が認識する近隣とのつきあい

カテゴリ サブカテゴリ
一線を越えたくない 生活の様子はお互いにわかってしまう
プライバシーの一線を越えるのは気まずい
自分の今の生活に近隣は必要ない
つきあうのは正直面倒
今以上に関係を深めようとは思わない
関係性はなかなか発展させづらい 働いていると積極的な交流は難しい
関係を発展させるのは難しい
将来も関係性は進展しないと思う
互いを認識できる関係性はあった方がよい つきあいがなくなるのは寂しい
お互いを認識することが大切だと思う
顔が見えて少し話せる関係性があったら良い
退職後はつきあいが少しは進展すると思う
関係作りにはきっかけがいる きっかけがないと関われない
家族の存在が自分のつきあいに影響する
町内会役員やイベント参加がつきあいのきっかけになっている
関係作りには日常の中のきっかけが重要
現在や将来の生活を守りたい 近隣は非常時には必要な存在ではある
近隣のためにやれることはしようと思う
将来のために今のつきあいは大切
トラブルを起こさず安心して暮らしたい 生活の場でトラブルを起こしたくない
安心して生活したい
あいさつして互いを認識することが安心につながる

1) 【一線を越えたくない】

研究参加者は,生活の場所が近いため,近隣の行動内容が見えてしまうことから,近隣同士で〈生活の様子はお互いにわかってしまう〉という認識を持っていた.その現状から,〈プライバシーの一線を越えるのは気まずい〉という思いが生じていた.また,自身の生活を振り返った時に,家族内で生活が完結していると感じているため,〈自分の今の生活に近隣は必要ない〉と感じており,〈つきあうのは正直面倒〉で〈今以上に関係を深めようとは思わない〉と語っていた.

交友関係を広げたくないのは,必要性を感じないからで特に考えたこともないくらいな感じですね」(E氏)

めんどくさいんだよね,気使うからさ,だから,ほんとに心割って,心から話せる人だと,付き合ってもいいんだけど,あんまり近隣の付き合いっていうと,やっぱり裏があるように思えて」(L氏)

2) 【関係性はなかなか発展させづらい】

研究参加者は現在の近隣とのつきあいに対して,〈働いていると積極的な交流は難しい〉等の理由から,〈関係を発展させるのは難しい〉という認識を持っていた.この認識は現在に対してだけでなく,〈将来も関係性は進展しないと思う〉と語り,将来に対しても消極的な思いを抱いていた.

朝7時すぎくらいには出て,家帰るのが8時とかになると,あえて(交流しに)いくことがない限りはまず会うことがない」(N氏)

基本的にその場限りです.お祭り行って,わいわいというか,いろんなこと関わってやるけれども,それが終わったらもう,道で会ったら挨拶する程度で深く入り込むことはない」(Q氏)

3) 【互いを認識できる関係性はあった方がよい】

研究参加者の中には,COVID-19や子供の成長による影響で以前に比べて,近隣とのつきあいが薄くなった経験をしている者もおり,その経験から〈つきあいがなくなるのは寂しい〉と感じ,近隣とのつきあいがなくなることは望んではいなかった.また,〈お互いを認識することが大切だと思う〉気持ちや,〈顔が見えて少し話せる関係性があったら良い〉というある程度のつきあいは良しとする思いがあった.さらに一部の研究参加者は,〈退職後はつきあいが少しは進展すると思う〉と語り,将来の近隣とのつきあいへの期待もみられた.

やっぱり,最低限顔見知りになることって大事なんじゃないですかねと思いますけどね」(H氏)

同じ建物の中で,転居するわけでもなく,そこでこのままこれからも暮らしていくので,そういう所のわずらわしさは取り除きたいなっていうのがあるので,ギリ3分くらいの立ち話っていうか,お子さん大きくなりましたねくらいの話ができる関係がいいかなと思う」(G氏)

4) 【関係作りにはきっかけがいる】

研究参加者は,自分から近隣に話しかけることに対して消極的であり,〈きっかけがないと関われない〉というつきあいを始めることに対する難しさを感じていた.きっかけに関しては,〈家族の存在が自分のつきあいに影響する〉ことや,〈町内会役員やイベント参加がつきあいのきっかけになっている〉ことを語り,〈関係作りには日常の中のきっかけが重要〉であると捉えていた.

基本的には息子の関係の両親なので,ママ友同士でつながっていて,そこから旦那にもつながってっていう流れなんで,直接は私自身はやりとりはしてないですよね」(F氏)

(町内会の)会長やると,やっぱりいろんな人と,話をしなきゃいけないので…おかげさまでいろんな方と,知り合いになりました」(O氏)

雪かきがないと,逆に隣は何をする人だろうっていうふうになるんだと思ってます.雪かきでは嫌でも顔合わせますから」(K氏)

5) 【現在や将来の生活を守りたい】

研究参加者は,近隣とのつきあいに対して〈近隣は非常時には必要な存在ではある〉という思いがあった.災害時や家族に助けが必要になった時に近隣とのつきあいが必要であることは認識していた.また,研究参加者は,現在の生活を守るために〈近隣のためにやれることはしようと思う〉と考えており,〈将来のために今のつきあいは大切〉という将来の生活を視野に入れた思いも抱いていた.

(雪に)埋まった時に助けてもらったことが何回かあるから,埋まった人を助けてあげようとは思うけど,俺もさすがに先急いでる時とかは,それはできないこともあるし,それは時と場合によるけど,できるんだったら助けてあげたいなと思う」(L氏)

高齢になった時に近隣に助けてもらうのを見据えて…それが目標じゃないけど,今の関係性を保っておけば,別に特段何かしなくても,ずっと継続していくだろうっていう感じ」(F氏)

6) 【トラブルを起こさず安心して暮らしたい】

研究参加者は,近隣との間に問題を抱えずに,にこやかに生活したいと語り,〈生活の場でトラブルを起こしたくない〉と感じていて,〈安心して生活したい〉という願望をもっていた.研究参加者の中には,近隣に誰が住んでいるのかを知ることが大切であると考えている人もおり,〈あいさつして互いを認識することが安心につながる〉と感じていた.近隣とのつきあいを通してトラブルなく安心した生活を送りたいという気持ちを持っていた.

やっぱりご近所さんなので関係は悪くしたくないし,住んでるってわかってながら,知らん顔したり,されるのは私もあまりいい気持ちはしないのかなっていう気はします」(P氏)

一軒家建ててみんな持ち家ですのでね引っ越しもしないので,(お互いに)分かっているほうが安心というのは安心だなと思っているだけ」(M氏)

3. 中壮年期男性が認識する近隣とのつきあいに関するストーリーライン

研究参加者は近隣とのつきあいに対して,【一線を越えたくない】思いや,【関係性はなかなか発展させづらい】というつきあいに対して消極的な思いを抱いていた.その一方で,【互いを認識できる関係性はあった方がよい】と考え,自分の生活の安心感のためにつきあいは必要であるとの肯定的な認識を持っていた.しかし,実際に近隣とのつきあいを始めるには,【関係作りにはきっかけがいる】と考え,積極的につきあいを始めることへの難しさも感じていた.また,地域での生活を振り返ったときに,近隣に対して自分にできることを行いながら,自分や家族の【現在や将来の生活を守りたい】,【トラブルを起こさず安心して暮らしたい】という,安心して地域で生活したい思いを抱いていた.

研究参加者にとって近隣とのつきあいとは,普段の生活の中で常に意識しているものではなく,改めて考えると自分の生活に影響を及ぼしていることを認識するものであった.つきあい自体も深い関係は求めずに現状を維持することに重点を置いており,近隣とのつきあいは生活の安心感や自分の生活を守るための《今と将来の生活のための潜在的な予防線》であった.

IV. 考察

1. 中壮年期男性が認識する近隣とのつきあい

1) 近隣とのつきあいに対する消極的な認識

中壮年期男性の近隣とのつきあいに対する認識に,【一線を越えたくない】が存在した.身近な人との関係性の希薄さは女性よりも男性で,青年期よりも成人期で傾向が強く(井梅ら,2015),地域活動への参加は,女性よりも男性が有意に少ない(池田ら,2022).また,中年期男性は同じ趣味を共有できる人や昔話を楽しめる人と友好関係を築く(豊田ら,2013)との報告がある.中壮年期男性にとって,友人や親族とのつきあいは生活する上で優先度が高いものと考えられ,近隣とのプライベートのつきあいは必須ではないことが推察される.一方で,中年期男性は,お互いの仕事や家庭について深く追求しない友人関係を築いており(豊田ら,2013),友人においても自分のプライベートな部分は見せない者も存在する(豊田ら,2013).近隣に対してはさらに自分の生活のテリトリーを守りたいという思いが生じることが予測される.これらのことより,中壮年期男性は近隣とのつきあいは行うが,積極的な関わりへの意識は薄く,共通の趣味を持ち共に活動する等の,プライベートで必要以上の交流を持つことへ抵抗感や億劫さを感じていると考えられる.

中壮年期男性は就労している者が多く,生活時間の大半を職場で過ごし,職場以外での地域の対人関係を築きにくいことが予測される.本研究の研究参加者も就労により地域にいる物理的な時間が少なく,近隣住民が集まる機会があっても交流は深まらず,【関係性はなかなか発展させづらい】と感じていた.先行研究において,55歳~59歳は60歳以上に比べ近隣のネットワークが小さい(Windson et al., 2011)ことが報告されていることから,中壮年期男性は家族や友人,職場等のコミュニティに所属し,近隣とのつきあいや交友関係を広げなくとも,特段不便さや困難さは生じていないと考えられる.【一線を越えたくない】,【関係性はなかなか発展させづらい】という中壮年期男性の認識は,近隣とは適度な距離を作り,自分のプライバシーや生活のテリトリーを守りたいという思いを表していると考えられる.

2) 近隣とのつきあいに対する肯定的な認識

中壮年期男性が認識する近隣とのつきあいに【互いを認識できる関係性はあった方がよい】があった.ソーシャルキャピタルとは,人々の協働行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることができる,「ネットワーク」,「規範」,「信頼」といった社会組織の特徴(Putnam,1993)であり,パットナムが提唱したものである.さらにパットナムは,「信頼」を知っている人に対する厚い信頼(親密な社会的ネットワーク)と知らない人に対する薄い信頼(地域における社会的ネットワーク)に区別し,厚い信頼よりも薄い信頼の方が広い協調行動を促進することにつながるとしている(内閣府,2003).都市に在住する男性高齢者を対象にした研究では,挨拶を時々する,町内会・自治会へ年に数回程度でも参加する人は,非常時の助け合いや日常での支えあいに能動的な意識を持っている(澤岡ら,2015)ことが報告されている.本研究の研究参加者も,あいさつ程度のつきあいを行い,【互いを認識できる関係性はあった方がよい】ことを認識していた.中壮年期男性は,近隣の人とは交流をする以前のあいさつ程度のつきあいにより相手を知ると同時に,自分も近隣の一員であることを相手に認識してもらうことが重要と感じていた.【互いを認識できる関係性はあった方がよい】は,地域で生活する中で近隣に誰がいるのかを把握し,安心して生活したいという認識であると考えられる.

また,定年退職後の男性は,職業生活の中で結んでいた人間関係が疎遠になり,地域の中で新しい友人を作り,地域の人々と仲良くしながら過ごしていきたいという潜在的な思いを持っている(北島ら,2018).本研究の研究参加者の〈つきあいがなくなるのは寂しい〉,〈顔が見えて少し話せる関係性があったら良い〉というサブカテゴリーが示すように,中壮年期男性は,近隣とのつきあいがなくなることへの寂しさや,何かあった時の頼りやすさ,問題が生じても大事に至らない必要最低限の関係構築の重要性を感じていると推察される.つまり,中壮年期男性は,近隣とのつきあいがなくなることは望んでおらず,近隣とのつきあいの必要性は捉えていると考えられる.

なお,中壮年期男性は,【関係作りにはきっかけがいる】との認識を持っていた.近隣との関係性を構築するには,子供の存在や家が近所であること,除雪を一緒に行うタイミングがあること等,日常生活の中で共に過ごす一コマが必要であった.互いを近隣として認識するには,生活の中の必然的に顔を合わせる場面が重要であり,【関係作りにはきっかけがいる】という,自ら関係作りを行うことへの難しさを中壮年期男性は感じていた.

3) 中壮年期男性が近隣とのつきあいに求めるものとは

中壮年期男性は,近隣とのつきあいに対して【現在や将来の生活を守りたい】と捉えていた.成人期において家族役割と職業役割は重要な柱であり(永久,2010),中壮年期男性は家族の生活を守る役割を担い,それは現在だけなく将来も含まれており,近隣とのつきあいも将来を視野にいれて行われていた.また,男性高齢者の地域活動への参加要因には,地域への貢献意識が有意に関連し(池田ら,2022),本研究の研究参加者も近隣との協力はお互い様と捉え,隣や向かいの家の除雪の手伝い等,地域や近隣住民へ可能な範囲での協力をしていた.【現在や将来の生活を守りたい】という認識には,近隣住民との協力し合える関係構築や,できる範囲での地域貢献による,自分や家族の生活を守ることが含まれていた.また,中壮年期男性は,【トラブルを起こさず安心して暮らしたい】と認識していた.〈生活の場でトラブルを起こしたくない〉というように,自分の生活にとって近隣との関係がプラスに働くよりも,マイナスに働くことがないように留意していた.中壮年期男性は自分や家族の生活の安心感のために近隣とのつきあいを行い,家族役割の一つである家庭を守るという役目を果たしながら,自分に無理のない範囲で地域や近隣住民へ貢献していると考えられる.

以上のことから,中壮年期男性における近隣とのつきあいは,生活を守るための日常生活の中の要素の一つであると考えられ,近隣同士,互いを認識し合うことでの生活の安心感を得るものであった.しかし,研究参加者の中には〈つきあうのは正直面倒〉と考えている者もおり,中壮年期男性の中には近隣とのつきあいを行わずとも,自分の生活を維持している者もいた.つきあいを行わない者は近隣と交流を持たず,互いに干渉されない関係を構築することで自分の生活を守っていた.つきあいの有無や濃淡には関係なく,近隣とのつきあいは自分と家族の≪今と将来の生活のための潜在的な予防線≫になっていた.したがって,中壮年期男性の近隣とのつきあいは,生活の安心感を得るための予防線として機能していると考えられる.

2. 中壮年期男性が認識する近隣とのつきあいを踏まえた地域づくり

現在日本では近隣住民との交流や地域での互助の強化のために,町内会の加入の促進が進められている(総務省,2021).【関係作りにはきっかけがいる】中壮年期男性にとって,町内会活動は近隣との関係構築のきっかけとなるメリットと,【一線を越えたくない】との思いがあるにも関わらず望まない深い関係性の構築がなされるデメリットの両方を有する可能性がある.メリットとデメリットのバランスを考え,近隣とのつきあいの促進の方向性をつながりの強化だけに着目せず,中壮年期や高齢期の年代が求めているものに合わせて見直していく必要がある.また,【互いを認識できる関係性はあった方がよい】というように,あいさつ程度のつきあいや,日常の中の必然的に生じる薄い信頼を構築する交流は,中壮年期男性の近隣とのつきあいの維持に必要であると考える.町内会活動等の促進と並行し,互いを認識する程度の住民同士の緩いつながりを途切れさせない活動は,中壮年期男性が求める《今と将来の生活のための潜在的な予防線》を果たす近隣とのつきあいを通した地域の関係作りであるといえる.これはこれからの地域や近隣同士のつながりの強化や,男性高齢者の社会的孤立の予防に重要であると考えられる.

3. 本研究の限界

本研究はこれまで明らかにされてこなかった中壮年期男性の近隣とのつきあいを質的な観点から示した.しかし,本研究には限界が存在する.一つ目は,本研究は研究参加者を50~64歳の公務員に限定しているため,中壮年期男性全般の認識を反映していない.二つ目は,対象地区が都市部の中でも一部の地区であるため,地域特性を有すると考えられる.今後は地方や過疎地域等,都市部以外を対象に,公務員以外の職種の者や他の年代に対して調査をし,中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識についてさらに調査をしていく必要がある.

謝辞

本研究にご協力いただきました研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.また,本研究本研究は,JSPS科研費 23H03218(研究代表者:平野美千代)の助成を受け実施した研究の一部である.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

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