日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
地元の関係機関が連携して築く『まちの保健室』
吹野 信浩大羽 みゆき藤原 美智子松本 弘美檀原 三七子
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2025 年 14 巻 2 号 p. 54-61

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Abstract

目的:2023年度に地元の関係機関と連携体制を再構築してA大学の『まちの保健室』活動を行った.その活動を振り返り,地元の関係機関が連携しながら行う『まちの保健室』活動の効果について検討することを目的とした.

方法:『まちの保健室』活動報告書及び会議の議事録,活動時に行った参加者へのアンケート等を表にまとめ,概観し評価を行った.

結果:少人数から構成される『実務者会議』を立ち上げ課題を共有した.それにより,地元の関係機関で協働した共催事業の実施に繋がり連携する機会が増えた.そして,ボランティアと住民の意識・意欲の向上や活動に参加した学生から地元就業への思いが強まった発言がみられた.

考察:地元の関係機関が課題を共有し住民の声を大切にしながら互いの強みを活かして協働することで,より大きな活動となることや多くの住民の健康づくりに働きかけることができる.そして,活動に参加した学生の地元への愛着に繋がり得る.

Translated Abstract

I. はじめに

近年,我が国では,急速な少子高齢化の進展を背景として,全国的に保健医療福祉分野において複雑で多様な課題が生じている.その課題に,地域が主体的に取り組むことが期待されているが,都市と地方では人口動向が異なるように,生活や健康にかかわる課題やその解決のための社会資源は,人々が生活を営む地元によって異なる.そのため,全国一律の方策で解決することは困難と言われており,地元の特徴を踏まえた方策を,そこに住む人々がその風土や文化,資源に基づきながら自ら対応していくことが求められている(日本学術会議,2020).そして,その課題解決に向けて,看護職が地域・社会との連携を強めていくことに大きな期待が寄せられている(日本看護協会,2019).加えて,全国の国公私立大学の3大学に1つは看護学の学士課程を有しており,看護系大学も地元の大きな資源となり得ると言われている(日本学術会議,2020).

A大学は2015年に開学した看護系大学であり,開学準備期より『まちの保健室』活動を行ってきた.A大学の行う『まちの保健室』活動は,教職員と学生が地元の住民ボランティア等と共に取り組む社会貢献活動である.大学や地元のコミュニティセンターで血圧測定等の健康チェックと,健康相談,健康ミニ講話を実施することが主な活動内容となっている.A大学は,当初よりA大学の属するB自治体との連携体制を大切にし,『まちの保健室』事業推進連絡会議(以下,『連絡会議』)を定期的に行いながら活動を実施してきた.しかし,『連絡会議』では,報告事項が主となり活動の方向性を十分に意見交換することができていなかった.そして,A大学は地域の要望を聞き健康ミニ講話のテーマを決め活動を行っていたが,地域の健康課題と『まちの保健室』の活動が必ずしも結びついているとは言い難く,A大学は活動の方向性を模索していた.また,A大学は,大学が育成している地元の住民ボランティアの活動推進も課題としていた.そのため,より地元に根差した活動となるよう,B自治体との更なる連携体制の構築を必要としていた.

そこで,2023年度より,少人数から構成される『実務者会議』を立ち上げ,連携体制を再構築して活動を行った.その結果,A大学とB自治体とで課題を共有でき地域の健康課題に対する普及啓発を『まちの保健室』で行っていくことができた.さらに,B自治体内のC地区コミュニティセンターで,A大学の『まちの保健室』とB自治体の行う『健康相談』,C地区のコミュニティセンターのイベントを共催する等,協働した活動の機会が増えることに繋がった.それにより,それまで健康づくりの催しに参加したことがない方の参加や,大学が育成している地元の住民ボランティアの意欲向上等の健康づくり活動の相乗・波及効果と,今後の活動への示唆を得たため報告する.本活動報告では,地元の関係機関が連携しながら行う『まちの保健室』活動の効果について検討することを目的とする.本活動報告で導かれた知見は,地元に根差した活動のあり方を検討する一助となり得る.

II. 方法

2023年度の『まちの保健室』活動の取り組みについて,活動報告書(毎回の活動後に作成する『まちの保健室』の参加者数やスタッフ,活動状況,振り返り内容等を記載した用紙)及び『連絡会議』『実務者会議』の議事録,活動時に行った参加者へのアンケートを分析対象として,それらに記載されている内容を表にまとめ,概観し,評価を行った.A大学の教員複数名で討議しながら,またB自治体にも意見をもらいながら分析した.

1. 『まちの保健室』活動の概況

1) 活動の趣旨

学校の保健室のように,地域の中にある保健室として,だれでも気軽に立ち寄って,自分の健康について振り返ったり相談したりできる場所,地域の中でほっとできる場所を目指している.

2) 活動の対象者

地元住民

3) 活動の内容

身長・体重・体脂肪率・血圧・骨密度等の測定,健康相談,健康ミニ講話を実施している.人との交流・ふれあいの場としてのサロン的役割,外出促進としての機能も果たす.

4) 参加スタッフ

(1) 毎回参加するスタッフ

A大学の教職員,A大学が育成している地元の住民ボランティア

(2) (1)以外

A大学の学生(大学掲示板に掲示した『まちの保健室』の日程と内容を見て参加希望の連絡をした学生),B自治体保健師,A大学が会場となる日に年1回程度参加する地元の専門職(医師,薬剤師,消防士,理学療法士)

5) 開催場所・開催回数

A大学または地元のコミュニティセンター,自治公民館等で1回2時間程度を年間50回程度実施している.

6) 地元の住民ボランティアの育成

A大学では開学年度より,健康づくりに関する地元の住民ボランティアの育成講座を開催しており,現在約130人の修了生が存在する.これは,地元住民が『まちの保健室』活動を通じて地元の健康づくりのリーダーになっていくことを狙いとしたプログラムである.主体的な活動を推進するために,講座修了生に対してフォロー講座も定期的に行っている.

7) B自治体との連携

A大学とB自治体は毎年,年に5~6回,1時間程度の,『連絡会議』を持ち,『まちの保健室』を中心とした地域での取り組みについて話し合う場を設けていた.参加者は『まちの保健室』を担当するA大学の委員会に所属する教職員とB自治体の関係課職員(管理職・担当者・保健師等)の総勢約20名であった.そのため,出席者が多く,参加者が共通理解を持ちやすいという利点がある一方,毎回全員揃うことが難しいことから,自己紹介の時間や,報告事項に会議の大半の時間が費やされ,意見を言い合う時間が持ちづらく,課題の共有や活動の具体的な検討は難しい状況であった.そのようなことから,現在の『まちの保健室』活動について感じていることや双方の課題,協力できること等を話し合える場が必要とされた.

そのため,2023年度,従来の『連絡会議』は年度の最初と最後の2回のみとし,代わりに『実務者会議』を立ち上げた.『実務者会議』のメンバーは少人数とし,A大学は教職員5名からなる連携推進チームを編成,B自治体は住民の保健活動に携わる保健師を中心とする5名の計10名とした.そして,そこで具体的な活動の検討を行っていくこととした.

2. B自治体の概況

B自治体は人口約4.4万人,高齢化率35.0%(2023年11月末現在)の地方都市であり,C地区を含む13地区から構成される.江戸時代末期から戦前までに建てられた家屋や土蔵が多く残り,その街並みは,当時の面影を残す懐かしい佇まいをみせている.高齢者人口は2025年にピークをむかえるが,75歳以上人口はその後も増え続け,要介護等認定者数の増加と認定率の上昇が見込まれている.B自治体では保健活動にあたり,生活習慣病の発症と重症化予防を課題とし,各種健診・がん検診の普及啓発ができればと考えていた.加えて,C地区住民への健康づくり活動を模索していた.また,B自治体での健康づくり活動の推進にあたり,B自治体とA大学が育成している地元の住民ボランティアの接点が無かったため,B自治体はA大学が育成しているボランティアとの接点を持ち連携ができないかを模索していた.

3. C地区の概況

C地区は人口約1,300人,高齢化率41.8%(2023年11月末現在),史跡や有形文化財を有し,保存樹・保存林に囲まれた自然環境に恵まれた地区である.C地区のコミュニティセンターでは,近々県内で初めて開催される全国健康福祉祭(ねんりんピック)の開催種目であるeスポーツ(エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)の略称)を行う『eスポーツday』を月に1回設けていた.しかし,その参加者は毎回0人から多い時でも5人程度と,健康づくり活動の進め方に課題を有していた.

一方,C地区にはA大学が育成した健康づくりに関する地元の住民ボランティアがおり,そのボランティアはC地区コミュニティセンターでの健康づくりに関心を持ち,何か協力できないか模索している状況であった.

4. 倫理的配慮

本報告は,実際に実施した『まちの保健室』の活動について報告するものであり,関係機関及び所属機関から公表することに対し承諾を得ている.また,関係機関の不利益や参加者の特定が起こらないよう,関係機関名(自治体名・コミュニティセンター名)についても匿名化した.活動時に配布したアンケートに関しても無記名とし,個人が特定できないものとした.そして,アンケートは,活動を評価するためであること,結果をまとめて公表する可能性があること,自由提出で記入・提出しなくても不利益はないことを説明し,回収箱を設置し回収した.

III. 活動内容と結果

1. 地元の関係機関との連携体制の再構築

2023年度『まちの保健室』における連携活動の経過(B自治体との連携活動について抜粋)を表1に示す.

表1 2023年度「まちの保健室」連携活動の経過

時期 方法 (回数) 件名 内容
2023
5月上旬
連絡会議対面 (1) 実務者会議の発足

・実務者レベルで具体的な活動推進を検討していくことが決定.

5月中旬 以下実務者会議対面 (1) A大学・B自治体の課題共有

・A大学では,地域の健康課題に基づいた,より地元に貢献できる形での活動を行っていきたいと考えていることを共有.

・A大学では,育成しているボランティアの活動推進を課題としていることを共有.

・B自治体では,A大学が育成しているボランティアと上手く連携したい思いがあることを共有.

・B自治体では,生活習慣病の発症と重症化予防を課題としていることを共有.

・A大学・B自治体とも健康づくりの取り組みを共に実施したい思いがあることを共有.

5月下旬 電話 (2) 各種健診・がん検診協働PRの決定

・B自治体内で行われる「まちの保健室」で,B自治体の各種健診・がん検診のPRおよびチラシ配布を行うこととなる.

6月上旬 対面
電話
メール
(1)
(1)
(3)
共催事業の決定

・A大学が育成したボランティアが,C地区コミュニティセンター「eスポーツday」参加者に健康づくりの働きかけができないかC地区コミュニティセンターに相談.

・C地区コミュニティセンターからB自治体に「健康相談」ができないか連絡がある.

・B自治体からA大学に,A大学・B自治体・ボランティアの皆で何かできないか連絡がある.

C地区コミュニティセンターの「eスポーツday」の参加者数に関する課題も共有し検討.

・「まちの保健室」をB自治体「健康相談」,C地区コミュニティセンター「eスポーツday」と共催することが決定.

6月中旬 電話
メール
(1)
(4)
共催事業打合せ

・共催事業の周知方法,内容,スタッフ等について確認.(A大学・B自治体・Cコミュニティセンター・ボランティアが協力して周知・運営を行う)

7月上旬 電話
メール
(1)
(5)
まちの保健室打合せ

・当月上旬に行われる「まちの保健室」にB自治体保健師の参加が決定.

同上 まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民19名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア5名,学生2名,教員2名が参加.

8月上旬 電話
メール
(1)
(3)
共催事業打合せ

・当日の流れ,担当等を確認.

8月中旬 まちの保健室 (1) まちの保健室
(共催事業の実施)

・「まちの保健室」をB自治体「健康相談」,C地区コミュニティセンター「eスポーツday」と共催.

・住民15名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師3名,ボランティア5名,コミュニティセンター職員3名,学生2名,教員3名が参加.

8月下旬 電話
メール
(4)
(4)
共催事業の振返り等

・共催事業のアンケート結果を共有.

・B自治体内の他のコミュニティセンターから同様の事業を開催したいと問い合わせあり.

9月中旬 まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民12名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア5名,学生1名,教員2名が参加.

9月下旬 メール (8) 広報誌掲載の決定

・共催事業について問い合わせがあり「商工会議所ニュース」「国民健康保険連合会たより」「B自治体広報誌」に掲載されることとなる.

10月上旬 対面
電話
メール
(1)
(5)
(8)
次年度の検討等

・A大学とB自治体で次年度の計画,啓発先について検討.

・啓発チラシの作成・決定.

10月中旬 まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民14名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師2名,ボランティア6名,教員2名が参加.

10月下旬 まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民28名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師2名,ボランティア5名,教員3名が参加.

11月上旬 対面
電話
メール
(1)
(3)
(9)
年度末の活動検討

・12月以降の「まちの保健室」の協力体制の検討.

・翌年度の啓発チラシ配布開始.

11月中旬① まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民16名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア5名,教員3名が参加.

11月中旬② まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民9名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア4名,教員3名が参加.

12月以降 対面
電話
メール
(1)
(2)
(11)
活動評価等

・1年間の活動の評価.

2024
1月下旬
まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民9名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア6名,教員2名が参加.

2月下旬 まちの保健室 (1) まちの保健室
(保健師の参加)

・住民17名が参加.

・スタッフは,B自治体保健師1名,ボランティア4名,教員2名が参加.

3月上旬 連絡会議対面 (1) 年間の振り返り

・1年間の活動の報告.

・翌年度の継続した連携体制を確認.

まちの保健室
対面
電話
メール
(9)
(7)
(20)
(55)
備考 「まちの保健室」において,9回延べ13名のB自治体保健師とA大学が協力(2022年度は2回延べ2名)

5月上旬に行われたA大学とB自治体の『連絡会議』で,少人数から構成される『実務者会議』が立ち上げられたことで,『まちの保健室』の具体的な活動の検討及びA大学・B自治体の課題を共有する場が持てた.そして,『実務者会議』の場で初めて「A大学は地域の健康課題に基づいた,より地元に貢献できる形での活動を行っていきたいと考えている」「B自治体は生活習慣病の発症と重症化予防を課題とし,各種健診・がん検診の普及啓発ができればと考えている」「A大学・B自治体ともA大学が育成している地元の住民ボランティアの活動推進や連携が上手くできれば良いと考えている」ことがわかった.加えて,お互いに『まちの保健室』を軸に健康づくりのイベントを企画段階から一緒にできると良いという思いがあること,B自治体でC地区をはじめ,いくつかそのような健康づくりの取り組みを行いたい地区があることもわかった.さらに,課題を共有できたことをきっかけに,まずは『まちの保健室』で各種健診・がん検診の啓発チラシの配布や声かけ,可能な時には関連するミニ講話を行っていくことが決まった.結果,各種健診・がん検診に関して2023年度の『まちの保健室』活動で307名の方に普及・啓発を行っていくことができた.

そして,A大学が育成する地元の住民ボランティアの活動推進・B自治体との連携の課題については,C地区在住のボランティアとA大学・B自治体・C地区コミュニティセンターが協働した活動を実施できた.そのきっかけは,C地区のボランティアであった.C地区のボランティアは,C地区コミュニティセンターが新たに始めた『eスポーツday』参加者に,「健康づくりにより関心を持って欲しい」「健康づくりに関するボランティアとして自分にも何かできれば」という思いがあった.それをC地区のボランティアがC地区コミュニティセンターの館長に投げかけた.C地区コミュニティセンターも活動の参加者が少ないことを課題に思っており,その後,それをB自治体保健師に相談した.その際,A大学とB自治体が既に『実務者会議』でボランティアの活動推進や連携についての課題と,C地区住民への健康づくり活動を模索していたことを共有できていたことから,すぐにそのことをB自治体保健師がA大学に繋げ,B自治体保健師を中心に,A大学・B自治体・C地区コミュニティセンター・ボランティアの全てが繋がり,何かできないか検討する機会を持つに至った.そして,A大学の『まちの保健室』とB自治体の『健康相談』,C地区コミュニティセンターの『eスポーツday』を共催とする運びとなった(以下,共催事業).共催事業の開催にあたり,C地区コミュニティセンターは便りを発行して周知を図った.C地区のボランティアは各戸を回る等,身近な地元住民に参加の声掛けを行った.そして,当日受付を行い,参加された方に「よく来てくれたね,待っていたよ」と声を掛け,『まちの保健室』の流れを説明する等,活動の中で積極的に動いた.また,B自治体やC地区ボランティア,C地区コミュニティセンターと協働した取り組みがあることを知ったA大学の学生からは,夏休み期間ではあったが当日参加したいとの声があがった.

2. A大学・B自治体・C地区コミュニティセンターの共催事業の実施とその後の経過

共催事業の参加者・スタッフを表2に,共催事業参加者の過去の『まちの保健室』『健康相談』『eスポーツday』参加経験を表3に,共催事業に参加した感想・意見を表4に示す.参加者15名に対し,アンケート回収数は12名であった(回収率80.0%).そして,共催事業後のスタッフの振り返り内容を表5に示す.

表2 共催事業の参加者・スタッフ

参加者・スタッフ 人数
参加者 C地区住民 15
スタッフ A大学教員 3
A大学学生 2
B自治体保健師 3
C地区コミュニティセンター職員 3
ボランティア 5
表3 過去の「まちの保健室」「健康相談」「eスポーツday」参加経験(N=12)

「まちの保健室」または「健康相談」に参加した経験
あり
n=5)
なし
n=7)

n=12)
n (%) n (%) n (%)
「eスポーツday」に参加した経験 あり 1 (8.3) 3 (25.0) 4 (33.3)
なし 4 (33.3) 4 (33.3) 8 (66.7)
5 (41.7) 7 (58.3) 12 (100)
表4 共催事業に参加した感想・意見(N=12)

参加した感想・意見(自由記述・複数意見あり) n
もっと実施して欲しい・定期的に参加したい 4
はじめて測定して体について知ることができ,良い機会となった 3
健康に関する話を楽しく聞けたので良かった 3
eスポーツdayにはじめて参加して楽しかった 2
大変良かった 1
記載なし 2
表5 共催事業後のスタッフの振り返り内容

振り返り内容 (発言者)

・今回の事業をきっかけに地域で声かけを行い,皆に来てもらえた.

自分が健康づくりのボランティアであることを地域の皆に知ってもらえた.

(ボランティア)

・今回を見本に,ボランティアとして地域でどのように活動すれば良いかがわかった.

ボランティアとして,これなら出来そうと思えた.

(ボランティア)

・測定の合間の時間も,eスポーツで参加者同士ふれあいながら楽しく過ごせた.

(ボランティア)

・普段来られない新規の方が多く見られた.eスポーツdayの良いPRの機会となった.

(コミュニティセンター)

・大学教員からも健診・検診のPRをしてもらい住民の健康に働きかけることができた.

(保健師)

・今後もeスポーツdayにあわせ健康相談を実施する話がコミュニティセンターとできた.

(保健師)

・ボランティアともやりとりが多くできた.

(保健師)

・継続して相談が必要と思われる参加者は,保健師に繋ぐことができた.

(教員)

・保健師の健康相談の技術を学べ,大変勉強になった.

(教員)

・多くの人が関わっている活動に参加できて勉強になった.

(学生)

・実習したまちでの保健活動に再び参加できて良かった.

(学生)

・愛着がある地元だからこそ参加しようと思った.地元で働きたい思いが強くなった.

(学生)

共催事業の参加者について,過去に『まちの保健室』や『健康相談』といった健康を振り返る機会及び『eスポーツday』に参加したことのある方は1名のみで,そのほとんどがいずれか又は全ての事業に参加したことがなく初めて参加した方であった(表3).これまで全く何の事業にも参加したことがない方は4名で,何か一つに参加したことがある方は7名であった.共催事業に参加して初めて体験した『まちの保健室』『健康相談』『eスポーツday』に関しては,継続参加を希望する声や健康を振り返る良いきっかけとなったという声が聞かれた(表4).

そして,共催事業のスタッフに関しても,振り返りで肯定的な意見が多く聞かれた(表5).ボランティアからは,開催にあたり積極的に地区内で声掛けができたことから,「自分が健康づくりのボランティアであることを地域の皆に知ってもらえた」「ボランティアとして地域でどのように活動すれば良いかがわかった」という声が聞かれ,B自治体保健師からは「今後もeスポーツdayにあわせ健康相談を実施する話がコミュニティセンターとできた」「ボランティアともやりとりが多くできた」と,今後の保健活動への繋がりや,ボランティアとの連携のきっかけとなった声が聞かれた.そして,A大学の教員からは,「継続して相談が必要と思われる参加者は,保健師に繋ぐことができた」と,今まで大学の教員だけではできなかったことが共催事業により可能になったとの声が聞かれた.また,参加した学生からは「地元で働きたい思いが強くなった」という発言があった.

この共催事業が実施された話は地域で広がり,実施後,他のコミュニティセンターから同様の事業を行いたいという声や,「商工会議所ニュース」「国民健康保険団体連合会たより」への掲載の依頼を受ける等,反響が寄せられた.また,これらの一連の活動を通し,『まちの保健室』に関連したA大学とB自治体の話し合いの機会は,2022年度は『連絡会議』が5回であったが,2023年度は実務者会議を立ち上げてから表1にあげられるように対面,電話,メールと大幅に増えた.そして,「活動の具体的な検討が難しかった課題」「ボランティアの活動推進や連携についての課題」といった年度当初に挙げられていた課題に対応することができた.共に『まちの保健室』を行う機会も2022年度は2回であったが2023年度は9回と増加し,次年度以降に関しても,自治体の健康課題に対する普及啓発や,共に行う『まちの保健室』での健康相談等,協働した活動を検討している.

IV. 考察

1. 地元の関係機関との課題の共有

2023年度,『まちの保健室』の『実務者会議』の立ち上げをきっかけに,A大学・B自治体・Cコミュニティセンター・C地区ボランティアといった地元の関係機関がより強固に繋がり,連絡を取り合うことや共に『まちの保健室』を行う回数が増加する等,連携して地元の健康づくりに取り組む機会が大幅に増えた.『まちの保健室』の活動について,近田(2018)は,自治体で取り組むべき地域課題を共有しながら内容を検討していくことでより効果的な活動ができると述べている.また,藤井ら(2018)は,互いの役割や強みを知ること,思いを共有することの大切さを述べている.今回,『実務者会議』により,A大学・B自治体が始めに課題を共有し,互いに地元住民の健康づくりをより良い形で行っていきたいという思いが共有できたことで,同じ方向を向き活動を発展させていくことに繋がったと考えられる.そして,自治体の強みとして地元の健康や医療,社会資源等に関するあらゆる状況を把握しており,特に保健師はそれらに関する様々な機関との調整に能力を発揮する業務を行っている(加藤ら,2018)が,今回の活動の中で,B自治体保健師が関係機関を繋ぐ中心的役割を担うことができた.さらに,A大学の強みとしてボランティア育成や地元で多くの普及啓発ができる活動の場を有していることが挙げられるが,それらを有効に活用することができた.そのような互いの強みが上手く結び付き,単一機関だけでは難しかった課題に対しても効果的に働きかけることができたと考えられる.加えて,藤井ら(2018)は,大学がどのような役割を担うと良いかは地域のニーズを確認しながら見出していくべきと述べている.これまで,A大学だけでは地域のニーズの把握が難しかった.しかし,B自治体と共に話し合えたことで地域のニーズを確認でき,大学が地域から求められる役割を見出したことで,それを担う活動に繋がったと考えられる.

先行研究では『まちの保健室』の継続,発展に必要なこととして,関係者の合意を得る等準備性があること,ニーズを把握していること,関係者間の連携が良好であることが示されている(安藤ら,2019).このように,今回の一連の活動を通じ,活動に対する思いや課題,地域のニーズを共有し連携できたことは『まちの保健室』の継続,発展に必要なことであったと言える.

2. 地元住民の声や声のかけ合いを大切にする活動

今回の共催事業の活動展開のきっかけは,A大学が育成する地元の住民ボランティアの声であった.そして,表3に見られるように,ボランティアの地元住民への参加勧奨の声かけで実施された共催事業では,参加者のほとんどがいずれかまたは全ての事業に初めて参加された方であった.加えて,それまで『eスポーツday』の参加者は多い時でも5人程度であったが,15人と参加者数の増加と継続参加の意向も見られた.また,ボランティアの存在や活動が認知され,表5の共催事業後のスタッフの振り返り内容でボランティアから「今回の事業をきっかけに地域で声かけを行い,皆に来てもらえた」「今回を見本に,ボランティアとして地域でどのように活動すれば良いかがわかった.ボランティアとして,これなら出来そうと思えた」との発言が聞かれた.このように,C地区及びそれ以外の地区のボランティアの意欲の向上にも繋がった.日本学術会議(2020)による地元創生の実現に向けた看護学と社会との協働推進の提言では,地元住民からニーズやリクエストを聞く必要性が述べられている.また中村(2004)は,問題解決に向けて地域住民の主体性を支援することで地域における活動を活性化させていくことができると述べている.今回,地元住民であるボランティアの「『eスポーツday』参加者を増やし,参加者に健康づくりの取り組みをしたい」という声を,大学と自治体との連携により上手く把握し活動に結びつけた.さらに,ボランティアだからこそできる身近な住民への参加勧奨の声掛けや,事業の中で受付を担うことで皆に参加してもらえたことを実感し達成感が得られるようにA大学とB自治体がC地区のボランティアに働きかけた.それらが,ボランティアの主体性の支援となりボランティアの意欲の向上に繋がったと考えられる.そして,合田ら(2006)が,声かけが地域を支える大きな力となると述べているように,地元のボランティアからの事前の参加勧奨の声かけや当日の「よく来てくれたね,待っていたよ」という声かけが,参加しよう・今後も継続していこうという参加者の健康意識の向上に繋がったと考えられる.さらに,そのような地域の声が広がることで,今回,国民健康保険団体連合会たより・商工会議所ニュース等の媒体に取り上げられ他のコミュニティセンターから問い合わせを受けたように,その地域だけに留まらず他の地域の健康へも波及していく可能性がある.地元住民の声や住民同士の声かけを大切にする活動は多くの人を巻き込みながらより大きな活動や効果に繋がると考えられる.

3. 地元への愛着に繋がる活動

今回一連の活動の中で,学生から『まちの保健室』に参加したいという声があがり,参加した学生からは「地元で働きたい思いが強くなった」と発言があった.地域住民との交流や地域貢献への達成感は地域への愛着や関心を高める(神崎,2021)と言われているが,共催事業後の学生の発言にみられるように,地元の関係機関や地元の住民との繋がりを大切にした活動は,学生の地元への愛着に影響を与える可能性がある.学生の継続参加による活動の活性化や地域住民との交流の促進も期待できる.そして,地元への愛着の強さは地元就業に大きく関与する(竹本ら,2019)と言われるが,今回の『まちの保健室』のような活動が積み重なることで,学生の地元就業や地元定着への思いに影響する可能性がある.

また,そのように地元への愛着に溢れ,住民や関係機関同士が強く結びつき支え合えることは,子育てや介護面においても安心して暮らせるほか,自然災害下においても連携体制が構築されていることから大きな力となることが期待できる.地元大学と関係機関や地元住民が連携して行う活動は大きな可能性を秘めていると言えよう.

V. おわりに

本報告は,地元の関係機関が連携しながら行う『まちの保健室』活動について記述し考察したものである.地元の関係機関が課題を共有し,住民の声を大切にしながら協働することで,より大きな活動となることや多くの住民の健康づくりに働きかけることができ,学生の地元への愛着にも繋がり得ることがわかった.今後も,地元の関係機関同士理解を深め,それぞれの強みを活かした連携活動を推進していきたい.

 謝辞

本活動報告にあたり,ご協力いただきました活動参加者及び関係者の皆様に謹んで感謝の意を表します.

なお,本研究に開示すべきCOI状態はありません.

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