日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
市町村保健師の活動の充実や実践能力向上につながる活動評価方法の開発
―市町村保健師と共同した活動評価の実施と評価方法の改良―
山田 洋子松下 光子大井 靖子
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2017 年 6 巻 1 号 p. 57-64

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Abstract

目的:市町村保健師が活用できる活動評価方法を開発し検討することである.

方法:筆者らが作成した活動評価シートとシートの記載を助ける質問項目からなる市町村保健師の活動評価方法を使い,4市の4活動について保健師とともに活動評価を実施した.保健師と作業を行うごとに活動評価方法を検討し,シートと質問項目の修正を繰り返した.この検討記録から,シートと質問項目の改善点を整理した.

結果:シートと質問項目の改善点は,評価する事業の目的・目標の明確化とこれを基軸にした情報整理,評価する事業と自治体における上位計画との関連や他事業との関連を検討することの意識付け,保健師が実践活動の中で取り組みやすいツールとしての整備,保健師の思考のプロセスに沿って情報を整理するシートや質問項目の工夫であった.

考察:開発した活動評価方法は,活動評価を推進し保健師の能力を高めること,実践の場での活用可能性があることを確認できた.

I. 諸言

行政に所属する保健師の活動について,活動評価の必要性は常に指摘されてきた.1998年から2011年の保健師活動に関する評価・測定に関する国内文献を検討したところ,活動の評価方法を検討する文献が増加していることがわかった(種村ら,2013).しかし,開発された評価方法が広く活用されるという状況には至っておらず,保健師活動について一定の評価方法が確立できているとはいえない現状である.

地方自治体においては,1990年代後半以降,行政評価の導入が進んだ.筆者らが実施したA県内の市町村において管理的立場にある保健師への質問紙調査の結果(大井ら,2013)では,回答があった30市町村のうち19市町村(63.3%)で行政評価を実施しており,そのうち,14市町村(73.7%)は行政評価に保健師がかかわっていると回答し,16市町村(84.2%)は,行政評価と保健師活動評価は,「業務の改善など目的が共通するものであり,関連付ける必要がある」と考えていた.しかし,行政評価の方法は,地方自治体によってさまざまであり,行政評価と保健師活動評価の方法を統一することは困難と考えられた.また,業務が多忙な中で活動を評価することに困難さを感じているという実態もうかがえた.さらに,行政評価に先進的に取り組んでいる6基礎自治体の管理的立場にある保健師への聞き取り調査の結果(松下ら,2014)から,保健師活動の振り返りを行うには,行政評価シートでは内容が不十分であり,保健師活動の評価方法に求められる視点には,成果の確認だけでなく,専門職としての判断や実践を振り返ること,事務職員や地域住民に活動を説明できること,保健師活動の行政の活動としての位置付けを保健師が確認できることが必要であると考えられた.

これらの調査結果をふまえ,筆者らは市町村保健師が実践の中で活用できる具体的な評価ツールとして活動評価シートとシートの記載を助ける質問項目の開発を進め,保健師が活動評価に活用できるツールとして整えた.

本研究の目的は,筆者らが作成した活動評価シートとシートの記載を助ける質問項目を使って市町村保健師とともに活動評価を行い,その取組みの過程を整理し,現場の保健師が活用できる新たな活動評価方法を検討することである.

II. 研究方法

1. 対象

筆者らが日頃の教育・研究活動で接点があり保健師活動の状況を把握している市町村で,活動評価に関心があり,組織としてこの取組みに了解が得られる市町村に対して協力を依頼した.9市町村に所属する保健師各1名に依頼し,4市から研究参加の同意が得られた.評価する保健事業を選んでもらい,その事業を担当する経験年数の異なる複数の保健師に参加を依頼した.経験年数の目安として新任期(経験年数1~3年),中堅期(経験年数4~20年),管理的な立場(経験年数20年以上)を示し,可能な限り各期から参加してもらえるよう依頼した.経験年数の異なる複数の保健師を研究参加者として依頼する理由は,保健師の実践能力育成という意味から,本研究の方法による保健師活動評価の実施が,保健師の相互研鑽の機会となることも意図したためである.各市2~4名,計12名が研究参加者となった.

2. 取組み方法

まず,保健師活動の成果に関する調査結果(松下ら,2008)をもとに,6つの活動事例の聞き取りを行いその内容を検討して活動評価シート試案(以下,シートとする)を作成した.さらに,保健師の行政評価への取組みおよび保健師活動評価の実施状況に関する調査(松下ら,2014)の際に併せて行政評価に先進的に取り組んでいる5自治体の保健師からシートに関する意見を得てシートを修正した.加えて,保健師の思考過程に沿ってシートの各欄に順に記載していくことによって,活動を評価することができるようにするため,シートの記載を助ける質問項目(以下,質問項目とする)を作成した.

作成したシートおよび質問項目を使用して,対象者と研究者が共同で活動評価を実施した.具体的には,研究者1名が質問項目に沿って質問しながら,シートの各項目について別の研究者がパソコンにより入力・記載し,その内容をプロジェクターで投影して,対象者および研究者全員で確認しながら進めた.記載にあたり,対象者から出された質問やコメント,およびそれらに対して研究者が回答したり補足説明したりした内容を確認した.そして,共同作業の結果,シートを完成させた.共同作業は,1回90分間で計2回実施した.1回目は,質問項目に沿って一通り進め,全ての質問項目に対するおおよその記載を行い,2回目は,1回目に記載した内容を確認した後にシートへの追記を行った.また2回目終了時には,対象者より,共同作業による活動評価を実施しての意見・感想を個別に聴き取った.各回終了後は,作成したシートの記載内容,およびシートのフォーマットの内容・構成,質問項目の内容・構成,活動評価の進め方,評価方法について,活動評価実施中に対象者から出された質問やコメント,実施後に聞き取った意見をふまえて研究者間での検討を実施し,シートや質問項目を修正した.1市の活動評価および検討が終了した後,次の市で実施し,計4市分実施した.取組み期間は,2013年2月~2014年3月であった.

3. 分析方法

取組みの経過を記録した.このうち,研究者間の検討時の記録から,検討内容を抽出・整理し,活動評価方法をどのように改善したかを整理した.

4. 倫理的配慮

対象候補とした保健師にまず電話にて依頼し,了解が得られたら,所属機関の長宛の依頼文書を郵送した.調査当日に,あらためて,対象保健師に,書面と口頭で,研究目的,方法,具体的な協力内容,研究協力は自由意思によるものであり参加を拒否することや中断する権利があること,個人情報の保護,結果の公表等について説明し,書面を用いて研究参加の同意を得て実施した.研究開始前に岐阜県立看護大学研究倫理審査部会の審査を受け,承認を得た(2012年12月3日,№0064).

III. 結果

1. 対象の概要

対象の概要は,表1に示すとおりである.評価を実施した事業は,乳幼児健康相談,健康づくり推進員事業,家庭訪問事業,生活習慣改善プログラム推進事業であった.

表1  対象の概要
自治体 研究参加者 評価した保健事業 評価実施日
A市 保健師3名
経験年数:20年以上・1名,6~19年・1名,5年以下・1名
乳幼児健康相談 2013年2月12日
2013年3月14日
B市 保健師3名
経験年数:20年以上・1名,6~19年・2名
健康づくり推進員事業 2013年7月8日
2013年7月19日
C市 保健師2名
経験年数:20年以上・1名,6~19年・1名
家庭訪問事業 2013年8月9日
2013年8月27日
D市 保健師4名
経験年数:20年以上・1名,6~19年・1名,5年以下・2名
生活習慣改善プログラム推進事業 2013年11月29日
2013年12月9日

2. 取組みの実際

まず,A市の乳幼児健康相談事業の評価を行い,研究者間の検討は6回実施した.次いでB市の健康づくり推進員事業,C市の家庭訪問事業,D市の生活習慣改善プログラム推進事業の評価を実施し,研究者間の検討は,B市1回,C市2回,D市2回で,4市計11回実施した.

3. 活動評価方法に関する検討内容と改善点

4市4事業の活動評価に取組む過程において,活動評価方法を検討した内容を表2に整理した.検討した内容は,どのような改善に向けたものであったかを検討した結果,4つの内容に整理された.

表2  活動評価実施後に検討した内容
項目 検討した具体的内容
1)評価しようとする事業の目的・目標の明確化とこれを基軸にした情報整理 ・事業目的は,事業計画書に記載されている内容だけでなく,現在保健師が考えていること・明文化されていないが意図していることを確認する必要がある③
・目標が複数ある場合に,意識して目標ごとに結果を記載できるように質問を変更する⑩
・目標が整理されていれば結果も整理できるが,その整理が難しい現状がある.目標の整理を促すために,問3の後に文言を追加する⑪
・目標の整理を促すために,問7で目標との関連で結果を整理する視点として,目標の期間(短期・長期),他の事業との関連におけるこの事業の重点目標は何か等を例示し,目標の位置付けの検討,成果の整理を導くようにする⑪
2)評価する事業と自治体における上位計画との関連や他事業との関連を検討することの意識付け ・評価する事業と他事業との関連を保健師自身が意識できるようにする必要がある②
・当該事業で解決しようとする課題は,母子保健事業全体の中でどのような位置付けのものであるのか,優先順位の高い問題なのか,といった面から課題を確認する必要がある③
・保健活動では,上位目標を達成するために複数事業を実施しているので,評価も事業間の関連をみていく必要がある③
・評価をすることにより,事業の位置付けを確認する,成果を確認するという側面がある③
・各種保健計画との関連を意識できるように質問項目の表現を追加する⑥
3)保健師が実践活動の中で取組みやすいツールとしての整備 事業を評価する目的・理由の確認
・保健師が当該事業を評価したい理由・評価の目的を,最初に確認する必要がある①
・事業を評価する目的・理由を確認する必要がある⑦
・評価する事業は,現在困っているものや節目にあって見直したいものをとりあげるとよいという保健師の意見から,評価のねらいにそのことを加筆する⑦
・事業評価をする目的を最初に確認することが必要である⑩
評価のスパン・起点の確認
・評価の起点をいつにするのか,どれくらいのスパンの評価をするのかを明確にする①
・どの時点での評価をするかを確認する必要がある⑦
話し合いの意義や方法の提案
・使い方の説明に,本評価方法は複数の保健師で話し合って進めるものであることを追記する⑤
・使い方の説明に,保健師間の話し合いのきっかけにも使用できることを追記する⑨
・保健師の意見から,大学教員と評価できたことがよかったという意見があり,所属部署外のメンバー(例えば保健所保健師等)を交えて評価する方法もあることを追記する⑪
4)保健師の思考のプロセスに沿って情報を整理するシートや質問項目の工夫 ・質問内容を整理し,ステップに沿って進められるように構成する⑦
・記載する際に保健師が参考にできるように,シートの記載例を複数準備する⑦
・シートの各欄に何を入力すればよいかわかりやすくする必要がある③
・質問項目にシートと同じ項目名を記し,質問の番号をシートの各欄にもつける⑤
・作業の順序に沿って,質問の順にシートの左から右へ進むようにシート欄を入れ替える⑤
・シートの「目標」の欄の右に実施方法を配置する⑥
・シートの「計画」と「結果」を縦に並べる形式で再構成する④
・活動しようと思った根拠・現状の「生活実態」は上位目標と下位目標に区別せず一つの欄にする④
・現状に対するめざすところは,下位目標では当該事業がどのようなものになるか,上位目標では地域がどうなるかの内容をあらわすものを記載する④
・現状把握が目的の場合は,めざす姿を書くことができないので,現状把握と書くように注意書きを入れる⑧
・保健師が実感として捉えているニーズが出てくるように,質問を工夫する必要がある③
・シートには,評価に基づく次年度計画を書けるようにする②
・質問項目とシートに,次年度計画の記載欄・記載方法を明確にする⑨
・次年度計画の検討の際に,目標を達成する期間を明確にできるように,質問に追記する⑩
・シート様式について,エクセルファイルは作業がしにくいため,ワードファイルに変更する⑧

丸数字は全11回の研究者間検討のうちの何回目の検討であったかを示す

1) 評価しようとする事業の目的・目標の明確化とこれを基軸にした情報整理

改善点の1点目は,評価しようとする事業の目的・目標を明確にし,これを基軸に情報を整理できるようにした点であった.シートは,開発当初から,自治体における上位計画と事業との関連を,保健師が意識化した上で活動を評価することを意図していたが,事業の目的・目標が,上位計画のどの部分に該当するのか,事業の目的・目標に対して確認できる成果は何か,といった視点から事業を振り返って既に得ている情報を整理し,事業を評価できるようにした.

2) 評価する事業と自治体における上位計画との関連や他事業との関連を検討することの意識付け

2点目は,評価する事業と自治体における上位計画との関連や他事業との関連を検討することを保健師が意識できるようにした点であった.先に述べたように,開発当初から,上位計画と事業との関連を保健師が意識した上で活動を評価することや,他事業との関連を意識することは意図していたが,具体的に質問項目として含めるなど,保健師に意識付ける必要があった.

3) 保健師が実践活動の中で取組みやすいツールとしての整備

3点目は,保健師が主体的に事業評価に取り組めるように,実践活動の中で取組みやすいツールとして整えることであった.具体的には,単にシートへの記載を進めていくための質問項目だけでなく,「事業を評価する目的・理由を確認する」「評価のスパン・起点を確認する」「保健師間での話し合いの意義や方法を提案する」といった内容を加えるという改善を行った.

4) 保健師の思考のプロセスに沿って情報を整理するシートや質問項目の工夫

4点目は,保健師の思考のプロセスに沿ってシート上に情報を記載できるように,シートの欄を配置し,記載を助ける質問項目の順序や質問の仕方を工夫した点であった.具体的には,「記載する際に保健師が参考にできるようにシートの記載例を複数準備する」「質問の項目にシートと同じ項目名を記し,質問の番号をシートの各欄にもつける」「評価に基づいて次年度計画が書けるようにする」「作業の順序に沿って質問の順にシートの左から右に進むように欄を構成する」などの工夫により,評価のための作業が複雑にならないように,保健師の思考のプロセスに沿って無理なく考え記載できるようにした.

4. 作成したシート及び活動評価のための問い

本研究に使用したシートは,その作成過程においても改良を加えた.最終的なシートは,A3サイズ横置きで1~2枚に記載内容が収まるようにした.図1に示す.

図1 

市町村保健師活動評価シート

質問項目は,保健師の思考のプロセスに沿ってシート上に順に情報を記載していくことを助ける質問項目であったが,結果3に示した検討結果に基づいて,当初の質問項目より前の部分に,6つの内容,すなわち1.評価の目的の確認,2.評価シートと質問項目を活用した評価のねらいの説明,3.この評価方法の概要説明,4.評価の進め方に関する提案,5.質問項目を活用した評価シートの記載方法の説明,6.評価作業にあたり準備するとよいと思われる資料の提案,を追加した.そして,当初の質問項目を「シートの記載を助ける質問項目」として7番目に置いた.これら7項目から構成される内容を「活動評価のための問い」とし,最終版とした.表3に項目名を示す.一部,斜体字で示す部分は,例として全文を記載した.実際に使用する「活動評価のための問い」は,文字の大きさや配置等,見やすさも考慮して作成し,A4サイズ9枚とした.

表3  活動評価のための問い
1.評価の目的の確認
2.評価シートと質問項目を活用した評価のねらいの説明
3.この評価方法の概要説明
4.評価の進め方に関する提案
5.質問項目を活用した評価シートの記載方法の説明
6.評価作業にあたり準備するとよいと思われる資料の提案
7.シートの記載を助ける質問項目
ステップ1:事業の目的・目標を確認しましょう
問0.活動名(事業名)
問1.下位目標(当該事業の目標):2-A
評価したい活動や事業の目的・目標はどういうものですか.事業計画書などに記載してある目的・目標を確認してください.目的・目標をシートの左下にある「下位目標(当該事業の目標)の欄(2-A)に記載しましょう.
問2.活動目標,上位目標(市町村全体の目標):活動目標の欄および1-A
問3.下位目標(当該事業の目標)の再確認:2-A
ステップ2:事業の方法を確認しましょう
問4.実施方法:2-B
ステップ3:事業実施の根拠となる地域の実態を確認しましょう
問5.活動しようと思った根拠・現状と活動の根拠となる現状に対するめざす姿
問5-1)活動しようと思った根拠・現状:保健師が捉えた問題・課題は何か:C
(各種統計や調査結果など数値であらわされるもの)
問5-2)活動しようと思った根拠・現状:住民の生活実態:D
(具体的な住民の声や困りごと,生活状況.日頃の活動の中で感じ取っていること)
問5-3)活動の根拠となる現状に対するめざす姿:問題・課題がどうなるか:E
(何で評価するかも含む)
問5-4)活動の根拠となる現状に対するめざす姿:生活実態がどうなるか*F
(何で評価するかも含む)
ステップ4:事業の位置付け,成果を検討し,評価への気づきを確認しましょう
問6.実施方法(関連する他の事業):1-B
問7.活動の結果
問7-1)問題・課題がどうなったか:G
問7-2)生活実態がどうなったか:H
問7-3)ネットワーク・関係機関・関係者との連携状況:I
問8.評価:J
ステップ5:次年度の計画を考えてみましょう
問9.次年度計画の検討と次年度の取組みの明確化:K
問10.次年度計画の記載:新たなシートに記載

*表中「2-A」「C」等の数字・アルファベットは,図1の記載欄と対応する

結果3.4)に示したように,シートと「活動評価のための問い」の関連を明確にするため,図1の各欄には該当する質問項目の番号を記した.またシートの縦軸には数字,横軸にはアルファベットを付けて「1-A」「C」等,シートの各欄を記号化して示せるようにし,その記号を用いて「活動評価のための問い」の説明文章を記載した.

IV. 考察

本研究では,筆者らが作成した看護過程の展開と行政活動の段階を反映できる活動評価シート試案を用いて,市町村保健師とともに実際に活動評価を実施した.そして,評価に活用できるツールとしてのシートになるよう改良を重ねて,保健師活動の評価方法の開発を試み,その過程を整理した.これをふまえ,現場の保健師が活用できる活動評価方法について考察する.

1. 評価する事業と自治体における上位計画との関連を意識した評価ができるようにする

筆者らは,本活動評価方法の開発当初より,評価する事業と上位計画の関連を保健師が意識化した上で活動を評価することを意図していたが,開発過程を通して,このことが特に重視・強調された.とりわけ,目的・目標に関して,事業と上位計画との関連を明確にすることが活動評価をする上では重要であることが確認され,シートおよび活動評価のための問いに反映された.

保健師との活動評価の試行作業を経た結果,質問の順番や問い方を工夫することにより,必ず上位計画を見直し,内容を確認するという手順を踏むことになった.また,シートは視覚的にもわかりやすいものである必要があり,図1に示すとおり,シート上部に上位計画の目標の記載欄を設けることにした.

保健師と研究者の共同作業によって活動評価を実施する過程において,このような変更が生じたということは,保健師自身が,事業と上位計画との関連を明確にして評価を行うことの重要性に気づいて,今回の試行によりこれを実践する評価方法が具現化できたのではないかと考える.評価する事業と上位計画の関連をみるということは,評価する事業の目的・目標を明確にし,これを基軸に情報を整理するところから始まるため,事業の目的・目標を意識して評価を進めていくことになる.本来,事業評価は,事業の目的・目標に照らして行うものであるが,先行研究(大井ら,2013)の結果では,事業や活動の目的に照らして評価するように意識して取り組んでいる保健師は56.7%であった.この結果について筆者らは,何をもって評価するか,保健師の評価の視点が明確になっていない可能性があると考えていたが,今回改良した方法により,活動評価の視点を明確にすることにもつながると考えられた.

上位計画との関連に関しては,さらに予算の面からも事業の位置付けを明確にして評価を進める必要がある.しかし,今回改良した方法ではこの点は意識されておらず,今後の検討課題であると考える.

2. 保健師間で話し合うことにより活動評価を推進し専門職としての能力を高める

筆者らは,先行研究(大井ら,2013)の結果より,職場内で話し合うことを評価手段として重視しつつも,事業目的に照らした評価が行われていないことを保健師の活動評価上の課題と捉え,この課題を解決する評価方法の開発をめざした.本活動評価においては当初から,事業に携わる複数の保健師が話し合い活動評価を実施するという方法を重視した.そして話し合いを行うことによって,単に担当事業の評価の実施にとどまらず,保健師の実践能力の向上を意識的に行うという現任教育としての意味を重視していた.

活動評価の試行を通して,「使い方の説明に,本評価方法は複数の保健師で話し合って進めるものであることを追記する」「所属部署外のメンバー(例えば保健所保健師等)を交えて評価する方法もあることを追記する」等の変更を加えて,活動評価の方法として保健師間の話し合いを行うことを具体的に提示し,明確にした.

中板(2009)は,保健師活動の評価において評価体制を築くことの必要性を指摘している.評価の方法として,誰とどのように評価するかが重要であり,今回開発した方法は,その点を明示しており実践に活用しうるものと考える.

2013年に,地域における保健師の保健活動に関する指針(厚生労働省健康局,2013)が示され,PDCAサイクルに基づいた地域保健関連施策の展開及びその評価を行うことが求められ,地域の保健師はPDCAサイクルを意識した活動を行うようになってきているが,保健活動の現場ではまだ困難さがあると推測される.永江(2012)は,中堅期保健師について,業務の推進に追われてPDCAサイクルの基本を押さえた活動展開ができていない可能性を指摘している.このような課題に対して,今回方法として採用した,経験年数の異なる保健師間での話し合いを通して行う活動評価は,中堅期保健師が,管理的立場にある保健師や先輩保健師の考え方や経験を知り,後輩保健師・新任保健師へ指導的にかかわることを通して,自らの活動を振り返り,今後の活動へのモチベーションを高める重要な機会となると考える.このような経験を経て,保健師としての能力を高めていくことにつながると考える.

3. 本活動評価方法の活用可能性と課題

本研究は,4市における4つの保健事業を素材に,これらの事業にかかわる保健師と筆者ら研究者との共同により活動評価を実施したプロセスをデータとして,活動評価方法の試案を改良し開発を試みた.保健師活動評価においては,最初に手法ありきではなく思考プロセスが重要であることが確認され工夫が加えられたことから,思考プロセスを具現化する評価方法を示すことができたのではないかと考える.

また,保健師が実践活動において取組みやすい方法になるよう,活動評価のための問いとして表3に示す1~6の質問や説明を加えた.これにより,保健師の活動評価への課題意識や準備状況を確認した上で活動評価に着手できるようになり,保健師にとっては活用しやすいものになったのではないかと考える.

しかし,今回の試行は4種の保健事業に限定して行ったものであること,活動評価作業における入力や記録の整理に研究者が関与し保健師だけで評価作業が実施できるか否かの検証ができていないこと,シートは保健師の思考プロセスを重視しており,また成果評価を明示する様式にはなっておらず保健師以外の他職種等への説明に用いる様式としては不十分であること,といった課題が残されている.

本評価方法が広く活用できるものとなるためには,保健師自身が活動評価を進めていく必要がある.本研究で開発したシートおよび活動評価のための問いを現場の保健師に活用してもらい,保健師自身が負担なく日頃の活動の過程で評価ができるように検証を重ね,さらなる改良が必要である.

謝辞

本研究を進めるにあたりご協力いただいた保健師の皆様に感謝申し上げます.

また,シート試案Ver. 1の作成には,大川眞智子氏(岐阜県立看護大学),米増直美氏(元岐阜県立看護大学),本研究のデータ収集には橋爪真衣氏(元岐阜県立看護大学)のご協力をいただきました.

なお,本研究はJSPS科研費23593388(研究代表者 松下光子)の助成を受けて実施し,第3回日本公衆衛生看護学会学術集会にて一部を発表した.

文献
  • 厚生労働省健康局(2013):地域における保健師の保健活動に関する指針,http://www.nacphn.jp/topics/pdf/2013_shishin.pdf(検索日:2015年9月2日)
  •  松下 光子, 大井 靖子, 種村 真衣,他(2014):6基礎自治体における保健師の行政評価への取り組みと保健師活動評価の実施状況,岐阜県立看護大学紀要,14(1),149–156.
  •  松下 光子, 大川 眞智子, 米増 直美(2008):市町村保健師に有用な活動評価の方法,岐阜県立看護大学紀要,9(1),37–44.
  •  永江 尚美(2012):保健師はPDCAサイクルを苦手としているのか?中堅保健師の人材育成に関する調査研究から,保健師ジャーナル,68(5),372–375.
  •  中板 育美(2009):公衆衛生看護活動における評価の現状と課題,保健医療科学,58(4),349–354.
  •  大井 靖子, 松下 光子, 大川 眞智子,他(2013):市町村保健師の行政評価および保健師活動評価への取り組みの実態,岐阜県立看護大学紀要,13(1),161–166.
  •  種村 真衣, 松下 光子, 大川 眞智子,他(2013):活動評価方法の開発に向けた保健師活動評価に関する文献の検討,岐阜県立看護大学紀要,13(1),173–180.
 
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