日本公衆衛生看護学会誌
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研究
食物アレルギーの子どもの母親が養育上直面する問題と対処行動
八尾坂 志保小林 恵子
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2018 年 7 巻 1 号 p. 23-31

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Abstract

目的:食物アレルギー(FA)の子どもの母親が直面した問題と対処行動を明らかにし,対処行動をヘルスリテラシー(HL)の視点で分析することにより,支援への示唆を得る.

方法:母親9名に半構造化面接を行い質的記述的に分析した.

結果:直面した問題は【疾患や治療に関する情報の入手困難】【アレルギー症状出現への不安】【治療に関する負担や困難】【家族や友人,町内等の理解と対応に関する困難】【園・小学校の理解と対応に関する困難】の5カテゴリを,対処行動は【FAに関する情報の入手】【入手情報に沿った対応策の実践】【考案した対応策の実践】【家族や関係者への説明と対応の依頼】【子どもに疾患や治療等を説明】の5カテゴリを生成した.

考察:FAの子どもの母親は,診断直後は疾患や治療に関する情報の入手が困難であったが,HLを獲得し,成長に伴う問題に対処していた.HLの獲得を促進するための専門相談窓口等の設置が必要である.

I. 緒言

日本の食物アレルギー(以下,FAとする)患者は,乳幼児の約10%,学童以降1.3~4.5%程度存在すると言われ(厚生労働科学研究班,2014),2013年8月現在,FAを持つ学童は約45万人に増加している(公益財団法人日本学校保健会,2013).

保育所や幼稚園(以下,園とする),学校のFAへの対応としては,ガイドライン(厚生労働省,2011公益財団法人日本学校保健会,2008)や指針(文部科学省,2015)が作成されているが,2015年2月の実態調査(中部管区行政評価局,2015)によれば,ガイドラインを知らず未利用の施設が私立幼稚園の約5割に上り,約4割の園で誤配・誤食等の事故が発生しており,園や学校におけるFAへの対応は徹底されていない現状にある.

学童期までのFA患者の治療実施のほとんどは母親に委ねられることから,FAの子どもを養育する母親には,除去食に関するストレス(池田ら,2006立松ら,2007)や困難感(秋鹿ら,2011)があることが報告されている.

一方,FA児の母親が医療者から情報収集する対処行動は,正しい知識やスキルを主体的に得る重要な要素であり,母親の不安の軽減やスキルの向上につながる(秋鹿ら,2014)ことが指摘されている.医療者等から情報収集する力や情報を理解し正しい知識を得る能力は,WHO(1998)が定義する「健康を維持・促進するために情報にアクセスし,理解し,活用する個人の能力や意欲を決定する認知的で社会的なスキル」,ヘルスリテラシー(以下,HLとする)であると考えられ,母親は問題へ対処するためにHLを獲得・活用していることが推察される.

このように,FAの子どもを養育する母親の直面する問題や対処行動は徐々に解明されつつあるが,子どもの成長段階における問題の構造や,問題に対処するために獲得・活用したHLに関する報告は少なく,十分なエビデンスを得られていない.

そこで本研究では,FAの子どもを養育する母親が,子どもの診断から小学校入学後半年までの間に直面した問題と対処行動を明らかにするとともに,対処行動をHLの視点で分析することで,FAの子どもを養育する母親への支援について示唆を得ることを目的とする.

II. 研究方法

1. 対象

本研究の対象は,医師から乳幼児期にFAと診断され,小学校入学頃まで除去食療法等の治療を継続的に行った経験がある小学校低学年の子どもの養育を中心的に担っている母親とした.A県内のFAの子どもを持つ親の会(以下,親の会とする)等の代表者,研究者の知人等の仲介者に紹介を依頼し,研究参加に同意の得られたA県内居住の母親9名の参加を得た.

2. データ収集方法

2015年8~11月に,半構造化面接法による個別インタビューを行った.日時や場所は対象者の希望に合わせて設定し,一人あたり1回,平均時間は109.1±21.8分であった.インタビューでは,「基本的属性」「子どものFAに関する基礎情報」「子どもの診断から成長過程において直面した問題の内容」,「問題に直面した際にとった対処行動の内容」を子どもの成長過程における時期がわかるように語ってもらった.インタビュー内容は対象者の許可を得て録音し逐語録を作成した.

3. 分析方法

逐語録を質的記述的に分析した.「直面した問題」「対処行動」を表している部分を意味の読み取れる単位で抽出し内容や言葉に忠実にコード化した.コードの類似性と相違性,意味内容について検討を重ね,サブカテゴリ,カテゴリを生成した.「直面した問題」は,子どものライフステージに沿って3つの時期(診断から入園前まで,入園から入学前まで,入学から入学後半年)に分類し,時期ごとにコードとして語られた数を算出し分析した.「対処行動」はSørensen et al.(2012)のHLの統合モデルと比較し検討した.妥当性の確保には,公衆衛生看護学において質的研究の実績がある共同研究者にスーパービジョンを受けた.

4. 倫理的配慮

A県内の親の会等の代表者および研究者の知人等の仲介者へ研究協力を依頼する際,また研究対象者には研究協力意思の確認およびインタビューの際に,研究の主旨,目的,方法,研究協力による利益・不利益,研究協力・途中撤回の自由,個人情報の保護等について文書と口頭で説明し,同意書への署名により研究協力の同意を得た.研究開始にあたり,新潟大学大学院保健学研究科研究倫理審査委員会の承認(2015年8月4日承認番号第127号)を得た.

5. 用語の操作的定義

HL:WHO(1998)Sørensen et al.(2012)の定義を参考に,生涯を通じてQOLを維持・向上させたり,ヘルスケア・疾病予防・ヘルスプロモーションに関連した日常生活の場での判断や意思決定を行うために,健康情報にアクセスし,理解し,評価し,応用するという知識・動機づけ・能力と定義した.

III. 研究結果

1. 研究参加者の概要(表1

研究参加者は,FAの子どもの母親9名で,子どもの平均年齢は7歳であった.子どものアレルギーの原因食物数は,診断時平均6.3個,調査時平均3.3個であった.子どものFAの発症時期は平均生後6.3か月,診断時期は平均生後7.4か月であった.9名中6名がアナフィラキシー症状を経験しており,全員がFAの子どもの養育が初めてであった.

表1  研究参加者の概要
ID 患児年齢
(学年)
性別 発症月齢 診断月齢 原因食物(解除済) アナフィラキシー
A 6歳
(小1)
12 12 卵・乳・落花生・ナッツ類・サバ 1回
B 6歳
(小1)
8 18 卵・キウイフルーツ(乳・たらこ・パイナップル・メロン・あけび) 1回
C 7歳
(小1)
2 2 卵(乳・ピーナッツ・牛肉) 1回
D 7歳
(小2)
2 2 卵・小麦・そば・ピーナッツ・カニ・エビ(乳・大豆・貝・魚・肉・ゴマ・りんご) なし
E 8歳
(小3)
5 5 卵・乳・小麦・ピーナッツ(大豆) 2回
F 6歳
(小1)
8 8 卵・小麦・魚卵・ピーナッツ・アーモンド なし
G 8歳
(小2)
8 8 乳(微量なら可食) 1回
H 7歳
(小2)
9 9 卵(加熱)・乳(加熱)・大豆 なし
I 8歳
(小3)
3 3 卵・乳・ナッツ類(米・小麦・魚介類・ししゃも・カキ・ホタテ・蕎麦・サバ・エビ・タコ・たらこ) 3回

2. FAの子どもを養育する母親が直面した問題(表2

母親が直面した問題として,71のコードを抽出し,22のサブカテゴリ,5つのカテゴリを生成した.5つのカテゴリは,【疾患や治療に関する情報の入手困難】【アレルギー症状出現への不安】【治療に関する負担や困難】【家族や友人,町内等の理解と対応に関する困難】【園・小学校の理解と対応に関する困難】で構成された.また,抽出した71のコードについて,3つの時期のどこに当てはまるかを確認し,複数の時期に当てはまる場合は複数でカウントし,ライフステージの時期ごとにコードとして語られた数(表2)を算出した.算出したコードとして語られた数を図にしたものが図1である.本論文ではカテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉,研究対象者の語りを斜体で示し,内容を理解できるよう( )で補足した.以下,カテゴリごとにサブカテゴリと代表的なデータを紹介する.

表2  食物アレルギーの子どもを養育する母親の直面した問題と対処行動
カテゴリ サブカテゴリ ライフステージの時期ごとにコードとして語られた数 ID
診断~入園 入園~入学 入学~半年
直面した問題 1)疾患や治療に関する情報の入手困難 治療に関する正確な情報の不足 8 0 0 B,C,E,F,G,H,I
経験に基づく情報の入手困難 2 0 0
アレルギー専門医の所在がわからない 4 0 0
2)アレルギー症状出現への不安 症状出現の原因がわからない 5 0 0 A,D,E,F,G,H,I
飲食を伴う場への参加や外出の回避 2 0 0
誤食による症状出現・アナフィラキシー発症 4 1 2
3)治療に関する負担や困難 除去食調理の負担や不安 3 0 0 A,C,D,E,F,G,H,I
除去食による成長への悪影響の心配 5 5 5
母親自身の食生活の負担 2 0 0
除去食による経済的・時間的負担 2 0 0
自宅での負荷の継続困難 0 4 4
外食先・旅行先での除去食に関する困難 3 6 6
4)家族や友人,町内等の理解と対応に関する困難 祖父母の理解や協力が得にくい 5 0 0 C,E,F,G,H,I
きょうだいや夫の協力が得にくい 2 0 0
子育て支援センター等の飲食を伴う場での困難 3 0 0
友人の理解が得にくい 2 1 1
町内の飲食を伴う行事の困難 0 1 1
5)園・小学校の理解と対応に関する困難 入園前の入園先選定の困難 4 0 0 A,B,C,D,E,F,G,H,I
入学前のアレルギー対応の準備の困難 0 7 0
園・小学校の給食やおやつの困難 0 6 3
園・小学校の症状出現時の対応の困難 0 5 1
園・小学校の飲食を伴う行事の困難 0 7 3
対処行動 1)食物アレルギーに関する情報の入手 インターネットや本,テレビ,講演会等で情報を収集 A,B,C,D,E,F,G,H,I
主治医,行政の保健師,栄養士や調理師から情報を収集
同病児の親から経験に基づく情報を収集
2)入手情報に沿った対応策の実践 専門医の所在の情報をもとに受診 A,B,C,D,F,H,I
除去食の情報に沿って実践
誤食時の対応の情報に沿って実践
3)考案した対応策の実践 自宅や祖父母宅での除去食の対応策を考え実践 A,B,C,D,E,F,G,H,I
飲食を伴う場への外出の対応策を考え実践
園・小学校での除去食の対応策を考え実践
外食先・旅行先での除去食の対応策を考え実践
4)家族や関係者への説明と対応の依頼 祖父母や周囲の母・町内等に疾患や治療を説明 A,B,C,D,E,F,G,H,I
園・小学校に疾患や治療の説明とアレルギー対応の依頼
5)子どもに疾患や治療等を説明 子どもの様子を見ながら疾患や治療,周りへの対応を説明 A,D,F,H,I
図1 

食物アレルギーの子どもを養育する母親が直面した問題

1) 疾患や治療に関する情報の入手困難

診断直後の母親は,膨大な情報のなかから正確な情報を見分けられないという《治療に関する正確な情報の不足》や,同病児の親の知人がおらず体験談が聞けないなどの《経験に基づく情報の入手困難》を抱えていた.また〈FAの専門医に出会えず小児科を転々とした〉など,《アレルギー専門医の所在がわからない》ために転院を繰り返していた.

一番最初のO(小児科)っていうんですけど,そことH(小児科)に行って,それから(専門医の)S(小児科)に行った…(中略)いいお医者さん(専門医)にすぐ出会えなかったのでね.(Bさん)

2) アレルギー症状出現への不安

診断後間もない頃の母親は,〈子どものアレルギー症状出現の原因が,自分の食べさせたものや食器の洗い残しなのではないかと怖くなった〉など,《症状出現の原因がわからない》ために悩んでいた.また子どもが幼い頃は,〈他の子のおやつに子どもが触るのが心配で,食べ物が出される場に行きたくないと思った〉など,アレルギー症状の出現を恐れ《飲食を伴う場への参加や外出の回避》をしていた.〈保育所の給食で誤食によりアナフィラキシーを起こした〉など,実際に《誤食による症状出現・アナフィラキシー発症》を経験した母親は,入園・入学後も子どもの生命の危険に不安を抱えていた.

(食事の後の)洗いものとかも(食器の洗い残しが,アレルギー症状出現の原因になっているのではないかと)ちょっと怖かったですね.食器を変えたり(もしました).(Iさん)

3) 治療に関する負担や困難

診断直後の母親は,FAに関する知識が乏しく,治癒の目途もつかないなかで,《除去食調理の負担や不安》や,《除去食による成長への悪影響の心配》を感じていた.母乳のために母親も食事制限を指示され《母親自身の食生活の負担》が生じることもあった.アレルギー対応の食材は高額なものもあり,食材探しや購入可能な限られた店舗まで出向くために時間がかかるなど,《除去食による経済的・時間的負担》があった.入園頃には《除去食調理の負担や不安》《母親自身の食生活の負担》《除去食による経済的・時間的負担》は抽出されなくなったが,治療の長期化により,《除去食による成長への悪影響の心配》が,入園・入学後も継続していた.医師の指示により自宅でアレルギー原因食物の摂取量や頻度を徐々に増やす治療(以下,自宅での負荷とする)が始まると,〈医師の指示のもと自宅で負荷を続けたが,症状が出現し継続できなかった〉など,《自宅での負荷の継続困難》が起こっていた.外食先・旅行先ではアレルギー対応の限られた飲食店しか利用できず,《外食先・旅行先での除去食に関する困難》は,診断から入学後まで継続していた.

(子どもが診断されて間もない頃は)まだあんまり(FAに関する)知識もなくて(中略)全部手作りしなくちゃいけないというイメージがあったんですよね.(中略)それまで(治るまで)の間ご飯どうしようって…(Fさん)

4) 家族や友人,町内等の理解と対応に関する困難

FAと偏食が混同されやすく,診断後間もない頃は〈祖父母にFAが生命に危険を及ぼすことが伝わりにくかった〉など,《祖父母の理解や協力が得にくい》状況があった.また,家族からFAの子どもの除去食を一緒に食べることへの不満を口にされるなど,《きょうだいや夫の協力が得にくい》こともあった.子どもとの外出では,〈子育て支援センターで子どもがみんなと同じものを食べられないことで居心地が悪くなった〉など《子育て支援センター等の飲食を伴う場での困難》が出現していた.また友人宅や町内の行事等では,アレルギーの説明や準備を行う必要があり,《友人の理解が得にくい》悩みや,《町内の飲食を伴う行事の困難》を入園・入学後も抱えていた.

旦那の両親も心配してくれたんですけど,どっかでやっぱり「過保護すぎるんじゃないか」っていう風に言われたこともあって.(中略)(FAは命にかかわるから)怖いんだよって伝えるのに,すごい苦労しました.(Iさん)

5) 園・小学校の理解と対応に関する困難

入園前の母親は,〈入園前に幼稚園や保育所の除去食や代替食対応の十分な情報が得られず入園先の選定に迷った〉など,《入園前の入園先選定の困難》を感じていた.小学校入学前には,学校と様々な相談や準備が必要となり,母親は《入学前のアレルギー対応の準備の困難》を抱えていた.給食では,9名中7名が園や小学校で給食の代わりに弁当を持参した経験を持ち,うち2名は給食と同じ献立で弁当を準備するよう園に求められるなど,母親は《園・小学校の給食やおやつの困難》を感じていた.また園や小学校でアレルギー症状が出現しても適切な対応がとられにくく,《園・小学校の症状出現時の対応の困難》があった.園や小学校の行事では,〈小学校の授業やPTA主催の行事で飲食を伴うものがあり,準備や対応が必要だった〉と,行事のたびに園や小学校と調整が必要となることから,母親は《園・小学校の飲食を伴う行事の困難》を抱えていた.

何か(小学校の行事)があるたびに,(食べ物の使用や弁当準備等の)話をしに(相談に)行ったり,(アレルギー対応を)お願いしに行ったりしなくちゃいけなかったから,それが大変でしたね.(Iさん)

3. FAの子どもを養育する母親の問題への対処行動(表2

母親の問題への対処行動として85のコードを抽出し,13のサブカテゴリ,5つのカテゴリを生成した.5つのカテゴリは,【FAに関する情報の入手】【入手情報に沿った対応策の実践】【考案した対応策の実践】【家族や関係者への説明と対応の依頼】【子どもに疾患や治療等を説明】で構成された.以下,カテゴリごとにサブカテゴリと代表的なデータを紹介する.

1) FAに関する情報の入手

母親は,疾患や治療法,専門医の所在,園や小学校のアレルギー対応,旅行先の食事場所等,FAに関する様々なことを《インターネットや本,テレビ,講演会等で情報を収集》し,さらに《主治医,行政の保健師,栄養士や調理師から情報を収集》したり,《同病児の親から経験に基づく情報を収集》していた.

(保育所と毎月行う給食の除去食対応の)打ち合わせの時に,調理の先生に,「これ(保育所で提供される除去食は)どうやって作ってるんですか」とか(栄養バランスの良い除去食の作り方を尋ねた).(Iさん)

2) 入手情報に沿った対応策の実践

母親は〈同病児の親や知人に聞いた医療機関に受診した〉など,《専門医の所在の情報をもとに受診》していた.また主治医に聞いたアレルギー対応の食品会社を利用するなど,《除去食の情報に沿って実践》していた.子どもの〈誤食時は主治医の指示に沿って内服等の処置をし,それでも症状が改善しなければ病院に電話をした〉など,《誤食時の対応の情報に沿って実践》していた.

(誤食時は)毎回だいたい似たような症状になるので,私がだいたいわかるから,先生に言われたとおりの処置(薬を飲ませる等)をしても,症状が明らかに危ない状況であれば,即電話,となっているので,そうする…(Dさん)

3) 考案した対応策の実践

除去食の安全な実施のため〈祖父母の家に泊まるときは,アレルギー対応のため専用の調理器具を持参し母親が全員分の食事を作った〉など,《自宅や祖父母宅での除去食の対応策を考え実践》していた.また外出先で誤食しないよう《飲食を伴う場への外出の対応策を考え実践》をしたり,〈園の給食やイベントで出される食べ物に似たものを手作りしたり購入して子どもに持たせた〉など,《園・小学校での除去食の対応策を考え実践》していた.除去食の確保が難しい外食先や旅行先では,〈旅行には保存のきくフリカケやマヨネーズ,ケチャップ,ソーセージを冷凍バッグで持参した〉など,《外食先・旅行先での除去食の対応策を考え実践》していた.

(祖父母の家での)お泊りはすごい大変でした.フライパンも全部持って移動でした.(中略)私が作った方が早いので,みんなの分も,子どもの分も,私が担当で,皆が食べられるものを作った方が,安全だし…(Dさん)

4) 家族や関係者への説明と対応の依頼

診断直後から母親は,〈祖父母へ子どものアレルギーについてや除去食の必要性を何度も説明した〉など,《祖父母や周囲の母・町内等に疾患や治療を説明》していた.入園・入学後は,〈園の担任や園長にアナフィラキシーが起きた時の対応を説明し,対応の周知やエピペンの練習をお願いした〉など,《園・小学校に疾患や治療の説明とアレルギー対応の依頼》をしており,子どもの成長に伴い,説明の対象や内容が拡大していた.

(保育所の職員の)皆さんに(アナフィラキシー時の対応を)周知していただきたいっていうのを(園長に)お願いした(中略)実際に(職員)皆で(エピペンの使い方を)練習してもらえませんか」ってお願いした…(Aさん)

5) 子どもに疾患や治療等を説明

〈子どもにアレルギーの原因食物を食べることで生命に危険が及ぶこと,食べられないものがあることを理解できるように説明した〉と,《子どもの様子を見ながら疾患や治療,周りへの対応を説明》していた.

少しずつその,「あなたには食べられないものがあるよ」っていうのを,教えていかなくちゃ,と思って(子どもに教えはじめた.)(Fさん)

IV. 考察

1. FAの子どもを養育する母親が直面した問題

本研究において母親は,子どもがFAと診断されてから入学後まで,アレルギー症状出現への不安や,治療に関する負担,家族や友人等の理解と対応にまつわる困難を感じていた.診断後間もない時期には,疾患や治療に関する情報の入手困難が出現し,子どものライフステージに沿って,園や小学校のアレルギー対応に関する困難が生じていた.

アレルギー症状出現への不安は,本研究で9名中7名の母親から語られており,FA児の保護者の91%がアレルギー症状の出現に不安を感じていたという林ら(2009)の報告と同様の傾向を示していた.対象者のなかには,給食での誤食によりアナフィラキシーを発症した経験のある者もいたことから,症状出現への不安が入学後まで継続していたと考えられる.

FAの治療に関する負担や困難については,対象者9名中8名の母親から語られており,除去食中の保護者の72.5%が除去食にストレスを感じていたとする池田ら(2006)の報告と同様の傾向がみられた.また母親らは,診断直後の頃は知識がなく,除去食の調理に負担や不安を感じたことを語っていたことから,除去食に関する知識の不足が,診断直後の除去食に関する負担の出現につながったと考えられる.そして入園後の時期には,長期化した除去食による成長への悪影響の心配や,自宅での負荷による困難が加わり,治療に関する負担感や困難感の継続的な出現につながっていたと考えられる.

子どもの入園前から入学後にかけて母親は,園や小学校のアレルギー対応という社会的な活動範囲の拡大により起こる困難に直面していた.給食では除去食対応ができず弁当を持参した者が9名中7名おり,73.1%のFAの子どもが園で弁当持参を必要としたとする佐合ら(2009)の報告とも近似していた.また,園や小学校での行事やイベントのたびに,アレルギー症状出現防止に細心の注意を払った準備や,園・小学校との調整が必要であったことが,母親の困難につながったと考えられる.

2. FAの子どもを養育する母親の問題への対処行動とHL(図2

本研究で母親らは直面した問題に対処するために,FAに関するあらゆる情報を入手し,情報に沿った対応策の実践や,情報に基づき自ら考案した対応策の実践,関係者へFAについて説明し対応を依頼するという行動をとっていた.

図2 

食物アレルギーの子どもを養育する母親の問題への対処行動とヘルスリテラシー

母親の対処行動を,Sørensen et al.(2012)のHLの統合モデルと比較・検討すると,母親のFAに関する情報を入手する行動は,「健康情報にアクセスする」HLに共通しており,本研究で母親らは多岐にわたる情報源から情報を入手していた.次に母親は,入手情報に沿った対応策の実践や,考案した対応策の実践,関係者への説明と対応の依頼といった対処行動をとっており,これは「情報を理解し,評価し,応用する」HLと共通していた.入手した情報をもとに母親が対応策を考え実践した行動は,第1子を迎える時期の家族のHLとして示された「情報の正確性を保ちながら多彩な情報を主体的に入手し健康づくりの方略を立てる」(永井ら,2015)とも類似していた.これらから,母親は直面した問題に対処するために,「情報にアクセスする」「情報を理解し,評価し,応用する」HLを獲得・活用していたと考えられる.さらに,家族や関係者に説明や依頼を行う母親の行動は,子どもの生活範囲の拡大と共に対象や内容が拡大しており,母親が子どもの成長と共により多くのHLを獲得し,活用していたと推察される.

一方で母親は,当初,自己管理の困難な子どもの代償的な機能として母親が獲得・活用していた知識や技術を,本来持つべき子どもに付与する行動を,子どもの成長に合わせてとっていた.これは,FAの子ども自身が,自分の疾患や治療を理解し,食品の選択や周囲への説明を行うことができるように,母親が意図して行っている,「子どものHLの育成」というHLを活用した行動であると考えられる.FAは,誤食により急激に死に至る可能性のある疾患であり,日本の小学校においても,誤食による死亡事故が発生している.そのため,子どもが自分で誤食を防ぎ,命を守ることができるようにする必要性を母親が強く感じ,「子どものHLの育成」に繋がっていると考えられる.

3. FAの子どもを養育する母親に対する子育て支援への示唆

本研究で,FAの子どもを養育する母親は,診断直後の時期,専門医の所在や,治療についての正確な情報が得にくかったことを語っていた.このことから,FAの子どもとその親が居住する地域の専門医の所在や,園・小学校のアレルギー対応に関する情報,治療に関する正確な情報等が集約され発信されることが必要である.このような情報の発信は,母親のHLの獲得を促進し,円滑に発揮させることに繋がると考えられる.そのためには,市町村にアレルギー専門の相談窓口が設置され,誰もが必要な時に訪れ,必要な情報を得られる体制が必要である.

本研究のほぼ全ての対象者は,入園・入学時や集団生活において,園や小学校との調整に困難を感じ,前述のHLを獲得しながら,関係者と相談を重ねていた.しかし,母親と園・小学校の関係者との間で調整が困難な場合には,アレルギー専任の相談員が,適切な解決策に向け調整することが望まれる.アレルギー専門の相談窓口の設置は,前述した地域情報の集約や発信だけではなく,このような園・小学校における母親の負担の軽減にも役立つと考えられる.

母親のHLの獲得を支援するため,乳幼児健診や育児相談等の場において保健師が,FAの子どもを養育する母親の問題を把握し,専門の相談窓口等につながるよう適切な情報提供をすることが重要である.併せて,母親の困難さを軽減するためにはFAについての地域住民への啓発活動も必要である.

4. 本研究の限界と課題

本研究は,親の会等の代表者を通して紹介された方を中心にした一県内に居住する母親9名から収集したデータを分析した結果であり,地域性や対象選定に偏りがある.また母親が捉えた事象を回想法により語った内容を分析しており,真実性には限界がある.今後は,対象地域や対象者の属性を広げデータを蓄積すること,診断直後や入園直後の母親,園や小学校の教職員対象にデータを収集し,多角的に分析していく必要がある.

謝辞

本研究に快くご協力いただきました対象者の皆様,その他ご協力をいただきました皆様に,心より感謝申し上げます.

なお,本研究は,新潟大学大学院保健学研究科博士前期課程修士論文の一部に加筆・修正したものである.

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