日本公衆衛生看護学会誌
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研究
成果創出に至った保健師活動における保健師の役割の類型
東 美鈴松田 宣子
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2018 年 7 巻 2 号 p. 91-99

詳細
Abstract

目的:成果創出に至った保健活動における保健師の役割の類型化を行うことである.

方法:先行研究及び5名の保健師への面接調査より抽出した30項目からなる質問紙を用い,全国の保健所統括保健師に選出を依頼し,事例に係わった保健師から回答を得た.分析は記述統計及び主因子法,バリマックス回転による探索的因子分析を用いた.

結果:235名のうち30項目に回答のあった205名(有効回答率41.5%)を分析対象とした.成果創出役割項目は4点満点中2.58点から3.71点で,探索的因子分析の結果,25項目6因子に精錬され,「戦略と政策提言」「生活実態の把握」「地域連携の推進」「変革への課題の判断」「住民等の主体性の醸成」「モニタリングと継続支援」に類型化された.

考察:類型化された6つの役割により,健康課題に対し地域の変革を図るという変革の促進者の役割が示唆され,この役割を発揮することが保健師本来の役割の発揮に繋がると考える.

I. 緒言

「保健師活動が他職種に理解されない」「保健師の専門性とは何か」等が問われ(麻原ら,2017),近年,保健師活動の成果や役割がさらに見えにくくなったといわれる.なぜなら,地域住民のヘルスニードが多様化・複雑化し,地域保健活動を取り巻く法や制度が変化し,保健師教育そのものも多岐に渡りばらつきが生じていることが背景にあるからである.平野(2000)は,保健師の働く分野の拡大により,保健師の役割・機能の不明確さが生じているとし,頭川ら(2003)は,新任期における保健師は,対象の幅広さや仕事内容の幅広さが,保健師の専門性とは何処にあるのかという,他の専門職にはない悩みにつながっているとしている.

麻原ら(2017)は,保健師の活動を住民や社会に広く理解されるため,他職種と協働して活動するため,何より保健師自身が業務を「こなす」ことのみで疲弊しないために,地域活動の実践を研究し,自身の役割を明文化する必要性を述べている.専門職とはその役割を明示していくもので,保健師の経験した暗黙知を形式知に表出化し言語化することが肝要(梅本,2003)とされる.現場経験を有し実態把握に優れた保健師ならではの暗黙知を明文化し政策形成に活かす必要がある.

これまで保健師は様々な地域や様々な領域において成果を収めている.しかし,これらの成果創出に至った役割は明示されていない.そのため,保健師自身が成果創出に至った活動事例を調査し,その際,どのような役割を担ったかの分類を明らかにし,保健師が本来担うべき役割を獲得していくためにも,役割を類型化する必要がある.本研究の目的は,活動の成果創出に至った保健師の役割を類型化することである.

1. 用語の操作的定義

1) 成果創出

本稿における成果創出とは,地域における諸々の保健活動によって,健康課題の解決・改善が数値で確認された,地区組織や関係機関の協議会など組織や体制が新たに構築あるいは再構築されたものとした.

2) 役割

役割とは,諸個人が社会システムに参加し,一定の位置を占めることによって獲得する行為のパターン(R.ラドック,1973)であり,集団内の地位に応じて期待され,またその地位にあるものによって学習される行動様式とされる.役割には行為の遂行に加え,認知,認識の側面も含まれる.本稿における役割とは,地域における保健師活動における具体的に実践された保健師の認知,認識も含め役割と定義する.

II. 研究方法

1. 質問項目の作成

1) 項目収集

活動の成果創出に至った保健師の役割に関する項目は,先行研究(岡本,2001岡本,2008佐々木,2003中山,2007越田ら,2010)と5名の保健師への面接調査より30項目が収集された.調査期間は2012年12月~2013年7月であり,対象は活動の成果創出に至った経験のある保健師を機縁法により選定した.保健師には成果創出に至った活動における保健師の役割について語るよう求め,逐語録からその役割に該当する内容を抽出した.

2) 予備調査

項目の内容妥当性は,保健師6名と研究者3名に表現や重複など内容に関する意見を求め修正を行った.

2. 調査方法

1) 対象者

本調査の対象者は活動の成果創出に至った経験を持つ保健師である.対象は,全国の493か所の保健所に在籍する統括保健師に文書により該当する保健師を選定し調査票を配布するよう依頼した.保健所は全国保健所長会ホームページ(2012)保健所一覧より把握した.

2) データ収集方法

回答は対象者から研究者への郵送による直接返送とした.調査期間は2013年9月~2013 年11月であった.

3) 調査内容

調査内容は,対象者の基本情報,活動事例の概要,活動の成果創出に至った保健師の役割30項目(以下,成果創出役割項目)で構成した.活動事例の概要については,活動開始年度および活動最終年度,活動事例の対象となる集団およびその活動内容,集団の人数,取り組むきっかけ,活動の必要性の判断,最も苦労したことであり,設問ごとに選択肢を設け,具体的内容を自由記載とした.成果創出役割項目の評定尺度は,「かなり該当した」,「少し該当した」,「あまり該当しなかった」,「まったく該当しなかった」とし,順に4点から1点を付した.

3. 分析方法

全国の保健所493か所に配布し,235名(回収率47.7%)から回答があった.このうち,成果創出役割項目すべてに回答し欠損のない205名の調査票を分析の対象とした(有効回答率41.5%).対象者の基本情報と活動事例の概要は,平均値と度数およびパーセンテージ,標準偏差を算出した.成果創出に至った役割認識の実態は,「かなり該当した」と「少し該当した」を該当群,「あまり該当しなかった」,「まったく該当しなかった」を非該当群とし,度数およびパーセンテージを算出した.成果創出に至った保健師の役割を類型化するための探索的因子分析には,先の該当群が50%以上のものを採用した.探索的因子分析には主因子法,バリマックス回転を用い,因子数の決定基準は固有値1以上とした.また,採用項目の決定基準は,因子負荷量の絶対値が0.4以上であり複数因子に重複しない項目とし,基準に合致しない項目を削除し,削除項目がなくなるまで因子分析を繰り返した.

これら全ての分析には統計パッケージソフトIBM SPSS Statistics 22 for Windowsを使用した.

4. 倫理的配慮

調査票は無記名で,個人情報に関する情報は収集しないこと,回答は個人の自由意志とし,返送をもって同意とすること等を調査票に記載した.本研究は,2013 年7月19日神戸大学大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得た(承認番号235).

III. 研究結果

1. 対象者の基本情報(表1
表1  対象者の基本情報
項目 n Mean±SDまたは(%)
年齢 202​ 46.2±8.7
保健師経験年数 205​ 22.9±8.7
かかわった際の職場 205​
都道府県 112​ (54.6)
政令都市 40​ (19.5)
26​ (12.7)
17​ (8.3)
2​ (1.0)
その他 7​ (3.4)
無回答 1​ (0.5)
開始時期の職場の業務形態 205​
地区分担と業務分担の併用 91​ (44.4)
業務分担制 88​ (42.9)
地区分担制 14​ (6.8)
一人職場 5​ (2.4)
その他 4​ (2.0)
無回答 3​ (1.5)
開始時のメンバー 205​
担当者が主として実施 59​ (28.8)
職場の他の職種を含むチーム 55​ (26.8)
業務担当のみのチーム 45​ (22.0)
職場保健師のチーム 23​ (11.2)
広域的な保健師のチーム 7​ (3.4)
その他 15​ (7.3)
無回答 1​ (0.5)
活動事例における対象者の立場 205​
活動事例の主担当 143​ (69.8)
活動事例の副担当 24​ (11.7)
統括保健師 18​ (8.8)
管理職 8​ (3.9)
その他 4​ (2.0)
地域活動事例以外の業務担当 7​ (3.4)
無回答 1​ (0.5)

活動事例の職場は,都道府県が54.6%と最も多く,業務形態は,地区分担と業務分担の併用44.4%と業務分担制42.9%が大半を占めていた.

2. 活動事例の概要(表2
表2  活動事例の概要
項目 n Mean±SDまたは(%)
活動事例の開始年度(年) 201​ 2005.0±6.7
対象者のかかわり開始年度(年) 204​ 2008.5±5.9
活動事例の最終年度(年) 201​ 2010.0±3.2
対象者のかかわり最終年度(年) 201​ 2010.6±4.8
活動事例の活動期間(年) 204​ 7.1±6.8
対象者のかかわり期間(年) 202​ 3.3±2.4
活動事例の主たる対象 205​
協議会や委員会 50​ (24.4)
セルフヘルプグループなどの集団 47​ (22.9)
既存組織 46​ (22.4)
その他 61​ (29.8)
無回答 1​ (0.5)
活動内容(複数回答) 396​ (193.2)
相互支援や地域のネットワーク 127​ (62.0)
組織づくりや既存組織への支援 75​ (36.6)
施策化や事業化を図る取り組み 56​ (27.3)
患者家族会親の会等グループ支援 49​ (23.9)
社会資源の開発 44​ (21.5)
受診率や健診結果など実績値の向上 17​ (8.3)
その他の取り組み 28​ (13.7)
活動事例に取り組むきっかけ 205​
危機感や健康課題の気づきから 55​ (26.8)
事業や政策のため 54​ (26.3)
平時の保健活動から得た情報から 38​ (18.5)
住民の声や要望があったため 33​ (16.1)
統計的なデータなどの必要性から 8​ (3.9)
法的な根拠のため 5​ (2.4)
その他 9​ (4.4)
無回答 3​ (1.46)
活動の必要性の判断 205​
法や事業の定めがあり,地域の状況に併せ判断 86​ (42.0)
住民の要望を地域の実情と照らし判断 60​ (29.3)
法や住民の気づきがなくても保健師が判断 24​ (11.7)
法的根拠や事業計画のとおりに実施 18​ (8.8)
住民の声にしたがって実施 4​ (2.0)
その他 12​ (5.9)
無回答 1​ (0.5)
苦労したこと(複数回答) 406​ (198.1)
住民の主体性 93​ (45.4)
関係機関等の合意 98​ (47.8)
専門的知識 51​ (24.9)
予算等資金の確保 50​ (24.4)
地域住民の理解 38​ (18.5)
上司の理解 20​ (9.8)
同僚の合意 23​ (11.2)
その他 33​ (16.1)

活動事例の開始年度は1988年度から2013年度,活動最終年度は1991年度から調査を実施した2013年度までで,平均活動期間は7.1年間であった.

主たる対象は,その他が29.8%と最も多く,協議会や委員会が24.4%,セルフヘルプグループなどの集団が22.9%,既存組織が22.4%と多様であった.活動内容は,相互支援や地域のネットワークやシステムの構築が62.0%を占めた.活動事例に取り組むきっかけは,危機感や健康課題の気づきから26.8%,事業や政策のため26.3%,平時の保健活動から得た情報から18.5% 等に分かれた.しかし,活動の必要性の判断は,法や事業の定めがあり地域の状況に併せ判断したが42.0%,住民の要望を地域の実情と照らし判断が29.3%,法や住民の気づきがなくても保健師が判断したが11.7%であった.これらの保健師の判断によるものを併せると,83.0%あった.

活動を行う上で苦労したことは,関係機関等の合意が47.8%,住民の主体性が45.4%,と上位を占めた.これらの項目に地域住民の理解18.5%を加えると,住民や関係者の主体性や理解に関するものが全体の56.4%を占めていた.

3. 活動の成果創出に至った保健師の役割認識の実態(表3
表3  活動の成果創出に至った保健師の役割認識の実態(N=205)
項目 該当群a
n(%)
非該当群b
n(%)
Mean±SD
・保健師だけで解決をはかるのでなく,協働する職種や関係者を考えた 197 (96.1) 8 (3.9) 3.71±.54
・将来あるべき姿を描き,目指した 196 (95.6) 9 (4.4) 3.56±.61
・個別支援のみでなく,地域のシステマティックな解決の必要性を感じた 189 (92.2) 16 (7.8) 3.55±.70
・住民または関係者と協働し,何らかの活動を「実践」した 185 (90.2) 20 (9.8) 3.49±.75
・「なんとかしない」といけない思いを持ち,活動や変革の必要性を感じた 185 (90.2) 20 (9.8) 3.48±.71
・既存の資源や活用できそうな,プラス面の資源を評価した 185 (90.2) 20 (9.8) 3.35±.68
・住民または関係者との合議を重視して活動をすすめた 184 (89.8) 21 (10.2) 3.37±.73
・関係者と協議したり協働する「場」を継続してもった 183 (89.3) 22 (10.7) 3.51±.75
・住民や関係者の主体性や思いを重視して活動をすすめた 181 (88.3) 24 (11.7) 3.36±.78
・協働または変革に期待する関係者を「場」に招集した 175 (85.4) 30 (14.6) 3.41±.81
・新たな資源や人材,場所など協力を依頼し,必要な資源をつないだ 174 (84.8) 31 (15.1) 3.27±.72
・放置すればどうなるかを想定し,予防の視点で課題を捉えた 172 (83.9) 33 (16.1) 3.26±.82
・地域に出向き,住民の生の声や情報を集めた 167 (81.5) 38 (18.5) 3.24±.90
・現状の事業,地域で不足する資源やシステム(体制)を評価した 165 (80.5) 40 (19.5) 3.08±.76
・住民の生の声や課題の背景を住民の生活の実態から調べた 161 (78.5) 44 (21.5) 3.11±.85
・住民や関係者の主体性を尊重し,手を出しすぎないように配慮した 158 (77.1) 47 (22.9) 3.12±.86
・同様の課題をもつ人がないかなど,地域全体の課題でないか調べた 157 (76.6) 48 (23.4) 3.10±.88
・住民と本音で話したり,検討する「場」をもつ 155 (75.6) 50 (24.4) 3.10±.99
・その活動を他の地域や他の活動と連動させたり,波及させたりした 155 (75.6) 50 (24.4) 3.04±.84
・活動を継続し,PDCAサイクルで修正しながら活動した 150 (73.2) 55 (27.0) 2.94±.84
・活動が継続していても,相談にのり,テコ入れをはかるなど支援した 143 (69.8) 62 (30.2) 2.91±.95
・当初は,参加しやすいよう事務などを手助けし,住民等の負担を軽減した 142 (69.3) 63 (30.7) 2.99±1.05
・データや議事録などを資料化し,住民や関係者に課題を提示した 139 (67.8) 66 (32.2) 2.96±.99
・地域全体や特定の集団のデータをとり,活動の根拠をもった 134 (65.4) 71 (34.6) 2.93±.97
・家庭訪問や地域の活動に参加し,住民に出会うことから開始した 132 (64.4) 73 (35.6) 2.80±1.01
・先進地視察や研修会など,保健師も学ぶための「場」を設けた 132 (64.4) 73 (35.6) 2.80±1.08
・安価な予算や予算がなくても開始し,確保できる財源や助成金を探した 121 (59.0) 84 (41.0) 2.78±1.03
・事業化や施策化できるよう企画書などを作成した 120 (58.5) 85 (41.5) 2.78±1.01
・活動の主体を,漸次住民や関係者に委ね,見守りの活動へと変化した 115 (56.1) 90 (43.9) 2.64±1.00
・住民の課題や実践をまとめ,自治体の計画などに明記した 112 (54.6) 93 (45.4) 2.58±1.03

a:「あまり該当しなかった」「まったく該当しなかった」と回答

b:「かなり該当した」と「少し該当した」と回答

各項目の得点の平均値と標準偏差は,3.7±0.5から2.6±1.0までで,全項目において高値であった.該当群が90%以上であった項目は保健師だけで解決を図るのでなく,協働する職種や関係者を考えた,将来あるべき姿を描き,目指したなど6項目あった.

4. 活動の成果創出に至った保健師の役割を類型化するための因子分析(表4
表4  活動の成果創出に至った保健師の役割を類型化するための探索的因子分析
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子 第6因子
第1因子:戦略と政策提言
事業化や施策化できるよう企画書等を作成した 0.672 0.005 0.053 0.200 0.253 0.102
活動を継続し,PDCAサイクルで修正しながら活動した 0.604 0.106 0.200 0.212 0.150 0.019
データや議事録などを資料化し,住民や関係者に課題を提示した 0.596 0.137 0.287 0.120 0.231 0.072
住民の課題や実践をまとめ,自治体の計画等に明記した 0.553 0.174 0.103 –0.050 0.062 0.241
その活動を他の地域や他の活動と連動させたり,波及させたりした 0.525 0.189 0.170 0.097 0.213 0.136
地域全体や特定の集団のデータをとり,活動の根拠をもった 0.516 0.149 0.127 0.220 0.020 –0.020
安価な予算や予算がなくても開始し,確保できる財源や助成金を探した 0.472 0.193 0.091 0.162 0.054 0.180
第2因子:生活実態の把握
地域に出向き,住民の生の声や情報を集めた 0.153 0.816 0.056 0.027 0.119 0.063
住民の声や課題の背景を住民の生活実態から調べた 0.205 0.709 0.037 0.136 0.087 0.082
家庭訪問や地域の活動に参加し,住民に出会うことから開始した 0.080 0.640 0.045 0.191 0.069 0.013
住民と本音で話したり,検討する「場」をもった 0.145 0.498 0.127 0.053 0.233 0.266
同様の課題をもつ人がないかなど,地域全体の課題でないか調べた 0.309 0.417 0.103 0.410 –0.062 0.209
第3因子:地域連携の推進
関係者と協議したり協働する「場」を継続してもった 0.225 0.128 0.845 0.160 0.090 0.024
協働または変革を期待する関係者を「場」に招集した 0.096 0.142 0.744 0.069 0.115 0.120
保健師だけで解決をはかるのでなく,協働する職種や関係者を考えた 0.221 –0.008 0.446 0.147 0.267 –0.031
個別支援のみでなく,地域のシステマティックな解決の必要性を感じた 0.234 –0.033 0.445 0.258 0.086 0.007
第4因子:変革への課題の判断
「なんとかしない」といけない思いを持ち,活動や変革の必要性を感じた 0.080 0.173 0.184 0.711 0.088 0.053
放置すればどうなるかなど,予防の視点で課題を捉えた 0.162 0.092 0.081 0.643 0.080 –0.022
現状の事業,地域で不足する資源やシステム(体制)を評価した 0.307 0.122 0.158 0.443 0.080 0.143
将来あるべき姿を描き,目指した 0.338 0.093 0.230 0.402 0.183 0.134
第5因子:住民等の主体性の醸成
住民または関係者との合議を重視して活動をすすめた 0.148 0.207 0.090 0.066 0.691 0.310
住民や関係者の主体性や思いを重視して活動をすすめた 0.211 0.116 0.261 0.184 0.661 0.230
住民または関係者と協働し,何らかの活動を「実践」した 0.329 0.165 0.199 0.080 0.640 0.106
第6因子:モニタリングと継続支援
活動が継続していても,相談にのり,テコ入れをはかるなど支援した 0.197 0.103 0.090 0.182 0.281 0.812
活動の主体を,漸次住民や関係者に委ね,見守りの活動へと変化した 0.165 0.152 0.005 0.008 0.177 0.712
 寄与率 31.1 8.4 7.3 6.0 5.3 4.1
 累積寄与率 31.1 39.5 46.8 52.8 58.1 62.3

主因子法,バリマックス回転

探索的に因子分析を行った結果,6因子25項目を抽出した.6因子による累積寄与率は62.3%であった.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性は0.89であり,サンプリング適切性基準(石村ら,2011)を満たしていた.

第1 因子は,事業化や施策化できるよう企画書等を作成したなどの7項目で構成された.保健師が事業化や施策化のための企画書を作成し,自治体の計画等に明記することは,政策提言といえる.活動の根拠を持った,他の地域や他の活動と連動や波及を考えPDCAサイクルで活動したことは,戦略としての活動である.政策提言と戦略的な活動の双方を含め,「戦略と政策提言」とした.

第2 因子は,地域に出向き,住民の生の声や情報を集めたなどの5項目で構成された.多くの健康課題が生活習慣と結びついていることや住民の組織活動のためには,「生活実態の把握」が重要(松下,1981)とされる.住民と本音で話しあえる「場」を設けたことも,住民の思いや生活実態を把握することと考えられる.また,同様の課題をもつ人がないかなど,地域全体の課題でないか調べたの項目も含まれ,個々の生活実態を把握するのみでなく,地域全体の生活実態を把握することを含め,この因子を「生活実態の把握」とした.

第3因子は,関係者と協議したり協働する「場」を継続してもったなど4項目で構成された.保健師だけで解決を図るのでなく,協働する職種や関係者を考え,「場」に招集したことは,地域の連携をつくることと考えられる.保健師のコアとなる「みる」「つなぐ」「動かす」のうちの「つなぐ」役割として,コーディネート役が期待されている.これらの観点からこの因子を「地域連携の推進」とした.

第4因子は,「なんとかしない」といけない思いを持ち,活動や変革の必要性を感じたなどの4項目で構成された.現状の事業,地域で不足する資源やシステムを評価し,予防的視点で将来あるべき姿やビジョンを持ち,変革の必要があるかどうかなど,課題を判断する活動であると考えられた.この因子を,「変革への課題の判断」とした.

第5因子は,住民または関係者との合議を重視して活動をすすめたなどの3項目で構成された.住民や関係者の主体性を重視し,何らかの活動を実践するなど,地域住民とともに活動しようとする意図がうかがえた.協働し,何らかの活動を実践することや,合議を重視することはパートナーシップの構築と捉えられる.パートナーシップを築くことも含め協働していくこの因子を「住民等の主体性の醸成」とした.

第6因子は,活動の主体を,漸次住民や関係者に委ね,見守りの活動へと変化したなどの2項目で構成された.継続して活動を続け,漸次,主体を住民等に委ね,見守りながら,必要に応じて,相談にのるなど,活動の軌道修正を図るといった保健師の長期介入の特徴がうかがえる.そこでこの因子を「モニタリングと継続支援」とした.

IV. 考察

1. 保健師が成果を認識した活動事例の特徴

保健師が成果を認識した活動事例の対象は多様で,活動の契機も分かれた.しかし,活動の必要性の判断は,法や事業の定めがあっても,地域の実情と照らすなど,保健師の判断にかかるものが8割以上を占めた.保健師活動は新たな健康課題や多様化,高度化する住民のニーズに的確に対応することが重要であるとされる(平成24年厚生労働省告示第464号,2012:以下,局長通知とする).ニーズに的確に「対応する」ということは,ニーズを「把握する」だけでなく,対応する前段階として,「活動の必要性を判断する」という判断行為としての役割が包含されていることが示唆された.

2. 保健師が成果を認識した活動事例における保健師の役割

該当群が90%以上であった6項目について考察する.

将来あるべき姿を目指した,地域のシステマティックな解決の必要性や,活動や変革の必要性を感じたの3項目は,地域の健康課題を対象に地域の変革にかかわろうとする保健師の活動方策の特徴を表しているものと考える.

また,保健師だけで解決をはかるのでなく,協働する職種や関係者を考えたと住民等と協働し,何らかの活動を「実践」したの項目も上位に位置した.これらは,最も苦労したことの設問において関係機関等の合意や住民の主体性等,地域協働にかかるものが半数以上を占めていたことと合致し,地域住民や多職種等関係者との協働をとおして解決を図ろうとする保健師の役割の特徴を表していた.

既存の資源や活用できそうなプラス面の資源を評価したの項目も90%以上を占めた.人々の弱みに耳を傾けることで,その裏返しである「望み」や「可能性」に着目する必要がある(大森,2015).近年になり,地域のソーシャル・キャピタルを築くことが重要視され,アセッツが着目されるようになった.成果を認識した活動事例では,既に,プラス面を評価するなどアセッツに着目した評価を行っていたといえる.課題のみに着目するのでなく,アセッツをも同時に評価する保健師ならではの役割といえる.

3. 活動の成果創出に至った保健師の役割の類型化

探索的因子分析により,6因子が抽出され,成果創出に至った活動事例における保健師の役割は「戦略と政策提言」「生活実態の把握」「地域連携の推進」「変革への課題の判断」「住民等の主体性の醸成」「モニタリングと継続支援」の6つに類型化されると考える.

第1因子は「戦略と政策提言」とした.保健師は健康問題に関し,その健康問題を生じさせる構造に着目し,そこに働きかけていくことが重要とされている(中村ら,2007).公衆衛生においてはPDCAサイクルによる実践が提唱され,Actでは,事業を評価したうえでの改善策が求められる.「地域の実情に応じ,PDCAサイクルに基づき,地域保健関連の施策の展開を行うこと」こととする局長通知に則った役割を遂行していたと推測する.

また,活動の根拠を持ち,データや議事録を作成し,課題を提示することの項目は,健康課題を明らかにするとともに,地域住民等とその取り組むべき各種情報や健康課題を共有するよう努めることとする局長通知に一致する.さらに,予算がなくても財源を探し,企画書を作成し,自治体の計画に明記するなどの項目が列挙された.これは,「各種保健医療福祉計画の策定や事業化のための企画,立案,予算確保を行う」こととする局長通知の方針に一致する.戦略と政策提言は保健師の政策関与において重要な役割と考える.

第2因子は「生活実態の把握」と命名した.地域活動の第一歩は自分が責任をもつ地域や領域で生活する人々の生活の場の全容を捉えることである.机上のアンケートのみに頼っていては,住民の真意はつかめない(松下,2013).保健師は,家庭訪問や健康教育,地域住民との協働などの手法を用いて,対象地域に立ち入り,その地域の伝統や風土,個々の生活意識や行動を結びつけながら,問題を抽出している(地区活動のあり方とその推進体制に関する検討会,2009).「積極的に地域に出向き,住民の生活の実態や健康問題の背景にある要因を把握するなど,地区活動に立脚した活動の強化を推し進めること」という局長通知と命名が一致し,地域に出向き,地域住民の声に耳を傾けるという旧来からの地域活動を重要な役割と認識し,住民の生活の実態を把握する役割を保健師は認識しているものと考える.

3因子は「地域連携の推進」と命名した.この因子では,保健師のみで健康課題の解決をはかるのではなく,他領域の専門職のそれぞれの得手とする専門領域を引き出すことで地域全体の力量を高め,その解決を図ろうとする役割がうかがわれた.地域のエンパワーメントにおける看護職の役割は,住民参加を通じて効果的なパートナーシップを築くことにある(Anderson et al., 2007).地域連携の推進には「他職種の職員,関係機関,住民等と連携及び協働して保健活動を行うなど,部署横断的な保健活動の連携及び協働が必要」とされる(局長通知).地域協働を推進する保健師の役割は必要不可欠である.

第4因子は「変革への課題の判断」とした.現状の事業や不足する資源を評価し,放置すればどうなるかを予防の視点で課題を捉え,変革の必要性を感じるなどの項目が含まれていた.これは単に地域課題をアセスメントするのみでなく,予防の視点を持ち,将来あるべき姿を描き,その課題の解決のために地域の変革を図ろうとする役割の表れである.保健師の事業創出プロセスにおいて,吉岡ら(2004)の見出した「背景の分析を通して,地域の健康課題を明確化する」「改善し得る包括的な事業の必要性を認識する」などと近似する.変革への課題の判断は「生活習慣病等の発症予防や重症化予防を徹底することで,要医療や要介護状態になることを防止するとともに,虐待などに関連する潜在的な健康問題を予見して,住民に対し必要な情報の提供や早期介入等を行うこと」や「学校や企業等の関係機関との幅広い連携を図りつつ社会環境の改善に取り組むなど,地域特性に応じた健康なまちづくりを推進すること」とされる局長通知において必要不可欠である.予防的視点を持ち,健康なまちづくりのために何を変革するかを判断するための重要な役割と思われる.

第5因子は「住民等の主体性の醸成」とした.公衆衛生の基本は,住民第一主義である.近年の保健理論では,保健師による一方的な知識の提供や指導は有効ではないといわれ(池上ら,2007)健康日本21実践の手引書(健康日本21推進全国連絡協議会,2001)においては「参加と対話」や「さらなる参加と対話へのネットワーキング」が強調されている.住民等の主体性の醸成は「健康課題の解決に向けて住民や組織同士をつなぎ,自助及び共助など住民の主体的な行動を促進するよう支援すること」とされる局長通知と一致する.地域のエンパワーメントについて中山(2007)は「住民の主体性を引き出す」「住民とともに活動する」などを見出しており,この結果と同様の項目がみられ,保健師が有する重要な役割である.特に地域指針(2012)では,ソーシャルキャピタルを活用した自助及び共助の支援の推進が新たに盛り込まれ,「主体性を醸成」する役割がさらに望まれる.

第6因子は「モニタリングと継続支援」と命名した.近年の健康課題は,疾病が長期にわたる生活習慣病,精神疾患や難病のみならず,母子対策における虐待の防止や発達障害児への支援など複雑化しており,課題解決のためには継続的にモニタリングを行い,必要に応じて組織変革など適切な支援が求められる.この継続支援の役割は,ヘルスプロモーション活動において組織変革の導入に成功した後の長期的なモニタリングや品質管理のシステムを構築する「上級者の先導的な役割」(島内監訳,2003)とされる.地域の健康課題に対し,持続可能な対策やシステムを構築する上で,この役割もまた重要不可欠な役割と考える.

以上の6つの因子から,保健師の役割として,住民の「生活実態を把握」し,「変革への課題を判断」し,「地域連携を推進」し,「住民等の主体性を醸成」し,「戦略と政策提言」を行い,長期となれば「モニタリングと継続支援」を行いながら,地域の健康課題の解決や地域全体の変革を図るといった保健師の役割がうかがわれる.今回抽出された6つの役割を互いに連動させながら,「健康課題の解決・改善や,地区組織や関係機関の協議会など組織や体制が新たに構築あるいは再構築」といった成果創出に至ったと思われる.

グロスマンらはヘルスプロモーションのプロフェッショナルの役割について,専門家(expert),唱導者(advocate),学習支援者(enabler),変革の促進者(change facilitator)の4つに分類している(藤田ら,1999).成果の創出された事例の概要を鑑みると,この6つのコアの役割を発揮することで,保健師は,住民の主体性を第一に捉え,保健師だけで解決をはかるのでなく,協働する職種や関係者を「場」に招集し,住民や関係者との合意を重視しつつ,地域の変革を呼び起こしていく「変革の促進者」の役割を果たしていたのではないかと推察する.

「保健師は住民に対する保健サービス等の総合的な提供や,地域における保健,医療,福祉,介護等の包括的なシステムやネットワークの構築とその具体的な運用において主要な役割を果たすものであることに鑑み,保健,医療,福祉,介護等の関係部門に保健師を適切に配置すること(局長通知)」とされている.地域全体の健康課題に対応し,今回6つに分類された役割をさらに発揮していくことが保健師の本来の役割を発揮していくことに繋がると考える.

4. 本研究の限界と今後の課題

本調査において,調査票の回収率は47.7%であった.各保健所1例以上2例までの紹介としたため,2例の紹介があった保健所もあり,保健所数に対する回答率が不明であり,回収方法に不備があったと考える.また,今回の調査では都道府県の保健所からの回答が多かった.全国の保健所統括保健師に選出を依頼するという配布方法をとったため,自らの職場内の選出が多かったとも推察される.回答者のバイアスが生じた可能性も否定できない.

本調査における設問項目および選択肢についても,再考する必要がある.例えば,「活動事例の活動の主たる対象」はその他が61名と多かった.質問項目を洗練させ,保健師が成果を認識した活動事例とその役割についてさらなる調査が必要である.

V. 結語

全国の保健師が,成果創出に至った活動事例において,対象とする地域や内容は多岐に渡るが,活動内容は地域全体の相互支援や地域のネットワークやシステムの構築が多く,保健師の判断に基づくものが大半を占めていた.

成果創出役割項目の該当率は高い値を示し,成果創出に至った保健活動事例における保健師の役割は,「戦略と政策提言」「生活実態の把握」「地域連携の推進」「変革への課題の判断」「住民等の主体性の醸成」「モニタリングと継続支援」の6つの因子に類型化された.

謝辞

調査にご協力頂きました全国の保健所統括保健師,ならびに回答者の皆様,予備調査にご協力頂きました保健師ならびに多職種の皆様に心より感謝申し上げます.結果の分析におきまして,多大なるご支援とご教示を頂きました関西看護医療大学看護学部古川秀敏准教授,ならびに元神戸大学・現大阪大学大学院岡本玲子教授にお礼申し上げます.

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