日本公衆衛生看護学会誌
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研究
生存権を護る活動指標の開発
~エキスパート保健師による項目重要性認識を根拠に~
岩本 里織岡本 玲子名原 壽子松下 恭子多田 美由貴岡久 玲子
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2019 年 8 巻 1 号 p. 33-42

詳細
Abstract

目的:エキスパート保健師による「生存権を護る活動」項目の内容妥当性を検証し,活動指標を作成することを目的とした.

方法:対象は,全国から無作為抽出した保健所,市町村,看護系大学各100か所に勤務する主任以上の保健師および准教授・教授である.調査は郵送法による自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,「生存権を護る活動」に関する活動項目(大項目11,小項目44で構成)の重要性を5段階で問うた.分析は,Lynnの内容妥当性の定量化の方法(Content Validity Index:CVI 0.78を妥当性の基準値とする)を参考とした.

結果:分析対象数170(保健師154,教育者16)であった.CVI 0.78を下回ったのは,3小項目であった.

考察:保健師の生存権を護る活動項目について,基準値を下回った3小項目を検討した結果,1小項目を削除し,大項目11,小項目43からなる活動指標を作成した.本指標は,保健師が,新たな健康被害・問題に気付いた時,活動推進のガイドとして活用可能である.

I. はじめに

日本国憲法(以下,憲法)第25条1項では,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する.」ことが述べられている.これは「生存権」の保障と呼ばれ(中村,2017),すべての国民の健康・幸福の公平性が保障されている.さらに2項では,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない.」と,国の公衆衛生の向上及び推進義務が謳われている.公衆衛生の向上は,保健師をはじめとする公衆衛生従事者の務めである.

行政機関で働く保健師(以下,保健師)は,国や地方自治体が制定した多様な法律や条令・制度に基づき,公衆衛生活動の第一線で住民と接し,人々の健康の保持・増進や公衆衛生の向上に向けて活動を行う者である.しかし,保健師が対象とする住民の健康課題の中には,現在の法律・制度では解決の糸口がない新たなものもある.過去には,老人保健法制定前の寝たきり老人への支援(池脇,1992)や,難病に関する立法化や具体的支援策がされていない時期の難病患者への支援(柴田,2009),公害に関する法整備前の水俣病等の公害による住民への支援等(古賀,2011),健康被害・問題に対応しているが,この住民への支援の法的根拠が憲法以外に見当たらない場合があった.保健師は,住民の生存権が護られているかを常に意識する必要があり,それが阻害される状況があれば,現状の法制度の規定がなくても,憲法25条のもと住民の健康を護る支援を講じることが求められる.このことは麻原(2014a)も社会的公正が保健医療福祉行政に関わる保健師にとって重要な理念であり,憲法第25条がその基盤となる旨を述べている.

保健師基礎教育で用いられる書籍の多くでは,憲法第25条の生存権の保障は公衆衛生従事者の基盤である旨が記載されており(上野,2016麻原,2014b奥山,2013),保健師ら公衆衛生従事者の基盤となる法であるものの,この具体的な活動について述べているものはない.

研究者らは,これまで保健師による住民の生存権を保障する活動内容を,文献およびインタビュー調査から明らかにした.これらは,水俣病,森永ヒ素ミルク中毒事件における保健師活動,法制度整備前の高齢者支援,過疎地域の乳幼児死亡に対する支援,放置された障害児支援,乳幼児虐待支援,難病患者支援などにおける保健師らの活動や語りから抽出したものであった(岩本ら,2016).これらの活動は,過去のものであり,かつ課題の重篤度が顕著な事例であったため,現在の保健師活動として内容が妥当であるかの検証が必要である.

そこで本研究は,保健師による「生存権を護る活動」内容の重要性の認識を問うことにより,これらの活動項目の内容妥当性について検証し,「生存権を護る保健師活動指標」を作成することを目的とした.

【用語の定義】用語の定義は,先行研究の定義(岩本ら,2016)を用いた.住民の生存権を護る活動とは,「社会的状況により人々の健康が著しく阻害された状況を解決するための保健師の活動」とする.具体的には,個別事例の健康問題のみでなく,その健康問題が多くの人たちに生じており,その健康問題には共通する社会的状況(背景要因,公害,制度など)があるために,それを解決するために公的に取り組まなければならない状況である.なお,健康被害・問題とは,単に一時的な問題ではなく長期にわたり継続するものであり,現状の保健政策では解決できていない新たなもので,何らかの要因に起因するものであり,社会的な健康の不平等の状況にあるものとする.

II. 研究方法

1. 対象者

調査対象は,保健所・保健センターで働く保健師(調査①)と保健師経験がある大学教育者(調査②)である.調査①は,全国の保健所・市町村から無作為抽出した各100か所に勤務する5年以上の経験を有する保健師(1施設5通の質問紙を送付)とし,所属長宛てに依頼文と調査用紙を送付した.本稿ではエキスパートとしての経験を持つ者を分析対象とする(Lynn, 1986)ことから,回答を得たものの中から,主任級以上の者を分析対象とした.調査②は全国看護系大学から無作為抽出した100大学に勤務する保健師経験3年以上の教育者(1大学5通の質問紙を送付)を対象とし「地域看護学教育担当者代表者」宛てに依頼文と調査用紙を送付し,上記と同様の理由から,回答を得た者の中から准教授・教授を分析対象とした.いずれも,回答後は個別に投函を依頼した.なお,調査①②の母集団の数は異なるが,予算的限界がある中,分析可能な一定数以上のデータを得る目的から,今回は一律100か所の選定を行い,各施設に5通の質問紙を送付した.

2. 調査時期

平成25年2月~3月

3. 調査方法

郵送法による自記式質問紙調査

4. 調査内容

属性(所属,保健師経験年数,年齢,職位等)および既存研究により作成した「生存権を護る活動」(岩本ら,2016)に関する活動項目であり,これは大項目11,小項目44で構成される.各項目の重要性を5段階(重要である,やや重要である,どちらともいえない,あまり重要でない,重要でない)で問うた.

5. 分析方法

各活動項目の重要性を,所属別(保健所,政令市等,市町村,教育者)に5段階選択肢の回答割合を算出した.さらに各項目について「やや重要である」,「重要である」の回答者を同意群(項目について妥当と回答した者)とし,無回答者を除いた回答者に対する同意群の割合を算出し,それを同意率とした.さらにLynnの内容妥当性の定量化の方法(Lynn, 1986)であるContent Validity Index(以下,CVI)の基準値(0.78)を参考に各項目について0.78以上の同意率がある項目を妥当とした.0.78未満の項目は,所属別同意率を参考に妥当性を検討した.なお,CVI値は【(「重要である」と回答した人数+「やや重要である」と回答した人数)/無回答を除く回答数】で算出した.

Lynnの内容妥当性の基準値算出方法は,回答者全員に対する同意者割合を算出するものであり,5人以下のエキスパートであればCVIが1(100%の賛同),6人以上10人までがCVIが0.78を基準値としている.Lynnは回答選択肢4択を推奨するが,本調査は「どちらともいえない」を加えた5択とした.そのためCVI 0.78未満の項目は回答分布により「重要でない」という否定的回答によるものか,「どちらともいえない」という重要性を判断できない回答によるものかを確認し,妥当性を検討する参考にした.なお,本研究においてエキスパートとは,主任級以上の保健師および准教授・教授の役職の教育者とした.

6. 倫理的配慮

調査対象施設の代表者宛ておよび対象者に,書面による本研究の目的,方法,所要時間,プライバシーの保護に関する説明を行った.調査への回答および個別による投函をもって研究への同意を得たものとした.調査は所属名,氏名の記載はない.本研究は,神戸市看護大学倫理委員会の承認を得た(承認番号2012-1-22,平成25年2月12日).

III. 結果

1. 回答者の基本属性

保健所・市町村への配布数各500,教育機関への配布数500であり,回収は保健師226名(回収率22.6%),教育者47名(回収率9.4%),有効回答は保健師217名(有効回答率21.7%),教育者46名(有効回答率9.2%)であった.そのうち主任以上の保健師154名,准教授・教授である教育者16名の合計170名を分析対象とした.

表1  回答者の属性
項目 保健師 教育機関
(%) (%)
送付数 1000​ 500​
有効回答数 217​ (21.7) 46​ (9.2)
分析対象者(熟練者) 154​ (15.4) 16​ (3.2)
性別
152​ (98.7) 16​ (100.0)
1​ (0.6) 0​ (0.0)
無回答 1​ (0.6) 0​ (0.0)
年齢階級
30歳代 23​ (14.9) 0​ (0.0)
40歳代 69​ (44.8) 1​ (6.3)
50歳代 56​ (36.4) 14​ (87.5)
60歳代 5​ (3.2) 1​ (6.3)
無回答 1​ (0.6) 0​ (0.0)
平均年齢(標準偏差) 47.4(±6.8) 53.9(±5.8)
保健師経験年数
3年以上5年未満 3​ (18.8)
5年以上10年未満 3​ (1.9) 6​ (37.5)
10年以上15年未満 9​ (5.8) 2​ (12.5)
15年以上20年未満 34​ (22.1) 2​ (12.5)
20年以上25年未満 26​ (16.9) 1​ (6.3)
25年以上30年未満 44​ (28.6) 1​ (6.3)
30年以上 38​ (24.7) 1​ (6.3)
平均経験年数(標準偏差) 23.9(±7.3) 12.0(±9.7)
教育機関における経験階級(教育機関のみ)
5年未満 1​ (6.3)
5年以上10年未満 1​ (6.3)
10年以上15年未満 5​ (31.3)
15年以上20年未満 3​ (18.8)
20年以上25年未満 5​ (31.3)
25年以上30年未満 1​ (6.3)
平均教育機関経験年数(標準偏差) 15.4(±6.2)
所属機関(保健師のみ)
都道府県 76​ (49.4)
政令市等 30​ (19.5)
29​ (18.8)
17​ (11.0)
2​ (1.3)
現在の職位(教育機関の者は,勤務時の最終職位)
係員(スタッフ) 8​ (50.0)
主任級 59​ (38.3) 2​ (12.5)
係長級 52​ (33.8) 5​ (31.3)
課長補佐級 34​ (22.1) 0​ (0.0)
課長級 7​ (4.5) 0​ (0.0)
部長・次長級以上 1​ (0.6) 1​ (6.3)
その他 1​ (0.6) 0​ (0.0)
現在の職位(教育機関)
教授 11​ (68.8)
准教授 5​ (31.3)
保健師資格を得た教育機関
専門学校 122​ (79.2) 11​ (68.8)
短期大学 19​ (12.3) 0​ (0.0)
4年制大学 12​ (7.8) 5​ (31.3)
無回答 1​ (0.6) 0​ (0.0)
最終学歴
専門学校 101​ (65.6) 0​ (0.0)
短期大学 26​ (16.9) 0​ (0.0)
4年制大学 22​ (14.3) 1​ (6.3)
大学院博士前期(修士) 3​ (1.9) 6​ (37.5)
大学院博士後期(博士) 0​ (0.0) 8​ (50.0)
無回答 2​ (1.3) 1​ (6.3)

保健師は,男性1名(0.6%)女性152名(98.7%),教育者は女性16名(100.0%)であった.平均年齢(標準偏差)は,保健師は47.4歳(±6.8)であり,教育者は53.9歳(±5.8)であった.年齢階級別では,保健師は30歳代23名(14.9%),40歳代69名(44.8%),50歳代56名(36.4%)で,40歳代が最も多かった.教育者は40歳代1名(6.3%),50歳代14名(87.5%),60歳代1名(6.3%)で,50歳代が最も多かった.保健師経験年数は25年以上30年未満が最も多く44名(28.6%),次いで30年以上38名(24.7%),平均経験年数は23.9年(±7.3)であった.教育者は,保健師経験年数が5年以上10年未満の者が最も多く6名(37.5%)であり,平均経験年数12.0年(±9.7)であった.教育機関における経験年数は10年以上15年未満および20年以上25年未満が各5名(31.3%)と最も多く,平均教育年数15.4年(±6.2)であった.

保健師の所属機関は,都道府県が76名(49.4%)と最も多く,次いで政令市等が30名(19.5%),市が29名(18.8%)であった.現在の職位は,主任級が59名(38.3%),係長級52名(33.8%),課長補佐級34名(22.1%)であった.教育者は,保健師として勤務時の最終職位は係員(スタッフ)8名(50.0%)と最も多く,次いで係長級5名(31.3%)であった.教育者の現在の職位は,教授11名(68.8%),准教授5名(31.3%)であった.

2. 生存権を護る保健師活動に関する活動項目の内容妥当性の検討

活動指標について,本文中では小項目を「 」で示す.

表2  生存権を護る保健師活動項目に関する重要性の認識(N=170)
生存権を護る保健師活動項目 全体 所属別CVI
無回答を除く回答数(a) 重要でない あまり重要でない どちらともいえない やや重要である(b) 重要である(c) Content Validity IndexI (CVI)* 教育機関(准教授・教授) 都道府県(主任以上) 政令市等(主任以上) 市町村(主任以上)
n n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
1.生活の場に出向く中で,潜在的健康被害・問題を察知する 162 0 (0.0) 0 (0.0) 2​ (1.2) 19​ (11.7) 141​ (87.0) 0.99 1.00 0.99 0.97 1.00
①個別事例に関わる中で,対象者や家族が困難な状況(生命に影響を及ぼす,生活に支障をきたすなど)に置かれている状況に気づく 170 0 (0.0) 0 (0.0) 1​ (0.6) 20​ (11.8) 149​ (87.6) 0.99 1.00 1.00 0.97 1.00
②複数の個別事例に関わる中で,共通する困難な状況(生命に影響を及ぼす,健康や生活に支障をきたすなど)が生じていることに気づく 170 0 (0.0) 0 (0.0) 3​ (1.8) 24​ (14.1) 143​ (84.1) 0.98 1.00 0.99 0.97 0.98
③地域に出向く中で,今までない健康被害・問題に気づく 170 0 (0.0) 0 (0.0) 3​ (1.8) 32​ (18.8) 135​ (79.4) 0.98 0.94 0.99 0.97 1.00
④地域データを分析する中で,今までない健康被害・問題に気づく 170 0 (0.0) 1 (0.6) 5​ (2.9) 35​ (20.6) 129​ (75.9) 0.96 0.94 0.97 0.97 0.96
⑤他の地域の健康被害・問題の状況を知ることで,担当地域での発生状況を確認する 170 0 (0.0) 1 (0.6) 7​ (4.1) 45​ (26.5) 117​ (68.8) 0.95 1.00 0.97 0.93 0.92
2.現状の保健事業や保健政策では対応が困難な健康被害・問題が生じていることとその背景を明らかにする 158 0 (0.0) 0 (0.0) 5​ (3.2) 35​ (22.2) 118​ (74.7) 0.97 1.00 0.96 0.97 0.98
①家庭訪問により,現状の保健事業では対応が困難な健康被害・問題があることを明らかにする 170 0 (0.0) 0 (0.0) 9​ (5.3) 41​ (24.1) 120​ (70.6) 0.95 1.00 0.93 0.97 0.94
②特定の地域を調査し,現状の保健事業では解決が困難な健康被害・問題が生じていることを確認する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 25​ (14.7) 62​ (36.5) 83​ (48.8) 0.85 1.00 0.87 0.77 0.83
③共通する健康被害・問題を持つ対象者へ調査を行い,健康被害・問題の全体像を明らかにする 170 0 (0.0) 0 (0.0) 13​ (7.6) 63​ (37.1) 94​ (55.3) 0.92 1.00 0.95 0.97 0.83
④関係者や関係機関へ調査を行い,健康被害・問題の全体像を明らかにする 170 0 (0.0) 0 (0.0) 13​ (7.6) 70​ (41.2) 87​ (51.2) 0.92 1.00 0.95 0.93 0.85
⑤共通する健康被害・問題を持つ対象者の家庭訪問等を行う中で,共通する背景を見出す 170 0 (0.0) 0 (0.0) 4​ (2.4) 54​ (31.8) 112​ (65.9) 0.98 1.00 0.97 1.00 0.96
⑥疫学的調査を通じて,健康被害・問題と社会的要因との因果関係を明確にする 170 0 (0.0) 1 (0.6) 14​ (8.2) 71​ (41.8) 84​ (49.4) 0.91 1.00 0.93 0.90 0.85
3.共通する健康被害・問題を持つ対象者や家族をエンパワーする 159 0 (0.0) 0 (0.0) 11​ (6.9) 43​ (27.0) 105​ (66.0) 0.93 0.93 0.94 0.90 0.93
①共通した健康被害・問題を持つ対象者や家族が出会う場をつくる 170 0 (0.0) 0 (0.0) 17​ (10.0) 63​ (37.1) 90​ (52.9) 0.90 0.94 0.92 0.83 0.90
②共通する健康被害・問題を持つ対象者や家族が主体的に活動できる場・機会を持つ 170 0 (0.0) 0 (0.0) 20​ (11.8) 59​ (34.7) 91​ (53.5) 0.88 0.88 0.91 0.83 0.88
③対象者や家族が健康被害・問題の解決に向けて力を発揮できるように支援する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 10​ (5.9) 53​ (31.2) 107​ (62.9) 0.94 1.00 0.93 0.93 0.94
④健康被害・問題の社会的状況を解決するために,対象者や家族と協同する 169 0 (0.0) 0 (0.0) 21​ (12.4) 59​ (34.9) 89​ (52.7) 0.88 0.93 0.89 0.80 0.88
4.健康被害・問題が生じた状況について正しい知識を提供し二次被害や偏見を取り除く 158 0 (0.0) 0 (0.0) 5​ (3.2) 43​ (27.2) 110​ (69.6) 0.97 1 1.00 0.93 0.96
①健康被害・問題を持つ対象者や家族へ,正しい情報や知識を提供し,二次被害や偏見を取り除く 169 0 (0.0) 0 (0.0) 6​ (3.6) 50​ (29.6) 113​ (66.9) 0.96 0.94 1.00 0.97 0.92
②健康被害・問題を持つ対象者の周辺地域住民へ,正しい情報や知識を提供し,二次被害や偏見を取り除く 169 0 (0.0) 0 (0.0) 9​ (5.3) 54​ (32.0) 106​ (62.7) 0.95 0.94 0.96 0.93 0.94
5.保健師間で健康被害・問題について確認する 161 0 (0.0) 0 (0.0) 3​ (1.9) 29​ (18.0) 129​ (80.1) 0.98 1.00 0.99 1.00 0.96
①保健師間で,健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況を共有する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 7​ (4.1) 31​ (18.2) 132​ (77.6) 0.96 1.00 0.96 0.97 0.94
②保健師間で,健康被害・問題で対象者や家族への保健師の関わり方について検討する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 5​ (2.9) 28​ (16.5) 137​ (80.6) 0.97 1.00 0.96 1.00 0.96
③保健師間で,当該健康被害・問題に関する知識を得るための学習を行う 170 0 (0.0) 0 (0.0) 7​ (4.1) 37​ (21.8) 126​ (74.1) 0.96 1.00 0.96 0.97 0.94
6.健康被害・問題の解決に向けて協力者と協同する 161 0 (0.0) 0 (0.0) 5​ (3.1) 46​ (28.6) 110​ (68.3) 0.97 1 0.97 1.00 0.93
①健康被害・問題の解決に向けた協力者を巻き込む 170 0 (0.0) 0 (0.0) 6​ (3.5) 52​ (30.6) 112​ (65.9) 0.96 1.00 0.96 1.00 0.94
②健康被害・問題の状況を協力者・協力組織と共有する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 7​ (4.1) 56​ (32.9) 107​ (62.9) 0.96 1.00 0.96 0.97 0.94
③健康被害・問題の解決の向けた協力組織を立ち上げたり,立ち上げに協力する 170 0 (0.0) 1 (0.6) 17​ (10.0) 73​ (42.9) 79​ (46.5) 0.89 0.88 0.92 0.93 0.83
④健康被害・問題の解決に向けて,協力者・協力機関と方策を考える 170 0 (0.0) 1 (0.6) 10​ (5.9) 61​ (35.9) 98​ (57.6) 0.94 0.94 0.95 0.97 0.90
7.健康被害・問題がある対象者の声を代言*注1する 159 0 (0.0) 1 (0.6) 31​ (19.5) 61​ (38.4) 66​ (41.5) 0.80 0.93 0.80 0.76 0.78
①健康被害・問題の状況について,対象者や家族に示す 170 0 (0.0) 1 (0.6) 26​ (15.3) 65​ (38.2) 78​ (45.9) 0.84 0.88 0.86 0.80 0.83
②健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況について,関係者に提起する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 28​ (16.5) 64​ (37.6) 78​ (45.9) 0.84 0.88 0.84 0.83 0.81
③健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 45​ (26.5) 63​ (37.1) 62​ (36.5) 0.74 0.94 0.71 0.77 0.69
④学術的な場(学会や雑誌)などで,関係者に健康被害・問題の実態について公表する 170 0 (0.0) 3 (1.8) 50​ (29.4) 67​ (39.4) 50​ (29.4) 0.69 0.88 0.74 0.63 0.58
⑤マスメディア(報道や新聞など)や支援団体を通じるなど広く知れ渡るような方法で,社会の人々に健康被害・問題の状況を提起する 169 2 (1.2) 3 (1.8) 67​ (39.6) 54​ (32.0) 43​ (25.4) 0.57 0.69 0.65 0.57 0.42
8.多方面に働きかけ公的な対策を講じる 160 0 (0.0) 0 (0.0) 14​ (8.8) 58​ (36.3) 88​ (55.0) 0.91 0.93 0.93 0.89 0.89
①関係者・協力者と共に,健康被害・問題を解決する対策を立てる 170 0 (0.0) 0 (0.0) 14​ (8.2) 61​ (35.9) 95​ (55.9) 0.92 0.94 0.95 0.87 0.90
②個々の対象者の健康被害・問題を改善するような制度や資源を開発する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 26​ (15.3) 65​ (38.2) 79​ (46.5) 0.85 1.00 0.88 0.80 0.77
③健康被害・問題を持つ対象者や家族が長期的に健康で生活できる権利を保障する対策を考える 170 0 (0.0) 0 (0.0) 25​ (14.7) 61​ (35.9) 84​ (49.4) 0.85 1.00 0.86 0.83 0.81
④同様の健康被害・問題の再発を防ぐ対策を講じる 170 0 (0.0) 1 (0.6) 16​ (9.4) 56​ (32.9) 97​ (57.1) 0.90 1.00 0.92 0.83 0.88
⑤地域住民が健康被害・問題の解決に関わるよう,健康被害・問題への関心を高める働きかけをする 169 0 (0.0) 1 (0.6) 15​ (8.9) 60​ (35.5) 93​ (55.0) 0.91 0.94 0.91 0.90 0.89
9.健康被害・問題を持つ対象者の苦しみに寄り添う 159 0 (0.0) 0 (0.0) 7​ (4.4) 41​ (25.8) 111​ (69.8) 0.96 1.00 0.94 0.96 0.96
①健康被害・問題を持つ対象者や家族の生活のあり様を理解する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 5​ (2.9) 45​ (26.5) 120​ (70.6) 0.97 1.00 0.97 0.97 0.96
②健康被害・問題を持つ対象者や家族の健康上の苦しみに共感し寄り添う 170 0 (0.0) 0 (0.0) 8​ (4.7) 46​ (27.1) 116​ (68.2) 0.95 1.00 0.96 0.97 0.92
③社会に理解されない状況や差別・偏見への対象者や家族の苦しみや状況を理解する 170 0 (0.0) 0 (0.0) 8​ (4.7) 49​ (28.8) 113​ (66.5) 0.95 0.94 0.96 0.97 0.94
10.健康被害・問題を持つ対象者を長期的に関わり続ける 160 0 (0.0) 1 (0.6) 25​ (15.6) 50​ (31.3) 84​ (52.5) 0.84 0.93 0.86 0.79 0.80
①健康被害・問題を持つ対象者や家族の健康状況や生活を継続的に把握する 169 0 (0.0) 0 (0.0) 22​ (13.0) 58​ (34.3) 89​ (52.7) 0.87 1.00 0.87 0.83 0.85
②健康被害・問題への対策が講じられた後も,継続的に健康や生活のサポートをする 169 0 (0.0) 2 (1.2) 28​ (16.6) 67​ (39.6) 72​ (42.6) 0.82 0.81 0.83 0.80 0.83
③健康被害・問題を持つ対象者や家族のニーズに応じた支援方法・内容を模索する 169 0 (0.0) 1 (0.6) 18​ (10.7) 67​ (39.6) 83​ (49.1) 0.89 1.00 0.88 0.87 0.87
11.保健師が健康被害・問題を持つ対象者に関わる信念を持つ 156 0 (0.0) 0 (0.0) 17​ (10.9) 42​ (26.9) 97​ (62.2) 0.89 0.87 0.88 0.90 0.91
①保健師が現状の保健政策で関わらない健康被害・問題を持つ対象者や家族に支援しなければならない根拠を説明できる 169 0 (0.0) 0 (0.0) 21​ (12.4) 44​ (26.0) 104​ (61.5) 0.88 0.94 0.88 0.87 0.85
②健康被害・問題を持つ人へ関わることに対する所属組織との方針が異なる場合でも,組織の理解を得られるよう働きかける 169 0 (0.0) 1 (0.6) 23​ (13.6) 53​ (31.4) 92​ (54.4) 0.86 0.94 0.86 0.83 0.85
③人々の生命と健康を護る保健師の責任感を持つ 169 0 (0.0) 0 (0.0) 13​ (7.7) 39​ (23.1) 117​ (69.2) 0.92 0.94 0.95 0.93 0.87
④健康被害・問題を持つ対象者に,中立・公平的な立場でかかわる 169 0 (0.0) 0 (0.0) 10​ (5.9) 41​ (24.3) 118​ (69.8) 0.94 0.94 0.95 0.93 0.94

注1)代言:本人に代わって弁論すること

1~11の太字の項目は大項目,大項目に含まれる①~は小項目である

*Content Validity Index:は(b+c)/aで算出した

アミかけ部分は全体のCVIが0.78未満の項目,下線は0.78未満

無回答者を除く回答者の活動項目の同意率がCVI基準値0.78未満の項目は,7-③「健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する」0.74,7-④「学術的な場(学会や雑誌)などで,関係者に健康被害・問題の実態について公表する」0.69,7-⑤「マスメディア(報道や新聞など)や支援団体を通じるなど広く知れ渡るような方法で,社会の人々に健康被害・問題の状況を提起する」0.57であった.

上記の小項目3つ以外は,CVI基準値0.78以上であった.

3. CVI基準値を下回る項目の回答分布

LynnのCVI基準値0.78未満の小項目3つについて回答分布をみた.7-③「健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する」は「重要でない」「あまり重要でない」の回答はなく,「どちらともいえない」が45名(26.5%)であった.7-④「学術的な場(学会や雑誌)などで,関係者に健康被害・問題の実態について公表する」は,「重要でない」「あまり重要でない」の回答は3名(1.8%),「どちらともいえない」50名(29.4%)であった.7-⑤「マスメディア(報道や新聞など)や支援団体を通じるなど広く知れ渡るような方法で,社会の人々に健康被害・問題の状況を提起する」は「重要でない」「あまり重要でない」の回答は5名(3.0%),「どちらともいえない」67名(39.6%)であった.

4. 基準値を下回る項目の所属機関別比較

Lynnの基準0.78未満の小項目3つについて,所属別の保健師と教育者の同意率を見た.

7-③「健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する」は,教育者0.94,保健所0.71,政令市等0.77,市町村0.69であり,教育者が基準値より高かった.7-④「学術的な場(学会や雑誌)などで,関係者に健康被害・問題の実態について公表する」は,教育者0.88,保健所0.74,政令市等0.63,市町村0.58であり,教育者は基準値より高かった.7-⑤「マスメディア(報道や新聞など)や支援団体を通じるなど広く知れ渡るような方法で,社会の人々に健康被害・問題の状況を提起する」は,教育者0.69,保健所0.65,政令市等0.57,市町村0.42であり,いずれもCVI基準値を超えるものはなかった.

IV. 考察

本結果から,生存権を護る保健師活動項目について内容妥当性を検討する.既存文献やインタビュー調査から抽出した大項目11,小項目44の活動項目について,内容妥当性の一つの判断基準であるLynnのCVI基準値0.78を参考に検討した.その結果,項目7-③④⑤以外の大項目11,小項目41は,基準値を満たし,生存権を護る保健師活動項目として妥当であることが確認された.

CVI基準値0.78未満の項目7-③④⑤について検討する.7-③「健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する」は全体0.74,教育者0.94,保健所0.71,政令市等0.77,市町村0.69の同意率で,教育者のみが基準値を上回っていた.回答分布も,「重要でない」「やや重要でない」との回答はなかった.保健師の人材育成計画策定ガイドラインでは,保健師に求められる能力を述べる中で,地域支援活動において保健師は地域の人々の権利擁護を行い,代弁者の役割をとる能力が必要であることが述べられている(地域保健に従事する人材の計画的育成に関する研究班,2016).特に,住民の健康が阻害され不利益を生じている状況などは,対象者の問題を代言することが不可欠である.健康被害・問題を解決することを保健師だけで行うことは難しく,多くの関係者・関係機関と協働することが不可欠である.そのため健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況を代言し,関係者の理解と協力を得ることが必要であり,本項目は非常に重要な活動であると考える.これらの理由により,小項目7-③は生存権を護る活動として妥当であると考えられたため,そのまま残すこととした.

次に,7-④「学術的な場(学会や雑誌)などで,関係者に健康被害・問題の実態について公表する」は全体0.69,教育者0.88,都道府県0.74,政令市等0.63,市町村0.58と,教育者のみが基準値より高かった.回答分布は,「重要でない」「やや重要でない」が3名(1.8%)と少数で,「どちらともいえない」が50名(29.4%)であった.この回答から重要性の判断が難しいことが窺える.先行研究において本項目を抽出した生存権が阻害されている事例は,水俣病患者認定された者への家庭訪問により得た生活・健康状態の実態や支援ニーズを関連研究会で報告したことや,森永ヒ素ミルク中毒事件において学会で公表したことなどであった(岩本ら,2016).また,中山(2015)も,熟練保健師が実践の変化を起こす過程で,対象とのかかわり等の活動をまとめた専門誌への公表結果を示し,活動公表の重要性を指摘している.学術的な場で公表することで,健康被害・問題の実態を他の専門職に伝え,その認知を高め解決に向けて協働する機会を得たり,同様の健康被害・問題の対応を強化することができると考える.教育者の同意率は0.88とCVI基準値より高値であったが,保健所,政令市等および市町村保健師は共に基準値より低値であり,「どちらともいえない」の回答が多く,本活動の重要性の判断が難しいことが窺えた.この理由として,過去1年で学会・学術集会への発表をした保健師は9.4%(井上ら,2009)との調査もあり,保健師が学会・学術集会で報告をすることが少なく,学術的な場での報告の意義が経験的に認識できないことが考えられた.一方,教育者にとって学術的な場での報告は必須であることや,保健師が学術的な場で発表することは能力向上につながる重要な機会であること(岩本ら,2008)を認識している.このような保健師と教育者の経験と認識の違いが,回答の差につながったと考える.以上より,7-④は文言を修正し,公表の場は学術的な場を強調せず活動関係者への公表による協働の推進による問題解決を図ることを含む項目とし,「新:④健康被害・問題の状況について,関係者等に公表する(例:学術的な場,関係者連絡会など)」とした.

次に,「マスメディア(報道や新聞など)や支援団体を通じるなど広く知れ渡るような方法で,社会の人々に健康被害・問題の状況を提起する」は同意率が全体及び各属性とも基準値よりも低率であった.回答分布は,「どちらともいえない」が67名(39.6%)と,全項目中最も多く重要性の判断が難しい項目であることが窺えた.日野は,「社会保障の形成・発展のためには,生活問題を社会的に解決せよと声を上げることが不可欠である」と述べている(日野,2018).この生活問題とは,健康被害・問題をも含むものである.保健師が住民に生じている健康被害・問題を解決するために法制度の充実が必要な場合には,社会の人々にその必要性の理解を促すために問題を提起することが必要である.しかし,地方自治体職員である保健師が,地域に生じている健康被害・問題をマスメディア等に公表するためには,所属組織の承諾が不可欠であることや,個人情報保護などの倫理的問題をクリアすることが必要であることなど,保健師個人による判断で容易にできる活動ではない.そのために重要性の判断が難しく,最も同意率が低い項目であったと考えられる.以上から,保健師の活動としては妥当ではないと考え,本項目は削除することにした.

以上のことを踏まえ,項目の文言を修正し新たに『生存権を護る保健師活動指標』を考案した(表3).これは,健康被害・問題への気づきから,活動の展開,長期的関わりに向けたプロセスにもとづく活動項目を表現している.本活動項目は,保健師が日頃の活動において,解決が困難な健康課題・問題に遭遇した際に課題解決に向けた活動方法の一つの選択肢となり得るものであり,保健師が,新たな健康被害・問題に気づいた時,その後の具体的活動を推進するためのガイドとして活用可能であると考える.

表3  生存権を護る保健師活動指標
1.生活の場に出向く中で,潜在的健康被害・問題を察知する
①個別事例に関わる中で,対象者や家族が困難な状況(生命に影響を及ぼす,生活に支障をきたすなど)に置かれている状況に気づく
②複数の個別事例に関わる中で,共通する困難な状況(生命に影響を及ぼす,健康や生活に支障をきたすなど)が生じていることに気づく
③地域に出向く中で,今までない健康被害・問題に気づく
④地域データを分析する中で,今までない健康被害・問題に気づく
⑤他の地域の健康被害・問題の状況を知ることで,担当地域での発生状況を確認する
2.現状の保健事業や保健政策では対応が困難な健康被害・問題が生じていることとその背景を明らかにする
①家庭訪問により,現状の保健事業では対応が困難な健康被害・問題があることを明らかにする
②特定の地域を調査し,現状の保健事業では解決が困難な健康被害・問題が生じていることを確認する
③共通する健康被害・問題を持つ対象者へ調査を行い,健康被害・問題の全体像を明らかにする
④関係者や関係機関へ調査を行い,健康被害・問題の全体像を明らかにする
⑤共通する健康被害・問題を持つ対象者の家庭訪問等を行う中で,共通する背景を見出す
⑥疫学的調査を通じて,健康被害・問題と社会的要因との因果関係を明確にする
3.共通する健康被害・問題を持つ対象者や家族をエンパワーする
①共通した健康被害・問題を持つ対象者や家族が出会う場をつくる
②共通する健康被害・問題を持つ対象者や家族が主体的に活動できる場・機会を持つ
③対象者や家族が健康被害・問題の解決に向けて力を発揮できるように支援する
④健康被害・問題の社会的状況を解決するために,対象者や家族と協同する
4.健康被害・問題が生じた状況について正しい知識を提供し二次被害や偏見を取り除く
①健康被害・問題を持つ対象者や家族へ,正しい情報や知識を提供し,二次被害や偏見を取り除く
②健康被害・問題を持つ対象者の周辺地域住民へ,正しい情報や知識を提供し,二次被害や偏見を取り除く
5.保健師間で健康被害・問題について確認する
①保健師間で,健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況を共有する
②保健師間で,健康被害・問題で対象者や家族への保健師の関わり方について検討する
③保健師間で,当該健康被害・問題に関する知識を得るための学習を行う
6.健康被害・問題の解決に向けて協力者と協同する
①健康被害・問題の解決に向けた協力者を巻き込む
②健康被害・問題の状況を協力者・協力組織と共有する
③健康被害・問題の解決の向けた協力組織を立ち上げたり,立ち上げに協力する
④健康被害・問題の解決に向けて,協力者・協力機関と方策を考える
7.健康被害・問題がある対象者の声を代言*注1する
①健康被害・問題の状況について,対象者や家族に示す
②健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況について,関係者に提起する
③健康被害・問題を持つ対象者や家族の状況や苦悩を代言する
④健康被害・問題の状況について,関係者等に公表する(例:学術的な場,関係者連絡会など)
8.多方面に働きかけ公的な対策を講じる
①関係者・協力者と共に,健康被害・問題を解決する対策を立てる
②個々の対象者の健康被害・問題を改善するような制度や資源を開発する
③健康被害・問題を持つ対象者や家族が長期的に健康で生活できる権利を保障する対策を考える
④同様の健康被害・問題の再発を防ぐ対策を講じる
⑤地域住民が健康被害・問題の解決に関わるよう,健康被害・問題への関心を高める働きかけをする
9.健康被害・問題を持つ対象者の苦しみに寄り添う
①健康被害・問題を持つ対象者や家族の生活のあり様を理解する
②健康被害・問題を持つ対象者や家族の健康上の苦しみに共感し寄り添う
③社会に理解されない状況や差別・偏見への対象者や家族の苦しみや状況を理解する
10.健康被害・問題を持つ対象者を長期的に関わり続ける
①健康被害・問題を持つ対象者や家族の健康状況や生活を継続的に把握する
②健康被害・問題への対策が講じられた後も,継続的に健康や生活のサポートをする
③健康被害・問題を持つ対象者や家族のニーズに応じた支援方法・内容を模索する
11.保健師が健康被害・問題を持つ対象者に関わる信念を持つ
①保健師が現状の保健政策で関わらない健康被害・問題を持つ対象者や家族に支援しなければならない根拠を説明できる
②健康被害・問題を持つ人へ関わることに対する所属組織との方針が異なる場合でも,組織の理解を得られるよう働きかける
③人々の生命と健康を護る保健師の責任感を持つ
④健康被害・問題を持つ対象者に,中立・公平的な立場でかかわる

注1)代言:本人に代わって弁論すること

V. 本研究の課題と限界および実践への適用可能性

本研究はインタビューデータから抽出した活動項目を,さらに内容妥当性を検証するために質問紙調査を実施し,「生存権を護る保健師活動指標」を作成したものである.調査票配布において各対象施設母集団に比例した対象者抽出をしておらず偏りがあること,回収率が低率であったこと,横断的調査であったこと,修正した項目の再調査による妥当性検証を実施していないことが本研究の限界である.さらに保健所・市町村について計1000名の調査対象者への協力依頼をしたものの,回答の選択肢が所属自治体のみであったため,保健所,市町村別の回収数・率の算出が困難であったことも本研究の限界である.

本研究により作成した活動指標は,保健師の実践において,住民に新たな健康被害・問題が発生している状況に気づいた時に,具体的な活動内容・展開を示唆するガイドとなるものである.既存にこのような実践ガイドを示唆するものはなく,今後の保健師活動を円滑にするものとして有用である.さらにその結果,住民の生存権の保障につながるものと考える.今後,実践現場で活用し,さらなる使用可能性を検討することが必要である.

VI. 結論

保健師の生存権を護る活動項目について,本項目の内容妥当性を検討した結果,3つの小項目以外の項目について内容妥当性が示された.これらの小項目については,再度内容を検討し,小項目1つは削除,小項目2つは文言を修正し,最終的に11の大項目,43の小項目からなる『生存権を護る保健師活動指標』が作成された.本指標は,保健師が,新たな健康被害・問題に気づいた時,その後の具体的活動を推進するためのガイドとして活用可能であると考える.

謝辞

本調査にご協力いただきました全国の保健所・保健センターの保健師様方,教育機関の皆様に感謝申し上げます.

本研究はJSPS科研費JP22592561(代表岩本里織)の助成を受けたものです.

本研究に開示すべきCOI状態はありません.

文献
 
© 2019 日本公衆衛生看護学会
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