日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
研究
職場のソーシャルキャピタルと健康関連QOL
―中学校教諭を対象とした横断研究―
松原 智井上 幸子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2019 年 8 巻 1 号 p. 52-61

詳細
Abstract

目的:中学校教諭の職場のソーシャルキャピタル(以下SC)と健康関連QOLの関連について検証する.

方法:A県中学校の教諭692名に無記名自記式調査を行った.職場のSC尺度,SF-36v2,基本属性,勤務状況等を尋ね,郵送にて回収した.

結果:欠損データを除き339名を解析対象とした.重回帰モデルで分析した結果,結合型,橋渡し型,リンキング型SCはいずれも精神的健康度(β=4.331, CI: 2.352–6.310; β=2.607, CI: 0.921–4.293; β=3.566, CI: 1.797–5.336),役割/社会的健康度(β=3.882, CI: 1.336–6.428; β=2.446, CI: 0.296–4.596; β=2.668, CI: 0.387–4.948)に有意に関連していた.身体的健康度には関連がなかった.

結論:中学校教諭の職場の3つのSCを醸成することは,健康関連QOLを高める可能性がある.

I. 緒言

職場のメンタルヘルス不調は,企業だけではなく,教育現場で働く労働者においても深刻である.文部科学省によると,公立学校教諭の在職者に占める病気休職者の割合は0.46%(1998年)から0.90%(2014年)へと年々増加している.その中でも精神疾患以外の病気休職者はほぼ横ばいであるのに対し,精神疾患による病気休職者数は1715人(1998年)から5045人(2014年)と増加した.学校種別では,中学校教諭の精神疾患による休職教諭の割合が0.66%と,公立小学校(0.57%),高等学校(0.43%)に比べて高く,教諭のメンタルヘルスのなかでも中学校教諭のメンタルヘルスは深刻な状況である(文部科学省,2016).

教諭の精神的健康について,先行研究では,同僚との人間関係を負担に思っている場合にバーンアウトが引き起こされたり,精神的健康度が低下することが明らかにされている(久保田,2013竹村ら,2000).一方で,職員の積極性が高く,情報伝達性に優れ,職場内の人間関係が良好で,職場において意見を表明しやすいと認知している教諭ほど,抑うつや不機嫌,心配等のストレス反応が低いこと,教諭のバーンアウトを軽減するためには,職場の管理職や同僚からの情緒的サポートを得られる環境整備が必要であることが言われている(岡安,2006貝川,2009).このように,教諭の精神的健康についての研究はいくつか報告されているが,これらは学校という職場内や部門内の人間関係に着目したものであり,職場外の多機関や協力者など様々な人や職種が協力して仕事をする現代社会における人間関係の特徴を十分に反映できていない.

様々な職種との緩やかな人間関係を含めた概念として,職場におけるソーシャルキャピタル(以下SC)がある.SCは,職場の人間関係といった特定の社会集団メンバーの特徴と捉えられ,社会関係やネットワーク,互酬性の規範,信頼などを含む概念であり,相互利益のために協調したり協力したりすることが促される(Coleman, 1990カワチら,2008).先行研究では,職場のSCが職業性ストレスの影響を和らげる可能性や,職場のSCが低い場合は職業性ストレスによる高血圧,うつの発生,メタボリックシンドローム等のリスク増加との関連性を明らかにしている(Kobayashi et al., 2014Oksanen et al., 2008, 2012Sapp et al., 2010Suzuki et al., 2010).これらの先行研究は,労働者を対象に職場のSCの身体的健康および精神的健康への関連を明らかにしているが,学校で働く教諭を対象とした職場のSCの精神的健康および身体的健康への関連について評価した研究は検索できる範囲においては見当たらない.学校教諭は心身の健康障害リスクの高い長時間労働の傾向にある対象集団であり(Maruyama, 1996文部科学省,2013Sokejima et al., 1998)精神的健康のみでなく身体的健康への関連についても研究の蓄積が必要である.

本研究では,健康指標として主観的な健康関連QOLに着目した.WHO憲章における健康の定義より,健康の関心は疾病の有無といった医学的な側面だけではなく,QOLといった主観に基づく健康指標が重視されるようになった.主観的健康は,後の疾病発生や死亡の予測力が高いため疫学研究でしばしば使用されている(Idler et al., 1997Moller et al., 1996).主観的健康を測定する尺度として,疾患を限定せず,健康についての万人に共通した概念をもとに構成された健康関連QOL(SF-36)が広く使用されている.健康関連QOLを測定することで,精神的健康だけではなく主観的な身体的健康度,役割/社会的健康度についても測定することができる.

本研究は,昨今の精神疾患での休職割合の高い中学校教諭を対象に,他部署の協力者等との人間関係を含むSCと教諭の主観的な健康関連QOLとの関連性について検証することを目的に実施した.職場のSCが高いことが健康度を高める方向に関連していれば,中学校教諭の健康増進を推進するための支援において,SCの視点で介入することがひとつの有効な手段となる可能性がある.

II. 研究方法

1. 調査対象者

A県内には公立中学校が合計160校あり,4152名の中学校教諭が勤務している(調査時).本研究では,職場の人間関係について尋ねる質問を含んでおり,職場を様々な人と関わりのあるコミュニティと捉えるため,教諭が20名以上在籍している中学校74校,1952名の教諭を調査対象とした.各中学校長に調査協力を依頼し,協力が得られると回答のあった学校の教諭合計692名を対象に自記式質問紙調査票を配布した.調査票は,校長あてに教諭の人数分を郵送し,校長を通して教諭に配布した.校長,教頭,養護教諭,栄養教諭,講師は,職位や職務内容が異なるため,調査対象外とした.個別の回答はひとりずつ返信用封筒に入れ封をし,個別に郵送にて回収した.調査時期は,2017年1月から2月の期間で約3週間内に回答し返送するよう依頼した.

2. 調査内容

本研究の概念枠組みを図1に示した.独立変数は,職場における3種類のSCとした.職場におけるSCについてSzreter et al.(2004)は,SCは単次元ではなく,結束型,橋渡し型,リンキング型という異なる複数の次元があることを提唱した.職場における人と人とのつながりにおいて,結束型は水平的な同僚との人間関係,橋渡し型は協力者やビジネスパートナー等の他職種との人間関係,リンキング型は労働者と管理監督者ないしは企業監督者等のさまざまな権力構造をまたいだ垂直的な人間関係が含まれる(Kouvonen et al., 2006).

図1 

概念枠組み

SCの測定尺度はフィンランド公共部門研究(The Finnish Public Sector Study; FPSS)により開発され,Kouvonen et al.(2006)によって信頼性・妥当性が検証されたものの日本語版を用いた(カワチら,2013).この尺度は,8つの質問項目で構成され,結束型SC(3項目)は,部署内で情報を共有しているか,共に働こうという姿勢があるか,認め合っているか等,やりがいや同僚との人間関係について尋ねた.橋渡し型SC(2項目)は,部署内のメンバーはアイデアを出し合い活用しているか,アイデアを展開するために協力しているかを尋ねた.リンキング型SC(3項目)は,上司は信頼できるか,従業員としての権利に対して理解してくれるか等上司に対する信頼等を尋ねた.いずれも,1.そう思う(4点),2.まあそう思う(3点),3.あまり思わない(2点),4.思わない(1点)の4件法で回答を求めた.平均得点を算出し,得点が高いほど職場におけるSCが高いことを示している.記述統計では,そう思う,まあそう思うと回答した割合が多ければ平均値が3点以上となるため,各SC毎に平均値を算出し,3点以上をSC得点高群,2点以下をSC得点低群として二値に区分し集計に用いた.

従属変数は,教諭の健康関連QOLを測定する指標として,SF-36v2(Fukuhara et al., 1998aFukuhara et al., 1998b)を使用した.SF-36v2はある疾患に限定した内容ではなく,健康についての万人に共通した概念のもとに構成されており,様々な疾患の患者だけでなく,一般人にも利用できる.SF-36v2は,身体機能(3件法),日常生活役割機能(身体,5件法),体の痛み(6件法および5件法),全体的健康観(5件法),活力(5件法),社会的生活機能(5件法),日常役割機能(精神,5件法),心の健康(5件法)の8つの下位尺度で構成される.SF-36v2の結果から,身体的健康度,精神的健康度,役割/社会的健康度の3つの健康度が算出でき,それらの健康度ごとに,日本の国民標準値を50点として0~100点の範囲で点数を算出し,得点が高いほど健康度が高いと判断される.質問紙では,身体的健康度は,階段昇降や歩行,身体的な理由で仕事や家事などの普段の活動に影響があったか,精神的健康度は,落ち込むことがあるか等の気分や主観的健康観,心理的な理由で仕事や家事など普段の活動に影響があったか,役割/社会的健康度は,普段の活動や家族・友人・近所の人や仲間とのつきあい,仕事や家事などの普段の活動時に身体的,心理的な理由で問題があったかについて質問した(福原ら,2015).記述統計では,SF-36v2の得点は,前述の国民標準値50点をカットオフ値とし,3つの健康度それぞれについて,高群・低群の二値で集計に用いた.

交絡変数として情報収集した基本属性および勤務状況は,中学校教諭を対象とした調査において,年代によってストレスに関連した休職者割合やストレスを強く感じている割合に違いがみられたり,男女差が認められていることから,性別(男/女),年齢(連続量)について質問した.また,教諭の勤務状況や業務内容が身体的精神的健康に影響する可能性が報告されており(文部科学省,2013),教職経験(年数・連続量),クラス担任であるか(はい/いいえ),特別支援学級を担当しているか(はい/いいえ),部活動顧問であるか(はい/いいえ),一週間の部活動日数(日数・連続量)等の職務状況,通勤時間(分・連続量),睡眠時間(時間・連続量),1ヶ月の休日日数(日数・連続量),1日の平均勤務時間等(時間・連続量)についても尋ねた.

さらに,職場以外の地域住民や配偶者からのソーシャルサポート(以下SS)を測定するために,地域住民用SS尺度を用いた.教諭を含む就労者のメンタルヘルスに関する先行研究は,職場の要因に特化しているものが多く,家庭要因や友人との関係要因といった職場以外の要因も含めて検討した先行研究は十分ではない.しかしながら,SSの有無は健康に影響することが知られており,本研究では,堤ら(2000)によって開発された地域住民用SS尺度を使用し,交絡要因として調整した.この尺度は信頼性・妥当性の確保された10項目からなる尺度で,配偶者,その他の家族,友人の3つのサポート源について,基本的に同じ質問項目を用いて評定する.各項目について4件法で回答を得,得点が高いほどサポートの入手可能性が高いと判定する.堤ら(2000)によって算出された平均点(配偶者からのSS;23.4点,その他の家族からのSS;15.7点,友人からのSS;26.0点)をカットオフ値として高群,低群に分類し分析時に使用した.配偶者からのSSを評価するために,配偶者の有無についても情報収集した.

3. 分析方法

対象者の職場におけるSC尺度の得点,SF-36v2の結果より算出される身体的健康度,精神的健康度,役割/社会的健康度の3つの健康度の得点,地域住民用SS尺度得点は,いずれも高群・低群に区分し,これらの変数および基本属性,勤務状況等についてクロス集計を行った.また,職場におけるSCを構成する,結束型SC,橋渡し型SC,リンキング型SCの3つのSC得点(連続量)を独立変数,SF-36v2の結果より算出される身体的健康度,精神的健康度,役割/社会的健康度の3つの健康度の得点(連続量)を従属変数,基本属性,勤務状況,配偶者・その他家族・友人からのSSなどの諸変数を交絡変数として分析モデルに投入し,単回帰(粗モデル)および重回帰(調整モデル)での分析を行い,効果量(β)および95%信頼区間(CI)を算出した.独立変数・交絡変数については,多重共線性による推定値への影響を除外するため,事前に相関関係を確認した.統計解析ソフトは,SPSS ver. 23(IBM Japan, Tokyo)を使用した.

4. 倫理的配慮

研究対象者には,研究目的及び研究内容,注意事項等を記載した研究説明文書を配布し,調査への回答をもって研究参加に同意したとみなすことを説明文書に明記した.研究への参加は任意であり,一旦研究への参加を承諾したあとでも回答を返送するまではいつでも撤回できること,個人情報保護およびプライバシー情報の保護に細心の注意を払い,本研究のみにデータを使用し研究者以外の者がデータを利用することはないことを事前に説明した.本研究は,岡山県立大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(2016年11月承認,受付番号16-69).

III. 研究結果

質問紙を配布した中学校教諭692名のうち,343名から回答を得た(回収率49.6%).そのうち,SC項目に欠損のあった対象者(n=4)を除外し,339名(有効回答率98.8%)を最終解析対象者とした(図2).対象者の基本属性は,平均年齢41.58±10.80歳,男性181人(53.4%),女性158人(46.6%)であった.睡眠時間は6.04±0.92時間で,これは平成27年国民健康・栄養調査において男性33.9%,女性34.2%が占めた平均睡眠時間「6時間以上7時間未満」の範囲であった(厚生労働省,2017).一日の平均勤務時間は11.55±1.82時間,ひと月のうちまったく仕事をしない休日日数は平均2.92±2.29日であった.

図2 

対象者選択のフロー図

SF-36v2の得点から算出される身体的健康度,精神的健康度,役割/社会的健康度の3つの健康度得点について,基本属性等の変数でクロス表を示した(表1).平均点は,身体的健康度52.61±10.64点,精神的健康度47.85±10.90点,役割/社会的健康度43.12±13.21点であった.身体的健康度に関して,年齢別では50歳代,教諭経験年数では21年以上の群で健康度が低い教諭の割合が増加していた.精神的健康度では,60歳代の群で健康度が高い割合が66%であったが,他の年齢では低かった.睡眠時間が7時間以上の群で健康度が高い教諭の割合が高かった.役割/社会的健康度では,年齢によらず健康度が高い教諭の割合は少なく20歳代では16.1%,30歳代,40歳代でも約40%であった.SC高群・低群別では,特に結束型SCの平均点が低い群の73.9%,橋渡し型SCの平均点が低い群の68.3%,リンキング型SCの平均点が低い群の70.2%が,いずれも精神的健康度が低かった.

表1  調査対象者の特性(n=339)
身体的健康度 精神的健康度 役割/社会的健康度
低群 高群 低群 高群 低群 高群
n % n % n % n % n % n %
合計 112​ 33.0 227​ 67.0 197​ 58.1 142​ 41.9 226​ 66.7 113​ 33.3
年代
20代 6​ 10.7 50​ 89.3 35​ 62.5 21​ 37.5 47​ 83.9 9​ 16.1
30代 18​ 20.0 72​ 80.0 51​ 56.7 39​ 43.3 55​ 61.1 35​ 38.9
40代 36​ 38.3 58​ 61.7 53​ 56.4 41​ 43.6 57​ 60.6 37​ 39.4
50代 45​ 54.9 37​ 45.1 51​ 62.2 31​ 37.8 54​ 65.9 28​ 34.1
60代 2​ 22.2 7​ 77.8 3​ 33.3 6​ 66.7 7​ 77.8 2​ 22.2
性別
男性 57​ 31.5 124​ 68.5 98​ 54.1 83​ 45.9 110​ 60.8 71​ 39.2
女性 54​ 34.4 103​ 65.6 98​ 62.4 59​ 37.6 116​ 73.9 41​ 26.1
配偶者
87​ 37.3 146​ 62.7 131​ 56.2 102​ 43.8 147​ 63.1 86​ 36.9
23​ 22.8 78​ 77.2 62​ 61.4 39​ 38.6 75​ 74.3 26​ 25.7
経験年数
10年以下 23​ 18.5 101​ 81.5 77​ 62.1 47​ 37.9 88​ 71.0 36​ 29.0
11~20年以下 16​ 22.5 55​ 77.5 38​ 53.5 33​ 46.5 46​ 64.8 25​ 35.2
21年以上 70​ 50.7 68​ 49.3 77​ 55.8 61​ 44.2 87​ 63.0 51​ 37.0
不明 3​ 50.0 3​ 50.0 5​ 83.3 1​ 16.7 5​ 83.3 1​ 16.7
担任であるか
はい 58​ 27.0 157​ 73.0 121​ 56.3 94​ 43.7 151​ 70.2 64​ 29.8
いいえ 53​ 43.4 69​ 56.6 75​ 61.5 47​ 38.5 74​ 60.7 48​ 39.3
特別支援学級を受け持っているか
はい 30​ 36.1 53​ 63.9 54​ 65.1 29​ 34.9 57​ 68.7 26​ 31.3
いいえ 78​ 31.1 173​ 68.9 138​ 55.0 113​ 45.0 167​ 66.5 84​ 33.5
通勤時間(片道)
30分未満 80​ 32.8 164​ 67.2 137​ 56.1 107​ 43.9 158​ 64.8 86​ 35.2
30分以上1時間未満 29​ 33.0 59​ 67.0 54​ 61.4 34​ 38.6 62​ 70.5 26​ 29.5
1時間以上 0​ 0.0 2​ 100.0 1​ 50.0 1​ 50.0 2​ 100.0 0​ 0.0
平均睡眠時間
6時間未満 36​ 40.9 52​ 59.1 61​ 69.3 27​ 30.7 61​ 69.3 27​ 30.7
6時間以上7時間未満 45​ 28.3 114​ 71.7 99​ 62.3 60​ 37.7 111​ 69.8 48​ 30.2
7時間以上 29​ 33.3 58​ 66.7 33​ 37.9 54​ 62.1 50​ 57.5 37​ 42.5
1ヶ月間の休日数
0日 16​ 31.4 35​ 68.6 30​ 58.8 21​ 41.2 32​ 62.7 19​ 37.3
1~4日 72​ 32.7 148​ 67.3 131​ 59.5 89​ 40.5 152​ 69.1 68​ 30.9
5~8日 20​ 32.3 42​ 67.7 31​ 50.0 31​ 50.0 39​ 62.9 23​ 37.1
9日以上 3​ 100.0 0​ 0.0 2​ 66.7 1​ 33.3 1​ 33.3 2​ 66.7
不明 1​ 33.3 2​ 66.7 3​ 100.0 0​ 0.0 2​ 66.7 1​ 33.3
一日の平均勤務時間
8時間以下 9​ 47.4 10​ 52.6 8​ 42.1 11​ 57.9 14​ 73.7 5​ 26.3
8時間超10時間未満 4​ 18.2 18​ 81.8 11​ 50.0 11​ 50.0 17​ 77.3 5​ 22.7
10時間以上12時間未満 43​ 43.4 56​ 56.6 53​ 53.5 46​ 46.5 59​ 59.6 40​ 40.4
12時間以上 54​ 27.6 142​ 72.4 122​ 62.2 74​ 37.8 134​ 68.4 62​ 31.6
一週間の部活動日数
0日 5​ 38.5 8​ 61.5 10​ 76.9 3​ 23.1 9​ 69.2 4​ 30.8
1~4日 26​ 56.5 20​ 43.5 26​ 56.5 20​ 43.5 31​ 67.4 15​ 32.6
5~7日 75​ 28.1 192​ 71.9 153​ 57.3 114​ 42.7 179​ 67.0 88​ 33.0
不明 6​ 46.2 7​ 53.8 8​ 61.5 5​ 38.5 7​ 53.8 6​ 46.2
部活動の顧問であるか
はい 105​ 32.4 219​ 67.6 187​ 57.7 137​ 42.3 217​ 67.0 107​ 33.0
いいえ 6​ 46.2 7​ 53.8 8​ 61.5 5​ 38.5 8​ 61.5 5​ 38.5
結束型SCの平均点(0~4点)
低い(3点未満) 18​ 26.1 51​ 73.9 51​ 73.9 18​ 26.1 52​ 75.4 17​ 24.6
高い(3点以上) 94​ 34.8 176​ 65.2 146​ 54.1 124​ 45.9 174​ 64.4 96​ 35.6
橋渡し型SCの平均点(0~4点)
低い(3点未満) 31​ 30.7 70​ 69.3 69​ 68.3 32​ 31.7 71​ 70.3 30​ 29.7
高い(3点以上) 81​ 34.0 157​ 66.0 128​ 53.8 110​ 46.2 155​ 65.1 83​ 34.9
リンキング型SCの平均点(0~4点)
低群(3点未満) 18​ 31.6 39​ 68.4 40​ 70.2 17​ 29.8 40​ 70.2 17​ 29.8
高群(3点以上) 94​ 33.3 188​ 66.7 157​ 55.7 125​ 44.3 186​ 66.0 96​ 34.0
配偶者からのSS(0~32点)
低群(23.4点未満) 84​ 36.2 148​ 63.8 127​ 54.7 105​ 45.3 146​ 62.9 86​ 37.1
高群(23.4点以上) 6​ 75.0 2​ 25.0 7​ 87.5 1​ 12.5 4​ 50.0 4​ 50.0
不明 0​ 0.0 1​ 100.0 1​ 100.0 0​ 0.0 1​ 100.0 0​ 0.0
その他の家族からのSS(0~40点)
低群(15.7点未満) 38​ 27.7 99​ 72.3 60​ 43.8 77​ 56.2 84​ 61.3 53​ 38.7
高群(15.7点以上) 71​ 36.8 122​ 63.2 132​ 68.4 61​ 31.6 135​ 69.9 58​ 30.1
不明 2​ 25.0 6​ 75.0 4​ 50.0 4​ 50.0 6​ 75.0 2​ 25.0
友人からのSS(0~40点)
低群(26.0点未満) 63​ 28.5 158​ 71.5 112​ 50.7 109​ 49.3 143​ 64.7 78​ 35.3
高群(26.0点以上) 47​ 42.3 64​ 57.7 80​ 72.1 31​ 27.9 77​ 69.4 34​ 30.6
不明 2​ 33.3 4​ 66.7 5​ 83.3 1​ 16.7 6​ 100.0 0​ 0.0

SC:ソーシャルキャピタル,SS:ソーシャルサポート.年代,性別,配偶者,担任であるか,特別支援学級を受け持っているか,通勤時間(片道),平均睡眠時間,一日の平均勤務時間,部活動の顧問であるか,その他の家族からのSS,友人からのSSは無回答者あり

職場のSCと身体的健康度,精神的健康度,役割/社会的健康度のそれぞれの関連性を検証するために,単回帰および交絡変数で調整した重回帰モデルを使用して関連性を分析した(表2).その結果,身体的健康度においては,3つのSCと身体的健康度はいずれも有意な関連は認められなかった.交絡変数として調整した年齢は,3つのいずれのSCの分析モデルでも,年齢があがるごとに身体的健康度が低下する方向に有意な関連を示していた.精神的健康度については,単回帰分析において結束型SC(β=5.888, 95%CI: 3.992–7.784),橋渡し型SC(β=3.982, 95%CI: 2.339–5.626),リンキング型SC(β=4.672, 95%CI: 2.957–6.388)の3つのSCすべてにおいて有意な関連が示された.重回帰モデルで分析した結果も同様であり,結束型SC(β=4.331, P<0.01, 95%CI: 2.352–6.310),橋渡し型SC(β=2.607, P<0.01, 95%CI: 0.921–4.293),リンキング型SC(β=3.566, P<0.01, 95%CI: 1.797–5.336)は精神的健康度と有意な関連が認められた.交絡要因では,睡眠時間,他の家族からのSS,友人からのSSにおいて有意な関連が認められた.役割/社会的健康度については,単回帰分析において結束型SC,橋渡し型SC,リンキング型SCの3つのSCすべてにおいて有意であり,重回帰モデルでも有意な関連が認められた(結束型SC:β=3.882,P<0.01,95%CI:1.336–6.428,橋渡し型SC:β=2.446,P=0.03,95%CI:0.296–4.596,リンキング型SC:β=2.668,P=0.02,95%CI:0.387–4.948).本分析に使用した独立変数および交絡変数間の相関係数は0.7以下であった.

表2  結束型・橋渡し型・リンキング型SCと各健康度における単回帰分析および重回帰分析(n=339)
身体的健康度 精神的健康度 役割/社会的健康度
粗モデル 調整モデル 粗モデル 調整モデル 粗モデル 調整モデル
95%CI 95%CI 95%CI 95%CI 95%CI 95%CI
β 下限 上限 β 下限 上限 β 下限 上限 β 下限 上限 β 下限 上限 β 下限 上限
結束型SC –0.940 –2.887 1.008 –0.796 –2.840 1.249 5.888 3.992 7.784 4.331 2.352 6.310 4.851 2.486 7.215 3.882 1.336 6.428
性別 –0.068 –2.620 2.484 –0.710 –3.180 1.760 –2.762 –5.940 0.416
年齢 –0.467 –0.814 –0.120 0.139 –0.197 0.475 0.124 –0.308 0.556
配偶者の有無 –3.067 –11.459 5.326 1.964 –6.159 10.087 3.984 –6.468 14.435
経験年数 0.110 –0.209 0.429 0.056 –0.253 0.365 –0.049 –0.446 0.349
担任であるか –1.167 –3.828 1.494 –2.146 –4.721 0.430 1.307 –2.007 4.621
特別支援学級受持有無 –0.724 –3.456 2.008 2.112 –0.533 4.756 –0.186 –3.589 3.216
通勤時間 –0.039 –0.117 0.039 0.012 –0.063 0.088 –0.047 –0.144 0.050
睡眠時間 0.489 –0.854 1.833 2.546 1.246 3.846 0.934 –0.739 2.607
一ヶ月の休日数 –0.182 –0.842 0.478 0.237 –0.401 0.876 –0.084 –0.906 0.738
勤務時間 –0.285 –0.991 0.422 –0.159 –0.843 0.525 –0.067 –0.947 0.812
部活動顧問であるか 1.595 –8.298 11.488 2.094 –7.481 11.669 –8.717 –21.037 3.603
一週間の部活動日数 0.542 –0.311 1.395 0.667 –0.159 1.492 –0.106 –1.168 0.956
配偶者からのSS 0.003 –0.008 0.014 –0.002 –0.012 0.009 –0.007 –0.021 0.006
他の家族からのSS 0.049 –0.174 0.272 0.220 0.004 0.436 0.209 –0.069 0.487
友人からのSS –0.032 –0.272 0.207 0.341 0.109 0.572 0.077 –0.221 0.375
橋渡し型SC –1.172 –2.825 0.481 –1.093 –2.804 0.619 3.982 2.339 5.626 2.607 0.921 4.293 2.539 0.499 4.579 2.446 0.296 4.596
性別 –0.085 –2.632 2.462 –0.813 –3.321 1.695 –2.848 –6.047 0.351
年齢 –0.448 –0.796 –0.101 0.096 –0.247 0.438 0.083 –0.353 0.520
配偶者の有無 –3.262 –11.649 5.125 2.145 –6.115 10.405 4.175 –6.360 14.710
経験年数 0.099 –0.219 0.418 0.096 –0.218 0.410 –0.012 –0.412 0.388
担任であるか –1.169 –3.822 1.485 –1.962 –4.576 0.651 1.466 –1.867 4.799
特別支援学級受持有無 –0.822 –3.550 1.905 2.449 –0.237 5.136 0.123 –3.304 3.549
通勤時間 –0.038 –0.115 0.040 0.001 –0.075 0.077 –0.057 –0.155 0.040
睡眠時間 0.496 –0.845 1.836 2.477 1.157 3.797 0.874 –0.810 2.557
一ヶ月の休日数 –0.197 –0.855 0.461 0.305 –0.343 0.953 –0.023 –0.850 0.803
勤務時間 –0.289 –0.994 0.417 –0.143 –0.837 0.552 –0.053 –0.939 0.833
部活動顧問であるか 1.446 –8.434 11.326 2.137 –7.593 11.867 –8.653 –21.064 3.757
一週間の部活動日数 0.538 –0.314 1.389 0.682 –0.156 1.521 –0.092 –1.161 0.977
配偶者からのSS 0.003 –0.008 0.014 –0.002 –0.012 0.009 –0.007 –0.021 0.006
他の家族からのSS 0.053 –0.167 0.272 0.276 0.060 0.492 0.256 –0.019 0.532
友人からのSS –0.015 –0.256 0.225 0.312 0.075 0.549 0.049 –0.253 0.352
リンキング型SC –0.728 –2.471 1.014 –0.776 –2.595 1.043 4.672 2.957 6.388 3.566 1.797 5.336 3.472 1.339 5.605 2.668 0.387 4.948
性別 –0.175 –2.749 2.399 –0.257 –2.761 2.247 –2.461 –5.688 0.766
年齢 –0.475 –0.822 –0.128 0.176 –0.161 0.514 0.152 –0.283 0.588
配偶者の有無 –3.073 –11.464 5.318 1.916 –6.245 10.077 3.873 –6.646 14.391
経験年数 0.112 –0.207 0.431 0.051 –0.259 0.362 –0.049 –0.449 0.352
担任であるか –1.136 –3.800 1.529 –2.239 –4.830 0.353 1.285 –2.055 4.625
特別支援学級受持有無 –0.704 –3.437 2.029 2.047 –0.611 4.706 –0.207 –3.633 3.219
通勤時間 –0.039 –0.117 0.039 0.011 –0.065 0.087 –0.051 –0.149 0.047
睡眠時間 0.529 –0.814 1.872 2.348 1.041 3.655 0.772 –0.912 2.456
一ヶ月の休日数 –0.196 –0.855 0.464 0.308 –0.334 0.949 –0.023 –0.849 0.803
勤務時間 –0.270 –0.978 0.437 –0.225 –0.913 0.464 –0.115 –1.002 0.772
部活動顧問であるか 1.537 –8.357 11.432 2.273 –7.351 11.897 –8.666 –21.070 3.737
一週間の部活動日数 0.532 –0.320 1.385 0.712 –0.117 1.542 –0.071 –1.140 0.998
配偶者からのSS 0.003 –0.008 0.014 –0.001 –0.012 0.009 –0.007 –0.021 0.007
他の家族からのSS 0.045 –0.175 0.265 0.255 0.041 0.469 0.252 –0.024 0.528
友人からのSS –0.030 –0.269 0.210 0.332 0.099 0.564 0.073 –0.227 0.373

SC:ソーシャルキャピタル(得点・連続量),SS:ソーシャルサポート(得点・連続量).β:標準化されていない係数.性別(男/女),年齢(連続量),配偶者(有/無),経験年数(年数),担任であるか(はい/いいえ),特別支援学級受持有無(はい/いいえ),通勤時間(時間),睡眠時間(時間),一ヶ月の休日日数(日),1日の勤務時間(時間),部活動顧問であるか(はい/いいえ),一週間の部活動日数(日),配偶者・他の家族・友人からのSS(得点・連続量)は交絡因子として調整した.

IV. 考察

1. ソーシャルキャピタルと身体的健康度

単回帰および交絡変数で調整した重回帰モデルで分析した結果,3つのSCと身体的健康度はいずれも有意な関連はみられなかった.職場におけるSCが身体的健康に影響を及ぼしているという先行研究の結果から,中学校教諭においても職場におけるSCと身体的健康度に影響があることが考えられたが,本研究において職場におけるSCと身体的健康度に関連はみられなかった(Kobayashi et al., 2014Oksanen et al., 2012Suzuki et al., 2010).これは,身体的健康度のうちSF36-v2では特に主観的健康観すなわちQOLに着目しており,高血圧やメタボリックシンドローム等の身体的症状や状態が反映されにくいことが影響している可能性がある.

2. ソーシャルキャピタルと精神的健康度

結束型SC,橋渡し型SC,リンキング型SCの3つのSCすべてと精神的健康度は有意に関連していた.職場におけるSCとうつの発生との関連を調査した研究では,SCが低いほどうつの発生が多いことが報告されており(Oksanen et al., 2008Oksanen et al., 2010),職場におけるSCと精神的健康度には関連があるという本研究結果を支持するものである.先行研究では,教諭が感じる対人ストレスについて,同僚に関するものがいくつか報告されている(赤岡ら,2009中川ら,2000).本研究でも,同僚との人間関係を表す結束型SCが教諭の精神的健康に影響を与えることが明らかとなり,同僚に対する信頼の程度や相互利益のために協調したり協力したりすることができるかといった結束型SCは,教諭のメンタルヘルスに明らかな影響を及ぼす可能性が示された.また,リンキング型SCは,管理職や上司等との垂直的な人間関係のことであり,精神的健康度に対して関連があった.先行研究において,管理職は,直接的なストレスの対象となる場合もあるが,頼りになる存在である場合など,管理職のあり方が教諭のストレスの緩衝要因として機能していることが示唆されている(赤岡ら,2009).例えば,上司によるサポートは仕事のコントロールの低さと関連する抑うつを緩衝する効果があることや,同僚や管理職からの支援が低いと精神健康状態がよくない傾向にあることが報告されている(小松ら,2010Port et al., 2006).さらに,橋渡し型SCは他職種や他の組織の人との弱い結びつきからもたらされるものであり,学校現場の場合,他の学校の教諭や教育委員会で働く人,また同じ職場内で働くが職務内容の異なる養護教諭や事務員などの他職種との人間関係が想定される.労働者の職場におけるSCと精神的健康との関連をみた先行研究の中には,職場における結束型SCと橋渡し型SC,リンキング型SCが低い労働者は,高い労働者に比べてうつ病を発生するリスクが30~50%高いという報告があり,本研究の結果を支持していた(Oksanen et al., 2010).本研究の結果は企業の労働者を対象とした先行研究の結果と一致しており,現代社会においては多様な職種の人々と協力し仕事を行うことも多いため,学校内の特定の部門内や上司との強いつながりを示す結束型SCやリンキング型SCだけではなく,職場外の多機関や協力者など様々な人や職種との緩やかな人との関わりである橋渡し型SCも中学校教諭の精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された.学校現場において,これら3つのSCを醸成するよう働きかけることにより,教諭が精神的に健康に働き続けることを促進できる可能性がある.

3. ソーシャルキャピタルと役割/社会的健康度

分析結果から,同僚や他職種等の仕事の協力者との人間関係,管理職との人間関係が悪いと身体的あるいは精神的な理由によって仕事や普段の活動,普段の人付き合いが妨げられる可能性があることが明らかになった.対象者は月のうちまったく仕事をしない休日日数の平均が2.92±2.29日で,一日の平均勤務時間が11.55±1.82時間と職場に拘束される時間が長く,人間関係のほとんどが職場の人々との関係で占められていると考えられる.職場における人間関係を含むストレスが大きくなると,意欲の低下,抑うつ症状,緊張,不安等の心理的症状や,動悸,食欲不振,不眠等の身体症状,また行動的側面では作業効率の低下やアルコール依存,摂食行動の変化がみられることが知られている(厚生労働省中央労働災害防止協会,2010升味ら,1999).これらの身体症状は,ストレス下の心理的状態から生じる可能性が知られているものである.生活における人間関係のほとんどを職場の人間関係で占められているとすれば,中学校教諭においては,職場におけるSCが良好でない場合,精神的健康が損なわれ,結果として仕事の効率低下や普段の活動に対する意欲の低下,活動の妨げが起こり,社会役割の遂行にも影響が生じる可能性がある.精神的健康のみならず,教諭の役割/社会的健康度を高めるためにも,職場のSCを高めるように支援することが有効であると考えられる.

4. 本研究の限界

本研究は,A県内公立中学校教諭のみを対象としており,対象者が限られているため,一般化することは困難である.また,対象者に現在休職している教諭を含めていないため,休職には至らず比較的健康状態のよい教諭が質問紙に回答した可能性があり,選択バイアスを生じている.これは,重回帰分析における影響評価の結果を薄める方向に影響する可能性があるが,なお有意な関連が示されており,結果への影響は最小限であった.さらに,横断研究のため,職場におけるSCと健康度の関連については検証できたが,因果関係には言及できない.

V. 結語

中学校教諭における職場のSCは,結束型SC,リンキング型SCだけではなく,橋渡し型SCも教諭の精神的健康度および役割/社会的健康度に有意に関連していることが明らかとなり,これらの健康関連QOLを高めるためには職場におけるSCを醸成するための取り組みが重要であることが示唆された.

付記

本研究を実施するにあたりご協力下さいました皆様に深謝申し上げます.本研究は,JSPS科研費16K21295の助成を受けたものです.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
© 2019 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top