日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
一自治体における生活習慣病予防教室の運営・継続参加に向けた専門職スタッフの支援内容
酒井 久美子安田 貴恵子御子柴 裕子
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2020 年 9 巻 1 号 p. 37-44

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Abstract

目的:自治体で取り組む生活習慣病予防教室の運営・継続参加に向けた専門職スタッフの支援内容を明らかにし,終了後も継続した活動に結び付けるための支援の特徴を検討した.

方法:教室に携わる専門職スタッフ(保健師,管理栄養士,健康運動指導士,歯科衛生士)各1名に半構成的面接調査を実施した.教室で大切にしていた考え,その考えのもとに行った支援を聞き取り,内容を質的帰納的に分析した.

結果:専門職スタッフの支援は「生活改善への動機づけと行動化」,「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」,「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」等であった.

考察:専門職スタッフは,生活改善への動機づけと行動化を高めるためにグループの力を形成し,メンバー同士の関係性に働きかけていた.それぞれの専門職が捉えた情報を発信して,互いに共通の情報を把握していることはチームでの役割の認識と行動化につながったと考えられる.

I. 緒言

「国民の健康寿命が延伸する社会」に向けた取り組みでは,生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(厚生労働省,2014)が謳われている.糖尿病が強く疑われる者と糖尿病の可能性を否定できない者は推定2,000万人(厚生労働省,2017),国民医療費の生活習慣病の占める割合は約3割(厚生労働統計協会,2017)という統計からも生活習慣病予防の推進は重要な課題である.一方で,個人レベルにおいては,運動,食生活などの生活習慣と関係が深い生活習慣病の保健指導は,ライフスタイルを改善していくとても難しいチャレンジであり(津下,2007),その方法には工夫が求められる.

生活習慣病予防に有効な支援方法については,特定健診・保健指導における効果の見られた事例報告(渡辺ら,2009中垣内ら,2010松野ら,2011)が多くあり,対象者に応じた行動目標設定のための保健師の支援技術は明らかにされている(平敷ら,2015).また,保健指導終了後も望ましい生活習慣を継続できるためには,仲間づくりと環境づくりの必要性(高比良ら,2006)が報告されており,専門職スタッフによる「楽しさの創出」や「参加者同士の関わりを促す配慮」の効果が明らかにされている(和島ら,2011).さらに,専門職スタッフの連携については,お互いの共通認識を図る困難さが連携促進に影響を及ぼすこと(西田ら,2010)が報告されている.専門職スタッフの連携した支援内容を詳細に示すことは,各専門職が専門性を発揮した連携のあり方を検討する一助になると考える.

そこで本研究の目的は,生活習慣病予防教室の運営・継続参加に向けた専門職スタッフの支援内容を明らかにし,終了後も継続した活動に結び付けるための専門職スタッフの支援の特徴を検討する.

なお,本研究における「専門職スタッフによる支援」とは,生活習慣病予防教室(以下,本教室とする)に携わる専門職スタッフが教室開始から終了までにおいて教室運営と保健指導により複数回行われる意図を持った継続した関わりと定義した.

II. 研究方法

1. 対象

生活習慣病予防と仲間づくりを目的に掲げ,12か月間を1クールとして行っている教室の専門職スタッフを対象とする.この教室を取り上げた理由は,教室期間中の継続参加率が高いこと,体力・運動機能の向上が認められたこと(篠原ら,2010),教室終了半年後に運動継続や体重維持を確認できていること(Sakaiら,2015)から,目的が達成できていると考えられた(表12).参加者は,40~74歳の住民で,定員48名であった.教室は,参加者を12名ずつの4グループ(以下,曜日グループとする)に分け,曜日グループごとに測定や,個別運動プログラムによるトレーニング(週1回),集団での健康教育(月1回),専門職スタッフによる個別相談等を行っていた.

表1  教室の概要
教室目的 元気なうちからの生活習慣病予防を行い,仲間をつくり,いきいきと充実した人生を送ることを支える.運動と参加者同士のコミュニケーションを多く取り入れ,グループでの活動を中心に行う.
参加者 40~74歳,特定保健指導対象者を含め生活改善が必要な住民,定員48名
参加者の集め方 保健師からの勧誘,広報での公募
期間 4月~翌年3月まで,12か月間
内容 ・血液検査,動脈硬化検査,身体測定,体力測定等の検査(年3回)
・体力等に応じた個別運動プログラムメニューの提供と,実施状況の振り返り(週1回)
・集団での健康教育(月1回)
・専門職スタッフによる個別相談(年数回) 等
活動方法 〈曜日グループ注1) での活動〉
・週1回:筋力向上マシン等の個別運動プログラムメニューを用いた運動(90分)
・月1回:検査値の見方や食事内容,調理実習等の健康教育(90分)
〈年度グループ注2) での活動〉
・月1回:コミュニケーションを図る場としてバスハイキングやレクリェーション等
〈各メンバー注3) の活動〉
・個別運動プログラムメニューを自宅等で各自,行う

注1)曜日グループとは,参加者を4つの曜日に分け,特定の曜日に活動する12名の小グループ

注2)年度グループとは,参加者全48名で活動する大グループ

注3)メンバーとは,参加者一人ひとりを示す

表2  教室のスタッフと担当内容
専門職スタッフ 事務職スタッフ
1名
保健師
4名
管理栄養士
3名
健康運動指導士
1名
歯科衛生士
1名
担当の頻度 月1~2回 月1~2回 月4~5回 年2回 年2回
主な担当内容 個別相談
体力測定
目標の設定
生活習慣病予防
検査値の見方
食事指導
調理実習
生活の振返り
バスハイキング
個別相談
目標の設定
食事指導
調理実習
生活の振返り
バスハイキング
個別相談
体力測定
運動プログラム作成
目標の設定
運動指導
バスハイキング
ウォーキング
レクリェーション
太極拳
個別相談
口腔指導
費用集金
事務処理
スタッフ会議 月1回 教室に携わるスタッフ全員で実施内容の打ち合わせや情報共有を行う

教室の専門職スタッフは,保健師4名,管理栄養士3名,健康運動指導士1名,歯科衛生士1名であった.専門職スタッフのうち,研究協力の了解の得られた保健師1名,管理栄養士1名,健康運動指導士1名,歯科衛生士1名を対象とした.研究依頼をした際に,同じ職種の専門職は支援に関する共有を行っているとの理由により,各職種の代表1名の協力を得た.

2. データ収集方法

インタビューガイドを用いた半構成的面接を研究者1名が行った.面接時に対象者の同意を得てICレコーダーに録音し,録音内容は逐語録を作成してデータとした.データ収集期間は2012年9月~10月であった.

調査内容は,専門職としての経験年数,本教室を行う上で大切にしていた考え,その考えのもとに行った支援とし,教室開始から終了までを時間の経過に沿って聞き取った.調査内容の不明瞭な部分は,逐語録を作成した段階で,内容確認の質問を行った.

3. 分析方法

1) 一次分析(専門職ごとの個別分析)

逐語録から,専門職ごとに大切にしていた考えに着目して,具体的な支援の内容とその意図を取り出し分析単位とした.分析単位から「意図を持った関わり」としてその意味が変わらないように,可能な限り対象者の言葉を使うように要約して1コードとした.コードの意図の内容に着目して,サブカテゴリー,カテゴリーを作成した.カテゴリーは教室開始から終了までのどの時期に何を行っていたのか内容の変化を確認した.語りの内容に基づき,時間の推移は,開始時,開始後2~6か月,開始後7~12か月に分けられた.

2) 二次分析(専門職の比較と統合)

専門職ごとの個別分析から作成したカテゴリーの類似性に着目し,共通性のあるカテゴリーは共通したカテゴリーとした.専門職で共通性のないカテゴリーは専門職独自のカテゴリーとした.さらに,共通したカテゴリーと専門職独自のカテゴリーの目指している性質に着目して領域とした.教室全体において共通したカテゴリーと専門職独自のカテゴリーの関係性を描いた.

分析の過程では,データ分析における信頼性を確保するために,常に元データに立ち戻り,公衆衛生看護を専門とする研究者とデータの解釈や抽象化の過程で合意が得られるまで検討を重ねた.さらに,確実性を確保するために,分析結果を研究対象者に提示し内容の確認を得た.

4. 倫理的配慮

対象となる自治体に対して選定理由,研究目的,方法,匿名性の保持について書面にて説明し,研究協力の承諾を得た.対象者には研究目的,方法,匿名性の保持,業務評価ではないこと,研究途中での中断も可能であることを説明し,後日,同意の有無を確認し,文書による同意を得た.なお長野県看護大学倫理委員会の承認(承認番号2012-09,承認年月日2012年8月6日)を得て行った.

III. 研究結果

1. 対象者の概要(表3

対象は,保健師,管理栄養士,健康運動指導士,歯科衛生士で,全員,自治体の常勤職員であった.本教室の従事年数は3~8年であった.

表3  対象者の概要
専門職スタッフ 保健師 管理栄養士 健康運動指導士 歯科衛生士
性別 女性 女性 男性 女性
年齢 40歳代 40歳代 30歳代 50歳代
専門職としての経験年数 15年 20年以上 9年 20年以上
本教室(8年間)の従事年数 3年(主担当期間) 8年 8年 8年
研究における総面接時間 143分 77分 91分 41分

2. 専門職スタッフによる支援の内容

インタビューデータを分析し272のコードから,保健師13カテゴリー,管理栄養士8カテゴリー,健康運動指導士10カテゴリー,歯科衛生士4カテゴリーが作成された.

次に,専門職ごとのカテゴリーから,共通した10カテゴリー,専門職独自の5カテゴリーが作成された.専門職独自の5カテゴリーは,保健師独自3,健康運動指導士独自2であった.カテゴリーの性質を読み取った結果,「生活改善への動機づけと行動化」,「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」,「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」,「スタッフのチームマネジメント」が導き出され,これを領域とした.

以下に,領域ごとのカテゴリーを示す(表4).文中の【 】は共通したカテゴリー,〈 〉は専門職独自のカテゴリーを示す.

表4  教室での専門職スタッフの共通したカテゴリーと専門職独自のカテゴリー
領域 共通したカテゴリー 専門職ごとのカテゴリー ( )内は職種を示す
生活改善への動機づけと行動化 メンバーの暮らしぶりや身体状況とともにグループの特徴を把握する ・面接と雑談と検査結果からメンバーの暮らしぶりとグループの特徴を把握する(保健師)
・メンバーの口腔の状態を把握する(歯科衛生士)
メンバーが具体的な目標を設定できるようにする ・メンバー各自が立てた目標をグループで応援できるようにする(保健師)
・メンバーが実践可能な具体的な目標を設定できるようにする(管理栄養士)
・メンバーが自分の口の目標を設定できるようにする(歯科衛生士)
メンバーが生活改善の必要性を理解し改善意欲を持てるようにする ・メンバーが生活改善の必要性を理解し改善させる意欲を持てるようにする(保健師)
・食生活の改善の必要性を理解できるようにする(管理栄養士)
・メンバーが口腔の状態に合わせた予防行動がとれるようにする(歯科衛生士)
・メンバーが自分自身に合った運動方法を理解し実施できるようにする(健康運動指導士)
・メンバーの運動実践の意欲を持続させる(健康運動指導士)
メンバーの小さな変化を誉め自信を持てるようにする ・メンバーの表情や小さな変化を誉め自信を持てるようにする(保健師)
・メンバーの良い点を見つけて伝え検査値との関係を感じられるようにする(管理栄養士)
メンバーが協力して学習したことを実践できる力を高める ・メンバーが協力して学習したことを実践できる力を高める(保健師)
・メンバーが協力して学習したことを実践できる力を高める(管理栄養士)
〈保健師独自〉
・メンバーの意欲を運動・栄養の専門職の指導につなげる(保健師)
〈健康運動指導士独自〉
・メンバーの継続参加を認めて励ます(健康運動指導士)
〈健康運動指導士独自〉
・曜日グループで行う活動日以外の運動を推奨する(健康運動指導士)
教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成 スタッフはメンバーを理解して受け入れる ・メンバー一人ひとりを尊敬し生活者として理解する(保健師)
・メンバーと打ちとけた関係をつくる(管理栄養士)
・メンバー一人ひとりと打ちとけた関係をつくる(健康運動指導士)
スタッフはメンバー同士をつなげて曜日グループを意識させる ・グループで話し合いながらメンバーが曜日グループの一員であることを感じられるようにする(保健師)
・メンバーが自分のことを話せる時間をとって雰囲気を和らげる(管理栄養士)
・運動中に話をしながらメンバー同士をつなげて曜日グループを意識させる(健康運動指導士)
曜日グループの人間関係を越えた年度グループの一体感を高める ・健康づくりに取り組んでいく年度グループの仲間意識を高める(保健師)
・曜日グループの中での役割をメンバーが意識できるようにする(健康運動指導士)
・曜日グループを構築しながら年度グループとしての体制をつくる(健康運動指導士)
専門職スタッフの一員としてのマネジメント スタッフ同士で目的や指導方針や教室全体の様子を共有する ・スタッフ同士で指導内容やその時のメンバーの様子を共有する(保健師)
・スタッフ同士で指導内容やその時のメンバーの様子を共有する(管理栄養士)
・メンバーの良い取り組みをスタッフに情報提供する(健康運動指導士)
スタッフは互いの実践を理解して自らの役割を考える ・互いの実践を理解してよりよい指導内容を検討する(保健師)
・互いの実践を理解して栄養の指導内容を検討する(管理栄養士)
・担当分野の指導内容やねらいをスタッフに発信する役割を担う(健康運動指導士)
・教室の目的に向かって歯科衛生の役割を再考する(歯科衛生士)
スタッフのチームマネジメント 〈保健師独自〉
・スタッフ同士で目標と指導方針を共有する意識づくりをする(保健師)
〈保健師独自〉
・スタッフ一人ひとりを尊重したリーダーシップをとる(保健師)

1) 領域「生活改善への動機づけと行動化」

「生活改善への動機づけと行動化」における専門職スタッフの共通した5カテゴリーは,メンバーに合う目標設定とするための【メンバーの暮らしぶりや身体状況とともにグループの特徴を把握する】,その情報をもとにした【メンバーが具体的な目標を設定できるようにする】ものであった.目標の設定後は月1回の曜日グループでの活動を通して【メンバーが生活改善の必要性を理解し改善意欲を持てるようにする】,【メンバーの小さな変化を誉め自信を持てるようにする】,【メンバーが協力して学習したことを実践できる力を高める】支援であった.

専門職独自のカテゴリーは,保健師1カテゴリーと健康運動指導士2カテゴリーであった.保健師独自のカテゴリーは,メンバーの暮らしぶりとグループの特徴を把握した上で,〈メンバーの意欲を運動・栄養の専門職の指導につなげる〉役割を担い,他の専門職スタッフの支援を受け入れやすくするつなぎ役を果たしていた.運動指導士独自のカテゴリーは,週1回の運動指導時に〈メンバーの継続参加を認めて励ます〉と,個人の実践力の強化として〈曜日グループで行う活動日以外の運動を推奨する〉を行っていた.メンバーに合わせてタイミング良く認めて励ますことにより運動実践意欲を高める役割を担っていた.

2) 領域「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」

「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」における専門職スタッフの共通した3カテゴリーは,メンバーをどうつなぐかを考える準備としてスタッフ自身とメンバーのよい関係の構築を目指した【スタッフはメンバーを理解して受け入れる】であり,メンバーの特性をもとにした【スタッフはメンバー同士をつなげて曜日グループを意識させる】,【曜日グループの人間関係を越えた年度グループの一体感を高める】支援であった.保健師と管理栄養士と健康運動指導士は,それぞれにメンバーへの働きかけをしていた.

この領域に専門職独自のカテゴリーはなかった.

3) 領域「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」

「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」における専門職スタッフの共通した2カテゴリーは,【スタッフ同士で目的や指導方針や教室全体の様子を共有する】,【スタッフは互いの実践を理解して自らの役割を考える】であった.専門職スタッフの日常の雑談や月1回のスタッフ会議の際に,メンバーの生活状況の変化や運動指導・保健指導・栄養指導の状況を共有し合っていた.さらに他の専門職スタッフの指導内容を把握したうえで担当分野の役割を再考していた.

この領域に専門職独自のカテゴリーはなかった.

4) 領域「スタッフのチームマネジメント」

この領域は専門職スタッフの共通したカテゴリーはなく,保健師独自の2カテゴリーであった.保健師は専門職スタッフと日常の雑談をよく持つようにして〈スタッフ同士で目標と指導方針を共有する意識づくりをする〉を行い,月1回のスタッフ会議では事業目的を毎回確認していた.また,〈スタッフ一人ひとりを尊重したリーダーシップをとる〉は専門職スタッフの実践を互いに褒めあうようにし,スタッフとの信頼関係を構築した上で,よりよい指導方法の向上を目指してスタッフの育成を実践していた.

3. 教室における専門職スタッフの支援の構造

教室開始時,開始後2~6か月,7~12か月の区分ごとに共通した支援と専門職独自の支援の内容を合わせて図1に示した.

図1 

教室における専門職スタッフの共通した支援の内容と専門職独自の支援の内容

領域「生活改善への動機づけと行動化」と「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」を意図した支援は,教室が開始した時期から専門職スタッフがそれぞれにメンバーに対して継続して働きかけていた.メンバー個々の働きかけとグループとしてのまとまりや一体感が形成されることを意図した働きかけを並行させた支援を展開していた.

領域「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」は,教室開始時から終了まで継続して行われていた.専門職スタッフが互いに情報の発信や共有をし,専門職としての役割を考え,よりよい指導につなげる教室運営をしていた.

領域「スタッフのチームマネジメント」は教室開始時から終了まで継続して行われていた.主担当である保健師は,専門職スタッフの状況を捉え,チームとして機能するように教室運営を推進していた.

IV. 考察

結果をもとに,終了後も継続した活動に結び付けるための専門職スタッフの支援の特徴と教室運営について考察する.

1. 健康教育の対象者への支援

1) 生活改善への動機づけと行動化を高めるためのグループの力を形成する

教室の参加を通して得られた行動変容を終了後も継続できるために参加者ごとに目標を設定して,意欲や自信を維持できるように支援していた.加えてグループとして継続できるために,まずはスタッフとつながり,次にメンバー同士をつなげ,最後にグループの一体感を高めるというかかわりを参加者の変化を捉えながら行っていた.生活習慣病ハイリスク者の行動変容に向けた支援方法を検討した先行研究によれば,自己の生活調整力を高める支援と周囲との関係調整力を高める支援が個人のセルフケア能力を高め,継続性の高いものにすることが示されている(今松ら,2015).本研究においても【メンバーが生活改善の必要性を理解し,改善意欲を持てるようにする】などメンバー自身の内的要因に着目した個人の知識・意欲を高める「生活改善への動機づけと行動化」を行っていた.さらに,【スタッフはメンバー同士をつなげて曜日グループを意識させる】など外的要因に着目した「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」への支援を行っていた.保健師,健康運動指導士など専門職スタッフからの幾重にも重なる働きかけは,グループの団結する力を強化し,互いを健康づくりにともに取り組み支え合う存在にさせたと考えられる.

2) メンバーとの信頼関係を基盤にメンバー同士の関係性に働きかける

生活習慣病予防のための行動変容を促す初回保健指導に着目した先行研究によれば,関係をつくる技術,アセスメントする技術は初回保健指導に特徴的であると示されている(小出ら,2014).本研究においても,教室開始時は,個への支援として【メンバーの暮らしぶりや身体状況とともにグループの特徴を把握する】が行われ,同時にグループへの支援として【スタッフはメンバーを理解して受け入れる】が行われ,メンバーの状況を受け入れることで専門職スタッフとの信頼関係をつくっていた.メンバーとの信頼関係を基盤にして把握した情報をアセスメントし,どのメンバー同士をつなげるのか,グループの一員として何を担ってもらうか等メンバー同士の関係性に働きかけていた.

2. 教室の運営と参加者支援の質に関わる専門職のマネジメント

1) 教室運営の一員としての役割を果たすマネジメント

野田ら(2016)は,保健師等の支援者には,グループの初期段階である準備期から,コミュニティ・エンパワメントの視点を意識しながら発展の段階に応じて住民組織と関わっていく必要性があると報告している.本研究において,保健師や管理栄養士等から成る専門職スタッフは,ともに教室開始時から段階的に「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」を意識していることが認められ,専門職スタッフが一丸となってメンバー間の関係性を強めようとしていることが確認された.

専門職スタッフは共通して,「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」をしていた.これは,教室目的に向かって健康づくりに取り組んでいく仲間意識を高めさせ,教室終了後もグループで継続する意欲を持たせるかかわりの基盤となっていたと考えられる.チームでかかわる場合,チームマネジメントを実践するためには,特定の職種が特定の役割や仕事を限定するのではなく,関係する複数の職種が重なり合う業務も存在することをお互いに認識し合い,対象の状況によって柔軟に対応することが重要である(篠田,2011).本研究において,それぞれの専門職が担当分野の目的や指導方針等を発信し,互いに共通の情報を把握していることにより,教室運営における自らの役割を再考し,教室目標の達成に向けて柔軟に補い合う役割の認識につながったと考えられる.

2) 専門職スタッフの個々の役割を効果的にするためのマネジメント

今回の調査においては,保健師の語りからのみ事業を通してスタッフの育成を実践しているとあった.目的や目標を話し合うことの最も大切な機能は,目的,目標を確認することと言えるが,その過程を通して,お互いが大切にしていることや考えていることを出し合い,わかり合うことも大切(岩永,2003)と言われている.保健師はスタッフにチームとして取り組む意味を伝えて,スタッフの相互理解を促していた.それは,スタッフ同士で教室目的や指導方針等を共有し合い,担当する専門分野の役割を果たすことを促し,加えてチームの一員としての役割の認識と行動化を促したと考えられる.保健師は,「スタッフのチームマネジメント」として各職種の専門性を尊重し,効果的な事業の継続・発展のために主担当として専門職スタッフ全体を捉えながら教室運営の推進を担っていた.

生活習慣病予防の保健指導スキルの向上に関して,保健指導実施者が実施すべきこととして“保健指導の事業目的の明確な意識化”,“対象者を尊重する徹底した姿勢”,“対象者の反応からの自己の実践の振り返り”,“得た知識を生かそうとする積極的な姿勢”が挙げられている(水野ら,2016).本研究において,保健師は事業目的をスタッフで共有する意識を持たせること,スタッフがメンバーを尊重する意識づくり,よりよい指導内容を検討するという内容は,水野らの保健指導実践者としての条件と一致する.“得た知識を生かそうとする積極的な姿勢”については,今回の研究が教室開始から終了までの単年度の活動に焦点をあてたために抽出されなかったと考える.

3. 研究の限界と課題

本研究は1つの自治体において実施されてきた活動を分析して報告した.各専門職は同機関内の常勤職員であり,事業開始からの経過を把握していたことは結果に影響している.また,その地域特性や住民ニーズが結果に偏りを生じた可能性がある.集団への取り組み支援の活動事例を複数の自治体に増やして分析する必要がある.

V. 結論

効果を上げている生活習慣病予防教室にかかわる専門職スタッフの支援を明らかにしたところ,「生活改善への動機づけと行動化」,「教室終了後も活動を継続できるグループ力の形成」,「専門職スタッフの一員としてのマネジメント」,「スタッフのチームマネジメント」で構成されていた.教室目標を認識していること,専門職の技能を持って役割を果たすことに加えて,それぞれの専門職が捉えた情報を発信して,互いに共通の情報を把握していることはチームでの役割の認識と行動化につながったと考えられる.

利益相反

本研究に開示すべきCOI状態はない.

なお,本研究は長野県看護大学大学院看護学研究科修士論文を加筆・修正したものである.

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