日本植物病理学会報
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株枯病菌を接種したイチジク苗木における病徴の進展過程(1)木部の通水阻害と萎凋症状の関係
森田 剛成軸丸 祥大黒田 慶子
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2016 年 82 巻 4 号 p. 301-309

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抄録

株枯病は我が国のイチジク栽培地域で蔓延している.本病の感染から発病・枯死までの仕組みを正確に理解するため,株枯病菌接種苗木の通水機能の変化と外部病徴(外観健全(NS),萎凋開始(LW)および枯死(D)に3区分)の関係に着目し,肉眼および実体顕微鏡観察を行った.NSでは本菌の子のう殻が形成される範囲は接種部および上下5 cm程度と狭く,LWでは接種部の上下方向に最大10 cmまで拡大した.Dでは子のう殻形成が認められる範囲がLWよりもやや狭くなる傾向があった.NSの木部の褐変は接種部を中心に広がり,接種部から下方5 cmの範囲で認められた.NSの木部褐変面積割合(主幹部の横断面積に対する褐変部の割合)の最大値は1.3~16.4%であった.NSと比べてLWで褐変は著しく拡大し,接種部から上方向に15 cm,下方向に10 cmの範囲で確認され,木部褐変面積割合の最大値は16.5~52.4%であった.Dの木部褐変はLWとほぼ同等の傾向であった.NSの通水面積割合(主幹部の横断面積に対する根部から吸収させた酸性フクシンによる染色面積)は,有傷無接種苗木と類似したパターンを示し,酸性フクシンが葉の維管束まで到達することにより,全ての葉が赤く染色された.LWではNSに比べて全般的に通水面積割合の値が小さくなった.通水面積割合が最小となる部位とその値は,萎凋開始直後の苗木では接種部で4.6%以下,萎凋開始から日数が経過した苗木では接種部より上部で2.4%以下であった.なお,Dでは主幹部の通水がほとんど確認されなかった.また,LWやDでは,葉は赤く染色されなかった.以上の結果から,本病原菌接種によりイチジクが枯死する仕組みの概要は以下のように推測される.①接種部位を中心に病原菌が分布する範囲が拡大し,木部の褐変が広がる.②木部の褐変が広がると,木部の通導組織では通水停止した部分が増加する.③接種部位付近の横断面で通水面積割合が低下すると葉に届く水分量の著しい減少により萎凋症状が表れる.④通水停止の状態が継続することにより,感染木は枯死に至る.

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© 2016 日本植物病理学会
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