日本植物病理学会報
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水仙の菌核病
阪口 又輔
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1941 年 11 巻 3 号 p. 114-135

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抄録

1. 本報告は水仙の菌核病の病徴並に病原菌の形態,生理に就き記述した。
2. 罹病水仙の病徴は最初葉先部黄變し,其後次第に全體に擴大する。そして常に水仙球根の外皮上に非常に微小なる菌核を形成する。
此の罹病水仙球根を翌年更に栽植する時は,非常に生育が阻害せられる。即ち發育が遲く,早期に葉が黄變し,球根は縮小し,遂には萎凋枯死した。
3. 本菌の菌核は圓形又は不整圓形にして,黒色又は暗褐色,大きさ80-70×165-121μあり。microconidiaは球形,平滑, 2.0-2.5μあり。子嚢盤の形成は見なかつた。
4. 本菌の培養的性質に就ては10種の培養基で實驗した。
菌絲の發育良好であつたのは馬鈴薯,菜豆,醤油,葱頭,ツァペツク氏,各寒天培養基であつた。菌核の形成には馬鈴薯,菜豆,ツァペツク氏,リチャード氏,乾杏各寒天培養基が良好で其の形成には20℃が最適温度の様であつた。
5. 本菌の發育と温度との關係に就ては10種の培養基で實驗した。
菌絲發育の最適温度は何れの培養基に於ても28℃であつた。又最低温度は0deg;C以下にあり,最高温度は32°-36℃の間であつた。
6. 本菌の發育と水素イオン濃度との關係に就いては馬鈴薯寒天培養基を用ひて實驗した。菌絲はpH 1.9から10.1の間で發育した。そしてpH 4.8では最も良好であつた。菌核の形成は何れの濃度に於ても形成した。然し兩端程其の形成が遲く,且つ酸性程其の密度が少い。
7. 本菌の發育と蔗糖との關係に就きては馬鈴薯寒天培養基を用ひて實驗した。菌絲は5-7%蔗糖に於て良好で, 30%でも充分發育し得た。然し濃薄何れに偏するも發育は漸次不良となる傾向がある。又菌核は無添加區のみ最も形成良好にして,濃度を増すにつれて漸次不良となり, 7%以上濃厚なる時は形成を見ない。
8. 本菌の發育と鹽分との關係に就きては葱頭寒天培養基を用ひて實驗した。菌絲は無添加區に於て最も發育良好であつた。而し濃度を増すにつれて漸次不良となり, 8%にて全く發育停止した。菌核の形成は無添加區のみ最も多く形成し他は形成を見なかつた。
9. 本菌は水仙の外,グラヂオラス,チューリツプ,葱頭等に病原性強く,特に土壤中に於て顯著であつた。
10. 本菌の生活力は試驗管中に於て調査したが2ケ年以上に及ぶものならんと思はれる。
11. 發病と水仙品種との關係に就きては筆者の調査した範圍では12の罹病品種を認めた。
12. 輸入植物檢疫との關係に就きては1928年,横濱港に於て,和蘭より輸入したチューリツプに本菌を記録したるに初り,其後諸港に於ても屡々發見してゐる。
13. 本病原菌はグラヂオラスの乾腐病たるSclerotinia gladioli (MASS.) DRAYTONと同一病菌であると思はれる。
擱筆するに當り,終始御厚意を賜りたる狩谷植物檢査課長並に本稿の御校閲と御教示を賜りたる河村貞之助氏及び種々實驗上の御指導と御示唆を與へられたる黒澤英一氏に對し,茲に衷心より感謝の意を表する。

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