日本植物病理学会報
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煤病菌の胞子の發芽及び發芽管の生長,特に昆蟲の排泄する甘露との關係
山本 和太郎
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1952 年 16 巻 2 号 p. 49-53

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抄録
1) 煤病菌の1種,Capnodium fuliginodes REHMの柄胞子は再蒸溜水,1%及び5%の葡萄糖液,1%及び5%の蔗糖液中に於て何れも全く發芽せず,リチャーズ氏培養液中に於ても殆んど發芽しなかつたが,甘露溶液と馬鈴薯及び竹葉の兩煎汁液中には良好に發芽した。
2) タイワンワタカイガラムシ,サカキノワタカイガラムシ,コブカイガラムシ,タケノヒメツノアブラムシ,カンシヨノキアブラムシ,Thoracaphis fici TAK.などの排泄した甘露溶液中に於ても柄胞子の發芽及び生長は何れも良好にして,これら昆蟲の種類の相違による影響は僅少であつた。
3) サカキノワタカイガラムシ,コブカイガラムシ,タケノヒメツノアブラムシなどの甘露溶液と竹葉煎汁液らを酸性白土,珪藻土,骨炭でそれぞれ處理した液と處理しない液に就て柄胞子の發芽實驗をした結果,骨炭で處理した甘露溶液及び竹葉煎汁液では全く發芽しなかつた。然るに他の珪藻土または酸性白土で處理した液は無處理の液と同樣に良好に發芽し且つその生長も良好であつた。
4) 甘露溶液を100℃で2囘殺菌してから,再び100℃で8時間又は16時間連續的に保置した場合,その溶液に於ける柄胞子の發芽及び生長は標準液のものに比して劣らず,却つてやや良好であつた。寒天のみを溶かした培養基上に於て柄胞子の發芽は頗る良好であつたが,發芽管の生長は他の培養液のものに比して可なり劣つていた。
5) 上記の如く,この煤病菌の柄胞子の發芽には糖類,無機物質以外の或る特殊物質の存在が不可缺に必要であつて,その特殊物質はBiotinか又はそれに近似の物質と考えられる。煤病菌が甘露上に發育するのは,それに一般的な榮養物質の外に斯る特殊物質即ち生長素を含んでいるからであろう。
本研究は元臺北帝國大學植物病理學教室で行つたもので,御指導を賜つた同大學松本巍教授及び北海道大學栃内吉彦教授に對して衷心より謝意を表す。
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