日本植物病理学会報
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Phytophthora capsiciの遊走子の運動に関する研究
第1報 各種有機溶液中における走電性
桂 〓一正子 朔宮田 善雄
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1966 年 32 巻 4 号 p. 215-220_1

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抄録

各種有機化合物の溶液中におけるPhytophthora capsici Leon.の遊走子の白金電極に対する走電性の研究を行なつた。供試した電極間の電位勾配は2V/cmであつた。イオン交換水中において遊走子は陰極へ走性を示して集積した。この際,遊走子は電極に近づくにつれて遊泳阻害を受けて回転,自転運動を起し,その後間もなく静止した。一方,陽極においては速やかに阻止帯の形成がみられた。逆に,マレイン酸,リンゴ酸,コハク酸,グルタミン酸,アスパラギン酸など多くの有機酸のナトリウム塩溶液の場合,10-2モル濃度において陽極に著しい集泳が起つた。10-3モルから10-5モルへと濃度が低下するにしたがい,遊走子の集団と電極の間にいわゆる阻止帯が形成され,次第に大きくなつた。フマール酸とクエン酸の場合は10-2モルにおいてもなお阻止帯が形成されていた。10-2モルのクエン酸溶液中を除いて,多くの場合陰極においてもまた阻止帯の形成を認めた。
これに対し,各種糖類溶液中においては濃度にほとんど関係なく,陰極に著しい遊走子の集積が起り,その様相は,イオン交換水中の現象がやや強く現われたもののようであつた。これらの現象は従来の濃度勾配説や電流説のみでは十分に説明することができないようである。なお,D型およびL型のリンゴ酸とアスパラギン酸の各ナトリウム塩溶液(10-2モル)中では,いずれも陽極に対して同程度の著しい集泳を認めたことは,遊走子の走電性と物質代謝との間には直接的関係が無いことを示しているようである。

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