日本植物病理学会報
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ジャガイモ塊茎の抵抗性とフェノール代謝との関係
(3) 抵抗性病斑隣接組織のフェノール代謝について
酒井 隆太郎富山 宏平石坂 信之佐藤 章夫
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1967 年 33 巻 4 号 p. 216-222

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抄録

疫病菌不親和性レースの感染を受けたジャガイモ塊茎(R1遺伝子品種リシリ)の切断面に疫病菌を接種し,その隣接組織における全フェノール,o-ジフェノール,クロロゲン酸,コーヒー酸,チロシン,クラーソン・リグニンの各々の含量の定量分析を行なつた。その結果,感染部より約10∼15細胞層にわたつてフェノール代謝が促進されていることが示された。感染後初期(24時間)には全フェノールおよび残余フェノール(全フェノールよりo-ジフェノールおよびチロシン含量を差し引いたもの)の含量は無感染のものにくらべて著しく増加した。その後(48時間後)接種胞子濃度が低い場合には同様にそれらフェノールの濃度は無感染に較べて高いが,接種胞子量が濃い場合には全フェノール,o-ジフェノール,クロロゲン酸,コーヒー酸の量は無感染組織に較べて少なくなる(無切断無接種組織に較べればその含量は高い)。D-glucose-14Cからのクロロゲン酸およびコーヒー酸への放射能のとり込みは,しかしながら,濃厚感染隣接組織で低下していない。この事実は濃厚感染隣接組織でのフェノールの代謝回転は低下していないことを示すと考えられる。
クラーソン・リグニン(リグニンおよびメラニン様褐変物質を含む)が接種胞子濃度が濃くなるにつれて増加する事実は,感染部(褐変を示す)隣接組織でのフェノール代謝が感染細胞の褐変およびリグニン化に関係をもつことを示唆する。
以上の事実は,従来しばしばいわれていた「抵抗性病斑隣接組織ではクロロゲン酸の含量が無感染組織に較べて低いのでクロロゲン酸は抵抗性に関与すると見做すことはできない」という見解と矛盾し,クロロゲン酸を含むフェノール代謝が抵抗性と密接な関係をもつことを示す。

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