アカザ搾汁液〔単なる搾汁である生汁(CS)と,その遠沈上澄より冷アセトン可溶性部分を除き,水透析したもの(ChIS)の両者を使用した〕のウイルス感染阻止作用を,ダイコンモザイクウイルス(DMV)とその壊死斑寄主であるタバコ(ホワイトバーレー種)を主として用いて調べた。
(1) アカザ搾汁液を60°Cに10分間加熱しても,感染阻止作用に変化はなく,100°Cに10分間加熱するとその作用は失われる。
(2) アカザ搾汁液はそれを取り出したアカザではその感染阻止作用は低い。
(3) アカザ搾汁液をタバコの葉裏にすり付けるとき,葉表に阻止作用は現われない。
(4) ChISは約100倍の希釈までは阻止作用は顕著であるが,それより希薄になるとその作用はいちじるしく落ちる。
(5) ウイルスすり付け接種以後における,アカザ搾汁液のすり付けでは,30分後までのすり付けは明らかな阻止作用を示す。
(6) DMVのモモアカアブラムシによるタバコへの接種では,その接種以前にアカザ搾汁液が葉上に存しても,あるいはこれがすり付けられていても,ウイルスの感染には何の影響も認められない。
(7) モモアカアブラムシの15∼20秒という短時間の吸汁によるDMVの接種の場合,アブラムシ接種直後にアカザ搾汁液のすり付けをしてもウイルスの感染には何の影響も認められない。
以上によりつぎのとおり結論した。従来,この種の阻止物質によるウイルス感染阻止の機構については,このものは寄主の側に作用し,それによつて寄主細胞のレセプターとウイルスとの間に形成されるべき複合体の成生が阻止されると説くのが普通であるが,本論文ではこれに加えて,“不和合性の感染阻止物質に対する植物の細胞質の過敏感反応”なる作業仮説を提唱した。すなわち,感染阻止物質と接触した不和合性の細胞質は過敏感反応を起し,そのためにその細胞質表面はウイルスを吸着する能力を喪失するというのである。
ごく短時間の吸汁のときは,DMV保毒のモモアカアブラムシの口針の先端は多くは表皮細胞縫合部の中間にまで達し,ここでプラズモデスマータにDMVを伝達する。これに対しすり付け接種では,多くはDMVはエクトデスマータに伝達される。接種方法の違いによつて感染の場がこのように異なることが,一方ではアカザ搾汁液のすり付けで感染が阻止され,他方では何らの影響をも受けない結果になるとのべた。
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