抄録
べと病菌に侵されたダイコン根組織はリグニン様物質を生成する。紫外および赤外吸収スペクトル,メトオキシル基量およびアルカリ分解物のペーパークロマトグラムによると,本物質は木材リグニンとは性質が異なる。本物質はまた健全柔組織の細胞膜には存在せず,べと病菌の感染を受けた生きた柔組織のみによって生成される。組織化学的観察によると,木化細胞膜の近辺ではパーオキシダーゼ活性がいちじるしい。褐変は接種あるいは切断3日後の切片ではその表面においてもみられない。これらの組織は切断表面を除いてすべて原形質分離を起こす。しかし柔組織細胞膜の木化は,べと病菌の侵害に先だって起こるのか,侵害された後の柔組織細胞膜で起こるのかは明らかにできなかった。また侵害柔組織細胞膜での木化は部分的であり,全細胞膜が木化することはなかった。