1) ウイルス感染組織小片の切口を直接試料支持膜上においた2% PTA滴(NaOHで中性とし,展着性をよくするため中性洗剤を微量添加する)に浸したり,あるいはスライドグラス上でPTA滴に浸したのちその液を支持膜上に付着させるなどの方法で,ウイルス粒子をネガティブ染色し検出することを19種の既知ウイルスの各種感染組織について試みた。
2) 桿状-紐状ウイルス粒子については,tobacco mosaic virus, sugarcane mosaic virus, turnip mosaic virus, potato viruses X, YおよびS, cowpea aphid-borne mosaic virus, azuki-bean mosaic virus, soybean mosaic virus, carnation mosaic virus, soil-borne wheat mosaic virus, barley yellow mosaic virusが,球状ウイルス粒子については,Chenopodium mosaic virus, carnation mottle virus, rice dwarf virus, rice black-streaked dwarf virus, tobacco ringspot virusなどが検出でき,その形態ならびに微細構造もよく保持されていた。
3) Cucumber moaic virusならびにalfalfa mosaic virusでは粒子崩壊のため検出困難であったが,これらの感染組織小片を5-10%ホルマリンに2-3時間浸し,水洗したのち同じ方法で調べたところ,ウイルス粒子の形態と微細構造が固定保持され,検出容易となった。
4) 本法は潜在性ウイルスを検出するのに有効である。たとえばpotato virus Sに感染したジャガイモの葉,茎,塊茎あるいはalfalfa mosaic virusに潜在感染したタバコの葉からウイルスの検出を行なうのに本法を用い,その存在が確かめられた。
5) 粒子形の異なる2種のウイルスに混合感染している植物,たとえば,carnation mosaic virusとcarnation mottle virusとに混合感染したカーネーション(ピーター・フィッシャー種)など,では同一試料中に両者のウイルス粒子を同時に検出することができた。
6) Local lesion (tobacco mosaic virus, carnation mottle virus, alfalfa mosaic virusなどによる)からも本法でウイルス粒子を検出できた。
7) 本法によるウイルス粒子検出の難易は,試料中のウイルス粒子の多少によるものと考えられ,容易に検出できた試料では,その細胞中に多量のウイルス粒子があることを超薄切片法でも確認した。
8) 本法を著者らはダイレクト・ネガティブ染色法(direct negative staining method)と名づけた。
本法は各種のウイルス検出に用いて便利であり,研究および実用上に応用範囲が広いものと考えられる。
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