日本植物病理学会報
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黒蝕米(しりぐろ米)より分離される細菌
谷井 昭夫馬場 徹代春木 保
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1974 年 40 巻 4 号 p. 309-318

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抄録

1) 黒蝕米は米粒の一部に黒褐∼黒紫色の斑点を形成し,その被害は直接的な減収ではなく,検査等級の下落および政府買上げ対象の除外にあり,近年,北海道でその発生が多くなり問題となっている。
2) 本被害粒の静置法による分離試験の結果,細菌(黄色集落)の分離頻度が高く,糸状菌ではEpicoccum属菌がやや多く分離される以外は他の糸状菌の分離頻度は極めて低く,さらに健全米でも相対的に分離頻度が低いが,黒蝕米における菌種構成と変わりがなかった。希釈平板法では被害玄米は健全米に比較すると,前者に出現細菌数が多かった。
3) 北海道各地より採集した黒蝕米より得た65菌株の細菌は4群に大別され,そのうちI群の分離頻度が高く,I群の46菌株はさらにA, B, Cの3系統に類別された。また,新鮮な被害玄米からはI群のB, C系統のみが分離された。
4) I群の3系統は,それぞれ飯塚らの旧分類によるA: Aerobacter cloacae, B: Pseudomonas perluria, C: P. trifoliiにほとんど一致しており,それらについて考察を加えA: Enterobacter (Aerobact.) cloacae, B, C: Erwinia herbicolaと同定し,II群はFluorescentグループ:Pseudomonas schulkilliensisとその近縁細菌,Achromogenicグループ,螢光色素非産生Pseudomonas属菌,Chromogenicグループ:P. cerealis, P. melanogenumおよびP. lacunogenesと同定され,III群はBrevibacterium (Corynebacterium)属菌,IV群はその所属が不明であった。
5) 新鮮な被害玄米より得たE. herbicola (B, C系統)は無傷では玄米に病変を示めさず,有傷接種では黒蝕症状を発現したが,有傷無接種でも黒蝕米が生成され,両者の黒変部よりE. herbicolaが再分離された。
6) 以上から,本症状の発見には玄米の傷が重要で,その発生原因が細菌でなく,カメムシ類の稲籾吸汁であることを示し,E. herbicolaと本病の病原細菌とされていたX. itoanaとを比較論議し,X. itoanaE. herbicolaの異名であることを明らかにした。

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