抄録
1967年以来,十勝馬鈴薯原原種農場のほ場で男爵薯などのジャガイモ数品種に,PVXに感染していないでモザイク症状をあらわす病気が発生した。発病株は開花期頃,葉脈間に退緑した小刻点があらわれ,さらにその周辺が退緑してモザイク症状を呈し,生育後期には下位葉にえそ斑点を生じ,また葉が青銅色に変化する。本病罹病男爵薯から分離したウイルスを男爵薯のウイルス・フリー個体に汁液接種すると高率に本病徴を再現でき,またPVS抗血清に対して陽性反応を示した。さらに寄主範囲と感受性植物の病徴,伝染方法,粗汁液中でのウイルスの不活化条件,ウイルス粒子の形態がPVSと同一であること,PVSとの干渉効果が完全であること,保存中のPVSを男爵薯のウイルス・フリー個体に汁液接種すると軽症ではあるがモザイク症状を発現すること,ジャガイモの病徴がRozendaalら(1955)の記載したPVSの病徴に類似すること,などから本病がPVSによる病気であると結論した。さらにジャガイモ20品種のウイルス・フリー個体に汁液接種して男爵薯,シマバラ,農林1号,オオジロ,Sirtema,長崎黄,S-41956,ケネベック,Triumphの各品種にモザイク症状を観察した。新たに分離したPVSは従来から多くの品種に潜在していたPVSと異なって男爵薯などの品種に激しいモザイク症状をあらわすので,前者をモザイク系統(PVSM),後者を普通系統(PVSN)として区別した。また本病の和名としてジャガイモSモザイク病を提案した。本病は20Cで生育するとよく発病するが高温(25C)ではほとんどが無病徴のまま保毒された。PVSMは胆振・上北馬鈴薯原原種農場にも存在するが発生は少なかった。