抄録
1. 関東各地に多発するホウレンソウと家畜ビートの萎黄株を調査したところ,DN法による電顕観察で糸状ウイルスと小球形ウイルスとが見出された。
2. 糸状ウイルスは大きさ約12×1, 450nm,らせんピッチ約3.7nmで,closterovirus群特有のしなやかな形状を示す。本ウイルスは汁液接種できなかったが,モモアカアブラムシによって半永続的に伝搬され,感染したホウレンソウ,フダンソウなどは上葉に葉脈透化,下葉に萎黄症状を現した。病葉切片では篩部壊死が顕著で,糸状粒子は篩部細胞のみで認められ,また特殊な小胞が観察された。以上より,本ウイルスはテンサイ萎黄ウイルス(beet yellows virus: BYV)と同定された。
3. 小球形ウイルスは直径約27nmで,供試した萎黄株では概してごく少量検出された。汁液接種では伝染せず,モモアカアブラムシによって永続的に伝搬され,感染したホウレンソウ,フダンソウなどは穏かな黄化病徴を示した。病葉切片では篩部壊死,壊死篩管や篩部柔細胞液胞内の小球形粒子の凝集塊や結晶集塊,核酸様繊維を含む小胞など,Iuteovirus群特有の電顕所見が得られた。以上より,本ウイルスはテンサイ西部萎黄ウイルス(beet western yellows virus BWYV)と同定された。
4. ホウレンソウ病葉を材料として,分画遠心によってBWYV粒子の部分純化を試みて成功し,膜吸汁法によって感染性も証明された。
5. 以上のように本研究ではBYVとBWYVのウイルス粒子を確認し,両ウイルスがわが国に広く発生することを最終的に立証した。