抄録
Sclerospora maydisによるべと病罹病トウモロコシは典型的な全身病徴を示す。全身感染は寄主植物のいわゆる"生長点"に病原菌が侵入するためにおこると考えられているが,茎頂(shoot tip)のどの部分に侵入しているのか正確に知るため,解剖学的な研究を行なった。この報告では,従来俗に生長点と呼ばれている部分は,厳密にどの部分をさすのか不明確なため,生長点という語を用いるのをさけ,第2図および第3図に示すようにトウモロコシ茎頂部の各組織・器官を定義した。
接種20日後,全身病徴を現わした9葉期のトウモロコシ(品種Harapan)の茎頂部(shoot tip)を中心に,パラフィン切片を作り光学顕微鏡下で観察した。トウモロコシべと病菌の菌糸は,接種20日後には中央分裂組織(central meristem)を含む茎頂部に達していた。菌糸は葉原基(leaf primodium)を含む殆んどすべての部分に見出されたが,根および狭義の頂端分裂組織(apical meristem)-最も若い葉原基から上の部分-には見出されなかった。寄主植物内のトウモロコシべと病菌菌糸には二つの型が見られた。糸状菌糸(slender hypha)とじゅず玉状菌糸(crooked hypha)で,糸状菌糸は細長く,比較的真直ですべての罹病組織に観察された。じゅず玉状菌糸は肥厚して,曲りくねっており,全身病徴を示す展開葉にだけ見られた。展開葉の細胞間隙には,このじゅず玉状菌糸が充満しており,菌の胞子形成と密接な関係があると推察された。