抄録
カンキツ黒点病と軸腐病はともに同一病原菌Diaporthe citri (Faw.) Wolfに起因する病害である。黒点病は圃場のカンキツの新梢や果実に発生し,病原体がその部位に抑制されるものである。一方軸腐病は貯蔵中の果実に発生し,果実が腐敗するものである。感染時期は同一時期と考えられる。これら両病害の発病までにいたる経過でいくつかの問題点があるので,それらを解明する手がかりを得るために実験を行って次のような結果が得られた。
カンキツ果実の主要な糖類であるsucrose, glucose, fructose溶液中では本菌の柄胞子発芽は促進された。とくに5% fructose液中での発芽ならびに発芽管伸長は促進的であった。
pH 2.20∼8.13のうすい緩衝液中ではpHの低い側でも高い側でも本菌柄胞子の発芽管伸長は抑制されたが,pH 3.37∼5.86では良好であった。これに糖類を加えることによって,発芽管伸長が促進され,その順序はfructqse>glucose>sucroseであった。
9月∼12月の果実の糖および有機酸組成の水溶液のうち,糖(2.88%)・有機酸(1.399%)組成水溶液(9月)で発芽および発芽管伸長が抑制された。柄胞子発芽はその他では対照の水区と大差なかった。発芽管伸長は対照の水区に比べまさった。
熟果表皮の油胞液をガラス毛細管でぬき取り,その25∼100%溶液中で柄胞子発芽および発芽管伸長は75%液中では著しく抑制され,90%溶液以上ではすべて発芽が抑制された。ナツミカン熟果の外果皮,中果皮および砂じょうの水抽出区分ならびにHSC処理ろ液では病原菌の柄胞子発芽あるいは発芽管伸長が促進された。果実の各組織から得た水溶性ペクチンは本菌の発芽管伸長に促進的であって,AC吸着後のろ液で発芽管伸長が劣ったのは,ペクチンなど促進物質がACに吸着されたためと考えられる。
ウンシュウミカン果皮の有機溶媒抽出液中,n-ブタノール,アセトン抽出区分は柄胞子発芽および発芽管伸長の2 stageに抑制的で,抑制効果は希釈液の濃度と平行し,本菌進展時の1抑制因子の存在が示唆された。