抄録
イネragged stuntウイルス(RRSV)は南アジア,東南アジアに1977年以来流行している病害である。その日本稲の病徴は矮化症状,葉のねじれ,葉脈の肥大などが特色であり,これらはイネ黒条萎縮ウイルス(RBSDV)の病徴とよく似ているが,その他の病徴,地上部の茎の分岐や葉縁に切れ目が入る症状はRBSDVと明確に異なる。日本産トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)は本ウイルスを永続的に伝染した。RBSDVの媒介虫ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)はRRSVを媒介せず,トビイロウンカはRBSDVを媒介しなかった。RBSDVに感受性の大麦,小麦,えん麦,トウモロコシはRRSVに感染しなかった。純化試料は直径約36∼40nmの球形粒子で低い感染性が認められた。Dip試料のウイルス粒子の直径はnegative stainingに使用した染色剤によって異なる値を示した。2% PTA染色で60∼63nm, 2% UAで44nm, 2% UF染色で45∼50nmであり,UA, UF染色の場合B-spike構造が認められた。電子顕微鏡による超薄切片像では罹病イネ葉の篩部細胞に多数のRRSV粒子が観察された。これらの結果は,RRSVは植物レオウイルスグループに属するが,RBSDVとは異なるウイルスであるが,RBSDVと同じplanthopper-borne subgroupに属するウイルスであることを示唆している。