日本植物病理学会報
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螢光抗体法による植物ウイルスの増殖・分布の研究 I
生長点近傍組織におけるウイルスの増殖・分布
森 寛一細川 大二郎渡辺 実
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1982 年 48 巻 4 号 p. 433-443

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抄録

生長点培養によるウイルスの無毒化法についての甚礎資料を得る目的で,TMVとペチュニア,タバコ,トマト,CMVとタバコ,ペチュニア,キュウリ,PVXとタバコ,ジャガイモ,Nicotiana glutinosa, Datura stramonium, PVYとタバコ,ジャガイモの各ウイルスと植物の組合わせについて,生長点近傍組織におけるウイルスの増殖・分布を主として螢光抗体法により,一部に電子顕微鏡観察を併用して検討した。
いずれのウイルスと植物の組合わせにおいても,生長点分裂組織(tunicaおよびcorpus)とその下につづく組織の未分化な部位にはウイルス抗原あるいはウイルス粒子は検出されなかった。この生長点近傍組織でウイルスの認められない部位までの頂端からの距離は植物の個体によって異なったが,TMV, CMVでは約0.2mm, PVXでは約0.5mm, PVYでは約2mmまでであった。ウイルス抗原あるいはウイルス粒子はこれより下部の組織の分化が明瞭になり始める部位に認められ,下部へ向かって,感染段階の進んだ細胞が連続分布しているのが観察された。これは生長点の伸長にともなって,その下部の細胞が未分化の状態から分化した状態になるにしたがいウイルスが順次感染することを示すと考えられる。生長点近傍の葉原基は初めウイルスに感染していない生長点分裂組織から発生し,生長の初期(葉原基の長さ約0.5mmまで)にはウイルス抗原もウイルス粒子も認められなかった。葉原基の生長が進み内部に維管束が分化すると,ウイルスが篩部に認められ始め,そこから周囲の組織へ拡がった。葉原基では維管束が分化したのちに急速にウイルスの感染が進むようであった。

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